守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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会津合宿編 その5

◆ 二日目、剣聖の本領

 

 福島県会津若松市、芦ノ牧温泉。

 

 朝風呂と朝食ビュッフェを満喫した一行は、再び大川の河原へと向かっていた。

 

 怪物強盗Xiの剣術合宿、二日目。

 

 昨日の稽古では、不安定な足場での踏み込み方、重心の置き方、そして相手の動きを誘導する技術を教わった。

 

 今日はいよいよ、その続きである。

 

「……ふぅ」

 

 Xiは、河原へ続く道を歩きながら、軽く肩を回した。

 

「……昨日より、ちょっと筋肉痛があるなぁ」

 

 隣を歩くキラ・ヤマトが、心配そうに尋ねる。

 

「……大丈夫?」

 

「うん。普通に動けるよ」

 

「それなら良かった」

 

 キラは、微笑んだ。

 

「でも、無理はしないでね」

 

「……うん。ありがとう」

 

 その前方では、カイエンがアウクソーと話していた。

 

「……で、今日の足場は?」

 

「昨日と同じ範囲を使えます。ただし、川に近い場所は避けてください」

 

「おう」

 

「それから、マスター」

 

「……何だヨ」

 

「本日も、MBTは禁止です」

 

「分かってるヨ!!」

 

 すかさず。

 

「ろっくんろーる!!」

 

 すえぞうが、元気よく鳴いた。

 

「…………」

 

 カイエンが、振り向いた。

 

「……オイ」

 

 すえぞうは、得意げに胸を張る。

 

「ろっくんろーる!!」

 

 Xiは、ため息をついた。

 

「……師匠」

 

「……何だヨ」

 

「……すっかり覚えちゃったね」

 

「オレが教えたわけじゃねぇって!!」

 

 桂木弥子が、楽しそうに笑った。

 

「でも、すえぞう、すっごく気に入ってますよね!」

 

「うっす!」

 

 ラキシスも、嬉しそうに微笑んでいる。

 

「ふふ。すえぞう、元気ですね」

 

 その横で、ソープがのんびりと言った。

 

「でも、今日は使わないからねぇ」

 

 Xiが、ほっと息を吐く。

 

「……良かった」

 

 すると、カイエンが振り向いた。

 

「……おい、Xi」

 

「……何?」

 

「昨日より、ちっと厳しくやるゼ」

 

 その声は、先ほどまでとは違っていた。

 

 Xiは、顔を上げる。

 

「……うん」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「覚悟しとけヨ」

 

 Xiも、微笑んだ。

 

「……望むところだよ、師匠!」

 

 その様子を見ていたソープが、嬉しそうに頷く。

 

「うん。いいねぇ!」

 

 こうして、一行は河原へと向かった。

 

 ……なお。

 

 昨夜、露伴の取材攻勢で寝不足だったはずのカイエンは、既に普段どおりの足取りだった。

 

 やはり、剣を握るとなれば話は別らしい。

 

◆ 隙を見せるということ

 

 河原には、昨日と同じように、安全な訓練範囲が設けられていた。

 

 川の水位や足場の状態を確認し、見学者たちも少し離れた場所に集まる。

 

 ラキシス、ラクス、弥子、泉京香、キラ、露伴、ネウロ。

 

 すえぞうも、ラキシスの隣で大人しく座っていた。

 

 アウクソーとバクスチュアルは、稽古の安全管理を担当する。

 

 そして、河原の中央。

 

 Xiとカイエンが、木剣を手に向かい合っていた。

 

「……さて」

 

 カイエンは、軽く木剣を振った。

 

「昨日のおさらいだナ」

 

「……うん」

 

「足場を見ろ。間合いを測れ。相手の動きをよく見ろ」

 

「……うん!」

 

「だが、今日はもう一つ教える」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「自分の隙を、どう見せるかだヨ」

 

「…………」

 

 Xiは、首を傾げた。

 

「……隙を見せる?」

 

「おう」

 

「……わざと?」

 

「そうだ」

 

 カイエンは、木剣を構えた。

 

「例えば、こうだナ」

 

 右側の守りを、ほんの少し緩める。

 

 Xiには、そこだけが無防備に見えた。

 

「……あ」

 

 カイエンが、静かに言った。

 

「……斬れると思うか?」

 

 Xiは、少し考えた。

 

「……右側が、空いてる」

 

「おう」

 

「……でも」

 

 Xiは、木剣を握り直した。

 

「……なんか、怪しい」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「ハハッ! そうかヨ」

 

「……うん」

 

「じゃあ、実際にやってみろ」

 

「……分かった」

 

 Xiが、踏み込んだ。

 

 ただし、昨日のように勢い任せではない。

 

 まず足元を確かめ、安定した位置へ足を運ぶ。

 

 そのうえで、カイエンの右側へ木剣を伸ばした。

 

 ……その瞬間。

 

 すっ。

 

 カイエンの身体が、わずかに動いた。

 

「……!」

 

 Xiの木剣が、空を切る。

 

 そして。

 

 こつん。

 

 カイエンの木剣が、Xiの肩へ軽く触れた。

 

「……一本だナ」

 

「……くっ!」

 

 Xiは、悔しそうに顔をしかめた。

 

「……やっぱり!」

 

 カイエンが、笑った。

 

「そうだ。わざと見せた隙だヨ」

 

「……うん」

 

「オマエがそこを狙うと思って、待ってたんだ」

 

 Xiは、考え込んだ。

 

