守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
怪物強盗Xiは剣聖との合宿を断りたい
コンパス本部、大型機動兵器格納施設。
その一角に、白銀の巨大な人型兵器が静かに佇んでいた。
MH(モーターヘッド)、アウト・ミラージュ。
シュペルターMark2とも呼ばれるその機体は、アマテラスことレディオス・ソープが、怪物強盗Xiのために用意した専用機である。
以前までは、あくまで一時的に置かれているだけの存在だった。
だが、先日。
ようやく正式な保管契約が結ばれた。
A.K.D.が保管と整備に必要な費用を負担し、コンパスが施設を提供する。
整備は製作者であるソープが担当。ただし、勝手な改造や研究は禁止。
そして、機体の運用には、Xi本人の意思と承認が必要となる。
つまり。
この巨大な機械は、名実ともにXiのための機体となったのである。
そのアウト・ミラージュを、三人の男が見上げていた。
怪物強盗Xi。
剣聖ダグラス・カイエン。
そして、コンパスを訪れていた空条承太郎。
「…………」
Xiは、しばらく黙って機体を眺めていた。
やがて、ぽつりと呟く。
「……重いなぁ……」
隣にいたカイエンが、気楽に答えた。
「ん? LEDよりは軽いヨ?」
「責任が重いって言ってるの!!」
「ハハッ! そっちかヨ」
カイエンは愉快そうに笑った。
一方、承太郎は帽子のつばに指を当てながら、静かに口を開いた。
「……力を振るうには責任が伴う」
「……承太郎?」
「それが分かってるじゃねぇか」
Xiは、少し困ったように笑った。
「……分かってはいるんだけどね」
そして、再びアウト・ミラージュを見上げる。
「重すぎてさ。振るう前に、こっちが振り回されそうだよ」
「…………」
承太郎は何も言わなかった。
Xiは続けた。
「僕はさ、別に英雄になりたいわけじゃないんだ」
「……ああ」
「戦争に参加したいわけでもないし、誰かと戦いたいわけでもない」
Xiは、自分の手を見つめる。
「それなのに、こんな凄いものを持っちゃって……」
「…………」
「僕、本当にアウト・ミラージュをちゃんと使えるようになるのかな」
しばしの沈黙。
それを破ったのは、カイエンだった。
「なるだろ」
「…………」
Xiが振り向く。
「……ずいぶん簡単に言うね」
「簡単な話だろ?」
「どこが?!」
「オマエが、自分で乗るって決めたんなら……」
カイエンは、にやりと笑った。
「後は練習するだけだヨ」
「…………」
Xiは目を瞬かせた。
「……練習?」
「そ。練習」
「……いや、でも」
「何だヨ?」
「だって、MHだよ? 僕、まともに動かしたこともないんだよ?」
「最初から乗りこなせる奴なんざ、そうはいねぇヨ」
「……そうなの?」
「当たり前だろ」
カイエンは、肩をすくめた。
「どんな凄ぇ機体でも、乗り手が使い方を知らなきゃ意味ねぇだろ?」
「…………」
「それにオマエ、以前からオレに剣を教わってたじゃねぇか」
「……うん」
「だったら、その続きをやればいい」
Xiは少し考え込んだ。
確かに、これまでにもカイエンから剣の稽古をつけてもらったことはある。
しかし、それはあくまで生身での戦い方だった。
MHを動かすとなれば、話はまた別である。
「……でもさ。生身の剣術とMHの操縦って、違うんじゃない?」
「そりゃ違うヨ」
「でしょ?」
「だからって、基本が要らなくなるわけじゃねぇだろ」
カイエンは、Xiの足元を指した。
「剣の構え。間合い。重心の置き方。相手の動きの読み方」
「…………」
「そういうのを身体で覚えときゃ、MHに乗った時にも役に立つ」
「……なるほど」
すると承太郎が、短く付け加えた。
