守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
株式会社ヘキサクス、特殊食品正常化室。
正常化室の棚には、新たに一つの箱が増えていた。
会長私費・審査待ち
その中には、先日届いた「至高のヘアワックス」が厳重に封印されている。
整髪力は極めて高い。
一度固めた髪型を三日間維持できる。
ただし、頭を動かそうとすると首まで固定される。
イエッタによる一次判定は、
人体使用不可。再調整が必要。
ジョーイ係長による判定は、
今は見たくない。
だった。
「とりあえず、あれは後回しや」
ジョーイ係長は箱から目を逸らした。
「首が動かん整髪料より、先に片付けられる在庫を探しましょう」
「承知しました」
イエッタが端末を操作する。
彼女が正常化室へ派遣されてから、在庫調査の速度は劇的に上がっていた。
これまでなら数日かかっていた資料の照合が、数分で終わる。
保管場所の不一致。
数量の食い違い。
古い事故記録。
ゾディア会長の私費へ振り替えるべき試作品。
それらが、次々と整理されていく。
ジョーイ係長の机から、書類の山が少しずつ消えていた。
代わりに、処理すべき危険物の正確な数が判明した。
仕事が減ったのか、増えたのか。
本人にもよく分からなかった。
「次の商品はこちらです」
イエッタが一覧を表示する。
至高のブランケット。
在庫数、四十八枚。
ジョーイ係長の顔が曇った。
「至高か……」
「はい」
「ブランケットか……」
「はい」
「会長案件か……」
「はい」
ジョーイ係長は椅子の背へ身体を預けた。
「嫌な要素が、毛布みたいに綺麗に重なっとるな」
イエッタは事故記録を開いた。
「過去に、怪物強盗Xi氏へ贈られた試作品と同型です」
「どんな商品なんです?」
「高い保温性があります。身体から放出された熱を吸収し、長波長の赤外線として穏やかに放射する特殊セラミック繊維が使用されています」
「そこだけ聞くと、めっちゃええ商品やな」
「肌触り、通気性、吸湿性にも問題はありません」
「売れるやないですか!」
「ただし」
ジョーイ係長は、両手を机へ置いた。
「来たな」
「使用者の緊張状態を検知すると、鎮静作用が強くなります」
「緊張をほぐして、眠りやすくする?」
「はい」
「ええやないですか」
「作用に上限がありません」
ジョーイ係長の表情が止まった。
「……上限がない?」
「使用者が警戒心を失うまで、作用を継続します」
「それ、眠りやすくする毛布やなくて、敵襲に気づかん毛布やないか!」
「過去の試験では、周囲で大きな音が発生しても使用を継続しようとする反応が確認されています」
「ホテルに置いたらあかん!!」
「同意します」
「火災報知器が鳴っても、『毛布から出たくない』とか言うんやろ!?」
「可能性があります」
「非常時の避難と安眠を交換してどないすんねん!」
ジョーイ係長は事故記録をめくった。
元の商品説明には、ゾディア会長の言葉が残されていた。
我が一族の工房で作らせた、至高のブランケットだ。
身体を芯から温め、あらゆる緊張を解きほぐす。
常人が使えば、敵を前にしても警戒心を失うが……。
慣れると癖になる。
ジョーイ係長は、記録を閉じた。
「敵の前で使わせるな!」
「ブランケットですので、本来は寝室で使用します」
「そういう問題やない!」
◇
至高のブランケットは、シャンプーとは違い、基礎部分に大きな欠陥がなかった。
問題は、繊維へ後から追加された特殊加工だった。
使用者の体温。
心拍。
筋肉の緊張。
呼吸。
それらを感知し、身体を休息状態へ導く。
本来なら、寝具として優れた機能になり得る。
だが、ゾディア会長は上限を設けなかった。
使用者が安心しているかどうかではない。
警戒を捨てたかどうか。
そこまで作用を続ける。
「眠らせたいんやない」
ジョーイ係長は言った。
「抵抗できん状態にしたいだけやろ、これ」
イエッタは数秒、資料を見つめた。
「過去の開発指示記録からは、その可能性が高いと思われます」
「ほんま、性格悪いな!」
