守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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ジョーイ係長はちゃんと目を覚ましてほしい

株式会社ヘキサクス、特殊食品正常化室。

その日の朝、ジョーイ係長の机には、一つの枕が置かれていた。

 

真っ白なカバー。

柔らかく膨らんだ形。

表面には、銀色の六角形の紋章。

 

一見したところ、何の変哲もない高級枕である。

ただし、添えられた社内資料には、こう記されていた。

 

商品名 至高の夢枕

社内管理名 至高の枕・弐式

 

ジョーイ係長は資料を見た。

 

枕を見た。

もう一度、資料を見た。

 

「……なんで枕に弐式とか付いとるんや」

 

向かいの席で、イエッタが静かに答える。

 

「初代が存在するためです」

 

「初代もあったんですか?」

 

「はい」

 

イエッタが端末を操作すると、別の商品記録が表示された。

 

至高の枕

 

製造数 6

現在庫 0

処理状況 廃棄済み

 

「珍しく話が早いやないですか!」

 

ジョーイ係長の声が明るくなる。

 

「もう片付いとるんですね?」

 

「はい」

 

「ちなみに、どんな枕やったんです?」

 

「使用者の頭部と頸部を支え、深い睡眠へ導く枕です」

 

「ええ商品やないですか」

 

「ただし、起床時に前世の疲労まで思い出します」

 

ジョーイ係長は笑顔のまま、数秒間停止した。

 

「……前世?」

 

「はい」

 

「今の人生の疲れやなく?」

 

「前世の疲労まで含みます」

 

「なんで枕で魂の棚卸しせなあかんねん!」

 

「商品説明には、『現在の疲労だけでは休息として不十分である』と記載されています」

 

「疲労に完全版を求めるな!!」

 

ジョーイ係長は初代の事故記録をめくった。

 

使用者は長時間眠った。

睡眠中の身体状態は安定。

首や肩への負担も少ない。

 

だが、目覚めた直後、

 

自分が体験したことのない重労働。

知らない土地での長旅。

覚えのない戦い。

前世で背負ったらしい苦労まで、まとめて思い出した。

 

結果、眠る前よりも疲れた。

 

「これはアカン」

 

ジョーイ係長は即答した。

 

「処分するしかない」

 

「すでに処分済みです」

 

「ほんまに珍しく話が早い!」

 

「特殊作用が中材そのものへ組み込まれており、分離できませんでした」

 

「枕として正常化する余地もなし?」

 

「特殊作用を除去すると、中材がすべて崩壊します」

 

「前世の疲労と一緒に、枕まで成仏したんやな……」

 

初代は、試作品だけで終わった。

同型品も、予備在庫もない。

 

ジョーイ係長は、処理済みの印が押された記録を閉じた。

そして、机に置かれた白い枕を見る。

 

「ほな、こっちが弐式?」

 

「はい」

 

「初代の問題を改善したんですか?」

 

「前世の疲労は思い出しません」

 

「よかった!」

 

「代わりに、使用者が最も安心できる夢を見続けます」

 

「ええやないですか」

 

「現実より夢の方が安心できる場合、起床を拒む可能性があります」

 

ジョーイ係長は机を叩いた。

 

「改善の方向が横や!!」

 

 

至高の夢枕。

社内管理名、至高の枕・弐式。

初代の反省を踏まえ、使用者へ疲労を思い出させる機能は廃止された。

代わりに搭載されたのが、夢を作る機能である。

 

枕へ頭を置く。

使用者の脳波を読み取る。

記憶と感情を解析する。

そして、その者が最も安心できる光景を夢として再構成する。

 

帰りたい家。

会いたい人。

失われた時間。

叶わなかった願い。

そこでは誰も傷つかない。

失敗もしない。

別れも起きない。

 

目を覚ます必要もない。

 

「これ、枕やないでしょう」

 

ジョーイ係長は、開発資料を読みながら言った。

 

「精神情報解析装置や」

 

「構造上は寝具です」

 

イエッタが答える。

 

「頭部を支える機能も備えています」

 

「枕の形した諜報機器やないですか!」

 

夢を作るためには、使用者が何を望んでいるのか知る必要がある。

何を恐れているか。

誰を信じているか。

何を失ったのか。

何を知られたくないのか。

 

