守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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会津合宿編 その3

◆ 剣聖の稽古の後は

 

 福島県会津若松市、芦ノ牧温泉。

 

 大川の河原で行われた、怪物強盗Xiの剣術稽古。

 

 初日から剣聖ダグラス・カイエンによる本格的な指導が行われ、Xiは足場の悪い場所での立ち回りや、相手の動きを誘導する技術を学んだ。

 

 その途中。

 

 カイエンが、うっかりMBT(マキシマム・バスター・タイフォーン)を披露しかけるという、恐ろしい出来事もあった。

 

 幸い、アウクソーの制止によって未遂に終わったが。

 

 その時の掛け声だけは、ある一匹のドラゴンにしっかりと記憶されてしまったらしい。

 

「ろっくんろーる!!」

 

「……すえぞう」

 

 旅館へ戻ったXiは、呆れたように笑った。

 

「まだ言ってるの?」

 

「うっす!」

 

「……本当に気に入ったんだね」

 

 すえぞうは、得意げに胸を張っている。

 

 その横では、カイエンが苦笑していた。

 

「ハハッ! 元気でいいじゃねぇかヨ」

 

「……師匠」

 

「何だ?」

 

「次からは、変な掛け声を覚えさせないでね」

 

「オレだって、教えたつもりはねぇヨ!!」

 

 そんな二人を見ながら、ソープが楽しそうに笑っていた。

 

「でも、今日のXiはなかなか良かったね!」

 

「……本当?」

 

「うん。最初より、ずっと足運びが安定してたよ」

 

 カイエンも、頷いた。

 

「ま、初日としては悪くねぇナ」

 

「……ありがとう」

 

 Xiは、少し照れくさそうに笑った。

 

 そして。

 

「……でも、疲れたなぁ」

 

 そう言って、大きく伸びをした。

 

 慣れない砂利の上で何度も踏み込んだため、足腰には普段と違う疲労が残っている。

 

 すると。

 

「Xiくーん!」

 

 桂木弥子が、嬉しそうに声を掛けてきた。

 

「……何?」

 

「そろそろ夕食ですよ!」

 

「……ああ、ビュッフェだっけ」

 

「はい!!」

 

 弥子の目が輝いていた。

 

「すっごく楽しみです!!」

 

「…………」

 

 Xiは、少し考えた。

 

「……弥子ちゃん」

 

「はい?」

 

「……お昼、カツ丼九杯食べたよね?」

 

「はい!」

 

「……もう、お腹空いたの?」

 

 弥子は、きょとんとした。

 

「……え?」

 

 そして、当然のように答えた。

 

「だって、お昼は腹八分目にしておきましたから!」

 

「…………」

 

 Xiは、目を閉じた。

 

「……そうだったね」

 

 遠くで、キラ・ヤマト准将が静かに頭を抱えていた。

 

◆ ビュッフェ、開幕!

 

 午後六時。

 

 旅館の夕食会場には、さまざまな料理が並んでいた。

 

 会津の郷土料理。

 

 地元の食材を使った煮物や焼き物。

 

 天ぷら、肉料理、魚料理。

 

 そして、色とりどりのデザート。

 

 広い食事会場の一角に、一行の席が用意されていた。

 

「……わぁ!」

 

 弥子が、感嘆の声を上げた。

 

「すごい! 美味しそうなお料理がいっぱい!!」

 

 ラキシスも、嬉しそうに微笑む。

 

「まあ……素敵ですね」

 

 ラクス・クラインも、料理を眺めながら頷いた。

 

「いろいろなお料理を少しずついただけるのが、嬉しいですわね」

 

 その横で。

 

「ゴハン!!」

 

 すえぞうが、元気よく鳴いた。

 

「はいはい。すえぞうの分も用意しましょうね」

 

 ラキシスが、優しく声を掛けた。

 

 宿側と事前に相談したとおり、すえぞうは他のお客様の邪魔にならない専用の場所で食事をする。

 

 料理も、ラキシスたちが取り分けて運ぶことになっていた。

 

 ……もっとも。

 

「……姫様」

 

 Xiが、少し心配そうに尋ねた。

 

「すえぞう、昼にカツ丼六杯食べたんですよね?」

 

「ええ」

 

「……夕食、大丈夫かな」

 

 ラキシスは、にっこり笑った。

 

「ふふ。ご心配なく。すえぞうは元気ですよ」

 

「……いや、食べられるかどうかより、どのくらい食べるかが……」

 

 そこへ、弥子が大皿を持って戻ってきた。

 

「じゃーん!!」

 

「…………」

 

 Xiが、目を瞬かせた。

 

 皿の上には、料理が山のように盛り付けられていた。

 

「……弥子ちゃん」

 

「はい?」

 

「……それ、何人分?」

 

「私の分です!」

 

「そうだよね!!」

 

 カイエンが、愉快そうに笑った。

 

「ハハッ! 豪快だナ!」

 

 ソープも、にこにこしている。

 

「美味しそうだねぇ!」

 

 弥子は、嬉しそうに頷いた。

 

「はい! いろいろ取ってきちゃいました!」

 

 その隣で、ラキシスも戻ってくる。

 

 こちらは上品に料理を盛り付けた皿を、いくつか手にしていた。

 

「ふふ。どれも美味しそうですね」

 

「……姫様」

 

「はい?」

 

「……それ、全部?」

 

「ええ。まずは、こちらからいただこうかと」

 

「…………」

 

 Xiは、ソープを見た。

 

「……陛下」

 

「何?」

 

「……姫様、本当によく食べるんだね」

 

「うん!」

 

 ソープは、嬉しそうに笑った。

 

「ラキシス、美味しいものが大好きだからね!」

 

「…………」

 

 Xiは、少し考えた。

 

「……そういえば、コーラス王国でも山盛りのフローズンヨーグルトを食べてたって……」

 

