守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
コンパス管理下の大型機保管施設。
大型機一時保管区画。
通称、アウト・ミラージュ区画。
……なお、入口の表示板には、現在も小さく『※一時保管中』と書かれている。
その白銀の巨体を見上げながら、アルバート・ハインラインは腕を組んでいた。
「……実に惜しい」
その言葉を聞いて、隣にいたキラ・ヤマトが嫌な予感を覚えた。
「……何がですか?」
「これほど興味深い機体が目の前にありながら、静止状態でしか観察できないことです!」
「……またその話ですか」
「いえ、もちろん動かしたいとか運転してみたいとか稼働させてみたいとは言いませんがせめてエンジンを始動させて脈動するところを観察してみたいとは思うもののそのためにはXiさんの持つ始動キーが必要なのが悩みどころなのでなんとかしてアレをちらっとでいいので借りて観察して複製してこっそりエンジンを掛けるところまではいきたいものです!」
一息。
「…………」
キラは黙った。
アスラン・ザラも黙った。
そして。
「途中から完全におかしな話になってるよね?!」
当のXiが叫んだ。
「え?」
アルバートは不思議そうな顔をした。
「どの辺りでしょう?」
「複製してこっそりエンジンを掛ける辺りだよ!!」
「ですが、機体を動かすとは言っていません!」
「エンジン掛けてるじゃないか!」
「厳密には、エンジンを始動させることと、機体を歩行させることは別です!」
「技術的な正確さで言い逃れしないで!!」
アスランが深いため息をついた。
「アルバート」
「はい?」
「先日の件で何を学んだ?」
「許可されていない技術情報を取得してはいけない、ということです!」
「ならば分かるだろう」
「はい! ですから今回は、できれば正式に始動キーをお借りしたいのです!」
アルバートはXiに向き直った。
「というわけでXiさん!」
「嫌だよ!」
「まだ何も言っていません!」
「さっき全部言った!!」
アルバートは少し考えた。
「では、ほんの五分だけ!」
「嫌!」
「三分!」
「嫌!」
「一分!」
「時間の問題じゃない!!」
キラが苦笑した。
「アルバートさん。Xiが嫌がってるんだから、そこは尊重しないと」
「もちろんです! 本人の意思は大切ですから!」
「だったら……」
「そこで、別の方法も考えてみようかと!」
キラの笑顔が消えた。
「……別の方法?」
「はい!」
アルバートは明るく答えた。
「こんな事もあろうかと!!」
「…………」
「……ふふふ」
キラが首を傾げる。
「アルバートさん?」
「実は、このセリフ、一度言ってみたかったんですよ!!」
「……そうですか」
Xiが頭を抱えた。
「だから何を準備したのか先に言ってよ!!」
しかし。
アルバートは答えなかった。
何かを思いついたように、ぱっと顔を上げる。
「……そうだ!」
「何?」
「専門家に相談してみましょう!」
「専門家?」
「ええ! 以前、モーターヘッドの始動キーを入手した実績のある方がいると聞きましたので!」
Xiが固まった。
「…………」
アスランが怪訝な顔をする。
「そんな人物がいるのか?」
「はい!」
Xiの顔が引きつった。
「……まさか」
アルバートは満面の笑顔だった。
「では、ちょっと行ってきます!」
「待って!! どこへ行く気?!」
だが、アルバートは既に走り出していた。
* * *
桂木弥子魔界探偵事務所
「こんにちは!」
元気な声と共に、アルバートが入ってきた。
机でお菓子を食べていた桂木弥子が顔を上げる。
「あ、いらっしゃいませ!」
「魔人あてに仕事の依頼です!」
「……魔人?」
弥子は隣を見た。
そこには、相変わらず尊大な態度で椅子に座っている脳噛ネウロがいた。
「ほう」
ネウロが顔を上げる。
「我が輩に依頼とは珍しいな」
「はい! ぜひお力をお借りしたいのです!」
アルバートは大きく頷いた。
「実は、アウト・ミラージュの始動キーを、怪盗Xiさんの懐からちらっと拝借していただきたい!」
「探偵の仕事じゃない!!」
弥子が即座に叫んだ。
「え?」
「え、じゃありません! それ窃盗ですよ?!」
「いえいえ! ほんの少しお借りするだけです!」
「本人の許可は?!」
「……いただけませんでした!」
「じゃあ駄目でしょう!!」
アルバートは真剣な顔で続ける。