枕は、それらを眠っている本人から読み取る。

 

「これ、軍人さんが使ったら、頭の中の機密まで抜けるんちゃいます?」

 

「可能性があります」

 

「可能性で済ませたらあかん!」

 

イエッタはすでに、A.K.D.への報告書を作成していた。

 

送信先は、ファルク・U・ログナー。

 

返信は、十秒もかからなかった。

 

精神情報を読み取る寝具は通行止めだ。

 

その下に、もう一文ある。

 

情報収集装置としても通行止めだ。

 

ジョーイ係長は頷いた。

 

「二方向から止められた」

 

「マスターは、構造の完全な開示を求めています」

 

「もちろん出しましょう。むしろ全部持って帰ってもらいたいくらいや」

 

「枕を、ですか?」

 

「会長ごとでもええです」

 

「それは契約の範囲外です」

 

「知ってます!」

 

 

開発担当者が、正常化室へ呼ばれた。

 

ジョーイ係長は、白い枕を指差す。

 

「まず確認します。夢を見せる機能、外せます?」

 

「可能です」

 

「機密を読み取る機能は?」

 

「夢生成機能と同じ系統です。両方とも外せます」

 

「ほな、外してください」

 

開発担当者が困ったように言う。

 

「ですが、それでは普通の枕になります」

 

「最高やないですか!」

 

「会長からは、普通すぎて面白くないと」

 

「会長の『面白くない』は、商品として最高評価や!!」

 

夢生成機能を除けば、至高の夢枕には優れた基礎技術が残っていた。

 

中材は、細かな球状素材と弾性繊維の複合構造。

頭の重さ。

首の角度。

寝返りの方向。

仰向けか、横向きか。

それらに応じて中材がゆっくり移動し、圧力を分散する。

熱と湿気も逃がしやすい。

頭を離せば、数分かけて元の形へ戻る。

軍人や騎士が、限られた時間でも身体を休められるよう研究された技術だった。

 

「本業の技術、ちゃんと役に立っとるやないですか」

 

ジョーイ係長は感心した。

 

「これだけで売れたでしょう?」

 

「はい」

 

「なんで夢を足したんです?」

 

「会長が、『眠っている間まで現実に縛られる必要はない』と」

 

「言葉だけ聞くと、ちょっと優しそうなんが腹立つな!」

 

結果として、夢の方が現実より居心地よくなりすぎた。

眠っている人間は、目覚まし時計を止める。

呼びかけにも応じない。

起こされても、もう一度眠ろうとする。

身体が目覚めても、心が夢へ戻ろうとする。

 

「枕の仕事は、夢の中へ引っ越しさせることやない」

 

ジョーイ係長は言った。

 

「ぐっすり寝てもらう」

 

白い枕へ手を置く。

 

「ほんで朝になったら、ちゃんと目を覚ましてもらう」

 

開発担当者が頷いた。

 

「夢生成機能を完全に除去します」

 

「お願いします」

 

「精神情報の記録機能も削除します」

 

「最初から記録せんでください!」

 

 

問題となる機能は除去された。

 

だが、枕は身体に触れる商品である。

しかも、一晩中使う。

正常化室は、ホテルへ協力を依頼した。

休息ブランケットに続く、寝具の共同開発である。

 

ホテルの支配人は、試作品の枕を両手で確かめた。

 

「枕は、合う方と合わない方がはっきり分かれます」

 

「やっぱり、全員に同じ物を置くのは難しいですか?」

 

「高さだけでも、好みがあります」

 

支配人は、枕の端を押した。

 

「柔らかいものが好きな方。しっかり支えてほしい方。仰向けで眠る方。横向きの方」

 

「万能枕にするんは無理?」

 

「万能を目指すより、選べる方がよいと思います」

 

ジョーイ係長は頷いた。

 

「なるほど」

 

ホテル側の要望は、一種類の枕を全室へ導入することではなかった。

 

低め。

標準。

高め。

柔らかめ。

しっかりめ。

 

複数の中材を組み合わせ、宿泊客が自分に合うものを選べるようにする。

フロントで貸し出す。

一晩使ってみる。

気に入れば、売店で同じ仕様を購入できる。

 

