守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
コンパス管理下の大型機保管施設。
新型モビルスーツ開発構想として、アウトフリーダムガンダム、アウトジャスティスガンダム、デスティニーガンダム・アウトシルエットが発表されてから、二日後。
キラ・ヤマトは、ようやく平穏を取り戻しつつあった。
あれだけの騒ぎになったのだ。
さすがのアルバート・ハインラインも、少しは大人しくしているだろう。
何より、前回の設計案は正式な技術審査まで保留となっている。
ならば、しばらくは新型機の話など出てこないはずだ。
……そう考えていた。
「キラ。お飲み物をどうぞ」
「あ、ありがとう。ラクス」
コンパスの休憩スペース。
ラクス・クラインから差し出されたのは、某乳酸菌飲料だった。
テーブルには、GABA配合チョコレートも置かれている。
「……最近、こればかり飲んでる気がする」
「ふふ。お疲れのようですから」
「……うん」
キラは、少しだけ苦笑した。
「でも、今日は大丈夫だと思うよ」
「そうですか?」
「うん。もう新型機の話も一段落したし」
向かいに座っていた怪物強盗Xiが、ゆっくりと顔を上げた。
「……キラ」
「何?」
「そういうこと、言わない方がいいと思う」
「え?」
「この世界線、『もう大丈夫』って言った直後に大丈夫じゃなくなること、多いから」
アスラン・ザラが頷いた。
「否定できないな」
「……二人とも大袈裟だよ」
キラは笑った。
その時。
休憩スペースの扉が開いた。
「皆さん! 朗報です!!」
「…………」
キラの笑顔が止まった。
アルバート・ハインラインだった。
しかも、例によって巨大な図面ケースを抱えている。
「ほらァァァァ!!」
Xiが叫んだ。
「えっ?!」
アルバートは驚いた。
「まだ何も言っていませんよ?!」
「その図面ケースがもう嫌な予感しかしないんだよ!!」
キラは静かにチョコレートへ手を伸ばした。
* * *
「前回の新型機開発案については、皆さんから貴重なご意見をいただきました!」
アルバートが胸を張る。
アスランは腕を組んだ。
「……そうだな」
「そこで、私も考えました!」
「……何を?」
「最新鋭機の開発だけが、技術革新ではないと!」
アスランが少しだけ顔を上げた。
「……それは正しいな」
「でしょう?!」
アルバートは嬉しそうに頷く。
「優れた既存の機体を、新たな技術や装備によって有効活用する! これもまた、技術者に課せられた重要な使命なのです!」
キラも頷いた。
「……確かに。既存の機体を改修して使い続けるのは、合理的な考え方ですね」
「そうでしょう!!」
Xiが、嫌な予感を覚えた。
「……ちょっと待って」
しかし、アルバートは止まらない。
「しかも今回は、アウト・ミラージュから得た着想を直接的な新型機開発に結びつけるのではなく、既存のストライカーパックシステムを応用する方向で考えてみました!」
「……ストライカーパック?」
キラが首を傾げる。
「はい!」
「……ストライクガンダムの?」
「その通りです!」
アルバートは大きく頷いた。
「というわけで!」
図面ケースを開く。
「こんな事もあろうかと!!」
Xiが叫んだ。
「またそれ!!」
「新たなストライカーパックの強化プランを設計してみました!」
ばさっ!!