「……でも、師匠」

 

「何だ?」

 

「……本当に隙がある場合もあるよね?」

 

 カイエンは、嬉しそうに笑った。

 

「いい質問だナ!」

 

「……え?」

 

「そうだ。全部が罠ってわけじゃねぇ」

 

 カイエンは、木剣を軽く持ち上げた。

 

「だから難しいんだヨ」

 

「…………」

 

「本当に斬れる時と、斬れるように見せられてる時。それを見分けなきゃならねぇ」

 

 Xiは、静かに頷いた。

 

「……なるほど」

 

 カイエンは、続けた。

 

「……で、どうやって見分けると思う?」

 

「……え?」

 

 Xiは、少し考えた。

 

「……相手の目を見る?」

 

「それも一つだナ」

 

「……木剣の位置?」

 

「おう」

 

「……足元?」

 

 カイエンが、にやりと笑った。

 

「……そうだ」

 

 そして。

 

「だが、全部見ろって言われて、全部を同じように見られるか?」

 

「…………」

 

 Xiは、少し困った。

 

「……それは、難しいね」

 

「だろ?」

 

 カイエンは、頷いた。

 

「だから、相手の動きの中で、何が本当に大事なのかを覚えるんだヨ」

 

 そう言って、自分の腰を軽く叩く。

 

「例えば、身体の向きや重心だ」

 

「……うん」

 

「剣先は誤魔化せる。視線も誤魔化せる。だが、実際に身体を動かすには、それなりの準備がいる」

 

 Xiは、カイエンの身体を見つめた。

 

 確かに。

 

 先ほどの攻撃では、右側が空いているように見えた。

 

 しかし、カイエンの重心はまったく崩れていなかった。

 

 むしろ、いつでもXiの攻撃を迎え撃てる状態だったのだ。

 

「……ああ!」

 

 Xiが、顔を上げた。

 

「……そういうことか!」

 

 カイエンは、嬉しそうに笑った。

 

「ハハッ! 少し分かってきたナ!」

 

◆ 剣聖は、何もしない

 

「……じゃあ、もう一回だ」

 

 カイエンが、構え直した。

 

 今度も、右側にわずかな隙が見える。

 

 Xiは、すぐには踏み込まなかった。

 

「…………」

 

 カイエンが、笑う。

 

「……どうした?」

 

「……考えてる」

 

「ハハッ! いいゼ」

 

 Xiは、相手を観察した。

 

 木剣。

 

 肩。

 

 腰。

 

 足元。

 

 ……やはり、右側が空いている。

 

 だが、カイエンの重心は安定していた。

 

 Xiは、踏み込むふりをした。

 

 ほんの少し、身体を前へ動かす。

 

 しかし、足は動かさない。

 

「…………」

 

 カイエンの木剣が、わずかに動いた。

 

 それを見たXiが、目を見開く。

 

「……!」

 

 そこへ、カイエンが笑った。

 

「……お?」

 

 Xiは、踏み込まずに構えを戻した。

 

 しばしの沈黙。

 

「…………」

 

 カイエンが、にやりと笑う。

 

「……いいじゃねぇか」

 

「……え?」

 

「今の、悪くねぇゼ」

 

 Xiは、少し嬉しくなった。

 

「……本当?」

 

「おう」

 

 カイエンは、木剣を下ろした。

 

「オマエ、こっちの反応を確かめようとしたナ?」

 

「……うん」

 

「それで、無理に踏み込まなかった」

 

「……うん!」

 

 カイエンが、頷いた。

 

「……正解だ」

 

 Xiは、ぱっと笑顔になった。

 

「……やった!」

 

 だが。

 

 カイエンは、すぐに続けた。

 

「……ただし」

 

「……え?」

 

「今のは、オレも本気で動いてねぇ」

 

「…………」

 

「相手がどう出るかを探るのはいい。だが、探ってるつもりで自分の動きを読まれることもある」

 

 Xiは、少し考えた。

 

「……なるほど」

 

「つまり、読み合いだヨ」

 

 カイエンは、笑った。

 

「オマエがこっちを読もうとしてる間、オレもオマエを読んでる」

 

「…………」

 

 Xiは、木剣を見つめた。

 

「……奥が深いなぁ」

 

「ハハッ! 当たり前だろ!」

 

 カイエンは、嬉しそうだった。

 

「だから、剣ってのは面白ぇんだヨ!」

 

◆ ソープ様のお手本

 

「じゃあ、今度は僕もやってみようかな」

 

 ソープが、木剣を手に近づいてきた。

 

「……陛下?」

 

「うん」

 

 ソープは、にこにこしていた。

 

「カイエンの教え方、なかなか良かったね」

 

 カイエンが、笑った。

 

「当たり前だろ、ソープ!」

 

「うん。じゃあ、僕は別のやり方を見せてあげるね」

 

 Xiは、少し緊張した。

 

「……お願いします」

 

 ソープが、木剣を構えた。

 

 その姿勢は、とても自然だった。

 

 強い威圧感もない。

 

 むしろ、少し気が抜けているようにすら見える。

 

「……じゃあ、Xi」

 

「……はい」

 

「好きなところへ打ってきていいよ」

 

「……分かった」

 

 Xiは、慎重に踏み込んだ。

 

 そして、木剣を振る。

 

 かんっ!

