守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
ヘキサクス本社。会議室。
その日の出席者は。
ジョーイ係長。
ファルク・U・ログナー。
イエッタ。
そして。
バクスチュアル。
一人。
明らかに足りない人物がいる。
「ほな」
ジョーイ係長が資料を開いた。
「Xiはんが自分で選べるように、こっちで条件整理しとこか」
ログナーが頷く。
「本人の意思を尊重することが前提だ」
イエッタも頷いた。
「異論ありません」
バクスチュアル。
「Xiサン、自分デ、決メル」
「せや」
ジョーイ係長も力強く頷いた。
「そこは絶対や」
四人の認識は一致した。
本人の意思を尊重する。
無理強いはしない。
選択するのはXi自身。
実に真っ当な会議だった。
ジョーイ係長が次の資料を出す。
「まず役職やけど」
「…………」
「会長室長でええかな」
ログナー。
「権限上は妥当だろう」
イエッタ。
「私もそう思います」
バクスチュアル。
「室長」
本人不在で。
いきなり役職が決まりかけた。
「会長室直属やと、他部署に対する指示権が弱い場合あるからな」
ジョーイ係長は真面目だった。
「ゾディア会長が妙な企画を動かした時、Xiはんが意図を読めても、止める権限がありません、では意味ないやろ?」
イエッタが頷く。
「一定以上の職位は必要でしょうね」
「せやろ」
ジョーイ係長はメモを取る。
役職候補・会長室長。
ログナーが言う。
「勤務形態は?」
「そこやな」
ジョーイ係長は腕を組んだ。
「常時出社させる必要はないと思うんや。会長の監視と重要案件の確認が主目的やし」
イエッタも考える。
「私との情報共有ができれば、ある程度は遠隔でも可能です」
バクスチュアル。
「自由、アル?」
ジョーイ係長が彼女を見る。
「できるだけ残したいな」
「Xiサン、自由、好キ」
「知っとる」
ログナーが淡々と言った。
「拘束しすぎれば逃げる」
ジョーイ係長。
「それも知っとる」
バクスチュアル。
「逃ゲル」
「断言されたで」
さらに。
ジョーイ係長は資料をめくった。
「給与は責任相応として」
ログナー。
「危険手当も必要だろう」
「危険手当?」
ジョーイ係長が顔を上げる。
ログナーは平然と答えた。
「シックスを監視するのだろう」
一同。
「…………」
ジョーイ係長。
「それ、労災的に認められるんやろか」
イエッタ。
「業務上の危険性はありますね」
バクスチュアル。
「危険」
ジョーイ係長。
「会長本人が危険手当の理由になる会社って何やねん……」
本人の会社だった。
そこで。
ジョーイ係長が、さらに一枚の紙を取り出した。
「ほんで、社外で動くならこれも要ると思うんや」
イエッタが見る。
「名刺ですか?」
「せや」
ログナーが紙を見る。
そこには。
簡単なレイアウト案が印刷されていた。
表面。
株式会社ヘキサクス
会長室長
Xi・キューブリック
ログナーが少しだけ眉を動かした。
「姓まで入れたのか」
「対外的には分かりやすいやろ」
ジョーイ係長が答える。
「ゾディア・キューブリック会長との関係も一発で伝わる」
イエッタは少し考えた。
「効果は大きいと思います。ただし」
「なんや?」
「それを名乗るかどうかは、Xiさん本人に確認すべきですね」
「もちろんや」
バクスチュアルは、その文字を見ていた。
「Xi・キューブリック……」
少し考えて。
「Xiサンノ、名前?」
「候補や」
ジョーイ係長が答える。
「本人が嫌やったら変える」
「ウン」
ここだけは。
ちゃんとしていた。
その時。
ログナーが名刺案を手に取った。
「裏面は?」
ジョーイ係長がニヤリとする。
「ありますで」
「何が?」
「もう一個の肩書き」
紙をひっくり返す。
そこには。
英字で。
A.K.D. MIRAGE KNIGHTS
そして。
LEFT No. XI
ログナーが見る。
イエッタも見る。
バクスチュアルも見る。
「Xi」
バクスチュアルが言った。
「XI」
ジョーイ係長が笑う。
「やろ?」
ログナーは何も言わなかった。
その時。
会議室の扉が開いた。
「何してるの?」
全員が振り返った。
怪物強盗Xiが立っていた。
「…………」
ジョーイ係長。
「おう」
Xiは部屋を見る。
ログナー。
イエッタ。
バクスチュアル。
ジョーイ係長。
そして。
自分の名前が大量に書かれている資料。
「……何してるの?」
もう一度聞いた。
ジョーイ係長が答える。
「条件整理や」
「誰の?」
「Xiはんの」
「僕抜きで!?」
ジョーイ係長は慌てた。
「いやいや! 勝手に決めるためちゃうで!」
