守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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会津合宿編 その2

◆ 芦ノ牧温泉、到着!

 

 福島県会津若松市。

 

 名物の煮込みソースカツ丼を、十二名とドラゴン一匹で合計三十杯。

 

 そんな前代未聞の昼食を終えた一行は、次なる目的地へ向かっていた。

 

 芦ノ牧温泉。

 

 大川の渓谷沿いに旅館が立ち並ぶ、会津の温泉地である。

 

「……はぁ」

 

 車窓を眺めながら、怪物強盗Xiは小さく息を吐いた。

 

「……本当に三十杯で済んで良かったね」

 

 隣に座っていたキラ・ヤマトが、深く頷く。

 

「……うん」

 

「……もし足りなかったら、どうするつもりだったの?」

 

「……追加できるか、お店に相談するしかなかったかな」

 

「……そうだよね」

 

 Xiは、後ろの座席を振り返った。

 

 そこには、桂木弥子とラキシスが、楽しそうに会話している。

 

「ラキシスさん、今夜のビュッフェも楽しみですね!」

 

「ええ。どんなお料理があるのでしょう?」

 

「会津って、お蕎麦も美味しいんですよ!」

 

「まあ。そうなのですか?」

 

「はい! ぜひ食べてみたいです!」

 

 その足元では。

 

「カツドン!!」

 

 すえぞうが、元気よく鳴いた。

 

「ふふ。すえぞう、カツ丼がすっかり気に入ったのですね」

 

「ウマイ!!」

 

「良かったですね」

 

 Xiは、少し笑った。

 

「……まあ、みんな喜んでくれたし、良かったよね」

 

 キラも、微笑んだ。

 

「……うん」

 

 そして、鞄からGABAチョコを取り出した。

 

「……キラ?」

 

「……何?」

 

「……また食べるの?」

 

「……うん」

 

 キラは、苦笑した。

 

「……なんとなく、今のうちに食べておこうと思って」

 

「…………」

 

 Xiは、深く頷いた。

 

「……お疲れさま」

 

 コンパス准将の苦労は、まだまだ続きそうだった。

 

◆ まるで、無限城?

 

 やがて。

 

 一行は、芦ノ牧温泉の旅館に到着した。

 

 今回の宿泊先は、大川の渓谷を望む大きな温泉旅館。

 

 館内には、特徴的な吹き抜けと、幾層にも重なる回廊。

 

 そして、その中央には、まるで空間に浮かんでいるかのような舞台が設けられていた。

 

「……わぁ!」

 

 泉京香が、思わず声を上げた。

 

「すごいですね、ここ!」

 

 ラクスも、嬉しそうに周囲を見回している。

 

「まあ……とても立派な建物ですわね」

 

 ラキシスも、微笑んだ。

 

「独特な造りですね。美しいです」

 

 ソープは、興味深そうに吹き抜けを見上げていた。

 

「へぇ……面白い構造だねぇ」

 

 Xiは、少し不安になった。

 

「……陛下?」

 

「何?」

 

「……今、構造って言った?」

 

「うん」

 

「……改造しようとか考えてないよね?」

 

「えー? まだ何も言ってないよ?」

 

「『まだ』って言った!!」

 

 そんな二人の横で。

 

 岸辺露伴が、じっと吹き抜けを見つめていた。

 

「…………」

 

 泉が、嬉しそうに話しかける。

 

「露伴センセ! ここ、あの大ヒット漫画の『無限城』みたいだって、よく話題になるんですよ!」

 

「…………」

 

「先生も、取材してみませんか?」

 

 露伴は、ゆっくりと泉を見た。

 

「おいおいおいおい!」

 

「……はい?」

 

「なんで僕が、他の漫画家のネタみたいな取材をしなきゃあいけないんだ?」

 

「…………」

 

 泉は、少し考えた。

 

 そして。

 

「……確かに!!」

 

 Xiが、思わず振り向いた。

 

「泉さんも納得しちゃった!!」

 

 露伴は、腕を組んだ。

 

「僕は他人の漫画の聖地巡礼に来たわけじゃあない。自分の作品のための取材に来たんだ」

 

「……そうですよね!」

 

「まったく……」

 

 そう言いながら、露伴は再び吹き抜けを見上げた。

 

「…………」

 

 そして。

 

 すっ。

 

 懐から、スケッチブックを取り出した。

 

「…………」

 

 Xiが、その手元を見た。

 

「……先生?」

 

「……なるほど」

 

「……何が?」

 

「この吹き抜け、なかなか面白い構造をしているじゃあないか」

 

「…………」

 

