守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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岸辺露伴は八宝菜を取材したい

ホテルのレストラン。

 

岸辺露伴は、テーブルに肘をつきながら厨房の方を眺めていた。

 

向かいには泉京香。

 

「先生、本当に食事だけですよね?」

 

「何だ、その確認は」

 

「だって先生が急に『ホテルへ行くぞ』なんて言う時、大抵ろくなことにならないじゃないですか」

 

露伴は鼻で笑った。

 

「ココに来ると変わった料理が食えるというウワサがあってね」

 

泉の表情が曇る。

 

「……それを取材しに来たんですか?」

 

「そうだ」

 

「普通の料理を食べましょうよ!」

 

「普通の料理を取材してどうする」

 

「食事は取材のためにするものじゃありません!」

 

露伴は聞いていなかった。

 

その時、厨房側から桂木遥が姿を現した。

 

「あら?」

 

露伴を見る。

 

「岸辺露伴先生?」

 

「僕を知ってるのか?」

 

「もちろん。弥子も時々お話してるわよ」

 

遥は嬉しそうに笑った。

 

「ちょうどよかったわ」

 

泉の顔が引きつる。

 

「何がです?」

 

「新しい料理を作ったところなの」

 

露伴の目が輝いた。

 

泉の顔から血の気が引いた。

 

「露伴センセ?!」

 

そこへ、少し離れた席から声が飛んできた。

 

「やめとけ」

 

ダグラス・カイエンだった。

 

露伴が振り向く。

 

「何だ?」

 

カイエンは腕を組み、はっきり言った。

 

「オレはもう食わん!」

 

泉が目を丸くする。

 

「そんなに!?」

 

隣にいたソープが楽しそうに笑う。

 

「学習したねぇ……」

 

カイエンが睨む。

 

「誰のせいだと思ってんだヨ!」

 

「僕じゃないよ」

 

「半分くらいお前だヨ!」

 

露伴は興味深そうにカイエンを見る。

 

「何があった?」

 

カイエンは目を逸らした。

 

「聞くな」

 

「聞きたいね」

 

「聞いても食うなヨ」

 

「それを決めるのは僕だ」

 

カイエンはため息をついた。

 

「金色のカレー食ったら、未来の運を前借りした」

 

泉。

 

「はい?」

 

「白銀のシチュー食ったら、一時的に身体が速くなった代わりに、あとでガス欠になった」

 

泉。

 

「はい??」

 

露伴の目はますます輝いていた。

 

「面白い」

 

泉。

 

「面白くありません!!」

 

ソープはにこにこしている。

 

「でしょう?」

 

泉。

 

「同意しないでください!」

 

     ◆

 

遥が大きな皿を持ってきた。

 

湯気。

 

白菜。

 

豚肉。

 

きくらげ。

 

たけのこ。

 

エビ。

 

イカ。

 

にんじん。

 

そして、白い小粒。

 

見た目だけなら、普通の八宝菜だった。

 

見た目だけなら。

 

遥が皿を置く。

 

「今回は八宝菜よ」

 

露伴は皿を覗き込んだ。

 

「八種類?」

 

「だいたいね」

 

弥子も後ろからやって来た。

 

「お母さんの『だいたい』が怖いんだよ……」

 

露伴が白い粒を指差す。

 

「これは?」

 

「うずら卵じゃない?」

 

遥が答える。

 

露伴が箸でつまむ。

 

「……」

 

硬い。

 

箸で少し強く挟む。

 

カチン。

 

泉が嫌な顔をする。

 

「殻付きじゃないですか?」

 

弥子も覗き込んだ。

 

「え?」

 

露伴は指先で転がす。

 

表面は妙に滑らかだった。

 

白く。

 

丸く。

 

光沢がある。

 

「殻じゃない」

 

ソープが興味を示す。

 

「見せて」

 

手に取る。

 

少し眺める。

 

「……これ」

 

弥子が嫌な予感に眉を寄せる。

 

「なに?」

 

ソープが笑う。

 

「真珠っぽいね」

 

全員。

 

「…………」

 

弥子。

 

「は?」

 

遥。

 

「まあ」

 

泉。

 

「まあ、じゃありません!」

 

     ◆

 

後ほどログナーが簡易分析を行った。

 

結果。

 

「真珠層に近い構造だ」

 

弥子が頭を抱えた。

 

「また錬成してる!!」

 

遥は不思議そうだった。

 

「フツーに八宝菜作っただけなのに……」

 

弥子。

 

「もうその台詞聞き飽きたよ!!」

 

