守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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カガリはアスランの説明を最後まで聞きたくない

 夕暮れのホテルロビー。

 

 大理石の床へ、天井の照明が柔らかく反射している。

 

 仕事を終えたばかりのカガリは、入口付近で腕を組み、目の前に立つアスランを疑わしそうに見ていた。

 

「それで?」

 

「何がだ」

 

「何が、じゃない。急に呼び出して、ホテルへ来てくれって。説明が足りないぞ」

 

「メッセージには夕食と書いたはずだ」

 

「だから、その夕食が何なんだ」

 

「夕食は夕食だ」

 

「お前、たまに会話の入口で迷子になるよな」

 

 アスランは少し考えた。

 

「以前、安全性の確認に関わった料理が正式に採用された。評判もいいらしい」

 

「それで?」

 

「君にも食べてもらおうと思った」

 

「……私に?」

 

「ああ」

 

 カガリは、ホテルの高級そうな内装を見回した。

 

 正面にはレストランの入口。

 

 磨かれた金属製の看板に、今夜の限定コースが掲示されている。

 

ヘキサクス特殊食品正常化記念ディナー

安全性を確認し、本来の美味しさを引き出した特別コース

 

 カガリは看板を二度読んだ。

 

「アスラン」

 

「何だ」

 

「今、“安全性の確認に関わった”と言ったな」

 

「ああ」

 

「普通のレストランで夕食を食べるのに、安全性の確認へ関わる必要はあるのか?」

 

「通常はない」

 

「帰るぞ」

 

「待て。現在提供されている料理は、すべて安全だ」

 

「“現在”という言葉が怖いんだ!」

 

 カガリが踵を返そうとすると、アスランはその前へ回り込んだ。

 

「料理の品質は高い。ホテルでの提供実績もある」

 

「それを最初に言え!」

 

「最初に安全だと言った」

 

「安全性を確認した料理と言われた時点で、不安が発生するんだよ!」

 

 アスランは困ったように眉を寄せた。

 

「では、どう説明すればいい」

 

「普通に、“美味しい店を見つけたから一緒に食べよう”でいいだろ!」

 

「情報が不足している」

 

「デートの誘いに品質管理報告書はいらない!」

 

 言ってから、カガリは止まった。

 

 アスランも止まった。

 

 二人の間に、短い沈黙が生まれる。

 

「……デートなのか?」

 

 カガリが尋ねた。

 

「俺は、君と夕食を食べるつもりで誘った」

 

「だから、それを一般的に何と言うんだ!」

 

「会食?」

 

「もういい!」

 

 カガリは顔を赤くしながら、レストランの入口へ向かった。

 

 アスランも後を追う。

 

「帰らないのか?」

 

「せっかく来たんだ。食べていく!」

 

「そうか」

 

「嬉しそうな顔をするな!」

 

「していない」

 

「してる!」

 

     ◇

 

 ホテルレストラン。

 

 二人は、夜景の見える窓際の席へ案内された。

 白いテーブルクロス。

 落ち着いた照明。

 小さな花が飾られたテーブル。

 

 カガリは椅子へ座りながら、周囲を見回した。

 

「ずいぶん雰囲気のいい店だな」

 

「ああ」

 

「こういう店、知ってたんだな」

 

「以前、コーンスープの試験提供に立ち会った」

 

「やっぱり仕事絡みじゃないか!」

 

「店を知った経緯が仕事だっただけだ」

 

「今日まで仕事みたいな説明をするなよ」

 

 給仕がメニューを二人へ渡した。

 

「本日は、特殊食品正常化記念コースをご予約いただいております」

 

 カガリがアスランを見る。

 

「予約までしたのか」

 

「ああ」

 

「いつ?」

 

「三日前だ」

 

「三日前から私を誘うつもりだったのか?」

 

「ああ」

 

「何で三日前に言わない!」

 

「今日の予定が確定するまで待った」

 

「そういうところだけ妙に慎重なんだよ!」

 

 給仕が微笑みをこらえながら、一礼した。

 

「当コースは、すべて通常の食事として安全にお召し上がりいただけます」

 

 カガリは給仕を見た。

 

「わざわざそれを言わなきゃいけないコースなんですか?」

 

「ご不安になるお客様もいらっしゃいますので」

 

「ほら見ろ!」

 

「ただし、安全性についてはログナー司令による検査と、ホテル厨房での管理工程を経ております」

 

「安心材料の肩書が重すぎる!」

 

