守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
岸辺露伴の仕事場。
机の上には、完成間近の原稿が並んでいた。
泉京香は一枚ずつ確認しながら、台詞、背景、ページのつながりを追っている。
今回の物語では、主人公が古い純喫茶を訪れ、事件の関係者から話を聞く場面があった。
使い込まれた木製のカウンター。
壁際に並べられたコーヒーカップ。
静かに湯気を立てる一杯のコーヒー。
背景として描かれた店内は、細部まで異様なほど緻密だった。
泉の手が、あるコマで止まる。
「先生」
「何だい」
「この喫茶店、先日取材されたお店ですよね?」
露伴は原稿から目を離さなかった。
「そうだが?」
「カウンターの傷まで同じです」
「実際にあるものを正確に描いた。それだけだ」
泉は、コマの隅を指差した。
主人公のコーヒーカップ。
その隣に、小さな紹介カードが置かれている。
『本日十杯限定』
『象の消化過程を経て得られた、希少なコーヒー』
さらに背後の棚には、大きな数字の『6』が入った黒い箱。
「象のコーヒーまで描いたんですね」
「取材で飲んだからな」
「箱のデザインも、紹介カードの文章も、かなり正確です」
「僕のマンガはリアリティが命だ」
露伴はようやく顔を上げた。
「取材した内容は生かす。実際に存在する店で、実際に飲んだものを描く。それの何がおかしい?」
「おかしくはありません」
泉は少し笑った。
「ただ、掲載されたら気づく読者がいるでしょうね」
「それは読者の観察力の問題だ」
「お店に行ってみようと思う人もいるかもしれません」
「それは読者の自由だろう」
「結果的に販促になりますね」
「僕は宣伝を描いたんじゃない」
露伴は、ペン先を原稿へ戻した。
「読ませるために描いたんだ」
泉は、その言葉を聞いて頷いた。
「はい。漫画家ですものね」
「当たり前だ」
原稿の中で、主人公は一口コーヒーを飲んでいた。
台詞はない。
ただ、少しだけ目を細めている。
それだけで、そのコーヒーが悪くない味だったことは十分に伝わった。
◇
掲載誌が発売された翌日。
例の純喫茶は、いつもと少し様子が違っていた。
開店直後。
一人の若い客が、入口近くの紹介カードを見てマスターへ尋ねた。
「すみません。漫画に出てきた象のコーヒーって、これですか?」
マスターはカウンターの奥に置かれた黒い箱を見た。
「おそらく、こちらでしょうね」
「まだ飲めますか?」
「本日は十杯ご用意しています」
「じゃあ、一杯お願いします」
その客が飲み終わる頃、二人目が来た。
「岸辺露伴の漫画に出てきた店って、ここですか?」
続いて、三人目。
「象のコーヒーがあると聞いたんですが」
四人目は、漫画を持参していた。
「このコマのカウンター、やっぱりここですよね?」
マスターは静かにコーヒーを淹れ続けた。
一杯。
二杯。
三杯。
午前十一時を過ぎる前に、用意していた十杯が完売した。
店頭の札が裏返される。
本日分 完売
その札を見た客が残念そうに尋ねた。
「明日もありますか?」
「豆の在庫を確認します」
「予約できます?」
「販売元に相談してみましょう」
マスターは電話を取った。
◇
ヘキサクス社、営業管理部。
ジョーイ係長の机には、今日も段ボール箱と書類が積み上がっていた。
ただし、前日までとは少し違う。
机の右側には、象のコーヒーに関する販売記録。
左側には、純喫茶から受け取った発注書。
中央には、新しい名刺。
特殊食品在庫正常化責任者
ジョーイ係長は、その肩書をなるべく見ないようにしながら、在庫表を確認していた。
「初回販売に一袋使用。残り百九十九袋」
食品開発スタッフが答える。
「はい」
