守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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怪物強盗Xiは魔人を連れて出社したい 前編

ヘキサクス本社会長室。

 

ゾディア・キューブリックは、社内ネットワークに保存された一つのファイルを眺めていた。

 

ファイル名。

 

『会長室長名刺案_Xi_仮』

 

「…………」

 

画面には。

 

> 株式会社ヘキサクス。

> 会長室長。

> Xi・キューブリック。

 

シックスは。

 

ゆっくりと口元を歪めた。

 

「……ほう」

 

もちろん。

 

まだ正式決定ではない。

 

本人の了承もない。

 

ジョーイ係長が作った、ただの試案である。

 

だが。

 

そんなことは。

シックスにとって、たいした問題ではなかった。

 

◆

 

数分後。

 

Xiの端末に着信が入った。

 

「……嫌な予感しかしない」

 

発信者を見た時点で

嫌な予感は確信へ変わった。

 

ゾディア・キューブリック。

 

Xiはしばらく画面を眺め。

 

ため息をついてから応答した。

 

「何」

 

『随分な挨拶だな』

 

「相手によるんだよ」

 

『社内ネットワークで興味深いものを見つけた』

 

Xiの眉が動いた。

 

「……何を?」

 

『お前の名刺だ』

 

「…………」

 

数秒。

 

「なんで見てるの!?」

 

『共有領域に保存されていた』

 

「だからって会長が勝手に漁るなよ!」

 

『私は会長だ』

 

「万能免罪符みたいに使うな!」

 

シックスは気にしない。

 

『Xi・キューブリック』

 

Xiの顔が露骨に嫌そうになった。

 

「まだ仮案だからね」

 

『悪くない』

 

「僕は良くない!」

 

『私の姓を名乗ることに、それほど抵抗があるか?』

 

「あるよ!」

 

『なぜだ?』

 

「あなたとの関係を名刺一枚で全世界に宣伝することになるからだよ!!」

 

シックスは笑った。

 

『分かりやすくていいではないか』

 

「僕にとっては最悪なんだよ!」

 

そして。

 

シックスは、何でもないことのように言った。

 

『ところで』

 

「何」

 

『もしヘキサクスへ来ることになったら』

 

Xiは警戒した。

 

『会社では、私をパパと呼びなさい』

 

「…………」

 

Xiは。

 

一度。

 

端末を耳から離した。

 

画面を確認する。

 

確かにシックスだった。

 

もう一度耳へ戻す。

 

「……今なんて?」

 

『会社ではパパと呼びなさい』

 

Xiは叫んだ。

 

「絶対嫌だ!!」

 

『そうか』

 

「普通逆だろ!?」

 

『何がだ』

 

「家ではパパ、会社では会長! 普通そっちだろ!!」

 

『私は逆がいい』

 

「知るか!!」

 

『では出社した時に改めて話そう』

 

「まだ入社してないよ!」

 

『そうだったな』

 

「忘れるな!」

 

通話は切れた。

 

Xiは。

 

しばらく。

 

端末を睨んでいた。

 

そして。

 

「…………」

 

立ち上がった。

 

「一人で行くのやだ」

 

◆

 

その日の午後。

 

桂木弥子が事務所へ戻ると。

 

怪物強盗Xiが。

 

魔人ネウロの前に座っていた。

 

「……何してるんですか?」

 

弥子が聞いた。

 

Xiは振り返る。

 

「交渉」

 

ネウロは不機嫌そうだった。

 

「我が輩は既に断った」

 

「まだ条件提示の途中だよ」

 

「聞く価値がない」

 

「聞いてから決めてよ!」

 

弥子は首を傾げた。

 

「何の話?」

 

Xiはネウロを見た。

 

「ネウロ」

 

「何だ」

 

「一緒にヘキサクス来てよ」

 

「断る」

 

「早い!」

 

ネウロは腕を組む。

 

「なぜ我が輩が、貴様の父親の会社へ同行せねばならん」

 

Xiは指を立てた。

 

「理由その一」

 

「聞いていない」

 

「お互いシックス嫌いでしょ?」

 

ネウロ。

 

「…………」

 

弥子。

 

「…………」

 

ネウロが聞いた。

 

「どういう理屈だ?」

 