「上階からの視線、舞台の配置、木組みの重なり……実に興味深い」

 

 泉も、顔を上げた。

 

「……先生?」

 

「泉くん。館内の撮影や取材の許可について、旅館の方に確認しておいてくれ」

 

「……はい!」

 

 露伴は、ペンを走らせ始めた。

 

「他人の漫画とは関係ない。建物そのものに価値があるんだからな」

 

 Xiは、深いため息をついた。

 

「結局、取材するんだ?!」

 

 露伴は、当然のように答えた。

 

「当たり前だろう。面白いものを見逃してどうする」

 

 泉も、嬉しそうに頷いた。

 

「良かったです! これなら観光取材として編集部に報告できます!」

 

「……泉くん」

 

「はい?」

 

「今回の取材のメインは、この旅館だ。それで編集部には通してくれ」

 

「……え?」

 

 露伴は、平然と続けた。

 

「それに、剣聖の稽古もある。取材対象には事欠かないな」

 

「…………」

 

 泉は、少し考えた。

 

「……露伴センセ」

 

「何だ?」

 

「剣聖の稽古って、温泉旅館の観光取材になるんでしょうか?!」

 

「おいおいおいおい! 現地でしか見られないものを取材するんだ。何か問題があるのか?」

 

「……問題はありますけど、企画としては面白そうなのが悔しいです!!」

 

 その様子を眺めていたネウロが、愉快そうに笑った。

 

「ククク……漫画家とは、取材という名目があれば何でも許されると思っているらしいな」

 

 露伴が、じろりと睨んだ。

 

「失礼だな。僕は必要な許可くらい取るぞ」

 

「ククク……ならば、剣聖本人の許可も忘れるなよ」

 

「当然だ」

 

 Xiは、嫌な予感がした。

 

 ……これから三日間。

 

 カイエン師匠は、果たして無事に過ごせるのだろうか。

 

◆ 部屋割り、再確認

 

 チェックインを終えた一行は、用意された四つの和室へ向かった。

 

 キラは、旅程表を手に全員へ説明する。

 

「それじゃあ、部屋割りを確認するね」

 

 今回の宿泊は、三名一室を基本とした四部屋。

 

 それぞれ、次のようになっていた。

 

部屋

 

宿泊者

 

A室

 

カイエン、ネウロ、露伴

 

B室

 

ソープ、Xi、キラ

 

C室

 

ラキシス、アウクソー、バクスチュアル+すえぞう

 

D室

 

ラクス、弥子、泉京香

 

「……よし」

 

 キラは、頷いた。

 

「この部屋割りで大丈夫だね」

 

 Xiは、少し安心した。

 

「……うん」

 

 ソープも、嬉しそうに笑った。

 

「Xi、よろしくね!」

 

「……うん。陛下もよろしく」

 

「温泉、楽しみだねぇ!」

 

「……そうだね」

 

 その時。

 

「……おい」

 

 カイエンが、A室の前で声を上げた。

 

「……何、師匠?」

 

「何でオレの部屋、こいつらと一緒なんだヨ?」

 

 カイエンが、ネウロと露伴を指さした。

 

 露伴は、既に部屋の造りを観察している。

 

「……ほう。畳の配置もなかなか悪くないな」

 

 ネウロは、愉快そうに笑っていた。

 

「ククク……よろしく頼むぞ、剣聖」

 

「…………」

 

 カイエンは、少し考えた。

 

「……ま、いいか」

 

 Xiが、首を傾げる。

 

「……師匠?」

 

「何だヨ?」

 

「……大丈夫?」

 

「何がだヨ?」

 

「……いや、何でもない」

 

 カイエンは、肩をすくめた。

 

「同じ部屋で寝るだけだろ。何も問題ねぇヨ」

 

「…………」

 

 Xiは、それ以上何も言わなかった。

 

 ……この判断が、二日目の夜にどんな結果を招くのか。

 

 まだ、誰も知らなかった。

 

 ……いや。

 

 もしかすると、ネウロだけは予想していたかもしれない。

 

「ククク……」

 

 その笑い声を、カイエンは聞かなかったことにした。

 

◆ 剣聖、稽古を始める

 

 荷物を置き、少し休息を取った後。

 

 一行は、旅館の近くを流れる大川へ向かった。

 

 今回の合宿の主目的。

 

 怪物強盗Xiの剣術訓練である。

 

 事前に利用条件を確認した河原には、適度な広さがあった。

 

 大小の石が転がり、足元は平坦ではない。

 

 川の流れから十分に距離を取り、安全な範囲を区切ったうえで、稽古を行うことになっている。

 

「……ふぅ」

 

