守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
アウト・ミラージュは現在。
平和監視機構コンパスの管理する格納庫に置かれている。
ただし。
あくまで。
仮置きである。
正式な保管先ではない。
暫定措置。
一時保管。
とりあえず今日のところはここに置いておこう、というだけである。
その点について、怪物強盗Xiは何度も確認していた。
「……仮だからね?」
「分かってるよ」
キラ・ヤマトが苦笑する。
「本当に?」
「うん」
「いつの間にか専用スペースになったりしない?」
「まだ何も作ってないよ」
「電源ライン引いたりしない?」
「既存設備を使ってるだけ」
「整備マニュアルとか」
「まだないよ」
少し離れたところから、アルバート・ハインラインが手を挙げた。
「必要でしたら私が!」
「作らなくていい!!」
Xiの声が格納庫に響いた。
アルバートは残念そうに手を下ろした。
その隣でシン・アスカが呟く。
「なんで預かってる側が一番名残惜しそうなんだ……」
アスラン・ザラが答えた。
「聞くな」
アウト・ミラージュは、何も知らずに静かに立っている。
問題は。
このまま、いつまでも仮置きというわけにもいかないことだった。
◆
その日の午後。
格納庫脇の会議スペースに、関係者が集められた。
テーブルには簡単な資料。
議題。
アウト・ミラージュの正式な保管場所について。
Xiは椅子へ座った瞬間から嫌そうな顔をしていた。
「なんで僕まで会議に出るの?」
ログナーが答える。
「お前の機体だからだ」
「その言葉、だんだん逃げ道を塞ぐ呪文みたいになってきたんだけど」
「事実だ」
バクスチュアルが隣から言う。
「Xiサンノ、機体」
「バクスチュアルまで復唱しなくていいよ」
「ウン」
復唱はやめた。
否定はしなかった。
ジョーイ係長が資料を眺めながら腕を組む。
「そもそもなあ」
Xiが見る。
「何?」
「保管場所いうても、普通の倉庫やったらアカンのやろ?」
アスランが頷く。
「当然だ。警備、整備設備、電力供給、輸送手段。それに機体そのものの機密管理も必要になる」
ジョーイ係長は少し考えた。
そして。
「ほな」
全員を見る。
「ウチで預かったらええんちゃうか?」
Xiが眉をひそめる。
「ウチ?」
「ヘキサクスや」
沈黙。
ジョーイ係長は指を折って説明する。
「仮にも世界的軍需企業やで?」
「仮じゃないよね、それ」
「大型機材の保管設備もある。警備部門もある。重機もある。研究施設も整備部門もある」
「…………」
「物流も自前で持っとる」
「…………」
「運ぶ、置く、守る。少なくとも設備面ではコンパスさんにいつまでも迷惑かけるより、ウチで管理した方が話早いやろ」
Xiは、少し黙った。
悔しい。
珍しく。
かなり筋が通っている。
「……まともなこと言ってる」
ジョーイ係長がテーブルを叩いた。
「ワシいつもまともや!!」
「シックスの会社なのに?」
「そこは会社と会長を分けて考えてくれ!」
キラが苦笑した。
「設備だけ考えれば、確かに選択肢にはなるのかな」
シンも頷く。
「軍需企業なら、こういう大きな機体を扱うノウハウもありそうですし」
ジョーイ係長が胸を張った。
「せやろ?」
アルバートは猛烈に不満そうだった。
「しかしアウト・ミラージュは現在コンパスに仮置きされており我々には既に最低限の保管実績が」
Xiが見る。
「まだ一晩くらいだよ」
「実績です!」
「数字を盛るな」
アスランがアルバートを見た。
「お前の場合は別の問題がある」
「何でしょう?」
「機体を見たがりすぎる」
「技術者ですから!」
「胸を張るな」
そんな中。
ログナーだけは、黙っていた。
ジョーイ係長が気づく。
「ログナー司令?」
「……設備面だけなら」
ログナーが口を開いた。
「ヘキサクスに問題はない」
ジョーイ係長の顔が明るくなる。
「ほな!」
「だが」
ログナーは淡々と言った。
「通行止めだ。」
ジョーイ係長が固まった。
「なんでですの!?」
Xiが小さく息を吐く。
「やっぱりね」
「Xiはん、分かっとったんか!?」
「分からないけど、シックスの会社に僕の機体置くって時点で嫌な予感しかしない」
「私情やん!」
「僕の場合、私情を無視すると大体酷い目に遭うんだよ!」
それは経験則だった。
ログナーは話を続ける。
「理由は単純だ」
ジョーイ係長を見る。
「ヘキサクスは軍需産業だ」
「……そらまあ」
「だからこそ、保管能力が高い」
「ほら!」
「そして」
ログナーはアウト・ミラージュの方を見る。
「だからこそ、預けられない」
ジョーイ係長は首を傾げた。
キラが先に理解した。
「技術情報……」
「ああ」
ログナーが頷く。
「アウト・ミラージュにはA.K.D.側の技術が多数使用されている。機体構造、駆動系、装甲素材、制御技術。詳細はここでは話さないが、単なる大型機械ではない」
アルバートの目が輝いた。
「やはり!」
アスランが睨んだ。
「今そこに食いつくな」
ログナーは続ける。
「ヘキサクスの管理施設に長期間置けば、意図の有無にかかわらず接触する人間は増える」
