守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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キラ・ヤマトはナイト・オブ・ゴールドを見てしまう

 コンパスの一室に、また箱が置かれていた。

 

 白い机の上。

 

 見慣れないほど丁寧に配置された、試作品らしき模型の箱。

 

 そこには、金色に輝く騎体の写真が大きく印刷されていた。

 

 キラ・ヤマトは、その箱の前で立ち止まった。

 

「……これは」

 

 隣にいたラクス・クラインも、静かに目を細める。

 

「まあ……美しいですわね」

 

 シン・アスカは、少し離れた場所から覗き込んだ。

 

「うわ、すごい。めちゃくちゃキラキラしてる」

 

 アスラン・ザラも、箱の表記を読んだ。

 

「1/100……ナイト・オブ・ゴールド」

 

 その瞬間、部屋の奥から楽しそうな声がした。

 

「そう。地球圏向け輸出用プラモデル第二弾だよ」

 

 レディオス・ソープだった。

 

 隣にはログナー司令。

 

 さらにラキシス。

 

 少し後ろには、桂木弥子とすえぞう、怪盗Xiもいる。

 

 カイエンとアウクソーも、どういうわけか見物に来ていた。

 

 ソープは嬉しそうに箱を指差す。

 

「キラくん、新作プラモできたよ。1/100、ナイト・オブ・ゴールド」

 

 キラは箱を見たまま、しばらく黙っていた。

 

 金色。

 

 ただの金色ではない。

 

 透明感のある装甲。

 

 光を通すような、宝石めいた輝き。

 

 内部構造まで薄く透けて見える、どこか神秘的な存在感。

 

 背負う巨大な武装。

 

 細く、鋭く、けれど優雅なシルエット。

 

 モビルスーツとも、ただの兵器とも違う。

 

「……凄い」

 

 キラは、小さく言った。

 

「凄いカッコいいです」

 

 シンがキラの顔を見た。

 

「うわ。キラさん、完全に落ちた顔してる」

 

「落ちてないよ」

 

「いや、落ちてます」

 

 Xiが横から言った。

 

「LEDミラージュの時と同じ顔だね」

 

 キラは少し困ったように笑った。

 

「でも、これは……すごいよ」

 

 ラクスは箱の写真を見つめたまま、やわらかく微笑んだ。

 

「黄金の騎士、という名前にふさわしい姿ですわね」

 

 ソープは嬉しそうに頷く。

 

「ラキシスに迎えに来てって言われて作ったものだからね」

 

 シンが止まった。

 

「……はい?」

 

 弥子も目を瞬かせる。

 

「迎えに来て、って?」

 

 Xiが肩をすくめた。

 

「ああ。これ、陛下のプロポーズ用MHだよね」

 

 部屋が一瞬、静かになった。

 

 シンがゆっくりと振り返る。

 

「プロポーズ用?」

 

 アスランも箱を見る。

 

「これが、プロポーズ用……」

 

 ソープは不思議そうに首を傾げた。

 

「プロポーズ用というか、ラキシスが“全身黄金色に輝くMHで迎えに来てほしい”って言ったから」

 

 弥子が両手を上げた。

 

「お願いの規模が大きすぎる!」

 

 ラキシスは、優雅に微笑んだ。

 

「私は、少しお願いしただけです」

 

 ログナーが静かに言う。

 

「姫様の“少し”で、星団史に残る騎体が建造されました」

 

 シンが頭を抱えた。

 

「少しって何だっけ……」

 

 カイエンは箱を覗き込みながら笑った。

 

「まあ、姫様が欲しがるのもわかるナ。こりゃ派手だ」

 

 アウクソーが静かに補足する。

 

「マスター。派手、という言葉では足りないと思います」

 

「じゃあ、すげぇ派手だ」

 

「語彙が増えていません」

 

 キラは、まだ箱から目を離せない。

 

「これ、本当に地球圏で販売するんですか?」

 

「うん」

 

 ソープは頷いた。

 

「前のLEDミラージュも反応が良かったからね。

 ラインナップは充実させた方がいいだろう?」

 

 ログナー司令が、淡々と言った。

 

「ラインナップを充実させること自体は通行可です」

 

 ソープはにっこりした。

 

「ほら」

 

「ただし」

 

 ログナーの声が続く。

 

「商品説明に“プロポーズ用MH”と明記するのは通行止めです」

 

 ソープは少し不思議そうな顔をした。

 

「どうして? 事実だけど」

 

 シンが即座に言う。

 

「事実でも商品説明に書く内容じゃないです!」

 

 Xiが笑う。

 

「でも、嘘ではないよね」

 

「嘘ではない」

 

 ログナーは認めた。

 

「だが、地球圏の購入者に誤解を与える可能性がある」

 

