守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
「承太郎。一緒にヘキサクス来てよ」
怪物強盗Xiがそう言うと。
空条承太郎は。
帽子のつばの奥から、じろりとXiを見た。
「断る」
「早いな!」
「面倒事だろ」
「なんで分かるの?」
「お前が俺を誘いに来たからだ」
「…………」
正しい。
あまりにも正しい。
Xiは少し考えてから言った。
「世界最大級の軍需産業のトップと会談できるよ」
「興味ねえな」
「ゾディア・キューブリック」
「知らねえわけじゃねえ」
「シックス」
承太郎の目が。
ほんの少しだけ細くなった。
Xiはすぐに気付いた。
「お」
「何だ」
「今ちょっと反応した」
「してねえ」
「したよ」
「やれやれだぜ……」
Xiは畳みかけた。
「ちなみに僕の父親」
承太郎。
「…………」
「そして僕を自分の会社に入れて、最終的には後を継がせたいらしい」
「…………」
「会社ではパパと呼べって」
承太郎が。
深く。
ため息を吐いた。
「くだらねえな」
Xiの顔が輝いた。
「でしょ!?」
「そこに同意を求めるな」
「ネウロも露伴センセも、途中から面白がる側に回るんだよ!」
「俺には関係ねえ」
「だから承太郎なら!」
「勝手に期待するな」
Xiは手を合わせた。
「お願い」
「断る」
「海洋学者として!」
「関係ねえだろ」
「じゃあ知人として!」
「もっと関係ねえ」
「用心棒!」
「帰れ」
◆
しばらくして。
承太郎は。
ヘキサクス本社の前に立っていた。
「来てくれた!!」
Xiが嬉しそうに言う。
承太郎。
「勘違いするな」
「何?」
「一度顔を見ておいた方がいいと思っただけだ」
「十分十分!」
「それと」
承太郎はXiを見る。
「俺はお前の代わりに話をする気はねえ」
Xi。
「……はい」
「お前の人生だ」
「うん」
「自分で話せ」
Xiは。
少しだけ笑った。
「分かってるよ」
そのやり取りを。
入口付近で待っていたジョーイ係長が聞いていた。
「ええ人やないですか」
Xi。
「でしょ?」
ジョーイ係長は心底安心したようだった。
前々回。
魔人ネウロ。
前回。
漫画家・岸辺露伴。
そして今回。
「海洋学者さんやろ?」
「そう」
「大学の博士?」
「そう」
「研究者?」
「そう」
ジョーイ係長は胸を撫で下ろした。
「やっと普通の人来た!!」
承太郎。
「…………」
Xi。
「…………」
ジョーイ係長。
「なんや、その沈黙」
Xi。
「いや」
承太郎。
「知らねえ方が幸せなこともある」
「何がですの!?」
そこへログナーが来た。
承太郎を見る。
「空条承太郎か」
「ああ」
ログナーは一言だけ言った。
「社内で必要以上に暴れるな」
ジョーイ係長。
「…………」
ゆっくり。
Xiを見る。
「なんで今、司令がそんな注意したん?」
Xi。
「念のためじゃない?」
ログナー。
「念のためだ」
ジョーイ係長。
「前も聞いたぞ、その『念のため』!」
承太郎は帽子のつばを下げた。
「俺から仕掛ける気はねえ」
Xi。
「ほら」
ジョーイ係長。
「『俺から』!?」
不安が戻ってきた。
◆
会長室。
扉が開く。
シックスは。
いつものように。
大きな机の向こう側に座っていた。
「今度は誰を連れてきたかと思えば」
承太郎を見る。
「空条承太郎博士か」
承太郎。
「ああ」
「海洋学者だったな」
「そうだ」
シックスは少し笑った。
「Xiの付き添いとしては、随分まともな肩書きだ」
Xi。
「でしょ?」
ジョーイ係長。
「会長までそこ評価するんですか」
承太郎は部屋へ入る。
無駄な動きはない。
シックスを見る。
ただ。
じっと。
シックスも見返す。
しばらく。
誰も話さなかった。
Xiが耐えられなくなる。
「……なんか言ってよ」
承太郎。