「ですが、形状を確認して複製したら、すぐにお返しする予定です!」
「余計に駄目じゃないですか!!」
ネウロが、にやりと笑った。
「ククク……」
弥子が嫌そうな顔をする。
「……ネウロ?」
「怪物強盗から物を盗む依頼か」
「面白がらないでよ!」
「そもそも、なぜ我が輩を指名した?」
「以前、カイエンさんのシュペルターの始動キーを入手された実績があると伺いまして!」
「…………」
弥子が固まった。
「……実績?」
ネウロは満足げに笑った。
「よく調べているな」
「褒めないで!!」
アルバートが身を乗り出す。
「しかも魔人ですから、普通の人間には不可能な調達方法もお持ちなのではないかと!」
「ほう」
「鍵の複製自体は私が担当します! ネウロさんには一時調達をお願いしたいのです!」
「業務分担するな!!」
弥子の声が事務所に響いた。
しかし、ネウロは興味を示していた。
「ところで、その鍵を手に入れて何をする?」
「エンジンを始動させます!」
「機体を盗むのか?」
「とんでもない!」
アルバートは勢いよく首を振った。
「私はただ、あの素晴らしいモーターヘッドの心臓部が実際に脈動する様子を観察したいだけなのです!」
「……それだけか?」
「もちろんです!」
「機体を奪うわけでも、武器として使うわけでもないと?」
「はい!」
「……ククク」
ネウロは愉快そうに笑い始めた。
「なるほど。面白い」
弥子が眉をひそめる。
「何が?」
「この男、悪意がない」
「……それは分かるけど」
「にもかかわらず、やろうとしていることは無断複製と無断始動だ」
「そうだよ!」
「しかも本人は、それを技術的探究心の延長だと考えている」
「だから困ってるんじゃない!」
ネウロはアルバートを見た。
「貴様、なかなか面白い頭をしているな」
「ありがとうございます!」
弥子が机を叩いた。
「褒められてませんからね?!」
アルバートは構わず続ける。
「いえ、実際に観察することで新たな発見があるかもしれませんし、その発見が今後の整備や技術開発に役立つ可能性もありまして!」
「……要するに」
ネウロが言った。
「未知の玩具を分解したがる子供と同じだな」
「分解はしません!」
「そこだけは守るのか」
「はい!」
「ククク……」
ネウロは笑いながら立ち上がった。
「よかろう」
「ネウロ?!」
「我が輩にも興味が湧いた」
アルバートの顔が輝いた。
「では!」
「ただし、我が輩の目的は鍵ではない」
「……?」
「Xiの反応だ」
弥子が頭を抱えた。
「……最悪」
ネウロは笑った。
「自分が盗みを働く側の怪物強盗が、逆に物を盗まれたらどんな顔をするか。実に興味深い」
「では、交渉成立ですね!」
「成立させないで!!」
弥子の叫びが響き渡った。
* * *
その少し後。
「…………」
怪物強盗Xiは、魔界探偵事務所の入口に立っていた。
「……何してるの?」
アルバートが振り向く。
「あ、Xiさん!」
「何してるのアルバートォォォ!!」
弥子が安堵したように駆け寄る。
「Xi君! ごめん! もう止めようと思ったんだけど!」
「弥子ちゃんから連絡もらって飛んできたよ!」
Xiはアルバートを睨んだ。
「キーを貸さないって言ったよね?!」
「はい!」
「なのになんで、よりによってネウロに頼んでるの?!」
「実績があると聞きまして!」
「実績って言うな!!」
ネウロが笑った。
「ククク……ずいぶん慌てているな、Xi」
「当たり前でしょ!」
「怪物強盗が盗難を警戒するとはな」
「僕が怪物強盗だからこそ警戒するんだよ!」
「ほう」
「それに、あれは僕の機体の始動キーなんだから!」
Xiは上着の内側に手をやった。
「……ほら、ちゃんと持ってるし」
その瞬間。
ネウロの笑みが深くなった。
「……そうか」
「…………?」
Xiが首を傾げる。
ネウロが片手を持ち上げた。
その指先に。
小さな金属製の鍵があった。
「では、これは何だ?」
「…………」
Xiは自分の懐を探った。
「…………」
もう一度探った。
「…………」
そして。
「いつの間にィィィィィ?!」
弥子が絶叫した。
「ネウロ!!」
「ククク……」
Xiがネウロを指さした。
「返して!!」
「慌てるな。少し借りただけだ」
「借りてない!! 盗ったんだよ!!」
アルバートは目を輝かせていた。
「素晴らしい! さすがですね!」
