守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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アスラン・ザラはマヨネーズを買ってくる

 レンタルキッチンには、油の香ばしい匂いが広がっていた。

 

 広い調理台。

 並べられた鶏肉。

 下味用のボウル。

 片栗粉と小麦粉。

 付け合わせの野菜。

 

 そして、山のような皿。

 桂木弥子は、腕まくりをしていた。

 

「今日は、ちゃんと自分たちで唐揚げを作ります!」

 

 その声は、やたらと気合いが入っていた。

 

 すえぞうも隣で羽をばたばたさせる。

 

「カラアゲ!」

 

 シン・アスカは、包丁を持ちながら少し不安そうに言った。

 

「弥子さん、その“ちゃんと”っていうのは……」

 

「前に、移動販売の唐揚げで色々ありましたから」

 

「あ……」

 

 ヘキサクス系列の移動販売車。

 妙に満腹になる唐揚げ。

 すえぞうが一個で腹いっぱいになった、あの異常事態。

 

「今回は、安全で、普通で、おいしい唐揚げです!」

 

 弥子は力強く言った。

 

 脳噛ネウロが、その横で愉快そうに笑っている。

 

「普通、か。貴様の口から出ると、やや説得力に欠けるな」

 

「どういう意味!?」

 

「量だ」

 

「量は普通です!」

 

 シンが調理台の上を見た。

 

 明らかに普通ではない鶏肉の量があった。

 

「普通……?」

 

 怪盗Xiは、椅子に腰掛けながら言った。

 

「まあ、弥子ちゃん基準なら普通なんじゃない?」

 

「それ、普通って言います?」

 

 シンが呟く。

 

 その時、扉が開いた。

 

 アスラン・ザラが、買い物袋を両手に提げて入ってくる。

 

「遅れてすまない。足りないものを買ってきた」

 

 シンが振り向いた。

 

「ありがとうございます、アスラン」

 

 アスランは袋を調理台に置いた。

 

「サラダ用の野菜、レモン、追加の油、それからマヨネーズだ」

 

 その瞬間、場の空気が少し変わった。

 

 シンが、まずレモンを見た。

 

「……念のため言っておきますけど」

 

「何だ」

 

「唐揚げに勝手にレモン絞るなよ」

 

 Xiが吹き出した。

 

「最初にそこ?」

 

 シンは真剣だった。

 

「大事だろ! かけたい人だけかける! これは平和のためのルールだ!」

 

 弥子も頷いた。

 

「わかります。唐揚げの主権は個人にあります」

 

「唐揚げの主権!?」

 

 アスランは真面目に言った。

 

「わかった。レモンは各自の判断に任せる」

 

「そこ、そんな軍事作戦みたいに確認するところですか?」

 

「食の衝突は避けるべきだ」

 

「それはそうですけど!」

 

 すえぞうがレモンを覗き込む。

 

「レモン?」

 

「すえぞう、酸っぱいぞ」

 

「スッパイ!」

 

 そして、弥子の視線が別のものに吸い寄せられた。

 

 マヨネーズ。

 

 白い容器。

 

 金色のラベル。

 

 少し高級そうな雰囲気。

 

「おお……マヨネーズ!」

 

 弥子の目が輝いた。

 

「唐揚げにマヨネーズ、いいですね!」

 

「付け合わせのサラダにも使えると思った」

 

 アスランは言った。

 

「普通に棚に並んでいたものだ」

 

「助かります!」

 

 弥子が手を伸ばした。

 

 その瞬間。

 

「待って」

 

 Xiの声が、少しだけ低くなった。

 

 弥子の手が止まる。

 

「Xi?」

 

「そのメーカー、見せて」

 

 アスランは容器を手渡した。

 

 Xiはラベルを見た。

 

 そして、眉間に皺を寄せた。

 

「……ヘキサクス・ファームズ」

 

 シンの顔が引きつった。

 

「またですか!?」

 

 弥子も固まった。

 

「ヘキサクス……」

 

 すえぞうが首を傾げる。

 

「ヘキ?」

 

 Xiは小さく舌打ちした。

 

「あのクソ親父……今度はマヨネーズかよ」

 

 アスランは表情を曇らせた。

 

「すまない。普通の商品だと思った」

 

「いや、アスランのせいじゃない」

 

