守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

302 / 304
ジョーイ係長はリンスインシャンプーを売りたい

株式会社ヘキサクス、特殊食品正常化室。

机の上には、白く艶やかなボトルが一本置かれていた。

 

HEXA CONDITIONER

 

至高のコンディショナー

 

その隣の画面には、つい先ほど在庫ゼロになった商品が表示されている。

 

至高のシャンプー

 

在庫数、ゼロ。

処理済み、六十。

残数、ゼロ。

 

ジョーイ係長は、二つを交互に見た。

 

「シャンプーを全部処分した直後に、コンディショナーだけ届く……」

 

「はい」

 

イエッタが穏やかに答えた。

 

「使うと髪が三日間、触れた物から離れなくなる……」

 

「申請書には、そのように記載されています」

 

「ほんで、送り主はゾディア会長……」

 

「はい」

 

ジョーイ係長は両手で顔を覆った。

 

「なんであの人、毎回ちゃんと基本性能だけは優秀なんや……!」

 

至高のコンディショナーは、香り、保湿力、毛髪保護能力のいずれも極めて高かった。

髪の表面へ均一に作用し、傷んだ部分を滑らかに整える。

枝毛を抑え、指通りを改善し、自然な艶を与える。

ただし、保護成分が強すぎる。

 

使った髪は、タオル、枕、衣服、指、櫛など、接触した物体へまとわりつく。

三日ほど。

 

「三日も頭を枕から剥がせへん商品、誰が使うねん!」

 

「正確には、頭皮ではなく毛髪が付着します」

 

「朝起きたら枕ごと出勤せなあかん時点で、どっちでも一緒や!」

 

イエッタは、白いボトルから採取したサンプルを分析装置へ入れた。

 

画面上で、複雑な分子構造が組み上がっていく。

 

ジョーイ係長は椅子へ座り、処分費用の見積書を開いた。

 

「これも売られへん。Xiさんに送るわけにもいかん。処分にも金がかかる……」

 

「ジョーイ係長」

 

「はい」

 

「至高のシャンプーの分析データを照合します」

 

「もう在庫ないですよ」

 

「データは残っています」

 

画面に、二つの構造式が並んだ。

 

片方は、必要な皮脂や水分まで洗い落とすほど強力な洗浄成分。

もう片方は、髪を周囲の物体へ貼り付けるほど強力な保護成分。

 

イエッタは、両者の反応を演算した。

 

「至高のシャンプーに使用されていた特殊洗浄成分は、コンディショナーの過剰付着成分と結合する可能性があります」

 

ジョーイ係長が顔を上げた。

 

「つまり?」

 

「適切な条件で反応させれば、双方の特殊作用が低下します」

 

「二つ混ぜたら、普通になるんですか!?」

 

「単純に混合した場合は、白い固形物になります」

 

「危険物二つから石鹸みたいなん作るな!」

 

「石鹸ではありません。洗浄力も保湿力も失われた凝集物です」

 

「もっとあかんやつや!」

 

イエッタは反応条件を変えた。

 

濃度。

温度。

水分量。

混合する順番。

中和剤。

そして、通常のシャンプー基材。

 

数百万通りの組み合わせが、画面上で瞬く間に検証されていく。

 

「単純な一対一の混合では使用できません。しかし、双方の特殊成分を分離し、反応量を調整した上で、安全な基礎処方へ加えれば、一体型の洗髪料として再構成できます」

 

「リンスインシャンプーにできるんか!」

 

「結果としては、その形態に近くなります」

 

「売れる!」

 

ジョーイ係長は立ち上がった。

 

「シャンプーとコンディショナー、二つとも売られへんかった。それが一緒になったら売れる!」

 

「なお、一般的なリンスインシャンプーは、危険なシャンプーと危険なコンディショナーを混ぜて作るものではありません」

 

「それは説明書の一番上に書いといてください!」

 

 

問題は一つあった。

 

至高のシャンプーは、すでにヘキサクス社から処分されていた。

正確には、工業用脱脂洗浄剤としてA.K.D.へ全量移管されている。

 