 アスランが言った。

 

「ログナー司令の判定なら信頼できる」

 

「私は料理を食べに来たんだ。軍事作戦の許可を取りに来たんじゃない!」

 

「彼の判定では、条件付き通行可だ」

 

「料理を道路みたいに言うな!」

 

     ◇

 

 最初の料理が運ばれてきた。

 季節の野菜と魚介を使った前菜。

 彩りもよく、香りも穏やかだ。

 

 給仕が説明する。

 

「こちらの前菜は、一般的な食材のみを使用しております」

 

 カガリが、少しだけ安心した顔をした。

 

「最初は普通なんだな」

 

「ああ」

 

「何か隠してないだろうな」

 

「普通の魚介と野菜だ」

 

「普通を三回くらい確認したくなるコースだ……」

 

 カガリは前菜を一口食べた。

 

 爽やかな酸味。

 

 魚介の旨味。

 

 野菜の歯応え。

 

「……美味しい」

 

「そうだろう」

 

「何でお前が得意そうなんだ」

 

「この店を選んだからだ」

 

「まあ、これは正解だな」

 

 カガリがもう一口食べる。

 

 アスランも静かに食事を始めた。

 

 前菜については、何の異常も起こらなかった。

 

 料理の説明も短かった。

 

 二人の会話も、少しずつ穏やかになった。

 

「最近、忙しかったのか?」

 

 アスランが尋ねる。

 

「いつも通りだ。会議と書類と、また会議」

 

「睡眠は取れているか」

 

「取ってる」

 

「食事は」

 

「食べてる」

 

「時間は不規則じゃないのか」

 

「今はお前と食べてるだろ」

 

「それならいい」

 

 カガリはフォークを置いた。

 

「もしかして、忙しいと思って誘ったのか?」

 

「それもある」

 

「それも?」

 

「料理を食べてもらいたかったのも本当だ」

 

「……そうか」

 

 少しだけ、カガリの表情が柔らかくなった。

 

 そこへ二品目が運ばれてきた。

 

     ◇

 

 白いスープカップ。

 

 濃厚な黄色いコーンポタージュ。

 

 表面には小さなクルトンと、刻んだパセリ。

 

 スプーンを入れれば、コーンの粒がいくつも見える。

 

 カガリが香りを確かめた。

 

「これは普通のコーンスープに見えるな」

 

「現在は、普通のコーンスープだ」

 

「また“現在”って言った!」

 

「以前は違った」

 

「聞きたくない!」

 

 アスランは、説明を始めようとした姿勢のまま止まった。

 

「説明しない方がいいのか?」

 

「まず結論だけ言え」

 

「安全だ。美味しい」

 

「よし。そこまででいい」

 

 カガリはスプーンを取った。

 

 一口飲む。

 

 濃厚な甘味。

 滑らかな舌触り。

 クルトンの香ばしさ。

 

「本当に美味しいな」

 

「ああ」

 

「コーンの粒もたくさん入ってる」

 

「以前は、その粒が缶から一粒も」

 

「言うな!」

 

「しかし、経緯を知れば」

 

「美味しいままで終わらせろ!」

 

 アスランは黙った。

 

 カガリがスープを飲み続ける。

 

 粒をすくい、口へ運ぶ。

 

「……で」

 

「何だ?」

 

「以前は何だったんだ」

 

「聞きたいのか?」

 

「少しだけだ。短く言え」

 

「缶の飲み口の内側に微細な返しがあり、スープは出るがコーンの粒だけが引っかかる構造だった」

 

 カガリの手が止まった。

 

「何のために?」

 

「食べる人間へ、粒が出そうで出ないストレスを与えるためだ」

 

「誰がそんな缶を作った!?」

 

「ヘキサクス社の容器開発部だ」

 

「暇なのか、その部署は!」

 

「ジョーイ係長も同じことを言っていた」

 

 カガリはスープカップを見た。

 

 次に、スプーンですくったコーンの粒を見る。

 

「じゃあ、これはどうやって出したんだ?」

 

「缶の天面を全面開封して、鍋へ移した」

 

「力技じゃないか!」

 

「最も確実な方法だ」

 

「改善というより、缶の思想を無視しただけだろ!」

 

「悪意のある構造を利用する必要はない」

 

「それは正しいけどな!」

 

 カガリはもう一口飲んだ。

 

「……でも、美味しい」

 

「だから連れてきた」

 

「その言い方を、最初にできないのか?」

 