 弥子は真剣に考え込んだ。

 

「でも、これ買う人、本当にプロポーズ用に買う可能性ありません?」

 

 シンが驚く。

 

「あります!?」

 

 アスランは箱を見て、少し考えた。

 

「相手がメカやロボットが好きなら、可能性はあるな」

 

「アスランまで!?」

 

 キラも少し笑った。

 

「“君を迎えに行くために、ナイト・オブ・ゴールドを組みました”って言われたら、

 刺さる人には刺さると思う」

 

 ラクスは上品に微笑む。

 

「とても心のこもった贈り物ですわね」

 

 シンはラクスを見る。

 

「ラクス様まで肯定側!?」

 

 ラクスは微笑んだまま続けた。

 

「ただし、完成していれば、ですけれど」

 

 全員が一瞬、黙った。

 

 Xiがぽんと手を打つ。

 

「未組立で渡した場合は?」

 

 弥子が続ける。

 

「“僕と一緒に、人生という名のゲート処理をしよう”?」

 

 シンが叫んだ。

 

「嫌すぎる!!」

 

 アスランは真面目に言った。

 

「だが、完成させる根気は結婚生活にも必要かもしれない」

 

「アスラン、真面目に乗らないでください!」

 

 キラは箱を見ながら、少しだけ苦笑した。

 

「でも、これをきれいに完成させるのは相当大変そうだね」

 

 ソープは嬉しそうに頷く。

 

「うん。透明な黄金装甲だから、ゲート跡の処理も目立つし、内部の見え方も考えないといけない」

 

 ログナーが言った。

 

「陛下。地球圏向け商品に、星団式の要求水準を持ち込むのは通行止めです」

 

「でも、せっかくならきれいに組んでほしいじゃないか」

 

「それは通行可です。だが、“完成した時点でラキシス仕様”という文言は通行止めです」

 

 ラキシスが微笑む。

 

「私は、ソープ様が迎えに来てくだされば、それでよろしいですわ」

 

 Xiが小声で言った。

 

「強い」

 

 弥子も小声で頷く。

 

「強いですね」

 

 カイエンが笑った。

 

「プロポーズの基準がMHなの、やっぱ星団はおかしいナ」

 

 アウクソーが静かに言う。

 

「マスターがそれを言うのは、少しだけ説得力に欠けます」

 

「何でだヨ」

 

「いろいろです」

 

 シンは箱の側面を見た。

 

「これ、販促文はどうするんですか?」

 

 ソープは用意していた紙を取り出した。

 

「一応、案はあるよ」

 

 ログナーが即座に手を伸ばした。

 

「確認します」

 

 シンが苦笑する。

 

「早い」

 

 ログナーは紙を読んだ。

 

「……第一案。“全身黄金色に輝く、愛と権力の象徴”」

 

「通行止めだね」

 

 Xiが即答した。

 

 ログナーも頷く。

 

「通行止めです」

 

 ソープは残念そうに言った。

 

「愛は入っているんだけど」

 

 シンが言う。

 

「権力も入ってるのが問題なんですよ!」

 

 ログナーは続けて読んだ。

 

「第二案。“大切な人を迎えに行くための黄金騎体”」

 

 弥子が首を傾げる。

 

「ちょっとロマンチックですね」

 

 アスランも頷く。

 

「悪くはない」

 

 Xiが笑った。

 

「でも、ちょっと匂わせすぎじゃない?」

 

 ラクスが柔らかく言った。

 

「“大切な方への贈り物にも”程度なら、地球圏でも自然ではありませんか?」

 

 ログナーが少し考えた。

 

「通行可です」

 

 ソープは目を輝かせた。

 

「じゃあ、それで」

 

 シンがほっとした。

 

「よかった。ちゃんと普通の商品説明になった」

 

 ログナーはすぐに続けた。

 

「ただし、“組み上げたら迎えに行けます”という追記は通行止めです」

 

 ソープは視線を逸らした。

 

「まだ書いてないよ」

 

 Xiが笑う。

 

「書く顔だったね」

 

 キラは、箱をそっと手に取った。

 

「これ、見本なんですよね」

 

「うん」

 

 ソープは嬉しそうに言った。

 

「キラくん用に一つ持ってきた」

 

 ラクスがキラを見た。

 

「キラ」

 

 キラは箱を抱えたまま、動きを止めた。

 

「はい」

 

「置き場所は?」

 

 キラは少し沈黙した。

 

 そして、真剣な顔で言った。

 

「作ります」

 

 シンが小声で言う。

 

「言い切った」

 

 アスランがキラを見る。

 

「積むなよ」

 

「積まないよ」

 

 Xiがすかさず言った。

 