 

 ソープは、それを軽く受けた。

 

「……うん。いいね」

 

 続いて、Xiがもう一度踏み込む。

 

 だが。

 

 すっ。

 

 ソープは、わずかに身体を動かした。

 

「……あっ!」

 

 Xiの木剣が、空を切る。

 

 次の瞬間。

 

 こつん。

 

 ソープの木剣が、Xiの胸元へ軽く触れた。

 

「……一本だね」

 

「……うわぁ」

 

 Xiは、思わず笑った。

 

「……全然、分からなかった」

 

 ソープも、楽しそうに笑った。

 

「ふふ。そう?」

 

「……うん」

 

 Xiは、首を傾げた。

 

「……陛下、さっきまで隙だらけに見えたのに」

 

 ソープが、頷いた。

 

「うん」

 

「……でも、打とうとしたら、全然斬れなかった」

 

「そうだね」

 

 ソープは、木剣を下ろした。

 

「……Xi。ひとつ覚えておいてほしいことがあるんだ」

 

「……何?」

 

「隙が見えることと、実際に攻撃が届くことは、同じじゃないんだよ」

 

「…………」

 

 Xiは、少し考えた。

 

「……ああ」

 

 ソープは、続けた。

 

「相手がそこにいるように見えても、自分が剣を届かせる頃には、もういないかもしれない」

 

「……うん」

 

「逆に、こっちが安全だと思っていても、相手には届く場合がある」

 

「…………」

 

「だから、間合いって大切なんだよ」

 

 Xiは、頷いた。

 

「……昨日、師匠にも教わったね」

 

「うん」

 

 ソープは、微笑んだ。

 

「昨日覚えたことと、今日覚えたこと。ちゃんと繋がってるでしょ?」

 

「……あっ!」

 

 Xiが、顔を上げた。

 

「……本当だ!」

 

 カイエンが、にやりと笑った。

 

「ハハッ! そういうことだヨ」

 

 Xiは、少し嬉しくなった。

 

「……なんか、分かってきた気がする」

 

 ソープは、笑った。

 

「いいねぇ!」

 

 そして。

 

「じゃあ、もう一回やろうか」

 

「……うん!」

 

 Xiは、木剣を構え直した。

 

◆ ほんの半歩

 

 午前の稽古は、その後も続いた。

 

 ただし、力任せに打ち合うわけではない。

 

 カイエンとソープが、わざと隙を作る。

 

 Xiが、それを見て判断する。

 

 踏み込むべきか。

 

 待つべきか。

 

 あるいは、自分から誘ってみるべきか。

 

 何度も繰り返した。

 

 失敗する。

 

 また挑む。

 

 少し成功する。

 

 また失敗する。

 

 その繰り返しだった。

 

「……はぁ……」

 

 Xiは、額の汗を拭った。

 

「……難しいなぁ」

 

 カイエンが、笑った。

 

「当たり前だろ」

 

「……うん」

 

「でも、最初よりは良くなってるゼ」

 

 Xiは、少し笑った。

 

「……ありがとう」

 

 カイエンは、木剣を構えた。

 

「……よし。じゃあ、最後にもう一回だ」

 

「……うん!」

 

「今度は、オマエから仕掛けてみろ」

 

「……分かった」

 

 Xiは、慎重に構えた。

 

 目の前には、カイエン。

 

 右側に、わずかな隙。

 

 だが、それは先ほどから何度も見せられたものだった。

 

 ……おそらく、罠。

 

 Xiは、考えた。

 

 ならば。

 

 今度は、こちらから誘ってみよう。

 

 すっ。

 

 Xiは、右へ踏み込むように身体を動かした。

 

 だが、実際には踏み込まない。

 

 ほんのわずかに重心を移しただけ。

 

 カイエンの木剣が、動く。

 

 その瞬間。

 

 Xiは、左へ足を運んだ。

 

 ざっ。

 

 安定した石を踏み、身体の向きを変える。

 

 木剣を振る。

 

「……!」

 

 カイエンが、わずかに反応した。

 

 すっ。

 

 ほんの半歩。

 

 Xiの打ち込みを受けるため、カイエンの足が動いた。

 

 かんっ!!

 

 木剣同士が、ぶつかる。

 

 そして。

 

 こつん。

 

 カイエンの木剣が、Xiの肩へ軽く触れた。

 

「……一本だナ」

 

「……くっ!」

 

 Xiは、悔しそうに顔をしかめた。

 

「……また負けた!」

 

 しかし。

 

 カイエンは、嬉しそうに笑っていた。

 

「……ハハッ!」

 

「……師匠?」

 

「……今の、良かったゼ」

 

 Xiが、目を丸くした。

 

「……え?」

 

 カイエンは、足元を指さした。

 

「……見たか?」

 

「……何を?」

 

「オレを、半歩動かしただろ?」

 

「…………」

 

 Xiは、少し考えた。

 

「……あっ」

 

 確かに。

 

 今までのカイエンは、ほとんど動かなかった。

 

 Xiが攻撃しても、最小限の動きで受け流し、簡単に一本を取っていた。

 

 しかし、今は。

 

 カイエンが、Xiの打ち込みに合わせて半歩動いた。

 

「……本当だ!」

 

 Xiが、嬉しそうに声を上げた。

 

 カイエンは、頷いた。

 

「……そうだ」

 

「……うん!」

 

「相手を動かすってのは、こういうことだヨ」

 

 Xiは、木剣を見つめた。

 

「……そっか」

 

 カイエンが、続けた。

 

「もちろん、オマエはまだまだだ」

 

「……うん」

 

「今のも、オレがその気なら、もっと早く止められた」

 