「何をだ」
「空気が重いよ」
「お前が勝手に重く感じてるだけだ」
シックスが笑った。
「せっかく来てもらったんだ」
机の脇へ視線を向ける。
「茶くらい出そう」
Xiの表情が。
瞬間的に変わった。
「待って」
シックス。
「何だ?」
「何を出す気?」
「茶だ」
「だから何の」
「ローズヒップティー」
Xi。
「…………」
ジョーイ係長。
「…………」
イエッタ。
「…………」
全員。
一瞬で警戒した。
承太郎だけが分かっていなかった。
「何だ?」
Xiが承太郎を見る。
「飲まないで」
「なぜだ」
シックス。
「失礼なことを言うな」
Xi。
「あんたの『一族自慢』に何回酷い目に遭ったと思ってるんだよ!!」
ジョーイ係長も机を叩いた。
「また一族自慢かい!!」
シックス。
「今回は茶だ」
Xi。
「だから怖いんだよ!」
程なくして。
ティーカップが運ばれてきた。
深い。
赤。
ローズヒップ特有の色。
だが。
Xiの知る。
普通のローズヒップティーより。
妙に。
濃い。
承太郎はカップを見る。
「…………」
シックス。
「私の一族が所有する畑で育てたものだ」
Xi。
「その説明で安心できる要素が一つもない!」
「特に酸味が強い」
ジョーイ係長。
「強いで済むんですか?」
シックス。
「常人なら胃が多少荒れる程度だ」
Xi。
「多少じゃないだろ!!」
承太郎の指が。
カップへ伸びる。
Xi。
「承太郎!」
その瞬間。
承太郎の背後に。
何かが現れた。
人型の。
圧倒的な存在感。
スタープラチナ。
「!」
ジョーイ係長が目を見開く。
スタープラチナの眼が。
カップを捉えた。
液面。
蒸気。
色。
微細な飛沫。
そして。
次の瞬間。
承太郎が低く言った。
「……くだらねえ真似しやがって」
シックス。
「何?」
承太郎。
「スタープラチナ」
拳が動く。
「オラァ!!」
一瞬だった。
カップが。
承太郎の手に触れる直前。
弾き飛ばされた。
だが。
中身は。
誰にもかからない。
スタープラチナの異常な精密動作によって。
液体ごと。
用意されていた空の受け皿へ。
寸分違わず。
収まった。
全員。
「…………」
ジョーイ係長。
「な……」
Xi。
「すご」
承太郎は。
受け皿に移された赤い液体を見る。
「これが普通の茶だって?」
シックス。
「ローズヒップティーだ」
Xi。
「名前だけならね!!」
ジョーイ係長。
「会長!」
「何だ」
「お客様に何飲ませようとしてるんですか!」
シックス。
「飲料だ」
「飲料の定義から話せなアカンのですか!?」
承太郎が。
ゆっくりシックスを見る。
「俺が何も気付かず飲むと思ったか」
シックスは。
少しだけ笑った。
「試してみたかった」
Xi。
「ほら!!」
承太郎。
「……やれやれだぜ」
シックス。
「見抜いたのは見事だ」
承太郎。
「茶を見抜いたんじゃねえ」
シックス。
「ほう」
承太郎は帽子のつばを下げた。
「テメーみてえな男が、素直に茶を出すと思わなかっただけだ。」
Xi。
「承太郎!!」
嬉しそうだった。
「もっと言って!」
承太郎。
「うるせえ」
ジョーイ係長。
「いや今回はもっと言うてください!」
イエッタ。
「私も同意します」
シックス。
「酷い扱いだな」
Xi。
「日頃の行いだよ!」
承太郎は椅子へ腰を下ろした。
当然。
もう茶には触れない。
「それで」
シックス。
「何だ?」
「Xiの話だ」
Xiが少し姿勢を正す。
承太郎は。
シックスを見る。
「こいつを会社に入れたいらしいな」
「ああ」
「後を継がせたい」
「ああ」
「本人はまだ決めてねえ」
「時間の問題だ」
Xiの眉が動く。
だが。
承太郎の方が先に言った。
「そういうところだ」
シックス。
「何?」
「テメーは」
承太郎は静かだった。
声を荒らげることもない。