「マスターへも報告済みです」
「ログナー司令、何て?」
イエッタは、届いた返信を表示した。
警戒能力を低下させる寝具は通行止めだ。
「早い!」
「送信から十一秒で返信がありました」
「司令、最初から端末握って待ってたんちゃうやろな……」
だが、その後に一文が続いていた。
保温機能と特殊加工を分離できるなら、再検査する。
ジョーイ係長は、その文章を見て腕を組んだ。
「司令も、基礎性能は惜しいと思ってるんやな」
「遠赤外線放射繊維そのものは、A.K.D.の宮廷工房でも利用可能です」
「布製品の取引、前にホテルと始めましたもんね」
「はい。宮廷工房へ協力を依頼できます」
「ほな、ホテルにも話を聞きましょう」
ジョーイ係長は立ち上がった。
「ホテルの毛布に何が必要か、作った側だけで決めたらあかん」
◇
例のホテル。
LEDカレー。
からあげ六式。
ヘキサ・バランスワン。
特殊食品正常化室が関わった商品は、少しずつホテルの日常へ溶け込んでいた。
レストランだけではない。
売店。
客室。
ルームサービス。
ホテル全体が、正常化商品の重要な取引先になりつつある。
支配人は、会議室のテーブルに置かれたブランケットを慎重に見た。
見た目は、落ち着いた濃紺。
表面は柔らかく、厚すぎない。
膝掛けとしても、ベッドの上掛けとしても使えそうだった。
「肌触りは、とても良いですね」
支配人が端を指で撫でる。
「温かさもあります」
「はい。問題は、温かさの先にあります」
ジョーイ係長は事故記録を差し出した。
支配人は一通り読み、ブランケットから静かに手を離した。
「客室への導入はできません」
「ですよね」
「よく眠れることは、ホテルにとって大切です」
支配人は言った。
「ですが、火災報知器が鳴っても目を覚まさない寝具は置けません」
「まったく、その通りです」
「内線電話、非常放送、客室係のノック。必要な時には、お客様が自分で目を覚ませること」
支配人はブランケットを見る。
「そして、お客様自身が、いつでもこれを外せること」
ジョーイ係長は頷いた。
「眠らせる商品にしたらあかん、いうことですね」
「はい」
「眠るかどうかを決めるんは、お客様です」
ジョーイ係長は、事故記録を閉じた。
「ワシらが作るんは、安心を押しつける毛布やない」
ブランケットの柔らかな表面へ手を置く。
「安心して眠れる毛布です」
支配人は、ゆっくり頷いた。
「それなら、ホテルとして協力させてください」
◇
正常化作業には、A.K.D.宮廷工房の織物部門が参加した。
イエッタが特殊加工の構造を解析。
宮廷工房が繊維を解き、問題となる加工を除去する。
ヘキサクスの開発部が、保温素材の配合を調整。
ホテル側が、客室で必要となる条件を提示する。
条件は多かった。
暑すぎない。
蒸れにくい。
身体を動かした時にずれ落ちにくい。
簡単に外せる。
洗濯へ耐えられる。
非常時に起きられる。
子ども、高齢者、体格の違う宿泊客にも使える。
「毛布一枚でも、考えること多いんですね」
ジョーイ係長が言う。
支配人は微笑んだ。
「お客様は、毎日違いますから」
宮廷工房から届いた試作品は、特殊加工を完全に外していた。
残されたのは、穏やかな保温機能。
人体から放出された熱を受け取り、ゆっくり返す。
熱を新しく作るのではない。
温度を急激に上げるのでもない。
身体の周囲から逃げていく温かさを、少しだけ戻す。
「これなら、普通の高機能ブランケットですね」
ジョーイ係長は安心した。
イエッタは首を横へ振った。
「まだ試験が必要です」
「何が残ってます?」
「睡眠中の体温変化。発汗。寝返り。長時間使用時の快適性。非常時の覚醒反応」
「最後の試験が一番怖いな」
「ホテル側から、試験に適した客室を提供していただいています」
「被験者は?」
イエッタは資料を開いた。
「疲労が蓄積しており、通常環境でも睡眠へ移行しやすい方を二名」
ジョーイ係長は、名前を見た。
「……大丈夫なんですか、この二人」
「適任です」
◇
ホテルの客室。
キラ・ヤマトは、ベッドの端へ座っていた。
