守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
コンパス管理下の大型機保管施設。
その一角に、白銀の巨大な騎体が鎮座していた。
アウト・ミラージュ。
怪物強盗Xiの専用モーターヘッドである。
以前、コンパスの協力によってこの施設へ搬入された時には、まだ正式な保管場所が決まっていなかった。
だから、あくまで一時的に預かってもらう。
正式な保管先が決まるまでの、暫定措置。
いわゆる。
仮置き。
……だったはずなのだが。
「……二ヶ月、タチマシタ」
アウト・ミラージュを見上げていたバクスチュアルが、ぽつりと呟いた。
「……何が?」
Xiが振り向く。
「コノ子ガ、ココニ来テカラ……」
「…………」
Xiは、改めてアウト・ミラージュを見上げた。
「……え?」
「二ヶ月」
「もうそんなに仮置きなの?!」
バクスチュアルが頷く。
「ウン」
キラ・ヤマトが苦笑した。
「……いろいろあったからね」
「ありすぎたよ!!」
Xiは頭を抱えた。
「最初は置き場所が決まらないってだけだったのに!」
アスラン・ザラが指を折る。
「ヘキサクスへの保管案が却下され、日常点検マニュアルが作られ、許可のないスキャンによる機密情報の取得が発覚した」
「……うん」
「始動キーの無断複製もあった」
「……うん」
「さらにアウト・ミラージュの設計思想から着想を得たという、新型MS開発案が複数提出された」
「……うん」
Xiは遠い目をした。
「……最後、野球だったよね?」
「……そうだな」
「なんで僕のMHの保管から、ストライクガンダムで野球をする話になったの?!」
キラは何も言わなかった。
その沈黙が、全てを物語っていた。
バクスチュアルが小さく呟く。
「……コノ子、何モシテナイ」
「そうなんだよ!!」
Xiは力いっぱい頷いた。
「アウト・ミラージュは二ヶ月間、ただ置いてあるだけなんだよ!!」
それなのに。
周囲の人間だけが、勝手に大騒ぎしていたのである。
* * *
「……というわけで」
コンパスの会議室。
Xiは、テーブルを囲む関係者を見回した。
「もう、いい加減に正式な保管契約を結ぼうと思うんだ」
キラが頷く。
「うん。その方がいいと思う」
アスランも同意した。
「現状はあくまで暫定的な保管措置だ。管理責任や作業範囲を、明確に定める必要がある」
「そうなんだよね」
Xiは腕を組んだ。
「このまま惰性で置いておいて、またいろいろトラブルのもとになるよりは!」
そこへ、ファルク・U・ログナーが口を開いた。
「ようやく決めたか」
「……司令」
「正式にコンパスへ預けるということでいいのだな?」
「……うん」
Xiは少し考えてから頷いた。
「ほかに良い保管先があるわけでもないし、コンパスなら大型機の管理設備もあるし」
以前、ヘキサクスへの保管を提案されたこともあった。
しかし、そこは世界規模の軍需企業である。
A.K.D.の極秘技術が、企業の研究開発対象になってしまう危険性がある。
そもそも。
会長がシックスなのだ。
それだけで、十分に危険だった。
「……ヘキサクスは、さすがに嫌だし」
Xiが呟く。
ログナーは即答した。
「当然だ。通行止めだ」
「……だよね」
キラが笑う。
「僕たちとしても、ここなら責任を持って管理できると思う」
「……ありがとう」
Xiは、少しだけ笑った。
「じゃあ、お願いしたい」
ログナーが頷いた。
「では、正式な手続きを進める」
その横で。
アウクソーが、静かに一冊の書類を差し出した。
「保管契約の草案です」
「……もうあるの?」
「はい」
さらにアスランも、別の書類を取り出した。
「コンパス側の管理責任についても、既に整理してある」
「…………」
キラが頷く。
「ラクスとも相談しておいたよ」
「…………」
Xiは、しばらく黙っていた。
そして。
「みんな、僕が決める前から準備してた?!」
ログナーが答えた。
「必要になった時に対応できるようにしておいただけだ」