「使うかどうか決めるのと、使えるかどうかは別だ」
「……承太郎?」
「力を持ってても、使わねぇ選択はできる」
承太郎は、アウト・ミラージュに視線を向けた。
「だが、必要になった時に使えなきゃ、選びようもねぇ」
「…………」
「……やれやれだぜ」
Xiは、再び巨大な機体を見つめた。
使わないという選択。
使うという選択。
どちらを選ぶにしても、まずは自分が何をできるのか、知らなければならない。
「……そっか」
Xiは、小さく頷いた。
「……振り回されないように、ちゃんと力を使えるようにならないとね」
カイエンが、満足そうに笑った。
「そういうことだナ」
◆ 剣聖の提案
「じゃあ、さっそく特訓だナ」
「……え?」
「二泊三日の合宿なんてどうヨ?」
「…………」
「…………」
「いきなり合宿?!」
Xiの声が格納施設に響いた。
「なんでそうなるの?!」
「まとめて稽古した方が身につくだろ」
「いや、そうかもしれないけど!」
「朝から身体動かして、昼も稽古して、夜は飯食って風呂入って寝る」
「…………」
「な? 健康的だろ?」
「そこだけ聞けばね!!」
カイエンは愉快そうに笑っている。
しかし、Xiにとっては笑い事ではなかった。
何しろ、相手は星団最強の騎士、剣聖ダグラス・カイエンである。
「……あのさ、師匠」
「ん?」
「僕、剣の稽古をするのはいいんだけど……」
「おう」
「まさか、いきなりMHで師匠と模擬戦とか言わないよね?」
カイエンは少し考えた。
「ま、それも面白そうだけどナ」
「面白くない!!」
「ハハッ! 冗談だヨ」
「師匠の冗談、心臓に悪いんだよ!!」
ちょうどその時だった。
「マスター。Xiさんの仰る通りかと」
静かな声が響いた。
カイエンのファティマ、アウクソーである。
「おう、アウクソー」
「Xiさんは、MHでの戦闘経験を積む前に、もう少し生身での基本動作を習熟された方がよろしいかと思います」
「……だよね!」
Xiは、思わず彼女の方へ向き直った。
「アウクソーさん! もっと言って!!」
アウクソーは、穏やかに微笑んだ。
「以前の稽古で学ばれた剣さばきや足さばきを、改めて確認するのが良いかと」
「……うんうん!」
「そのうえで、間合いや体勢の立て直しなど、実際の手合わせを通じて身につけていただくのがよろしいと思います」
「……そうそう! そういうの!」
カイエンが、肩をすくめた。
「オレだって、最初からMHに乗せるつもりはねぇヨ」
「……本当?」
「当たり前だろ。基本ができてねぇ奴にMH戦やらせてどうすんだヨ」
「…………」
Xiは、少し安心した。
しかし。
「ま、最後にオレと一回くらい打ち合ってみるかナ」
「結局、剣聖が相手じゃないか!!」
「生身でだヨ」
「それでも十分怖いんだよ!!」
アウクソーは、静かに一礼した。
「マスター。訓練内容と強度は、私の方でも確認いたします」
「へいへい」
Xiは心の底から思った。
この人が一緒なら、少なくとも命の危険は減るだろう。
……おそらく。
◆ 断る理由
ところが、Xiには別の問題があった。
「……いや、でもさ」
「まだ何かあんのかヨ?」
「僕、あんまり長いことソープさんから離れるわけにもいかないし……」
カイエンが首を傾げる。
「何でだ?」
「何でって……」
Xiは、ちょっと困った顔になった。
「……お目付け役だよ」
「ああ」
「陛下が何か余計なことを始めないように、なるべく近くにいないと……」
カイエンは、しばし黙った。
そして。
「……なるほどナ」
「でしょ?」
「なら、ソープも連れていきゃいいだろ」
「…………」
「…………」
「いや、それは……!」
「僕も一緒に行くよ」
背後から、実に楽しそうな声が聞こえた。
「…………」