ジョーイ係長は、通信画面に映るログナーへ頭を下げた。

 

「司令。お願いがあります」

 

「シャンプーを返せという話か」

 

「なんで分かったんですか!?」

 

ログナーの隣で、イエッタが答えた。

 

「私から、事前に分析結果を報告しました」

 

「仕事が早い!」

 

イエッタは正常化室にいる。

 

通信画面のログナーはA.K.D.にいる。

 

だが、ジョーイ係長が返却申請書を作り始めるより先に、報告は終わっていた。

頼もしい。

そして、少しだけ怖い。

 

「全量やありません。試験用に二百ミリリットルだけお願いします」

 

「現在はA.K.D.の管理物資だ」

 

「分かってます。正式に共同開発用の試料として貸与してください」

 

ログナーは、送られてきた資料を読む。

 

「人体へ使用するのか」

 

「最終的には、その予定です」

 

「危険性評価は」

 

「イエッタさんが演算中です。開発部でも人工毛髪と皮膚代替素材を使って試験します」

 

「実使用試験の前に、全成分を提出しろ」

 

「もちろんです」

 

「異常作用が残っていれば、通行止めだ」

 

「そこは遠慮なく止めてください!」

 

ログナーは短く頷いた。

 

「試料の貸与を認める」

 

「ありがとうございます!」

 

「ただし、工業用容器から直接取り出した原液だ。取り扱いには注意しろ」

 

「もちろんです」

 

「毛髪へ付着させるな」

 

「シャンプーやのに、その注意書きが付くの、やっぱりおかしいですわ……」

 

 

数日後。

A.K.D.から、厳重に封印された小型容器が届いた。

 

中身は、至高のシャンプー二百ミリリットル。

容器には、大きな赤い文字で、

 

人体・毛髪への使用厳禁

 

と書かれている。

 

さらに、

これはシャンプーではありません

 

とも書かれていた。

 

その隣には、至高のコンディショナー。

 

こちらには、

 

人体へ使用する場合、髪が物体へ付着します

 

と書かれている。

 

開発担当者は、二つの容器を見比べた。

 

「これを使って、人体用の商品を作るのですか」

 

ジョーイ係長は頷いた。

 

「ワシも今、自分で言うてて怖なってきた」

 

開発室では、イエッタが算出した条件に従って試験が始まった。

 

二つを直接混ぜない。

 

シャンプーから特殊洗浄成分を分離する。

 

コンディショナーから過剰付着成分を分離する。

 

両者を安全な環境で反応させ、不活性化する。

 

残った有効成分を、開発部が以前から研究していた安全な基礎処方へ加える。

 

作業には、細心の注意が必要だった。

 

少しでも配合を誤れば、髪が藁になる。

逆に偏れば、髪がタオルと一体化する。

 

最初の試作品が完成した。

 

透明に近い、僅かに乳白色の液体。

 

開発担当者が人工毛髪へ使用する。

 

泡立ちは良い。

汚れは落ちた。

 

すすいだ後の毛髪にも、適度な潤いが残っている。

 

「異常な洗浄作用は確認されません」

 

「過剰な付着作用もありません」

 

人工毛髪は、タオルから普通に離れた。

 

ジョーイ係長は拳を握った。

 

「いける!」

 

イエッタが人工毛髪を引っ張った。

 

指の間から、あまりにも滑らかに抜け落ちる。

 

「ただし、表面摩擦が通常より三十八パーセント低下しています」

 

「それ、どうなるんです?」

 

開発担当者が、人工毛髪を髪留めでまとめた。

髪留めが滑り落ちた。

 

もう一度まとめる。

また滑り落ちた。

ゴムで結ぶ。

数秒後、ゴムだけが床へ落ちた。

 

ジョーイ係長は腕を組んだ。

 

「……髪が滑らかすぎる?」

 

「はい」

 

「無害ではあります」

 

「せやけど、髪を結ばれへんのは困るな」

 

イエッタが答える。

 

「長髪の人物による実使用試験が必要です」

 

正常化室の全員が、同じ人物を思い浮かべた。

 

長い黒髪。

剣士。

イケメン。

そして、以前このシャンプーを送りつけられた男。

 