その隣で、アスラン・ザラが試験資料を読んでいる。
「まず、使用前の体温、心拍数、呼吸数を記録する」
「うん」
「室温は二十二度。湿度は五十二パーセント。ブランケットの使用時間は八時間以内」
「うん」
「途中で暑さ、息苦しさ、動悸、異常な眠気を感じた場合は、すぐに使用を中止する」
「うん」
「キラ、聞いているのか?」
キラは、すでに試作品のブランケットを肩へ掛けていた。
「聞いてるよ」
「まだ使用開始前だ」
「ちょっと掛けてみただけ」
「計測条件が変わるだろう」
「温かいね、これ」
「だから、まだ」
キラはブランケットへ身体を包んだ。
柔らかな布が、肩から膝まで覆う。
「アスラン」
「何だ?」
「説明、あとどれくらい?」
「安全に関する重要な事項だ。非常放送が鳴った場合は、まず室内の状況を確認して、煙や異臭があれば――」
返事がない。
「キラ?」
キラは、ベッドの上で目を閉じていた。
アスランが顔を近づける。
「キラ」
寝ていた。
イエッタが計測端末を見る。
「使用開始から二分九秒です」
ジョーイ係長が、小声で訊いた。
「効きすぎちゃいます?」
「ブランケットの作用ではありません」
「違うんですか?」
「キラ様は、試験前から強い眠気が確認されていました」
ジョーイ係長は眠っているキラを見る。
「商品より、本人の疲れの方が問題やないですか!」
アスランがキラのブランケットを確認する。
「呼吸は安定している。発汗もない」
「アスランさんも、そろそろ使ってください」
「まだ説明が終わっていない」
「キラさん、もう寝ましたけど」
「だからこそ、俺が条件を確認する必要がある」
アスランは、二枚目の試作品を肩へ掛けた。
「確かに温かい。ただし、この感覚だけで安全と判断することはできない。皮膚表面の温度と深部体温には差がある。長時間の使用による脱水、それから寝返りが減ることによる――」
五分後。
アスランも眠っていた。
ジョーイ係長が、小声で言った。
「寝た」
イエッタが答える。
「眠りました」
「説明の途中で」
「はい」
キラが先に眠ったことで、説明を聞く相手がいなくなった。
それでも三分ほど話し続けていた。
その後、アスランも静かに目を閉じた。
ジョーイ係長は、二人を見た。
「ほんまに、疲れてたんやな……」
イエッタは計測値を確認する。
「心拍、呼吸ともに安定しています。異常な鎮静作用はありません」
「普通に温かくて、普通に眠くなった?」
「はい」
ジョーイ係長は少し笑った。
「普通でええねん」
◇
試験開始から三時間後。
客室に、模擬非常放送が流れた。
『火災報知設備の試験です。宿泊者は、速やかに室内の状況を確認してください』
アスランが目を開けた。
上体を起こす。
周囲を確認。
扉。
窓。
天井。
キラ。
非常口案内。
一連の動作に、ほとんど迷いがない。
「煙はない。異臭もない。キラ、起きろ」
「……うん」
キラも目を開けた。
数秒で身体を起こす。
ブランケットは、二人の身体から普通に外れた。
アスランは扉へ向かい、取っ手へ触れる前に手を止める。
「熱はない。廊下の状況を確認する」
そこで、客室の端にいるジョーイ係長たちへ気づいた。
「……試験か?」
ジョーイ係長は、両手を合わせた。
「すいません。事前に言うたら、覚醒試験にならへんので」
「火災報知器を使うなら、せめて試験の可能性くらい説明してくれ!」
「それやと、警戒しながら寝るでしょう!」
「当然だ!」
キラは目を擦った。
「アスラン、起きてから説明するまでが早いね」
「非常時だからな」
「試験だけどね」
「分かっている!」
イエッタが記録を確認する。
「アスラン様、放送開始から一・八秒で覚醒。キラ様、三・一秒で覚醒」
「警戒能力の低下は?」
「確認されません」
ジョーイ係長は拳を握った。
「よっしゃ!」
アスランはブランケットを見る。
「元の商品では、本当に起きられなかったのか?」
「起きる能力がなくなるわけやありません」
ジョーイ係長は答えた。
「ただ、毛布から出たくない、警戒せんでもええ、という方向へ気持ちを押される商品でした」