 ラキシスが、くすっと笑った。

 

「まあ。よくご存じですね」

 

 カイエンが、にやりと笑った。

 

「あの時は、クリサリスが姫様を『単なるおまけ』なんて紹介したんだったかナ」

 

「ふふ。そんなこともありましたね」

 

 Xiは、呆れたように笑った。

 

「……なんというか、姫様らしいなぁ」

 

 ラキシスは、上品に微笑んだ。

 

「では、いただきましょうか」

 

 一同も、頷いた。

 

「いただきます!」

 

 こうして。

 

 十二名とドラゴン一匹による、夕食ビュッフェが始まった。

 

◆ 料理人たちの新たな試練

 

 最初のうちは、何の問題もなかった。

 

 料理を選び、席へ戻り、楽しく会話しながら食事をする。

 

「……あ、この煮物、美味しいね」

 

 Xiが、嬉しそうに言った。

 

 カイエンも頷いた。

 

「おう。味がよく染みてるナ」

 

 ソープは、会津の郷土料理に興味津々だった。

 

「へぇ。こづゆっていうんだね」

 

 ラクスが、微笑みながら答える。

 

「ええ。会津の伝統的なお料理だそうですわ」

 

「なるほど。こういう料理も面白いねぇ」

 

 露伴は、早速メモを取っていた。

 

「……なるほど。土地の食文化が、料理の構成に表れているわけか」

 

 泉京香も、嬉しそうに頷いた。

 

「先生、これなら観光取材として使えそうですね!」

 

「当然だろう」

 

 そう言いながら、露伴も料理を口に運ぶ。

 

「……うん。なかなか旨いじゃあないか」

 

 ネウロは、そんな一同を眺めていた。

 

「ククク……人間は、実に食事というものに執着するな」

 

 弥子が、すかさず言った。

 

「美味しいんだから当たり前でしょ!」

 

「貴様は、その中でも特に異常だがな」

 

「何よ!!」

 

 ……と。

 

 そこまでは、いつもの食事風景だった。

 

 しかし。

 

 夕食開始から、しばらくすると。

 

「……あれ?」

 

 キラが、少し不思議そうに周囲を見回した。

 

 弥子が、再び料理を取りに行っている。

 

 ラキシスも、ソープと一緒に料理を選んでいる。

 

 すえぞうは、ラキシスが運んできた料理を嬉しそうに食べていた。

 

「ウマイ!!」

 

 ぱくっ。

 

 むしゃむしゃ。

 

「モット!!」

 

 その横で、弥子が料理を追加する。

 

「すみませーん! この天ぷら、もう少しいただいてもいいですか?」

 

「はい、どうぞ!」

 

「ありがとうございます!」

 

 少し離れたところでは、ラキシスが新しい皿を手にしていた。

 

「ソープ様、こちらのお料理も美味しそうですね」

 

「うん。食べてみようよ!」

 

「はい!」

 

 キラは、しばらく黙っていた。

 

「…………」

 

 そして、静かに呟いた。

 

「……あれ?」

 

 ラクスが、振り向く。

 

「どうなさいました、キラ?」

 

「……料理の減るのが、少し早い気がして……」

 

 ラクスは、会場を見た。

 

 スタッフが、料理を補充している。

 

 その補充された料理が、次々と皿に盛られていく。

 

「…………」

 

 ラクスは、少し微笑んだ。

 

「……皆さん、とても美味しく召し上がっていらっしゃいますものね」

 

「……うん」

 

 キラは、頷いた。

 

「……そうだね」

 

 そして、思い出した。

 

 この食事は、定額のビュッフェである。

 

 追加注文による会計の心配は、基本的にない。

 

「…………」

 

 キラは、ほっと息を吐いた。

 

「……良かった」

 

 Xiが、首を傾げた。

 

「……何が?」

 

「……今日は、食数を計算しなくていいんだ」

 

「…………」

 

 Xiは、少し考えた。

 

 そして。

 

「キラ!! もう仕事のことは忘れて食べようよ!!」

 

「……うん」

 

 キラは、苦笑した。

 

「……そうするよ」

 

 その時。

 

 弥子が、満面の笑みで戻ってきた。

 

「キラさん! あっちのお料理、すっごく美味しいですよ!」

 

「……あ、うん」

 

「ぜひ食べてみてください!」

 

 キラは、少し笑った。

 

「……ありがとう、弥子さん」

 

 その様子を見ていたラクスも、嬉しそうに微笑んでいた。

 

 料理の補充に追われるスタッフたちも、忙しくはあったが、食べ残しを出さずに美味しそうに食べてくれる一行の姿を、好意的に見守っていた。

 

 ……ただし。

 

 キッチンでは、少しだけ補充のペースが上がっていたらしい。

 

◆ お腹いっぱい、ではなかった

 

 食事を終えた一行は、満足そうに席を立った。

 

「……はぁ」

 

 Xiが、椅子にもたれた。

 

「……美味しかったね」

 

 キラも、頷いた。

 

「うん。とても美味しかった」

 

 カイエンは、満足そうに伸びをした。

 

「いい飯だったナ!」

 

 ソープも、にこにこしている。

 

「うん! 温泉旅行っていいねぇ!」

 

 ラキシスも、上品に微笑んだ。

 

「ふふ。とても素敵なお食事でした」

 

 その横で。

 

「ごちそうさまでしたぁ!!」

 

 弥子が、元気よく手を合わせた。

 

 Xiは、少し安心した。

 

「……弥子ちゃん、満足した?」

 

「はい!」

 

「……良かった」

 

 すると、弥子が続けた。

 

「でも、デザートも美味しそうでしたね!」

 

「…………」

 

 Xiが、固まった。

 

「……え?」

 

「あとで、もう少しいただこうかなって!」

 