 Xiは即座に言った。

 

「普通の棚に普通の顔して並んでるのが悪い」

 

 ネウロが笑った。

 

「市場に紛れる悪意か。前回の缶スープと同じ系統だな」

 

 弥子はマヨネーズを見つめた。

 

「でも、まだ何かあると決まったわけでは……」

 

「弥子」

 

 Xiは静かに言った。

 

「ヘキサクスの“まだ大丈夫”は、大丈夫じゃない」

 

 その言葉は、妙に重かった。

 

 シンが頷く。

 

「経験者の言葉が重い……」

 

 しかし、唐揚げはすでに揚がり始めていた。

 

 油の中で衣が音を立てる。

 

 じゅわっ、という音。

 

 香ばしい匂い。

 

 弥子の目が揺れた。

 

「でも……唐揚げが……」

 

「食欲に負けるな!」

 

 シンが叫ぶ。

 

「まだ負けてません!」

 

 ネウロは面白そうに見ている。

 

「ククク……食欲と警戒心のせめぎ合いか」

 

「見物しないでください!」

 

 揚げたての唐揚げが、皿に盛られた。

 

 黄金色。

 

 衣はさくさく。

 

 湯気が立っている。

 

 すえぞうが前のめりになった。

 

「カラアゲ!」

 

「待て、熱い!」

 

 シンが慌てて止める。

 

 弥子は、皿の前で深呼吸した。

 

「確認します」

 

「何をですか」

 

「マヨネーズが安全かどうかを」

 

「食べて確認するのは駄目です!」

 

 アスランが即座に言った。

 

 弥子は残念そうにうなずく。

 

「では、ほんの少しだけ……」

 

「それも駄目です」

 

 アスランの声が硬かった。

 

 その時。

 

 Xiの端末が鳴った。

 

 軽い電子音。

 

 差出人不明。

 

 件名。

 

『一族自慢の一品について』

 

 Xiの顔色が変わった。

 

「……来た」

 

 シンが身構える。

 

「何ですか?」

 

 Xiは画面を開いた。

 

 そこには、短い文章が表示されていた。

 

『我が一族の農場で採れた卵で作らせた、特製のマヨネーズだ。

 

 常人が食べると、全ての食べ物が“実家の母親が作った唐揚げの味”にしか感じられなくなるが……

 

 慣れるとクセになる。』

 

 沈黙。

 

 弥子の手には、マヨネーズを少し付けた唐揚げがあった。

 

 口に運ぶ直前だった。

 

「……」

 

「……」

 

 弥子とXiが、同時に息を吐いた。

 

「危なかった!!」

 

「危なかった!!」

 

 シンが叫ぶ。

 

「本当にギリギリじゃないですか!!」

 

 弥子は唐揚げを皿に戻し、胸を押さえた。

 

「あと一秒遅かったら、私の唐揚げ人生が実家味に固定されるところでした!」

 

「唐揚げ人生!?」

 

 すえぞうがマヨネーズを見つめる。

 

「マヨ?」

 

 Xiが即座に容器を遠ざけた。

 

「すえぞうも駄目。これは駄目」

 

「マヨ……」

 

「悲しそうにしないで。今回は本当に駄目」

 

 ネウロは愉快そうに笑った。

 

「食べる直前に知らせるとは、相変わらず性格の悪い男だ」

 

 Xiは端末を睨んだ。

 

「あのクソ親父……食べる前に教えたから親切、みたいな顔してるんだろうね」

 

「実際、食べる前には届いている」

 

「そういう問題じゃない!」

 

 アスランは顔を曇らせたままだった。

 

「すまない。俺が買ってきたばかりに」

 

 Xiは首を横に振った。

 

「だからアスランのせいじゃない。普通に買える場所に置いてあったのが問題なんだよ」

 

 ネウロが言った。

 

「責任を感じるより、まず封じろ。アスラン・ザラ」

 

 アスランは頷いた。

 

「ログナー司令に連絡する」

 

 

 数十分後。

 

 レンタルキッチンの調理台に、ヘキサクス・ファームズ製マヨネーズが置かれていた。

 

 その周囲には、誰も触れないように距離が取られている。

 

 ログナー司令は容器を手に取り、静かに確認した。

 

「未摂取か」

 

 弥子が勢いよく手を挙げた。

 