 Xiは、稽古着に着替えて河原に立った。

 

「……いよいよだね」

 

 目の前には、剣聖ダグラス・カイエン。

 

 その隣には、レディオス・ソープ。

 

 そして、アウクソーとバクスチュアルが控えている。

 

「……よし」

 

 カイエンは、木剣を手に取った。

 

「じゃ、始めるかナ」

 

「……うん!」

 

 Xiも、木剣を構えた。

 

 今回用意された木剣は、ソープが特別に製作したものだった。

 

 ただし、重量や握り心地は通常の木剣に近く、強度と耐久性を高めた実用的な訓練用品である。

 

「……陛下」

 

「何?」

 

「……これ、本当に普通の木剣なんだよね?」

 

「うん!」

 

「……ビームとか出ない?」

 

「出ないよ」

 

「……変形しない?」

 

「しないよ」

 

「……内蔵された謎の機能とか……」

 

「ないよ!」

 

「…………」

 

 Xiは、ほっとした。

 

「……良かったぁ」

 

 カイエンが、呆れたように言った。

 

「オマエ、ソープを何だと思ってんだヨ?」

 

「師匠は分かってるでしょ?!」

 

「……ハハッ! まあナ!」

 

 ソープは、少し不満そうだった。

 

「本当に普通の木剣なのになぁ」

 

 アウクソーが、穏やかに微笑む。

 

「今回は、それで十分でございます」

 

 バクスチュアルも頷いた。

 

「基本、重要」

 

「……うん」

 

 Xiは、木剣を握り直した。

 

「……じゃあ、よろしくお願いします。師匠」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「おう。しっかりついて来いヨ」

 

◆ 見学席は、足湯

 

 その頃。

 

 河原を見下ろせる場所には、小さな足湯が設けられていた。

 

 今回の一行は、見学にも利用できるということで、そちらに集まっていた。

 

「……わぁ!」

 

 弥子が、嬉しそうに足を湯へ浸した。

 

「気持ちいいですねぇ!」

 

 ラクスも、微笑んだ。

 

「ええ。景色も素晴らしいですわ」

 

 ラキシスは、川の方を眺めている。

 

「ふふ。ソープ様も楽しそうですね」

 

 すえぞうは、ラキシスの隣で、足湯には入らず大人しく座っていた。

 

「うっす!」

 

 キラは、河原を見下ろした。

 

「……ここなら、みんなで見学できるね」

 

 露伴は、早くもスケッチブックを開いていた。

 

「……なるほど」

 

 泉が、隣から覗き込む。

 

「先生、もう描いてるんですか?」

 

「当然だろう」

 

「まだ稽古、始まったばかりですよ?」

 

「だからこそだ。剣聖が最初に何を教えるのか。それが重要なんじゃあないか」

 

「……なるほど!」

 

 露伴は、真剣な顔で河原を見下ろした。

 

「……さて。見せてもらおうじゃあないか」

 

 その隣では、ネウロが愉快そうに笑っていた。

 

「ククク……怪盗が剣聖にしごかれる様子を見物できるとはな」

 

 弥子が、少し不満そうに言った。

 

「ネウロ! Xi君はちゃんと頑張ってるんだから、変なこと言わないでよ!」

 

「ほう。貴様にしては殊勝なことを言うな、家畜」

 

「だから家畜って言うな!!」

 

 キラが、慌てて二人を見た。

 

「……あの、皆さん」

 

「……はい?」

 

「なるべく静かに見学しようね。Xiも集中したいと思うから」

 

「……はーい」

 

 弥子は、素直に頷いた。

 

 そして。

 

「Xiくーん!! 頑張ってくださーい!!」

 

 河原へ向かって、元気よく手を振った。

 

「弥子さん?!」

 

 キラが、思わず声を上げた。

 

 Xiが、足湯の方を見上げる。

 

「……あっ、弥子ちゃん!」

 

 すると。

 

「……オイ」

 

 カイエンが、すっと木剣を動かした。

 

 こつん。

 

「……あいたっ!」

 

 Xiの頭に、木剣が軽く触れた。

 

「……師匠?!」

 

「稽古中に余所見すんじゃねぇヨ」

 

「……ご、ごめん!」

 

 カイエンは、笑った。

 

「戦ってる最中に、知り合いが声を掛けてきたからって、いちいち振り向くのか?」

 

「……いや、それは……」

 

「だろ?」

 

「……うん」

 

 Xiは、改めて木剣を構えた。

 

 その様子を見て。

 

 露伴が、興味深そうに頷いた。

 

「……なるほど。まずは集中力か」

 

 泉も、頷く。

 

「大切ですよね」

 