「最初に言ったはずだ」

 

「安全性の確認に関わった料理、と一緒に言っただろ!」

 

 アスランは少し考えた。

 

「次からは、先に味を伝える」

 

「そうしろ」

 

「ただし、アレルギーや健康上の注意は」

 

「それは必要だ! 今の話と一緒にするな!」

 

     ◇

 

 ホテルの厨房。

 

 料理長とジョーイ係長は、客席の様子を少し離れた場所から確認していた。

 

「カガリ様は、スープを完食されました」

 

 料理長が言った。

 

「よかったですわ」

 

 ジョーイ係長は安心した。

 

「アスラン君の説明で帰られるかと思いました」

 

「料理への評価は良好です」

 

「説明への評価は?」

 

「かなり厳しいですね」

 

「真面目すぎるんや、アスラン君は」

 

 食品開発スタッフが記録用紙を見る。

 

「安全性を詳細に説明する姿勢は、販売担当として理想的では?」

 

「デート中に缶の返し構造まで説明する必要あるか?」

 

「虚偽や隠蔽はありません」

 

「雰囲気もない!」

 

 料理長が次の皿を確認した。

 

「メインを出します」

 

 ジョーイ係長は、牛ほほ肉の煮込みを見た。

 

「今度の説明は、もっと強いで」

 

「赤い汗の話ですね」

 

「先に“美味しい”言うてくれたらええんですけど……」

 

 客席では、アスランが既に検査記録を思い出していた。

 

「無理そうですね」

 

     ◇

 

 メイン料理。

 

 数百年熟成ヴィンテージワインの牛ほほ肉煮込み。

 

 深い赤色のソース。

 

 柔らかく煮込まれた肉。

 

 付け合わせのマッシュポテトと温野菜。

 

 香りが立ち上る。

 

 カガリの目が輝いた。

 

「すごくいい匂いだな」

 

「この料理に使われているワインは」

 

「待て」

 

 カガリが手を上げる。

 

「まず結論」

 

「安全だ」

 

「味は?」

 

「俺は美味しいと思う」

 

「よし」

 

 カガリがナイフを入れる。

 

 肉は、ほとんど抵抗なく崩れた。

 

 一口食べる。

 

「……美味しい!」

 

「そうだろう」

 

「肉が柔らかい。ソースも濃厚だけど、酸っぱすぎない」

 

「数百年熟成されたワインの香味が」

 

「うん。それは聞いても大丈夫だ」

 

「常温で飲むと、二十四時間から四十八時間ほど全身から赤い汗が出る」

 

 カガリのナイフとフォークが止まった。

 

「何で今それを言う!?」

 

「数百年熟成ワインの説明だ」

 

「料理の説明から急に症例へ移るな!」

 

「ただし、この料理では九十五度以上で三十分加熱し、原因物質を分解している」

 

「説明の順番を逆にしろ!!」

 

「最初に安全だと言った」

 

「安全の意味を途中で揺さぶるな!」

 

 カガリは、皿とアスランを交互に見る。

 

「本当に赤い汗は出ないんだな?」

 

「出ない。ログナー司令が加熱後の試料を分析している」

 

「服も汚れない?」

 

「食べこぼさなければ」

 

「そこは普通の料理と同じか」

 

「ああ」

 

 カガリは恐る恐る、二口目を食べた。

 

 そして、すぐに普通の速度へ戻った。

 

「悔しいけど、すごく美味しいな」

 

「悔しがる必要はない」

 

「説明を聞いた後でも食べたいと思うのが悔しいんだ」

 

「料理長と食品開発スタッフの技術だ」

 

「元のワインを作った人も、腕はよかったんだろうな」

 

「ああ。問題は、完成後に赤い発汗を起こす成分を追加したことだ」

 

「なぜ完成品を駄目にする!?」

 

「会長の意向だ」

 

「その会長を食品部門から外せ!」

 

「ジョーイ係長も近いことを考えていると思う」

 

 カガリは肉を食べながら、少し笑った。

 

「ジョーイ係長って、ずいぶん苦労してるんだな」

 

「販売できない在庫を、正常な商品へ戻す責任者だ」

 

「役職は?」

 

「係長」

 

「権限と責任が合ってないだろ!」

 

「本人もそう主張している」

 

「給料は?」

 

「据え置きらしい」

 

「待遇から正常化してやれ!」

 

 アスランも、わずかに笑った。

 

「本人と同じことを言うんだな」

 

「誰でも言う!」

 

