守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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キラ・ヤマトはカツ丼三十人前を予約する

◆ コンパス准将、旅行代理店になる

 

 コンパス本部、事務室。

 

 世界の平和を守る組織、コンパス。

 

 その最高戦力の一人であるキラ・ヤマト准将は、今日も重大な案件に取り組んでいた。

 

「……ええと」

 

 デスクに広げられた資料。

 

 宿泊施設の候補一覧。

 

 鉄道の乗り継ぎ表。

 

 参加予定者名簿。

 

 そして、A.K.D.からの経費補助に関する書類。

 

 キラは、ひとつずつ確認していた。

 

「……二泊三日、大人十二名と、すえぞう……」

 

 隣に座っていたバクスチュアルが、頷いた。

 

「大人、十二名。幼生、一名」

 

「うん。ありがとう」

 

 キラは、参加者名簿を見た。

 

 怪盗Xi、ダグラス・カイエン、レディオス・ソープ、ラキシス、アウクソー、バクスチュアル。

 

 桂木弥子、脳噛ネウロ、岸辺露伴、泉京香。

 

 そして、キラ自身とラクス・クライン。

 

 以上、十二名。

 

 さらに、LEDドラゴンの幼生、すえぞう。

 

「……これだけの人数で旅行するの、久しぶりだね」

 

「ウン」

 

「しかも、今回はXiの剣術合宿だから、訓練場所の手配も必要だし……」

 

「宿泊、交通、訓練、食事。四項目」

 

「そうだね」

 

 キラは、軽く息を吐いた。

 

「……よし。順番にやっていこう」

 

 その時。

 

「……キラ」

 

 怪盗Xiが、事務室の入口から顔を覗かせた。

 

「あ、Xi」

 

「……なんか、すごい書類の量だね」

 

「うん。でも、大丈夫だよ」

 

「……本当に?」

 

「こういうのは、ひとつずつ片づければいいから」

 

 キラは、穏やかに微笑んだ。

 

 Xiも、少し安心した。

 

「……ありがとう。助かるよ」

 

「気にしないで。僕も旅行、楽しみにしてるから」

 

「……うん」

 

 そこへ。

 

「キラさん!」

 

 元気な声が響いた。

 

 桂木弥子だった。

 

「なかじまさんの予約、もうしましたか?!」

 

「…………」

 

 キラは、ゆっくりと弥子を見た。

 

「……まだだよ」

 

「良かったぁ!」

 

「……良かった?」

 

「注文するメニュー、もう少し考えたくて!」

 

「…………」

 

 Xiは、嫌な予感がした。

 

「……弥子ちゃん?」

 

「はい?」

 

「まだ増やすつもりなの?!」

 

◆ 食欲の見積もり

 

「……それじゃあ、昼食の予定数を確認しようか」

 

 キラは、改めてメモを取り出した。

 

 バクスチュアルが、資料を読み上げる。

 

「桂木弥子サン。八杯」

 

「はい!」

 

「ラキシス姫様。五杯」

 

「……うん」

 

「すえぞう。六杯」

 

「…………」

 

 Xiが、思わず口を挟んだ。

 

「……ちょっと待って」

 

「何、Xi?」

 

「すえぞうって、まだカツ丼食べたことないんだよね?」

 

 弥子が、嬉しそうに頷いた。

 

「そうですよ! 今回が初めてです!」

 

「……なのに六杯?」

 

「きっと気に入ると思います!」

 

「希望的観測で六杯?!」

 

 バクスチュアルが、淡々と続けた。

 

「他、九名。一人一杯。ネウロ、食事不要」

 

「……うん」

 

 キラが、数字を書き込んだ。

 

対象

 

予定数量

 

桂木弥子

 

8杯

 

ラキシス

 

5杯

 

すえぞう

 

6杯

 

その他9名

 

9杯

 

合計

 

28杯

 

「……二十八杯だね」

 

 キラが、顔を上げた。

 

「三十人前くらいで相談すれば、予備も二杯あるし……」

 

 Xiが頷いた。

 

「……そうだね」

 

 弥子も、笑顔で頷いた。

 

「それなら安心ですね!」

 

「…………」

 

 キラは、弥子を見た。

 

「……ところで、弥子さん」

 

「はい?」

 

「八杯って、全部元祖煮込みソースカツ丼?」

 

「……あっ」

 

 弥子が、目を輝かせた。

 

「そうでした!」

 

「……え?」

 

「厚切り煮込みソースカツ丼もありますよね!」

 

「……うん」

 

「それから、ヒレ煮込みソースカツ丼!」

 

「……うん」

 

「あと、エビ煮込み丼も!」

 

「…………」

 

 キラは、静かにメニューの写真を見つめた。

 

 Xiが、おそるおそる尋ねる。

 

「……弥子ちゃん」

 

「はい?」

 

「それ、八杯の中に含まれるんだよね?」

 

「…………」

 

 弥子は、少し考えた。

 

「……できれば、追加で」

 

「増えたァァァ!!」

 

 キラは、額に手を当てた。

 