テーブルに広げられる設計図。
キラが覗き込む。
「……これは?」
そこに描かれていたのは。
巨大な防御装備。
射出装置。
特殊なマニピュレーター。
そして、妙に見覚えのある装甲構成だった。
アルバートは、誇らしげに宣言する。
「ストライクガンダムの新たな可能性を切り開く、革新的な防御型ストライカーパック!」
そして。
「アウトストライカーです!!」
沈黙。
キラの表情が消えた。
Xiも固まった。
「…………」
「…………」
数秒後。
「それ、前にも断ったやつですよ!!」
キラの悲鳴が響き渡った。
* * *
「……え?」
アルバートが瞬いた。
「前にも?」
「そうです!!」
キラは勢いよく頷いた。
「以前、レディオス・ソープさんが同じような装備を提案してきたんです!!」
Xiも叫ぶ。
「そうだよ!! 陛下が考えたアウトストライカーじゃないか!!」
「……なんと!」
アルバートは目を見開いた。
そして。
「素晴らしい!!」
「何が?!」
Xiが叫んだ。
「つまり、私とレディオス・ソープ様が、別々に検討を重ねた結果、同じ技術的結論へ辿り着いたということですね!」
「違う!!」
「優れた技術者は、同じ課題に対して似たような解決策を見出すものなのです!」
「二人とも同じ方向におかしいんだよ!!」
キラは頭を抱えた。
「……なんで、またこれが出てくるの……」
アルバートは、まだ興奮していた。
「いえ、これは非常に興味深い事例です! 独立した研究開発による、技術思想の収束!」
アスランが設計図を見た。
「……待て」
「はい?」
「この巨大な装備は何だ?」
「キャッチャーミット型シールドです!」
「…………」
「飛来する物体を確実に捕捉し、安全に受け止めることを目的とした新型防御装備です!」
アスランは次の装備を指さした。
「……では、これは?」
「ボール射出ポッドです!」
「…………」
「複数の射出体を用いた迎撃システムですね!」
「……これは?」
「タグアームです! 捕捉した対象を正確に識別し、行動を制限することを想定しています!」
そして。
アスランの指が、最後の装備を指した。
「……この『OUT』と書かれた発光パネルは?」
アルバートが笑顔になる。
「アウト判定表示パネルです!!」
「…………」
アスランが黙った。
キラが机に突っ伏した。
Xiが叫んだ。
「完全に野球じゃないかァァァァ!!」
* * *
「いえいえ!」
アルバートは、真面目な顔で説明を始めた。
「もちろん、野球のためだけに設計したわけではありません!」
「……だけ?」
Xiが聞き返す。
「はい!」
「野球にも使う前提なの?!」
「大切なのは、物体の捕捉、迎撃、行動阻止、そして結果の明確な表示という一連の流れです!」
アルバートは設計図を指さした。
「例えば、飛来する危険物をキャッチャーミット型シールドで受け止める!」
「……うん」
「高速で接近する対象をボール射出ポッドで迎撃する!」
「……うん?」
「逃走しようとする対象をタグアームで拘束する!」
「……うん?」
「そして!」
アルバートは、満面の笑顔で言った。
「アウト判定パネルを点灯させる!!」
「最後が要らない!!」
Xiが叫んだ。
アスランが冷静に続ける。
「そもそも迎撃結果を外部へ大きく表示する必要があるのか?」
「視認性の向上です!」
「敵にも見えるぞ」
「……あ」
アルバートが少し考えた。
「では、味方のみに見える方式へ改良すれば!」
「そんな表示に開発費を掛けるな!!」
キラが顔を上げた。
「……でも、危険物を安全に捕捉するという発想自体は、使い道があるかもしれませんね」
アルバートが目を輝かせた。
「でしょう?!」
「……あ」
Xiが悲鳴を上げる。
「キラ! また褒めちゃった!!」
「でも、そこは本当に……」
「分かるけど!!」
キラは少し困った顔で続けた。
「救助活動で、落下物や飛来物を安全に受け止められる装備があれば便利だと思うんです」