「……だよね」

 

 Xiは、苦笑した。

 

 だが。

 

 カイエンは、少しだけ表情を和らげた。

 

「……けどナ」

 

「……うん?」

 

「自分で考えて、自分から仕掛けたのは良かったゼ」

 

「…………」

 

 Xiは、顔を上げた。

 

 カイエンは、笑った。

 

「教わったことを、そのままなぞるだけじゃねぇ」

 

「……うん」

 

「自分で使い方を考えろ。それが大事なんだヨ」

 

 Xiは、ゆっくりと頷いた。

 

「……うん!」

 

 そして、嬉しそうに笑った。

 

「……ありがとう、師匠!」

 

 ソープも、微笑んでいた。

 

「うん。今のは良かったね」

 

 アウクソーも、穏やかに頷く。

 

「はい。昨日よりも、ずっと判断が良くなっています」

 

 バクスチュアルが、小さく頷いた。

 

「Xiサン。自分デ、考エタ」

 

「……うん」

 

 Xiは、彼女を見た。

 

「……そうだね」

 

 バクスチュアルは、静かに微笑んだ。

 

「ソレガ、イイ」

 

 Xiも、微笑み返した。

 

「……ありがとう」

 

 アウト・ミラージュ。

 

 自分のために用意された、白銀のMH。

 

 いつか、あの機体を自分の意思で動かす時にも。

 

 きっと、今日教わったことが役に立つ。

 

 力があるから使うのではない。

 

 誰かに言われたから動くのでもない。

 

 自分で考え、選び、決める。

 

 それは、剣術だけの話ではなかった。

 

◆ 足湯にて、漫画家の新発見

 

 稽古の合間の休憩時間。

 

 一行は、飲み物を取りながら、しばしのんびりしていた。

 

 見学組の何人かは、昨日と同じ足湯へ。

 

 その一角で、岸辺露伴がスケッチブックを開いていた。

 

「……なるほど」

 

 露伴は、熱心にペンを走らせている。

 

「最初はほとんど動けなかったXiが、最後にはカイエンを半歩動かした……」

 

 泉京香が、嬉しそうに頷いた。

 

「露伴センセ、良い場面でしたね!」

 

「ああ」

 

 露伴は、頷いた。

 

「……こういう過程を描くことが重要なんだ」

 

「なるほど!」

 

「単に強くなった、というだけでは面白くない。何を見て、何を考え、どう動いたのか。それが必要なんだよ」

 

 泉は、感心した。

 

「……さすが先生!」

 

 その横では、すえぞうがラキシスの隣で寛いでいた。

 

「うっす!」

 

 短い前肢を伸ばし、足を投げ出している。

 

 露伴は、何気なくそちらへ目を向けた。

 

「…………」

 

 そして。

 

「……ん?」

 

 少し首を傾げた。

 

「…………」

 

 すえぞうの足。

 

 その先に並んだ、小さな指。

 

 露伴は、じっと見つめた。

 

「……一、二、三、四、五……」

 

 そして。

 

「……六?」

 

「…………」

 

 露伴が、顔を上げた。

 

「おいおいおいおい!!」

 

 弥子が、びくっとした。

 

「ど、どうしました?!」

 

 露伴は、すえぞうを指さした。

 

「今まで気づかなかった!! こいつ、指が六本あるじゃあないか!!」

 

 弥子が、目を丸くした。

 

「……え?」

 

 そして、すえぞうの足を覗き込む。

 

「……あ、本当だ!」

 

 露伴は、ますます興奮した。

 

「おい、すえぞう。前肢も見せてくれないか?」

 

 すえぞうが、顔を上げた。

 

「うっす!」

 

 前肢を、ぴょこんと持ち上げる。

 

 露伴は、指を数えた。

 

「……一、二、三、四、五、六!」

 

 そして。

 

「手も六本指だ!!」

 

 すえぞうは、褒められたと思ったのか、得意げに胸を張った。

 

「うっす!!」

 

 露伴は、目を輝かせた。

 

「おいおいおいおい! 今までただのでっかいニワトリみたいな姿に気を取られていたが、よく見れば身体構造がまるで違うじゃあないか!!」

 

 弥子が、思わず口を挟んだ。

 

「先生! すえぞうはニワトリじゃありませんからね?!」

 

「分かっている!」

 

 露伴は、力強く頷いた。

 

「星団最強の存在、LEDドラゴンの幼生だけのことはある!!」

 

 その横で、ソープが興味深そうに言った。

 

「そういえば、ジョーカー星団に現れるサタンも六本指なんだよ」

 

「…………」

 

 露伴が、ぴたりと止まった。

 

「……何?」

 

 ソープは、にこにこしている。

 

「うん。異界から来る、僕たちとは違う存在だけどね」

 

「…………」

 

 露伴の目が、さらに輝いた。

 

「おいおい!! それは詳しく聞かせてもらおうじゃあないか!!」

 

 Xiが、飲み物を口にしながら苦笑した。

 

「……先生、また取材が始まっちゃった」

 

 ネウロが、愉快そうに笑う。

 

「ククク……指の本数ひとつで、ずいぶん興奮するものだな」

 

 露伴は、真剣に答えた。

 

「当たり前だろう! 身体の構造が違えば、物を掴む時の力の入り方も違うかもしれない!」

 

 Xiが、少し考えた。

 

「……ああ」

 

 そして、すえぞうの足を見た。

 

「……確かに、踏ん張り方も違うのかな?」

 

