守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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ダグラス・カイエンは梅干しを食べてしまう

 その日のカフェテラスは、珍しく平和だった。

 

 桂木弥子はケーキを食べている。

 すえぞうは焼き菓子の皿をじっと見つめている。

 シン・アスカはアイスティーを飲みながら、ようやく普通の休憩らしい休憩にありついていた。

 キラ・ヤマトとラクス・クラインは、穏やかに会話をしている。

 アスラン・ザラは、周囲を警戒している。

 岸辺露伴はいない。

 ヘキサクス製品もない。

 たぶん。

 

「今日は、何も起きないといいですね」

 

 シンが、心からそう言った。

 

 怪盗Xiはテーブルに肘をついたまま、少し乾いた笑みを浮かべた。

 

「そのセリフ、もうちょっと縁起悪いよ」

 

「言わない方がよかったですか?」

 

「うん。今の流れだと、何か届く」

 

 その瞬間だった。

 

「桂木弥子さまにお届け物でーす」

 

 カフェテラスの入口に、配達員が現れた。

 

 シンは固まった。

 Xiは天を仰いだ。

 

「ほら」

 

「俺のせいですか!?」

 

「タイミング的にはかなりシンのせい」

 

「理不尽だ!」

 

 配達員は小さな木箱を抱えていた。

 

 見た目は上品だった。

 和紙風の包装。

 落ち着いた色の紐。

 

 側面には、筆文字でこう書かれている。

 

『季節のご挨拶』

『完熟梅使用 特製梅干し詰め合わせ』

『昔ながらの酸味を大切にしました』

 

 弥子の目が少し輝いた。

 

「梅干し……!」

 

 アスランが即座に言った。

 

「弥子ちゃん、まだ食べないでください」

 

「まだ何もしてません!」

 

「表情が食べる前でした」

 

 Xiが配達伝票を見た。

 

 そして、顔色が変わる。

 

「差出人は」

 

 キラが聞いた。

 

「誰?」

 

 Xiは、伝票をテーブルに置いた。

 

「株式会社ヘキサクス」

 

 空気が冷えた。

 

 シンが呻く。

 

「またか……」

 

 弥子は梅干しの箱を見ながら、惜しそうに言った。

 

「でも、梅干しですよ? ご飯に合いそうな、普通の梅干しですよ?」

 

 Xiが即答する。

 

「あの親父が送ってくる時点で、普通から一番遠い」

 

 アスランも頷いた。

 

「開封前にログナー司令を呼ぶべきです」

 

 その時、ラキシスが静かに箱を見つめた。

 

「梅干し、ですか」

 

 ソープが興味深そうに言う。

 

「地球の保存食だね。酸味と塩分で保存性を高める。面白い食品だ」

 

 ログナー司令は、すでに近くにいた。

 

 いつからいたのかは、誰も聞かなかった。

 

 聞いても仕方がなかった。

 

「差出人がヘキサクスなら、検査対象だ」

 

 ダグラス・カイエンは、椅子にもたれていた。

 

 長い黒髪を後ろでまとめ、いつものようにどこか退屈そうな顔をしている。

 

「梅干しで何が起きるんだヨ」

 

 Xiがカイエンを見た。

 

「師匠、そのセリフ、前にも似た流れで聞いた」

 

「前って何だヨ」

 

「レモンサワー」

 

「……あれは限定だったんだヨ」

 

 シンが小声で言う。

 

「まだ言ってる……」

 

 箱は開けられた。

 

 中には、個包装された大粒の梅干しが整然と並んでいる。

 

 赤紫がかった艶。

 

 ふっくらした果肉。

 

 見た目だけなら、かなり高級そうだった。

 

 弥子がごくりと喉を鳴らす。

 

「美味しそう……」

 

「弥子」

 

 アスランが呼ぶ。

 

「はい。食べません」

 

 ラキシスは少し考えた。

 そして、すえぞうを見た。

 

「すえぞう」

 

「ナニ?」

 

「少しだけ、召し上がっていただけますか?」

 

 Xiが固まった。

 

「姫様」

 

 キラも目を瞬かせた。

 

「すえぞうに?」

 

 ラキシスは穏やかに言った。

 

「すえぞうなら、反応を見るには、比較的安全かと」

 