 ネウロは、にやりと笑った。

 

「ククク……では、我が輩が声を掛けたらどうなるか……」

 

「ネウロさん、それはやめてください!!」

 

 キラが、即座に止めた。

 

◆ 足場を見ろ

 

「……さて」

 

 カイエンは、木剣を構え直した。

 

「じゃ、次だナ」

 

 Xiも、姿勢を整える。

 

「……うん」

 

「オマエ、いつもどおりに踏み込んでみろ」

 

「……分かった」

 

 Xiは、足を動かした。

 

 すっ。

 

 そして、一気に前へ踏み込む。

 

 だが。

 

 ざりっ。

 

「……あっ?!」

 

 足元の砂利が動いた。

 

 わずかに重心がずれ、Xiの姿勢が崩れる。

 

 その瞬間。

 

 こつん。

 

 カイエンの木剣が、Xiの肩へ軽く触れた。

 

「……一本だナ」

 

「……くっ!」

 

 Xiは、悔しそうに顔をしかめた。

 

「……今の、足が滑った」

 

「そうだナ」

 

「……いつもの稽古場なら、ちゃんと踏み込めたのに」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「……だから、ここで稽古してんだヨ」

 

「……え?」

 

「オマエ、平らな床で剣を振るのには慣れてきただろ?」

 

「……うん」

 

「だが、戦う場所がいつでも平らとは限らねぇ」

 

 カイエンは、足元を指さした。

 

「砂利、岩、泥、斜面。そういう場所で、いつもと同じように踏み込んだらどうなる?」

 

「……足元を取られる」

 

「そうだ」

 

 Xiは、砂利を見た。

 

 大きな石。

 

 細かな砂。

 

 所々に、不安定な足場がある。

 

「……なるほど」

 

 カイエンは、頷いた。

 

「いくら速く動けても、踏ん張りが利かなきゃ力は出せねぇ」

 

「……うん」

 

「剣を振る前に、自分がどこに立ってるか考えろ」

 

 Xiは、顔を上げた。

 

「……分かった」

 

「じゃ、もう一回だ」

 

「……うん!」

 

 Xiは、足元を確認した。

 

 先ほどとは違う位置へ足を置き、重心を調整する。

 

 そして、踏み込んだ。

 

 ざっ。

 

「……!」

 

 今度は、姿勢が崩れない。

 

 カイエンの木剣が、横から迫る。

 

 Xiは、それを受けた。

 

 かんっ!

 

「……おっ!」

 

 カイエンが、少し笑った。

 

「今のは悪くねぇナ」

 

「……本当?」

 

「おう」

 

 Xiは、嬉しそうに笑った。

 

「……やった!」

 

 だが。

 

 次の瞬間。

 

 カイエンが、わずかに足を動かした。

 

 Xiは、その動きに反応して踏み込む。

 

 ざりっ。

 

「……あっ?!」

 

 再び、姿勢が崩れた。

 

 こつん。

 

 木剣が、Xiの肩に触れる。

 

「……二本目だナ」

 

「……また?!」

 

 カイエンは、笑った。

 

「ハハッ! そんな簡単に上手くいくかヨ!」

 

「……くぅ……!」

 

 Xiは、悔しそうに木剣を握り直した。

 

 その様子を見て、ソープが口を開いた。

 

「……Xi」

 

「……陛下?」

 

「今、カイエンが何をしたか分かった?」

 

「……え?」

 

 Xiは、少し考えた。

 

「……足を動かした?」

 

「うん」

 

「……僕が反応して踏み込んだら、足元が崩れた」

 

 ソープは、頷いた。

 

「そうだね」

 

 そして、少し笑った。

 

「相手を動かすことも、剣の技術なんだよ」

 

「…………」

 

「自分が速く動くだけじゃなくて、相手に不利な場所へ動いてもらう」

 

「……なるほど」

 

 Xiは、改めてカイエンを見た。

 

「……師匠」

 

「何だヨ?」

 

「……今の、わざと?」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「当たり前だろ?」

 

「…………」

 

「相手の剣ばっかり見てんじゃねぇ。足元も見ろ。周りも見ろ」

 

「……うん!」

 

 Xiは、改めて構え直した。

 

 ソープが、嬉しそうに微笑む。

 

「いいね。ちゃんと理解してきてる」

 

 アウクソーも、静かに頷いた。

 

「はい。マスターの意図を少しずつ読み取れているようです」

 

 バクスチュアルが、Xiを見つめた。

 

「Xiサン。少シズツ、上達」

 

「……ありがとう」

 

 Xiは、少し照れくさそうに笑った。

 

