守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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キラはラクスに安心してディナーを楽しんでほしい

夕暮れ。

ホテルのレストラン。

 

窓の外には、街の灯りが少しずつ増え始めていた。

 

予約席へ案内されたキラ・ヤマトは、椅子へ腰を下ろすなり、メニューを確認した。

 

向かいでは。

ラクス・クラインが穏やかに微笑んでいる。

 

「素敵なお店ですわね。」

 

「うん。」

 

キラは答えた。

そして。

もう一度メニューを見る。

 

「…………。」

 

ラクスが首を傾げた。

「キラ?」

「え?」

 

「先ほどから、ずっとメニューをご覧になっていますけれど。」

 

「ああ。」

キラは苦笑する。

 

「その……。」

「何でしょう?」

 

「一応、説明しておこうかなって。」

 

ラクスは微笑む。

 

「はい。」

 

キラは少し姿勢を正した。

 

「今日のコースなんだけど。」

「はい。」

 

「普通の料理じゃないものが、いくつか入ってて。」

「まあ。」

 

「でも!」

キラは慌てて付け加えた。

 

「今は全部、安全だからね!」

 

ラクスは変わらず穏やかだった。

 

「そうなのですね。」

「うん。」

 

「ログナー司令が検査してるし。」

「はい。」

 

「料理長もちゃんと処理してるし。」

「はい。」

 

「ヘキサクス社の特殊食品も、そのまま使ってるわけじゃなくて。」

「はい。」

 

「危険な成分を外したり、加熱したり、料理として調整したりして。」

「はい。」

 

キラは一息つく。

 

ラクスが微笑んだ。

 

「では。」

 

「え?」

「安心していただけるのですね。」

 

「……うん。」

「でしたら、いただきましょう。」

 

「…………。」

 

キラは目を瞬いた。

「それだけ?」

 

「何がでしょう?」

「いや。」

 

「もっとこう……。」

キラは言葉を探す。

 

「怖くないの?」

ラクスは少し考えた。

 

「キラ。」

「何?」

 

「わたくしを、危険なお食事へお連れになりますか?」

「しないよ!」

 

即答だった。

ラクスは微笑む。

 

「では、大丈夫ですわ。」

「…………。」

 

キラは困ったように笑った。

「そう言われると、逆に責任重大なんだけど。」

 

「まあ。」

ラクスは楽しそうだった。

 

「キラは、とても心配性ですのね。」

「……アスランほどじゃないと思う。」

 

ラクスは一瞬だけ黙った。

 

「それは。」

「うん。」

「わたくしも、そう思いますわ。」

 

二人は笑った。

 

     ◆

 

最初の料理が運ばれてきた。

 

温かなスープ。

パン。

前菜。

 

キラはスープを一口飲む。

 

「うん。」

「美味しい。」

 

ラクスも口にする。

「優しいお味ですわね。」

「うん。」

 

少しだけ。

キラの肩の力が抜けた。

 

しかし。

次の料理が運ばれてくる。

 

ウェイターが説明する。

「こちらは、本日の限定メニューでございます。」

「牛ほほ肉の赤ワイン煮込みでございます。」

 

キラの表情が固まった。

 

「来た。」

 

ラクスが見る。

 

「何がです?」

 

「これ。」

「はい。」

 

「一応、説明するね。」

ラクスはナイフとフォークを置いた。

 

「どうぞ。」

キラは慎重に口を開く。

 

「この赤ワイン。」

「元々は、そのまま飲むと……。」

 

一瞬、迷う。

「ちょっと変な作用があったんだ。」

 

ラクス。

「赤い汗が出るのでしたわね。」

「知ってるの!?」

 

キラが思わず声を上げた。

ラクスは平然としている。

 

「はい。」

 

「誰から?」

 

「アスランから。」

 

キラは納得した。

 

「……だよね。」

「とても詳しく教えていただきました。」

 

「だろうね。」

 

キラは額を押さえた。

 

「どこまで説明したの?」

 

「加熱温度。」

「うん。」

 

「必要な時間。」

「うん。」

 

「原因となる成分。」

「うん。」

 

「体内での反応。」

「もういい。」

 

キラは手を上げた。

 

「全部だ。」

ラクスは少し楽しそうに言う。

 

「カガリさんも、大変でしたでしょうね。」

「うん。」

 

「たぶん。」

キラは料理を見る。

 

「でも。」

「これは料理長が長時間煮込んでるから。」

 

「原因物質は完全に分解されてる。」

 

「つまり?」

「安全。」

 

ラクスは頷いた。

 

「では。」

ナイフを入れる。

 

「いただきます。」

「えっ。」

 

キラが慌てる。

「ちょっと待って。」

 

「はい?」

「まだ説明、終わってない。」

 

「安全なのでしょう?」

「安全だけど。」

 

「でしたら。」

ラクスは一口食べた。

 

「…………。」

 

キラが心配そうに見る。

「どう?」

 

ラクスはゆっくり飲み込む。

「とても美味しいですわ。」

 

「本当に?」

「はい。」

 

「変な感じしない?」

「いたしません。」

 

「気分悪くない?」

「大丈夫です。」

 

「汗は?」

ラクスは笑った。

 

「キラ。」

「何?」

 

「わたくしより。」

「キラの方が緊張していませんか?」

 

「…………。」

 

キラは黙った。

「……してるかも。」

 

ラクスはもう一口食べる。

「お肉も、とても柔らかいですわ。」

 

「うん。」

「キラも召し上がってください。」

 

「あ。」

キラはようやく自分の皿を見る。

 

「そうだった。」

ラクスが笑う。

 

「わたくしを見守るために来たのではないでしょう?」

「いや。」

 

「そういうつもりじゃないけど。」

「では。」

 

ラクスは穏やかに言った。

「一緒に楽しみましょう。」

 