「まだ食べるの?!」

 

 弥子は、きょとんとした。

 

「……え?」

 

「……いや、もういいよ」

 

 Xiは、深いため息をついた。

 

 その横で。

 

 ラキシスも、ソープへ話しかけていた。

 

「ソープ様、デザートのところに果物もありましたね」

 

「うん。美味しそうだったね!」

 

「ふふ。では、少しいただいてまいります」

 

「行ってらっしゃい!」

 

 Xiは、二人を見た。

 

「…………」

 

 そして。

 

「……キラ」

 

「……何?」

 

「……昼のカツ丼三十杯って、実は大したことなかったのかもしれないね」

 

「…………」

 

 キラは、静かに首を振った。

 

「……いや」

 

「……うん?」

 

「大したことはあると思うよ……」

 

 Xiは、頷いた。

 

「……そうだね」

 

 その時。

 

「ゴハン!!」

 

 すえぞうが、元気よく鳴いた。

 

 Xiは、すえぞうを見た。

 

「……君も、まだ食べるの?」

 

「ウマイ!!」

 

「……そうかぁ」

 

 もはや、何も言えなかった。

 

◆ 温泉は、やっぱりいい

 

 夕食を終えた一行は、しばらく休憩した後、それぞれ温泉へ向かった。

 

 男性陣は、大浴場へ。

 

 広々とした湯船の向こうには、夜の渓谷が見えていた。

 

「……はぁぁぁ……」

 

 Xiは、湯船に肩まで浸かった。

 

「……気持ちいい……」

 

 カイエンが、隣で笑った。

 

「ハハッ! 稽古の後の温泉は格別だろ?」

 

「……うん」

 

 Xiは、ゆっくりと息を吐いた。

 

「……疲れが抜けていく感じがする」

 

 ソープも、嬉しそうに頷いた。

 

「うん! やっぱり温泉はいいねぇ!」

 

 キラも、少し離れたところで湯に浸かっていた。

 

「……ふぅ」

 

 その表情は、今日初めて見るほど穏やかだった。

 

 Xiが、声を掛けた。

 

「……キラ」

 

「……何?」

 

「……少しは休めた?」

 

「……うん」

 

 キラは、微笑んだ。

 

「……やっぱり、温泉っていいね」

 

「……そうだね」

 

 しばらく、静かな時間が流れた。

 

 ところが。

 

「……ところで、カイエン」

 

 聞き覚えのある声が響いた。

 

 岸辺露伴である。

 

「…………」

 

 カイエンが、ゆっくりと振り向いた。

 

「……何だヨ」

 

 露伴は、真剣な表情だった。

 

「さっきの稽古で、相手にわざと隙を見せていたな?」

 

「……ああ」

 

「その時、相手がどの程度の速度で反応するかも計算していたのか?」

 

「…………」

 

 Xiは、思わず目を閉じた。

 

「……先生」

 

「何だ?」

 

「……今は温泉だから」

 

 露伴は、当然のように答えた。

 

「だから何だ?」

 

「…………」

 

 カイエンが、深いため息をついた。

 

「……おい、露伴」

 

「何だ?」

 

「風呂に入ってる時くらい、取材は休めヨ!!」

 

 露伴は、少し不満そうだった。

 

「おいおいおいおい! 貴重な取材対象が目の前にいるんだぞ? 疑問が浮かんだら質問するのが当然だろう!」

 

「当然じゃねぇヨ!!」

 

 ネウロが、愉快そうに笑った。

 

「ククク……剣聖も、漫画家の好奇心には苦労するようだな」

 

 カイエンが、じろりと睨んだ。

 

「……テメェも少しは止めろヨ」

 

「なぜ止める必要がある?」

 

「おい!!」

 

 Xiは、湯船の中で深いため息をついた。

 

 ……この二人と同じ部屋で二泊三日。

 

 カイエン師匠は、本当に大丈夫なのだろうか。

 

◆ 女湯では、姉妹たちが

 

 一方。

 

 女性陣も、温泉を楽しんでいた。

 

「……はぁぁ……」

 

 弥子が、満足そうに息を吐く。

 

「気持ちいいですねぇ……!」

 

 泉京香も、嬉しそうに頷いた。

 

「本当に! こういう温泉旅行って、いいですね!」

 

 ラクスも、微笑んでいた。

 

「ええ。皆さんとご一緒できて、嬉しいですわ」

 

 ラキシスは、静かに湯に浸かりながら、窓の向こうを眺めていた。

 

「……素敵な景色ですね」

 

 その隣では、アウクソーとバクスチュアルも、ゆっくりと寛いでいる。

 

「バクスチュアル姉様」

 

 ラキシスが、優しく声を掛けた。

 

「……ウン?」

 

「Xiさん、今日のお稽古、とても頑張っていらっしゃいましたね」

 

「ウン」

 

 バクスチュアルは、頷いた。

 

「Xiサン。少シ、上達シタ」

 

 アウクソーも、穏やかに微笑んだ。

 

「ええ。マスターも、最後はとても満足そうでした」

 

 ラキシスが、くすっと笑った。

 

「……途中、少し危ないところもありましたけれど」

 

「……はい」

 

 アウクソーは、少し困ったような笑みを浮かべた。

 

「マスターが張り切りすぎてしまわれましたので」

 

 ラクスが、微笑みながら言った。

 

「でも、アウクソーさんが止めてくださって良かったですわ」

 

「ありがとうございます」

 

 ラキシスは、改めてアウクソーへ向き直った。

 

「アウクソー姉様、いつもありがとうございます」

 

 アウクソーは、静かに首を振った。

 

「いえ。マスターのお側に仕える者として、当然のことです」

 

 その横で。

 

「……それにしても」

 

 泉が、少し不思議そうに言った。

 

「Xiさん、すごい方々に稽古をつけてもらってるんですね」

 