◆ 露伴先生、大興奮

 

 一方、足湯では。

 

「おいおいおいおい!!」

 

 露伴が、思わず声を上げていた。

 

「今のを見たか?!」

 

 泉が、驚いた顔になる。

 

「……はい?」

 

「カイエンは、ほとんど動いていない!」

 

「……え?」

 

「相手の踏み込みを誘導して、足場の悪いところへ動かしたんだ!」

 

「……なるほど!」

 

 露伴は、勢いよくペンを走らせた。

 

「剣聖というのは、ただ反射神経が優れているだけじゃあない。相手の動きそのものを支配しているわけだ!」

 

 キラが、頷いた。

 

「……そうですね」

 

 そして、少し真面目な顔になった。

 

「モビルスーツの戦闘でも、相手の位置取りを制限することはありますから」

 

「……ほう!」

 

 露伴が、振り向いた。

 

「キラ・ヤマト。君にも、あとで詳しく聞きたいことがあるな」

 

「…………」

 

 キラが、固まった。

 

「……え?」

 

「剣聖とモビルスーツパイロットでは、戦闘判断にどんな違いがあるのか。実に興味深いじゃあないか!」

 

「…………」

 

 キラは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……ええと、まずはカイエンさんの取材を優先してくださいね」

 

 露伴は、不満そうに言った。

 

「おいおいおいおい! せっかくの取材対象が二人いるんだ。どちらかだけに絞る必要はないだろう?」

 

「…………」

 

 キラは、そっと鞄を開いた。

 

 GABAチョコ。

 

 そして、乳酸菌飲料。

 

「……ラクス」

 

「はい、キラ?」

 

「……僕、ちょっと飲んでおくね」

 

 ラクスは、くすっと笑った。

 

「ふふ。どうぞ」

 

 ネウロが、愉快そうに笑った。

 

「ククク……漫画家の取材欲も、底なしらしいな」

 

 泉が、思わず頷いた。

 

「……本当に……」

 

 弥子は、河原を見下ろしていた。

 

「……でも、Xi君、頑張ってますね!」

 

 ラキシスも、微笑んだ。

 

「ええ。カイエン様のご指導も、素晴らしいですね」

 

 すえぞうが、元気よく鳴いた。

 

「Xi! ガンバレ!」

 

 その声が、河原まで届く。

 

 Xiは、一瞬だけ視線を動かした。

 

 だが。

 

 今度は、振り向かなかった。

 

 カイエンが、にやりと笑った。

 

「……お?」

 

 Xiは、木剣を構えたまま答えた。

 

「……もう引っかからないよ」

 

「……ハハッ!」

 

 カイエンは、嬉しそうに笑った。

 

「そうこなくっちゃナ!」

 

◆ 剣聖、ちょっと張り切る

 

 しばらくして。

 

 Xiの足運びは、少しずつ安定してきた。

 

 もちろん、カイエンにはまだまだ遠く及ばない。

 

 しかし、先ほどまでのように、簡単に足元を取られることは減ってきていた。

 

「……よし」

 

 カイエンは、木剣を下ろした。

 

「なかなかいいじゃねぇか」

 

「……本当?」

 

「おう」

 

 Xiは、嬉しそうに笑った。

 

「……ありがとう、師匠!」

 

 カイエンは、にやりと笑う。

 

「……じゃあ、ちっとばかり手本を見せてやるかナ」

 

「……うん!」

 

 カイエンは、木剣を構えた。

 

 その姿勢が、わずかに変わる。

 

 重心が落ちる。

 

 右足が、ほんの少し前へ出る。

 

 そして。

 

 木剣を、振りかぶった。

 

カイエン「Rock 'n'……」

 

アウクソー「マスター!! 駄目です!!」

 

カイエン「おおっと!!」

 

 ぴたっ。

 

 カイエンの身体が、振りかぶった姿勢のまま静止した。

 

 木剣は、まだ振り下ろされていない。

 

 ほんの一瞬。

 

 河原に、静寂が訪れた。

 

「…………」

 

 Xiは、カイエンを見た。

 

「…………」

 

 カイエンも、Xiを見た。

 

「…………」

 

 そして。

 

Xi「師匠ォォォ!! ついうっかりでMBT撃たないで!!」

 

カイエン「まだ撃ってねぇだろうがヨ!!」

 

Xi「撃つ寸前だったでしょ?!」

 

カイエン「ちっと気合いが入っちまっただけだヨ!」

 

Xi「『Rock 'n'』まで言ってたじゃないか!!」

 

 アウクソーが、穏やかな表情のまま、しかし少し厳しい声で告げた。

 