「感心してる場合じゃない!!」
ネウロは鍵を眺めた。
「ふむ。これがアウト・ミラージュの始動キーか」
Xiは警戒する。
「……勝手に使わないでよ」
「我が輩に、こんな金属片そのものへの興味はない」
「だったら返して!」
「ただし、貴様が慌てる様子には興味がある」
「性格悪い!!」
ネウロは、ひょいと鍵を放った。
Xiが慌てて受け止める。
「……もう!」
しかし。
そのわずかな間に。
アルバートの目は、鍵から離れていなかった。
「……なるほど」
Xiが振り向く。
「……何が?」
「いえ!」
アルバートは嬉しそうに笑った。
「こんな事もあろうかと!!」
「またそのセリフ?!」
* * *
数分後。
アルバートの前には、一つの小さな金属製品が置かれていた。
形状は、アウト・ミラージュの始動キーと瓜二つ。
短い間に得られた外形情報をもとに、アルバートが持参した機材とネウロの魔界の技術を借りて作り上げた、物理的な複製品だった。
もちろん、機体内部の認証機構を解析したわけではない。
だが、見た目だけなら。
「……完璧です!」
アルバートが満足げに頷いた。
「これで物理的な形状は再現できました!」
Xiは顔を引きつらせた。
「……待って」
「はい?」
「僕、複製を許可してないよね?」
「……はい!」
「はい! じゃない!!」
弥子も頭を抱えた。
「なんでこうなっちゃったの……」
ネウロは満足げだった。
「なかなか面白い見世物だったぞ」
「あなたが一番悪い!!」
Xiが叫んだ。
アルバートは複製キーを掲げる。
「しかし、これだけ精度の高い複製品なら、少なくとも物理的には使用できるはずです!」
「……本気で言ってる?」
「はい!」
Xiは、ふと何かを思い出した。
そして。
「…………」
少しだけ、表情が変わった。
「……アルバート」
「はい?」
「それ、見た目が同じなら使えると思ってる?」
「もちろん、認証方式によるとは思いますが」
「……ふうん」
Xiは、しばらく考えた。
そして、ため息をついた。
「……分かった」
アルバートが顔を輝かせた。
「では!」
「違う!!」
Xiは指を突きつけた。
「勝手にエンジンを掛けるのは絶対駄目! そのキーも、もう勝手に使わせない!」
「……はい」
「でも、そこまで自信満々なら……」
Xiは少しだけ意地悪そうに笑った。
「一度、ちゃんと確認してもらおうか」
ネウロが目を細めた。
「……ほう」
* * *
コンパス大型機保管施設・管理室
「…………」
アスランは、深いため息をついた。
キラも、困った顔をしていた。
ログナーは、腕を組んでいる。
アウクソーは静かに立っていた。
そして机の上には。
アウト・ミラージュの始動キー。
その隣に、物理的に複製されたスペアキー。
「……説明してもらおうか」
アスランが言った。
アルバートは胸を張った。
「はい! Xiさんの始動キーを一時的にお借りして、物理的に複製しました!」
「誰の許可で?」
「…………」
アルバートが黙った。
「……ネウロさんの協力を得まして」
「許可を取った相手が違う!!」
Xiが叫んだ。
ネウロは涼しい顔だった。
「我が輩は協力を求められただけだ」
弥子が睨む。
「盗んだのはネウロでしょ!」
「ククク……」
ログナーがネウロを見た。
「……以前、カイエンのシュペルターのキーも持ち出していたな」
「よく覚えているではないか」
「忘れる理由がない」
ログナーの声が少し低くなった。
「二度目だ」
ネウロは笑ったまま、何も答えなかった。
アウクソーが二本のキーを確認する。
「……外形の再現度は高いようですね」
アルバートが嬉しそうに頷く。
「でしょう?!」
「ですが」
アウクソーは静かに続けた。
「認証機能まで複製できているわけではありません」
「……え?」
アルバートが首を傾げる。
ログナーが言った。
「アウト・ミラージュの始動には、キーだけでは不足する」
Xiが腕を組んだ。
「……やっぱり」
キラが頷く。
「そういえば、機体の引き渡しの時にも説明があったよね」
「うん」
Xiはアルバートを見た。
「僕の生体認証が必要なんだよ」
「……なるほど」
「それだけじゃない」
バクスチュアルが静かに続けた。
「ワタシトノ、ペアリング」
「そう。バクスチュアルとの認証も必要」
アウクソーが補足する。
「そして、機体側での認証もあります。これらが正規の条件を満たさなければ、始動は許可されません」