Xiは、ゆっくりと振り向いた。
そこには、いつの間にかレディオス・ソープが立っていた。
「……陛下?」
「うん?」
「……いつから聞いてたの?」
「二泊三日の合宿ってところから」
「ほぼ最初からじゃないか!!」
ソープは、にこにこしている。
「いいじゃない。僕も一緒に行けば、Xiが心配する必要ないでしょ?」
「いや、そうなんだけど……」
「それに、僕も騎士として稽古を見てあげられるし」
「…………」
Xiは、一瞬言葉に詰まった。
確かに、アマテラス陛下自身も天位クラスの技量を持つ騎士である。
カイエンに加えてソープからも指導を受けられるなら、それは非常に恵まれた話だった。
「……陛下も稽古を?」
「うん。カイエンとは違う視点で、助言できると思うよ」
「……それは、ありがたいけど」
するとカイエンが、にやりと笑った。
「豪華な合宿になりそうだナ」
「豪華すぎるよ!!」
ソープは、楽しそうに手を合わせた。
「それで、どこに行くの?」
「……え?」
「合宿だよ。やっぱり温泉がいいなぁ」
「…………」
「お稽古の後は、大きなお風呂に入って、美味しいもの食べて……」
「陛下?!」
「何?」
「合宿だからね?!」
「分かってるよぉ」
どう見ても、旅行を楽しみにしている顔だった。
◆ 司令官の判断
「……陛下」
低い声が響いた。
一同が振り向く。
そこには、ミラージュ騎士団総司令、ファルク・U・ログナーが立っていた。
「……司令!」
Xiは、反射的に少し安心した。
こういう時、最終的に頼りになるのはログナー司令である。
もっとも、これまでの経験では、安心できるとは限らないのだが。
「……陛下。二泊三日の合宿とは?」
ソープが楽しそうに答える。
「Xiの剣術訓練だよ。カイエンが教えるんだ」
「……なるほど」
「僕も一緒に行こうと思って」
「…………」
ログナーは、少し考えた。
「……訓練内容は?」
アウクソーが答える。
「生身での基本動作の確認と、対人稽古を中心に考えております。
MHでの模擬戦は行いません」
「そうか」
ログナーは頷いた。
「それならば、妥当な訓練計画だな」
「……え?」
Xiが目を瞬かせる。
「司令?」
「何だ」
「……止めないの?」
「なぜ止める必要がある?」
「…………」
Xiは、答えに詰まった。
ログナーは続けた。
「アウト・ミラージュを保有する以上、基本的な運用技術を身につけておくことには意味がある」
「……うん」
「ただし」
ログナーは、Xiを見た。
「嫌なら断ればいい」
「…………」
「お前にミラージュへの入団を強制しているわけではない。今回の訓練も同様だ」
「……司令」
「行くかどうかは、お前自身が決めろ」
Xiは、しばらく黙った。
ログナーは、さらに続けた。
「だが、行くのであれば……」
「……うん?」
「必要な費用はA.K.D.で出そう」
「…………」
「……え?」
「ミラージュ騎士団の稽古・合宿費用として処理できる」
Xiは、思わず聞き返した。
「……本当に?」
「ああ。カイエンとアウクソーも同行する。陛下も指導に加わられるのであれば、訓練として十分に成立する」
「…………」
「もちろん、旅費の全てを無条件に負担するという意味ではないがな」
「……あ、うん。それは分かるよ」
Xiは少し考えた。
そして、頭を下げた。
「……司令、ありがとう」
「礼には及ばん。必要な訓練を支援するだけだ」
ログナーは、平然と言った。
その横で、カイエンが笑う。
「ほらナ。費用の心配も要らなくなったゼ?」
「……うん」
ソープも笑った。
「それに、みんなで行けば、きっと面白いよ?」
「…………」
Xiは、三人を見た。
剣聖カイエン。
総司令ログナー。
アマテラス陛下。