 ラクスが、頷いた。

 

「ええ。とても貴重な機会だと思います」

 

 ラキシスも、微笑んだ。

 

「ふふ。ソープ様も、Xiさんの成長を楽しみにしていらっしゃいますから」

 

 バクスチュアルが、小さく頷いた。

 

「Xiサン。自分デ、決メタ」

 

「……ええ」

 

 ラキシスは、優しく微笑んだ。

 

「そうですね」

 

「ダカラ、私モ、支エル」

 

 その言葉に、ラクスも静かに頷いた。

 

「……素敵ですわね」

 

 しばらく、穏やかな時間が流れた。

 

 ところが。

 

「……そういえば!」

 

 弥子が、ぱっと顔を上げた。

 

「明日のお昼も楽しみですね!」

 

「……え?」

 

 泉が、目を瞬かせた。

 

「……弥子ちゃん?」

 

「はい!」

 

「……まだ、食事の話?」

 

「だって、明日はお蕎麦ですよ!」

 

 ラクスが、微笑んだ。

 

「ふふ。そうでしたわね」

 

 弥子は、嬉しそうに続けた。

 

「会津って、お蕎麦もすっごく美味しいんですよ!」

 

 ラキシスも、興味深そうに頷いた。

 

「まあ。楽しみですね」

 

 泉は、少し考えた。

 

「……でも弥子ちゃん」

 

「はい?」

 

「……今日、カツ丼九杯食べたんだよね?」

 

「はい!」

 

「……それで、夕食もあれだけ食べて……」

 

「はい!」

 

「……明日のお昼も?」

 

 弥子は、満面の笑みだった。

 

「もちろんです!!」

 

「…………」

 

 泉は、静かに湯船へ沈み込んだ。

 

「……すごいなぁ……」

 

 その隣では、ラキシスが嬉しそうに微笑んでいた。

 

「ふふ。私も、明日が楽しみです」

 

 アウクソーは、少しだけ苦笑した。

 

 ……明日の昼食も、どうやら賑やかになりそうだった。

 

◆ 温泉卓球、開幕!

 

 入浴を終えた一行は、旅館の娯楽スペースへ集まっていた。

 

 そこには。

 

 卓球台があった。

 

「……おっ!」

 

 カイエンが、嬉しそうに声を上げた。

 

「温泉卓球かヨ!」

 

 ソープも、楽しそうに笑った。

 

「いいねぇ!」

 

 Xiは、少し不安になった。

 

「……師匠」

 

「何だヨ?」

 

「……普通の卓球だからね?」

 

「分かってるヨ!」

 

「……ビームとか出さないでね?」

 

「出さねぇヨ!!」

 

「……必殺技とかも……」

 

「卓球だろうが!」

 

「……うん」

 

 Xiは、少し安心した。

 

 すると。

 

「はい!」

 

 弥子が、元気よく手を挙げた。

 

「せっかくだから、ちょっと面白いことしませんか?」

 

「……何?」

 

 Xiが、首を傾げる。

 

 弥子は、にっこり笑った。

 

「最初の試合、勝った方には、ほっぺにチューしてあげる!!」

 

「…………」

 

 その瞬間。

 

 カイエンの表情が変わった。

 

「……ほう?」

 

「…………」

 

 Xiが、ゆっくりと振り向いた。

 

「……師匠?」

 

 カイエンは、ラケットを手に取った。

 

「……よし」

 

「……え?」

 

「オレも本気で行くゼ!!」

 

「師匠ォォォ!!」

 

 キラが、慌てて声を上げた。

 

「カイエンさん! あくまで普通の卓球ですからね!」

 

「分かってるヨ!」

 

 アウクソーが、静かに口を開いた。

 

「マスター。くれぐれも、大人げないことはなさらないでくださいね」

 

「……おう!」

 

 ネウロが、愉快そうに笑った。

 

「ククク……頬への接吻一つで、剣聖の闘争心に火がついたか」

 

 露伴は、既にスケッチブックを開いていた。

 

「……ほう。これは面白くなりそうだな」

 

 Xiは、頭を抱えた。

 

「……なんで、こうなるんだよ……」

 

◆ ミラー・アタック!

 

 第一試合。

 

 怪物強盗Xi対、剣聖ダグラス・カイエン。

 

 審判は、キラ・ヤマト准将。

 

「……それでは、試合開始です」

 

 キラが、宣言した。

 

 Xiは、ラケットを構えた。

 

「……師匠、手加減してよ?」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「ハハッ! 勝負に手加減なんざねぇヨ!」

 

「……いや、温泉卓球だからね?」

 

「……行くゼ!」

 

 カイエンが、サーブを打った。

 

 かこんっ!

 

 Xiは、ラケットを動かす。

 

 ぱこんっ!

 

 球は、相手コートへ返った。

 

「……よし!」

 

 ところが。

 

 カイエンの姿勢が、わずかに変わった。

 

「……まずは」

 

 その瞬間。

 

 ラケットの軌道が、左右に分かれたように見えた。

 

カイエン「ミラー!!」

 

 ぱこんっ!!

 

「……えっ?!」

 

 Xiには、一瞬、二つの球筋が見えた。

 

 右か。

 

 左か。

 

 どちらへ打ち返すべきか、判断が遅れる。

 

 こんっ!

 

 球が、Xiの横を抜けた。

 

「……あっ!」

 

 カイエンが、笑った。

 

「一本だナ!」

 

「ミラー?! 卓球で?!」

 

 キラが、思わず立ち上がった。

 

「……カイエンさん?!」

 

 しかし、カイエンは止まらなかった。

 

「……まだまだ!」

 

 次のラリー。

 

 Xiが、打球を返す。

 

 その瞬間。

 

 カイエンの姿が、二つ、三つと重なって見えた。

 

「……?!」

 

カイエン「パラレル・アタック!!」

 

 しゅばばっ!!

