守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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シン・アスカはカレーを飲んでほしくない

昼。

ホテルレストラン。

 

シン・アスカは、メニューを眺めながら眉をひそめていた。

 

「……高級ディナーとか、俺には合わないんだよな。」

 

向かいに座る桂木弥子が頷く。

「分かる。」

 

「いや、お前は何でも食うだろ。」

「失礼な。」

 

「間違ってないだろ。」

 

シンはメニューを一枚めくる。

 

そこには。

ホテル特製 LEDカレー

 

と書かれていた。

 

「これでいい。」

 

弥子の目が光る。

 

「私も!」

 

シンは嫌な予感がした。

 

「……一皿だよな?」

 

「最初は。」

 

「最初は!?」

 

弥子は笑う。

 

「だって美味しかったら、おかわりしたいじゃない。」

 

「まあ、それは分かるけど。」

 

シンはメニューを見る。

 

「でも、お前の場合。」

 

「何?」

 

「おかわりの単位が怖いんだよ。」

 

「大丈夫だよ。」

 

「今日は控えめにするから。」

 

シンは即答した。

 

「その台詞が一番信用できない!」

 

     ◆

 

しばらくして。

二皿のカレーが運ばれてきた。

 

濃厚な香り。

柔らかく煮込まれた牛肉。

ホテルの料理長が、ヘキサクス社の安全な基礎処方を元に作り上げたカレー。

 

弥子が手を合わせる。

「いただきます!」

 

シンもスプーンを持つ。

「いただきます。」

 

一口。

「……うまい。」

 

素直な感想だった。

 

香辛料の強さだけではなく。

肉の旨味。

野菜の甘味。

後に残る香り。

 

「ちゃんと美味しいカレーだ。」

 

弥子が頷く。

「でしょ?」

 

そして。

二口。

三口。

四口。

 

シンが自分の皿を見る。

もう一口。

 

そして。

弥子を見る。

 

「…………。」

 

弥子の皿は。

ほとんど空だった。

 

シンが固まる。

「……え?」

 

「何?」

「今。」

 

弥子は最後の一口を食べる。

「ごちそうさまでした。」

 

シンは自分の皿を見る。

まだ半分以上残っている。

 

再び弥子を見る。

「……今、噛んだ?」

 

「噛んだよ?」

 

「何回!?」

 

「ちゃんと!」

「ちゃんとじゃ分からないんだよ!」

 

弥子が手を上げる。

「すみませーん!」

 

シンが嫌な予感を覚える。

「何する気だよ。」

 

「おかわり。」

「早い!!」

 

「美味しかったから。」

 

「味わえよ!」

 

「味わったよ!」

 

「速度が味わってる人間じゃないんだよ!」

 

     ◆

 

二皿目。

弥子は嬉しそうに食べる。

 

シンはまだ一皿目。

「お前、本当にすごいな……。」

 

「何が?」

 

「胃袋。」

 

「普通だよ。」

 

「どこの世界の普通だよ。」

 

弥子はスプーンを止める。

 

「シン君も、おかわりすれば?」

 

「まだ一皿目だよ!」

 

「遅いね。」

「お前が速いんだ!」

 

弥子は首を傾げる。

 

「カレーなんだから、これくらい普通じゃない?」

 

「何が普通なんだよ。」

 

弥子は悪びれず。

 

「飲みやすいし。」

 

シンが止まった。

 

「今。」

 

「ん?」

 

「飲みやすいって言った?」

 

「言ったけど。」

 

「カレーは飲み物じゃないからな!?」

 

弥子が不思議そうにする。

 

「そう?」

「そうだよ!!」

 

     ◆

 

そこへ。

レストランの入口が、少しざわついた。

 

シンが振り返る。

「ん?」

 

白を基調とした服。

長い銀髪。

華奢な身体。

一見すれば。

どこかのお嬢様。

 

しかし。

弥子はその姿を見るなり、普通に手を上げた。

 

「あ、ソープさん。」

シンが固まる。

 

「え?」

女性は弥子を見る。

 

「弥子ちゃん!」

 

声も。

話し方も。

完全に女性だった。

 

「あたしも混ざっていい?」

「どうぞどうぞ。」

 

シンが二人を交互に見る。

 

「え?」

 

女性は空いている席へ座る。

 

「こんにちは。」

「あたしソープ。」

 

シン。

「…………。」

 

「シン・アスカです。」

「よろしく。」

 

「…………。」

シンは少し考える。

 

「ソープ?」

「そうよ。」

 

「レディオス・ソープ?」

「そうだけど。」

 

シンの眉が動く。

「え?」

 

弥子が普通にカレーを食べる。

 

「ソープさんだよ。」

「いや!」

 

シンが声を上げる。

「俺が知ってる人と違うんだけど!?」

 

弥子は首を傾げる。

 

「そう?」

「全然違う!」

 

そこへ。

別件でレストランを訪れていたジョーイ係長が、騒ぎを聞いてやって来た。

 

「どないしたんや。」

 

そして。

女性を見る。

 

止まった。

 

「…………。」

 

ソープが手を上げる。

 

「こんにちは。」

 

ジョーイ係長。

 

「…………。」

 

もう一度見る。

 

「……え?」

 

弥子が言う。

 

「ソープさんですよ。」

「いや。」

 

ジョーイ係長が顔を近づける。

 

「ワシが知っとるソープ様と違うんやけど!?」

 

シンが即座に指を差す。

 

「ですよね!?」

「せやろ!?」

 

妙なところで二人の意見が一致した。

 