全員が、自分に選択肢を与えてくれている。
誰も命令していない。
誰も強制していない。
断ろうと思えば、今すぐ断ることができる。
それなのに。
「…………」
Xiは、小さく息を吐いた。
「……ズルいなぁ……」
カイエンが首を傾げる。
「何がだヨ?」
「……だってさ」
Xiは、少し笑った。
「師匠は、剣を教えてくれるって言うし」
「おう」
「司令は、嫌なら断っていいって言いながら、費用まで出してくれるし」
「当然の判断だ」
「陛下は、みんなで行こうって誘ってくれるし……」
「うん!」
「…………」
Xiは、困ったように笑った。
「そんなふうに言われたら、僕だって行きたくなるじゃないか……」
カイエンが、にやりと笑った。
「じゃ、決まりだナ」
「……まだ一言も行くって……」
Xiは、そこまで言って止まった。
そして、少し考えた。
自分の人生は、自分が選ぶ。
誰かに役割を押しつけられる必要はない。
しかし。
誰かの好意を受け取ることまで、拒む必要はないのだ。
「…………」
Xiは、ゆっくりと頷いた。
「……うん」
カイエンが、Xiを見る。
「ん?」
「……行くよ。合宿」
「おう!」
「ちゃんと稽古して、少しでも剣の使い方を覚えたい」
Xiは、アウト・ミラージュを見上げた。
「……いつか、この子をちゃんと動かせるようになりたいから」
それを聞いて、バクスチュアルが静かに微笑んだ。
「Xiサン……」
「……ん?」
「Xiサンガ、決メタ」
「……うん」
「私モ、一緒ニ、行ク」
Xiは、笑った。
「ありがとう、バクスチュアル」
そして。
「……この子には、もう少し待っててもらうことになるけどね」
「ウン。コノ子、待ッテル」
アウト・ミラージュは、何も言わずに佇んでいる。
今は、まだ動かすこともできない。
それでも。
Xiは、ほんの少しだけ、その巨大な機体との距離が縮まったような気がした。
◆ そして、いつもの展開
「……さて」
カイエンが、両手を打った。
「そうと決まれば、合宿の段取りだナ」
「……うん」
「二泊三日で、朝から剣の稽古」
「うん」
「昼からも稽古」
「……うん」
「夜は温泉に入って、酒でも飲んで……」
「……ちょっと待って」
「何だヨ?」
「師匠、僕もう未成年じゃないけど、訓練の後は休ませてよ!!」
「ハハッ! オマエは飲まなくてもいいヨ」
「そういう問題じゃない!!」
ソープが、楽しそうに割り込んだ。
「ねえ、温泉なら旅館に泊まりたいな」
「……陛下?」
「食事も美味しいところがいいね」
「……うん、まあ」
「広いお風呂があって、景色も綺麗で……」
「…………」
「あと、みんなで卓球とか!」
「陛下、完全に旅行の計画になってる!!」
カイエンが笑った。
「いいじゃねぇかヨ。稽古だけじゃつまんねぇだろ?」
「師匠まで?!」
その時だった。
「あれ? みんなで旅行に行くんですか?」
聞き覚えのある声。
振り向けば、そこには桂木弥子が立っていた。
「……弥子ちゃん?」
「こんにちは、Xi君!」
「……うん、こんにちは」
弥子は、にっこり笑った。
「今、旅行って聞こえたんですけど!」
「……いや、正確には僕の剣術合宿で……」
「温泉旅館ですか?!」
「……一応、そのつもりだけど」
「わぁ! いいですね!」
「…………」
Xiは、少し嫌な予感がした。
「……あのさ、弥子ちゃん」
「はい?」
「今回の主目的は、僕の稽古で……」
「はい!」
「だから、普通の観光旅行とは……」
「でも、みんなで旅行に行くなら、私も参加したいです!」
「…………」
Xiは、天井を仰いだ。
「……やっぱりそうなるよね……」
カイエンが笑う。
「ハハッ! いいじゃねぇか。賑やかな方が楽しいだろ?」
「師匠!!」
ソープも頷いた。