 

 無数の残像。

 

 Xiの目には、カイエンが複数の方向からラケットを振っているように映った。

 

「分身したァァァ?!」

 

 こんっ!

 

 球は、Xiの予想とは逆の方向へ。

 

「……うわっ?!」

 

 カイエンは、得意そうだった。

 

「ハハッ! まだまだだナ!」

 

 Xiは、ラケットを握り直した。

 

「……師匠!」

 

「何だヨ?」

 

「それ、剣聖剣技でしょ?!」

 

「……だから何だヨ?」

 

「卓球で使うなァァァ!!」

 

 だが。

 

 カイエンは、まだ満足していなかった。

 

「……じゃあ、最後はこれだナ」

 

 Xiが、嫌な予感を覚えた。

 

「……え?」

 

 カイエンが、ラケットを構えた。

 

 球が、ゆっくりと近づく。

 

 Xiは、そのタイミングに合わせて構えた。

 

 しかし。

 

 カイエンは、打たなかった。

 

「……え?」

 

 一瞬の間。

 

 そして、予想より遅いタイミングで、ラケットが動く。

 

カイエン「ディレイ・アタック!!」

 

 ぱこんっ!!

 

 球が、絶妙なコースへ飛んだ。

 

「……あっ!!」

 

 Xiは、反応できなかった。

 

 こんっ!

 

 球が、卓球台の端へ落ちる。

 

 カイエンは、ラケットを掲げた。

 

「……決まったナ!」

 

「…………」

 

 Xiが、固まった。

 

 キラも、固まった。

 

 そして。

 

キラ「そこの剣聖!! 剣聖剣技禁止です!! やりすぎ!!」

 

カイエン「何だヨ!!」

 

キラ「普通の温泉卓球をしてください!!」

 

カイエン「超能力もスタンドも使ってねぇだろうがヨ!」

 

Xi「そういう問題じゃない!!」

 

 露伴が、腹を抱えて笑っていた。

 

「おいおいおいおい!! ハハハハッ!!」

 

 泉が、慌てて声を掛ける。

 

「露伴センセ! 笑ってる場合じゃありません!」

 

露伴「いや、面白い! 卓球に剣聖剣技を持ち込むとはね!」

 

 ネウロも、愉快そうに笑った。

 

「ククク……接吻欲しさに分身攻撃か。星団最強の騎士も、ずいぶん俗物らしいな」

 

 カイエンが、じろりと睨んだ。

 

「テメェ!!」

 

 その横で。

 

 アウクソーが、静かに告げた。

 

「……マスター」

 

「……ん?」

 

「大人げありません」

 

「…………」

 

 カイエンが、固まった。

 

「……アウクソー?」

 

「お昼の稽古で、Xiさんに何を教えられたのですか?」

 

「…………」

 

 Xiが、ぱっと顔を上げた。

 

「……そうだよ!」

 

 そして、カイエンを指さした。

 

「師匠!! 強い技を使えることと、使うべきか判断することは別だって言ったでしょ?!」

 

「…………」

 

 カイエンは、少し考えた。

 

「……あ」

 

「『あ』じゃないよ!!」

 

 ソープは、楽しそうに笑った。

 

「ハハッ! 今のはXiの言う通りだね!」

 

 カイエンは、少し不満そうだった。

 

「……ちぇっ」

 

 キラが、きっぱりと宣言した。

 

「剣聖剣技を使ったポイントは無効! 試合は一度仕切り直します!」

 

「……分かったヨ」

 

 弥子も、頷いた。

 

「そうですよ! ちゃんと普通に勝ってくださいね!」

 

 カイエンは、ラケットを握り直した。

 

「……へいへい」

 

 そして。

 

「……じゃあ、普通にやるかナ」

 

 Xiは、深いため息をついた。

 

「最初からそうしてよ!!」

 

◆ 剣聖、普通に強い

 

 試合は、再開された。

 

 今度は、剣聖剣技禁止。

 

 分身も、分離攻撃も、遅延攻撃もなし。

 

 普通の卓球である。

 

「……よし!」

 

 Xiが、サーブを打った。

 

 こんっ。

 

 カイエンが、軽く返す。

 

 ぱこんっ。

 

 Xiも、返した。

 

 こんっ。

 

 穏やかなラリーが続く。

 

「……うん」

 

 Xiは、少し安心した。

 

「これなら……」

 

 ところが。

 

 カイエンが、ほんの少し身体を動かした。

 

「……!」

 

 Xiは、反射的に逆方向へ移動する。

 

 その瞬間。

 

 かこんっ!

 

 球は、Xiのいない側へ。

 

「……あっ!」

 

 一本。

 

 カイエンが、にやりと笑った。

 

「……どうだ?」

 

 Xiは、目を瞬かせた。

 

「……師匠」

 

「何だヨ?」

 

「……今の」

 

 少し考えた。

 

「……わざと逆方向へ動くように誘った?」

 

 カイエンは、嬉しそうに笑った。

 

「……おう!」

 

「…………」

 

「気づいたか?」

 

「……うん」

 

 Xiは、ラケットを握り直した。

 

「……今日、河原で教わったことだね」

 

「そうだヨ」

 

 カイエンは、笑った。

 

「分身もしてねぇし、変な技も使ってねぇゼ?」

 

 キラも、頷いた。

 

「……それは、普通の卓球の範囲ですね」

 

 Xiは、少し悔しそうに笑った。

 

「……なら、もう一回!」

 

「おう! 来いヨ!」

 

 そして。

 

 今度は、Xiが少しだけ身体の向きを変えた。

 

 カイエンが、反応する。

 

 その瞬間。

 

 こんっ!