 シンが小声で言う。

 

「安全基準がすごい……」

 

 すえぞうは梅干しを見た。

 

「ウメ?」

 

 ラキシスは微笑む。

 

「梅干しですわ」

 

「ウメボシ!」

 

 ログナーは少しだけ考えた。

 

「少量なら許容範囲。すえぞう殿には監督をつける」

 

 Xiが頭を抱えた。

 

「またすえぞうが検査役になってる……」

 

 弥子は心配そうに言った。

 

「すえぞう、ちょっとだけだからね。変だったらすぐ言ってね」

 

「うっす!」

 

 すえぞうは小さく切り分けられた梅干しを口に入れた。

 

 もぐ。

 

 その瞬間、すえぞうの目が丸くなった。

 

「すっぱ!」

 

 全員が身構える。

 

 十秒。

 

 二十秒。

 

 三十秒。

 

 何も起きない。

 

 キラがそっと言った。

 

「なにも起きませんね……」

 

 ラキシスがほっとしたように微笑む。

 

「大丈夫そうですわね」

 

 すえぞうは、ぱたぱたと手を振った。

 

「すっぱ! もっと!」

 

 弥子が叫んだ。

 

「クセになってる!!」

 

 Xiも叫んだ。

 

「やめて! あの親父の決め台詞を証明しないで!」

 

 すえぞうは目を輝かせている。

 

「すっぱ! うまい!」

 

 シンが驚く。

 

「普通にハマってる!?」

 

 ログナーは冷静に観察していた。

 

「すえぞう殿に異常な精神反応は見られない。酸味への嗜好反応のみ」

 

 すえぞうは首を傾げた。

 

「エライ?」

 

 ラキシスは優しく頷いた。

 

「ええ。とても偉いです」

 

 Xiが小声で言う。

 

「褒めていいのかな、これ」

 

 カイエンは、すえぞうを見た。

 

 そして、梅干しを見た。

 

「ほら、たまにはこういうのもあるヨ」

 

 アスランがすぐに言った。

 

「カイエンさん、まだ安全とは限りません」

 

「すえぞうが平気なんだろ?」

 

「すえぞう基準で判断しないでください」

 

「梅干しだろ。飯に合うやつだ」

 

 Xiが言った。

 

「師匠、前回も“酒屋で売ってる酒だろ”って言ってたよ」

 

「うるせぇナ」

 

 アウクソーが静かに言う。

 

「マスター。念のため、お控えください」

 

「大丈夫だヨ」

 

 カイエンは、梅干しを一粒つまんだ。

 

 全員が「あっ」という顔をした。

 

 そのまま、カイエンは口に入れた。

 

「……すっぱ」

 

 それだけだった。

 

 五秒。

 

 十秒。

 

 カイエンは平然としている。

 

 シンが少し肩の力を抜いた。

 

「本当に普通……?」

 

 その時、Xiの端末が鳴った。

 

 差出人不明。

 

 件名。

 

『一族自慢の一品について』

 

 Xiは、心底嫌そうな顔で画面を見た。

 

「あー……来た」

 

 弥子が身構える。

 

「内容は?」

 

 Xiは読み上げた。

 

『我が一族の自慢の完熟梅を漬けた、特製の梅干しだ。

 常人が食べると、酸っぱさで過去の失敗が全部蘇るが……

 慣れるとクセになる。』

 

 沈黙。

 

 シンが呟いた。

 

「嫌すぎる……」

 

 カイエンは黙っていた。

 

 いつものような軽口がない。

 

 アウクソーが顔を向ける。

 

「マスター?」

 

 カイエンは、遠くを見るような目をした。

 

「……魚が慎重だった」

 

 シンが叫んだ。

 

「急に何の話ですか!?」

 

 アウクソーが静かに答える。

 

「朝釣りの件ですね」

 

 カイエンがすぐに言う。

 

「違ぇヨ」

 

「釣果はございませんでした」

 

「はっきり言うなヨ」

 

 弥子が目を丸くする。

 

「梅干しで、釣りでボウズだった記憶が蘇ってる!」

 

 すえぞうが首を傾げた。

 

「ぼうず?」

 

「違ぇ」

 

 カイエンは即答した。

 

 ログナー司令が短く言う。

 

「釣れなかった」

 