「また外堀!!」
「お前の判断を待っていた」
「……そうだけど!!」
Xiは頭を抱えた。
「僕の周り、段取りと根回しが上手すぎる人ばっかりなんだよ!!」
* * *
「まず、費用についてだ」
ログナーが言った。
Xiが少し身構える。
「……うん」
「保管にかかる費用は、A.K.D.持ちだ。安心しろ」
「…………」
Xiは目を瞬いた。
「……え?」
「格納施設の使用料、通常の保管管理費、必要な維持費については、A.K.D.が負担する」
「……全部?」
「そうだ」
「…………」
Xiは、少しだけ考えた。
そして。
「安心したいけど、外堀が埋まる音がする!!」
ログナーが首を傾げた。
「何が不満だ?」
「不満じゃないよ!!」
Xiは慌てて首を振った。
「むしろ、ものすごくありがたい話だよ!」
「ならば問題あるまい」
「そうやって全部解決済みにしないで!!」
キラが苦笑する。
「でも、保管費用の負担がなくなるのは大きいと思うよ」
「……そうだね」
アスランも頷いた。
「コンパス側としても、費用負担が明確になれば管理計画を立てやすい」
「……そうなんだよね」
Xiは腕を組んだ。
「……でも、それって」
ログナーを見た。
「僕がミラージュ騎士団に入ることが前提になってたりしない?」
「ならん」
即答だった。
「保管費用は、アウト・ミラージュの維持管理に必要な経費だ。お前が騎士団に所属するかどうかとは別の話だ」
「……本当?」
「陛下も、お前自身の選択を尊重すると仰った」
「……うん」
「だから、今回の保管契約に騎士団への入団義務は含まれない」
Xiは、ほっと息を吐いた。
「……良かった」
ログナーは続けた。
「ただし、LEFT No. XIの席は空けてある」
「やっぱり外堀が埋まってるじゃないかァァァ!!」
キラが吹き出した。
アスランは額を押さえた。
アウクソーは静かに微笑んでいた。
ログナーだけが真顔だった。
「空席を維持することと、お前に入団を強制することは違う」
「……理屈はそうだけど!!」
「嫌なら断れ」
「断っても席は空いてるんでしょ?!」
「そうだ」
「怖い!!」
* * *
「じゃあ、次は輸送方法だな」
ログナーが言った。
Xiが身構える。
「……まさか」
「保管先を変更する必要が生じた場合、MHドーリーを手配する」
「……ああ」
「必要ならエア・ドーリーも利用可能だ」
「これ以上支給品を増やさないで!!」
その時、会議室の扉が開いた。
「なんだヨ。まだその話してんのか」
ダグラス・カイエンだった。
「……師匠」
「いいじゃねぇか。運転手付きのキャンピングカーみたいなモンだろ」
「だからキャンピングカーじゃないって!!」
カイエンは楽しそうに笑った。
「デカいだけだヨ」
「そのデカさが問題なんだよ!!」
ログナーが冷静に言う。
「実際の輸送には、専任の輸送要員を手配する。Xi自身が運転する必要はない」
「……それは安心した」
「当然だ」
「……普通自動車免許で動かせるような代物じゃないもんね」
カイエンが肩をすくめた。
「オマエなら、運転くらい覚えられるんじゃねぇか?」
「覚えたくない!!」
アスランが書類に何かを記入した。
「……輸送手段は必要時に別途手配。日常の保管契約とは切り分ける」
Xiが勢いよく頷いた。
「そう! それでお願い!」
ログナーも頷く。
「異論はない」
Xiは、少しだけ安心した。
……巨大輸送設備まで、日常的な支給品に加えられるところだったのである。
* * *
「続いて、整備担当についてだ」
ログナーが言った。
Xiが顔を上げる。
「……ああ、そこも決めないとね」
アウクソーが静かに説明する。
「A.K.D.側から、専門技術者を派遣することが可能です」
「……うん。ありがたい話だね」
ログナーが続けた。
「伝説のMHマイスターだ。オマエも聞いたことはあるだろう」
Xiの顔が引きつった。
「……まさか?!」
会議室の扉が開いた。
「おはよう! 整備ができる専門技術者です!」