 カイエンが、横から口を挟んだ。

 

「……まあ、指が一本多けりゃ強ぇってわけでもねぇけどナ」

 

 露伴が、振り向いた。

 

「……ほう?」

 

「大事なのは、どう使うかだヨ」

 

 Xiは、思わず笑った。

 

「……師匠、また稽古みたいな話になってる」

 

 カイエンも、笑った。

 

「ハハッ! まあナ!」

 

 露伴は、すえぞうを見つめた。

 

「……しかし、興味深いな」

 

 そして、ラキシスへ向き直った。

 

「すえぞうの手足を、もう少し詳しくスケッチさせてもらってもいいかな?」

 

 ラキシスは、微笑んだ。

 

「ふふ。すえぞうが嫌がらなければ、構いませんよ」

 

 露伴は、すえぞうを見た。

 

「……どうだ?」

 

 すえぞうは、元気よく両方の前肢を掲げた。

 

「うっす!!」

 

「……よし!」

 

 露伴は、嬉しそうにペンを走らせ始めた。

 

 ところが。

 

「ろっくんろーる!!」

 

「…………」

 

 露伴が、固まった。

 

「……何だ、今の?」

 

 Xiが、ため息をついた。

 

「……師匠の真似」

 

 カイエンが、振り向いた。

 

「だから、オレは教えてねぇって!!」

 

 弥子が、大笑いした。

 

「すえぞう、完全にお気に入りですね!!」

 

 ラキシスも、くすっと笑った。

 

「ふふ。元気で何よりです」

 

 露伴は、少し考えた。

 

 そして。

 

「……六本指の構造と、この掛け声に何か関連が……」

 

 Xiが、慌てて叫んだ。

 

「先生!! 関係ないから!! 絶対に!!」

 

 足湯に、笑い声が響いた。

 

 ……新しい取材対象を発見した露伴先生。

 

 しかし。

 

 これによって、カイエンへの質問が少し減るかもしれない。

 

 そう考えたXiは、ほんの少しだけ安心した。

 

 ……もっとも。

 

 露伴先生の取材対象が増えることが、必ずしも質問の総数が減ることを意味しない。

 

 その事実に、Xiはまだ気づいていなかった。

 

◆ 午前の稽古、終了

 

 休憩を終えると、最後にもう少しだけ稽古を行った。

 

 今度は、カイエンとソープが交互に相手を務める。

 

 無理に勝とうとしない。

 

 相手の動きを見て、判断する。

 

 隙があっても、すぐには飛び込まない。

 

 そして、自分から相手を動かすことも考える。

 

 Xiは、何度も失敗した。

 

 何度も一本を取られた。

 

 それでも、諦めずに木剣を構え続けた。

 

 やがて。

 

「……よし!」

 

 カイエンが、木剣を下ろした。

 

「今日はここまでだナ!」

 

「……はぁぁ……」

 

 Xiは、大きく息を吐いた。

 

「……疲れたぁ……」

 

 ソープが、嬉しそうに笑った。

 

「お疲れさま!」

 

「……ありがとうございます」

 

 Xiは、木剣を下ろした。

 

「……難しかったです」

 

 カイエンが、笑った。

 

「ハハッ! だろうナ!」

 

「……うん」

 

「でも、昨日よりずっと良くなってたゼ」

 

 Xiは、少し嬉しそうに笑った。

 

「……本当?」

 

「おう」

 

 カイエンは、頷いた。

 

「昨日は、足場を気にするだけで精いっぱいだったろ?」

 

「……うん」

 

「今日は、それを意識しながら相手の動きまで見られるようになってきた」

 

 Xiは、少し考えた。

 

「……そうかもしれない」

 

「だろ?」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「少しずつでいいんだヨ」

 

 Xiは、顔を上げた。

 

「……師匠」

 

「何だ?」

 

「……ありがとう」

 

 カイエンは、少し照れくさそうに笑った。

 

「……礼なんざいらねぇヨ」

 

 ソープも、微笑んでいる。

 

「うん。Xiはちゃんと成長してるよ」

 

 アウクソーが、穏やかに頷いた。

 

「ええ。今日はマスターも、とても良いご指導をなさっていました」

 

 カイエンが、嬉しそうに笑った。

 

「ハハッ! そうかヨ!」

 

 その時。

 

「……ところで、カイエン」

 

 露伴が、手帳を手に近づいてきた。

 

「…………」

 

 カイエンが、振り向いた。

 

「……何だヨ」

 

 露伴は、真剣な顔で尋ねた。

 

「さっきの最後の一合だが、Xiにわざと反応する余地を与えていたな?」

 

「…………」

 

「それとも、あえて自分の動きを抑えていたのか?」

 

「…………」

 

 カイエンは、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「……露伴」

 

「何だ?」

 

「稽古は終わったんだヨ!!」

 

 露伴が、目を丸くした。

 

「おいおいおいおい! だから今、質問しているんじゃあないか!!」

 

「終わったら休ませろヨ!!」

 

 ネウロが、愉快そうに笑った。

 

「ククク……剣聖に休息は与えられんらしいな」

 

 カイエンが、じろりと睨んだ。

 

「テメェは黙ってろ!!」

 

 Xiは、思わず笑ってしまった。

 

 ……午前の稽古。

 

 師匠としてのカイエンは、本当に素晴らしかった。

 

 しかし。

 

 稽古が終われば、いつものカイエンである。

 

 そして、露伴先生も相変わらずだった。

 

◆ お昼は、おろし蕎麦!