「……あのさ、弥子さん」

 

「はい?」

 

「……腹も身の内、っていうし……」

 

 弥子は、真剣な顔になった。

 

「でも、キラさん!」

 

「……うん?」

 

「これ、会津まで行かないと食べられないんですよ!!」

 

「…………」

 

「前回来た時から、ずっと楽しみにしてたんです!」

 

「……それは分かるけど」

 

「次にいつ来られるか分からないじゃないですか!」

 

「…………」

 

 キラは、困ったように微笑んだ。

 

「……そうだね」

 

 Xiが、そっとキラに囁いた。

 

「……キラ」

 

「……何?」

 

「弥子ちゃんに、食べる前から上限を決めさせるのは難しいと思う」

 

「……そうみたいだね」

 

 その時。

 

「まあ。皆さん、何のお話ですか?」

 

 ラクス・クラインが、ラキシスと一緒に事務室へやって来た。

 

「あ、ラクス」

 

 キラが、少し安心した顔になる。

 

「今、昼食の注文数を決めてるところなんだ」

 

「そうでしたか」

 

 ラキシスが、テーブルのメニューを覗き込んだ。

 

「まあ。厚切りのカツ丼もあるのですね」

 

「……はい、姫様」

 

 Xiが、嫌な予感を覚えた。

 

 ラキシスは、嬉しそうに言った。

 

「私も、そちらをいただいてみたいです」

 

「……五杯のうち、一杯を変更ですね?」

 

 キラが、慎重に確認した。

 

「ええと……」

 

 ラキシスは、少し考えた。

 

「……そうですね。まずは五杯いただいてから考えましょうか」

 

「…………」

 

 Xiは、キラを見た。

 

 キラも、Xiを見た。

 

「…………」

 

「…………」

 

「キラ、予備二杯じゃ足りないかも!!」

 

 キラは、静かに頷いた。

 

「……うん。そんな気がしてきた……」

 

 ラクスが、微笑みながら言った。

 

「でも、皆さんが召し上がる量を無理に決めてしまう必要はありませんわ」

 

「……ラクス?」

 

「お店の方と相談して、用意していただける範囲を確認すればよろしいのではないでしょうか」

 

「……あ」

 

 キラは、顔を上げた。

 

「……そうだね」

 

 ラクスが、続ける。

 

「もちろん、食材を無駄にしてはいけませんし、お店のご都合もありますから」

 

「うん。分かった」

 

 キラは、メモに書き加えた。

 

『基本見積もり:28食』

 

『予約相談:30食程度』

 

『厚切り・ヒレ・エビへの変更希望あり』

 

『追加注文は在庫と調理状況による』

 

 Xiが、ほっと息を吐いた。

 

「……ようやく現実的な話になったね」

 

 弥子も頷いた。

 

「そうですね!」

 

 そして、にっこり笑った。

 

「じゃあ、三十杯で足りなかったら、相談してみますね!」

 

「弥子ちゃん!!」

 

◆ 芦ノ牧温泉、宿泊先の手配

 

 昼食の見積もりが、どうにかまとまったところで。

 

 キラは、宿泊先の手配に取り掛かった。

 

「……ええと、芦ノ牧温泉で、二泊三日……」

 

 候補となる宿泊施設を比較していく。

 

 条件は、それほど単純ではなかった。

 

 三人部屋を四室。

 

 夕食は、できればビュッフェ形式。

 

 大人数での移動や、訓練場所へのアクセスも考慮する必要がある。

 

 さらに。

 

「……すえぞうのことも、ちゃんと説明しないとね」

 

 Xiが、頷いた。

 

「……うん」

 

「単なる幼児じゃないから」

 

「……そうだね」

 

 キラは、少し考えた。

 

「まずは、受け入れ可能か確認しよう」

 

 そして、候補の宿泊施設へ連絡を入れた。

 

「……もしもし。二泊三日の団体宿泊について、ご相談したいのですが」

 

『はい。ありがとうございます』

 

「大人十二名で、三人部屋を四室希望しています」

 

『承知いたしました』

 

「それと、一名、少し特殊な同行者がいまして……」

 

『……特殊な同行者、ですか?』

 

「はい。人間の幼児ではなく、小型のドラゴンなんですが……」

 

『…………』

 

 電話の向こうが、静かになった。

 

 Xiが、隣で顔を覆った。

 

「……キラ、ごめん……」

 

 キラは、小さく首を振った。

 

「……ちゃんと説明しておいた方がいいから」

 

 しばらくして、電話の向こうから返事があった。

 

『……少々、確認させていただいてもよろしいでしょうか?』

 

「はい、もちろんです」

 

 キラは、すえぞうの大きさや、ラキシスと一緒に過ごすこと、専用の寝具を必要としないことなどを説明した。

 

 食事については、通常の幼児食では足りない可能性も伝えた。

 

 宿側も、受け入れ条件を慎重に確認する。

 

 そして。

 

『……承知いたしました。今回は事前にご相談いただいておりますので、対応できるよう調整いたします』

 