そこに立っていたのは。
長い黒髪を揺らし、楽しそうに笑う青年。
レディオス・ソープだった。
「…………」
Xiは、ゆっくりと顔を上げた。
そして。
「お目付け対象だね! 知 っ て た よ !!」
ソープは笑った。
「えー、ひどいなぁ。僕、ちゃんと整備できるよ?」
「できるのは知ってる!!」
Xiが叫ぶ。
「むしろ誰よりもできるのも知ってる!!」
ログナーが頷いた。
「技術力については保証する」
「保証されなくても疑ってないよ!!」
アウクソーも静かに続ける。
「アウト・ミラージュの設計・製造にも直接関わっておられますので、最も機体を熟知した技術者です」
「造った本人じゃないか!!」
ソープがにっこり笑った。
「うん。だから安心でしょ?」
Xiは両手を広げた。
「整備の品質は安心! 整備の結果が不安!!」
ログナーが頷いた。
「その点については、既に対策を考えてある」
「……え?」
「陛下の整備作業には、監督要員を配置する」
Xiが目を丸くした。
「……監督要員?」
「そうだ」
ログナーは、会議室の入口を見た。
「入れ」
扉が開いた。
「失礼いたします」
入ってきたのは、イエッタだった。
「……イエッタさん?!」
「はい。よろしくお願いいたします」
Xiは驚いた。
「でも、ヘキサクスの監視は?」
「そちらも継続しております」
イエッタは静かに答えた。
「ただ、ジョーイ係長との連携が整ってきたことで、以前よりは業務を分担できるようになりました」
「……なるほど」
「必要な時には、こちらの整備監督にも参加できます」
「……大変じゃない?」
「いえ」
イエッタは、穏やかな表情で答えた。
「こちらの方が、まだ対処しやすいかと」
「……そうなの?」
「シックス会長は、明確な悪意を持って問題を起こされます」
「……うん」
「陛下の場合は、主に好奇心ですから」
ソープが頷いた。
「そうそう! 僕、悪いことなんて考えてないよ?」
イエッタは続けた。
「ただし、結果が予測できない点では共通しています」
「結局どっちも危険じゃないか!!」
ソープが少し頬を膨らませた。
「えー。シックスと一緒にしないでよ」
イエッタは静かに答えた。
「もちろん、動機は区別しております」
「……ならいいけど」
「しかし、動機が違っても監督が必要なことは変わりません」
Xiが思わず拍手した。
「イエッタさん、強い!!」
ログナーが頷いた。
「適任だろう」
「……うん! 今度は本当に納得した!」
* * *
「では、整備に関する条項を確認します」
アウクソーが書類を開いた。
「通常の外観点検、保管環境の確認、安全維持に必要な整備については、事前に定めた範囲で実施可能とします」
Xiが頷く。
「うん」
「ただし、内部構造の調査、分解、部品の取り外し、仕様変更、追加武装の装着については、Xiさん本人とA.K.D.の技術管理担当者の事前承認が必要です」
「……完璧!」
ソープが首を傾げた。
「でも、整備していて改良した方が良いところを見つけたら?」
イエッタが答える。
「まずご報告ください」
「ちょっと調整するだけなら?」
「承認された整備範囲を超える場合は、事前承認が必要です」
「反応速度を少し上げるとか」
「仕様変更に該当します」
「……追加装甲は?」
「追加装備です」
「……バスター砲」
「承認されていません」
「……けん玉フレイル」
「却下されています」
ソープが目を丸くした。
「まだ説明してないよ?」
「以前のご提案と同じでしたので」
Xiが叫んだ。
「イエッタさん、頼もしすぎる!!」
ソープは少し考えた。
「……じゃあ」
Xiが身構える。
「……何?」
「バスター砲付きけん玉フレイルなら?」
「悪魔合体させないで!!」
ログナーが静かに言った。
「陛下」
「なぁに?」
「通行止めです」
「……えー」
「えー、ではありません」
アウクソーは、黙って書類に追記した。
『承認のない追加武装及び複合武装の装着を禁止する』
Xiが目を丸くした。