「マスター。今回は、基礎訓練でございます」

 

「……分かってるヨ」

 

「対MH戦闘用の剣技を披露する必要はありません」

 

「……へいへい」

 

「まして、MBTは絶対に使用しないでください」

 

「……だから分かってるって!」

 

 Xiが、顔を覆った。

 

「……なんで、僕の足運びの稽古でMBTが出てくるんだよ……」

 

 MBT。

 

 マキシマム・バスター・タイフォーン。

 

 生身の騎士がMHすら破壊し得る、超絶の剣技。

 

 決して、木剣で気軽に実演してよい技ではない。

 

 ……というより。

 

 河原で使っていい技では、断じてない。

 

 その横で、ソープが感心したように頷いていた。

 

「……でも、アウクソー。よく気づいたねぇ」

 

 アウクソーは、静かに微笑んだ。

 

「長年、マスターにお仕えしておりますので」

 

「……そっかぁ」

 

 Xiが、思わず口を挟んだ。

 

「長年の経験がないと止められないようなこと、最初からしないでよ!!」

 

 カイエンが、苦笑する。

 

「悪かったって!」

 

 バクスチュアルが、淡々と告げた。

 

「MBT、禁止。地形、保全。安全、第一」

 

「……うん!」

 

 Xiは、深く頷いた。

 

「バクスチュアルの言う通り!!」

 

 その時。

 

 足湯の方から、元気な声が響いた。

 

すえぞう「ろっくんろーる!!」

 

「…………」

 

 Xiが、固まった。

 

 カイエンも、固まった。

 

 ソープは、目を丸くした。

 

 そして。

 

「……ぷっ!」

 

 思わず吹き出した。

 

Xi「すえぞう?!」

 

 すえぞうは、得意そうに胸を張っていた。

 

すえぞう「ろっくんろーる!!」

 

弥子「変な言葉覚えちゃった?!」

 

 すえぞうは、ますます嬉しそうに鳴いた。

 

「ろっくんろーる!!」

 

 キラが、思わず苦笑した。

 

「……すえぞう、覚えるの早いね」

 

 Xiが、河原から叫んだ。

 

「そんな言葉、覚えなくていいから!!」

 

 ネウロが、愉快そうに笑った。

 

「ククク……竜の幼生に、剣聖の必殺技が伝授されたか」

 

Xi「されてない!! 掛け声だけだから!!」

 

 露伴が、スケッチブックに何かを書き込んだ。

 

「おいおいおいおい! 面白いじゃあないか!」

 

カイエン「露伴!! 余計なこと書くんじゃねぇヨ!!」

 

 ラキシスは、アウクソーに向き直った。

 

「アウクソー姉様、ありがとうございました。カイエン様を止めていただいて……」

 

 アウクソーは、少し困ったように微笑んだ。

 

「……ちょっと危なかったですけどね」

 

「…………」

 

 Xiは、その一言を聞いた。

 

「……ちょっと?」

 

 そして、カイエンを見た。

 

「……師匠」

 

「何だヨ?」

 

「今の、本当に『ちょっと』で済む話だった?!」

 

カイエン「だから撃ってねぇって!!」

 

 大川の河原に、怪物強盗の悲鳴が響き渡った。

 

 幸い。

 

 地形は、一切変わらなかった。

 

◆ 剣聖、本当の強さを見せる

 

「……さて」

 

 騒動が落ち着いたところで。

 

 カイエンは、木剣を構え直した。

 

「……今度こそ、普通にやるゼ」

 

 Xiは、少し警戒した。

 

「……本当に?」

 

「おう」

 

「……MBTは?」

 

「使わねぇヨ」

 

「……地形は?」

 

「変えねぇ」

 

「……分かった」

 

 Xiも、木剣を握り直した。

 

「……じゃあ、お願いします」

 

 カイエンは、静かに頷いた。

 

「……来い」

 

「……うん!」

 

 Xiが、踏み込んだ。

 

 ざっ。

 

 先ほどよりも、足取りが安定している。

 

 木剣を振る。

 

 かんっ!