「……ありがとうございます!」

 

 キラの表情が明るくなった。

 

『ただし、館内での行動範囲や、お食事については、別途ご案内する条件をお守りください』

 

「もちろんです」

 

 通話を終えたキラは、Xiたちに向き直った。

 

「……よし。受け入れ可能だって」

 

「……本当?!」

 

「うん。すえぞうのことも、きちんと伝えたうえで」

 

 Xiは、ほっと息を吐いた。

 

「……良かったぁ」

 

 ラキシスも、嬉しそうに微笑んだ。

 

「ありがとうございます、キラさん」

 

「いえいえ」

 

 キラは、続けた。

 

「それから、夕食はビュッフェ形式でお願いできそうだよ」

 

 その瞬間。

 

「ビュッフェ?!」

 

 弥子の目が、輝いた。

 

「はい!」

 

 キラは、頷いた。

 

「夕食と朝食を含むプランで、人数分の費用が決まるからね」

 

「わぁぁ! 楽しみです!!」

 

 ラキシスも、にっこり笑った。

 

「ふふ。いろいろなお料理をいただけるのですね」

 

 すえぞうが、元気よく鳴いた。

 

「ゴハン!!」

 

 Xiは、三人を見た。

 

「…………」

 

 そして。

 

「……なんか、宿の人たちに申し訳なくなってきた」

 

 キラが、小さく頷いた。

 

「……うん。食事量の見込みも、事前に相談しておこうか」

 

 どうやら、コンパス准将の仕事はまだ終わらない。

 

◆ 交通機関は、普通にお願いします

 

 続いて、交通機関の手配である。

 

 キラとバクスチュアルは、鉄道の乗り継ぎを確認していた。

 

「……郡山を経由して会津若松へ。そこから芦ノ牧温泉方面だね」

 

「乗り継ぎ、確認」

 

「十二名だから、座席はなるべく近くで確保したいな」

 

「ウン」

 

「すえぞうの同乗についても、事前に特別な確認が必要だね」

 

 Xiが、頷いた。

 

「……うん。そこは頼むよ」

 

「もちろん」

 

 キラは、にっこり笑った。

 

「現地では、人数に合わせて貸切車両も手配できると便利かもしれないね」

 

「そうだね」

 

 そこへ。

 

「……ひとつ、提案がある」

 

 低い声が響いた。

 

 ログナー司令だった。

 

「……司令?」

 

 Xiが、振り向く。

 

「何か?」

 

 ログナーは、平然と言った。

 

「エア・ドーリーで移動するという案も、ないわけではない」

 

「無いです!!」

 

 Xiが、即答した。

 

「…………」

 

 ログナーは、少しだけ眉を動かした。

 

「……まだ説明していないが」

 

「聞かなくても分かるよ!!」

 

「十二名と幼生一名なら、十分な輸送能力がある」

 

「輸送能力の話じゃない!!」

 

「機材の積載も可能だ」

 

「今回はMHを持っていかないから!!」

 

 ソープが、楽しそうに手を挙げた。

 

「でも、空から会津の景色を見られるよ?」

 

「陛下!!」

 

「……駄目?」

 

「駄目!!」

 

 ログナーは、しばらく考えた。

 

「……そうか」

 

 そして、頷いた。

 

「では、通常の鉄道で手配してくれ」

 

 Xiは、胸を撫で下ろした。

 

「……良かった」

 

 すると、ログナーが続けた。

 

「必要ならば、現地での大型輸送機材の手配も……」

 

「要りません!!」

 

「……分かった」

 

 Xiは、深いため息をついた。

 

 どうして普通の温泉旅行に、MH輸送用の機材が候補として出てくるのだろう。

 

 もっとも。

 

 これまでの経験を考えれば、十分に予想できたことではあった。

 

 キラが、苦笑しながら言った。

 

「……じゃあ、鉄道で進めるね」

 

「……うん。お願いします」

 

 バクスチュアルが、淡々と記録した。

 

「移動、鉄道。エア・ドーリー、却下」

 

「わざわざ書かなくていいよ!!」

 

◆ 稽古場の確保

 

 一方、今回の旅行には、もうひとつ重要な目的があった。

 

 怪盗Xiの剣術訓練である。

 

 カイエンとアウクソーは、芦ノ牧温泉周辺の地形を確認していた。

 

「……この辺りか」

 

 カイエンが、地図を見ながら呟く。

 

「大川の河原。悪くねぇナ」

 

 Xiも、地図を覗き込んだ。

 

「……結構、広いところがあるんだね」

 

「おう。足さばきの稽古にはちょうどよさそうだ」

 

 アウクソーが、穏やかに口を開いた。

 

「マスター。河原の利用については、管理者への確認が必要です」

 

「分かってるヨ」

 

「また、当日の水位や天候によっては使用できない場合もございます」

 

「……そうだナ」

 

 Xiが、頷いた。

 

「……じゃあ、雨が降った時のために、別の訓練場所も考えておこう」

 

「それがよろしいかと思います」

 

 アウクソーは、優しく微笑んだ。

 