「……条項が増えた」
イエッタが頷いた。
「必要ですので」
「……うん」
Xiは深く納得した。
* * *
「次に、技術情報の取り扱いについてだ」
アスランが口を開いた。
その瞬間。
会議室の隅で、アルバート・ハインラインが顔を上げた。
「お待ちしておりました!」
Xiが振り向く。
「……アルバート?」
「はい!」
「……なんでそんなに嬉しそうなの?」
「技術管理体制の整備は、私にとっても大変重要な課題ですから!」
「……まあ、そうだよね」
アスランが書類を読み上げる。
「保管対象機に関する技術情報は、A.K.D.の許可した範囲を超えて取得、解析、複製してはならない」
「はい!」
「非破壊検査、三次元スキャン、構造解析なども、事前承認されたものを除き禁止とする」
「はい!」
「取得を許可された点検記録も、保管管理以外の目的に流用してはならない」
「はい!」
Xiが、少しだけ驚いた。
「……アルバート、今回は素直だね」
「当然です!」
アルバートは胸を張った。
「私も、前回までの件でいろいろと学びましたから!」
「……良かった」
アスランが続けた。
「また、これまでの観察や検査で得られた情報についても、A.K.D.の機密技術に該当するものを無断で他機種へ転用してはならない」
「……はい!」
「アウトフリーダム、アウトジャスティス、デスティニー・アウトシルエット等の開発構想については、別途技術審査を行う」
「承知しました!」
Xiは、ほっと息を吐いた。
「……なんだ。ちゃんと分かってるじゃないか」
アルバートは、笑顔で続けた。
「もちろんです! 規則が明確になれば、その範囲内で安心して研究ができます!」
「……うん」
「そこで!」
Xiが固まった。
「……そこで?」
「研究開発に関する例外規定についても、検討していただけないかと!!」
「やっぱり来たァァァ!!」
アルバートは、分厚い別冊を取り出した。
「こんな事もあろうかと! 今後の技術研究に関する提案書をまとめてあります!」
「こんな事もあろうかと、を禁止したくなってきた!!」
アスランが手を差し出した。
「……見せろ」
「はい!」
アルバートが嬉しそうに書類を渡す。
アスランは数ページめくった。
そして。
「……却下だ」
「早い!!」
アルバートが叫んだ。
「まだ全てご覧になっていません!」
「保管契約に研究開発の包括的な許可を盛り込む必要はない」
「……ですが!」
「必要な研究があれば、その都度申請しろ」
「…………」
アウクソーが静かに補足する。
「許可される範囲は、個別に判断いたします」
アルバートは、しばらく考えた。
そして。
「……なるほど!」
「……何?」
Xiが尋ねる。
「つまり、個別に申請すれば審査していただけるのですね!!」
「……まあ、そうだけど」
「では、正式な申請書類を用意します!」
「もう用意する気?!」
アルバートは満面の笑顔だった。
「もちろんです!」
ログナーが低い声で言った。
「申請は自由だ。許可するかどうかは別だがな」
「承知しました!」
Xiは頭を抱えた。
「……本当に折れないね、この人」
アウクソーが小さく微笑んだ。
「向上心そのものは、素晴らしいことですから」
「……そうなんだけどねぇ!!」
* * *
「次は、始動に関する規定だ」
ログナーが言った。
Xiが勢いよく顔を上げた。
「そこ! そこは絶対に細かくして!!」
アルバートが少しだけ肩を落とした。
「……そんなにですか」
「あなたが言うな!!」
アウクソーが説明する。
「アウト・ミラージュの始動には、正規の始動キー、Xiさん本人の生体認証、バクスチュアルさんとのペアリング、そして機体側の認証が必要です」
バクスチュアルが小さく頷く。
「ウン」
「したがって、正規の手順を経ない始動、始動キーの無断使用及び複製を禁止します」
Xiが頷く。
「うん!」
アスランが続ける。
「所有者の許可を得ない始動試験、動作確認、稼働データの取得も禁止だ」
「うん!」
キラも頷いた。
