守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

325 / 327
Xiの就職
怪物強盗Xiはアウト・ミラージュを受け取りたくない


平和監視機構コンパスが管理する、とある港湾施設。

 

巨大な整備ドックの一角に、その機体は立っていた。

 

白を基調とした細身のシルエット。

 

通常のモビルスーツとは明らかに異なる肢体。

 

以前、Xiたちにも披露された、怪盗Xi専用として設計されたモーターヘッド。

 

アウト・ミラージュ。

 

シュペルターMark2とも呼ぶべき、その機体の前で。

 

怪物強盗Xiは、露骨に嫌そうな顔をしていた。

 

「……で」

 

隣に立つレディオス・ソープを見る。

 

「今日は何?」

 

ソープは、いつもの穏やかな笑顔だった。

 

「引き渡しだよ」

 

「…………」

 

Xiは数秒黙った。

 

「何を?」

 

ソープがアウト・ミラージュを指した。

 

「これ」

 

「見れば分かるよ!」

 

少し離れた場所で、キラ・ヤマトが苦笑した。

 

シン・アスカは、やや同情した顔でXiを見る。

 

「やっぱり本人、知らされてなかったんですね……」

 

「僕も、もう少し事前に説明した方がいいと思ったんだけど」

 

キラが小声で言う。

 

アスラン・ザラは腕を組んでいた。

 

「機体の引き渡しなら、普通は受領者と日程を調整する」

 

Xiが振り返った。

 

「そう! それ!」

 

ソープは首を傾げる。

 

「でも今日は来られただろう?」

 

「結果論で話すな!」

 

ファルク・U・ログナーが一歩前へ出た。

 

その手には、何枚かの書類がある。

 

「Xi」

 

「……嫌な予感しかしない」

 

「引渡確認書だ」

 

「ほら来た」

 

ログナーは淡々と続けた。

 

「機体本体、付属装備、整備記録、運用上の注意事項。受領後の管理責任についても記載してある」

 

Xiは書類と、背後にそびえるアウト・ミラージュを交互に見る。

 

「待って」

 

「何だ」

 

「僕、これにサインしたらどうなるの?」

 

「受領したことになる」

 

「だからさ」

 

Xiは巨大な機体を指差した。

 

「宅配便のお届けじゃないんだよ!!」

 

整備ドックに声が響いた。

 

シンが思わず吹き出す。

 

キラは口元を押さえた。

 

アスランだけが真面目な顔をしている。

 

「だが、受領確認そのものは必要だ」

 

「アスランまでそっちに回らないでよ!」

 

「手続きとしては必要だ」

 

「規模の話をしてるんだよ!」

 

ログナーは眉一つ動かさない。

 

「受領を拒否するなら、それでも構わない」

 

Xiが動きを止めた。

 

「……本当に?」

 

「ああ」

 

「じゃあ拒否する」

 

「分かった」

 

Xiの表情が、わずかに明るくなる。

 

ログナーは続けた。

 

「本日は持ち帰る」

 

「うん」

 

「後日、改めて引き渡す」

 

「…………」

 

Xiの顔から笑みが消えた。

 

「それ」

 

ログナーを見る。

 

「再配達じゃないか!!」

 

シンがとうとう腹を抱えた。

 

「もう宅配便じゃないですか!」

 

アスランが言う。

 

「笑うな、シン」

 

「だって!」

 

ソープは少し考えてから言った。

 

「時間指定もできるよ?」

 

「サービスを充実させるな!!」

 

その横で。

 

バクスチュアルは、静かにアウト・ミラージュを見上げていた。

 

「大キイ」

 

「うん」

 

Xiもつられて見上げる。

 

「前に見た時も思ったけどね」

 

バクスチュアルは、しばらく機体を見つめて。

 

「Xiサンノ、機体」

 

と言った。

 

Xiがすぐ振り返る。

 

「そこ確定させないで」

 

「違ウ?」

 

「……違うとは言ってないけど」

 

バクスチュアルはXiを見る。

 

「乗ッタ」

 

「乗ったけど」

 

「動カシタ」

 

「動かしたけど」

 

「私モ、乗ッタ」

 

「……そうだね」

 

「Xiサンノ、機体」

 

「論理を積み上げて逃げ道塞ぐのやめてくれる?」

 

バクスチュアルは少し首を傾げた。

 

「ダメ?」

 

Xiは言葉に詰まった。

 

「……そういう聞き方はズルいよ」

 

少し離れた場所で、キラが小声でシンへ言った。

 

「たぶん、もう半分くらい受け取ってるよね」

 

「気持ちの上では?」

 

「うん」

 

アスランが聞きつけた。

 

「聞こえてるぞ」

 

Xiも聞こえていた。

 

「僕にも聞こえてるよ!」

 

そこへソープが、小さなケースを差し出した。

 

「それと、これ」

 

Xiは警戒しながらケースを見る。

 

「今度は何?」

 

「始動キー」

 

「…………」

 

ソープがケースを開く。

 

中には、一見すると意外なほど小さなキーが収められていた。

 