ジョーイ係長は、静かに通信端末へ手を伸ばした。

 

 

「嫌だヨ」

 

カイエンは即答した。

 

「まだ何も説明してませんけど!」

 

「シャンプーの話だろ?」

 

「なんで分かったんですか!」

 

「この前、処分に立ち会わされたばっかりだからだヨ!」

 

通信画面のカイエンは、長い黒髪を片手で払った。

 

隣にはアウクソーが立っている。

 

「今度のは安全です!」

 

「前のやつも、味じゃなくて香りは良かったんだろ」

 

「食品と混ざってます!」

 

「シックスの作ったもんなんて、全部似たようなもんだヨ」

 

アウクソーが、ジョーイ係長から送られた資料を確認する。

 

「マスター。現時点では、人体への有害性は確認されていません」

 

「現時点では、だろ?」

 

「はい」

 

「ほら見ろ」

 

「そのための実使用試験です」

 

「俺で試す気満々じゃねぇかヨ!」

 

ジョーイ係長は、画面へ手を合わせた。

 

「お願いします! 毛量、長さ、艶、傷みの少なさ。試験対象として理想的なんです!」

 

「褒めても駄目だヨ」

 

「女性への訴求力も高いです!」

 

「そうか?」

 

カイエンの表情が少し変わった。

 

アウクソーが静かに言う。

 

「マスター」

 

「何だヨ」

 

「今、前向きに検討されましたね」

 

「してねぇヨ」

 

「女性への訴求力、という部分で反応されました」

 

「分析すんなヨ!」

 

ジョーイ係長は、ここぞとばかりに続けた。

 

「完成したら、広告に『剣聖も認めた洗い上がり』と」

 

「勝手に名前使うなヨ!」

 

「ヒューア・フォン・ヒッター子爵なら?」

 

「そっちも俺だヨ!」

 

結局、アウクソーの監視下でのみ試験を行うことになった。

 

 

A.K.D.宮殿内の洗髪設備。

試作品は、事前に人工毛髪、皮膚代替素材、動物毛、排水設備で試験されていた。

さらにアウクソーは、独自に採取したカイエンの毛髪でも確認を済ませている。

 

「待て」

 

カイエンが試験記録を見た。

 

「この『被験者毛髪』って、俺の髪か?」

 

「はい」

 

「いつ取ったんだヨ」

 

「就寝中です」

 

「勝手に切ったのか!?」

 

「自然に抜け落ちたものを保管していました」

 

「なんで保管してんだヨ!」

 

「マスターの健康管理に必要です」

 

「俺の体、どこまで管理されてんだヨ……」

 

試験当日。

アウクソーは使用量を正確に量った。

 

「三・五ミリリットルです」

 

「普通に手に出したら駄目なのか?」

 

「使用量が多い場合、表面摩擦がさらに低下する可能性があります」

 

「髪が抜けるとか、壁にくっつくとかは?」

 

「ありません」

 

「本当だろうナ?」

 

「異常が発生した場合、直ちに中和液を使用します」

 

「中和液が用意されてる時点で怖ぇんだヨ!」

 

洗髪が始まった。

泡立ちは、普通。

香りも、穏やか。

頭皮への刺激もない。

 

カイエンは長い黒髪を丁寧にすすいだ。

 

「どうですか、マスター」

 

「今のところは、普通だナ」

 

「髪は残っていますか?」

 

「残ってるヨ!」

 

「何かへ付着していませんか?」

 

「してねぇヨ!」

 

「指は抜けますか?」

 

「抜けるヨ!」

 

アウクソーは、浴室の外で淡々と確認を続けた。

 

乾燥後。

 

カイエンの長い黒髪は、自然な艶を取り戻していた。

 

パサつきはない。

べたつきもない。

指を通しても引っかからない。

 

カイエンは鏡の前で髪を払った。

 

「……悪くねぇナ」

 

アウクソーが毛髪を測定する。

 

「損傷はありません。水分量、油分量ともに適正範囲です」

 

通信越しに見守っていたジョーイ係長が声を上げた。

 

「売れる!」

 