アルバートが大きく頷く。
「そうです! そこです!」
「……ただし、別に野球のキャッチャーミットである必要はありませんよね?」
「…………」
アルバートが黙った。
Xiが頷く。
「うん。そこだよね」
「……ですが」
「ですが?」
「形状としては非常に合理的なのです!!」
「譲らない!!」
* * *
その時。
「……あれぇ?」
聞き慣れた声がした。
一同が振り向く。
そこに立っていたのは、ソープダッシュだった。
「なんか面白そうなことしてるねぇ」
Xiが固まった。
「……陛下」
「なぁに?」
「お願いだから、今は見ないで」
「どうして?」
「絶対に話がややこしくなるから!!」
しかし。
アルバートは、既に図面を掲げていた。
「レディオス・ソープ様! ちょうど良いところに!」
「はぁい」
「ぜひ、こちらをご覧ください!」
ソープダッシュが図面を覗き込む。
「……あ」
数秒後。
「あたしのアウトストライカーとそっくりだぁ!」
「でしょう?!」
アルバートが嬉しそうに頷く。
Xiが叫んだ。
「そこで意気投合しないで!!」
ソープダッシュは楽しそうに笑った。
「キャッチャーミットもある!」
「はい!」
「ボール射出ポッドも!」
「もちろんです!」
「OUT表示まで!」
「視認性を重視しました!」
「一緒だねぇ!!」
「素晴らしい偶然です!!」
Xiは両手で顔を覆った。
「……もう嫌だ」
キラも机に突っ伏したままだった。
「……どうして僕のところに、同じようなものが二回来るんだろう……」
ソープダッシュは、キラを見た。
「でもキラ君、前にも言ったけど、アウトストライカーって結構便利なんだよ?」
「……前にも断りましたよね?」
「うん!」
「……だったら」
「でも今回はアルバートさんも同じものを考えたんだよ?」
「だから何ですか?!」
ソープダッシュは楽しそうに言った。
「二人の技術者が、別々に同じ答えに辿り着いたんだから、きっと良いものなんじゃないかなぁ」
Xiが即座に叫んだ。
「二人が同じ方向におかしい可能性を考えて!!」
そこへ、ログナーが現れた。
「陛下」
「あ、ログナー」
「……またですか」
「またって何?」
「そのアウトストライカーは、以前キラ・ヤマトが拒否した装備でしょう」
「うん」
「では、本人の意思を尊重してください」
「でも、今回は別の人が設計したんだよぉ」
「設計者が変わっても、本人が拒否している事実は変わりません」
「……そっか」
ソープダッシュは少し考えた。
「じゃあ、今回は別の人が乗ればいいんじゃない?」
Xiが叫んだ。
「そういう問題じゃない!!」
* * *
「……ところで」
アルバートが、もう一枚の設計図を広げた。
アスランの眉が動いた。
「……まだあるのか?」
「はい!」
「…………」
アルバートは胸を張った。
「実は、今回のアウトストライカーには、さらに大きな特徴がありまして!」
キラが恐る恐る顔を上げた。
「……何ですか?」
「従来の各種ストライカーパックとの互換性も維持しています!!」
「……え?」
キラは少しだけ驚いた。
「それは……技術的には大事なことですね」
「でしょう?!」
アルバートは嬉しそうに続ける。
「エールストライカー!」
「……はい」
「ソードストライカー!」
「……はい」
「ランチャーストライカー!」
「……はい」
「さらに、複合装備に対応した拡張接続フレームも設計しました!」
アスランが顔を上げた。
「……拡張接続フレーム?」
「はい!」
「何のためだ?」
アルバートは、にっこり笑った。
「全部同時に装備するためです!!」
沈黙。
Xiが、ゆっくりと顔を上げた。
「…………」
キラも固まった。
アスランが目を細めた。
「……待て」
「はい?」
「つまり、従来の複合ストライカー装備に、さらにアウトストライカーを追加するつもりなのか?」
「その通りです!」
「…………」
アルバートは勢いよく新しい図面を広げた。
「名付けて!」
ばさっ!!
