守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
怪物強盗XiはMHをいつまで仮置きするのか知りたい
コンパス管理下の大型機保管施設。
広大な格納庫の一角に、白銀の巨体が静かに鎮座していた。
アウト・ミラージュ。
シュペルターMark2とも呼ばれる、Xi専用のモーターヘッドである。
初めてここへ運び込まれた時は、あくまで一時的な措置だった。
正式な保管場所が決まるまで。
ほんのしばらく。
とりあえず。
つまり、
仮置き。
……そのはずだった。
「それじゃ、アウト・ミラージュ区画の午後点検、お願いします」
格納庫を歩いていた整備員の声に、Xiの足が止まった。
「……待って」
整備員も止まる。
「はい?」
「今、なんて言った?」
「アウト・ミラージュ区画の午後点検を」
「そこじゃない」
「?」
「『アウト・ミラージュ区画』って何?!」
整備員は困った顔をした。
「え……この区画ですけど」
「そうじゃなくて! なんで正式名称みたいになってるの?!」
少し離れたところにいたキラ・ヤマトが、苦笑する。
「まあ、みんな場所を説明する時にそう呼んでるから」
「呼ばないでよ!」
「でも分かりやすいし」
「仮置きだよね?!」
「うん」
「だったら『大型機一時保管区画』とかでいいじゃない!」
アスラン・ザラが端末を確認しながら言う。
「以前はそう呼ばれていた」
「以前は?!」
「今はアウト・ミラージュしか置いていないからな」
「既成事実化が進んでる!!」
Xiは頭を抱えた。
その横で、アルバート・ハインラインが明るい顔で手を挙げる。
「ですがXiさん。法律用語には『取得時効』というものがありまして」
アスランが顔を上げた。
「やめろ」
「一定期間、継続して占有することで、特別に改めて設定しなくとも事実状態が権利関係に」
「拡大解釈すぎる!!」
Xiの叫びが格納庫に響いた。
「いやいや、概念としてですよ?」
「概念でも違う!」
アスランも冷静に続ける。
「そもそも今回とは全く違う話だ」
「しかし長期間その場所を使うことで、社会的にそういうものとして認識されるという意味では」
「違う」
「まだ説明が」
「違う」
アルバートが口を閉じた。
Xiは思わず拍手した。
「アスラン、ありがとう。専門家でもないのに持ち出した理屈が一瞬で潰れた」
「褒められている気がしないな」
「僕は褒めてるよ」
「私はまだ納得していません!」
「納得しなくていい!!」
そこへバクスチュアルが、アウト・ミラージュを見上げながら静かに言った。
「……コノ子、一カ月以上、ココニイル」
Xiの動きが止まった。
「え」
キラが数える。
「正確には、最初にここへ運び込んでから……うん。もう一カ月は超えてるね」
「…………」
Xiは改めてアウト・ミラージュを見上げた。
変わらぬ姿で、そこにいる。
堂々としている。
むしろ最初からここが自分の場所だったかのように。
「……そんなに経ってた?」
「いろいろあったからね」
キラが笑う。
ヘキサクス。
名刺。
会長室長。
ネウロ。
岸辺露伴。
空条承太郎。
ダグラス・カイエン。
ラクス・クライン。
そして最後には、アマテラスまで会社へ連れていった。
「……そうだった」
Xiは遠い目をした。
「僕、巨大ロボの置き場所を決める前に、国家元首を会社に連れてってた……」
「順番としては少し変だな」
アスランが言う。
「少し?!」
そこへ格納庫の入口から、低く落ち着いた声がした。
「ようやく気づいたか」
「ログナー司令」
ファルク・U・ログナーが歩いてくる。
その少し後ろには、ダグラス・カイエン。
「仮置きのまま長期化していること自体は問題ではない。
現在の管理体制で安全性は確保されている」
「それは分かるけどさ」
「だが、正式な保管先についてはいずれ決める必要がある」
「……だよね」
Xiは少しだけ真面目な顔になった。
「僕も、そろそろ決めなくちゃとは思ってた」
ログナーがわずかに頷く。
「そうか」
「何、その顔」
「いや」
「絶対なんか思ったでしょ」
「自分から言い出すとは思わなかっただけだ」
