守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
アウト・ミラージュの正式な引き渡しから、少し後。
平和監視機構コンパス管理下の港湾施設。
巨大な整備区画では、白いモーターヘッドが静かに立っていた。
アウト・ミラージュ。
Xi専用として建造された、シュペルターMark2とも呼ぶべき機体。
その足元で。
桂木弥子は、きらきらした目で機体を見上げていた。
「ついに来たの?! 自分専用の巨大ロボ!」
その隣で、怪物強盗Xiは。
まったく嬉しそうではなかった。
「来たんだよ……」
「いいなあ!」
「何が?」
「だって自分専用だよ! 巨大ロボだよ! 男の子が大好きなロマン、全部詰まってるじゃない!」
Xiは、ゆっくりとアウト・ミラージュを見上げた。
巨大だった。
本当に、巨大だった。
少なくとも、手のひらに乗る始動キーだけを見ていた時より、現実味が増している。
「……弥子」
「はい?」
「ロマンっていうのはね」
Xiは、指を一本立てた。
「遠くから見てる時が、一番ロマンなんだよ」
「え?」
「現物が届くと、現実問題も一緒にやってくるんだよ!」
声が整備区画に響いた。
少し離れたところにいたシン・アスカが振り返った。
「現実問題?」
「そう!」
Xiはアウト・ミラージュを指差した。
「こんな大きいもの、一体どこに置くの?!」
一同。
「…………」
沈黙した。
Xiはさらに続けた。
「僕、車庫証明も取ってない!」
弥子が首を傾げる。
「モーターヘッドって車庫証明いるの?」
「知らないよ!」
「じゃあなんで言ったの?」
「でもこれだけデカいものを『どこでも好きに置いていいですよ』ってことは絶対ないだろ!」
「それはまあ……」
弥子も、もう一度アウト・ミラージュを見上げる。
しばらく考え。
「立ってれば、月極駐車場二台分くらい?」
「そこだけ見ればね!」
そこへ、ジョーイ係長が口を挟んだ。
「立体駐車場は無理やな」
Xiが振り返った。
「真面目に検討するところじゃないだろ!!」
「高さ制限でアウトや」
「高さ制限以前の問題だよ!」
弥子が続ける。
「じゃあ横に寝かせれば?」
「もっと場所取るよ!」
「縦置きなら?」
「家電じゃないんだよ!!」
ジョーイ係長が腕を組む。
「そもそも月極に置くとしても、個人契約か会社契約か決めなアカンな」
「なんでそこだけ急に現実的なんだよ!」
「経費処理あるやろ」
「MHの駐車料金を経費で落とす話を始めないで!!」
シンが、思わず笑う。
「なんか急に巨大ロボじゃなくて、車買った人の会話みたいになってきたな……」
アスラン・ザラは真面目だった。
「そもそも民間の駐車場は無理だ」
「分かってるよ!」
「警備設備がない。整備施設もない。電源系統も対応できない」
「だから分かってるって!」
「それに公道を自走させるわけにもいかない」
Xiが固まる。
「…………」
アスランは続けた。
「保管場所までどう輸送するかも考えないといけない」
Xiは頭を抱えた。
「車庫に入れる前から問題増えた!!」
弥子が感心したように言った。
「巨大ロボって大変なんだねぇ」
「今さら分かった?!」
その時だった。
「でしたら!」
ものすごい勢いで声が飛んできた。
アルバート・ハインラインである。
Xiが嫌そうに振り返る。
アルバートは、すでに妙に嬉しそうだった。
「コンパス管理施設の格納庫でしたら既存設備を流用できます! 大型機用の整備スペースがありますし電源もありますし各種計測装置もありますし何より私が」
Xiが即座に遮った。
「最後!」
「はい?」
「最後の条件が一番不安なんだよ!!」
アルバートは胸に手を当てた。
「私はただ技術者として責任を持って」
「昨日、始動キー貸してって言った人だよね?」
「それは別件です!」
「同じだよ!」