     ◇

 

 食事が半分ほど進んだ頃。

 

 カガリは、肉を小さく切りながら尋ねた。

 

「アスラン」

 

「何だ」

 

「お前は、この料理を最初に食べた時、怖くなかったのか?」

 

「検査結果を確認していたからな」

 

「そうじゃなくて。ヘキサクスの商品だぞ」

 

「警戒はした」

 

「それでも食べたんだな」

 

「ああ」

 

「何で?」

 

 アスランは少し考えた。

 

「安全化に関わった人たちが、本当に美味しいものとして提供したいと思っていたからだ」

 

 カガリの手が止まる。

 

「食品開発スタッフは、味そのものには誇りを持っていた。ジョーイ係長も、問題点を隠さず、使い方を探していた。ホテルの料理長も、条件を守って料理にした」

 

「だから信じたのか」

 

「検査結果だけではなく、彼らの姿勢も含めてな」

 

「……そういう説明なら、最初から聞いてもよかった」

 

「そうか」

 

「赤い汗の話を先に出すから駄目なんだ!」

 

「必要な情報だ」

 

「必要でも、順番がある!」

 

 アスランは真面目に頷いた。

 

「覚えておく」

 

「本当だな?」

 

「ああ」

 

 カガリは残ったソースをパンにつけた。

 

「このシチュー、また食べたいな」

 

「在庫のワインが少ない。季節限定らしい」

 

「量産できないのか?」

 

「同じものを作るなら、数百年かかる」

 

「完成する頃には、誰も今の味を覚えてないな」

 

「記録は残せる」

 

「そういう問題じゃない」

 

 二人は、最後まで皿を空にした。

 

     ◇

 

 デザートは、チョコレートムースと果実のソースだった。

 

 給仕が説明する。

 

「こちらには、特殊な食材を使用しておりません」

 

 カガリは心から安心した。

 

「普通のデザートって、素晴らしいな」

 

「味もいい」

 

「お前も普通に感想を言えるんじゃないか」

 

「俺はいつも普通に説明している」

 

「自覚がないのが一番困る!」

 

 チョコレートの苦味と、果実の酸味。

 

 食事の最後にちょうどよい甘さだった。

 

 カガリは満足そうにスプーンを置いた。

 

「全部美味しかった」

 

「来てよかったか?」

 

「ああ」

 

「そうか」

 

 アスランの声が、少しだけ柔らかくなる。

 

 カガリは、その表情を見て視線を逸らした。

 

「珍しいものを知ってるな、アスラン」

 

「君に食べてほしかった」

 

 カガリの顔が固まった。

 

「……何?」

 

「この料理を、君に食べてほしかった」

 

「そういうことは」

 

「何だ?」

 

「最初に言え!」

 

「言ったはずだ」

 

「もっとそういう感じで言え!」

 

「どういう感じだ?」

 

「知らない! 自分で考えろ!」

 

 給仕が、食後のコーヒーを運んできた。

 

 二人の前へカップを置く。

 

「こちらは、希少な象由来のコーヒーでございます」

 

 カガリが動きを止めた。

 

「象由来?」

 

 アスランが説明しようとする。

 

「まず結論から言う。安全だ」

 

 カガリが指を立てる。

 

「よし。次に味」

 

「柔らかな苦味と、果実に近い香りがある」

 

「よし。それ以上は必要ない」

 

「製法について説明しなくていいのか?」

 

「必要ない」

 

「透明性の観点では」

 

「私は今、楽しく食事を終えたいんだ!」

 

 アスランは黙った。

 

 カガリはコーヒーを一口飲んだ。

 

「……美味しい」

 

「ああ」

 

「本当に香りが柔らかいな」

 

「ああ」

 

「象の何を使ってるんだ?」

 

 アスランは答えなかった。

 

 カガリがカップを持ったまま、アスランを見る。

 

「何で黙る」

 

「説明を止められた」

 

「今は聞いてる」

 

「最後まで聞くか?」

 

「短く言え」

 

「象の消化過程を経た豆を、排泄物から回収している」

 

 カガリは、ゆっくりカップを受け皿へ戻した。

 

「……飲む前に言え」

 

「先ほど説明を止めただろう」

 

「そこは止められても言え!!」

 

「どちらなんだ」

 

「内容による!」

 

「事前に内容がわからなければ、判断できないだろう」

 

「だから最初に結論を」

 

「安全だと最初に伝えた」

 

「安全なら何でも飲めると思うな!」

 