 

 午前の稽古を終えた一行は、旅館で身支度を整えた後、昼食へ向かった。

 

 今回の昼食場所は、芦ノ牧温泉からほど近い場所にある、小さな蕎麦屋。

 

 その名も。

 

 「河音庵(かわねあん)」。

 

 大川の流れを思わせる名前の、落ち着いた店である。

 

 ※この物語に登場する架空の蕎麦屋です。

 

「……へぇ」

 

 Xiは、店の前で足を止めた。

 

「……いい雰囲気だね」

 

 木の看板。

 

 落ち着いた暖簾。

 

 入口には、季節の花が飾られている。

 

 露伴が、興味深そうに見回した。

 

「……なるほど。なかなかいい店構えじゃあないか」

 

 泉も、嬉しそうに頷いた。

 

「こういうお店、いいですね!」

 

 弥子は、既に嬉しそうだった。

 

「お蕎麦!! 楽しみです!!」

 

 ラキシスも、微笑んでいる。

 

「ふふ。私も楽しみです」

 

 すえぞうが、元気よく鳴いた。

 

「ソバ!!」

 

「……すえぞう」

 

 Xiが、笑った。

 

「……今度はお蕎麦を覚えたんだね」

 

「うっす!」

 

 カイエンが、笑った。

 

「ハハッ! 覚えが早ぇナ!」

 

 アウクソーが、穏やかに微笑んだ。

 

「マスター。食べ物の名前は、特によく覚えるようですね」

 

「……確かにナ!」

 

 こうして、一行は店内へ入った。

 

◆ 辛味大根のおろし蕎麦

 

「いらっしゃいませ!」

 

 店主が、笑顔で迎えてくれた。

 

「お待ちしておりました!」

 

 今回も、キラが事前に人数と食事について相談していた。

 

 もちろん、すえぞうについても説明済みである。

 

 店主は少し驚いたようだったが、専用の場所で大人しく食事をするという条件で、快く迎えてくれた。

 

「どうぞ、こちらへ」

 

 一行は、広めの座敷へ案内された。

 

 畳の部屋に、低いテーブル。

 

 窓の外には、山々の景色が広がっている。

 

「……いいねぇ」

 

 ソープが、嬉しそうに言った。

 

「こういうお店、好きだなぁ」

 

 ラキシスも、頷いた。

 

「ええ。落ち着きますね」

 

 弥子は、早速お品書きを開いていた。

 

「……わぁ!」

 

 その目が、輝いた。

 

「おろし蕎麦!!」

 

 キラが、微笑んだ。

 

「……今日は、それが名物なんだね」

 

「はい!」

 

 弥子は、嬉しそうに説明した。

 

「辛味大根のおろし汁でいただくお蕎麦なんですよ!」

 

 Xiが、少し驚いた。

 

「……おろし汁?」

 

「はい!」

 

 弥子は、頷いた。

 

「普通の大根おろしを乗せるだけじゃなくて、辛味大根の絞り汁を使う食べ方なんです!」

 

 店主も、嬉しそうに頷いた。

 

「ええ。うちでは大根の絞り汁に、つゆを少し合わせて召し上がっていただきます」

 

 ラクスが、興味深そうに言った。

 

「まあ。爽やかで美味しそうですわね」

 

 店主が、微笑んだ。

 

「辛味は少し強いですが、蕎麦の香りとよく合うんですよ」

 

 カイエンが、嬉しそうに笑った。

 

「ほう。そいつは楽しみだナ!」

 

 キラは、人数を確認した。

 

「……それじゃあ、注文しようか」

 

 弥子が、元気よく手を挙げた。

 

「はい!」

 

「……弥子ちゃん?」

 

「まず、おろし蕎麦を三人前お願いします!」

 

「…………」

 

 キラが、少し考えた。

 

「……三人前?」

 

「はい!」

 

 Xiが、静かに尋ねた。

 

「……弥子ちゃん」

 

「はい?」

 

「……それで足りるの?」

 

 弥子は、少し考えた。

 

「……うーん」

 

 そして。

 

「とりあえず、最初は三人前で!」

 

「…………」

 

 Xiは、キラを見た。

 

「……キラ」

 

「……うん」

 

「……また『最初は』って言ったね」

 

「……うん」

 

 ラキシスも、微笑んでいた。

 

「では、私も少し多めにいただこうかしら」

 

 ソープが、嬉しそうに頷く。

 

「うん! いいねぇ!」

 

 Xiは、少しだけ遠い目をした。

 

 ……昨日から何度も聞いている。

 

 「最初は」。

 

 「少し多め」。

 

 「軽く」。

 

 これらの言葉を、額面どおりに受け取ってはいけないことを。

 

 キラは、店主へ丁寧に声を掛けた。

 

「すみません。追加をお願いすることになるかもしれませんが、大丈夫でしょうか?」

 

 店主は、笑顔で頷いた。

 

「ええ。ご相談いただいていましたから、少し多めに準備しております。ただ、茹でたてをお出ししたいので、順番にお作りしますね」

 

「ありがとうございます」

 

 キラは、ほっとした。

 

 Xiも、少し安心した。

 

 ……さすがキラ准将。

 

 こういうところの段取りは、実に頼もしい。

 

◆ おろし蕎麦、いただきます!