「点検や整備のために起動が必要なら、Xiとバクスチュアル、それからA.K.D.側の担当者に相談することになるね」
「……うん!」
アルバートが手を挙げた。
「質問です!」
Xiが身構える。
「……何?」
「非常時に、始動が必要になった場合は?」
アスランが答える。
「まず安全確保と関係者への連絡だ。緊急時の措置も、あらかじめ認められた範囲に限定する」
「通信不能の場合は?」
「安全な状態を維持し、独断で始動させない」
「……始動キーが手元にある場合は?」
「無断使用は禁止だ」
「……複製キーの場合は?」
「もっと駄目だ!!」
Xiが叫んだ。
ログナーが静かに続ける。
「なお、第三者を利用した始動キーの入手も禁止する」
「……第三者?」
キラが首を傾げる。
Xiが顔をしかめた。
「……ネウロのことだよ」
アスランが頷いた。
「魔人を利用した無断調達も、当然認められない」
アルバートは少し考えた。
「……しかし」
Xiが身構える。
「……何?」
「魔人の能力を利用すること自体は、技術的に非常に興味深いのですが」
「研究対象を増やさないで!!」
その時。
ログナーが淡々と言った。
「以前作られた無効な複製キーについても、処理記録を残した上で廃棄する」
アルバートが肩を落とした。
「……せめて記念品として」
「認めん」
「…………」
Xiが笑った。
「……あのトホホなスペアキー、まだ気にしてたんだ」
「……ええ」
アルバートは、少しだけ寂しそうだった。
「形状だけは完璧だったのですが……」
「形状だけだったから駄目だったんだよ!!」
* * *
ここまで来て。
ようやく、契約書の全体像が見えてきた。
保管場所。
費用負担。
管理責任。
通常点検。
整備担当。
技術機密。
分解、改造、複製の禁止。
他機種への技術転用。
始動権限。
緊急時の対応。
そして、契約解除や移送時の手続き。
Xiは、分厚い書類を眺めた。
「……すごいね」
キラが苦笑する。
「いろいろあったからね」
「……うん」
アスランが言った。
「必要な規定を明文化しておけば、後から認識の違いで問題になることも減らせる」
「……そうだね」
Xiは、書類を一枚ずつ確認した。
そして。
「……あのさ、司令」
「何だ?」
「本当に、僕がここへ置くって決めていいんだよね?」
「そうだ」
「……後から、やっぱり別の場所へ移したいって言っても?」
「必要な調整と手続きを経れば、可能だ」
「……そっか」
ログナーは、Xiを見た。
「お前の専用機だ」
「……うん」
「ただし、A.K.D.の機密技術を用いている以上、その管理責任は残る。それを守ることと、お前の意思を尊重することは矛盾しない」
Xiは、少しだけ考えた。
そして、頷いた。
「……分かった」
バクスチュアルが、小さく言った。
「Xiサンガ、決メル」
「……うん」
「コノ子ノ、居場所」
Xiは、アウト・ミラージュの姿を思い浮かべた。
最初に専用機を受け取った時。
自分だけの機体という言葉が、少し怖かった。
自分が何者なのかさえ、まだ分からなかったから。
だが。
今は、少し違う。
「……そうだね」
Xiは笑った。
「僕が、ここに置くって決めるよ」
バクスチュアルが頷いた。
「ウン」
ログナーも、静かに頷いた。
「ならば、それでいい」
ソープが微笑んだ。
「そっか。君が選んだんだね」
「……うん」
「じゃあ、ちゃんと整備しなくちゃ」
「……ありがとう、陛下」
少しだけ、穏やかな空気が流れた。
そして。
「まずはバスター砲の取り付け位置から」
「余韻を返して!!」
ログナーが即答した。
「陛下。通行止めです」
イエッタも頷いた。
「追加武装は承認されておりません」
「えー」
「だから契約書を細かくしたんだよ!!」
* * *
その後。
最終的な契約内容が確認された。
保管施設は、現状のコンパス大型機保管施設を継続使用する。
新たな専用格納庫を建設するわけではない。
あくまで、既存施設の一区画を正式な保管場所として指定するのである。