「訓練初日は、以前のお稽古の復習を中心にしましょう」

 

「……うん」

 

「姿勢、足運び、間合いの確認。徐々に対人稽古へ進めていきます」

 

「……なるほど」

 

 カイエンが、にやりと笑った。

 

「最後は、オレと打ち合うくらいできりゃいいナ」

 

「…………」

 

 Xiが、顔を上げた。

 

「……あのさ、師匠」

 

「何だヨ?」

 

「その『くらい』の基準、本当に僕に合わせてる?!」

 

「当たり前だろ」

 

「……本当?」

 

「オレだって弟子を壊す趣味はねぇヨ」

 

「……うん」

 

 Xiは、少し安心した。

 

 しかし。

 

「ま、最後はスパッドでも使ってみるか?」

 

「……スパッド?」

 

「おう。オマエに貸与してるヤツだヨ」

 

「……ああ」

 

 Xiは、少し考えた。

 

 スパッド。

 

 A.K.D.から貸与されている、騎士用のビームサーベルである。

 

「……でも、当たったら危なくない?」

 

「スタンモードにしときゃいいだろ」

 

「……それでも危ないと思うけど」

 

 アウクソーが、頷いた。

 

「マスター。最終日の習熟度確認として、必要な安全措置を整えたうえで、ごく短時間の訓練とするのがよろしいかと」

 

「おう。それでいいヨ」

 

 Xiは、ほっとした。

 

「……ありがとう、アウクソーさん」

 

「いえ」

 

 その横で、ソープが楽しそうに言った。

 

「じゃあ、僕も相手してあげるよ!」

 

「…………」

 

 Xiは、ゆっくりと振り向いた。

 

「……陛下?」

 

「うん?」

 

「剣聖と天位クラスの騎士、二人を相手にするの?!」

 

「もちろん、順番にだよ」

 

「そういう問題じゃない!!」

 

 カイエンが、愉快そうに笑った。

 

「ハハッ! 贅沢な稽古だナ!」

 

「贅沢すぎるよ!!」

 

 アウクソーが、再び口を開いた。

 

「マスター。まずはXiさんの習熟度を見てから判断いたしましょう」

 

「へいへい」

 

 Xiは、心から思った。

 

 この人がいなかったら、自分の合宿は一体どうなっていたのだろう。

 

 ……考えない方が良さそうだった。

 

◆ そして、最大の難関

 

 宿泊先の手配は進んだ。

 

 交通機関の座席も、必要な確認を経て確保できた。

 

 訓練場所についても、利用可能な範囲と安全上の条件を確認し、代替案を含めた計画が整いつつある。

 

 残る大きな問題は、ただ一つ。

 

「……よし」

 

 キラは、電話機を手に取った。

 

「なかじまさんに連絡してみよう」

 

 Xiが、隣に立った。

 

「……うん。よろしく」

 

 バクスチュアルも、注文予定表を用意する。

 

「三十人前。相談、開始」

 

「……うん」

 

 キラは、深呼吸した。

 

 そして、電話を掛けた。

 

 数回の呼び出し音。

 

『はい、お電話ありがとうございます』

 

「あ、もしもし。団体での昼食について、ご相談したいのですが」

 

『はい。何名様でしょうか?』

 

「大人十二名と、小さな同行者が一名です」

 

『十三名様ですね』

 

「はい」

 

『お食事は、皆様ソースカツ丼でしょうか?』

 

「はい。煮込みソースカツ丼を中心にお願いしたいんです」

 

『ありがとうございます。十三人前ですね?』

 

「……いえ、その……」

 

『はい?』

 

 キラは、手元のメモを見た。

 

 そこには、大きく書かれていた。

 

『基本見積もり28食。30食程度で相談』

 

 キラは、意を決した。

 

「三十人前くらいを食べる団体なんですが、お店を貸し切りにできますか?」

 

『…………』

 

 沈黙。

 

 Xiが、顔を覆った。

 

 バクスチュアルは、静かにメモを取っている。

 

『……申し訳ありません。三十名様でしょうか?』

 

「いえ、十三名です」

 

『…………』

 

「大人が十二名で、小さな同行者が一名です」

 

『…………』

 

「ただ、お食事の予定数が三十人前ほどでして……」

 

『…………』

 

 電話の向こうから、慎重な声が返ってきた。

 

『……少々お待ちいただけますでしょうか?』

 

「はい、もちろんです」

 

『責任者に確認いたします』

 

 保留音が流れた。

 

 キラは、受話器を持ったまま、ため息をついた。

 

「……Xi」

 

「……うん?」

 

「……僕、何か変なこと言ったかな」

 

「……いや」

 

 Xiは、ゆっくりと首を振った。

 

「……全部、本当のことだよ」

 

「……そうだよね」

 

「本当のことだから、余計に怖いんだけどね!!」

 

◆ 十二名と一匹で、三十人前

 

 やがて、電話が繋がった。

 

『お電話代わりました』

 

「あ、お忙しいところすみません」

 

『いえいえ。団体でのお食事についてですね』

 