Xiは無言になった。

 

目の前には巨大なアウト・ミラージュ。

 

手元には、その機体を動かすための小さな鍵。

 

「……なんというか」

 

「うん?」

 

「渡される物のサイズ感が合ってないんだよ。」

 

キラが思わず笑った。

 

「それはちょっと分かるかな」

 

ソープはキーを取り出し、Xiへ差し出す。

 

Xiはしばらく見つめた。

 

「これ、普通の鍵じゃないよね」

 

「もちろん」

 

「やっぱり」

 

ログナーが説明する。

 

「始動認証の一部だ。キー単体では起動できない」

 

「一部?」

 

「Xi本人の生体認証、バクスチュアルとのペアリング、機体側の認証系を経て初めて起動する」

 

Xiがキーを見る。

 

「じゃあ、これだけ盗まれても?」

 

「機体は動かん」

 

「……それならまあ」

 

その時だった。

 

少し離れた場所から、ものすごい勢いで誰かが近づいてくる。

 

「なるほど始動キー自体は物理媒体でありながら複数認証系の一端を担っているわけですねつまり単純な形状複製では無意味で内部に何らかの識別情報ないし認証素子が組み込まれている可能性が高いと!」

 

一息。

 

アルバート・ハインラインだった。

 

Xiが一歩引いた。

 

「何?」

 

アルバートはキーを凝視している。

 

「少し貸していただけませんか?」

 

「嫌だよ」

 

「まだ何もしていません!」

 

「だから何をする気なんだよ!!」

 

キラが慌てて間に入る。

 

「アルバートさん、一応これはXiさんの物だから」

 

「もちろん承知しています! ですので、ほんの数分! 外形寸法と重量と材質と電磁特性と内部構造を非破壊で」

 

「最後の方、普通に解析になってるよね?」

 

Xiがキーを握り込んだ。

 

アルバートの視線が追う。

 

Xiはさらに手を背中へ回した。

 

アルバートの顔まで追う。

 

「見るな!」

 

「見るだけです!」

 

「目が分解しようとしてるんだよ!」

 

シンが言った。

 

「そんな目ってあるんですか?」

 

アスランはアルバートを見た。

 

「あるな」

 

「あるんだ……」

 

ログナーが低い声で言った。

 

「そのキーはXiが保管する」

 

アルバートが即座に答える。

 

「承知しました!」

 

「複製もするな」

 

「…………」

 

沈黙。

 

Xiがアルバートを見る。

 

「今なんで黙った?」

 

「何のことでしょう?」

 

「絶対なんか考えたよね!?」

 

ソープが楽しそうに様子を見ている。

 

ログナーは、その表情を見逃さなかった。

 

「陛下」

 

「何かな?」

 

「面白がらないでください」

 

「まだ何も言ってないよ」

 

「お顔に出ています」

 

ソープは少し笑った。

 

Xiはため息をついた。

 

そして、改めてアウト・ミラージュを見る。

 

以前とは少し違って見えた。

 

完成したばかりの珍しい機体でも。

 

誰かが勝手に作った奇妙な贈り物でもない。

 

自分がキーを持つ。

 

バクスチュアルと一緒に乗る。

 

自分以外には、簡単には動かせない。

 

「専用機」

 

という言葉の意味が、急に重くなる。

 

誰にでもなれる自分のために。

 

誰でもない自分専用の機体がある。

 

Xiは、しばらく何も言わなかった。

 

バクスチュアルが、隣から聞く。

 

「Xiサン」

 

「ん?」

 

「嫌?」

 

Xiは少し考えた。

 

「……面倒」

 

「ウン」

 

「大きいし」

 

「ウン」

 

「維持費とか絶対すごいし」

 

ログナーが口を挟む。

 

「そこは心配するな」

 

Xiが振り返った。

 

「そこ心配させてよ! また囲い込まれてる感じするから!」

 

バクスチュアルが少しだけ笑った。

 

Xiはもう一度、手の中のキーを見た。

 

「でもまあ」

 

キーを握る。

 

「……これくらいなら、持っててもいいかな」

 

ソープが微笑んだ。

 

ログナーは何も言わなかった。

 

バクスチュアルは短く、

 

「ウン」

 

とだけ答えた。

 

そして。

 

数秒後。

 

Xiが顔を上げた。

 

「…………待って」

 

全員が見る。

 

Xiはアウト・ミラージュを指差した。

 

「これ、正式に僕が受け取ったとして」

 

「そうなるな」

 

ログナーが答える。

 

「……どこに置くの?」

 

沈黙。

 

キラがアウト・ミラージュを見る。

 

アスランも見る。

 

シンも見る。

 

ソープも見る。

 

バクスチュアルも見る。

 

アルバートだけが、ぱっと顔を輝かせた。

 

「でしたらコンパスでお預かりして私が徹底的に」

 

キラが即座に遮った。

 

「アルバートさんはちょっと黙っててください。」

 

アウト・ミラージュの引き渡しは。

 

無事に終わった。

 

たぶん。

 

問題は。

 

受け取った後のことを、誰も考えていなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。