管理責任はコンパス。
保管及び維持管理に必要な費用はA.K.D.が負担する。
機体の所有及び運用についての意思決定は、Xi本人の権限として尊重される。
そして、技術機密の管理にはA.K.D.が関与する。
整備については、必要な範囲でA.K.D.側の専門技術者が担当し、イエッタが現場監督を務める。
それらの役割が、ようやく明文化された。
Xiは書類を見つめた。
「……なんか、すごいな」
キラが笑う。
「何が?」
「僕、一機のモーターヘッドを預けるだけのつもりだったんだけど」
「……うん」
「こんなにたくさんの人が関わるんだね」
アスランが頷いた。
「大型兵器の管理とは、そういうものだ」
「……そうなんだね」
Xiは、少しだけ笑った。
「……なんか、やっと実感したかも」
「何を?」
「僕、本当にアウト・ミラージュの所有者なんだなって」
バクスチュアルが頷く。
「ウン」
キラは、穏やかに笑った。
「そうだね」
Xiは書類を手に取った。
「……じゃあ」
ペンを握る。
「正式に、お願いします」
ログナーが頷いた。
キラも頷いた。
アウクソーが、静かに微笑んだ。
そして。
Xiは、契約書に署名した。
* * *
こうして。
アウト・ミラージュは、正式にコンパス管理下の施設へ保管されることになった。
二ヶ月に及ぶ仮置き。
その間に発生した、数々の問題。
ようやく、それらを踏まえた管理体制が整ったのである。
そして。
Xiは、格納庫の入口に立っていた。
「……やっと決まった」
バクスチュアルが隣で頷く。
「ウン」
目の前には、白銀の騎体。
アウト・ミラージュ。
自分だけの専用機。
今度は、仮置きではない。
正式な居場所が決まったのだ。
「……これで、少しは安心できるかな」
Xiが呟いた。
その時。
「Xiさん!」
元気な声がした。
アルバート・ハインラインだった。
「正式保管契約の締結、おめでとうございます!」
「……ありがとう」
Xiは笑った。
「アルバートにも、いろいろ迷惑掛けたね」
「いえいえ! こちらこそ、大変貴重な経験をさせていただきました!」
「……うん」
「こんな事もあろうかと!」
Xiが身構えた。
「……また?」
「正式保管開始に合わせて、区画の表示板を新調しました!」
「……え?」
アルバートは、格納庫の入口を指さした。
そこには。
『アウト・ミラージュ区画』
と書かれた、新しい表示板があった。
「…………」
Xiは、しばらく眺めた。
「……あれ?」
「はい?」
「……今までと同じじゃない?」
アルバートが満面の笑顔で答えた。
「違います!!」
「……何が?」
「今までは『※一時保管中』という注意書きがありましたが!」
「……うん」
「正式保管になりましたので、削除しました!!」
「…………」
Xiは、しばらく黙っていた。
そして。
「二ヶ月掛けて、表示板の一行を消しただけじゃないかァァァァァ!!」
アルバートが驚いた。
「ええっ?!」
キラが笑いを堪えた。
アスランも苦笑していた。
ログナーだけが真顔だった。
「正式な管理区画となったのだから、当然だ」
「司令まで?!」
アルバートは、誇らしげに続けた。
「ちなみに、区画名称は既に現場で定着しておりますので、変更の必要はありません!」
「結局そこは既成事実化されたままなの?!」
「はい!」
「はい! じゃない!!」
Xiは、再び頭を抱えた。
その横で。
ソープが、楽しそうにアウト・ミラージュを見上げていた。
「……さて」
Xiが振り向く。
「……何?」
「正式保管も決まったし、そろそろ本格的な整備を始めようかな」
「……うん」
Xiは少しだけ安心した。
「ちゃんと規則の範囲内でね」
「もちろん!」
ソープは、にっこり笑った。
「まずは、けん玉フレイルの設計図を」
「だから要らないってば!!」
イエッタが、静かに口を開いた。
「陛下。整備計画書の提出をお願いいたします」
「……えー」
「追加装備の提案は、別途承認が必要です」
「……分かってるよぉ」