「LEDミラージュの時もそう言ってなかった?」

 

 キラは少し困ったように笑った。

 

「今回は組む」

 

 ラクスは楽しそうに微笑んだ。

 

「では、完成したら見せてくださいませ」

 

「もちろん」

 

 ソープがにこにこしている。

 

「キラくんなら、きっと綺麗に組んでくれると思う」

 

 ログナーが資料へ何かを書き込む。

 

『キラ・ヤマト殿へ見本品一個譲渡。積み化の可能性あり。経過観察』

 

 キラがそれを見た。

 

「ログナー司令、それは書かなくても」

 

「記録です」

 

 弥子は箱を見つめていた。

 

「でも、本当に宝石みたいですね。これ、部屋に飾ったら運気が上がりそうです」

 

 すえぞうが羽を広げる。

 

「キラキラ!」

 

「そうだね、すえぞう」

 

 ラキシスは、静かに箱を見ていた。

 

「地球の方々にも、この姿を美しいと思っていただけるなら、嬉しいですわ」

 

 ラクスが頷く。

 

「きっと、そう思う方は多いと思います」

 

 シンは腕を組んだ。

 

「でも、やっぱりプロポーズ用って聞くと、急に重いですね」

 

 Xiが言う。

 

「金色のロボットプラモでプロポーズ。なかなかないよね」

 

 アスランが真面目に考える。

 

「成功率は、相手次第だな」

 

「真面目に分析しないでください!」

 

 カイエンが笑った。

 

「まあ、渡す相手を間違えなきゃ強いんじゃねぇか」

 

 アウクソーが補足する。

 

「渡す側が完成させられることも条件です」

 

「そういう現実的な話やめろヨ」

 

 ソープは、ふと何かを思いついた顔をした。

 

「じゃあ、地球圏向けに“プロポーズ応援セット”として」

 

「陛下」

 

 ログナーの声が低くなった。

 

「まだ最後まで言っていないよ」

 

「言い切る前に通行止めです」

 

 シンが頭を抱える。

 

「今、本当に危なかった」

 

 Xiがにやにや笑う。

 

「セット内容は? K.O.G.、台座、メッセージカード、婚姻届?」

 

 弥子が吹き出した。

 

「重い! プラモに婚姻届は重いです!」

 

 ラクスはくすりと笑った。

 

「けれど、メッセージカードくらいなら可愛らしいかもしれませんわ」

 

 ログナーが少し考える。

 

「メッセージカードは通行可。ただし婚姻届は通行止め」

 

 ソープは残念そうに言った。

 

「惜しいな」

 

 シンが叫ぶ。

 

「惜しくないです!」

 

 キラは箱を抱えたまま、少しだけ遠い目をした。

 

「これ、作る時にすごく緊張しそうだな」

 

 アスランが頷く。

 

「透明装甲は傷が目立つ」

 

 ラクスが微笑む。

 

「でも、キラなら大丈夫ですわ」

 

 キラは少し照れたように笑った。

 

「ありがとう、ラクス」

 

 Xiが小声で弥子に言った。

 

「今の、ちょっとプロポーズ用っぽかったね」

 

 弥子も小声で返す。

 

「ですね」

 

 シンが慌てる。

 

「そこ拾わなくていいです!」

 

 ソープは満足そうに頷いた。

 

「やっぱり、ラインナップを増やすのはいいね。次は何にしようかな」

 

 ログナーが即座に言った。

 

「陛下。次回ラインナップ検討は通行可です。ただし、商品説明と用途説明は事前審査です」

 

「わかってるよ」

 

 Xiが笑った。

 

「本当に?」

 

 ソープは楽しそうに笑った。

 

「努力するよ」

 

 ログナーは無言で資料に追記した。

 

『努力するよ、は警戒継続』

 

 シンがそれを見て頷いた。

 

「わかります」

 

 弥子は箱をもう一度見て、しみじみと言った。

 

「でも、地球でこれを買って、誰かにプレゼントする人、いるんでしょうね」

 

 ラクスが言う。

 

「贈り物は、贈る人の気持ちが込められていれば、それだけで素敵ですわ」

 

 ラキシスも微笑む。

 

「ええ。たとえそれが、黄金の騎士でも」

 

 シンは思わず言った。

 

「黄金の騎士を“たとえ”で済ませるの、すごいですね」

 

 カイエンが笑う。

 

「慣れろ、シン。星団はだいたいこんなもんだ」

 

「慣れたくないです!」

 

 すえぞうが箱の前で跳ねた。

 

「キラキラ! キラキラ!」

 

 キラは笑って、箱を大事そうに抱え直した。

 

「じゃあ、これは僕が預かります」

 

 ログナーが言った。

 