「共通の敵!」

 

「我が輩は貴様と仲良しごっこをする気はない」

 

「じゃあ利害の一致!」

 

「何の利害だ」

 

Xiは少し身を乗り出す。

 

「いざとなったら」

 

「ほう」

 

「会長室で魔界777ツ能力をぶっ放してもいいから!」

 

弥子。

 

「ダメです!!」

 

即答だった。

 

ネウロもXiを見る。

 

「貴様」

 

「何?」

 

「我が輩を何だと思っている」

 

Xiは真顔で答えた。

 

「対シックス非常用最終兵器」

 

弥子。

 

「魔人」

 

ネウロ。

 

「…………」

 

Xi。

 

「ほら」

 

ネウロの額に青筋が浮いた。

 

「後で貴様から始末する」

 

「なんで僕!?」

 

弥子は慌てて言う。

 

「そもそも会社で暴れちゃダメですからね!」

 

「我が輩はまだ何もすると言っていない」

 

「でもネウロだから!」

 

「弥子」

 

「はい」

 

「後で貴様もだ」

 

「なんで私まで!?」

 

そこへ。

 

低い声が響いた。

 

「通行止めだ」

 

Xiの肩が跳ねた。

 

振り返る。

 

ログナーが立っていた。

 

「いつからいたの?」

 

「魔界777ツ能力を会長室で使用すると聞こえたあたりからだ」

 

「最悪のタイミングじゃないか!」

 

ログナーはネウロを見る。

 

「能力の使用は認めん」

 

ネウロ。

 

「我が輩は認めろとも言っていない」

 

「念のためだ」

 

Xiが手を挙げる。

 

「じゃあ同行だけなら?」

 

「…………」

 

ログナーは少し考えた。

 

「それ自体を止める理由はない」

 

Xiの顔が明るくなった。

 

「ヨシ!」

 

ネウロ。

 

「勝手に決めるな」

 

弥子が言う。

 

「でもXiさん、なんでそこまでして誰か連れて行きたいんです?」

 

Xiは少し黙った。

 

そして。

 

「……シックスがさ」

 

「はい」

 

「会社ではパパと呼べって」

 

弥子。

 

「…………」

 

ネウロ。

 

「…………」

 

ログナー。

 

「…………」

 

誰もすぐには言葉を返さなかった。

 

Xiが言う。

 

「ね?」

 

弥子。

 

「……嫌ですね」

 

「でしょ!?」

 

ネウロ。

 

「くだらん」

 

「でしょ!?」

 

ログナー。

 

「陛下ならともかく、俺に同意を求めるな」

 

「いや、そこじゃない!」

 

Xiは頭を抱えた。

 

「しかも、まだ入社するって決めてないのに!」

 

ログナーが淡々と言う。

 

「なら断ればいい」

 

「分かってるよ」

 

「では問題ない」

 

「それでも一人であの会長室行くの嫌なんだよ!」

 

ネウロが笑った。

 

「ククク……」

 

Xiが見る。

 

「何」

 

「面白いな」

 

「何が」

 

「怪物強盗と呼ばれる貴様が」

 

ネウロは薄く笑う。

 

「父親の職場へ一人で行くのを嫌がっている」

 

Xi。

 

「そこだけ切り取ると、僕が反抗期の子どもみたいじゃないか!」

 

弥子。

 

「だいたい合ってません?」

 

「合ってない!」

 

しばらく。

 

ネウロはXiを見ていた。

 

やがて。

 

「いいだろう」

 

Xiが目を見開く。

 

「え?」

 

「同行してやる」

 

「ホントに!?」

 

弥子。

 

「ネウロ!?」

 

ネウロは笑う。

 

「ただし」

 

Xiが身構える。

 

「我が輩は貴様の護衛ではない」

 

「うん」

 

「貴様を助ける保証もしない」

 

「……うん」

 

「シックスを攻撃するとも言っていない」

 

「えー」

 

「『えー』ではない」

 

弥子が胸を撫で下ろす。

 

「よかった……」

 

ネウロは続けた。

 

「ただ」

 

「ただ?」

 

「シックスという男が、貴様に対してどのような悪意を向けるのか」

 

ネウロの目が細くなる。

 

「多少、興味がある」

 

Xi。

 