アルバートが目を見開いた。
「……そんなに?!」
ログナーが答える。
「当然だ」
Xiが頷いた。
「だから、ただ鍵を持ってきただけじゃ駄目なの」
「…………」
アルバートは、しばらく黙っていた。
そして。
「……ですが、せっかく作ったのですから、物理的な適合だけでも確認を」
「まだ言う?!」
アスランが額を押さえた。
しかし、アウクソーは少し考えてから言った。
「……正規の診断端末で、機体を始動させずに認証の可否を確認することは可能です」
アルバートが顔を上げた。
「本当ですか?!」
「ただし、これは今回の無断複製が認められたという意味ではありません。複製品の状態を確認し、回収するための検証です」
ログナーが頷く。
「それなら構わん」
Xiも頷いた。
「……よし」
アルバートが嬉しそうに言った。
「では、早速!」
「嬉しそうにしないで!!」
* * *
管理室の診断端末。
正規の担当者が、複製キーを検査用の接続部にセットした。
機体そのものには接続しない。
アウト・ミラージュのエンジンが始動することもない。
確認するのは、あくまで複製品の状態だけだった。
アルバートは、祈るような顔で画面を見つめている。
「……どうでしょう」
診断が始まった。
表示が切り替わる。
『物理形状確認』
『適合』
アルバートが拳を握った。
「よし!!」
Xiが呆れた顔をする。
「……そこまではね」
画面が進んだ。
『認証情報確認』
『不一致』
アルバートの笑顔が止まった。
「……え?」
続いて。
『正規認証不可』
『始動権限なし』
最後に。
『機体始動不可』
画面が静止した。
「…………」
アルバートは黙った。
キラも黙った。
シン・アスカが、遠慮がちに口を開いた。
「……駄目じゃないですか」
「…………」
アスランが頷いた。
「当然だ」
Xiが両手を広げた。
「ほらね!!」
アルバートは、呆然と画面を見つめていた。
「……そんな」
「そんな、じゃないよ!」
「形状は完璧なのに……」
「形状だけだからだよ!!」
アウクソーが静かに説明した。
「正規の始動キーは、物理的な形状だけで機体を動かすものではありません」
「……はい」
「まして、Xiさん本人とバクスチュアルさんの認証なしに、第三者が起動することはできません」
アルバートが肩を落とした。
「……つまり」
「はい」
「……これは」
「認証上、始動キーとしては使用できません」
「…………」
アルバートは、ゆっくりと呟いた。
「……ただの、形の似た金属片……」
Xiが即答した。
「そうだよ!!」
ネウロが腹を抱えて笑い始めた。
「ククク……クハハハハ!!」
弥子が呆れる。
「ネウロ……」
「実に愉快だ!」
ネウロは、涙も出ていない目元を拭う仕草をした。
「怪物強盗から鍵を盗み、技術者が精巧な複製品を作り上げ、その結果が……」
机の上のスペアキーを見る。
「何も開けられん鍵とはな!!」
アルバートががっくりと肩を落とした。
「……トホホ」
Xiは思わず笑ってしまった。
「……だから言ったじゃないか」
アルバートは、最後の希望を込めて尋ねた。
「……では、正規のキーなら?」
Xiが答えた。
「僕とバクスチュアルがいて、機体側の認証を通れば、ちゃんと始動できるよ」
「……つまり!」
「うん?」
「Xiさんご本人とバクスチュアルさんにご協力いただければ!」
「結局そこに戻るの?!」
アスランが静かに言った。
「アルバート」
「はい?」
「今日の件で何を学んだ?」
アルバートは、しばらく考えた。
「……始動キーの外形を複製するだけでは、モーターヘッドは始動できないということです」
「それだけか?」
「……所有者の許可が必要です」
「そうだ」
「……技術的には、非常に興味深い認証方式でしたが」
「最後の一言が余計なんだよ!!」
* * *
その後。
無断複製の件については、ログナーとコンパス側で事情を確認することになった。
アルバートは厳重に注意された。
ネウロも、ログナーから釘を刺された。
「二度とXiのキーに手を出すな」
「ククク……約束はできんな」
「ならば、その時は相応の対応をする」
「……ほう」
二人の視線が交差する。
短い沈黙。
弥子が慌てて間に入った。
「ほらネウロ! もう帰るよ!」
「……仕方あるまい」
ネウロは、まだ笑っていた。
だが、帰り際。
Xiを振り向く。