ネウロもいつの間にか来ていた。

 

「金」

 

指を一本立てる。

 

「白金」

 

二本目。

 

「真珠」

 

三本目。

 

そして楽しそうに笑う。

 

「金銀パールプレゼントというわけか」

 

弥子。

 

「古い!!」

 

ソープ。

 

「綺麗に揃ったね」

 

弥子。

 

「揃えなくていいです!!」

 

露伴だけは真珠を眺めながら嬉しそうだった。

 

「料理中に真珠が生成された?」

 

「どういう工程だ?」

 

遥。

 

「普通に炒めただけよ?」

 

露伴。

 

「ますます面白い!」

 

泉。

 

「先生、興奮しないでください!!」

 

     ◆

 

問題は。

 

真珠だけではなかった。

 

遥が言う。

 

「それでね」

 

弥子が警戒する。

 

「まだあるの?」

 

「食べる具によって、何か違うみたいなの」

 

露伴が即座に反応した。

 

「違う?」

 

泉。

 

「先生、その顔やめてください」

 

遥。

 

「ちょっと元気になったり、感覚が鋭くなったり」

 

弥子。

 

「誰で試したの!?」

 

遥。

 

「ちょっとだけ味見した人」

 

弥子。

 

「誰!?」

 

ネウロが笑った。

 

「効果が固定されているとは限らんぞ」

 

露伴。

 

「どういう意味だ?」

 

ネウロ。

 

「具材単体ではなく、食べた順番や組み合わせによって変化する可能性もある」

 

露伴の目が完全に取材モードになった。

 

「つまり」

 

「同じ豚肉を食べても、その前に何を食べたかで効果が違う可能性がある?」

 

「そういうことだ」

 

泉。

 

「そこで意気投合しないでください!!」

 

カイエンが遠くから叫ぶ。

 

「だから食うなって言ってんだヨ!!」

 

露伴。

 

「君は黙ってろ」

 

カイエン。

 

「経験者の忠告だぞ!!」

 

     ◆

 

露伴は箸を取った。

 

泉が止める。

 

「先生!」

 

「取材だ」

 

「食べなくても取材できます!」

 

「リアリティがない」

 

「リアリティのために体張りすぎです!」

 

露伴はまず豚肉を一切れ食べた。

 

噛む。

 

飲み込む。

 

数秒。

 

「……」

 

泉。

 

「どうです?」

 

露伴が鼻を動かした。

 

「厨房で胡麻油を使ってる」

 

弥子。

 

「それは普通に分かるんじゃ?」

 

「違う」

 

露伴は目を閉じる。

 

「奥から三番目のコンロだ」

 

厨房スタッフが確認する。

 

「……合っています」

 

泉。

 

「え?」

 

露伴は続ける。

 

「入口近くの客は柑橘系の香水」

 

「廊下の清掃剤は塩素系」

 

「厨房の冷蔵庫に魚が入ってる」

 

弥子。

 

「嗅覚!?」

 

露伴は笑った。

 

「面白い!」

 

泉。

 

「喜ばないでください!」

 

     ◆

 

次。

 

きくらげ。

 

露伴が食べる。

 

数秒。

 

顔が変わった。

 

「……うるさい」

 

泉。

 

「え?」

 

「声が大きい」

 

「普通に喋ってます!」

 

露伴は耳を押さえる。

 

「上の階を歩いている人間がいる」

 

「厨房で皿を洗ってる」

 

「外で車が止まった」

 

カイエン。

 

「今度は聴覚かヨ」

 

弥子。

 

「やっぱり具材ごとに違うんだ!」

 

ネウロは楽しそうだった。

 

「続けろ」

 

泉。

 

「続けさせないで!!」

 

露伴は完全に乗っていた。

 

「次だ」

 

泉。

 

「先生!?」

 

「全種類確認する」

 

「する必要ありません!」

 

露伴はたけのこを食べた。

 

一瞬後。

 

落ちかけたフォークを、異様な速さで掴んだ。

 

「反射神経」

 

次にエビ。

 

立ち上がっても、身体の軸がまったくぶれない。

 

「平衡感覚」

 

イカ。

 

飛んできた紙ナプキンの動きを目で追い、指先で掴む。

 

「動体視力」

 

にんじん。

 

料理の微妙な香辛料まで言い当てる。

 

「味覚」

 

泉は青ざめていた。

 

「先生、もうやめましょう!」

 

露伴は止まらない。

 

「あといくつだ?」

 

弥子。

 

「数えなくていいです!」

 

ネウロ。

 