「それは危険だ」
「せやから、全部外しました」
アスランは、改めてブランケットへ触れた。
「今の試作品には?」
「温かさしか残ってません」
イエッタが補足する。
「睡眠や感情へ直接作用する機能はありません」
アスランは頷いた。
「なら、安全性については一歩前進だな。ただし、一度の試験だけで結論を出すべきではない。室温、湿度、使用者の体格、睡眠時間、寝具との組み合わせ――」
キラがベッドへ戻った。
「アスラン」
「何だ?」
「続きは朝にしてくれない?」
「……分かった」
二人は、もう一度ブランケットを掛けた。
数分後。
再び客室は静かになった。
◇
翌朝。
キラは、普段より少し早く目を覚ました。
身体を起こし、腕を伸ばす。
「よく寝た……」
隣のベッドでは、アスランも起きていた。
「途中で一度起こされたが、その後の睡眠に問題はなかった」
「顔色いいね」
「キラもな」
二人は、しばらく黙っていた。
キラがブランケットの表面を撫でる。
「温かいけど、暑くなかった」
「寝返りも妨げられない。重量も適切だ」
「気に入った?」
「一晩の結果だけで評価を決めることはできない」
「気に入ったんだね」
「そうは言っていない」
「でも、返す前にもう一回使おうとしてるよ」
アスランの手は、ブランケットを畳まず、自分の膝へ掛け直していた。
「朝は少し冷えるからだ」
「うん」
ジョーイ係長が客室へ入ってくる。
「おはようございます。体調、どうです?」
「問題ないよ」
キラが答えた。
「久しぶりに、身体が軽い気がする」
イエッタがすぐに補足した。
「主観的な感想として記録します。ブランケットによる疲労回復効果を示すものではありません」
「宣伝に『疲れが取れる』とは書けへん、いうことですね」
「はい」
アスランが頷いた。
「適切だ。睡眠時間や前日の疲労状態にも左右される。一晩で効果を断定するべきではない」
ジョーイ係長は、キラを見た。
「元気になったら、説明も元通りですな」
キラは笑った。
「正常に目が覚めた証拠ですね」
「キラ!」
◇
試験は、その後も続けられた。
ホテル従業員。
A.K.D.宮廷工房の職人。
ヘキサクスの開発スタッフ。
年齢や体格の違う複数の協力者。
非常放送。
内線電話。
目覚まし時計。
ノック。
寝返り。
洗濯。
乾燥。
繰り返し使用。
すべての条件を確認した。
眠りを深くする特殊作用はない。
警戒心を弱める作用もない。
ただ、身体の周囲へ穏やかな温かさを保つ。
寒さで目が覚めにくい。
暑くなれば、熱を籠もらせすぎない。
身体を起こせば、普通に外せる。
ログナーから最終判定が届いた。
寝具として通行可だ。
ジョーイ係長は、端末を握ったまま椅子から立ち上がった。
「売れる!」
イエッタが訂正する。
「まずはホテルでの試験導入です」
「分かってます。けど、売れる見込みがある!」
◇
ホテルでの運用は、二つに分けられた。
一つは、客室用。
希望する宿泊客へ貸し出す。
寒い季節。
冷房が苦手な人。
少し暖かい上掛けが欲しい人。
すべての客室へ最初から置くのではなく、フロントで説明した上で提供する。
もう一つは、売店用。
客室で試し、気に入った宿泊客が購入できる。
家庭での洗濯方法。
乾燥機の可否。
使用上の注意。
それらを分かりやすく書いた説明書も付けた。
商品名は、
ホテル特製 休息ブランケット
となった。
箱には、ホテルとヘキサクス、A.K.D.宮廷工房の名前が並ぶ。
宣伝文句は短い。
やさしい温かさで、くつろぎの時間を。
「安眠効果とか、熟睡とか、書かなくてええんですか?」
ホテルの売店担当者が訊いた。
ジョーイ係長は首を横へ振った。
「眠れるかどうかは、人によります」
「ですが、試験では評判が良かったですよね」
「良かったです。けど、眠りを保証する商品やありません」
ジョーイ係長は、箱に印刷された文章を見る。
「温かくして、休みやすくする。そこまでです」
支配人が頷いた。
「十分です」
「もっと派手な宣伝をした方が、売れるかもしれません」
「ホテルは、お客様が休むための場所です」