「キラ殿」

 

「はい」

 

「積まないように」

 

 キラは真剣に頷いた。

 

「組みます」

 

 ラクスが微笑む。

 

「私も完成を楽しみにしていますわ」

 

 キラは少しだけ背筋を伸ばした。

 

「……頑張ります」

 

 Xiが小さく笑った。

 

「これ、ある意味すごいプレッシャーだね」

 

 アスランが頷く。

 

「完成品を待つ人がいる。なら、積めないな」

 

 シンが言う。

 

「なんでプラモの話が人生訓みたいになるんですか」

 

 ネウロがいつの間にか、箱を見ながら笑っていた。

 

「人間は面白い。黄金の騎士に夢を見て、未完成の箱に未来を見て、ゲート処理に人生を重ねる」

 

 弥子が嫌そうな顔をする。

 

「最後のはあまり重ねたくないです」

 

 ソープは嬉しそうに言った。

 

「でも、そういうのも含めて、模型は面白いね」

 

 ログナーがすぐに反応した。

 

「陛下。面白い、の先に新規企画書を置かないでください」

 

「まだ置いてないよ」

 

「置く顔でした」

 

 ラキシスが静かにソープの袖を引いた。

 

「ソープ様」

 

「何だい、ラキシス」

 

「まずは、皆さまがこのナイト・オブ・ゴールドを楽しんでくださるのを見守りましょう」

 

 ソープはその言葉に、すぐ頷いた。

 

「そうだね」

 

 ログナーが、ほんのわずかに安堵した。

 

 Xiはそれを見逃さなかった。

 

「姫様、強いね」

 

 弥子が頷く。

 

「最終安全装置ですね」

 

 シンも小声で言った。

 

「本当にそうかも」

 

 ラキシスは、ただ優雅に微笑んでいた。

 

 その日、地球圏向け輸出用プラモデル第二弾。

 

 1/100 ナイト・オブ・ゴールドは、正式に通行可となった。

 

 ただし、販促文からは以下の文言が削除された。

 

『プロポーズ用MH』

『全身黄金色の愛と権力』

『組み上げたら迎えに行けます』

『婚姻届同梱可』

 

 代わりに採用された文言は、こうだった。

 

『黄金の騎士を、あなたの手で。

 大切な方への贈り物にも。』

 

 ログナー司令は、それを見て頷いた。

 

「通行可」

 

 シンも頷いた。

 

「だいぶ普通になりましたね」

 

 Xiがにやりと笑った。

 

「普通かなあ。中身は陛下のプロポーズ用MHだけど」

 

 弥子が箱を見て言った。

 

「でも、ちょっと欲しくなりますね」

 

 アスランが頷く。

 

「完成すれば、相当見栄えがするだろう」

 

 キラは箱を抱えたまま、静かに言った。

 

「完成させます」

 

 ラクスが微笑んだ。

 

「楽しみにしていますわ」

 

 その一言で、キラ・ヤマトはもう積めなくなった。

 

 黄金の騎士は、まだ箱の中にいた。

 

 だが、キラの中ではすでに、組み立て計画が始まっていた。

 

 ランナーの確認。

 

 ゲート処理。

 

 透明パーツの扱い。

 

 光の当たり方。

 

 飾る場所。

 

 そして、ラクスに完成品を見せる瞬間。

 

 シンは、その顔を見て呟いた。

 

「……これ、しばらくキラさん戻ってこないやつだ」

 

 アスランは静かに頷いた。

 

「可能性は高い」

 

 Xiが笑う。

 

「黄金の騎士に攫われたね」

 

 すえぞうが元気よく叫んだ。

 

「キラキラ!」

 

 ラキシスは、ソープの隣で楽しそうに微笑んでいた。

 

 ソープも満足そうだった。

 

 ログナー司令だけが、最後まで資料に追記していた。

 

『キラ・ヤマト殿、K.O.G.見本品受領。

 積み化防止要因として、ラクス・クライン殿の期待が有効に作用。

 販促文、修正後通行可。

 プロポーズ用である事実は、商品説明から除外。

 ただし、関係者間では周知済み。

 今後、地球圏における“プロポーズ用プラモデル”需要については要観察。』

 

 その報告書を見たシンは、最後に一言だけ言った。

 

「観察しなくていいと思います」

 

 だが、ログナーは真顔で答えた。

 

「需要が発生した場合、対応が必要だ」

 

 Xiは笑った。

 

「ほら、また面白くなってきた」

 

 シンは頭を抱えた。

 

「面白くならなくていいです!」

 

 黄金の騎士は、静かに箱の中で輝いていた。

 

 そしてキラ・ヤマトは、完全に見てしまった。

 

 ナイト・オブ・ゴールドを。

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