 

 カイエンは、それを軽く受けた。

 

 そして。

 

 すっ。

 

 ほんのわずかに身体を動かした。

 

「……!」

 

 Xiが、反応する。

 

 だが。

 

 カイエンは、何もしなかった。

 

「……え?」

 

 Xiの木剣が、空を切る。

 

 次の瞬間。

 

 こつん。

 

 カイエンの木剣が、Xiの胸元へ軽く触れた。

 

「……一本だナ」

 

「…………」

 

 Xiは、目を丸くした。

 

「……今、何したの?」

 

「……何もしてねぇヨ」

 

「……え?」

 

「オマエが勝手に動いたんだ」

 

「…………」

 

 Xiは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……あっ」

 

 何かに気づいたように、顔を上げた。

 

「……師匠、僕が動くと思って、わざと隙を見せた?」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「……そうだ」

 

「…………」

 

「相手を斬ろうと思った時、オマエは相手の隙を探すだろ?」

 

「……うん」

 

「だが、その隙が本物とは限らねぇ」

 

「……なるほど」

 

 カイエンは、木剣を下ろした。

 

「剣の速さだけじゃねぇ。相手にどう動かせるか。それも戦いなんだヨ」

 

「……うん」

 

 Xiは、改めてカイエンを見た。

 

 その姿には、先ほどのような大げさな動きはない。

 

 剣を振るう速度も、Xiに合わせて抑えられている。

 

 しかし。

 

 それでも、まったく敵わない。

 

「……すごいね」

 

 Xiは、素直に呟いた。

 

「……師匠」

 

「……ん?」

 

「……今、ほとんど力を使ってないでしょ?」

 

 カイエンは、笑った。

 

「当たり前だろ。弟子の稽古だゼ?」

 

「……そうだよね」

 

 Xiは、少し考えた。

 

「……でも、勝てる気がしない」

 

「ハハッ! そりゃそうだナ!」

 

「……ひどいなぁ」

 

 カイエンは、少しだけ真面目な顔になった。

 

「……いいか、Xi」

 

「……うん」

 

「強い技を覚えることと、その技を使うべきか判断することは別だ」

 

「…………」

 

「さっきのMBTだって、ここじゃ使う必要がねぇ」

 

「……うん」

 

「相手を倒すのに、わざわざ大技を使う必要もねぇ」

 

 カイエンは、木剣を少し持ち上げた。

 

「……これ一本で、十分な場合だってある」

 

「…………」

 

 Xiは、静かに頷いた。

 

「……そうだね」

 

 ふと、アウト・ミラージュのことを思い出した。

 

 自分専用のMH。

 

 強大な力を秘めた、白銀の騎士。

 

 あれを使えるようになることが、今回の合宿の目的のひとつである。

 

 だが。

 

 乗りこなすことと、力を振るうことは、同じではない。

 

「……うん」

 

 Xiは、改めて木剣を構えた。

 

「……もう一回、お願いします」

 

 カイエンは、嬉しそうに笑った。

 

「……おう!」

 

 ソープも、微笑んだ。

 

「いいね、Xi。だんだん分かってきたみたいだね」

 

「……うん」

 

 Xiは、少し笑った。

 

「……まだまだだけどね」

 

 そして。

 

 再び、足元を確かめた。

 

 砂利の動き。

 

 重心の位置。

 

 相手との間合い。

 

 そのすべてを意識しながら、一歩を踏み出す。

 

 今度は、先ほどよりもずっと確かな足取りだった。

 

◆ 初日の稽古、終了

 

 やがて。

 

 夕方が近づいてきた。

 

 カイエンは、木剣を下ろした。

 

「……よし。今日はここまでだナ」

 

「……はぁ……」

 

 Xiは、その場に座り込んだ。

 

「……つ、疲れた……」

 

 アウクソーが、近づいてくる。

 

「お疲れさまでした、Xiさん」

 

「……ありがとうございます」

 

 バクスチュアルも、隣に膝をついた。

 

「Xiサン。水分、補給」

 

「……うん」

 

 Xiは、飲み物を受け取った。

 

「……ありがとう、バクスチュアル」

 

 ソープも、嬉しそうに声を掛けた。

 

「初日にしては、なかなか良かったよ!」

 

「……本当?」

 

「うん。最後の方、足運びがかなり安定してたし」

 

 カイエンも、頷いた。

 

「おう。悪くなかったゼ」

 

「……そっか」

 

 Xiは、少し嬉しくなった。

 

「……でも、全然師匠には敵わないね」

 

 カイエンは、笑った。

 

「当たり前だろ」

 

「……もう少し言い方があるでしょ」

 

「ハハッ!」

 

 そして、少し真面目な顔になる。

 

「……けどナ」

 

「……うん?」

 

「今日のオマエは、最初より良くなってた」

 

「…………」

 

「それで十分だヨ」

 

 Xiは、少し驚いた。

 

「……師匠」

 

「何だ?」

 

「……ありがとう」

 

 カイエンは、照れくさそうに鼻を鳴らした。

 

「……礼なんざいらねぇヨ」

 

 その時。

 

 足湯の方から、元気な声が響いた。

 

「Xiくーん!!」

 