「全部食えばどうなるか、興味があるな」

 

泉。

 

「あなたも煽らないで!!」

 

     ◆

 

そして。

 

露伴は。

 

八種類全部食べた。

 

数秒。

 

「…………」

 

泉。

 

「先生?」

 

「静かに」

 

「え?」

 

露伴は目を細める。

 

「照明が眩しい」

 

シン。

 

「普通の照明ですよ」

 

「うるさい」

 

「俺まだ何も言ってない!」

 

「服が擦れる感触まで気になる」

 

弥子。

 

「全部強くなってる!?」

 

露伴は眉間を押さえる。

 

「香水」

 

「料理」

 

「洗剤」

 

「足音」

 

「食器」

 

「話し声」

 

「全部入ってくる……」

 

泉。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「声が大きい!」

 

「普通です!!」

 

露伴は椅子へ座った。

 

初めて。

 

少し後悔した顔になった。

 

「これは……」

 

泉。

 

「はい」

 

「取材にならない」

 

泉。

 

「そこ!?」

 

露伴。

 

「情報量が多すぎる」

 

弥子。

 

「ようやく分かった!!」

 

     ◆

 

カイエンは離れたところで腕を組んでいた。

 

「だから言っただろ」

 

露伴が睨む。

 

「得意そうな顔をするな」

 

「今日はオレの勝ちだナ」

 

Xiが横から言う。

 

「師匠、食べなかっただけで勝利判定なの?」

 

カイエン。

 

「最近それがどれだけ難しいか分かってきたんだヨ!」

 

ソープが感心する。

 

「本当に学習したねぇ」

 

「何回言うんだヨ!」

 

     ◆

 

しばらくすると、露伴の感覚は少しずつ元へ戻った。

 

健康上の異常はない。

 

しかしログナーの判断は当然だった。

 

「通行止めだ」

 

遥。

 

「やっぱり?」

 

弥子。

 

「やっぱりって言った!」

 

ログナーは続ける。

 

「効果の再現性がない」

 

「具材、食べる順番、量、組み合わせによって作用が変化する可能性がある」

 

ソープ。

 

「組み合わせを整理すれば」

 

ログナー。

 

「陛下」

 

「分かってるよ」

 

弥子。

 

「今、絶対研究しようとしましたよね!?」

 

ネウロ。

 

「残念だな」

 

泉。

 

「残念じゃありません!」

 

     ◆

 

露伴はメモ帳を取り出していた。

 

泉が呆れる。

 

「まだ取材するんですか?」

 

「当然だ」

 

「懲りてないんですか!?」

 

「懲りる?」

 

露伴は不機嫌そうに言う。

 

「僕は失敗したんじゃない」

 

「八種類同時に食べると、情報過多になるという事実を得たんだ」

 

泉。

 

「それを普通は失敗と言うんです!」

 

露伴は無視してメモを続ける。

 

そして遥を見る。

 

「次は何を作る?」

 

弥子。

 

「聞かないで!!」

 

遥。

 

「そうねぇ」

 

弥子。

 

「考えないで!!」

 

ネウロ。

 

「もっと面白いものにしろ」

 

弥子。

 

「煽らないで!!」

 

ソープ。

 

「場所ならまた」

 

弥子。

 

「用意しなくていいです!!」

 

カイエン。

 

「オレは食わんからナ!」

 

Xi。

 

「師匠だけ学習が進んでる」

 

カイエン。

 

「今回だけは褒めろヨ!!」

 

     ◆

 

テーブルの上には。

 

分析用に残された、小さな真珠。

 

金。

 

白金。

 

そして真珠。

 

桂木遥は。

 

今回も。

 

フツーに料理をしただけだった。

 

少なくとも。

 

本人はそう思っている。

 

露伴は真珠を眺めながら呟いた。

 

「料理中に宝石まで作るか」

 

泉。

 

「先生、漫画にしないでくださいね」

 

露伴。

 

「なぜだ?」

 

「真似する人が出たら困ります!」

 

弥子。

 

「真似できる人いないと思います……」

 

その言葉に。

 

全員が少し黙った。

 

確かに。

 

再現できる気がしない。

 

遥だけが首を傾げた。

 

「普通に作ればできると思うけど?」

 

弥子は。

 

即座に叫んだ。

 

「それが普通じゃないんだよ!!」

 

レストラン中に。

 

弥子の声が響いた。

 

その日。

 

金。

白金。

真珠。

 

桂木遥による

金銀パールプレゼントは完成した。

 

誰も

応募した覚えはなかった。

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