「じゃあ何のためだよ!」
「Xiはんが選びやすいように、選択肢を整理しとるだけや!」
Xiは机の上を見る。
会長室長。
勤務形態。
給与。
危険手当。
そして。
名刺。
Xiはゆっくり顔を上げた。
「……外堀を埋めることを『選択肢の整理』って言うな!!」
「埋めてへん!」
「めちゃくちゃ埋まってるよ!」
Xiは紙を一枚取った。
「会長室長?」
ジョーイ係長。
「候補や」
「危険手当?」
ログナー。
「必要だろう」
「シックス相手だから?」
「ああ」
「そこは納得できるのが嫌だな!!」
そして。
Xiは名刺案を見た。
「…………」
表面。
株式会社ヘキサクス
会長室長
Xi・キューブリック
「…………」
ジョーイ係長が少し身構える。
Xiは名前の部分を指差した。
「まずこれ」
「なんや?」
「キューブリックって何」
「会長の姓や」
「知ってるよ!」
「血縁関係も分かりやすいし」
Xiは嫌そうに顔を歪めた。
「僕、自分から『シックスの息子です』って世界中に宣伝したくないんだけど」
イエッタが言った。
「そこは変更可能です」
「当然だよ!」
ジョーイ係長も頷いた。
「名前は本人が決めたらええ」
Xiは少しだけ安心した。
「……それならまあ」
ジョーイ係長。
「裏もあるで」
Xiの顔が固まった。
「裏?」
ひっくり返す。
A.K.D. MIRAGE KNIGHTS
LEFT No. XI
Xiは。
しばらく。
動かなかった。
「…………」
そして。
「もうナンバーまで決まってるの?!」
ログナーが答える。
「案だ」
「しかも!」
Xiは指差した。
「『XI』ってローマ数字で11じゃないか!!」
ログナー。
「そうだ」
「僕の名前もXi!」
「ああ」
「LEFT No. XI!」
「ああ」
「…………」
Xiはログナーを睨んだ。
「これ、絶対僕の名前に合わせたよね?」
ログナー。
「空いていたのでな」
「嘘だ!!」
ジョーイ係長が吹き出した。
「覚えやすくてええやん」
Xiが振り返る。
「覚えやすさの問題じゃない!」
イエッタ。
「識別性は非常に高いですね」
「実務面から援護しないで!」
バクスチュアルは名刺を見ながら言った。
「Xi、XI」
Xi。
「楽しそうに言わないで!」
ログナーは平然としている。
Xiはさらに詰め寄った。
「そもそも僕、まだミラージュ騎士団に正式加入してないよね?」
「していない」
「じゃあこれは何?!」
「案だ」
「案の完成度が高すぎるんだよ!!」
Xiは頭を抱えた。
そして。
改めて名刺を見る。
表。
ヘキサクス。
裏。
ミラージュ騎士団。
「……待ってよ」
Xiの声が少し真面目になった。
「ヘキサクスか、ミラージュか」
全員を見る。
「せめてどっちかにしようよ。責任が重いよ!!」
ログナーが答えた。
「兼務・兼業の前例はある」
Xiが顔を上げる。
「あるの?」
「ああ」
「誰?」
ログナーは淡々と言った。
「バーグル・デ・ライツァー」
Xi。
「……誰?」
「シャフトだ」
「それで?」
「ミラージュ騎士団のレフトナンバーでありながら、カステポーでは秘密結社ローゼンクロイツを率いていた」
Xiは一瞬。
理解した。
そして叫んだ。
「前例のクセが強い!!」
ジョーイ係長。
「ほな問題ないやん」
「問題しかないよ!!」
Xiはログナーへ向き直る。
「その人が両方やってたからって、僕も両方やる理由にはならないだろ!」
「ならん」
「ほら!」
ログナーは続けた。
「だが、できない理由にもならん」
Xi。
「そういう詰め方やめて!!」
その時。
会議室の外から声がした。
「何騒いでんだヨ」
ダグラス・カイエンが入ってきた。
「カイエン」
ログナーが見る。
「なんだヨ。面白そうな話してんじゃねぇか」
Xiが嫌そうに言う。
「僕の就職と所属について勝手に盛り上がってるんだよ」
カイエンは名刺案を覗き込んだ。
「へぇ」
表。
「ヘキサクス会長室長」
裏。
「ミラージュレフト」
カイエンは笑った。
「いいじゃねぇか」
Xi。
「どこが!」
カイエンは気楽に肩をすくめた。
「オレなんざ、ハスハの剣聖で、ミラージュ騎士団のエースナンバーで、カステポー・ナイトギルドの総評議長で」
指を折る。
「ついでに、星団最強・最高額の賞金首でもある」
Xiが即答した。
「最後だけ明らかに両立しちゃいけない肩書きだろ!!」
「気にすんなヨ」
「気にするよ!」
カイエンは笑う。
「怪物強盗でミラージュ騎士団なんざ軽い軽い~」
「師匠を基準にしないで!!」
ログナーが静かに言った。
「カイエンを前例に考える必要はない」