 弥子だった。

 

「お疲れさまでしたー!!」

 

 Xiは、顔を上げた。

 

「……弥子ちゃん!」

 

 キラも、手を振っている。

 

「お疲れさま、Xi!」

 

 ラクスも、微笑んでいた。

 

「素晴らしいお稽古でしたわ」

 

 ラキシスも、嬉しそうに頷く。

 

「ええ。Xiさん、とても頑張っていらっしゃいましたね」

 

 すえぞうが、勢いよく鳴いた。

 

「Xi! ガンバッタ!」

 

 Xiは、思わず笑った。

 

「……ありがとう、すえぞう」

 

 そして。

 

「ろっくんろーる!!」

 

「…………」

 

 Xiが、固まった。

 

 カイエンも、固まった。

 

「…………」

 

 Xiは、ゆっくりとカイエンを見た。

 

「……師匠」

 

「……何だヨ」

 

「……すえぞう、完全に覚えちゃったね」

 

「…………」

 

 カイエンは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……ま、元気でいいじゃねぇかヨ!」

 

「師匠が教えたんでしょ!!」

 

 アウクソーは、少し困ったように微笑んだ。

 

「……マスター」

 

「……おう?」

 

「明日も、MBTは使用禁止ですからね」

 

「分かってるってばヨ!!」

 

 大川の河原に、再び笑い声が響き渡った。

 

◆ そして、旅館へ

 

 稽古を終えた一行は、再び旅館へ戻ることになった。

 

 日が傾き、渓谷の景色も少しずつ夕暮れの色に変わっていく。

 

「……はぁ」

 

 Xiは、歩きながら小さく息を吐いた。

 

「……疲れたけど、なんか気持ちいいね」

 

 隣を歩くカイエンが、頷いた。

 

「だろ?」

 

「……うん」

 

「身体動かした後の温泉は格別だゼ?」

 

「……それは楽しみだね」

 

 ソープも、嬉しそうに言った。

 

「僕も早く温泉に入りたいなぁ!」

 

 ラキシスが、微笑んだ。

 

「ふふ。ご一緒できるのが楽しみですね、ソープ様」

 

 弥子も、元気よく手を挙げた。

 

「私、夕食のビュッフェも楽しみです!」

 

 キラが、苦笑する。

 

「……うん。そうだね」

 

 すえぞうが、鳴いた。

 

「ゴハン!!」

 

 Xiは、思わず笑った。

 

「……すえぞう、さっきカツ丼六杯食べたばっかりでしょ?」

 

「ウマイ!!」

 

「……うん。美味しかったんだね」

 

 その横で。

 

 露伴が、手帳を閉じた。

 

「……ふむ」

 

 泉が、嬉しそうに話しかける。

 

「先生、良い取材ができましたね!」

 

「ああ。非常に興味深かった」

 

「良かったです!」

 

 露伴は、カイエンを見た。

 

「……ところでカイエン」

 

「……ん?」

 

「さっきの稽古で、ひとつ聞きたいことがあるんだが」

 

 カイエンが、立ち止まった。

 

「……何だヨ?」

 

「相手の動きを誘導するという話だが、どこまで意識して行っているんだ?」

 

「……ああ?」

 

「それとも、長年の経験によって無意識に行われている部分もあるのか?」

 

「…………」

 

 カイエンは、少し考えた。

 

「……まあ、そうだナ」

 

「ほう!」

 

 露伴の目が輝いた。

 

「それなら、もう少し詳しく聞かせてもらおうじゃあないか!」

 

「……オイ」

 

「実際の戦場では、どの程度まで相手の行動を予測できる?」

 

「…………」

 

 カイエンは、Xiを見た。

 

 Xiも、カイエンを見た。

 

「…………」

 

「…………」

 

 Xiは、少しだけ笑った。

 

「……師匠」

 

「……何だヨ」

 

「……取材、頑張ってね」

 

「オマエも少しは助けろヨ!!」

 

 ネウロが、愉快そうに笑った。

 

「ククク……剣聖の稽古は終わったが、漫画家の取材はこれからが本番らしいな」

 

 カイエンは、思わず叫んだ。

 

「勘弁してくれヨ!!」

 

 その声を聞きながら。

 

 Xiは、少しだけ思った。

 

 ……今日の稽古で、自分は確かに少し成長した。

 

 だが。

 

 カイエン師匠の方は、これから別の試練に挑むことになるらしい。

 

 それは、剣ではどうにもならない戦い。

 

 岸辺露伴という、漫画家の果てしない好奇心との戦いだった。

 

 ……そして。

 

 その戦いは、まだ初日だった。

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