 

 球は、空いた側へ。

 

「……おっ?!」

 

 カイエンが、少し驚いた。

 

 一本。

 

 Xiが、嬉しそうに声を上げた。

 

「……やった!」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「……ハハッ!」

 

「……師匠?」

 

「なかなかやるじゃねぇかヨ!!」

 

 Xiは、少し照れくさそうに笑った。

 

「……ありがとう」

 

 その様子を見ていたソープも、嬉しそうだった。

 

「うん。ちゃんと稽古の成果が出てるね!」

 

 アウクソーも、穏やかに頷く。

 

「はい。相手の動きをよく見ています」

 

 バクスチュアルも、小さく頷いた。

 

「Xiサン。上達」

 

「……うん!」

 

 Xiは、嬉しそうに笑った。

 

 ……もっとも。

 

 試合そのものは、最後にはカイエンが勝利した。

 

 普通に打っても、剣聖は十分強かったのである。

 

「……ふぅ!」

 

 カイエンが、ラケットを下ろした。

 

「……いい勝負だったナ!」

 

 Xiも、頷いた。

 

「……うん。楽しかった!」

 

 そして。

 

 弥子が、にっこり笑った。

 

「じゃあ、カイエンさん!」

 

「……おっ!」

 

 カイエンが、ぱっと顔を上げた。

 

「……ほっぺにチューか?」

 

 弥子は、少し考えた。

 

「……あ」

 

 そして。

 

「最初の試合は反則だったので、ご褒美はなしです!」

 

「…………」

 

 カイエンが、固まった。

 

「……何ィィィ?!」

 

 Xiが、思わず笑った。

 

「当然だよ、師匠!!」

 

 ネウロも、愉快そうに笑った。

 

「ククク……結局、何も得られなかったか」

 

 カイエンは、ラケットを握りしめた。

 

「だったら、最初から普通にやりゃ良かったじゃねぇかヨ!!」

 

 アウクソーが、静かに答えた。

 

「……マスター」

 

「……何だ?」

 

「その通りです」

 

「…………」

 

 露伴が、大笑いした。

 

「おいおいおいおい!! ハハハッ!!」

 

 星団最強の剣聖。

 

 今回もまた、日常の些細な勝負で酷い目に遭ったのだった。

 

◆ ソープ様とラキシス姫様

 

「じゃあ、次は僕たちがやろうか!」

 

 ソープが、楽しそうにラケットを手に取った。

 

 ラキシスも、嬉しそうに微笑む。

 

「はい、ソープ様」

 

 Xiは、少し安心した。

 

「……この二人なら、平和な試合になりそうだね」

 

 キラも、頷いた。

 

「……そうだね」

 

 試合開始。

 

 こんっ。

 

 こんっ。

 

 こんっ。

 

 ソープとラキシスのラリーは、実に穏やかだった。

 

「ラキシス、上手いねぇ!」

 

「ふふ。ソープ様こそ」

 

 こんっ。

 

 ラキシスの打球が、ソープの横を抜ける。

 

「あっ!」

 

 ソープが、嬉しそうに笑った。

 

「やられちゃった!」

 

 ラキシスも、楽しそうだった。

 

「ふふ。一点いただきました」

 

 Xiは、微笑んだ。

 

「……いいねぇ。こういうのが普通の温泉卓球だよ」

 

 キラも、頷いた。

 

「うん」

 

 その時。

 

 カイエンが、二人を見ながら口を開いた。

 

「……おい、ソープ」

 

「……ん?」

 

「……オマエ、ちっと手ぇ抜いてねぇか?」

 

「…………」

 

 ソープが、目を瞬かせた。

 

「……そう?」

 

「……おう」

 

 ラキシスも、少し首を傾げた。

 

「ソープ様?」

 

「……何?」

 

「私にも、きちんと勝負してくださいませ」

 

「……うん」

 

 ソープは、少し考えた。

 

 そして、にっこり笑った。

 

「……分かった!」

 

 ラケットを構え直す。

 

 その瞬間。

 

 Xiが、少し身構えた。

 

「…………」

 

 キラも、緊張した。

 

「…………」

 

 カイエンが、楽しそうに笑った。

 

「……おっ!」

 

 次のラリー。

 

 ソープが、正確な返球を放つ。

 

 こんっ!

 

 しかし。

 

 ラキシスは、涼しい顔でラケットを動かした。

 

 ぱこんっ!

 

「……あっ?!」

 

 球は、ソープの予想とは違う場所へ。

 

 ラキシスが、微笑んだ。

 

「ふふ。もう一点ですね」

 

 ソープは、目を丸くした。

 

「……ラキシス、上手いねぇ!」

 

「ありがとうございます、ソープ様」

 

 Xiは、呆然としていた。

 

「……陛下が、普通に負けてる……」

 

 カイエンが、大笑いした。

 

「ハハッ! 姫様もやるじゃねぇかヨ!」

 

 その後も、試合は続いた。

 

 ソープが鋭く打てば、ラキシスが巧みに返す。

 

 ラキシスが意表を突けば、ソープが楽しそうに笑う。

 

 そして。

 

 最後の一点を取ったのは、ラキシスだった。

 

「……あっ!」

 

 ソープが、球を見送った。

 

「負けちゃった!」

 

 ラキシスが、嬉しそうに微笑んだ。

 

「ふふ。勝ってしまいました」

 

「うん! ラキシス、すごいね!」

 

「ありがとうございます、ソープ様」

 

 二人は、楽しそうに笑っていた。

 

 Xiは、少し考えた。

 

「……なんか、あの二人」

 

 キラが、首を傾げた。

 

「……うん?」

 

「勝ち負けとか、あんまり関係ないんだね」

 

 キラは、微笑んだ。

 

「……そうだね」

 

 その時。

 

 ソープが、ラキシスに近づいた。

 

「……頑張ったね!」

 

 そして。

 

 ちゅっ。

 