「未摂取です! 未遂です!」

 

「寸前だったけどね」

 

 Xiが言う。

 

「本当に危なかった」

 

 シンは唐揚げの皿を守るように立っている。

 

「唐揚げ会で、こんな緊張感いります?」

 

「相手が相手だ」

 

 ログナーは淡々と言った。

 

 検査が始まった。

 

 毒物。

 薬物。

 精神誘導。

 記憶改変。

 味覚操作。

 感情増幅。

 魔界由来の力。

 未知の微細機械。

 食品添加物として認可されていない成分。

 

 シンはまた顔色を変えた。

 

「マヨネーズの検査項目じゃない……」

 

「ヘキサクス製品だ」

 

 ログナーは短く答えた。

 

 やがて結果が出た。

 

「毒物反応なし」

 

 弥子がほっとする。

 

「薬物反応なし。記憶改変なし。精神誘導なし。魔界由来の反応なし」

 

 シンも胸を撫で下ろした。

 

「じゃあ、食べても死ぬとかはないんですね」

 

「死にはしない」

 

 ログナーは言った。

 

「だが、味覚連想に干渉する作用がある」

 

 弥子が目を細めた。

 

「味覚連想」

 

「摂取後、一定時間、口にした食品の風味が“実家の母親が作った唐揚げ”に近似して感じられる」

 

 シンは固まった。

 

「何ですか、その効果!?」

 

 すえぞうが首を傾げる。

 

「ジッカ?」

 

 Xiは顔をしかめた。

 

「やりそうで嫌なんだよ、こういうの」

 

 ネウロは口元を歪めた。

 

「食とは記憶だ。家庭の味、懐かしさ、安心感。それらを利用して、すべての味を一色に塗り潰す」

 

 弥子の顔が青ざめた。

 

「つまり、唐揚げも、サラダも、スープも、全部同じ味に……?」

 

「同じ“記憶”に寄せられる」

 

 ログナーが言った。

 

「身体的害は低い。だが、食体験への干渉としては悪質だ」

 

 弥子は震えた。

 

「許せません……」

 

「今回は怒る理由がすごくわかります」

 

 シンが頷いた。

 

 Xiはマヨネーズ容器を睨む。

 

「至高のマヨネーズ、ね。笑わせる」

 

 ネウロが言った。

 

「至高ではない。支配だ」

 

「そう、それ」

 

 Xiは低く言った。

 

「あいつは、何でも自分の味にしたがる」

 

 アスランは静かに言った。

 

「食べる人の心を無視している」

 

 Xiが少し笑った。

 

「アスラン、いいこと言うね。あの親父に一番ないやつだ」

 

 ログナーは容器を封印用の袋に入れた。

 

「本品は回収する。以降、ヘキサクス・ファームズ製食品は監視対象とする」

 

「唐揚げ会は……」

 

 弥子が不安そうに言った。

 

「中止ですか?」

 

 すえぞうも沈んだ声を出す。

 

「カラアゲ……」

 

 その時、扉が開いた。

 

 入ってきたのは、トニオ・トラサルディーだった。

 

「お困りのようデスね」

 

 弥子の顔がぱっと明るくなる。

 

「トニオさん!」

 

 シンが驚いた。

 

「えっ、来てくれたんですか?」

 

「ログナーさんから、食品に関する問題と聞きマシタ」

 

 トニオは封印されたマヨネーズを一瞥した。

 

 そして、静かに眉を寄せる。

 

「これは、料理ではアリマセン」

 

 ネウロが笑う。

 

「ほう」

 

 トニオは続けた。

 

「食べる人の記憶を一つに塗り潰す調味料など、料理ではアリマセン。料理は、素材と食べる人の心を大切にするものデス」

 

 アスランは、その言葉に少しだけ救われたような顔をした。

 

「俺が買ってきたものです。すみません」

 

「アスランさんは悪くありマセン」

 

 トニオは優しく言った。

 

「悪いのは、食べる人の心を無視したマヨネーズデス」

 

 Xiが呟く。

 

「ほんと、その通り」

 

 弥子は恐る恐る聞いた。

 

「でも、マヨネーズが……」

 

 トニオは微笑んだ。

 

「では、ワタシが作りマス」

 

 シンが目を丸くする。

 

「今からですか?」

 

