守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎   作:ギアっちょ

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避暑地の別荘に、想定以上の人数が集まってしまった。

岸辺露伴。
泉京香。
空条承太郎。
ダグラス・カイエン。
アウクソー。
キラ・ヤマト。
ラクス・クライン。
桂木弥子。
脳噛ネウロ。

本来なら、もっと静かに始まるはずだった別荘取材である。

だが現実は、
玄関ホールに立った時点ですでに
“静かに”という言葉が死んでいた。

露伴は腕を組んで、一度全員を見回した。

「……まず、部屋を決める」

弥子がすぐ反応する。

「おっ、そこはちゃんとやるのね」

「当たり前だ」
露伴。
「人間関係の流れを見るには、寝所の配置が重要だからな」

「うわ、もう観察対象扱いしてる……」
キラ。

泉が疲れた顔で言う。

「センセ、せめて今だけは普通に部屋割りしてください」

「普通だ」
露伴。
「男と女で分ける」

承太郎が短く言う。

「妥当だな」

「珍しく全会一致しそう」
キラ。

ラクスが穏やかに頷いた。

「そのほうが自然ですわね」

アウクソーも静かに同意する。

「ええ。落ち着くかと」

弥子がにやっとする。

「よーし、じゃあ女子部屋は平和ね!」

ネウロが即座に言った。

「ククク……
貴様がいる時点で、その言葉は成立せんぞ」

「うるさい!」

露伴は淡々と告げる。

「男部屋は、僕、承太郎さん、キラ・ヤマト、カイエン、ネウロ」
「女部屋は、泉くん、ラクス、アウクソー、弥子」

泉が止まる。

「……待ってください」
「私、そっちなんですか」

弥子が目を丸くする。

「え、嫌なの?」

「嫌っていうか……」
泉は女子部屋の顔ぶれを見た。
「ラクスさんとアウクソーさんはすごく落ち着いてそうだけど、
弥子ちゃんは絶対静かじゃないし、
結局わたしが常識人枠になる未来が見えるんですけど」

キラが思わず頷く。

「それは……まあ……」

「頷かないでください!」
泉。

ラクスがやわらかく微笑む。

「大丈夫ですわ」
「きっと賑やかで楽しいお部屋になります」

「その“賑やか”が怖いんですよね……」
泉。

アウクソーは落ち着いた声で言った。

「私もおりますので、必要であれば調整します」

泉が少しだけ救われた顔をする。

「ありがとうございます……」
「今のところ、その言葉が一番ありがたいです……」

一方、男子部屋のほうはすでに嫌な予感しかしなかった。

キラが露伴を見る。

「……えっと」
「なんで僕、またそこに入ってるんですか」

露伴は当然のように答える。

「調整役として必要だ」

「やっぱりそういう理由なんだ!?」

承太郎が低く言う。

「だろうな」

カイエンも苦笑した。

「やれやれ。
坊や一人に負担をかけすぎじゃないかい、漫画家先生」

「君とネウロがいるなら当然だ」
露伴。

「理由がはっきりしてて嫌だなあ!」
キラ。

ネウロは口元を吊り上げた。

「ククク……
中央管理職の宿命だ」

「その言い方ほんとやめてよ!」

承太郎が帽子を押さえる。

「やれやれだぜ」


岸辺露伴は招いてしまう その2

部屋割りが決まると、今度は荷物の整理に入る。

 

女子部屋は二階の南側。

大きな窓があり、木立の向こうに山の稜線が見える。

 

弥子が入った瞬間に言った。

 

「うわーっ、広い!」

「しかもきれい!」

 

ラクスも室内を見回して微笑む。

 

「落ち着いたお部屋ですわね」

 

アウクソーはまずクローゼットと寝具を確認していた。

 

「布団の予備もあります」

「夜は冷えるかもしれませんので、毛布は多めのほうが良さそうです」

 

泉が感心する。

 

「すごい……」

「アウクソーさん、もう生活導線見てる……」

 

「必要かと思いましたので」

アウクソー。

 

弥子はベッドの端に座ってはしゃいでいる。

 

「ねえ見て見て、こういう別荘って初めて!」

「なんか合宿っぽい!」

 

泉がすぐ言う。

 

「“合宿”って言い方すると、センセがさらに面倒なこと考えますからやめて」

 

「もう遅いんじゃない?」

と弥子。

 

その頃、男子部屋。

 

こちらは一階の奥。

広さは十分あるが、

入った瞬間から空気が重かった。

 

キラが荷物を置きながら言う。

 

「……なんか」

「もう部屋にいるだけで疲れるんだけど」

 

「だろうな」

承太郎。

 

露伴はさっそく窓際の位置を確認している。

 

「光の入り方は悪くないな」

 

「描く気満々じゃないですか」

キラ。

 

ネウロはソファに勝手に座り込む。

 

「ククク……

夜になれば、もっと面白くなるぞ」

 

「その予告やめて」

キラ。

 

カイエンは荷物を置くと、部屋の隅を見て軽く頷いた。

 

「悪くない」

「少なくとも寝る場所には困らんらしい」

 