「マスターから、追加で二袋の注文」
「はい。一日十杯の限定販売を、週末も継続したいとのことです」
ジョーイ係長は、発注書を手に取った。
「継続注文や……」
「はい」
「一回きりの珍品扱いやない」
「品質と味を評価された上での注文です」
「普通の発注書や……!」
ジョーイ係長は、少しだけ目頭を押さえた。
「係長」
「泣いてへん」
「まだ何も言っておりません」
「普通の注文書が珍しすぎる会社が悪いんや!」
その時、電話が鳴った。
「はい。株式会社ヘキサクス、営業管理部、特殊食品在庫正常化……」
ジョーイ係長は途中で息を切った。
「……長い! ジョーイです!」
電話の向こうから、落ち着いた男性の声が聞こえた。
『象由来のコーヒー豆について伺いたいのですが』
「はい!」
『当店でも期間限定で扱えないかと』
ジョーイ係長の表情が変わった。
「喫茶店の方ですか?」
『都内で小さなカフェを経営しています。
漫画で商品を知り、昨日、そちらを扱っている純喫茶へ飲みに行きました』
「実際に飲まれたんですね?」
『ええ。味も確認しました。製法の説明も受けています』
「それでしたら、ぜひ詳しくお話を!」
ジョーイ係長は、食品開発スタッフへ合図した。
スタッフが注文記録を開く。
「初回は少量でお願いします。こちらの商品、製法が特殊ですので、事前説明なしで提供することは認めておりません」
『承知しています』
「衛生検査結果と、店頭説明用の資料も一緒にお渡しします。まずは二袋からでどうでしょう?」
『もっと仕入れることもできますが』
「最初は二袋でお願いします」
『売り切れた場合は?』
「その時は追加注文してください。まず、お客さんの反応を見ましょう」
電話を終える。
スタッフが尋ねた。
「五袋程度、卸すこともできましたが」
「売れるからって、最初から積ませたらアカン」
「豆の在庫は限定です」
「せやからこそや」
ジョーイ係長は発注書へ記入した。
「一回で大量に押し込んで、売れ残ったら終わりや。この商品は製法の説明が必要やし、店によって客層も違う」
「二袋ずつ、試していただくと」
「味で次の注文をもらう。一回売るんやない。次も買ってもらうんが営業や」
スタッフは静かに頷いた。
「承知しました」
電話が、また鳴った。
「はい、ジョーイです!」
『象のコーヒー豆の件で』
「また!?」
三軒目は、ホテルのラウンジだった。
四軒目は、自家焙煎を扱う小さな珈琲店。
五軒目は、書店に併設されたカフェ。
昼になる頃には、ジョーイ係長の机に新しい問い合わせ票が積み上がっていた。
「何件来た?」
「現在、十二件です」
「一晩で!?」
「うち九件が、岸辺露伴先生の漫画を見たと回答しています」
「露伴先生ぇ……!」
「残り三件は、既に提供店で飲んだ方からの紹介です」
「客が客を連れてきとる!」
ジョーイ係長は喜びながらも、すぐに表情を引き締めた。
「ただし、全部に卸すわけにはいかん」
「なぜですか?」
「製法を隠して売ろうとする店には出さん。話題だけ利用して、味も衛生もどうでもええ業者にも出さん」
「販売機会を逃す可能性があります」
「信用を失うよりマシや」
ジョーイ係長は、問い合わせ票を三つに分けた。
試験販売候補。
追加確認。
取引見送り。
「最初の純喫茶が、きちんと説明して、丁寧に淹れて、味を評価してくれた。そこを基準にする」
「最初に扱ってくださった店を優先するのですね」
「当然や。売れへん時に棚を貸してくれた相手を、売れた途端に後回しにする営業がおるか」
「ヘキサクス社内には、いるかもしれません」
「そこは否定せえ!」
◇
午後。
営業管理部へ、一人の男が訪ねてきた。
高級スーツ。
磨かれた革靴。
手には大手流通会社の資料。