「ハイ。卵、オイル、酢、塩、少しのマスタード。良い材料があれば、マヨネーズはすぐ作れマス」

 

 弥子の目が輝いた。

 

「手作りマヨネーズ!」

 

 すえぞうも跳ねた。

 

「マヨ!」

 

 トニオは手を洗い、ボウルを用意した。

 

 卵黄。

 酢。

 塩。

 マスタード。

 そこへ、細く油を垂らしながら、泡立て器で混ぜる。

 

 ゆっくり。

 丁寧に。

 少しずつ、とろみが増していく。

 淡い黄色。

 なめらかな艶。

 酸味の柔らかな香り。

 

 弥子は息を呑んだ。

 

「マヨネーズって……作れるんですね……!」

 

 シンが言った。

 

「いや、作れるのは知ってましたけど、目の前で見るとすごいですね」

 

 Xiは腕を組んでいた。

 

「なんか、すでに負けてる気がする」

 

「何に?」

 

「ヘキサクスの“至高”って言葉に」

 

 ネウロが笑った。

 

「当然だ。あちらは支配で、こちらは料理だ」

 

 トニオは出来上がったマヨネーズを小さな器に移した。

 

「どうぞ。唐揚げに少しだけつけてみてクダサイ」

 

 弥子は慎重に、揚げたての唐揚げへマヨネーズを少し付けた。

 

 今度は、誰も止めなかった。

 

 口へ運ぶ。

 

 噛む。

 

 衣がさくりと鳴る。

 

 肉汁が広がる。

 

 そこへ、卵のコクと柔らかな酸味が重なる。

 

 だが、唐揚げの味は消えない。

 

 むしろ、衣の香ばしさと鶏肉の旨味が、はっきりと立ち上がる。

 

 弥子の目が潤んだ。

 

「……これです」

 

 シンが言った。

 

「また悟った顔してる」

 

「唐揚げは唐揚げです。マヨネーズはマヨネーズです。でも、二つが一緒になると、ちゃんともっとおいしいです!」

 

 ネウロが頷いた。

 

「上書きではなく、増幅か」

 

「格が違います」

 

 弥子は真剣に言った。

 

 トニオは嬉しそうに微笑んだ。

 

「グラッツェ」

 

 すえぞうも唐揚げに少しだけマヨネーズをつけて食べた。

 

「ウマい!」

 

 シンも試す。

 

「うわ……本当にうまい。唐揚げが重くならない」

 

 アスランも一口食べた。

 

「……おいしいです」

 

「よかったデス」

 

 トニオは微笑んだ。

 

 Xiは少し遅れて唐揚げを食べた。

 

 そして、苦笑した。

 

「腹立つなあ」

 

 シンが聞いた。

 

「何がですか?」

 

「あのクソ親父のマヨネーズより、

 こっちの方がずっと“至高”って感じがするところ」

 

 ネウロが言った。

 

「だから言っただろう。支配と料理は違う」

 

「うん。ほんと、それ」

 

 弥子は付け合わせのサラダにも、トニオ特製マヨネーズを少し付けた。

 

「サラダもおいしいです!」

 

「よかったですね」

 

 アスランが少しだけ笑う。

 

 だが、その笑みはすぐに消えた。

 

「ただ、本当にすまない。俺が買ってきたことで、危険なものを持ち込んだ」

 

 Xiは唐揚げを噛みながら言った。

 

「アスラン」

 

「何だ」

 

「責任感をマヨネーズに混ぜないで」

 

「どういう意味だ」

 

「重くなる」

 

 シンが笑いをこらえた。

 

「ちょっとわかります」

 

 アスランは眉をひそめる。

 

「今回は俺の確認不足でもある」

 

 ログナーが言った。

 

「通常の市場流通品に偽装されていた。アスラン・ザラ個人の過失ではない」

 

「ですが」

 

「今後の対策は必要だ。だが、過剰な自責は不要だ」

 

 Xiが小さく拍手した。

 

「ほら、ログナー司令も言ってる」

 

 アスランは少し黙り、やがて頷いた。

 

「……わかりました」

 

 ネウロが笑う。

 

「貴様らは、マヨネーズ一つでよくここまで責任論を展開できるな」

 

「誰のせいだと思ってるんだよ」

 

 Xiは低く言った。

 

「我が輩ではない」

 