「僕だって考えるよ!」
カイエンがにやりと笑う。
「成長したナ」
「師匠まで!」
「以前なら『知らない、置いた人が何とかして』とか言ってただろ?」
「……言ったかもしれないけど」
「言ってたナ」
「うるさい!」
だが、Xi自身も分かっていた。
以前は、専用機そのものが重かった。
自分専用という言葉が、自分を何かに固定してしまうような気がして。
けれど今は違う。
受け取った。
キーも持った。
バクスチュアルもいる。
ならば、その機体をどう扱うかくらいは、自分で決めるべきなのだろう。
「……僕の機体なんだし」
小さくXiが言った。
バクスチュアルが隣で頷く。
「ウン」
ログナーは何も言わなかった。
ただ、その一言だけで十分だというように。
「で」
Xiは顔を上げる。
「もし別の場所に移すなら、問題は輸送だよね」
「そうだ」
ログナーが即答した。
「運搬用のMHドーリーならこちらで手配する準備がある」
「これ以上支給品を増やさないで!!」
格納庫に今日二度目の大声が響いた。
「必要装備だ」
「必要なのは分かるけど!」
Xiは指を折りながら数える。
「アウト・ミラージュ本体でしょ、始動キーでしょ、制服でしょ、スパッドでしょ、専用の装備類でしょ、それから試作カトラリーまで!」
「カトラリーは運用装備ではない」
「そこだけ切り分けるな!!」
カイエンが肩をすくめる。
「いいじゃねぇかヨ。キャンピングカーのちょっと大きいモノだと思えば」
「ちょっとどころじゃない!!」
「タイヤが付いてて、運べて」
「うん」
「寝ようと思えば寝られる」
「最後の条件どこから出たの?!」
「ロマン」
「巨大ロボ所有の現実問題に急にロマンを戻さないで!!」
キラが笑いを堪えている。
アスランは額を押さえた。
ログナーだけが真顔だった。
「地上輸送が不満なら」
「不満というか規模が」
「エア・ドーリー<浮上飛行型>の方が良かったか?」
Xiの目が見開かれた。
「どんどん規模がおかしくなる!!」
ログナーは平然と続ける。
「地上輸送より経路制約が少ない」
「便利さの話じゃない!」
「道路幅員や橋梁荷重、交通規制を考慮する必要も減る」
「実務的メリットで巨大輸送機を正当化しないでよ!」
「合理的だが」
「そういうところが怖いんだよ!」
カイエンが楽しそうに笑う。
「渋滞知らずだゼ」
「師匠は乗っからないで!」
「便利じゃん」
「便利だけど!」
アルバートがそこで目を輝かせた。
「浮上飛行型なら、輸送時の振動特性や姿勢制御、外部環境に対するフレーム応答も観測できますね!」
「あなたは何でも観測対象にするな!!」
「貴重な機会ですよ!」
「機会じゃない! 運搬!」
Xiは両手で顔を覆った。
「なんで置き場所を決めようとしただけで、輸送システムの話まで巨大化してるの……」
アスランが静かに言う。
「大型兵器を所有するというのは、そういうことだ」
「ロマンが現実に殴られてる……」
その時。
格納庫の奥から、やけに明るい声が響いた。
「どうもぉ!」
一同が振り向く。
そこには、工具箱らしきものを手にした少女が立っていた。
明るい髪。
軽やかな笑顔。
どこか楽しげな表情。
「モーターヘッド・マイスター、レディオス・ソープです。腕に自信ありま~す!!」
Xiが数秒固まった。
そして指をさした。
「って、造った本人じゃないか!!」
ソープダッシュはにこにこしている。
「だから詳しいよ?」
「詳しいとかいうレベルじゃない!」
アルバートが歓声を上げる。
「設計者本人による整備! 理想的ですね!」
「あなたが肯定すると不安が倍になるんだよ!!」
ログナーは腕を組んだ。
「技術的には最適だ」
「司令まで?!」
カイエンも頷く。
「専属メカニック付きじゃねぇか。豪華だナ」
「どんどん所有体制が完成してる!!」
ソープダッシュはアウト・ミラージュを見上げた。
「でも、そろそろ一度ちゃんと見たいとは思ってたんだよねぇ」
「ちゃんと?」
「うん」
その目が、少しだけマイスターのものになる。
「実際にXiが使うのに合わせて、
あたしがアウト・ミラージュの仕様をアップデートさせる。
当然の流れでしょ?」