 

 やがて。

 

 蕎麦が運ばれてきた。

 

 艶やかな蕎麦。

 

 そして、小さな器に入った辛味大根の絞り汁。

 

 薬味と、少量のつゆ。

 

「……わぁ」

 

 Xiは、思わず声を漏らした。

 

「……美味しそう!」

 

 弥子が、嬉しそうに頷いた。

 

「はい!」

 

 店主が、食べ方を説明してくれた。

 

「まずは、少しだけそのまま蕎麦を食べてみてください」

 

 Xiは、頷いた。

 

「……はい」

 

 少しだけ蕎麦をつまみ、口に運ぶ。

 

「……あ」

 

 ふわりと、蕎麦の香りが広がった。

 

「……美味しい」

 

 店主が、嬉しそうに微笑んだ。

 

「ありがとうございます」

 

 続いて、大根の絞り汁に少しつゆを合わせる。

 

 蕎麦を浸して、口へ。

 

「…………」

 

 Xiは、目を丸くした。

 

「……おっ!」

 

 大根の辛味が、鼻へ抜ける。

 

 しかし、不思議と嫌な辛さではない。

 

 蕎麦の香りを引き立て、後味をさっぱりさせてくれる。

 

「……うわぁ!」

 

 Xiは、嬉しそうに笑った。

 

「……これ、美味しいね!」

 

 カイエンも、頷いた。

 

「おう! なかなかいいじゃねぇかヨ!」

 

 ソープも、嬉しそうだった。

 

「へぇ! 面白い味だねぇ!」

 

 ラキシスは、上品に蕎麦を口に運んだ。

 

「……まあ」

 

 そして、微笑んだ。

 

「とても美味しいです」

 

 ラクスも、頷いた。

 

「ええ。辛味が心地よいですわね」

 

 キラも、微笑んだ。

 

「……うん。これは美味しいね」

 

 その横で。

 

「……んー!!」

 

 弥子が、満面の笑みだった。

 

「美味しい!!」

 

 蕎麦を食べる。

 

 少し大根の絞り汁を足す。

 

 また食べる。

 

 そして。

 

「……すみませーん!」

 

 店主が、顔を上げた。

 

「はい!」

 

 弥子は、にっこり笑った。

 

「追加で二人前、お願いします!!」

 

「…………」

 

 Xiが、固まった。

 

 キラも、固まった。

 

 そして。

 

「……弥子ちゃん」

 

「はい?」

 

「……最初に三人前頼んだよね?」

 

「はい!」

 

「……追加で二人前?」

 

「はい!」

 

「……つまり」

 

 Xiは、指を折った。

 

「……五人前?」

 

 弥子は、嬉しそうに笑った。

 

「はい! とっても美味しいので!!」

 

「…………」

 

 Xiは、少し考えた。

 

「……でも、朝ご飯も結構食べてたよね」

 

「はい!」

 

「……それで五人前?」

 

 弥子は、きょとんとした。

 

「……え?」

 

 そして。

 

「だって、お蕎麦はさっぱりしてますから!」

 

「さっぱりしてるのは味でしょ?!」

 

 キラが、静かに頷いた。

 

「……Xiの言う通りだと思うよ」

 

 弥子は、少し不思議そうだった。

 

「……えー?」

 

 その横で。

 

 ラキシスも、店主へ声を掛けた。

 

「すみません。私も追加をお願いできますか?」

 

「はい、もちろんです!」

 

 Xiは、静かにソープを見た。

 

「……陛下」

 

「何?」

 

「……姫様も、お蕎麦が気に入ったみたいだね」

 

「うん!」

 

 ソープは、嬉しそうに笑った。

 

「ラキシス、美味しそうに食べてるねぇ!」

 

「……そうだね」

 

 Xiは、ため息をついた。

 

 そして。

 

「……でも、今日の夕食ビュッフェは、大丈夫かなぁ」

 

 キラが、少し困ったように笑った。

 

「……昨日も大丈夫だったし、きっと大丈夫だよ」

 

「……うん」

 

 Xiは、頷いた。

 

 ……二人とも、まだ知らなかった。

 

 弥子にとって、おろし蕎麦五人前は。

 

 『軽い昼食』に分類される可能性があることを。

 

◆ すえぞう、蕎麦を覚える

 

 その頃。

 

 すえぞうも、ラキシスたちが用意した蕎麦を食べていた。

 

 専用の器に、食べやすく分けられた蕎麦。

 

「……ソバ!」

 

 ぱくっ。

 

 しばらく、もぐもぐと食べる。

 

 そして。

 

「……ウマイ!!」

 

 すえぞうが、嬉しそうに鳴いた。

 

 ラキシスが、微笑んだ。

 

「ふふ。良かったですね」

 

 弥子も、嬉しそうだった。

 

「すえぞう、お蕎麦も好きなんだね!」

 

「うっす!」

 

 Xiは、少し笑った。

 

「……昨日はカツ丼で、今日はお蕎麦かぁ」

 

 カイエンが、笑った。

 

「ハハッ! なかなか通だナ!」

 

 すえぞうは、六本指の前肢をぴょこんと上げた。

 

「ソバ!!」

 

 露伴が、すかさず反応する。

 

「……ほう!」

 

 Xiが、振り向いた。

 

「……先生?」

 

「今、指を使って器を押さえたな?」

 

「…………」

 

 露伴は、目を輝かせた。

 

「六本指の使い方、やはり興味深いじゃあないか!」

 

 Xiは、苦笑した。

 

「……先生、食事中だから」

 

「分かっている。観察しているだけだよ」

 

 その横で。

 

 ネウロが、愉快そうに笑った。

 