「黙れログナー」

 

 アウクソーも補足する。

 

「はい。釣れませんでした」

 

「お前はどっちの味方だヨ」

 

 すえぞうが無邪気に言う。

 

「カイエン、ツレナイ?」

 

「釣れなかっただけだヨ」

 

 ログナーが言った。

 

「同じだ」

 

「黙れって言ってんだろ」

 

 シンは笑いをこらえながら言った。

 

「剣聖なのに、魚には勝てなかったんですね……」

 

 カイエンが睨む。

 

「魚が相手なら剣は関係ねぇヨ」

 

 ネウロが笑う。

 

「ククク……剣で斬れぬ敗北もある、というわけだ」

 

「うるせぇ」

 

 カイエンは口元を押さえた。

 

 梅干しの酸味が、まだ舌に残っている。

 

 その酸っぱさに引っ張られるように、記憶が勝手に浮かび上がる。

 

 朝の海。

 竿。

 完璧な構え。

 完璧な投げ。

 釣果、なし。

 アウクソーの静かな記録。

『マスター、本日の釣果はございません』

 

 カイエンは眉間に皺を寄せた。

 

「魚が悪い」

 

 ログナーが言った。

 

「認めろ」

 

「何をだヨ」

 

「ボウズだった」

 

「黙れログナー」

 

 キラが苦笑する。

 

「梅干しって、そんな軽い失敗まで掘り返すんだ……」

 

 ラクスは少し困ったように言った。

 

「小さな失敗ほど、本人には残っているものなのかもしれませんわ」

 

 カイエンは不機嫌そうに言った。

 

「小さくねぇヨ」

 

 アウクソーが言う。

 

「マスター。やはり気にしておられたのですね」

 

「分析すんな」

 

 弥子は箱を見た。

 

「これ、すごいですね……食べた人の過去の失敗が、酸っぱさで出てくるんだ」

 

 Xiは顔をしかめた。

 

「あのクソ親父……本当に性格悪い」

 

 その時、ソープがカイエンを見た。

 

「カイエン。ほかにも何か思い出した?」

 

「思い出してねぇ」

 

「本当に?」

 

「思い出してねぇって言ってんだろ」

 

 その言い方が、少し強かった。

 

 ログナーが目を細める。

 

「次が来ているな」

 

「来てねぇ」

 

 カイエンは視線を逸らした。

 

「……あの時は本気じゃなかった」

 

 シンが顔を上げた。

 

「今度は何の話ですか!?」

 

 ソープは、少し懐かしそうに笑った。

 

「もしかして、僕に負けた時の話?」

 

 カイエンが即座に言った。

 

「黙れアマ公」

 

 シンが叫ぶ。

 

「ソープ様に向かってアマ公!?」

 

 ソープは全く気にしていない。

 

「懐かしいね」

 

「懐かしくねぇヨ」

 

 ログナーが淡々と言った。

 

「油断して負けた件か」

 

「油断じゃねぇ。あの時は本気じゃなかった」

 

「そう言い続けている」

 

「事実だヨ」

 

 アウクソーが静かに言う。

 

「マスター。それを何度もおっしゃる時点で、かなり気にされています」

 

「だから分析すんな」

 

 弥子は梅干しを見て震えた。

 

「剣聖の言い訳まで引き出す梅干し……!」

 

 Xiが小声で言う。

 

「嫌な効き方するなあ」

 

 ネウロは満足そうだった。

 

「これは記憶を奪うのではない。

 本人が奥に押し込めた敗北感を、舌の酸味で引きずり出す。実に悪趣味だ」

 

 シンが言った。

 

「記憶が飛ぶチーズの逆ですね」

 

 弥子はそこで、ぽんと手を打った。

 

「じゃあ、この梅干しの後に、記憶が飛ぶチーズを嗅げばプラマイゼロでは?」

 

 キラが即座に言った。

 

「無害化みたいに言わないで」

 

 アスランも真顔で続ける。

 

「危険物同士を併用しないでください」

 

 ログナーが言った。

 

「併用は通行止めだ」

 

 弥子は少し残念そうに言う。

 

「やっぱり駄目ですか」

 

「駄目だ」

 

 ネウロが笑う。

 

「ククク……失敗だけを思い出し、そのあと他の記憶だけ飛ぶ可能性もある」

 