「はい」

 

『大人十二名様と、小さなお連れ様が一名。そして、お料理が三十人前ほど……』

 

「……はい」

 

『……失礼ですが、大食い大会のような催しでしょうか?』

 

「いえ! 普通の昼食です!!」

 

 Xiが、隣で小さく呟いた。

 

「……普通かなぁ……」

 

 キラは、話を続けた。

 

「実は、とても食欲旺盛な方が何名かいらっしゃいまして……」

 

『なるほど』

 

「事前に必要数を相談して、可能であれば貸切でお願いしたいんです」

 

『……そういうことでしたか』

 

 電話の向こうの声が、少し和らいだ。

 

『それでしたら、日程と仕込みの都合を確認させてください』

 

「ありがとうございます!」

 

『ちなみに、煮込みソースカツ丼を三十人前でよろしいでしょうか?』

 

「……あ、それなんですが」

 

 キラは、メニューの写真を見た。

 

「元祖煮込みソースカツ丼を中心に、厚切りやヒレ、エビ煮込み丼も希望がありまして……」

 

『はい』

 

「人数と食数の内訳については、事前に改めてお知らせする形でもよろしいでしょうか?」

 

『もちろんです。食材の準備がありますので、事前にご相談いただければ助かります』

 

「ありがとうございます!」

 

 キラは、少し安心した。

 

 そして、最後にもうひとつ確認した。

 

「あの、今回、以前そちらで煮込みソースカツ丼を三杯いただいた者も同行するんですが……」

 

『……三杯?』

 

「はい」

 

『…………』

 

 しばしの沈黙。

 

『……桂木様、でしょうか?』

 

「…………」

 

 キラが、目を瞬かせた。

 

「……えっ?!」

 

 Xiも、驚いた顔になった。

 

「……覚えられてる?!」

 

『以前、とても美味しそうに召し上がってくださったお客様がいらっしゃいまして』

 

「……はい。その方です」

 

『そうでしたか。またお越しいただけるのですね』

 

「はい!」

 

『それはありがとうございます。できる限りご用意できるよう、調整いたします』

 

 キラは、思わず微笑んだ。

 

「……ありがとうございます!」

 

 その時だった。

 

「キラさん!」

 

 弥子が、横から顔を出した。

 

「……弥子さん?」

 

「お電話、なかじまさんですか?!」

 

「……うん」

 

「ちょっと代わってもらっていいですか?!」

 

「……え?」

 

 キラが戸惑っている間に、弥子が嬉しそうに受話器へ顔を寄せた。

 

「こんにちは! 桂木弥子です!」

 

『ああ! いつもありがとうございます』

 

「前回の煮込みソースカツ丼、すっごく美味しかったです!」

 

『ありがとうございます!』

 

「今度、またみんなでお邪魔したいんです!」

 

『はい。お待ちしております』

 

「私、今回は八杯くらい食べたいと思ってて!」

 

『…………』

 

 キラが、目を閉じた。

 

 Xiも、目を閉じた。

 

 弥子は、元気よく続けた。

 

「それから、ヒレとか厚切りとか、エビ煮込み丼も気になってるんです!」

 

『……ありがとうございます』

 

「楽しみにしてますね!」

 

 弥子は、満面の笑みで受話器をキラへ返した。

 

「はい! ありがとうございました!」

 

「……う、うん」

 

 キラは、電話口へ向き直った。

 

「……あの、すみません」

 

『いえいえ。お料理を楽しみにしていただけて、ありがたいです』

 

「……ありがとうございます」

 

『ただ、仕込みの関係で、数量には限りがございますので……』

 

「はい! そこは必ず事前に確認します!!」

 

 キラは、即答した。

 

 こうして。

 

 なかじまへの団体昼食と貸切の相談は、日程と仕込みの条件を調整したうえで、無事にまとまった。

 

 注文数の目安は三十人前。

 

 最終的な料理の内訳は、事前に確定させる。

 

 追加注文は、当日の在庫と調理状況次第。

 

 当然、個人的な追加注文分は個人負担。

 

 ……当たり前の取り決めのはずだった。

 

「……良かったね、キラ」

 

 Xiが、笑った。

 

「……うん」

 

 キラも、少し疲れたように笑った。

 

「……でもさ、Xi」

 

「……何?」

 

「……お店の人が、弥子さんを覚えてたね」

 

「……うん」

 

「……それって、すごいことだよね」

 

「…………」

 

 Xiは、少し考えた。

 

 そして。

 

「食欲だけで名前を覚えられてるって、すごいよね!!」

 

 弥子が、嬉しそうに笑った。

 

「えへへ!」

 

「褒めたつもりじゃないんだけど?!」

 

◆ ログナー司令、精算書を見る

 

 その日の夕方。

 

 ログナー司令は、旅行の手配状況を確認していた。

 

「……宿泊先、確保」

 

「はい」

 

「……交通機関、手配済み」

 

「はい」

 

「……訓練計画、調整中」

 

「はい」

 

 キラは、淡々と答えた。

 