「…………」

 

弥子。

 

「結局、面白そうだからじゃないですか!」

 

「我が輩の行動原理に口を出すな」

 

◆

 

そして翌日。

 

ヘキサクス本社。

 

受付ロビー。

 

怪物強盗Xi。

 

そして。

 

魔人ネウロ。

 

二人が並んで立っていた。

 

受付社員は。

 

何度も二人を見比べた。

 

「……あの」

 

Xi。

 

「はい」

 

「こちらの方は……」

 

Xiは答えた。

 

「付き添い」

 

ネウロ。

 

「違う」

 

「じゃあ何?」

 

「見物だ」

 

受付社員の顔がさらに困った。

 

そこへ。

 

ジョーイ係長がやってきた。

 

「Xiはん!」

 

「どうも」

 

「来てくれたんやな……って」

 

ジョーイ係長が止まる。

 

ネウロを見る。

 

もう一度Xiを見る。

 

再びネウロを見る。

 

「…………」

 

Xi。

 

「何?」

 

ジョーイ係長。

 

「なんで魔人連れて来てんねん!!」

 

ロビーに声が響いた。

 

Xiは平然としていた。

 

「付き添い」

 

ネウロ。

 

「見物だ」

 

「どっちでもええわ!」

 

ジョーイ係長は頭を抱える。

 

「ワシ、会長室長候補として話しに来てもらいたかっただけやぞ!?」

 

Xi。

 

「だからだよ」

 

「何が!?」

 

Xiはジョーイ係長を見る。

 

「一応、確認したかったんだ」

 

「何を」

 

「僕を本当に会長室長にするなら」

 

Xiはネウロを指差した。

 

「こういう人脈も込みで僕だからね?」

 

ジョーイ係長。

 

「…………」

 

Xiは続ける。

 

「会長を監視してほしい」

 

「言うた」

 

「必要なら外部の人間とも連携してほしい」

 

「まあ……」

 

「シックスの悪意を止めてほしい」

 

「それも言うた」

 

「じゃあ」

 

Xiは笑った。

 

「こうなる可能性もあるよ?」

 

ジョーイ係長は。

 

ゆっくりネウロを見る。

 

ネウロは。

 

とても人畜無害には見えなかった。

 

「…………」

 

ジョーイ係長。

 

「ちょっと待って」

 

Xi。

 

「何?」

 

「会長室長の職務規程、先に作らせて」

 

「なんで?」

 

「怖なってきた!!」

 

その時。

 

受付社員が、おそるおそる声をかけた。

 

「あの……Xi様」

 

「はい?」

 

「会長がお待ちです」

 

Xiの顔が曇る。

 

「……分かった」

 

社員は。なぜか。

まだ何か言いたそうだった。

 

「何?」

 

「その……」

 

「?」

 

社員は目を逸らした。

 

「会長から、伝言を預かっておりまして……」

 

Xiの嫌な予感が。

 

最大値へ達した。

 

「……何て?」

 

社員は。

 

非常に申し訳なさそうに。

 

言った。

 

「……『パパが待っている』と、お伝えするように……」

 

沈黙。

 

ネウロが。

 

横を向いた。

 

肩が。

 

僅かに震えている。

 

Xi。

 

「…………」

 

ジョーイ係長。

 

「…………」

 

受付社員。

 

「…………」

 

そして。

 

Xiの絶叫が。

 

ヘキサクス本社ロビーに響き渡った。

 

「社員に言わせるなァァァァァ!!!!!」

 

ネウロは。

 

とうとう声を出して笑った。

 

「ククククク……!」

 

「笑うな!!」

 

「いや、これは面白い」

 

「何のために連れてきたと思ってるんだよ!」

 

「我が輩は最初から、貴様を助けるとは言っていない」

 

「役に立たない!!」

 

ジョーイ係長は。

 

二人を見ながら。

 

深く。

 

深く。

 

ため息をついた。

 

まだ。

 

Xiはヘキサクス社員ではない。

 

まだ。

 

会長室長でもない。

 

なのに。

 

初めて会社へ連れてきた同行者は。

 

魔人だった。

 

ジョーイ係長は。

 

少しだけ。

 

自分たちが進めている人事について。

 

考え直したくなった。

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