「それはそうだけど!」

 

 唐揚げ会は続いた。

 

 レモンは、各自の判断でかけた。

 シンは最後まで「勝手に絞るなよ」と注意していた。

 

 弥子は唐揚げ、サラダ、野菜スティック、さらにはパンにまでトニオ特製マヨネーズを試した。

 

 すえぞうは「マヨ!」と「カラアゲ!」を交互に叫んだ。

 

 アスランは食材の片付けを手伝いながら、

 何度かマヨネーズのラベルを確認する癖がついた。

 Xiはそれを見て苦笑した。

 

「アスラン、そこまで見なくても大丈夫だよ」

 

「確認は必要だ」

 

「まあ、今回に限ってはそうだね」

 

 ログナーは、ヘキサクス製マヨネーズを厳重に封印した。

 

「本品は解析後、廃棄または保管する」

 

 弥子が聞いた。

 

「保管?」

 

「証拠品としてだ」

 

「食べないですよね?」

 

「食べない」

 

「よかったです」

 

 ネウロが言った。

 

「食べてもよいぞ、弥子。すべてが実家の唐揚げ味になるだけだ」

 

「嫌です!」

 

 シンも叫ぶ。

 

「絶対嫌ですよ!」

 

 すえぞうが不安そうに言う。

 

「カラアゲ……?」

 

 Xiがなだめた。

 

「すえぞうは食べなくていい。トニオさんのマヨだけ食べよう」

 

「マヨ!」

 

 やがて、山盛りだった唐揚げは、ほぼ消えていた。

 

 トニオ特製マヨネーズも、かなり減っていた。

 

 シンはテーブルを見て言った。

 

「結果的に、普通の市販マヨネーズよりずっと豪華になりましたね」

 

 弥子は満足そうに頷いた。

 

「はい! 最高でした!」

 

 Xiは会計と材料費のメモを見た。

 

「またヘキサクスの悪意が食費に変換された……」

 

 ネウロは愉快そうに笑った。

 

「だが、いつも通りではある」

 

 Xiは嫌そうな顔をした。

 

「その締め方、最近多くない?」

 

「事実だ」

 

 トニオが追加の唐揚げを皿に乗せて言った。

 

「おかわり、揚がりマシタ」

 

 弥子とすえぞうが同時に反応した。

 

「おかわり!」

 

「カラアゲ!」

 

 Xiは天井を見た。

 

「……結果的に、前回より高くついてない?」

 

 ネウロは笑った。

 

「慣れるとクセになるな」

 

 Xiは即座に言った。

 

「その言い方やめて!」

 

 

 数日後。

 

 ログナー司令の報告書には、こう追記されていた。

 

『ヘキサクス・ファームズ製マヨネーズ。

 毒性なし。

 身体被害なし。

 味覚連想固定化作用あり。

 食体験の多様性を破壊する悪質な食品。

 食品として通行止め。

 トニオ・トラサルディー氏による手作りマヨネーズにて代替。

 唐揚げ会は無事続行。

 会計、想定より増加。』

 

 ログナーは最後に一行、追記した。

 

『なお、レモンは各自の判断に委ねること』

 

 シンはそれを見て、力強く頷いた。

 

「ここ、大事です」

 

 弥子も頷いた。

 

「唐揚げの主権ですから」

 

 アスランも真面目に言った。

 

「食の衝突は避けるべきです」

 

 Xiは笑った。

 

「唐揚げ一つで、みんな真面目だね」

 

 ネウロは口元を歪める。

 

「日常とは、そういうものだ」

 

 すえぞうが皿を覗き込む。

 

「カラアゲ?」

 

 弥子はにっこり笑った。

 

「また作りましょうね!」

 

 Xiは一瞬、嫌な予感がした。

 

「……次は、材料のメーカー確認からね」

 

 ログナーが静かに頷く。

 

「通行可」

 

 こうして、唐揚げ会は終わった。

 

 シックスの“至高のマヨネーズ”は、誰の舌にも届かなかった。

 

 代わりに残ったのは、

 トニオ特製の手作りマヨネーズの味と、揚げたての唐揚げの香り。

 

 そして、シンの真剣な一言だった。

 

「だから、唐揚げに勝手にレモン絞るなよ」

 

 その声に、全員がなぜか深く頷いた。

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