 ログナーが頷く。

 

「……ご苦労だった、キラ准将」

 

「ありがとうございます」

 

「……それで」

 

 ログナーは、最後の書類を手に取った。

 

「……昼食費」

 

「…………」

 

 キラの表情が、わずかに固まった。

 

「……はい」

 

「十二名と、幼生一名」

 

「……はい」

 

「煮込みソースカツ丼、三十人前」

 

「…………」

 

 ログナーは、しばらく書類を眺めていた。

 

「…………」

 

 Xiも、隣で黙っている。

 

 そして。

 

「……キラ准将」

 

「……はい」

 

「これは、騎士の訓練合宿に伴う昼食の手配だな?」

 

「……はい」

 

「……大食い大会ではないな?」

 

「違います!!」

 

 ログナーは、頷いた。

 

「……分かった」

 

 そして、もう一度書類を確認した。

 

「……追加注文分は個人負担だな」

 

「はい。そこは区分してあります」

 

「よろしい」

 

 ログナーは、書類を置いた。

 

「……必要な手配は整ったようだな」

 

 Xiが、ほっと息を吐いた。

 

「……司令、ありがとう」

 

「礼には及ばん。キラ准将とバクスチュアルの働きによるところが大きい」

 

「……そうだね」

 

 Xiは、二人を見た。

 

「キラ、バクスチュアル。本当にありがとう」

 

 キラが、微笑んだ。

 

「ううん。みんなで楽しい旅行にしようね」

 

 バクスチュアルも、頷いた。

 

「Xiサン。稽古、ガンバッテ」

 

「……うん」

 

 Xiは、少しだけ照れくさそうに笑った。

 

「……頑張るよ」

 

 その時。

 

 ログナーが、静かに付け加えた。

 

「……なお、Xi」

 

「……何?」

 

「帰還後には、カイエンから訓練成果の報告を受ける」

 

「…………」

 

「公費を使う以上、当然だ」

 

 Xiは、ゆっくりと頭を抱えた。

 

「温泉旅行の後に成績表がついてくる!!」

 

 ログナーは、平然と答えた。

 

「訓練合宿だろう」

 

「そうだった!!」

 

◆ ヘキサクスからの小包

 

 そして、出発を数日後に控えたある日。

 

 コンパス本部に、一つの荷物が届いた。

 

「……あれ?」

 

 キラが、送り状を見た。

 

「荷物が届いてる」

 

 Xiが、顔を上げた。

 

「……何?」

 

「ええと、差出人は……」

 

 キラは、箱の側面を見た。

 

 そこには、大きく企業名が印刷されていた。

 

『株式会社ヘキサクス』

 

「…………」

 

 キラが、固まった。

 

 Xiも、固まった。

 

 そこへ、弥子が顔を出す。

 

「……何ですか?」

 

「……弥子ちゃん」

 

「はい?」

 

「……ヘキサクスから荷物が」

 

「…………」

 

 弥子の表情が変わった。

 

「またヘキサクスから何か来た?!」

 

「捨てろ!!」

 

 Xiが、反射的に叫んだ。

 

「中身を確認する前から捨てちゃ駄目だよ!!」

 

 キラが、慌てて止めた。

 

「だってキラ!」

 

 Xiは、箱を指さした。

 

「ヘキサクスだよ?! あのシックスの会社だよ?!」

 

「……それは分かってるけど!」

 

「今まで何が届いたか、覚えてるでしょ?!」

 

「……うん」

 

 キラは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……まず、送り主を確認しよう」

 

 慎重に送り状を見る。

 

「……あれ?」

 

「……何?」

 

「……ジョーイ係長からだ」

 

「…………」

 

 Xiが、目を瞬かせた。

 

「……ジョーイ?」

 

「うん。個人名も書いてある」

 

「……会長じゃなくて?」

 

「うん」

 

 弥子が、少し安心した顔になる。

 

「……係長さんなら、大丈夫かもしれませんね」

 

 その時。

 

「……何だヨ、騒がしいナ」

 

 カイエンが、やって来た。

 

「……師匠!」

 

「ん?」

 

「ヘキサクスから荷物が!」

 

「…………」

 

 カイエンの表情が、変わった。

 

「……またシックスの野郎か?」

 

「……いや、今回はジョーイからみたい」

 

「……ほう」

 

 カイエンは、箱を見た。

 

「……じゃあ、中身を確認するか」

 

 キラが、慎重に開封した。

 

 中には、小さなパックが整然と並んでいた。

 

「……あれ?」

 

 Xiが、一つ手に取った。

 

「……リンスインシャンプー?」

 

 そして、添え状を見つけた。

 

 そこには、次のように書かれていた。

 

『会津旅行へお出かけの皆様へ

 このたびは、弊社製品「リンスインシャンプー」の使い切りタイプをお送りいたします。

 以前、在庫正常化施策の一環として製品化したもので、宿泊施設での使用実績もございます。

 ご旅行の際に、よろしければお役立てください。

 

 なお、本件は私の判断による差し入れであり、弊社会長は一切関与しておりません。

 