     ◆

 

ホテルスタッフも困惑していた。

責任者が、手元の接待マニュアルを確認する。

 

「レディオス・ソープ様……。」

ページをめくる。

 

「……。」

 

さらにめくる。

 

「……。」

 

隣のスタッフが小声で尋ねる。

 

「記載、ありますか?」

「ありません。」

「女性時の項目は?」

「ありません。」

 

二人が揃ってソープを見る。

 

ソープは普通に座っていた。

 

「あたし、何か変?」

 

スタッフは即座に答える。

 

「いえ!」

 

そして小声。

 

「マニュアル、改訂ですね。」

 

「はい。」

 

ジョーイ係長が聞きつける。

 

「男女別に接待マニュアル作るんか!?」

 

     ◆

 

ソープはメニューを見る。

 

「何を食べてるの?」

 

弥子が答える。

 

「LEDカレーです。」

「LED?」

 

ソープの目が少し変わった。

 

「何、その名前。」

 

スタッフが説明する。

 

「こちらのカレーは

 以前、怪盗Xi様とバクスチュアル様がお召し上がりになった際

 Xi様が命名されました。」

 

ソープ。

「Xiが?」

 

「はい。」

 

スタッフは続ける。

 

「LEDミラージュの名と

 LEAD、導く、という言葉の過去形。LED。

 

 その二つを掛けたものだと伺っております。」

 

ソープは黙って聞いていた。

 

「さらに

 多くの方々に導かれ

 元の危険なカレーから

 ホテルの料理として先へ進んだ。

 

 その意味も込められているそうです。」

 

ソープは少しだけ目を細めた。

 

そして、にっこり笑った。

 

「……あの子……そんな名前を付けたの。」

 

弥子が頷く。

 

「いい名前ですよね。」

 

ジョーイ係長も腕を組む。

 

「ワシも最初聞いた時、ええ名前や思たで。

 ただのダジャレやと思たら、ちゃんと意味あったしな。」

 

ソープはメニューを見る。

 

「いい名前じゃない。」

 

ほんの少しだけ、嬉しそうだった。

 

「ちゃんと残ってるのね。」

 

シンが聞く。

 

「何がです?」

 

ソープは少し考える。

 

「いろいろ。」

 

「……?」

 

「気にしなくていいわ。」

 

弥子が笑う。

 

そして、空になった皿を置いた。

 

「すみませーん!」

 

シンが振り返る。

 

「お前!今いい話してたのに!」

 

「おかわりお願いします!」

 

「余韻を残せよ!!」

 

     ◆

 

三皿目。

四皿目。

五皿目。

 

シンの顔がだんだん引きつっていく。

 

「待て。」

 

弥子が食べる。

 

「何?」

 

「今、何皿目?」

 

「五。」

 

「さらっと言うな!」

 

弥子が手を上げる。

 

「もう一皿。」

 

シンが立ち上がる。

 

「まだ食うの!?」

 

「だって美味しいし。」

 

「限度ってもんがあるだろ!」

 

そこでちょっと弥子は首を傾げる。

 

「ただ、お金は大丈夫なの?」

 

シンが止まる。

 

「……。」

 

ジョーイ係長も止まる。

 

「……。」

 

弥子も止まる。

 

「……。」

 

三人がゆっくりソープを見る。

 

「?」

 

シンが嫌な予感を覚える。

 

「いや。」

 

「何で全員この人を見るんだよ。」

 

ソープが笑う。

 

「あたしが払うわよ。」

 

シンが即座に立ち上がる。

 

「ダメですよ!」

 

ソープ。

 

「どうして?」

 

「食べてない人に、こんな量の食事代払わせられませんって!」

 

ジョーイ係長が小声で言う。

 

「兄ちゃん。」

 

「はい?」

 

「あんまり気にせんでええ。」

 

「何でです?」

 

ジョーイ係長はソープを見る。

 

そして。

 

「星団一の金持ちや。」

 

シン。

 

「……。」

 

ソープ。

 

「たぶん。」

 

シンが叫ぶ。

 

「情報量多い!!」

 

弥子が嬉しそうに手を上げる。

 

「じゃあ、あと三皿!」

 

シン。

 

「遠慮が消えた!!」

 

ソープは楽しそうに笑う。

 

「好きなだけ食べればいいじゃない。」

 

シンが頭を抱える。

 

「スポンサーとして強すぎるんですよ!!」

 

     ◆

 

やがて、弥子の前には、空の皿が積み重なっていた。

 

シンは結局一皿。

それでも十分満腹だった。

 

ジョーイ係長は皿の山を見る。

 

「……これ、カレーの売上として喜んでええんか?」

 

ソープ。

 

「いいんじゃない?」

 

「売れたんだから。」

 

「それはそうやけど。」

 

ジョーイ係長は弥子を見る。

 

「一人で需要予測壊すタイプやな。」

 

弥子が満足そうにお腹を押さえる。

 

「美味しかったー!」

 

シンは呆れる。

 

「少しはゆっくり食えばいいのに。」

 

「ちゃんと味わったよ。」

 

「絶対嘘だ。」

 

「本当だって。」

 

「じゃあ聞くけど。」

 

シンが指を立てる。

 

「カレーって何?」

 

弥子は即答した。

 

「飲み物。」

 

シンが固まる。

 

「…………。」

 

弥子は満面の笑み。

 

「やっぱりカレーは飲み物でしょ!」

 

シンは今日一番大きな声で叫んだ。

 

「絶対違う!!」

 

レストラン中にシン・アスカの声が響いた。

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