「……ところで、Xi」
「何?」
「貴様の専用機、なかなか面白い仕組みだな」
「……そう?」
「鍵を盗んでも、本人がいなければ動かん」
「うん」
「つまり、他人がいくら欲しがろうと、貴様の意思なしには動かせんわけだ」
Xiは少しだけ考えた。
「……そうだね」
ネウロは、にやりと笑った。
「ククク……今の貴様には、よく似合っているではないか」
「…………」
Xiは、少しだけ目を丸くした。
だが、すぐに顔をしかめる。
「……だからって盗んでいい理由にはならないからね!」
「ククク……」
「笑ってごまかすな!!」
ネウロは、そのまま去っていった。
* * *
夕方。
コンパスの管理室。
机の上には、二本の始動キーがあった。
一本は、Xiが持つ正規のキー。
もう一本は。
アルバートが製作した、精巧な複製品。
正規のキーはXiの手に戻った。
複製品の方は、認証機能を持たない無効な品として、処理記録と共に一時保管されることになった。
アウクソーによる確認も済んでいる。
これ以上の複製や解析は認められない。
アルバートは、机に置かれたその金属片を見つめていた。
「……非常に残念です」
Xiが隣に立つ。
「……そう?」
「はい」
「でも、ちゃんと勉強になったでしょ?」
「……ええ」
アルバートは頷いた。
「物理的な複製と、機能的な複製は別であるということが、身をもって分かりました」
「……うん」
「非常に有益な経験でした」
「……うん」
「次は、その認証方式についてもっと詳しく」
「次はない!!」
アルバートが口を閉じた。
キラが苦笑する。
「……まあ、機体を傷つけたりしなくて良かったよ」
アスランも頷いた。
「だが、二度と無断で同じことをさせるわけにはいかない」
「……そうだね」
Xiは、アウト・ミラージュの方を見た。
巨大な白銀の騎体。
自分だけのモーターヘッド。
その機体は、今も静かに格納庫に立っている。
誰かが勝手に動かすことはできない。
どれほど優秀な技術者でも。
どれほど強力な魔人でも。
どれほど精巧な鍵を作ったとしても。
動かすかどうかを決めるのは、自分なのだ。
「……なんか」
Xiが小さく笑う。
「ちょっと安心したかも」
バクスチュアルが頷いた。
「ウン」
「僕の機体だもんね」
「Xiサンノ、機体」
「……うん」
その隣で。
アルバートは、机の上のスペアキーをじっと見つめていた。
「…………」
そして。
「……あの」
Xiが振り向く。
「何?」
「せめて、これを記念品としていただくことは」
「駄目!!」
アスランも即答した。
「回収対象だ」
アルバートが肩を落とした。
「……トホホ」
机の上には。
形だけは完璧な、アウト・ミラージュのスペアキーが残っていた。
しかし。
エンジンは掛けられない。
機体は動かせない。
所有者からの許可もない。
しかも、記念品として持ち帰ることすらできない。
アルバート・ハインライン。
1000%の善意と、120%の技術的好奇心で挑んだ結果。
何の役にも立たない金属片を一つ増やしただけだった。
彼はもう一度、深いため息をついた。
「……残念です」
Xiが笑った。
「だから最初から貸せないって言ったじゃないか」
「……ですが!」
「まだ何かあるの?!」
アルバートは顔を上げた。
「今回の経験を通して、私は一つ学びました!」
「……何?」
「アウト・ミラージュのエンジンを直接観察することは、現状では困難だということです!」
「……うん」
「ですから!」
「……うん?」
アルバートは、目を輝かせた。
「実際の機体を動かさずとも、既知の技術と設計思想をもとに、新しい機体を考えてみることはできるのではないかと!!」
「…………」
キラの笑顔が消えた。
アスランが顔を上げた。
Xiがゆっくりと振り向いた。
「……アルバート?」
「はい!」
「……今、なんて?」
アルバートは、実に晴れやかな笑顔だった。
「いえ! 技術者として、失敗から新たな可能性を見出しただけですよ!」
アスランが呟いた。
「……嫌な予感がする」
キラも頷いた。
「……僕も」
Xiは頭を抱えた。
「まだ何かやる気なの?!」
アルバートは力強く答えた。
「もちろんです!」
そして、誇らしげに胸を張った。
「日々勉強! 日々研究! 日々進歩です!!」
机の上では。
使い物にならないスペアキーが。
夕日を受けて、妙に綺麗に輝いていた。
……トホホ。