 株式会社ヘキサクス

 ジョーイ』

 

「…………」

 

 Xiは、手紙を見た。

 

 そして。

 

「最後の一文が一番大事!!」

 

 弥子も、頷いた。

 

「……良かったぁ……」

 

 すると、カイエンがリンスインシャンプーを手に取った。

 

「……ん?」

 

 パッケージを眺める。

 

「……ああ、これかヨ」

 

「……師匠?」

 

「オレが前にモニターやったヤツだナ」

 

「……そうなの?」

 

「ああ。例のホテルでも使ってたナ」

 

 弥子が、ぱっと顔を上げた。

 

「……本当ですか?!」

 

「おう。別に変なことは起きなかったヨ」

 

「……それ聞いて安心しました……」

 

 Xiも、ほっと息を吐いた。

 

「……うん。師匠が使って大丈夫だったなら、安心かな」

 

 カイエンは、少し不満そうに言った。

 

「……オマエら、オレを何だと思ってんだヨ?」

 

 Xiは、真顔で答えた。

 

「ヘキサクス製品の被害経験者!!」

 

「おい!!」

 

 弥子が、頷いた。

 

「でも、経験者のお墨付きって大事ですよね!」

 

「だから何でオレが実験台扱いなんだヨ?!」

 

 キラは、嬉しそうに笑った。

 

「でも、ジョーイさんも気を遣ってくださったんだね」

 

「……うん」

 

 Xiも、頷いた。

 

「……ありがたいね」

 

 その時。

 

「へぇ! リンスインシャンプーなんだ!」

 

 ソープが、横から顔を出した。

 

「……陛下?」

 

「便利だねぇ。一本で髪を洗って、リンスもできるんでしょ?」

 

「……うん」

 

「じゃあ、僕も少し改良して……」

 

「陛下!!」

 

「何?」

 

「今回は普通に使おう!!」

 

「えー」

 

「せっかくまともなヘキサクス製品なんだから!!」

 

 カイエンが、苦笑した。

 

「……ま、オレはそのままでいいと思うゼ」

 

 ソープは、少し残念そうに言った。

 

「……そっかぁ」

 

 Xiは、心から安堵した。

 

 どうやら、旅行前に新しい騒動を増やさずに済みそうだった。

 

 ……少なくとも、今のところは。

 

◆ そのころ、ヘキサクス本社

 

「……よし」

 

 ヘキサクス本社。

 

 ジョーイ係長は、荷物の受領連絡を確認していた。

 

「無事に届いたみたいやな」

 

 隣にいたイエッタが、頷いた。

 

「はい。Xiさんから、先ほどお礼の連絡がありました」

 

「おっ! それは良かったわ!」

 

 ジョーイは、嬉しそうに笑った。

 

「たまにはウチの製品も、普通に喜んでもらわんとな!」

 

「……ただ」

 

「……ん?」

 

 イエッタは、少し困ったように言った。

 

「開封する前は、かなりの騒ぎだったそうです」

 

「……え?」

 

「ヘキサクスから荷物が届いたと分かった瞬間、廃棄しようという話になったとか」

 

「…………」

 

 ジョーイが、固まった。

 

「……なんでやねん」

 

 イエッタは、静かに答えた。

 

「……これまでの会長の行動を考えれば、無理もないかと」

 

「…………」

 

 ジョーイは、深いため息をついた。

 

「否定できへんのが辛いわ!!」

 

 イエッタが、少し微笑んだ。

 

「でも、添え状を読んでからは、皆さん安心されたそうですよ」

 

「……そうか」

 

「カイエンさんも、以前の使用経験から安全性を説明されたそうです」

 

「……そら良かった」

 

 ジョーイは、ほっと息を吐いた。

 

「……ま、あの人がモニターしてくれた甲斐があったな」

 

 そして、少し考えた。

 

「……次から、送り状にも書いとこか」

 

「……何をですか?」

 

「『会長は関与しておりません』って!!」

 

 イエッタは、思わず苦笑した。

 

「……それは、会社としてどうなのでしょうか」

 

「ワシもそう思うわ!!」

 

 ヘキサクスの企業イメージ回復には、まだまだ長い時間が必要そうだった。

 

◆ いよいよ出発へ

 

 その日の夕方。

 

 コンパス本部では、旅行の最終打ち合わせが行われていた。

 

 キラが、手配状況を報告する。

 

「宿泊先、交通機関、昼食の予約相談、それぞれ必要な調整は済みました」

 

 ログナーが、頷いた。

 

「ご苦労」

 

「訓練場所についても、利用条件と当日の安全確認を踏まえて進めます」

 

「うむ」

 

「参加人数は十二名と、すえぞう一匹です」

 

 ラキシスが、微笑んだ。

 

「ふふ。楽しみですね」

 

 すえぞうも、元気よく鳴いた。

 

「カツドン!!」

 

 Xiは、すえぞうを見た。

 

「……すえぞう。まだ食べたことないのに、本当に楽しみにしてるんだね」

 

「ウン!!」

 