ジョーイ係長は、応接スペースで男と向かい合った。
「象のコーヒー豆、残りをすべて買い取りたいと考えています」
男は言った。
「全量ですか?」
「はい。百九十袋以上あると伺いました」
ジョーイ係長は少しだけ目を細めた。
「どちらで販売される予定です?」
「系列の量販店、およびオンラインストアです。話題性がありますので、一気に展開できます」
「製法の説明は?」
「最低限の表示は行います」
「最低限?」
「表面には高級感を重視した商品名を。詳しい製法は裏面へ小さく記載します」
ジョーイ係長は黙った。
男は続ける。
「全量買い取りですから、御社に在庫リスクは残りません。価格も、現在の卸値より上乗せできます」
食品開発スタッフがジョーイ係長を見る。
百九十袋。
すべて売れれば、在庫正常化は一瞬で終わる。
売上も大きい。
保管費用もなくなる。
シックスから与えられた業務を、最短で成功させられる。
「ありがたいお話です」
ジョーイ係長は答えた。
「では」
「せやけど、お断りします」
男が表情を変えた。
「理由を伺っても?」
「全部持っていかれたら、最初に扱ってくれた店へ卸す分がなくなる」
「契約済みの分は確保して構いません」
「新しい喫茶店も、実際に味を確認した上で注文してくれとる」
「ですが、全量販売した方が利益は」
「今だけはな」
ジョーイ係長は、机上の発注書を示した。
「この商品は、珍しさだけで売るつもりはありません。味を気に入って、次も頼んでくれる店に少しずつ卸す」
「非効率では?」
「そうかもしれん」
ジョーイ係長は頷いた。
「せやけど、売った後にどう扱われるかわからん相手へ全部渡したら、次から誰もヘキサクスの食品を信用せんようになる」
「既に御社の信用には、多少の問題があると認識していますが」
「多少で済ませてくれてありがとう!」
男は少し困った顔をした。
「では、一部だけでも」
「取扱方法と表示案を見せてもらってからです。それで問題なければ、限定数を卸します」
「全量ではなく?」
「はい」
「機会損失になる可能性があります」
「信用を守るための費用やと思います」
男は資料を閉じた。
「検討します」
「こちらも、改めて検討します」
交渉が終わり、男が退室する。
スタッフがジョーイ係長へ尋ねた。
「全量買い取りを断ってよかったのでしょうか」
「正直、今も手が震えとる」
「利益は大きかったです」
「せやけどな」
ジョーイ係長は、最初の純喫茶から来た発注書を持ち上げた。
「これ一枚を裏切ってまで取る売上は、正常化やない」
「では、何ですか?」
「在庫の押しつけ先が変わるだけや」
スタッフは少し黙った。
「係長は、商品を売っているのですね」
「それ以外に何を売るんや」
「以前のヘキサクスでは、悪意を売っておりました」
「ワシはコーヒー売っとんねん!!」
◇
その日の夕方。
倉庫の一角では、象のコーヒー豆が梱包されていた。
最初の純喫茶へ二袋。
新規のカフェへ二袋。
ホテルラウンジへ三袋。
珈琲店へ二袋。
書店併設カフェへ一袋。
すべての箱に、検査結果と説明資料が同封される。
スタッフが在庫表を更新した。
「残り百八十九袋です」
「最初の一袋と合わせて、十一袋減ったんやな」
「はい」
「まだ百八十九袋もある」
「限定商品としては、少なくありません」
「せやけど昨日までは、百九十九袋全部が売れる見込みゼロやった」
ジョーイ係長は、空いた棚の一角を見た。
ほんのわずかな隙間。
だが、廃棄で空いたのではない。
回収で消えたのでもない。
商品として、客のもとへ向かった分だった。
「減っとるな」
「はい」
「ちゃんと売れて」
「はい」
スタッフは少しだけ笑った。
「正常化しています」