 シンが叫んだ。

 

「最悪じゃないですか!」

 

 Xiも頷く。

 

「あの親父の製品で相殺実験とか、絶対やめた方がいいよ」

 

 すえぞうは梅干しの箱を見ている。

 

「すっぱ! もっと!」

 

 弥子が慌てて箱を遠ざけた。

 

「すえぞうはもう駄目です!」

 

「もっと!」

 

「普通の梅干しを用意します!」

 

「フツウ?」

 

「普通の梅干しです。過去の失敗が蘇らないやつです」

 

 すえぞうは少し考えた。

 

「すっぱ?」

 

「すっぱいです」

 

「じゃあ、フツウ!」

 

 ラキシスが微笑む。

 

「普通の梅干しを、後で用意いたしましょう」

 

 ソープが興味深そうに言う。

 

「普通の梅干しか。塩分濃度や熟成条件を調整すれば、酸味の種類も――」

 

 ログナーが即座に言った。

 

「陛下、通行止めです」

 

「まだ何もしていないよ」

 

「“調整”という言葉が出ました」

 

 ラキシスがそっと言う。

 

「ソープ様。普通でよろしいのですわ」

 

 ソープは少し考えて、穏やかに笑った。

 

「普通か」

 

 ログナーが言った。

 

「通行可です」

 

 Xiが小声で言う。

 

「姫様ブレーキ、今日も完璧」

 

 ログナーは梅干しを検査した。

 

 毒性なし。

 薬物性なし。

 記憶改変なし。

 精神誘導なし。

 魔界由来なし。

 未知の微細機械なし。

 食品としての基本成分は、梅、塩、紫蘇、その他調味成分。

 

 ただし、酸味刺激を契機として、摂取者の羞恥、後悔、敗北感、失敗記憶の想起を異常に促進する作用を確認。

 

 摂取者の性格、過去、自己評価によって反応に差がある。

 すえぞうには軽微。

 カイエンには有効。

 

 ログナーは報告書にそう書きかけ、少しだけ止まった。

 

 そして、別の表現にした。

 

『ダグラス・カイエンに強く作用。』

 

 カイエンが横から覗き込んだ。

 

「おい。今、何て書いた」

 

「事実だ」

 

「消せ」

 

「通行止めだ」

 

「報告書に俺の釣果を書くなヨ」

 

「釣果とは書いていない」

 

「書こうとしただろ」

 

 アウクソーが静かに言った。

 

「釣果はございませんでした」

 

「追い打ちすんな」

 

 シンはもう笑いをこらえるのを諦めていた。

 

「すみません……でも、カイエンさん、剣はあんなに強いのに……梅干しで……」

 

 カイエンが睨む。

 

「最後まで言うな」

 

 キラは少ししんみりした顔で梅干しを見た。

 

「これ、僕が食べたら多分きついな」

 

 ラクスがそっと言った。

 

「キラは食べなくてよろしいですわ」

 

「うん。食べない」

 

 アスランは箱から距離を取っている。

 

 シンがそれに気づいた。

 

「アスラン、めちゃくちゃ警戒してません?」

 

「当然だ」

 

「アスランが食べたら……」

 

「言わなくていい」

 

 Xiが言う。

 

「アスランは梅干し一粒で反省会が始まりそうだよね」

 

「否定はしない」

 

「否定してくださいよ!」

 

 弥子も真剣な顔で言った。

 

「私は食べません。食べ物関係の失敗が多すぎて、どれが出るかわからないので」

 

 ネウロが笑った。

 

「ほう。自覚はあるのか」

 

「あります!」

 

「ならば一粒――」

 

「食べません!」

 

 ログナーは箱を閉じた。

 

「ヘキサクス製梅干しは全数回収。食品として通行止め。併用実験も通行止め」

 

 すえぞうが箱を見て言う。

 

「うめぼし……」

 

 弥子がなだめる。

 

「すえぞうには普通の梅干しを買ってきますから」

 

「ふつう、すっぱ?」

 

「はい。普通にすっぱいです」

 

「うっす!」

 

 カイエンはまだ少し不機嫌そうだった。

 

「梅干しひとつで、なんで俺がこんな目に遭うんだヨ」

 