 ラキシスの頬へ、軽くキスをした。

 

「……!」

 

 ラキシスは、嬉しそうに微笑んだ。

 

「……ありがとうございます、ソープ様」

 

 Xiが、目を丸くした。

 

「あっ!!」

 

 カイエンも、振り向いた。

 

「……おっ?」

 

 Xiは、二人を指さした。

 

「姫様、普通にご褒美もらってる!!」

 

 ソープは、不思議そうに首を傾げた。

 

「……駄目だった?」

 

「駄目じゃないけど!!」

 

 カイエンが、少し不満そうに呟いた。

 

「……なんだヨ。オレだけ何もねぇじゃねぇか……」

 

 ネウロが、愉快そうに笑った。

 

「ククク……自業自得だな」

 

「テメェ!!」

 

◆ キラとラクスの勝負

 

「……では」

 

 ラクスが、にっこり微笑んだ。

 

「今度は、私たちもいかがでしょう?」

 

 キラが、振り向いた。

 

「……え?」

 

「キラ。私と、卓球をしていただけます?」

 

「……ラクスと?」

 

「はい」

 

 キラは、少し考えた。

 

 そして、微笑んだ。

 

「……うん。いいよ」

 

 Xiが、嬉しそうに頷いた。

 

「……いいね!」

 

 カイエンも、笑った。

 

「ハハッ! 次はキラかヨ!」

 

 キラは、少し苦笑した。

 

「……普通の卓球ですからね?」

 

「分かってるヨ!」

 

「……カイエンさんじゃなくて、僕の試合なんですけど」

 

「ハハッ!」

 

 試合開始。

 

 こんっ。

 

 こんっ。

 

 こんっ。

 

 キラは、ラクスの打球を丁寧に返していた。

 

「……ラクス、上手いね」

 

「ふふ。キラこそ」

 

 穏やかなラリーが続く。

 

 ところが。

 

 ラクスが、少しだけ強く打ち返した。

 

 こんっ!

 

「……あっ!」

 

 キラの返球が、ネットに引っ掛かった。

 

 ラクスが、嬉しそうに微笑む。

 

「一点、いただきましたわ」

 

 キラも、笑った。

 

「……うん」

 

 その様子を見ていたカイエンが、首を傾げた。

 

「……おい、キラ」

 

「……はい?」

 

「オマエも手ぇ抜いてねぇか?」

 

「……えっ?!」

 

 Xiも、少し考えた。

 

「……ああ、確かに」

 

「……Xi?」

 

「キラ、さっきからラクスさんの打ちやすいところにばっかり返してない?」

 

「…………」

 

 キラは、少し困ったように笑った。

 

「……いや、それは……」

 

 ラクスが、にっこり微笑んだ。

 

「……キラ?」

 

「……何?」

 

「私にも、きちんと勝負してくださいませ」

 

「…………」

 

 キラは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……分かった」

 

 ラケットを構え直した。

 

 その表情が、少しだけ変わった。

 

 戦場で幾度となく危機を乗り越えてきた、キラ・ヤマト。

 

 その集中力と反応速度は、決して並のものではない。

 

 次のラリー。

 

 こんっ!

 

 ラクスの打球。

 

 キラは、素早く反応した。

 

 ぱこんっ!!

 

 鋭い返球。

 

 だが。

 

 ラクスは、既にその方向へ移動していた。

 

 かこんっ!

 

「……えっ?!」

 

 球は、キラのいない場所へ落ちた。

 

「…………」

 

 キラが、目を瞬かせた。

 

「……ラクス?」

 

 ラクスは、楽しそうに微笑んだ。

 

「ふふ」

 

「……今の、読んでた?」

 

「ええ」

 

 ラクスは、頷いた。

 

「キラの動きは、よく存じておりますもの」

 

「…………」

 

 キラは、少し照れくさそうに笑った。

 

「……そっか」

 

 その様子を見ていた露伴が、声を上げた。

 

「おいおいおいおい!!」

 

 泉が、振り向く。

 

「……先生?」

 

「相手の癖を完全に把握しているわけか!」

 

 露伴は、興味深そうに二人を見つめた。

 

「身体能力だけじゃあない。相手をよく知っているからこそ、動きを先読みできる!」

 

 ネウロが、愉快そうに笑った。

 

「ククク……最強のパイロットも、伴侶の前では形無しか」

 

 キラが、少し困ったように笑った。

 

「……参ったなぁ」

 

 ラクスは、にっこり微笑んだ。

 

「まだ試合は終わっておりませんよ、キラ?」

 

「……うん!」

 

 キラも、笑った。

 

「……続けよう!」

 

 その後も、試合は続いた。

 

 キラが素早く動けば、ラクスが先を読む。

 

 ラクスが意表を突けば、キラが反応する。

 

 互いに楽しそうにラケットを振りながら。

 

 最後に勝利したのは、ラクスだった。

 

「……ふぅ」

 

 キラが、少し息を吐いた。

 

「……負けちゃったね」

 

 ラクスは、嬉しそうに微笑んだ。

 

「ふふ。楽しかったですわ、キラ」

 

「……うん。僕も楽しかったよ」

 

 その時。

 

 ラクスが、少し悪戯っぽく微笑んだ。

 

「……ところで、キラ」

 

「……何?」

 

「勝者へのご褒美をいただいてもよろしいでしょうか?」

 

「……ご褒美?」

 

 ラクスは、にっこり笑った。

 

「私にも、頬にキスをいただけます?」

 

「…………」

 

 キラが、固まった。

 

「……えっ?!」

 

 Xiも、目を丸くした。

 

「……ラクスさん?!」

 

 ラクスは、楽しそうに微笑んでいる。

 

「ふふ。駄目ですか?」

 

 キラは、少し顔を赤くした。

 

「……いや、駄目じゃないけど……」

 