「まだ始まったばっかりやけどな」
そこへXiがやってきた。
手には、掲載誌がある。
「売れてるんだって?」
「おかげさまでな」
「僕は何もしてないけど」
「お前の親父が余計なことせんかった商品やから売れたんや!」
Xiは黒い箱を一つ手に取った。
「親父の会社の商品が、普通に人気になるなんてね」
「味がええからな」
「でも、僕は飲まないよ」
「まだ言うか!」
「何も起きないことは確認されてるけど、親父の象が作ったと思うと」
「象に罪はない!」
「それはそうだけど」
Xiは雑誌を開いた。
「露伴先生、かなり正確に描いてたね」
「知っとる。問い合わせの九割が、これきっかけや」
「お礼は言った?」
「これから行く」
「僕も行こうかな」
「お前も一袋買え」
「それは嫌だ」
「仲介料代わりやと思え!」
「仲介した覚えないよ」
「会長の息子として、せめて一杯くらい飲め!」
「クソ親父も同じこと言ってた」
「ワシと会長を同列にすな!!」
◇
岸辺露伴の仕事場。
ジョーイ係長は、菓子折りと売上報告書を持って訪ねていた。
露伴は原稿机に座ったまま、報告書へ目を通した。
「十杯限定だった商品が、他店からも注文を受けたのか」
「はい。先生の漫画に載ってから、問い合わせが一気に増えました」
「そうか」
「ありがとうございました」
ジョーイ係長は深く頭を下げた。
露伴は報告書を机へ置いた。
「礼はいらない」
「せやけど、先生が描いてくれへんかったら」
「僕は宣伝のために描いたんじゃない」
「わかってます」
「僕のマンガはリアリティが命だ」
露伴はさらりと言った。
「取材した内容は生かす。実際に飲んだコーヒーが面白かった。
店も使えると思った。だから描いた。それだけだ」
「はい」
「読者が気づいたのなら、それは読者がきちんと漫画を読んだということだ」
「先生としては、そっちが嬉しいと」
「当然だろう」
泉が横から言った。
「でも結果的に、お店と商品の販促にもなりましたね」
「君はまた結果を勝手に増やすな」
「実際に注文が増えています」
「僕は売上に責任を持たない」
ジョーイ係長が笑った。
「責任はワシが持ちます」
「特殊食品在庫正常化責任者として?」
「正式名称で呼ばれると、まだ胸が痛いですわ」
露伴は少しだけ口元を上げた。
「なら、次はもっと面白いものを持ってこい」
「味やなく、漫画のネタ基準で選ばんといてください!」
「面白くもなく、美味くもないものを持ってきたって、僕は描かないぞ」
「そこは当然です」
「危険なものも断る」
泉が言った。
「先生。危険なものほど取材したがるではありませんか」
「安全確認前に食べるとは言っていない」
「ぬか漬け」
「忘れろ」
「先生の服まで発酵臭が」
「それ以上言うな」
ジョーイ係長は思わず笑った。
「先生でも失敗するんですね」
「帰れ」
「すみません!」
露伴は原稿へ向き直った。
ジョーイ係長が部屋を出ようとすると、後ろから声がした。
「ジョーイ係長」
「はい?」
「コーヒーは、本当に悪くなかった」
ジョーイ係長は振り返る。
露伴は原稿を見たままだった。
「次も味を落とすな」
「もちろんです!」
ジョーイ係長は、今度は少しだけ軽い足取りで仕事場を出た。
◇
その夜。
シックスの前へ、新しい販売報告書が提出された。
「象由来コーヒー豆、取扱希望十二店舗」
部下が読み上げる。
「うち五店舗へ試験出荷。初回出荷数、合計十袋。純喫茶での継続販売分を含め、在庫は百八十九袋です」
シックスは資料をめくった。
「量販店への出荷は」
「行われておりません」
「なぜだ」
「小規模な喫茶店、カフェ、ホテルラウンジからの注文だけで、限定在庫を消化できる見込みとなったためです」
シックスの目が少し細くなる。