 ログナーが答える。

 

「確認せず食べたからだ」

 

「すえぞうは平気だっただろ」

 

「すえぞう殿とお前は違う」

 

「どう違うんだヨ」

 

 ネウロが言った。

 

「すえぞうは己の失敗を保存しない。貴様は保存している。しかも言い訳つきでな」

 

「黙れ魔人」

 

 ソープが楽しそうに言った。

 

「でも、カイエン。魚が慎重だったという表現は面白いね」

 

「掘り返すなヨ」

 

 ラキシスが少し笑った。

 

「カイエン様にも、可愛らしいところがおありですのね」

 

 カイエンは困ったように顔をそむけた。

 

「やめてくれ。そっちの方が効く」

 

 アウクソーが静かに言った。

 

「マスター。次回から、ヘキサクス製品は召し上がらないでください」

 

「わかってるヨ」

 

 ログナーがすぐに言った。

 

「本当か」

 

「うるせぇナ」

 

「レモンサワーの時も似たことを言っていた」

 

「限定だったんだヨ」

 

「今回は直送便だった」

 

「梅干しだったんだヨ」

 

「言い訳の形式が同じだ」

 

 Xiが笑った。

 

「師匠、剣の腕は超一流なのに、食べ物の警戒心はけっこう雑だよね」

 

 カイエンは不満そうに言った。

 

「剣と梅干しを一緒にすんな」

 

 ネウロが笑う。

 

「だが今回は、梅干しが貴様を斬った」

 

 シンが吹き出した。

 

「梅干しが剣聖を斬った……!」

 

 カイエンがシンを見る。

 

「笑うな」

 

「すみません!」

 

 ログナーは報告書の最後にこう記した。

 

『ヘキサクス製梅干し。

 差出人は株式会社ヘキサクス。直送便のため販売店への補填不要。

 毒性なし。

 ただし、酸味刺激により過去の失敗記憶を強制想起。

 すえぞう殿には軽微。酸味嗜好反応あり。

 ダグラス・カイエンに強く作用。

 釣果に関する発言あり。

 本人は否認。

 食品として通行止め。』

 

 カイエンが言った。

 

「釣果って書いてるじゃねぇか」

 

「事実だ」

 

「消せ」

 

「通行止めだ」

 

 すえぞうは、弥子が用意した普通の梅干しを少しだけ食べて、満足そうに笑った。

 

「すっぱ! ふつう!」

 

 弥子も笑った。

 

「普通っていいですね」

 

 キラが頷いた。

 

「本当にね」

 

 アスランも静かに言った。

 

「普通の食品が、普通に食品であることは大事です」

 

 Xiは回収された箱を見ながら、ため息をついた。

 

「あのクソ親父……今度は梅干しかよ」

 

 ネウロは笑う。

 

「酸味で過去を掘り返す。悪意としては地味だが、よく刺さる」

 

 カイエンは椅子にもたれ、腕を組んだ。

 

「俺には刺さってねぇ」

 

 アウクソーが言った。

 

「刺さっていました」

 

「お前な」

 

 ログナーも言った。

 

「深く刺さっていた」

 

「黙れログナー」

 

 ソープが楽しそうに言う。

 

「魚が慎重だったんだよね」

 

「アマ公まで乗るな」

 

 ラキシスが、すえぞうの頭をそっと撫でた。

 

「すえぞう様には、普通の梅干しがよろしいですわね」

 

「ふつう! すっぱ!」

 

 カフェテラスには、ようやく平和が戻った。

 

 

 ヘキサクス製の梅干しは回収された。

 

 すえぞうは普通の梅干しで満足した。

 

 弥子はチーズとの併用を諦めた。

 

 アスランは最後まで梅干しから距離を取った。

 

 そしてカイエンは、しばらくの間、釣りの話を振られるたびに不機嫌そうな顔をすることになった。

 

 その日の教訓は、単純だった。

 

 ヘキサクス製品は、見た目が普通でも食べるな。

 すえぞうが平気でも、自分が平気とは限らない。

 そして、剣聖でも、梅干しには負けることがある。

 

 カイエンは最後まで認めなかった。

 

「負けてねぇヨ」

 

 ログナーは即答した。

 

「釣果はなかった」

 

「そっちの話じゃねぇ!」

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