「枕って、店頭で触っただけやと分かりにくいですもんね」

 

「はい。一晩使ってから選べることが、このホテルの価値になります」

 

休息ブランケットと、選べる枕。

 

旅の疲れを、次の日へ持ち越さない。

 

それは料理や温泉とは違う、宿泊施設そのものの魅力になる。

 

「よし」

 

ジョーイ係長は試作品を見た。

 

「ホテルで、ちゃんと試しましょう」

 

 

試験対象者は、すぐに決まった。

 

正常化室の責任者。

連日の残業。

株主総会。

新部署の立ち上げ。

危険物在庫の整理。

ホテルとの商談。

名刺へのシール貼り。

 

最近の平均睡眠時間は、五時間を下回っている。

 

「なんでワシなんです?」

 

ホテルの客室で、ジョーイ係長は枕を見ていた。

 

イエッタが答える。

 

「疲労が蓄積しており、試験対象として適しています」

 

「適してしもたらアカンやろ!」

 

「昨夜の睡眠時間は、四時間十二分です」

 

「なんで知ってるんです?」

 

「午前二時四十八分まで、業務端末を使用されていました」

 

「監視役の能力を、ワシの生活管理に使わんといてください!」

 

「健康状態の把握は、試験に必要です」

 

「正論で逃げ道を塞がれた……」

 

客室には、試作品の枕が三つ用意されていた。

 

低め。

標準。

高め。

 

ジョーイ係長は、まず標準へ頭を置く。

 

「どうですか?」

 

「ちょっと高いかな」

 

低めへ替える。

 

「こっちの方が楽です」

 

イエッタは姿勢を確認した。

 

「頸部の角度も、低めの方が適切です」

 

「ワシ、今まで枕の高さなんて気にしたことなかったですわ」

 

「現在ご自宅で使用されている枕は?」

 

「通販で買ったやつです」

 

「選んだ理由は?」

 

「安かったから」

 

「今回の試験は有意義だと思います」

 

「否定できへん!」

 

就寝前の検査が始まる。

 

脳波。

心拍。

呼吸。

皮膚温。

首と肩へかかる圧力。

夢を読み取る機能が残っていないことも、改めて確認された。

 

ジョーイ係長は布団へ入る。

 

休息ブランケットも掛けられた。

 

「枕と毛布、両方正常化室の商品やな」

 

「はい」

 

「ワシ、仕事の続きみたいで眠れる気がせえへんのですけど」

 

「室内照明を落とします」

 

「話を聞いてください」

 

照明が暗くなった。

 

ジョーイ係長は枕へ頭を預ける。

首の下へ、中材がゆっくり移動する。

押し返される感じはない。

沈みすぎもしない。

 

「……楽やな」

 

「違和感はありますか?」

 

「ありません」

 

「夢生成機能が作動している感覚は?」

 

「夢生成機能が作動する感覚を知りません!」

 

「問題ありません」

 

「今の質問、必要でした?」

 

イエッタは計測端末を確認する。

 

「お休みください」

 

「はいはい。おやすみなさい」

 

ジョーイ係長は目を閉じた。

 

数分後。

寝息が聞こえ始めた。

眠りへ移行する時間は、普段より少し短かった。

だが、異常な鎮静作用はない。

単純に、本人が疲れていた。

 

イエッタは数値を記録した。

そして、通常の業務報告とは別に、短い通信をログナーへ送る。

 

試験開始。精神情報への干渉なし。

 

返信は短かった。

 

継続しろ。

 

 

夜中。

ジョーイ係長は、二度寝返りを打った。

 

枕の中材が動く。

横向きになった頭部に合わせ、支える位置が変わる。

 

呼吸は安定。

首への負担も少ない。

夢は見ていた。

だが、枕が作った夢ではない。

 

在庫表。

名刺。

黒いシャンプー。

白いコンディショナー。

山積みの商品。

 

夢の中でも、ゾディア会長から試作品が届いた。

ジョーイ係長は箱を開けずに叫んだ。

「返送や!」

自分の声で、少しだけ目を覚ました。

 

室内は暗い。

時計は午前三時。

 

枕を触る。

何も起きていない。

夢へ戻りたいという感覚もない。

起きる必要もないので、そのまま目を閉じた。

数分後、再び眠った。

 

