守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
数日後。
ホテル厨房。
普段なら、料理人たちが静かに仕込みを行い
整然と食材や調理器具が並ぶ場所。
その中央に、今日は
見慣れないものが置かれていた。
弥子はそれを見つめていた。
「…………。」
工具箱。
大型ケース。
金属製の棒。
クランプ。
何に使うのか分からない器具。
そしてドリル。
弥子は目を閉じた。
もう一度開く。
やはりドリルがある。
「…………。」
そこへレディオス・ソープがやって来た。
「お待たせ。」
「ソープさん。」
ソープは床に並べられた道具を見る。
少し目を輝かせる。
「へぇ。」
弥子の嫌な予感が
さらに強くなる。
ソープは一本の工具を持ち上げる。
「こんな道具も。」
首を傾げた。
「『調理器具』なんだね。」
弥子は即座に叫んだ。
「コレが普通と思わないでください!!」
ソープが振り返る。
「違うの?」
「違います!」
「でも。」
背後から桂木遥が現れた。
「使うわよ。」
弥子
「即答しないで!!」
遥は楽しそうだった。
エプロン姿。
そして
両手には追加の道具。
弥子が青ざめる。
「まだあるの!?」
「念のため。」
「料理に念のため持ってくる量じゃないよ!」
ソープは感心している。
「なるほど。」
「厨房って固定観念に縛られちゃいけないんだね。」
弥子。
「そこ学習しなくていいです!!」
◆
その少し離れた場所。
ネウロは
腕を組んで眺めていた。
弥子が気付く。
「ネウロ。」
「何だ。」
「なんでそんな安全なところにいるの?」
「危険だからだ。」
「分かってるんじゃん!!」
ネウロは笑う。
「我輩は料理を食う必要がない。だからこそ純粋に観察できる。」
弥子。
「最低だ!!」
ネウロは遥を見る。
「始めろ。」
遥。
「はーい。」
弥子。
「煽るな!!」
◆
遥は材料を並べ始めた。
牛肉。
玉ねぎ。
トマト。
バター。
小麦粉。
赤ワイン。
ここまでは普通だった。
弥子は少しだけ安心した。
「……普通じゃん。」
遥が振り返る。
「何が?」
「いや。」
「ちゃんとハヤシライスの材料だから。」
「当たり前でしょう?」
弥子は胸を撫で下ろした。
「良かった……。」
遥は別のケースを開けた。
弥子。
「…………。」
金色の粉。
何かのプレート。
謎のチューブ。
細い配線。
弥子の顔から再び血の気が引いた。
「待って。」
遥。
「何?」
「それ何?」
「飾り。」
「全部!?」
「全部。」
ソープが覗き込む。
「これは?」
「金色にしたくて。」
「なるほど。」
ソープが頷く。
「面白いね。」
弥子。
「納得しないで!!」
◆
料理は一応ハヤシライスとして進んでいた。
玉ねぎを炒め。
肉を焼き。
ソースを作る。
弥子は慎重に見守っていた。
「……ここまでは普通。」
ネウロ。
「つまらんな。」
弥子。
「料理はつまらないくらいが一番いいの!!」
遥がルーを混ぜる。
「そういえば。」
ソープが尋ねた。
「これ、名前は決めてるの?」
遥。
「まだ。」
ソープは少し考える。
「LEDカレーに刺激を受けたんだよね?」
「そうよ。」
「なら。」
ソープは鍋を見る。
「こっちは金色にしたらどうかな。」
遥の目が輝く。
「金色?」
「うん。」
「LEDミラージュに対抗するなら。」
一拍。
「K.O.G.とか。」
弥子が止まる。
「…………。」
遥。
「K.O.G.?」
ソープ。
「Knight of Gold。」
遥は、ぱっと笑った。
「まあ!素敵!」
弥子。
「成立した!!」
誰も止めていない。
止めるどころか。
企画が今、正式に成立した。
ソープ。
「K.O.G.ハヤシライス。」
遥。
「いいわね!」
弥子。
「良くないです!!」
ネウロが笑う。
「いいではないか。名前だけなら立派だ。」
弥子。
「名前だけって言った!!」
◆
やがてハヤシライスが完成に近づいた。
黄金色。
正確には黄金色であるべきではない料理が
なぜか黄金色に輝いている。
弥子は皿を見つめた。
「…………。」
遥。
「どう?」
弥子。
「どうって。」
一歩下がる。
「ハヤシライスは金色に光らない!」
もう一歩。
「おかしいよコレ!!」
ソープは興味深そうに見る。
「綺麗だけど。」
「料理の評価軸そこじゃないです!!」
ネウロも笑う。
「人間は見た目も味のうちと言うのだろう?」
弥子。
「限度がある!!」
遥は首を傾げる。
「でも。」
「せっかくK.O.G.なんだから。」
「金色じゃないと変でしょう?」
弥子。
「名前から料理を壊さないで!!」
◆
その時だった。厨房の入口から声がした。
「ハラへった!」
全員が振り返る。
すえぞうだった。
弥子。
「すえぞう!」
すえぞうは黄金に光る皿を見る。
「うまそう!」
弥子。
「待って!」
遅かった。
すえぞうは皿へ近づく。ぺろっ。
「…………。」
一瞬。
何も起きなかった。
弥子。
「……?」
ソープ。
「?」
ネウロ。
「ほう。」
そして次の瞬間。
すえぞうの身体がぼん、と光った。
赤。
青。
緑。
紫。
黄色。
そしてまた赤。
全身が周期的に色を変え始めた。