「スーパーマキシマムパーフェクトストライクガンダム!!」
「長い!!」
Xiが叫んだ。
「長いよ!! 長すぎるよ!!」
キラは絶句していた。
「…………」
シン・アスカが図面を覗き込む。
「……ちょっと待ってください」
「何でしょう?」
「これ、エール、ソード、ランチャー、その他の追加装備を全部積んだ上に、さらにアウトストライカーですか?」
「はい!」
「……重くないですか?」
「そこは今後の課題です!」
「課題を解決してから持ってきてください!!」
アスランも厳しい顔だった。
「重心位置は?」
「検討中です!」
「機体の出力余裕は?」
「再計算が必要です!」
「装備間の干渉は?」
「接続フレームの最適化を進めています!」
「……つまり」
アスランが言った。
「まだ成立するかどうかも分からない構想ということだな」
「はい!」
「そこで元気よく返事しないで!!」
Xiが叫んだ。
アルバートは、なおも前向きだった。
「ですが、こうした技術的課題を一つずつ解決することで、進歩が生まれるのです!」
「……それは正しい」
アスランが頷く。
「でしょう?!」
「ただし、課題が山積みの設計案を、完成した強化装備のように提示するな」
「…………」
アルバートは少し考えた。
「……では」
「何だ?」
「今後の研究開発課題として提出します!!」
Xiが頭を抱えた。
「本当に折れないね、あなた!!」
* * *
「……全部乗せ?」
そこへ、桂木弥子がやって来た。
机の上に広げられた設計図を見て、目を輝かせる。
「わぁ! すごい!」
Xiが嫌な予感を覚えた。
「……弥子ちゃん?」
「これ、全部のストライカーパックを装備できるんですか?!」
「はい!」
アルバートが嬉しそうに答える。
「構想段階ですが、可能性は十分にあります!」
「豪華ですね!!」
「……豪華?」
キラが顔を上げた。
弥子は嬉しそうだった。
「だって、ラーメンだってチャーシューに煮卵、メンマに海苔、全部乗せは豪華じゃないですか!」
「モビルスーツをラーメンで例えないでください!!」
シンが叫んだ。
だが、弥子は止まらない。
「しかも、そこへ追加でトッピングできるんですよね?!」
「はい!」
アルバートが頷く。
「まさにその発想です!」
「じゃあ、もっと乗せられるんですか?!」
「拡張性については、引き続き検討する価値がありますね!」
「検討しないで!!」
Xiが叫んだ。
弥子は首を傾げた。
「……え?」
「弥子ちゃん! こういう時にアルバートを褒めると、どんどん装備が増えちゃうから!」
「……そうなんですか?」
「そうなんだよ!」
ネウロが後ろから現れた。
「ククク……実に愉快だな」
「……ネウロ」
「桂木弥子。貴様の食欲と同じだ」
「えっ?!」
「際限なく追加を求めた結果、もはや本来の目的を見失っている」
「失礼な!」
「ラーメンなら食えば終わるが、この機体は装備を追加するたびに問題が増えるらしい」
Xiが頷いた。
「……その通りだよ」
ネウロは設計図を眺めた。
「ククク……最後には、装備が本体を運ぶようになるのではないか?」
「言わないで!!」
Xiが叫んだ。
アルバートは、少しだけ考えた。
「……装備側に補助推進機構を設ければ」
「真面目に検討しないで!!」
* * *
その頃。
ソープダッシュは、別のことを考えていた。
「……ねぇ、アルバートさん」
「はい!」
「全部乗せするならさぁ」
「はい!」
「必要に応じて装備を分離したり、再結合したりできるようにしたら面白いんじゃない?」
アルバートの目が輝いた。
「……なるほど!」
Xiが固まった。
「……陛下?」
「だって、状況によって必要な装備は変わるでしょ?」
「……まあ、そうだけど」
「だから、必要な時だけ必要なものを使えるようにすればいいんだよ」
アルバートが大きく頷く。
「素晴らしい! モジュール単位での再構成を前提とした、可変戦術システムですね!」