「大型の別荘って設定でほんとによかったよ……」

キラ。

 

露伴はふとカイエンの荷物を見た。

 

「少ないな」

 

「必要なものだけだ」

カイエン。

 

「君はいつもそうだな」

露伴。

 

「旅先でまで物を増やしたくないだけさ」

 

承太郎がぼそりと言う。

 

「そのわりに厄介事は増えるがな」

 

カイエンが笑った。

 

「違いない」

 

キラは思った。

 

この二人、案外会話が成立するんだよな……

 

だが安心はできない。

何しろネウロと露伴がいる。

安心材料が一切ない。

 

荷物を一通り置いたところで、

アウクソーが一階のリビングへ下りてきた。

 

「そろそろ、夕食の準備に取りかかったほうがよいかと」

 

泉も後ろから来る。

 

「そうなんですよ」

「食材の確認、誰か一緒に――」

 

弥子が真っ先に手を上げた。

 

「はい!」

「あたしやる!」

 

キラが思わず言う。

 

「え、弥子、料理ほんとにできるんだよね?」

 

「失礼ね!」

弥子。

「食うだけだと思ってるでしょ!」

 

「ちょっとだけ」

 

「ひどっ!」

 

ラクスが柔らかく言った。

 

「わたくしもお手伝いできますわ」

 

「助かります!」

泉が本気で言う。

「もうその一言だけで安心感が違う……」

 

アウクソーも静かに続ける。

 

「では、私は全体の手順を見ます」

「火の通りにくいものと、先に下ごしらえが必要なものを分けましょう」

 

露伴がその様子を見ている。

 

「ほう……」

 

キラがすぐ嫌な顔になる。

 

「何ですかその“ほう”は」

 

「面白い」

露伴。

「食事の準備は、そのまま人間関係が出る」

 

「出なくていいよそんなの!」

キラ。

 

ネウロがにやりとする。

 

「ククク……

よい。人間どもが食のために秩序を作る様は見ていて飽きん」

 

「おまえは見るだけだろ」

キラ。

 

「当然だ」

ネウロ。

 

「当然って言うな!」

 

承太郎は冷蔵庫の中を見て、短く言った。

 

「足りねぇな」

 

泉が反応する。

 

「えっ、何がですか?」

 

「肉」

承太郎。

 

弥子がすぐ乗る。

 

「わかる!」

 

キラが額を押さえる。

 

「この二人、こういうとこだけ息合うんだよな……」

 

カイエンはキッチンの棚を覗いて言った。

 

「酒も少し足りんか」

 

「そっちも!?」

泉。

 

アウクソーは冷静に整理する。

 

「では、追加の買い出しが必要です」

「最低限、肉類、野菜、調味料を少し」

「それと飲み物ですね」

 

ラクスが頷く。

 

「でしたら、分担いたしましょうか」

 

露伴が即座に言う。

 

「よし」

「買い出しに行く組と、残って準備する組に分ける」

 

泉が嫌な予感を覚える。

 

「センセ」

「その“分ける”ってまた取材目線ですよね?」

 

「当然だ」

 

「でしょうね!!」

 

弥子はもうエプロンを探し始めている。

 

「ねえ、ここの別荘ってエプロンないの!?」

 

キラが言う。

 

「そこから!?」

 

「料理するなら大事でしょ!」

 

アウクソーは収納からすぐに見つけ出した。

 

「こちらに」

「三枚あります」

 

「つよい!!」

泉。

 

ラクスが一枚手に取り、穏やかに笑う。

 

「では、使わせていただきますわね」

 

弥子も続く。

 

「よーし、別荘ごはんだー!」

 

露伴はその光景を、かなり真面目な顔で見ていた。

 

キラがそれに気づく。

 

「……何メモしてるんですか」

 

「騒がしい娘が台所に立つと、意外と動線が生きる」

「歌姫は所作が無駄なく美しい」

「アウクソーは全体を見ている」

「泉くんは明らかに不安そうだ」

 

「最後のいります!?」

泉。

 

露伴は即答した。

 

「いる」

 

承太郎が深く息を吐く。

 

「やれやれだぜ」

 

カイエンは少しだけ笑う。

 

「やれやれ」

「静かな別荘生活にはならんらしいな」

 

キラが苦笑する。

 

「最初から分かってたでしょ」

 

「まあな」

 

そして夕方の別荘は、

いつの間にかすっかり

共同生活の立ち上がりの空気になっていた。

 

部屋は決まり、

役割も見え始め、

誰が何をするかが自然と分かれていく。

 

露伴にとっては、もうこの時点で十分に取材だった。

 

泉にとっては、もうこの時点で十分に疲れていた。

 

そしてキラにとっては、

やっぱりまた自分が真ん中にいる

ことだけが、どうにも納得いかなかった。




露伴のメモ・二日目開始前

・女子部屋は意外と安定
・ただし弥子がノイズ
・男子部屋はキラがいないと回らない
・承太郎は動かずして軸
・カイエンは自然に空気を崩さない
・ネウロは邪魔
・夕食準備でも役割が出る
・非常によい

最後に露伴は、少し考えてから書き足した。

――まだ熊も出ていない。
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