守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 作:ギアっちょ
夜。
駅前の回転寿司チェーン店。
明るい照明。
絶えず流れる寿司。
時おり響く注文音声。
その、ごく平和で庶民的な空間に――
どう考えても異物な四人がいた。
キラ・ヤマト。
空条承太郎。
ダグラス・カイエン。
脳噛ネウロ。
案の定、席について一分で、
キラはすでに軽く後悔していた。
「……どうして、こうなったんだろう」
承太郎は湯呑みに湯を注ぎながら言う。
「飯を食いに来ただけだろうが」
「そうだけど、普通“この四人で回転寿司”にはならないよ!」
カイエンはメニュー端末を見ながら、気だるげに肩をすくめた。
「ぼかぁ厄介事は苦手なんだが……
店選びの時点で既に嫌な予感はしてたよ。
回るんだろ? 寿司が」
「はい……回転寿司ですから」
「落ち着きがない」
カイエン。
その横で、ネウロはベルトコンベアのように流れる皿を、じっと見つめていた。
目が、妙に真剣だ。
キラが嫌な予感を覚える。
「ネウロ……?」
「ふむ」
ネウロは低く笑った。
「面白い」
「何が」
「人間どもは“選ぶ”ことを好むくせに、
こうして向こうから運ばれてくると、妙に判断が雑になる。
しかも皿の色で価値を決める。
浅ましくも機能的だ。実に良い」
「寿司を哲学で食べないでよ……」
承太郎がメニュー端末を操作する。
「まぐろ、いか、えんがわ」
キラが目を丸くする。
「ちゃんと食べるんだ……」
「当たり前だ」
承太郎。
「飯屋に来て飯を食わねぇ理由がねぇ」
「いや、そうなんだけど、なんかもっとこう……
無言でお茶だけ飲んでるイメージが」
「失礼だな」
カイエンが言う。
「だが少し分かる」
キラは自分用にサーモン、えび、たまごを注文した。
無難で平和な布陣である。
こういう場では、まず無難が大事だ。
一方カイエンは、端末を見ながらぼやく。
「ほう……炙り、軍艦、天ぷらまであるのか。
なんでもありだな」
「回転寿司ですからね……」
「寿司にカルビを乗せる必要があるのかは議論の余地がある」
カイエン。
「そのへんは“楽しんだ者勝ち”でいいんじゃないかな」
キラが言った。
ネウロが、そこで初めて端末に触れた。
ぴっ。
ぴっ、ぴっ、ぴっ、ぴっ、ぴっ。
キラが凍る。
「ちょっと待って、何皿頼んだの?!」
「確認しているだけだ」
ネウロは平然としている。
「この店で最も効率よく“未知”に到達するには、どの組み合わせが最適かをな」
「寿司屋で未知に到達しなくていいよ!」
承太郎がちらりと画面を見る。
「……おい」
キラも見る。
炙りえんがわ
いかオクラ
あん肝軍艦
まぐろユッケ
えびアボカド
大学いも
コーンマヨ
プリン
「最後の二つ絶対いらないよね?!」
「必要だ」
ネウロ。
「比較対象がなければ、異質は際立たぬ」
「理屈が嫌すぎる……!」
そのとき、注文品第一陣が到着した。
上のレーンから、すっと皿が滑ってくる。
キラがほっとして、自分のサーモンに手を伸ばす。
が、その瞬間。
ネウロが、まだ皿のフタも開いていないプリンを見て、うっすら笑った。
「ククク……
くだらんな。甘味を寿司と同列に流すとは」
「いや回転寿司あるあるだよ!」
キラが止める。
「そこにツッコむのは分かるけど、変なことしないでね?」
ネウロがにたりとした。
「変なこと、とは?」
嫌な笑みだ。
ものすごく嫌な笑みだ。
承太郎が低く言う。
「その顔はロクでもねぇこと考えてる顔だな」
「心外だな。不良」
ネウロはプリンの皿を指先でくるりと回した。
「吾輩はただ、人間の作る秩序がいかに脆いかを――」
そのときだった。
ネウロの指先が、ほんのわずかに怪しく動く。
何かを出そうとした。
たぶん魔界777ツ能力(どうぐ)だ。
だが、その瞬間。
バシッ。
見えないほどの速さで、
ネウロの手元のスプーンが弾かれ、テーブルに突き刺さった。
一瞬遅れて、キラが悲鳴を飲み込む。
「えっ!?」
承太郎は何事もなかったようにお茶を飲む。
「やれやれだぜ」
ネウロが目を細める。
「……今のは貴様か」
「テメーが余計なことしようとしたからだ」
承太郎。
「店で騒ぎを起こすな」
キラが慌てて二人を見る。
「ちょっ、ちょっと待って!