 アスランは少し困った顔をした。

 

「しかし、美味しかっただろう」

 

「美味しかった!」

 

「なら」

 

「美味しいから困ってるんだ!」

 

 カガリはもう一度カップを見た。

 

 数秒迷う。

 

 そして、もう一口飲んだ。

 

 アスランが尋ねる。

 

「飲むのか?」

 

「残すのはもったいない」

 

「そうか」

 

「嬉しそうにするな!」

 

「していない」

 

「してる!」

 

     ◇

 

 厨房。

 

 ジョーイ係長は、二人がコーヒーを飲み切ったという報告を受けた。

 

「完食です」

 

 食品開発スタッフが言う。

 

「料理への評価は?」

 

「すべて高評価です」

 

「アスラン君の説明は?」

 

「説明順序に改善要望があります」

 

「やっぱりな!」

 

 料理長はアンケート用紙を確認した。

 

料理はすべて美味しかった。

特に牛ほほ肉の煮込みは、また食べたい。

コーンスープも、粒まで美味しかった。

コーヒーも味は良かった。

ただし、同行者には説明の順番を指導してほしい。

 

カガリ

 

 もう一枚。

 

安全性、調理工程、品質ともに問題なし。

同行者も完食した。

料理への満足度は高いと判断する。

 

アスラン・ザラ

 

 ジョーイ係長は二枚を並べた。

 

「片方は感想。片方は監査報告や」

 

「アスラン様らしい文章です」

 

「デートのアンケートで“問題なし”って書く男、初めて見たわ!」

 

 料理長が静かに言った。

 

「ですが、お二人とも楽しそうでした」

 

「そう見えました?」

 

「声は大きかったですが」

 

「最近、この店のお客さん、声大きい人多ないですか?」

 

「前回のヒューア子爵様ほどではありません」

 

「基準にしたらアカン人や!」

 

     ◇

 

 食事を終えた二人は、ホテルのロビーへ戻った。

 

 外には夜の街が広がっている。

 

 カガリは満足そうに息をついた。

 

「ごちそうさま」

 

「ああ」

 

「今日は、ありがとう」

 

 アスランが少し驚いたようにカガリを見る。

 

「どうした?」

 

「礼くらい言う!」

 

「いや。料理の説明に怒っていたから」

 

「説明には怒った。料理には満足した。それと、誘ってくれたことには感謝してる」

 

「そうか」

 

 カガリは少し歩いてから振り返った。

 

「また来てもいいな」

 

「次は、普通の店にする」

 

「違う」

 

「何がだ」

 

「ここの料理が美味しかったから、また来たいんだ」

 

「では、予約しておく」

 

「ただし」

 

「わかっている」

 

 アスランは真剣な顔で言った。

 

「次は、安全性を最初に伝え、味を説明し、その後で問題だった点を簡潔に」

 

「問題だった点は、私が聞くまで言わなくていい!」

 

「しかし、情報の透明性が」

 

「次は普通に食べさせろ!」

 

「わかった」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

 カガリは少し疑わしそうに見つめた。

 

「じゃあ試しに、今日のコーンスープを説明してみろ」

 

 アスランは考える。

 

「美味しいコーンスープだ」

 

「それだけ?」

 

「粒も入っている」

 

「よし」

 

「以前は缶の」

 

「そこから先はいらない!」

 

「わかった」

 

 カガリは満足そうに頷いた。

 

 二人は並んでホテルを出た。

 

 アスランが夜道を歩きながら尋ねる。

 

「次はいつがいい?」

 

「もう次の話か?」

 

「また来たいと言っただろう」

 

「予定を確認してからだ」

 

「では、確認できたら連絡してくれ」

 

「お前から誘え!」

 

「予定がわからない」

 

「それでも誘うんだ!」

 

「断られる可能性がある」

 

「それを怖がってどうする!」

 

「わかった。誘う」

 

「そうしろ」

 

 少しだけ間を置いて、カガリが続けた。

 

「でも次は、三日前に言えよ」

 

「ああ」

 

 ホテルレストランの限定コースは、その夜も好評だった。

 

 コーンの粒は、すべて客へ届いた。

 

 ヴィンテージワインの悪意は、鍋の中で消えた。

 

 象のコーヒーは、製法を聞いたカガリにも最後まで飲まれた。

 

 そしてアスランの説明は、最後まで聞いてもらえなかった。

 

 ただし、二度目の予約だけは、ほぼ決まっていた。

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