 弥子が、嬉しそうに笑った。

 

「大丈夫! 絶対美味しいから!」

 

「……弥子ちゃん」

 

「はい?」

 

「……食べすぎには気をつけてね」

 

「はい!」

 

 Xiは、少し安心した。

 

 しかし。

 

「……でも、せっかく会津まで行くので、食べられるだけ食べたいです!」

 

「だから、その『食べられるだけ』が怖いんだよ!!」

 

 カイエンが、愉快そうに笑った。

 

「ハハッ! ま、楽しそうでいいじゃねぇかヨ!」

 

 Xiが、振り向く。

 

「……師匠」

 

「ん?」

 

「……僕の稽古も、ちゃんとよろしくね?」

 

「当たり前だろ」

 

「……うん」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「せっかくの合宿だ。みっちり鍛えてやるヨ」

 

「…………」

 

 Xiが、少し固まった。

 

「……みっちり?」

 

「おう」

 

「…………」

 

「何だヨ?」

 

「その『みっちり』って、どのくらい?!」

 

 アウクソーが、穏やかに口を開いた。

 

「マスター。訓練内容は、先ほど確認した計画に沿ってお願いいたします」

 

「……分かってるヨ」

 

 バクスチュアルも、小さく頷いた。

 

「Xiサン。休息、必要」

 

「……ありがとう」

 

 Xiは、二人を見た。

 

「……やっぱり、二人がいてくれると安心だよ」

 

 カイエンが、少し不満そうに呟いた。

 

「……オレ、そんなに信用ねぇか?」

 

「剣の腕は信用してるって、何度も言ってるでしょ!!」

 

 ソープが、楽しそうに笑った。

 

「じゃあ、僕もちゃんと指導するね!」

 

「……うん。お願いします」

 

「それと、練習用の木剣も用意したよ!」

 

「……陛下?」

 

「大丈夫! カイエンが本気で打ち込んでも折れないくらい丈夫だから!」

 

「…………」

 

 Xiは、しばらく黙った。

 

 そして。

 

「師匠が本気で打ち込んだら、木剣より先に僕が壊れるよ!!」

 

 カイエンが、大笑いした。

 

「ハハハ! そりゃそうだナ!」

 

「笑い事じゃない!!」

 

 ソープも、にこにこしている。

 

「だから、ちゃんと手加減するんだよ」

 

「……お願いします。本当に」

 

 ログナーは、静かに頷いた。

 

「……では、準備は整ったな」

 

「……うん」

 

 Xiは、少しだけ表情を引き締めた。

 

 アウト・ミラージュを見上げた、あの日。

 

 巨大な力を持つことの責任が、重く感じられた。

 

 だが、今は。

 

 その力を振り回されずに使えるようになるために、一歩踏み出そうとしている。

 

 剣聖カイエンが教えてくれる。

 

 ソープも、騎士として助言してくれる。

 

 アウクソーとバクスチュアルが、訓練を支えてくれる。

 

 そして、たくさんの仲間たちが、一緒に旅をしてくれる。

 

「……うん」

 

 Xiは、静かに頷いた。

 

「……頑張ってくるよ」

 

 ログナーが、答えた。

 

「良い合宿にしてこい」

 

「……ありがとう、司令」

 

 その時。

 

「Xiくーん!」

 

 弥子が、元気よく手を振った。

 

「なかじまの煮込みソースカツ丼、楽しみですね!」

 

 すえぞうも、勢いよく鳴いた。

 

「カツドン!!」

 

 ラキシスが、嬉しそうに微笑んだ。

 

「ふふ。私も楽しみです」

 

 Xiは、三人を見た。

 

「…………」

 

 そして。

 

「だから!! 僕の稽古がメインだってばァァァ!!」

 

 コンパス本部に、いつもの悲鳴が響き渡った。

 

 こうして。

 

 怪物強盗Xiの剣術合宿は、ついに準備を終えた。

 

 行き先は、会津・芦ノ牧温泉。

 

 二泊三日。

 

 十二名と、LEDドラゴンの幼生一匹。

 

 剣聖と神様による、贅沢すぎる剣術指導。

 

 温泉。

 

 ビュッフェ。

 

 そして。

 

 煮込みソースカツ丼、三十人前。

 

 果たして、無事に合宿を終えることができるのか。

 

 ……少なくとも。

 

 キラ・ヤマト准将は、出発前から少し疲れていた。

 

「……ラクス」

 

「はい、キラ?」

 

「……今度の旅行、ちゃんと休めるかな」

 

 ラクスは、優しく微笑んだ。

 

「ふふ。きっと楽しい旅行になりますわ」

 

「……うん」

 

「それに、キラ」

 

「……何?」

 

「せっかくですから、私たちも会津の美味しいお料理を楽しみましょうね」

 

「…………」

 

 キラは、少し考えた。

 

 そして、苦笑した。

 

「……そうだね」

 

 ……とりあえず。

 

 GABAチョコは、多めに持っていこう。

 

 そう心に決めたキラ・ヤマト准将だった。

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