弥子。
「…………。」
遥。
「…………。」
ソープ。
「…………。」
ネウロ。
「…………。」
すえぞう。
「うまい!」
弥子。
「光ったぁぁぁぁぁぁ!!」
◆
すえぞうは何事もないようにぴかぴかと色を変えている。
赤。
青。
緑。
紫。
黄。
弥子は頭を抱えた。
「何これ!!」
ソープはものすごく興味深そうだった。
「面白いね。」
弥子。
「面白がらないで!!」
遥。
「綺麗ねぇ。」
弥子。
「お母さんも褒めないで!!」
ネウロ。
「なるほど。食味だけでなく視覚効果まであるか。」
弥子。
「分析しなくていい!!」
すえぞう。
「うまい!」
弥子。
「本人だけ平気なのが一番怖い!!」
ソープは発光するすえぞうを見る。
「LEDドラゴンだからかな。」
弥子。
「そういうLEDじゃありません!!」
ネウロ。
「名は体を表す。」
弥子。
「今だけ人間界のことわざ使わないで!!」
◆
その時弥子は妙なことに気付いた。
厨房の外に人が多い。
キラ。
ラクス。
シン。
ジョーイ係長。
ホテルスタッフ。
その他。
なぜか見物人が増えている。
弥子が叫ぶ。
「みんな!!なんでこんなに集まってるの!?」
ネウロが当然のように答えた。
「吾輩が呼んだ。」
弥子。
「なんで?!」
ネウロは満面の笑み。
「被害し……。」
一拍。
「観客は多いほうが面白い。」
弥子。
「今、被害者って言った!!」
◆
ラクスが色を変えながら光るすえぞうを眺める。
「まあ!ちょっとキレイですわね。」
キラが即座にラクスの前へ出た。
「危ないよ!下がって!ラクスは僕が護る!」
ラクス。
「キラ?」
シン。
「何から護るんですか?!」
キラ。
「だって!」
すえぞうを見る。
「光ってる!」
シン。
「それはそうだけど!!」
ラクスは楽しそうだった。
「わたくしは大丈夫ですわ。」
キラ。
「でもどういう原理で光ってるか分からないんだよ!」
シン。
「ハヤシライス相手にそんな真剣に?!」
弥子。
「今回はキラ君が正しい!!」
シン。
「ええ!?」
◆
ジョーイ係長は皿を見つめていた。
「……これ。商品化する気ちゃうやろな。」
弥子。
「しません!!」
遥。
「まだ分からないわよ?」
弥子。
「お母さん!!」
ジョーイ係長。
「やめてくれ!」
「正常化室の仕事増やすな!!」
ソープ。
「でも、発光だけ取り除けば」
ジョーイ係長。
「正常化前提で商品増やさんといてください!!」
ネウロは、実に楽しそうだった。
「いいではないか。人間の商売とは新商品が多いほど喜ばしいのだろう?」
ジョーイ係長。
「売れる商品ならな!!」
◆
その騒ぎの中低い声が響いた。
「何をしている。」
全員が止まった。
・・・ログナー。
弥子。
「司令!!ちょうどいいところに!」
ログナーは厨房を見る。
黄金に輝くハヤシライス。
発光するすえぞう。
工具。
人だかり。
そして楽しそうなソープ。
ログナーは数秒沈黙した。
「陛下。」
ソープ。
「何だい?」
「これは何ですか。」
ソープは答える。
「K.O.G.ハヤシライス。」
ログナー。
「…………。」
遥。
「私が作りました。」
ログナー。
「…………。」
ネウロ。
「面白いぞ。」
ログナー。
「…………。」
すえぞう。
「うまい!」
ぴかぴか。キラキラ。
ログナーは深く息を吐いた。
「通行止めだ。」
弥子。
「遅い!!」
◆
その後、すえぞうの発光はおよそ三十分で収まった。
健康上の問題は特に確認されなかった。
ただし、K.O.G.ハヤシライスは当然、一般提供禁止。
ホテルスタッフは
正式に記録した。
試作品。
販売不可。
要原因調査。
ジョーイ係長はその記録を見て頭を抱えた。
「また正常化案件増えた……。」
弥子。
「正常化しなくていいです!封印してください!」
遥は少し残念そうだった。
「美味しいと思うんだけどなぁ。」
弥子。
「そこじゃないの!」
ソープはまだ興味深そうに皿を見る。
「でも、金色から虹色へ変化する仕組みは面白いね。」
弥子。
「研究しないでください!!」
ネウロ。
「次は食べた者の影まで発光するようにしてみろ。」
弥子。
「ネウロは黙ってて!!」
◆
遥は片付けながら娘を見る。
「でも。」
「何?」
「久しぶりに料理できて楽しかったわ。」
弥子は一瞬だけ黙った。
母は本当に楽しそうだった。
悪気は当然まったくない。
弥子はため息をつく。
「……それならまあ良かったけど。」
遥が笑う。
「じゃあ、また作る?」
弥子。
「それとこれとは別!!」
ネウロ。
「次も呼べ。」
弥子。
「呼ばない!!」
ソープ。
「場所ならまた用意するよ。」
弥子。
「用意しなくていいです!!」
遥。
「次はデザートにしようかしら。」
弥子。
「もっと嫌な予感する!!」
すえぞう。
「ハラへった!」
弥子。
「もう食べないで!!」
ホテルの厨房に今日一番大きな弥子の声が響いた。
◆
その日、LEDカレーに対抗して生まれたK.O.G.ハヤシライス。
黄金に輝き、食べた者を虹色に光らせた。
少なくとも名前負け「だけ」はしていなかった。
そして。星団最強のLEDドラゴンの幼生は、
その日だけ本当にLEDのように光った。