「そうそう!」
「では、各ユニットに自律した姿勢制御機構を設けて!」
「いいねぇ!」
「さらに、遠隔誘導による再結合機能を!」
「面白そう!」
Xiが両手を上げた。
「待って!! 待って待って待って!!」
二人が振り向く。
「?」
「何?」
「今、完全に新しい兵器システムの開発が始まってるよね?!」
アルバートが首を傾げる。
「新しい技術的可能性を検討しているだけですが」
ソープダッシュも頷いた。
「まだアイデアだよぉ」
「そのアイデアが怖いんだよ!!」
ログナーが低い声を出した。
「陛下」
「……あ」
「通行止めです」
「えー」
「えー、ではありません」
アルバートが手を挙げた。
「では、私の方で独自に検討を!」
アスランが即座に言った。
「お前もだ」
「……え?」
「保管対象機から得た技術的知見との関係を審査するまでは、先へ進めるな」
「……厳しいですね」
Xiが叫んだ。
「今までが緩すぎたんだよ!!」
* * *
その後。
アルバートは、せめて設計案の概念的な検証だけでも行いたいと申し出た。
アスランは、しばらく考えた。
そして。
「……既存のストライクの公開可能な仕様を使って、装備重量と干渉の概算だけ確認するなら構わない」
「本当ですか?!」
「ただし、アウト・ミラージュ由来の機密情報は使うな。新規機構の実装も、実機試験も認めない」
「承知しました!」
Xiは不安そうに尋ねた。
「……大丈夫なの?」
「机上の概算だ。むしろ問題点を明確にするためだ」
「……なるほど」
アルバートは早速、端末を操作し始めた。
画面には、ストライクガンダムの三次元モデルが表示される。
「まずは基本状態から!」
画面の機体は、見慣れた姿をしていた。
「次に、既存の複合ストライカーパックを!」
装備が追加される。
「さらに、拡張接続フレームを!」
背部が大きくなる。
「そして、アウトストライカーを!」
巨大なキャッチャーミット。
ボール射出ポッド。
タグアーム。
OUT判定パネル。
次々と追加される。
「…………」
キラが無言になった。
Xiも黙った。
シンが呟く。
「……なんか、だんだんストライクが見えなくなってません?」
アルバートは楽しそうだった。
「これぞ、全部乗せの醍醐味ですね!」
「見た目の醍醐味で設計しないで!!」
Xiが叫んだ。
最後の装備が追加された。
『スーパーマキシマムパーフェクトストライクガンダム』
画面上の機体は。
巨大な追加装備に囲まれ。
肩も背中も、もはや何が何だか分からなくなっていた。
しかも。
キャッチャーミット型シールドが大きすぎて、片側の腕がほとんど隠れている。
キラが呟いた。
「……僕のストライク、どこ?」
Xiが答えた。
「……真ん中に、ちょっといる」
「…………」
シンが苦笑する。
「機体というより、装備の集合体ですね」
弥子が目を輝かせた。
「豪華ですねぇ!」
「弥子ちゃん!!」
Xiが叫んだ。
アルバートは、概算結果を確認した。
「……ふむ」
アスランが尋ねる。
「どうだ?」
「……少々、問題がありますね」
「……少々?」
アルバートは端末を指さした。
「装備重量が増大しており、姿勢制御と機体構造への負担について、追加の検討が必要です」
アスランが頷く。
「予想通りだな」
「さらに、一部装備同士の干渉も確認されました」
「……そうだろう」
「そして、キャッチャーミット型シールドの運用姿勢に制限が」
「……だろうな」
Xiが顔を上げた。
「……つまり?」
アルバートは、少しだけ残念そうに言った。
「現状の設計では、実用化までには多くの課題が残っています」
「当たり前だよ!!」
Xiが叫んだ。
キラは、ほっと息を吐いた。
「……よかった」
アルバートが振り向く。
「……何がです?」
「……いえ」
キラは苦笑した。
「ちゃんと問題点が分かって」
「そうですね!」
アルバートは大きく頷く。