「何でも自分の思い通りになると思ってやがる」
「…………」
「茶も」
受け皿を見る。
「会社も」
そして。
Xiを見る。
「人間もだ」
会長室が。
静かになった。
シックス。
「Xiは私の子だ」
承太郎。
「だからどうした」
短い。
露伴の時のような。
長い問答はない。
「親なら、子の将来を考えるのは当然だ」
承太郎。
「考えるのは勝手だ」
「なら」
「決めるのはテメーじゃねえ。」
Xiは。
承太郎を見る。
承太郎は。
それ以上。
大げさなことは言わない。
「こいつはもう、自分で歩いてる」
シックス。
「…………」
「無理に引っ張り戻そうとするなら」
承太郎の背後で。
スタープラチナが。
僅かに姿を見せた。
「痛い目を見るのは」
一拍。
「テメーの方かもしれねえぜ」
ジョーイ係長。
「…………」
イエッタ。
「…………」
Xi。
「……承太郎」
シックスは。
スタープラチナを見る。
そして。
笑った。
「脅しか?」
承太郎。
「忠告だ」
短い。
それだけ。
シックス。
「面白い」
Xi。
「またそれ言う!!」
「お前の周囲には、妙な人間が多い」
Xi。
「シックスに言われたくないよ!」
承太郎が言う。
「一つ勘違いするな」
Xi。
「何?」
「俺はお前を守りに来たんじゃねえ」
「はい」
「シックスと話すのも」
承太郎はXiを見る。
「最後に決めるのも、お前だ」
Xi。
「…………」
「俺ができるのは」
少しだけ。
「余計な手を出してくる奴がいた時に、そいつを止めるくらいだ」
Xiは。
小さく笑った。
「それで十分だよ」
シックス。
「では話は済んだな」
Xi。
「うん」
「代わりの茶を」
Xi。
「もう何も出すな!!」
ジョーイ係長。
「そこはワシも同意します!!」
承太郎。
「水でいい」
イエッタ。
「私が用意します」
シックス。
「信用がないな」
全員。
「…………」
Xi。
「本気で言ってる?」
◆
会談の後。
廊下。
ジョーイ係長は。
承太郎の背中を眺めていた。
「……Xiはん」
「何?」
「あの人」
「うん」
「ホンマに海洋学者なん?」
Xi。
「博士号も持ってるよ」
「いや、そこ疑ってへんねん」
「?」
ジョーイ係長は。
さっきのスタープラチナを思い出した。
「ワシの知ってる海洋学者と違う」
Xi。
「比較対象いるの?」
「おらんけど!」
承太郎が振り返る。
「帰るぞ」
Xi。
「うん」
少し歩いたところで。
承太郎が言った。
「Xi」
「何?」
「一つだけ覚えとけ」
Xiが見る。
「他人から選択肢を出されることと」
「うん」
「他人に選ばされることは違う」
Xi。
「…………」
承太郎。
「選ぶ時くらい、自分の頭で決めろ」
「分かってる」
Xiは笑った。
「最近、それを覚えたところ」
承太郎。
「ならいい」
それだけだった。
◆
ジョーイ係長は。
少し離れて二人を見ていた。
ネウロ。
岸辺露伴。
空条承太郎。
三人目。
今回もまた。
随分と濃い人間だった。
そして。
少し不安になった。
「Xiはん」
「何?」
「次は誰連れてくるつもりや」
Xi。
「次?」
ジョーイ係長。
「もう驚かへんから言うてみ」
Xiは。
少し考える。
そして。
「師匠」
ジョーイ係長。
「師匠?」
「ダグラス・カイエン」
ジョーイ係長。
「…………」
数秒。
「待って」
Xi。
「何?」
「それ」
嫌な汗が出る。
「星団最強の剣聖やなかったか?!」
Xi。
「そうだよ」
ジョーイ係長。
「なんで毎回ランク上がってんねん!!」
Xiは笑った。
「でも師匠だよ?」
「肩書きが強すぎるわ!!」
次回。
怪物強盗Xi。
同行者、第四弾。
剣聖ダグラス・カイエン。
ジョーイ係長は。
この時まだ知らなかった。
カイエンが。
シックス製品について。
そこそこ個人的な恨みまで持っていることを。