「……うん。」

キラも一口食べる。

 

「……美味しい。」

「でしょう?」

 

「何でラクスが得意そうなの。」

「ふふ。」

 

     ◆

 

料理は進んだ。

 

限定メニューのほかにも。

ホテルの料理長が手を加えた品々が並ぶ。

 

どれも。

元々は少し問題のある食材だった。

 

しかし。

手を加え。

安全にし。

料理として完成させたものだった。

 

ラクスは一皿ずつ。

楽しそうに食べていた。

 

キラは少しずつ安心していく。

 

「ラクス。」

「はい。」

 

「こういうの平気なんだね。」

「こういうの?」

 

「変わった食材とか。」

「珍しい料理とか。」

 

ラクスは少し考える。

「そうですわね。」

 

「危険だと分かっているものを、無理にいただくつもりはありませんけれど。」

「うん。」

 

「安全であることを「確認してくださった方々がいらっしゃるのでしょう?」

「うん。」

 

「料理長も。」

「ログナー司令も。」

「開発された方々も。」

「はい。」

 

ラクスは続ける。

「でしたら。」

「その方々のお仕事を信じて。」

「美味しくいただくことも。」

「大切なのではありません?」

 

キラは少し黙った。

「……ラクスは。」

「はい?」

 

「強いね。」

「まあ。」

 

ラクスは笑う。

「わたくしは、食事をしているだけですわ。」

「そこなんだよね。」

 

キラは苦笑する。

「僕が勝手に難しく考えてるだけなのかも。」

 

「キラは。」

ラクスは穏やかに言った。

 

「わたくしに、安心して楽しんでほしいのでしょう?」

「……うん。」

 

「ですから。」

「たくさん説明してくださる。」

「うん。」

 

「それは、とても嬉しいことですわ。」

キラは少し照れた。

 

「でも。」

ラクスが続ける。

「わたくしは。」

「キラが大丈夫だと言ってくだされば。」

「かなり安心しております。」

 

「…………。」

 

キラは固まった。

 

「それ。」

「はい?」

 

「結構、重いよ。」

「まあ。」

 

ラクスは微笑む。

「そうでしょうか?」

「失敗できない感じがする。」

 

「失敗なさっても。」

ラクスは静かに言った。

「一緒に考えればよろしいのでは?」

キラは。

少しだけ笑った。

 

「……ラクスらしいね。」

「ありがとうございます。」

 

     ◆

 

食後。

ウェイターがやって来た。

「食後のお飲み物はいかがなさいますか?」

 

キラはメニューを見る。

そして。

固まった。

 

「……あ。」

 

ラクスが覗く。

 

「どうされました?」

「最後。」

 

「まだあった。」

「何がです?」

 

キラは小声で言った。

「珈琲。」

 

ラクスがメニューを見る。

「まあ。」

 

そこには

希少珈琲

と記載されている。

 

キラは恐る恐る説明する。

「これ。」

 

「象の……。」

「象の珈琲ですわね。」

 

「知ってるの!?」

本日二度目だった。

 

ラクスは微笑む。

「以前、伺いました。」

 

「誰から?」

「ソープ様から。」

 

キラの表情が変わった。

「陛下から!?」

「はい。」

 

「どこまで聞いたの?」

ラクスは少し考える。

「象の消化過程について。」

「そこまで!?」

 

「再現できないかとも。」

「その話は忘れて!」

 

ラクスがくすくす笑う。

 

「冗談ですわ。」

「陛下の場合、冗談かどうか分からないんだよ!」

 

ウェイターが困ったように待っている。

ラクスが言う。

 

「せっかくですから。」

「いただきましょう。」

 

キラが確認する。

 

「本当に?」

「はい。」

 

「象だよ?」

「はい。」

 

「一度、象の中を通ってるんだよ?」

「存じています。」

 

「大丈夫?」

 

「キラ。」

「何?」

 

「キラは飲まれないのですか?」

「飲むけど。」

 

「では。」

ラクスは笑った。

「ご一緒に。」

 

「…………。」

 

キラは観念した。

 

「二つお願いします。」

 

「かしこまりました。」

 

     ◆

 

しばらくして。

珈琲が運ばれてきた。

 

独特な香り。

ラクスがカップを持つ。

 

一口。

「…………。」

 

キラが見る。

「どう?」

「美味しいですわ。」

 

「本当に?」

「はい。」

 

「変な味しない?」

「いたしません。」

 

「象っぽくない?」

ラクスはカップを置いた。

 

「象っぽい味とは、どのようなお味ですの?」

 

「……分からない。」

「でしょう?」

 

キラも飲む。

 

「……うん。」

「美味しい。」

 

ラクスは楽しそうに微笑んだ。

 

「キラ。」

「何?」

 

「今日は。」

「わたくしを安心させるために。」

「たくさん説明してくださいましたね。」

「うん。」

 

「でも。」

ラクスは優しく言う。

「わたくしは最初から。」

「安心しておりました。」

 

「…………。」

 

「キラと一緒でしたから。」

 

キラは。

しばらく何も言わなかった。

 

「……ラクス。」

「はい。」

 

「そういうこと。」

「普通に言うよね。」

 

「何かおかしなことを申し上げました?」

「いや。」

 

キラは少し赤くなる。

「何でもない。」

 

ラクスはカップを持つ。

「では。」

 

「もう一口。」

キラも笑った。

「うん。」

 

二人は。

もう料理の安全性について話さなかった。

 

ただ。

美味しい珈琲を飲み。

窓の外の夜景を眺め。

静かな時間を楽しんだ。

 

キラが安心させたかった相手は。

最初から。

誰よりもどっしりと。

キラを信じていた。

 

そして。

キラ自身が。

そのことに一番安心させられていた。

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