今の、何したの!?」
カイエンがワサビを箸先でいじりながら、面倒くさそうに言う。
「たぶん“早いほう”が勝った」
「雑な実況やめてください!」
ネウロは刺さったスプーンを見て、
愉快そうに口元を吊り上げた。
「クク……素晴らしいな。
反応速度だけなら確かに貴様が上か」
承太郎は淡々としている。
「反応だけじゃねぇ。
テメーが何か出す前に止めりゃいい」
「だが吾輩は、次から正面ではやらんぞ?」
「だろうな」
承太郎。
「怖いよ会話が!!」
キラ。
カイエンは、やれやれとため息をついた。
「ぼくは厄介事は苦手なんだが……
どうして飯の席で能力バトル未遂が起きるんだ」
「みんなが普通に食べれば起きないんですよ!」
キラは半泣きで言う。
「本当にお願いだから今日は平和に――」
そのとき、
隣のレーンを流れていた皿が、なぜか一枚だけ止まった。
キラが気づく。
「……あれ?」
止まっているのは、まぐろの皿。
だがよく見ると、皿の端に小さな紙が挟まっている。
承太郎の目が鋭くなる。
カイエンも姿勢を変えた。
ネウロは、もう楽しそうで仕方ない顔だ。
キラがそっと皿を取る。
紙を見る。
そこには小さく書かれていた。
“この店の中に、ひとりだけ嘘をついている者がいる”
沈黙。
キラが顔を上げる。
「……何これ」
ネウロが笑う。
「ククク……
寿司だけでは足りぬと見える」
承太郎が紙を指でつまむ。
「悪趣味な悪戯か、本物の挑発か」
カイエンが店内を見回した。
家族連れ。
学生グループ。
仕事帰りらしい会社員。
一見、どこにも異常はない。
「面倒だな」
カイエン。
「だが、こういうのは放置するともっと面倒になる」
キラは小さく息を吸う。
「誰かが危ない目に遭うかもしれない」
「かもしれん」
承太郎。
「なら、確認する」
キラ。
ネウロは舌なめずりするように笑う。
「よかろう。
回る寿司、流れる人間、紛れた嘘。
ずいぶんと上等な食前酒ではないか」
「ぼくのは本物の酒がよかった」
カイエンがぼやく。
「回転寿司で飲む気だったんですか……」
キラ。
「店による」
カイエン。
承太郎が立ち上がる。
「いいぜ。やることは単純だ。
嘘つきを見つける」
ネウロも立つ。
「違うな。不良。
見つけるのではない。
追い詰めて、自ら吐かせるのだ」
キラが立つ。
半分覚悟、半分胃痛だ。
「……お願いだから、お店の人に迷惑かけない範囲でね」
「保証はできん」
ネウロ。
「できないの!?」
キラ。
カイエンが肩を回しながら立ち上がった。
「まあ安心しろ。最悪、被害が広がる前には止める」
「それたぶん安心材料じゃないよ!」
承太郎は帽子を少し下げる。
「やれやれ……
寿司ぐらい静かに食わせろってんだ」
そして四人は、
まぐろもサーモンもプリンも流れる店内で、
またしても妙な事件に首を突っ込むことになった。