「俺の髪見て、最初に言うことがそれかヨ!」

 

カイエンは髪をまとめようとした。

 

手にした紐で、長い髪を結ぶ。

 

するり。

紐が抜け落ちた。

 

もう一度結ぶ。

するり。

また床へ落ちた。

 

カイエンの眉が動いた。

 

「おい」

 

アウクソーが確認する。

 

「表面摩擦が低すぎます」

 

「髪が結べねぇじゃねぇかヨ!」

 

「想定された現象です」

 

「想定してたなら先に言えヨ!」

 

髪留めを使う。

滑り落ちる。

別の髪留めを使う。

それも落ちる。

 

カイエンの長い黒髪は、風を受けるたび、さらさらと背中へ広がった。

 

ジョーイ係長が画面越しに唸る。

 

「見た目は、めちゃくちゃ綺麗なんですけどね」

 

「騎士としては邪魔なんだヨ!」

 

「広告写真には最高です!」

 

「商品化する前に直せヨ!」

 

アウクソーが静かに頷いた。

 

「実用上の改善が必要です」

 

「アウクソー、お前だけは俺の味方だナ」

 

「ただし、外見上は大変美しく仕上がっています」

 

「そっちも広告側かヨ!」

 

 

試作品は、再調整された。

 

過剰な滑らかさを抑える。

必要な洗浄力は残す。

髪の潤いも残す。

だが、髪留めが滑り落ちない程度の摩擦は確保する。

 

二度目の試作品を使ったカイエンは、今度は普通に髪を結ぶことができた。

 

「これなら問題ねぇナ」

 

アウクソーが確認する。

 

「毛髪、頭皮ともに異常はありません」

 

イエッタも、送られてきた測定値を解析した。

 

「安全性、洗浄力、保湿力、使用感。すべて正常範囲です」

 

ログナーの最終判定が届いた。

 

人体用洗髪料として、通行可。

 

ジョーイ係長は、その文字を何度も確認した。

 

「ほんまに売れる……」

 

売れないシャンプー。

売れないコンディショナー。

 

二つの危険な特殊作用を外し、開発部が基礎処方から作り直した。

 

完成したのは、普通に髪を洗い、普通に潤いを残す商品。

一本で洗髪と毛髪保護を済ませられる。

 

正常化室初の、日用品だった。

 

 

商品名を決める会議には、田中和子も参加した。

かつてヘキサクスレディと呼ばれ、現在は普通の実演販売員として働いている女性である。

 

田中は、完成品のボトルを手に取った。

 

「シャンプーとリンスが、一度にできるのですね」

 

「はい。正確には、最初から一つの商品として再設計してます」

 

開発担当者が答える。

 

「普通のシャンプーとコンディショナーを、そのまま混ぜたわけではありません」

 

「では、宣伝文句はこれでいかがでしょう」

 

田中は、ホワイトボードへ書いた。

 

ちゃんと洗えて。

リンスもできて。

シャンプー一本。

 

そして、その下へ大きく、

 

ちゃん・りん・しゃん

 

と書いた。

 

会議室が静かになった。

 

若い開発担当者が訊いた。

 

「どういう意味ですか?」

 

田中は少し考えた。

 

「昔、流行した言葉です」

 

「いつ頃ですか?」

 

「かなり昔です」

 

ジョーイ係長が頭を抱えた。

 

「説明せんと分からん宣伝文句は、宣伝やなくて暗号や!」

 

「ナウいヤングにバカウケするかと」

 

「爆音ラムネの成功体験を引きずらんでください!」

 

「では、チョベリグは」

 

「時代が前に進む商品で、広告だけ後ろへ戻すな!!」

 

最終的に、商品名は、

 

HEXA BALANCE ONE

 

ヘキサ・バランスワン リンスインシャンプー

 

となった。

 

広告文句は、

 

洗いすぎない。残しすぎない。

一本で、ちょうどいい。

 

ジョーイ係長は、その言葉を見て頷いた。

 

「これや」

 

至高ではない。

完璧でもない。

過剰に洗わない。

過剰に潤わせない。

 

