守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
怪物強盗Xiはヘキサクスに籍を置きたくない
MHアウト・ミラージュをヘキサクスで保管する案は、却下された。
理由はいくつかある。
世界的軍需企業であるヘキサクスの研究施設に、A.K.D.の先端技術が詰まったモーターヘッドを長期間置くこと自体が好ましくない。
そして。
もう一つ。
ヘキサクスには。
ゾディア・キューブリックがいる。
通称、シックス。
怪物強盗Xiの生みの親にして。
ヘキサクス会長。
そして。
放っておけば何をするか分からない人物である。
「……そこまで言われる会長って、会社としてどうなの」
Xiが呟いた。
場所は、ヘキサクス本社。
会議室の一角。
アウト・ミラージュ保管問題についての話し合いは終わったはずだった。
なのに。
なぜかXiは、また呼び出されていた。
正面にはジョーイ係長。
その隣には、A.K.D.から派遣されているイエッタ。
Xiの隣にはバクスチュアル。
「で」
Xiは椅子へ深く座った。
「今度は何?」
ジョーイ係長が笑った。
「まあまあ」
「その『まあまあ』で始まる話、最近ろくなものがないんだけど」
「今回は会社にとって大事な話や」
「僕にとっては?」
「……たぶん大事や」
「今、間があったよね?」
イエッタが静かに口を開いた。
「Xiさん」
「はい」
「昨日の件について、少し考えていました」
「アウト・ミラージュ?」
「それもあります」
イエッタはテーブルへ資料を置いた。
「ヘキサクスへアウト・ミラージュを置くことが難しい理由の一つとして、ゾディア会長の存在が挙げられました」
Xiは即答した。
「妥当だね」
「本人の子どもが即答すんなや」
ジョーイ係長が突っ込む。
Xiは肩をすくめた。
「事実だろ?」
誰も否定しなかった。
ジョーイ係長も否定できなかった。
イエッタは続ける。
「現在、私はゾディア会長の行動を監視するため、A.K.D.から派遣されています」
「うん」
「しかし」
ほんの少し、間があった。
「私一人では限界もあります」
ジョーイ係長が勢いよく頷いた。
「そやろ!」
Xiが二人を見比べる。
「……なんか、もう嫌な方向へ話が進んでない?」
イエッタは平然としていた。
「私は、ゾディア会長が、何をしているかを見ることはできます」
「はい」
「ですが」
Xiを見る。
「会長が、なぜそれをしているのか。何を面白がっているのか。最終的に何を狙っているのか。そこまで読む能力については、Xiさんの方が優れている場合があります」
Xiは黙った。
ジョーイ係長が、待ってましたとばかりに身を乗り出した。
「そうやねん!」
「近い近い」
「ワシらな、会長がなんか始めてから気付くんや」
ジョーイ係長は指を折った。
「変な商品作った」
一本。
「特殊作用足した」
二本。
「量産した」
三本。
「営業に回ってきた」
四本。
「ほんで最後にワシが」
両手を広げる。
「なんやこれぇぇぇぇぇ!!」
Xiは吹き出しそうになった。
「それは……まあ」
「毎回や!」
イエッタが頷く。
「Xiさんの場合、そのもっと前の段階で気付ける可能性があります」
「……例えば?」
「会長が企画書を見て笑った時点で」
Xiは少し考える。
「ああ」
即答した。
「嫌な笑い方なら分かるかも」
ジョーイ係長がテーブルを叩いた。
「それや!!」
「だから大声出さないで!」
「ワシらには、その違いが分からへんねん!」
「そんな特殊技能みたいに言われても」
イエッタが続ける。
「私が会長の行動を監視する」
指を一本。
「Xiさんが目的を読む」
二本。
「そしてジョーイ係長が、必要なら社内手続きを止める」
三本。
ジョーイ係長が満足そうに頷いた。
「完璧や」
Xiが嫌そうな顔をした。
「僕を会長対策システムの部品にしないでよ」
「部品ちゃう」
「何?」
ジョーイ係長は真顔になった。
「最後の安全装置や。」
一瞬。
Xiは黙った。
冗談ではない。
それが分かった。
ジョーイ係長は、少しゆっくり話した。
「今までは、会長がやらかしてから止めとった」
回収。
補償。
在庫処分。
正常化。
取引先への謝罪。
経理への説明。
「それやと遅いねん」
「…………」
「事故が起きてから片付けるんやなくて」
ジョーイ係長は言った。
「起きる前に止めたい。」
Xiは、しばらく何も言わなかった。
バクスチュアルも黙っていた。
やがてXiが言う。
「……僕がシックスを止められる保証なんてないよ」
イエッタが答える。
「ありません」
「即答するんだ」
「誰にも保証はできません」
イエッタは淡々としている。
「ですが、今より可能性は上がります」
「…………」
「それで十分です」
Xiは椅子の背にもたれた。
「面倒だなぁ……」
バクスチュアルが横を見る。