 

午前七時。

客室のカーテンが、設定された時間にゆっくり開いた。

朝の光が差し込む。

目覚まし時計が鳴る。

 

ジョーイ係長は目を開けた。

 

手を伸ばし、目覚ましを止める。

そして、身体を起こした。

 

数秒間、何も言わなかった。

 

イエッタが確認する。

 

「ジョーイ係長」

 

「はい」

 

「現在の状態は?」

 

ジョーイ係長は首を左右へ動かした。

 

肩を回す。

背中を伸ばす。

 

「首、痛ない」

 

「眠気は?」

 

「少しあります。でも、起きられます」

 

「夢へ戻りたいという衝動は?」

 

「仕事には戻りたくないです」

 

「夢ではなく、現実の問題です」

 

「朝から正確やな!」

 

ジョーイ係長はベッドから降りた。

 

立ち上がる。

足取りにふらつきはない。

頭も重くない。

枕へ吸い寄せられる感覚もない。

 

「ぐっすり寝た」

 

窓から入る朝の光を見る。

 

「ほんで、ちゃんと起きられた」

 

イエッタが記録する。

 

「覚醒反応、正常です」

 

「それでええねん」

 

ジョーイ係長は、使った枕を見た。

 

「前世の疲れも思い出さん」

 

「はい」

 

「安心できる夢に閉じ込められもせん」

 

「はい」

 

「首と頭を支えて、朝になったら普通に起きる」

 

ジョーイ係長は笑った。

 

「枕は、それで十分や」

 

 

その後、複数の試験が行われた。

 

ホテル従業員。

ヘキサクスの社員。

A.K.D.宮廷工房の職人。

 

体格。

年齢。

寝姿勢。

好み。

 

さまざまな条件で検証する。

 

目覚まし時計。

内線電話。

ノック。

非常放送。

 

どの試験でも、使用者は必要な時に目を覚ました。

 

精神への干渉はない。

夢の記録もない。

寝返りは妨げない。

首と肩への圧力は軽減される。

中材を調整すれば、高さと硬さも変えられる。

 

ログナーから、最終判定が届いた。

 

寝具として通行可だ。

 

その下には、念を押すように一文があった。

 

夢生成機能の再搭載は禁止する。

 

ジョーイ係長は、すぐに返信した。

 

もちろんです。

 

三秒後、追加の返信が来た。

 

会長にも伝えろ。

 

「司令、会長が勝手に戻すと読んどるな……」

 

イエッタが答える。

 

「妥当な警戒だと思います」

 

「ワシもそう思います」

 

 

ホテルで、枕の貸出サービスが始まった。

 

商品名は、

 

ホテル特製 休息枕

 

休息ブランケットと同じシリーズである。

 

低め。

標準。

高め。

柔らかめ。

しっかりめ。

 

フロントには、選び方を簡単にまとめた案内が置かれた。

 

仰向けで休まれる方

横向きで休まれる方

柔らかな感触がお好みの方

しっかりとした支えがお好みの方

 

宿泊客は、自分に合いそうな枕を借りる。

一晩使う。

翌朝、別の高さを試すこともできる。

 

売店には、家庭用として調整できる商品が並んだ。

箱には、中材を追加したり減らしたりする方法が書かれている。

 

宣伝文句は、

 

夢は選ばない。枕は選べる。

 

支配人は、完成した売り場を見て頷いた。

 

「休息ブランケットと一緒に、ご案内できますね」

 

「はい」

 

ジョーイ係長も売り場を見る。

 

「旅先で枕が合わんと、次の日つらいですもんね」

 

「観光も、食事も、その後に続く一日も、眠れなければ楽しめません」

 

支配人は客室階へ目を向けた。

 

「ここへ来ると、きちんと休める」

 

静かに言う。

 

「そう思っていただけるホテルにしたいのです」

 

ジョーイ係長は深く頷いた。

 

料理だけではない。

温泉だけでもない。

眠る時間まで含めて、宿泊である。

 

「ホテルさんの、新しい売りになりますか?」

 

「はい」

 

支配人は微笑んだ。

 

「大きな売りになります」

 

 