「包装案は」
部下は答えにくそうにした。
「量販店用パッケージは、製作が停止しております」
「私の案は」
「使用する販路がなくなりました」
「自然消滅か」
「はい」
シックスは報告書へ視線を戻した。
ジョーイ係長の判断。
大量買い取りを断り、小規模店へ分配。
製法説明を義務化。
初回発注数を限定。
最初に商品を扱った純喫茶を優先。
売上より、継続取引を選んだ。
「ジョーイは、全量を売らなかったのか」
「はい」
「在庫正常化を急ぐなら、すべて渡せばよかった」
「係長は、商品の信用が損なわれると判断しました」
「ほう」
シックスは、わずかに笑った。
「売れる平凡は正義、か」
「会長」
「好きにさせろ」
「量販店用の包装は?」
「必要ないのだろう」
「では、正面へ『象の糞から回収』と大きく記載する案は」
「廃案だ」
部下は、ほんの少し安堵した。
「承知しました」
シックスは最後のページを見る。
「Xiは飲んだか」
「飲んでおりません」
安堵が消えた。
「そうか」
◇
翌朝。
ジョーイ係長が出社すると、電話は既に鳴っていた。
「はい、ジョーイです!」
『象のコーヒーについて、取り扱いを検討したいのですが』
「ありがとうございます! まず、お店の形態と提供方法を確認させてください!」
もう一台の電話も鳴る。
スタッフが取った。
「はい。象由来コーヒー担当です」
三台目。
「今度はどこや!?」
「地方の老舗喫茶店です。掲載誌を見た常連客から、問い合わせがあったそうです」
「地方まで!?」
「十二袋を希望されています」
「いきなり十二袋は多い! まず三袋からや!」
「先方は全量前払いでもよいと」
「金の問題やない! 売れ方を見てから追加や!」
「承知しました」
ジョーイ係長は一つの電話を終え、すぐに次を取った。
「はい! 象のコーヒー担当のジョーイです!」
言ってから、一瞬止まる。
「……ワシの肩書、さらに増えた気がする」
スタッフが名刺を見た。
「追加印刷しますか?」
「五千枚あるのに増やすな!!」
倉庫では、黒い箱が少しずつ運び出されていた。
百八十九袋。
百八十六袋。
百八十三袋。
棚の隙間が、ゆっくりと広がっていく。
数量限定。
追加製造未定。
味は良好。
製法は強烈。
だからこそ、興味を持った者が一杯ずつ確かめる。
飲んだ者が、次の者へ味を伝える。
漫画に描かれた一杯は、広告ではなかった。
だが、読者がその一杯を見つけた。
そして、店へ足を運んだ。
露伴は取材した内容を漫画に生かした。
マスターは丁寧にコーヒーを淹れた。
客は味を評価した。
ジョーイ係長は、その評価を次の取引へつないだ。
量販店用のパッケージは作られなかった。
商品名より大きな文字で、
『象の糞から回収』
と印刷されることもなかった。
ゾディア会長の案は、売れる前に潰されたのではない。
商品が別の売れ方を見つけたため、使う必要がなくなっただけである。
それは、ジョーイ係長にとって最も平和な廃案だった。
「係長」
食品開発スタッフが、新しい発注書を持ってきた。
「今度は何や?」
「最初の純喫茶から、追加で二袋です」
ジョーイ係長は、その発注書を受け取った。
昨日と同じ店。
二度目の注文。
「リピートや」
「はい」
「珍しいから一回飲んで終わりやない」
「味で、もう一度選ばれました」
ジョーイ係長は発注書を丁寧に机へ置いた。
「これが一番うれしいな」
電話が、また鳴った。
ジョーイ係長は受話器を取る。
「はい、ヘキサクスのジョーイです!」
少し考え、言い直した。
「象のコーヒー、まだあります。ただし数量限定です!」
売れない在庫は、少しずつ商品へ戻っていた。
ジョーイ係長の嬉しい悲鳴は、しばらく続きそうだった。