普通に洗えて、普通に整う。

 

それこそが、この商品へ最も必要な価値だった。

 

 

ホテルの客室用アメニティとして、試験導入が決まった。

 

長期宿泊客や、荷物を少なくしたい旅行客からの評判も良い。

 

売店用のボトルも用意され、初回生産分は順調に売れた。

 

シャンプーとコンディショナーを別々に買うより手軽。

香りも控えめ。

男女を問わず使える。

 

当然、髪は消えない。

枕にも貼り付かない。

 

カイエンからは、正式な推薦文を断られた。

 

そのため、商品の小さな説明書には、

 

長髪の男性による実使用試験済み

 

とだけ記載された。

 

ところが、販促ポスターに使われた人物のシルエットは、どう見ても長い黒髪の剣士だった。

 

「おい」

 

完成したポスターを見たカイエンが言った。

 

「これ、俺じゃねぇか?」

 

ジョーイ係長は首を横へ振った。

 

「特定の人物を描いたものではありません」

 

「腰まである黒髪で、長剣を持ってる男が、星団に何人いると思ってんだヨ」

 

「架空の長髪男性です」

 

「横顔まで俺だヨ!」

 

アウクソーがポスターを確認する。

 

「マスターより、少し顎が細く描かれています」

 

「そこを分析すんなヨ!」

 

「実物の方が美しいと思います」

 

カイエンは黙った。

 

ジョーイ係長も黙った。

 

アウクソーは、何事もなかったようにポスターを元の位置へ戻した。

 

「……まあ、売れてるならいいけどナ」

 

「ありがとうございます!」

 

「俺の名前は出すなヨ!」

 

「ヒューア・フォン・ヒッター子爵の名前も?」

 

「そっちも出すなヨ!」

 

 

その日の業務終了後。

 

イエッタは、正常化室の報告書をまとめていた。

 

至高のコンディショナー。

 

危険性、除去完了。

 

至高のシャンプー。

 

一部試料を共同開発へ転用。

 

完成品、ヘキサ・バランスワン。

 

安全性、確認済み。

 

販売状ワン。

 

安全性、確認済み。

 

販売状況、良好。

 

最後に、A.K.D.への定期報告を作成する。

 

送信先は、ファルク・U・ログナー。

 

報告書には、ゾディア会長が新制度に従い、個人資金で試作品を製造したことも記されていた。

 

規則違反はない。

危険性も申告されていた。

 

しかし、結果としてヘキサクスとA.K.D.の両方へ、多大な手間が発生した。

 

イエッタは最後の所見へ、一文を加えた。

 

会長の行動は制度上適法。ただし、継続的な監視が必要。

 

送信を終える。

 

ジョーイ係長が、自分の席から声をかけた。

 

「イエッタさん」

 

「はい」

 

「今日の売上、出ました?」

 

「初回出荷分は、予定数を上回っています」

 

ジョーイ係長の顔が明るくなった。

 

「売れへん商品二つが、売れる商品一つになった」

 

「はい」

 

「廃棄費用も減って、開発技術も残って、ちゃんと売上も出た」

 

「正常化は成功です」

 

ジョーイ係長は、在庫一覧の二つの商品へ線を引いた。

 

至高のシャンプー。

 

至高のコンディショナー。

 

その下へ、新しい商品を書き加える。

 

ヘキサ・バランスワン。

 

「よし。今度こそ、一件片付いた!」

 

正常化室の扉が開いた。

配送担当者が、小さな箱を抱えている。

 

「係長。ゾディア会長から、試作品の審査依頼です」

 

ジョーイ係長は動かなかった。

 

「商品名は?」

 

「至高のヘアワックスです」

 

イエッタが申請書を確認する。

 

「整髪力は非常に高く、一度固めた髪型を三日間維持するそうです」

 

「……特殊作用は?」

 

「頭部を動かすと、髪型に合わせて首も固定されます」

 

ジョーイ係長は、天井を見上げた。

 

「会長の悪意と開発部の仕事、リンスインできへんかな……」

 

「混合しても無害化は困難と思われます」

 

「知ってますわぁぁぁぁぁ!!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。