貸出開始から一週間。

枕を借りる宿泊客は、少しずつ増えていた。

 

売店でも、休息ブランケットとのセット購入が出始めた。

 

両親への贈り物。

自宅の寝具を見直したい人。

ホテルで使った低めの枕が、今までで一番楽だったという人。

 

派手な広告はない。

熟睡を保証もしない。

疲労回復を謳いもしない。

ただ、一晩使った人が、自分に合うと感じて買っていく。

 

支配人は、販売記録をジョーイ係長へ渡した。

 

「追加発注をお願いできますか?」

 

ジョーイ係長の顔が明るくなる。

 

「もちろんです!」

 

「休息ブランケットとの宿泊プランも検討しています」

 

「ありがとうございます!」

 

また一つ、売れる商品が生まれた。

 

至高の夢枕。

人の心へ入り込み、夢から帰さないための枕。

 

そこから余計なものをすべて外した。

 

残ったのは、頭と首を支える技術。

眠る人の夢には触れない。

朝が来れば、ちゃんと起きられる。

 

ジョーイ係長は販売報告へ印を押した。

 

至高の夢枕

社内管理名 至高の枕・弐式

危険機能除去済み

正常化完了

 

その下へ、新しい商品名を書く。

 

ホテル特製 休息枕

 

「よし」

 

ジョーイ係長は満足そうに頷いた。

 

「これで一件、片付いた」

 

 

正常化室の通信端末に、ゾディア会長から連絡が入った。

 

画面に映るシックスは、休息枕の販売資料を眺めている。

 

「夢生成機能を外したそうだね」

 

「外しました」

 

「前世の記憶も見せない」

 

「見せません」

 

「最も安心できる夢も見せない」

 

「夢は本人に任せます」

 

シックスは僅かに首を傾けた。

 

「夢を見せない夢枕に、何の価値がある?」

 

ジョーイ係長は即答した。

 

「朝、ちゃんと起きられます」

 

「それだけか?」

 

「首が痛くありません」

 

「随分と退屈だね」

 

「お客様は、会長を楽しませるために寝るんやありません」

 

ジョーイ係長は、ホテルから届いた追加発注書を持ち上げた。

 

「ぐっすり寝て、朝になったらシャキッと起きる」

 

シックスへ見せる。

 

「それが一番ですわ」

 

シックスは、追加発注の数字を見た。

 

少しだけ笑う。

 

「売れているのか」

 

「売れてます」

 

「なるほど」

 

「夢を見せんでも、売れるんです」

 

「面白くないね」

 

「最高の評価、ありがとうございます!」

 

通信が切れた。

 

ジョーイ係長は椅子へ座り直した。

 

イエッタが、静かに端末を確認する。

 

「ゾディア会長から、新しい開発申請はありません」

 

「ほんまですか?」

 

「はい」

 

「今日は、安心して帰れそうやな」

 

「ただし」

 

ジョーイ係長の笑顔が消えた。

 

「なんです?」

 

「人事部から連絡があります」

 

「昇給ですか!?」

 

「特殊食品正常化室責任者手当について、引き続き検討中とのことです」

 

「まだ検討中なんかい!!」

 

「業務量の調査が必要だそうです」

 

ジョーイ係長は、机の上の追加発注書を見た。

 

ホテルとの契約書。

安全試験の記録。

正常化報告。

 

まだ貼り終わっていない名刺のシール。

 

そして、壁の時計。

 

「イエッタさん」

 

「はい」

 

「もう一晩、あの枕借りられません?」

 

「ホテルへ確認します」

 

「今夜も、ぐっすり寝て、朝はシャキッと起きたいですわ……」

 

イエッタは、僅かに微笑んだ。

 

「明日の始業時刻は、午前九時です」

 

「起きた瞬間に現実へ戻すの、早すぎません!?」

 

 

数日後、ジョーイ係長は社員販売の申込書へ、自分の名前を書いた。

 

商品名は、ホテル特製・休息枕。

高さは、低め。

 

「自分で正常化した商品を、自分で買うんですか?」

 

イエッタが訊いた。

 

「使って良かったもんを買う。それが普通のお客さんやろ」

 

「社員割引が適用されます」

 

「そこは最大限使います」

 

「正常な判断です」

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