 カイエンが、大笑いした。

 

「ハハッ! やってやれヨ、キラ!」

 

 Xiが、慌てて口を挟んだ。

 

「師匠!! 煽らないで!!」

 

 キラは、周囲を見回した。

 

 そして、小さく息を吐いた。

 

「……分かったよ」

 

 ラクスの頬へ、そっと口づける。

 

 ちゅっ。

 

 ラクスは、嬉しそうに微笑んだ。

 

「……ありがとうございます、キラ」

 

 キラも、少し照れくさそうに笑った。

 

「……どういたしまして」

 

 Xiは、静かに二人を見ていた。

 

「…………」

 

 そして。

 

「……なんだろう」

 

 カイエンが、首を傾げた。

 

「……ん?」

 

 Xiは、ぽつりと言った。

 

「あの二組だけ、普通に幸せな温泉旅行になってない?!」

 

 ソープが、嬉しそうに笑った。

 

「僕たちも楽しかったよ!」

 

 ラキシスも、頷いた。

 

「はい、ソープ様」

 

 キラとラクスも、楽しそうに微笑んでいる。

 

 Xiは、深いため息をついた。

 

「……うん。良かったね」

 

 その横で。

 

 カイエンが、少し不満そうに腕を組んでいた。

 

「…………」

 

 ネウロが、にやりと笑う。

 

「ククク……どうした、剣聖?」

 

「……何だヨ」

 

「他の二組は、勝負も楽しみ、報酬まで手に入れたというのに」

 

「…………」

 

「貴様だけは、全力で勝とうとして反則を取られ、何も得られなかったようだな」

 

「…………」

 

 カイエンの額に、青筋が浮かんだ。

 

「テメェ……!!」

 

 Xiが、思わず笑った。

 

「……師匠」

 

「……何だヨ」

 

「……やっぱり、強い技は使いどころを考えないとね」

 

「…………」

 

 カイエンは、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「分かってるってばヨ!!」

 

 一同が、大笑いした。

 

◆ 今日の勝者は

 

 卓球大会を終えた一行は、満足そうに娯楽スペースを後にした。

 

「……はぁ!」

 

 弥子が、楽しそうに伸びをする。

 

「面白かったですねぇ!」

 

 泉も、嬉しそうに頷いた。

 

「本当に! いい思い出になりました!」

 

 露伴は、スケッチブックを眺めながら満足そうだった。

 

「……うん。今日の取材は、なかなか収穫が多かったな」

 

 キラが、少し苦笑した。

 

「……卓球まで取材対象なんですね」

 

 露伴は、当然のように答えた。

 

「面白いことがあれば、何でも資料になるんだよ」

 

 その横で。

 

 すえぞうが、元気よく鳴いた。

 

「ろっくんろーる!!」

 

「…………」

 

 Xiが、ゆっくりと振り向いた。

 

「……すえぞう」

 

「うっす!」

 

「……卓球、楽しかった?」

 

「ウマイ!!」

 

「食べ物じゃないよ!!」

 

 すえぞうは、楽しそうに笑っていた。

 

 ラキシスが、優しく声を掛ける。

 

「ふふ。すえぞうも、楽しかったのですね」

 

「うっす!」

 

 その横で。

 

 ソープが、カイエンへ声を掛けた。

 

「……ねえ、カイエン」

 

「……何だヨ」

 

「明日も卓球しようか?」

 

「…………」

 

 カイエンは、少し考えた。

 

「……そうだナ」

 

 Xiが、嫌な予感を覚えた。

 

「……師匠?」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「今度こそ、普通に勝ってやるゼ!!」

 

「まだ懲りてないの?!」

 

 アウクソーが、穏やかに微笑んだ。

 

「マスター。明日はXiさんの稽古もございますので、ほどほどになさってくださいね」

 

「……分かってるヨ」

 

 バクスチュアルも、小さく頷いた。

 

「休息、必要」

 

「……うん」

 

 Xiは、微笑んだ。

 

「……そうだね」

 

 そして、カイエンを見た。

 

「……師匠」

 

「……ん?」

 

「今日は、ありがとう」

 

「……何だヨ、急に」

 

「……稽古も、卓球も」

 

 Xiは、少し照れくさそうに笑った。

 

「……楽しかったよ」

 

 カイエンは、しばらくXiを見た。

 

 そして。

 

「……ハハッ!」

 

 嬉しそうに笑った。

 

「……そりゃ良かったナ!」

 

 Xiも、笑った。

 

 こうして。

 

 怪物強盗Xiの剣術合宿、初日が終わろうとしていた。

 

 会津の煮込みソースカツ丼。

 

 芦ノ牧温泉。

 

 大川の河原での剣術稽古。

 

 そして、温泉卓球。

 

 楽しい思い出が、次々と積み重なっていく。

 

 ……ただし。

 

 この日の夜。

 

 剣聖ダグラス・カイエンには、まだひとつ仕事が残っていた。

 

 それは。

 

「……ところで、カイエン」

 

 A室へ戻った露伴が、スケッチブックを取り出す。

 

「今日の稽古について、もう少し聞きたいことがあるんだが」

 

「…………」

 

 カイエンは、黙って露伴を見た。

 

「……オイ」

 

「何だ?」

 

「……もう夜だゼ?」

 

 露伴は、当然のように答えた。

 

「だから何だ?」

 

「……明日も稽古があるんだヨ」

 

「分かっている。だから今日のうちに確認しておきたいんじゃあないか」

 

「…………」

 

 カイエンは、深いため息をついた。

 

 その横で、ネウロが愉快そうに笑っていた。

 

「ククク……剣聖の長い夜が始まるようだな」

 

「…………」

 

 カイエンは、静かに呟いた。

 

「……オレ、部屋割り間違えたかナ……」

 

 ……まだ、初日である。

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