「問題が分かれば、解決策を考えられますから!!」
キラの笑顔が消えた。
「…………」
Xiが叫んだ。
「そこで終わって!!」
* * *
「……ところで」
ソープダッシュが、画面を覗き込んだ。
「ちょっと気になるんだけど」
Xiが身構える。
「……何?」
「このOUT判定パネル、もう少し大きくできない?」
「何で?!」
「だって、せっかくなら遠くからでも見える方がいいじゃない」
アルバートが頷く。
「確かに、視認性は重要ですね!」
「でしょう?」
「では、背部に大型表示装置を増設する案を!」
Xiが叫んだ。
「まだ盛るの?!」
アスランが言った。
「重量問題を悪化させるな」
アルバートが頷く。
「……では、軽量化を検討します!」
「話が終わらない!!」
その時。
ずっと黙っていたキラが、静かに口を開いた。
「……アルバートさん」
「はい!」
「少し、いいですか?」
「もちろんです!」
キラは、画面のストライクを見た。
「今回の案、全部が駄目だとは思いません」
アルバートが真剣な顔になる。
「……はい」
「危険物を安全に受け止める装備や、旧型機を活用するという発想には、ちゃんと意味があると思います」
「ありがとうございます!」
「でも……」
キラは、少しだけ笑った。
「僕は、この全部乗せストライクには乗りたくありません」
「…………」
アルバートが黙った。
キラは続けた。
「守りたいものがあるから、力が必要だと思うことはあります。でも、だからって、何でもかんでも装備すればいいわけじゃないですよね」
ラクスが、静かに頷いた。
「はい」
「僕は、必要な力を、必要な形で使いたいんです」
キラはアルバートを見た。
「だから、設計してくれたことには感謝します。でも、僕が乗るかどうかは、僕に決めさせてください」
しばらくの沈黙。
そして。
アルバートは、静かに頷いた。
「……分かりました」
Xiが目を丸くした。
「……アルバート?」
「キラさんのご意思は尊重します」
「……良かった」
キラも、少しだけ安心した。
アルバートは、設計図を丁寧に畳み始めた。
「では、この案は保留といたします」
「……ありがとうございます」
「ただし!」
Xiが固まった。
「……ただし?」
「旧型機の有効活用という方向性そのものは、今後も検討する価値がありますね!!」
「やっぱり諦めてない!!」
アルバートは笑顔だった。
「もちろんです!」
「……なんでそんなに嬉しそうなの?」
「今回も貴重な学びがありましたから!」
「…………」
「技術開発とは、失敗から学ぶことの積み重ねなのです!」
Xiは天井を仰いだ。
「……うん」
そして。
「言葉は正しいんだよねぇ!!」
* * *
夕方。
コンパスの休憩スペース。
キラは、ようやく椅子に深く腰を下ろした。
「……疲れた」
ラクスが、そっと飲み物を差し出す。
「キラ。お疲れ様でした」
「……ありがとう、ラクス」
某乳酸菌飲料。
そしてGABA配合チョコレート。
キラは、小さく笑った。
「……最近、本当にこれのお世話になってるね」
「ふふ。今日は予備も多めに用意してあります」
「……そうなんだ」
ラクスが微笑む。
「弥子さんの分も、別に」
「…………」
キラが少しだけ目を丸くした。
「……ラクス」
「はい?」
「……ありがとう」
そこへ、弥子がやって来た。
「あ! チョコレート!」
Xiが即座に言った。
「弥子ちゃん! 今日は自分の分があるから!」
「本当ですか?!」
「うん!」
「ありがとうございます!!」
弥子は嬉しそうに、自分用のチョコレートを受け取った。
ぱくっ。
「……美味しい!」
キラは、ようやく安心して自分のチョコレートを食べた。
「……うん」
平和だった。
少なくとも、この瞬間は。
その横で。
アスランが、Xiに声を掛けた。
「……ところで、Xi」
「何?」
「アウト・ミラージュの正式保管契約だが」
Xiが顔を上げる。