ログナーが頷いた。
「では、イエッタ。任せる」
「承知しました」
Xiは、ほっと息を吐いた。
「……良かった」
ソープが首を傾げる。
「……何が?」
「陛下のお目付け役が決まったこと!!」
イエッタは、小さく微笑んだ。
「お任せください」
ログナーも頷いた。
「適切な監督体制だ」
ソープは、少しだけ不満そうだった。
「……僕、そんなに信用ない?」
ログナーが答えた。
「腕前は信用しております」
「じゃあいいじゃない」
「好奇心は信用しておりません」
Xiが叫んだ。
「そこだよォォォォ!!」
* * *
その日の夕方。
会議室には、最後にもう一枚の書類が残っていた。
イエッタが、ログナーに差し出したものである。
「マスター」
「何だ?」
「今回の監督任務についてですが」
「うむ」
「ヘキサクスの監視業務と兼任することになりますので、危険手当についてご相談したく」
「……なるほど」
ログナーは、しばらく考えた。
「妥当だな」
「ありがとうございます」
その横で、Xiが頷いた。
「うん。絶対必要だと思う」
イエッタは、少しだけ微笑んだ。
「ありがとうございます」
ログナーが言った。
「もっとも、今回は陛下の整備作業を監督するだけだ。ヘキサクスほど危険ではあるまい」
「……そうでしょうか」
イエッタが静かに答えた。
「……?」
「陛下は、思いついたことを実行に移されるまでが非常に早いので」
「……うむ」
「しかも、技術的には実現可能なことが多く」
「……うむ」
「監督側が判断を下すまでに、既に設計図が完成している場合があります」
「…………」
ログナーが黙った。
Xiが頷いた。
「……あるねぇ」
イエッタは、さらに続けた。
「そしてアルバートさんも、同様に準備が非常に早い方です」
「…………」
「お二人が協力された場合、監督業務の負担が増大する可能性があります」
ログナーが、深く頷いた。
「……手当の増額を検討しよう」
「ありがとうございます」
Xiが思わず叫んだ。
「そこは満額出してあげて!!」
その時。
会議室の扉が開いた。
「皆さん!」
アルバートだった。
「こんな事もあろうかと!」
Xiが身構える。
「……何?」
「正式保管契約の締結を記念して、今後の整備効率向上に向けた新たな提案を!」
ソープが顔を上げた。
「……へぇ。面白そう!」
イエッタが、静かに書類を閉じた。
ログナーが目を細める。
アスランが深いため息をついた。
Xiは天井を仰いだ。
「…………」
そして。
「契約書、今日できたばっかりだよォォォォ!!」
アルバートが首を傾げた。
「……ですから、正式な手続きに従って提案を」
イエッタが答えた。
「承知しました。まずは申請書をご提出ください」
「はい!」
ソープも手を挙げた。
「僕も!」
「陛下のご提案も、同じ手続きになります」
「えー」
ログナーが言った。
「陛下。通行止めです」
「まだ提案もしてないよ?」
「実施については、だ」
Xiは、しばらく黙っていた。
そして。
「……まあ」
一つ、息を吐いた。
「勝手に実行されるよりは、ずっとマシか……」
キラが笑った。
「そうだね」
アスランも頷いた。
「これで、少なくとも手続きは明確になった」
Xiは、もう一度アウト・ミラージュの方を見た。
自分の専用機。
自分で選んだ保管場所。
それを守るための契約。
面倒なことは、まだまだあるだろう。
だが。
今度は、自分で決めたのだ。
「……うん」
Xiは、小さく笑った。
「これでいいんだと思う」
バクスチュアルが、隣で頷いた。
「Xiサンガ、決メタ」
「……そうだね」
「コノ子ノ、居場所」
「……うん」
アウト・ミラージュは、今日も静かに佇んでいる。
二ヶ月間、仮置きされていた場所に。
今度こそ、正式に。
そして。
その保管契約書には、通常の何倍もの禁止事項が書き込まれることになった。
しかも、その大半は。
伝説のMHマイスターと、コンパスの天才技術者に向けたものだったのである。
……トホホ。