整備員。
研究者。
警備担当。
設備管理者。
記録システム。
センサー類。
「一度企業の研究資産へ組み込まれたデータは、簡単には切り離せない」
ジョーイ係長の表情が真面目になる。
「社員が信用できへん、いう話ですか?」
「違う」
ログナーは即答した。
「個人の信用ではない」
少し間を置く。
「組織の性質の問題だ。」
ジョーイ係長は黙った。
それなら反論しにくい。
ヘキサクスが玩具会社なら話は違った。
食品会社だけでも違った。
だが、世界的軍需産業である。
そこへ、他勢力の最新技術が詰め込まれたモーターヘッドを常設する。
客観的に考えれば、確かに危うい。
ジョーイ係長が頭を掻いた。
「でも、ウチには今イエッタはんも来てもろてますやん?」
ログナーが頷く。
A.K.D.から派遣されたイエッタ。
ヘキサクス内部で、主にシックスの暴走を監視する役目を担っている。
「イエッタがおれば、会長が勝手に機体いじったりするんは止められるんちゃいます?」
「ある程度はな」
「ほな」
「だが、イエッタ一人で企業全体の情報流通を監視することはできん」
「…………」
正論だった。
Xiも腕を組んだ。
「それにさ」
「なんや?」
「一番の問題」
Xiは嫌そうな顔をした。
「シックス本人がいるじゃないか。」
ジョーイ係長が黙った。
全員も黙った。
強い。
あまりにも強い理由だった。
シンが小声で言った。
「それだけで十分な気がする……」
キラも困ったように笑う。
「否定しにくいね」
その時。
会議用端末から声がした。
『私のことを随分警戒しているようだな』
Xiの顔が歪んだ。
「なんでいるんだよ」
画面には。
ヘキサクス会長。
ゾディア・キューブリック。
通称シックス。
『自社施設の使用について話しているのだろう?』
ジョーイ係長が額を押さえた。
「会長、いつから聞いてたんです?」
『最初からだ』
「盗み聞きやないですか!」
『会議への参加だ』
Xiが呆れた。
「勝手に参加してる時点で盗み聞きだよ」
シックスは気にしない。
『アウト・ミラージュをヘキサクスへ置くことについて、私は反対しない』
Xiがすぐ答えた。
「それが不安なんだよ!」
『私が直接解析しなければよいのだろう?』
ログナーが言った。
「会長」
『何だ?』
「あなたが解析しなくても、会社の研究部門が存在する」
『ならば研究対象から外せばよい』
「記録は?」
『制限する』
「整備データは?」
『必要最低限にする』
ログナーは一拍置いた。
「あなた自身は?」
シックスが僅かに笑った。
『見れば理解できることまで禁じるのか?』
沈黙。
ログナー。
「通行止めだ」
Xiが両手を上げた。
「自分で保管案潰したよ、この人!!」
ジョーイ係長が机へ突っ伏した。
「なんで最後の最後で余計なこと言うんですか会長!!」
『事実を述べただけだ』
「それがアカンねん!!」
アルバートが何故か少し嬉しそうだった。
「ということは、当面はコンパスで!」
Xiが睨む。
「仮置きだから!」
「もちろんです!」
「嬉しそうに言うな!」
ログナーはアルバートを見る。
「ハインライン博士」
「はい!」
「勘違いするな」
「何をでしょう?」
「ヘキサクスよりマシというだけだ」
アルバートの笑顔が固まった。
シンが吹き出した。
「すごい評価だ……」
キラがフォローする。
「アルバートさん、信頼されてないわけじゃないですよ」
アスランが言う。
「いや、技術面では警戒されているだろう」
「アスラン!」
「事実だ」
Xiは深くため息を吐いた。
結論。
アウト・ミラージュをヘキサクス社管理下へ置く案は。
通行止め。
当面。
本当に当面。
正式な保管先が決まるまで。
コンパス管理施設への仮置きが継続されることとなった。
「だから」
Xiが全員へ念を押す。
「まだ仮だからね?」
キラ
「うん」
アスラン
「ああ」
シン
「はい」
アルバート
「承知しています!」
Xiは最後だけ少し疑った。
一方。
ジョーイ係長は、別のことを考えていた。
今回、アウト・ミラージュをヘキサクスへ置けなかった理由。
その一つは。
自社の会長。
ゾディア・キューブリックの存在だった。
イエッタがいる。
だが、一人では限界がある。
もっと。
会長の思考を知っていて。
会長の悪意を読めて。
会長本人へ遠慮なく物を言えて。
会長が何より強く意識する人物。
そんな人間が。
もし社内にいたら。
「…………」
ジョーイ係長は。
ゆっくりと顔を上げた。
その視線の先には。
Xiがいる。
「……Xiはん」
Xiが嫌そうな顔をした。
「何」
「ちょっと聞きたいんやけど」
「嫌だ」
「まだ何も言うてへん!」
「その顔は絶対ろくでもない話だよ!」
ジョーイ係長は笑った。
「機体はウチに置かれへんとしてや」
「うん」
「あんた本人やったら、置けるんちゃうか?」
Xiは数秒。
黙った。
「…………」
そして。
「僕を荷物みたいに言うな!!」
◆
アウト・ミラージュの保管場所は。
まだ決まっていない。
だが。
代わりに。
怪物強盗Xi自身の置き場所が、検討され始めていた。