Xiが胸を撫で下ろした。
「よかった」
「シャフトという、より適切な前例がある」
Xi。
「そっちも秘密結社のトップだろ!!」
カイエンが大笑いした。
「似たようなモンじゃねぇか」
Xiは頭を抱えた。
「ミラージュ騎士団の『問題ない』の基準がおかしいんだよ……」
笑いが少し落ち着いたあと。
Xiは。
もう一度。
名刺を見た。
表。
ヘキサクス。
裏。
ミラージュ。
二つの肩書き。
二つの組織。
自分の名前。
Xiは小さく呟いた。
「……僕さ」
誰も口を挟まなかった。
「誰にでもなれるんだよ」
それは。
今さら説明する必要もない。
Xiの能力。
全身の細胞を変化させ。
他人の姿へ。
声へ。
表情へ。
仕草へ。
誰にでもなれる。
「昔から、ずっと思ってた」
Xiは名刺を見る。
「何にでもなれるなら……僕自身って、何なんだろうって」
少しだけ。
静かになった。
「だから」
Xiは笑った。
少し。
困ったように。
「所属が増えすぎると、また分からなくなりそうで嫌なんだよ」
ヘキサクスの人間。
ミラージュ騎士。
シックスの息子。
怪物強盗。
アウト・ミラージュの主。
バクスチュアルのパートナー。
いくらでも名前が増えていく。
「僕は結局、何になるんだろうね」
ログナーが答えるより早く。
バクスチュアルが言った。
「Xiサン」
Xiが見る。
「何?」
バクスチュアルは。
いつものように。
短く。
言った。
「Xiサンハ、Xiサン」
Xiは。
黙った。
「…………」
バクスチュアルは、それ以上説明しなかった。
Xiがヘキサクスへ入っても。
ミラージュになっても。
誰かへ変身しても。
「Xiサンハ、Xiサン」
それだけだった。
Xiは少し笑った。
「……それだけ?」
「ウン」
「ヘキサクスに入っても?」
「ウン」
「ミラージュになっても?」
「ウン」
「誰かに変身してても?」
バクスチュアルは。
同じように答えた。
「Xiサンハ、Xiサン」
Xiは。
今度こそ。
しばらく何も言わなかった。
ログナーが静かに言う。
「所属は、お前を説明する肩書きにはなる」
Xiが見る。
「だが」
ログナーは続ける。
「お前自身を決めるものではない」
「…………」
「何を選ぶかは、お前が決めろ」
Xiは名刺を見る。
カイエンが横から言った。
「肩書きなんざ、いくつあったっていいんだヨ」
「師匠が言うと妙に説得力あるな……」
「だろ?」
「反面教師としてね」
「オイ」
ジョーイ係長も。
今度は少し真面目に言った。
「ワシらは選択肢出すだけや」
Xi。
「……外堀も埋めてるけどね」
「それは」
ジョーイ係長は目を逸らした。
「まあ」
「否定しろよ!」
空気が戻った。
Xiは名刺を机へ置いた。
「とにかく」
指を立てる。
「まだ決めないからね」
ジョーイ係長。
「分かっとる」
「会長室長も」
「候補や」
「LEFT No. XIも」
ログナー。
「候補だ」
Xiはログナーを見る。
「11番、本当に偶然?」
「空いていた」
「まだ信じてないからね!」
そして。
Xiは名刺を見る。
「これ」
ジョーイ係長。
「ん?」
「まさかもう印刷してないよね?」
ジョーイ係長が笑った。
「大丈夫や」
Xiはほっとした。
「今回は」
「…………」
「まだ五千枚は刷ってへん」
Xiの顔が固まった。
「『まだ』って何!?」
「サンプル一枚だけや!」
「本当だろうな!」
「今回は慎重に行っとる!」
「前科あるから信用できないんだよ!」
ジョーイ係長は名刺の試作品を持ち上げた。
「せやけど」
「何?」
「デザイン、悪ないやろ?」
Xiは。
少しだけ。
見る。
表には。
まだ仮の肩書き。
仮の姓。
裏には。
まだ仮の番号。
全部。
まだ。
仮だった。
「…………」
Xiは名刺を取った。
ジョーイ係長の目が光る。
Xiは即座に言った。
「見るだけだからね!!」
「分かっとる!」
「持って帰らないよ!」
「分かっとる!」
「これで承諾したことにもならない!」
「分かっとる!」
バクスチュアルが横から言った。
「Xiサンノ、名刺」
Xi。
「まだ違う!」
「仮?」
「そう!」
バクスチュアル。
「仮名刺」
Xiは。
少し考えて。
「……まあ、それなら」
ジョーイ係長。
「ほな次は正式版やな」
Xi。
「だから話を進めるな!!」
怪物強盗Xiは。
まだ。
ヘキサクス会長室長ではない。
まだ。
ミラージュ騎士団レフトナンバーXIでもない。
そして。
名刺も。まだ一枚しかない。
ただし。
その一枚には。
これからXi自身が選ぶかもしれない。
いくつもの未来が。
表と裏に。
印刷されていた。