Xiは一瞬、言葉に詰まった。
確かに。
専用機なら、使い手に合わせて調整していく。
しかも設計した本人が、それをやる。
普通に考えれば、これ以上ないほど贅沢な話だ。
「……理屈はわからなくもないけど!」
「でしょ?」
「ある意味、ものすごく贅沢な話ではあるけど!」
「うんうん」
「でも、陛下の場合『最適化』の途中で絶対余計な機能足すでしょ!!」
ソープダッシュは少し考えた。
「バスター砲?」
「いらない!」
「それとも、けん玉フレイルが良い?」
「どっちも要らない!!」
カイエンが口元を緩める。
「けん玉フレイル、案外使えるんじゃねぇかヨ」
「師匠まで?!」
「遠心力乗せりゃ強ぇだろ」
「武器として真面目に評価しないで!」
ソープダッシュが嬉しそうにカイエンを見る。
「ほら。剣聖のお墨付き」
「お墨付きじゃない!!」
ログナーが低い声を出した。
「陛下」
「まだ何もしてないよぉ」
「する気でしょう」
「検討くらいは」
「通行止めです」
「司令、今回は早い! ありがとう!」
Xiが本気で安堵する。
ソープダッシュは少し頬を膨らませた。
「じゃあバスター砲付きけん玉フレイルは」
「悪魔合体させないで!!」
アルバートが一歩前に出た。
「ですが新規武装案としては興味深いですね。回転運動と高出力砲撃を」
「アルバートも混ざるな!」
アスランが即座に言う。
「アルバート。工具を置け」
「まだ持っていません!」
「では持つな」
「先回りしないでください!」
Xiは天井を仰いだ。
「……正式な置き場を決める前に、正式な整備ルールを決めた方が良い気がしてきた」
「正しい判断だ」
アスランが即答した。
「なんでそんなに即答なの?」
「今の会話を聞いていなかったのか?」
「聞いてたから言ってるんだよ!」
キラも苦笑する。
「保管場所だけじゃなくて、誰がどこまで触っていいかも決めた方がいいかもね」
「うん……」
Xiはもう一度アウト・ミラージュを見上げる。
「置き場所」
「輸送方法」
「整備担当」
「管理責任」
カイエンが指を折る。
「それから改修計画」
「勝手に増やすな!!」
ソープダッシュが手を挙げる。
「追加武装案」
「却下!」
アルバートも手を挙げた。
「技術観察項目」
「もっと却下!!」
バクスチュアルが小さく首を傾げる。
「……大変」
「そうなんだよ、バクスチュアル……」
Xiは疲れた顔で答えた。
巨大ロボはロマンである。
だが、実際に所有すると。
置き場所が必要になる。
輸送手段が必要になる。
整備が必要になる。
管理規則が必要になる。
そして何より。
周囲の技術者を止める仕組みが必要になる。
「……とりあえず」
Xiが言った。
「正式な保管先をどうするか、本気で考えよう」
ログナーが頷く。
「それがいい」
「ただし!」
Xiはソープダッシュとアルバートを交互に指さした。
「決まるまで、勝手に何もしないでよ?!」
「もちろん」
ソープダッシュが笑う。
「当然です!」
アルバートも胸を張る。
Xiは二人をじっと見た。
「……なんでかな」
「?」
「二人とも即答したのに、ものすごく不安なんだけど」
アスランが静かに答えた。
「正常な感覚だ」
「だよね」
その日の話し合いは、ひとまずそこで終わった。
Xiは知らなかった。
いや。
正確には。
まだ知らされていなかった。
アウト・ミラージュが一カ月以上そこに置かれている間に。
既にコンパス側では。
日々の点検記録。
保管区画運用手順。
緊急時対応。
機体周辺の安全管理。
その他諸々が。
少しずつ。
ごく自然に。
積み上がっていたことを。
格納庫の片隅。
アルバートは、分厚いファイルを抱えていた。
「……ちなみに」
Xiが振り返る。
「何?」
アルバートは満面の笑みを浮かべた。
「日々の点検用マニュアルなら、既に完成しています!」
Xiの目が見開かれた。
「…………」
アスランが目を閉じた。
キラが「あ」と小さく声を漏らした。
アルバートは誇らしげだった。
「一カ月以上ありましたから!」
数秒の沈黙。
そして。
「既成事実化してるじゃないかァァァァァ!!」
格納庫いっぱいに、Xiの絶叫が響き渡った。