支配人は、客室用のブランケットを手に取った。
「眠らせる場所ではありません」
ジョーイ係長は笑った。
「そうですね」
◇
試験導入初日。
フロントでは、数名の宿泊客が休息ブランケットを借りていった。
売店にも、二十箱が並んだ。
夕方。
一人の宿泊客が売店へ戻ってくる。
「客室で借りたものと同じですか?」
「はい」
「家でも使いたいので、一つください」
最初の一箱が売れた。
その後も、少しずつ購入者が現れた。
両親への土産。
冷えやすい家族へ。
ソファで使う膝掛けとして。
夜勤の休憩室用。
派手な売れ方ではない。
だが、実際に使った人が、自分で選んで買っていく。
支配人は、売店の販売記録を見て微笑んだ。
「また一つ、ホテルで試していただける品が増えましたね」
「ありがとうございます」
ジョーイ係長は頭を下げた。
「ホテルさんには、またお世話になってしもて」
「こちらも助かっています」
支配人は、ロビーを見渡した。
レストランには、LEDカレーとからあげ六式。
客室には、ヘキサ・バランスワン。
そして、希望者へ貸し出す休息ブランケット。
「料理だけではありません」
支配人は言った。
「ここで過ごした時間そのものを、持ち帰っていただける商品です」
ジョーイ係長は売店の箱を見る。
危険な商品だった。
警戒心を奪うために作られた。
それが今は、誰かが自分の意思で選び、持ち帰る商品になった。
「処分せんで、よかったな」
ジョーイ係長は小さく呟いた。
◇
数日後。
ホテルのロビー。
Xiは、売店に積まれた休息ブランケットを見ていた。
バクスチュアルが、隣に立っている。
「元は、あのクソ親父が僕に送ってきたものだよ」
「ウン」
「使えば、警戒する気までなくなる」
「今ハ、違ウ」
「そうらしいね」
売店の説明書には、特殊作用が完全に除去されたことが書かれている。
安全試験。
非常時の覚醒試験。
洗濯耐久試験。
そして、ログナーの判定。
Xiは箱を手に取らなかった。
「僕は、要らない」
バクスチュアルは、Xiを見た。
「ウン」
「止めないんだ?」
「使ウカ、決メルノハ、Xiサン」
Xiは少し黙った。
「安全になったんだよ?」
「デモ、嫌ナラ、使ワナクテ、イイ」
「……そうだね」
バクスチュアルは、売店のブランケットへ手を伸ばした。
柔らかな表面へ、指先で触れる。
「暖カイ」
「君は欲しい?」
バクスチュアルは、少し考えた。
「一人デ、決メテ、イイ?」
「もちろん」
彼女は、もう一度ブランケットへ触れた。
「私ハ、コレ、好キ」
Xiは財布を出した。
「じゃあ、一枚ください」
売店担当者が箱を用意する。
バクスチュアルがXiを見る。
「Xiサン、使ワナイ」
「僕は使わないよ」
「デモ、買ウ?」
「君が選んだからね」
バクスチュアルは、箱を両手で受け取った。
「アリガトウ」
「どういたしまして」
二人は売店を離れた。
Xiはブランケットを使わない。
バクスチュアルは、自分で選んだ。
それでよかった。
◇
正常化室。
その日の販売報告が届いた。
客室貸出数、順調。
売店在庫、追加発注予定。
宿泊客からの大きな苦情、なし。
ジョーイ係長は、報告書へ処理済みの印を押した。
至高のブランケット。
危険な特殊加工、除去。
在庫、正常化完了。
新商品。
ホテル特製 休息ブランケット。
販売開始。
「よし」
ジョーイ係長は椅子へ深く座った。
「今度こそ、一件片付いた」
イエッタが顔を上げる。
「ジョーイ係長」
「何です?」
「ゾディア会長から、新しい申請が届いています」
ジョーイ係長は目を閉じた。
「寝具ですか?」
「はい」
「商品名は?」
「至高の夢枕です」
「効果は?」
イエッタが申請書を読む。
「使用者が最も安心できる夢を見続けるそうです」
「……起きられるんですか?」
「申請書には、記載がありません」
ジョーイ係長は、完成した休息ブランケットを一枚取り出した。
肩まで掛ける。
「今日はもう帰って、安心して寝てもええですか?」
「至高の夢枕の審査期限は、明日です」
「安心して眠らせる気、ないやろぉぉぉぉぉ!!」