「Xiサン、嫌?」
「嫌」
即答。
「すごく嫌」
「ウン」
「でも」
Xiはジョーイ係長を見る。
「この会社が、また変な後始末ばっかりしてるのも……まあ、知ってるし」
ジョーイ係長は何も言わなかった。
「開発の人たちが作ったものまで、全部失敗扱いされるのも違うと思う」
以前。
株主総会で。
Xi自身が、それを証言した。
売れない商品を作ったのではない。
売れる商品へ。
父が。
売れなくなる理由を足したのだと。
バクスチュアルが、小さく言った。
「Xiサン、分カッテル」
「何が?」
「困ッテル人」
Xiは少し嫌そうに笑った。
「……そういうこと言うの、ズルいよ」
「ウン」
否定しなかった。
ジョーイ係長は、そこでようやく表情を緩めた。
「ほな」
Xiがすぐ警戒する。
「待って」
「まだ何も言うてへん」
「その『ほな』も危険なんだよ」
ジョーイ係長は資料を一枚取り出した。
「問題はな」
「問題?」
「Xiはんが今のままやと、社内でできることに限界がある」
Xiの目が細くなる。
イエッタが説明した。
「社外の人間には、会長室内部の資料や予定、進行中の企画情報へ自由にアクセスさせることはできません」
「それは当然だね」
「つまり」
「…………」
イエッタを見る。
イエッタは言った。
「社内に正式な立場を持つ方が合理的です」
Xiはゆっくりジョーイ係長を見た。
ジョーイ係長が笑った。
「まずは会長室直属あたりでどないや?」
「嫌だよ」
「返事早いな!」
「だって絶対面倒だろ!」
「ほな」
「ほな?」
「会長室長」
Xiが立ち上がった。
「なんで昇格した!?」
ジョーイ係長も立ち上がる。
「権限いるやろ!」
「だからっていきなり室長!?」
イエッタが冷静に言った。
「権限を考慮すると、会長室長は合理的かもしれません」
Xiが振り返る。
「イエッタまで!?」
「会長の指示による企画へ異議を出す場合、一定以上の職位は必要です」
「そこまで真面目に検討しないでよ!」
ジョーイ係長は指を立てた。
「ほら!」
Xiが叫ぶ。
「さっきから『ほら』で僕の人生決めるな!!」
バクスチュアルが首を傾げた。
「室長?」
「違う」
「Xiサン、室長?」
「まだ違う!」
「会長室長?」
「肩書きを馴染ませないで!!」
ジョーイ係長は笑っている。
だが。
Xiはふと、あることに気付いた。
「待って」
「なんや?」
「そもそもさ」
ジョーイ係長を見る。
「シックスは僕をヘキサクスに入れたいんだよ」
「……まあな」
「最終的には会社を継がせたい」
「それも聞いとる」
「僕がここに籍を置いたら」
Xiは嫌そうに言った。
「あいつの思惑通りにならない?」
今度は。
ジョーイ係長が少し黙った。
イエッタも考える。
大事な点だった。
Xiは、ヘキサクスへ入りたくない。
単に働きたくないからではない。
シックスが望む「後継者」という椅子へ近づくこと自体を嫌っている。
ジョーイ係長は。
やがて。
首を横へ振った。
「同じちゃう」
「何が?」
「あんたが会長に言われて入るんと」
Xiを見る。
「あんた自身の条件で入るんは、全然ちゃう。」
Xiは黙った。
「会長の後継者として来い、いう話やない」
ジョーイ係長は続けた。
「ワシが欲しいんは」
少し笑う。
「会長に忠実な人間やない」
そして。
「会長に『アカン』言える人間や。」
静かになった。
Xiは。
返事をしなかった。
少なくとも。
すぐには。
バクスチュアルがXiを見る。
「Xiサン」
「何?」
「自分デ、決メル?」
Xiは小さく息を吐いた。
「……そうだね」
それなら。
少しだけ。
意味は違うのかもしれない。
父親に押し込まれるのではなく。
自分で。
条件を選ぶなら。
だが。
「考えるだけだからね」
ジョーイ係長の顔が明るくなった。
「おっ!」
「考えるだけ!」
「分かっとる!」
「まだ入らないよ!」
「分かっとる!」
「会長室長にもならない!」
「そこは要相談や!」
「分かってないじゃないか!!」
いつもの声が会議室に戻った。
話し合いは。
その日は、そこで終わった。
Xiはまだ。
ヘキサクス社員ではない。
会長室直属でもない。
もちろん。
会長室長でもない。
◆
ただ。
帰り際。
ジョーイ係長は、自分のメモへ何かを書き込んでいた。
Xiは嫌な予感がして覗き込む。
「……何書いてるの?」
「いや、別に」
「見せて」
「大したことやない」
Xiがメモを奪った。
そこには。
会長室長
Xi
と書いてあった。
その下に。
小さく。
名刺?
Xiは顔を上げた。
ジョーイ係長は目を逸らした。
「…………」
「…………」
「ジョーイ」
「なんや?」
「まだ刷るなよ。」
「…………」
「なんで黙るんだよ!!」
怪物強盗Xiは。
まだヘキサクスに籍を置いていない。
だが。
外堀は。
また一つ。
静かに埋まった。