「……あ!」
「ようやく、具体的に進められそうだ」
「……本当に?!」
「ああ」
Xiは、ほっと息を吐いた。
「……長かった」
アスランが頷く。
「今回の件で、明文化すべき項目も増えた」
「……だよね」
「保管責任、点検範囲、機体への立ち入り権限、技術情報の取得、複製、改造、他機種への転用……」
Xiは、指を折りながら聞いていた。
「……多いね」
「必要なことだ」
「……うん」
バクスチュアルが、小さく頷いた。
「Xiサンノ、機体」
「……そうだね」
Xiは少しだけ笑った。
「ちゃんと決めなくちゃね」
すると。
休憩スペースの入口から、アルバートが顔を出した。
「皆さん! こんな事もあろうかと!!」
Xiが反射的に立ち上がった。
「もういい!!」
「えっ?!」
アルバートは驚いた。
「まだ何も言っていません!」
「言わなくていい!!」
「いえ、正式保管契約の話が出ることを予想して、必要な資料を整理しておいたのですが!」
Xiが固まった。
「……え?」
アスランが尋ねる。
「……資料?」
「はい!」
アルバートは、分厚いファイルを掲げた。
「過去一カ月以上の点検記録、現在の管理手順、想定される整備上の課題、今後の点検体制についてまとめました!」
「…………」
Xiは少し考えた。
「……それは」
アルバートが胸を張る。
「はい!」
「……普通に役に立つやつだね?」
「もちろんです!」
アスランも頷いた。
「資料としては必要だな」
Xiは、ようやく笑顔になった。
「……アルバート!」
「はい!」
「ありがとう! 今回は本当に助かるよ!」
アルバートは嬉しそうに笑った。
「いえいえ!」
そして。
「なお、別冊として、今後の技術研究開発に関する提案書も用意してあります!!」
「そっちは要らない!!」
Xiとアスランが同時に叫んだ。
アルバートは首を傾げた。
「……残念です」
ラクスが、小さく微笑む。
キラは、静かにチョコレートをもう一粒口に入れた。
ソープダッシュが、横からアルバートの別冊を覗き込んでいた。
「……へぇ。面白そう」
ログナーが、低い声で言った。
「陛下」
「……あ」
「通行止めです」
「えー」
「えー、ではありません」
Xiは、再び頭を抱えた。
「この二人、絶対に離しておいた方がいい!!」
* * *
こうして。
アウトフリーダムガンダム。
アウトジャスティスガンダム。
デスティニーガンダム・アウトシルエット。
そして。
再び登場したアウトストライカー。
数々の設計案が、技術審査と本人の承諾を待つことになった。
もっとも。
それらのうち、実際に機体が完成したものは一つもない。
アウト・ミラージュの機密技術が、正式に提供されたわけでもない。
あくまで、技術者たちの発想と研究開発の構想が、次々と広がっていっただけである。
しかし、その結果。
技術者たちは新たな可能性を見出し。
パイロットたちは頭を抱え。
Xiは、自分の機体の保管契約が一向に進まないことを嘆き。
ログナーは、今日も陛下に通行止めを告げることになった。
そして何より。
アウト・ミラージュの技術がどこへ向かっているのか、誰にも分からなくなっていた。
……というより。
そもそも。
アウト・ミラージュのテクノロジーから出発したはずの話が。
なぜか最後には。
ストライクガンダムで野球をする話になっていたのである。
「……ねえ、アルバート」
Xiが尋ねた。
「はい?」
「……僕のアウト・ミラージュの技術、どこへ行ったの?」
アルバートは少し考えた。
そして。
「技術とは、思いもよらない分野へ発展していくものなのです!!」
「…………」
Xiは、遠い目をした。
「……そっか」
「はい!」
「……でもさ」
「何でしょう?」
「野球に行くとは思わなかったよ!!」
アルバートは、満面の笑顔だった。
「いやぁ、私も驚きました!」
「自分で考えたんでしょ?!」
今日も、技術者の探究心は尽きない。