「そうだね。せっかくだから、みんなで行こうよ!」
「陛下まで!!」
弥子は、嬉しそうに手を合わせた。
「温泉かぁ……どこがいいかなぁ!」
そして、ふと思い出したように言った。
「そういえば、前に行った会津、すっごく良かったですよね!」
「……会津?」
「はい! 美味しいものもたくさんあったし!」
「…………」
「特に、あの煮込みソースカツ丼!」
「…………」
Xiの脳裏に、嫌な記憶が蘇った。
桂木弥子。
煮込みソースカツ丼。
三杯。
そして。
また食べに行きたいという、彼女の熱烈な希望。
「……弥子ちゃん」
「はい?」
「……まさか、また?」
「もちろんです!」
弥子は、満面の笑みで答えた。
「今度は四杯以上、食べたいです!!」
「やっぱり目的が違うじゃないかァァァ!!」
カイエンが、愉快そうに笑った。
「ハハハ! 会津か。悪くねぇナ!」
ソープも笑う。
「僕もまた行きたいな!」
「…………」
ログナーは、黙って一同を見ていた。
そして、静かに口を開いた。
「……陛下」
「何?」
「繰り返しになりますが、今回の目的はXiの稽古です」
「分かってるよぉ」
「……本当に?」
「もちろん!」
ソープは、にっこり笑った。
「みんなで楽しく稽古して、温泉に入ればいいんでしょ?」
「…………」
ログナーは、しばらく黙った。
そして。
「……Xi」
「……何、司令?」
「お前が選んだ合宿だ。頑張れ」
「司令?! なんか全部僕の責任みたいになってない?!」
ログナーは答えなかった。
ただ、静かに頷いた。
まるで、これもまた一つの訓練であるかのように。
◆ 小さな決意
その後。
承太郎は、帰り際にXiへ声を掛けた。
「……おい」
「……承太郎?」
「合宿、行くんだろ?」
「……うん」
「そうか」
承太郎は、帽子のつばに手を当てた。
「なら、しっかりやってこい」
「……うん」
「剣聖から直接教わる機会なんざ、そうそうねぇだろうからな」
「……そうだね」
Xiは、少し笑った。
「……でもさ。師匠たちみたいに強くなるには、まだまだ時間がかかりそうだよ」
「……だろうな」
「即答?!」
「当たり前だ」
承太郎は、平然と答えた。
「一度の合宿で、あいつらに追いつけるわけがねぇ」
「……それはそうだけど」
「だがな」
承太郎は、Xiを見た。
「昨日より少しでもマシになりゃ、それで十分だろ」
「…………」
Xiは、目を瞬かせた。
「……承太郎」
「……やれやれだぜ」
承太郎は、それだけ言って歩き出した。
Xiは、その背中を見送った。
そして、もう一度だけアウト・ミラージュを見上げる。
「……少しずつ、か」
バクスチュアルが、隣に立った。
「Xiサン?」
「……うん」
Xiは、小さく頷いた。
「……まずは、ちゃんと自分の足で立てるようにならないとね」
「ウン」
「それから……あの子と一緒に歩けるようになれたらいいな」
バクスチュアルが、微笑む。
「一緒ニ、練習スル」
「……うん。よろしくね」
Xiは、今度こそ穏やかに笑った。
アウト・ミラージュは、静かにそこに立っていた。
焦る必要はない。
無理に誰かになろうとする必要もない。
ただ、自分の意志で、一歩ずつ前に進めばいい。
そう思えた。
……もっとも。
「Xiくーん!」
遠くから、弥子の声がした。
「今度の会津旅行、すえぞうも誘っていいですかー?!」
「…………」
Xiは、目を閉じた。
「……バクスチュアル」
「ハイ?」
「……なんか、嫌な予感がしてきた」
「……ウン?」
「僕の稽古より、旅行の話がどんどん大きくなってる気がする!!」
格納施設に、Xiの悲鳴が響いた。
そして。
その横で、バクスチュアルは静かに微笑んでいた。
「……楽シソウ」
「君まで?!」