キラ・ヤマトが、困ったように笑いながら間に入った。
「でも、場所としてはコンパスの施設が一番現実的かな」
Xiが見る。
「本当に?」
「少なくとも、今日すぐ置ける場所としては」
「今日すぐ?」
「うん」
キラはアウト・ミラージュを見る。
「大型機を一時的に置ける区画が空いてるから」
Xiは目を細めた。
「……一時的に?」
「一時的に」
「仮置き?」
「仮置き」
「正式な保管じゃない?」
「うん」
Xiは全員を見回した。
「ここ大事だからね」
シンが頷く。
「仮置き」
アスランも頷いた。
「正式な保管場所が決まるまでの暫定措置だ」
ジョーイ係長も言う。
「とりあえず、やな」
Xiはさらに念押しした。
「とりあえず! 本当にとりあえず!!」
「分かってるよ」
キラが苦笑する。
その後ろで。
アルバートだけが、ものすごく嬉しそうな顔をしていた。
Xiは見逃さなかった。
「……なんでそんな嬉しそうなの?」
「気のせいです!」
「絶対違う!」
アルバートはアウト・ミラージュを見上げる。
「では仮置き期間中に可能な範囲で外装形状の精密計測と非接触式材質分析と関節部の可動推定と熱分布測定と」
「何もしなくていい!!」
「非破壊ですよ?!」
「壊す壊さない以前の問題なんだよ!」
キラも慌てて言った。
「アルバートさん、今回は保管だけです」
「はい!」
「解析しない」
「……はい」
「今、間がありましたよね?」
「ありません!」
アスランが低い声で言う。
「工具も持ち込むな」
アルバートが即答した。
「計測器なら?」
「持ち込むな」
「非接触式でも?」
「持ち込むな」
「目視観察は?」
アスランは少し考えた。
「それは止められない」
アルバートの顔が明るくなった。
「ありがとうございます!」
「なんで礼を言うんだ」
シンが呆れた。
弥子は、そんなやり取りを見ながら笑っていた。
「でも、よかったじゃないですか」
Xiが見る。
「何が?」
「とりあえず置く場所は決まったし」
「とりあえずね」
「それに始動キーもXiさんが持ってるんでしょう?」
Xiはポケットへ手を入れる。
そこには、昨日受け取ったばかりの専用キーが入っている。
「……まあね」
「じゃあ勝手に誰かが乗っていくこともない」
「それはそうだけど」
少し離れたところで、アルバートが聞き耳を立てていた。
Xiは即座に睨んだ。
「貸さないからね」
「何も言ってません!」
「顔が言ってる!」
バクスチュアルが静かにアウト・ミラージュを見上げていた。
「ココニ、置ク?」
Xiが答える。
「しばらくだけね」
「仮?」
「そう。仮」
「ウン」
バクスチュアルは素直に頷いた。
Xiは念のため、もう一度周囲を見る。
「本当に仮だからね?」
キラ。
「うん」
アスラン。
「ああ」
シン。
「分かってます」
ジョーイ係長。
「仮置きや」
アルバート。
「もちろんです!」
Xiは一番最後の返事だけ信用しなかった。
こうして。
アウト・ミラージュは、平和監視機構コンパス管理下の格納庫へ移されることになった。
専用格納庫ではない。
専用設備も、まだない。
あくまで既存の大型機用区画へ。
正式な保管場所が決まるまでの。
一時的な。
暫定的な。
仮置きである。
本当に。
仮置きである。
その日の夕方。
格納庫の入口で。
アルバート・ハインラインは、アウト・ミラージュを見上げていた。
キラが声をかける。
「アルバートさん」
「はい!」
「何してるんですか?」
「目視観察です!」
「……それだけですよね?」
「もちろんです!」
アルバートの手には。
メモ帳があった。
キラは数秒、それを見た。
「……本当に、見るだけにしてくださいね」
「承知しました!」
アウト・ミラージュは。
ひとまず。
本当にひとまず。
コンパスに置かれることになった。
そしてXiにはまだ。
車庫証明もなかった。