「ククク……食欲だけは、家畜にも劣らぬな」

 

 弥子が、振り向いた。

 

「何よ!! すえぞうは可愛いでしょ!!」

 

「貴様の食欲と比較しているだけだ」

 

「だから何よ!!」

 

 すえぞうは、二人のやり取りなど気にも留めず。

 

「……ソバ!!」

 

 嬉しそうに食べ続けていた。

 

◆ 武者人形の中の、黒騎士

 

 食事も一段落した頃。

 

 Xiは、ふと店内の一角へ目を向けた。

 

「……ん?」

 

 そこには、小さな飾り棚があった。

 

 会津らしい民芸品。

 

 木彫りの人形。

 

 小さな武者人形。

 

 甲冑姿の侍たちが、いくつも並んでいる。

 

「……へぇ」

 

 Xiは、少し興味を引かれた。

 

「……こういうの、いいね」

 

 露伴も、隣から覗き込んだ。

 

「……ほう。なかなか面白いものを飾っているじゃあないか」

 

 泉も、嬉しそうに言った。

 

「かわいいですね!」

 

 Xiは、棚を眺めた。

 

 赤い甲冑。

 

 黒い兜。

 

 槍を持った武者。

 

 そして。

 

 その奥に。

 

 ひときわ異質な、黒い騎影があった。

 

「…………」

 

 Xiの目が、止まった。

 

「……え?」

 

 その小さな人形には、見覚えがあった。

 

 黒い装甲。

 

 細長い騎体。

 

 独特の姿勢。

 

 明らかに、他の武者人形とは異なる存在。

 

「…………」

 

 Xiは、ゆっくりと顔を近づけた。

 

「……ちょっと待って」

 

 そして。

 

「バッシュ・ザ・ブラックナイト?!」

 

 思わず、大きな声が出た。

 

「……え?」

 

 キラが、振り向いた。

 

「……Xi?」

 

 Xiは、棚を指さした。

 

「なんで?! なんでこんなところにバッシュがあるの?!」

 

 ソープが、興味深そうに近づいてきた。

 

「……ん?」

 

 そして、にっこり笑った。

 

「あ、本当だ。バッシュだねぇ」

 

「陛下?!」

 

 カイエンも、覗き込んだ。

 

「……おう。バッシュじゃねぇかヨ」

 

「師匠まで?!」

 

 Xiは、二人を見た。

 

「なんでそんなに普通に受け入れるの?!」

 

 ソープは、少し考えた。

 

「……A.K.D.からの交易品かな?」

 

 カイエンが、笑った。

 

「ハハッ! なかなかいい趣味してるじゃねぇか!」

 

「そういう問題じゃないよ!!」

 

 露伴も、興味深そうに人形を眺めていた。

 

「……ほう。確かに、この人形だけ造形がまるで違うな」

 

 泉が、首を傾げた。

 

「……先生、これって何なんですか?」

 

 露伴は、少し考えた。

 

「……騎士の乗る機械だそうだ」

 

「……え?」

 

「人間の何倍もの大きさがある、巨大な騎士の姿をした兵器だな」

 

「……へぇ!」

 

 泉は、目を丸くした。

 

「そんなものの模型が、どうしてお蕎麦屋さんに?」

 

 Xiは、深く頷いた。

 

「それを僕も聞きたいんだよ!!」

 

◆ その人は、赤い服を着ていた

 

「……ああ、それですか?」

 

 店主が、声を掛けてきた。

 

 Xiが、振り向く。

 

「……すみません」

 

「はい?」

 

「……この黒い人形って、どなたが置かれたんですか?」

 

 店主は、少し考えた。

 

「……ああ。それは、昔いらっしゃったお客様からいただいたものなんですよ」

 

「……お客様?」

 

「ええ」

 

 店主は、懐かしそうに微笑んだ。

 

「とても綺麗な方でしてね」

 

 Xiは、少し首を傾げた。

 

「……女性の方ですか?」

 

「ええ」

 

「……どんな方でした?」

 

 店主は、少し考えた。

 

「……そうですねぇ」

 

 そして。

 

「長い髪をした、赤い服の女性でしたね」

 

「…………」

 

 Xiの表情が、わずかに変わった。

 

「……赤い服?」

 

「ええ」

 

 店主は、頷いた。

 

「静かな方でね。お蕎麦を召し上がって、帰り際にその人形をくださったんですよ」

 

「…………」

 

「店の飾り物にでもしてください、ということで」

 

 Xiは、ゆっくりと棚を見た。

 

 黒い騎体。

 

 モーターヘッド、バッシュ・ザ・ブラックナイト。

 

 そして。

 

 赤い服の女性。

 

「…………」

 

 胸の奥で、何かが引っ掛かった。

 

 以前。

 

 自分は、あるファティマに出会っている。

 

 名は、エスト。

 

 バッシュ・ザ・ブラックナイトと深い縁を持つ、特別なファティマ。

 

 その時、彼女はXiを見て、奇妙な言葉を残していた。

 

『……黒いものを持っている』

 

『……知っている』

 

 そして。

 

『……また』

 

「…………」

 

 Xiは、静かに息を呑んだ。

 

 店主が、続けた。

 

「……そういえば」

 

「……はい?」

 

「その方、帰る時に、少し不思議なことをおっしゃったんですよ」

 

「…………」

 

「……『また』って」

 

「…………」

 

 Xiの目が、大きく見開かれた。

 

「……また?」

 

「ええ」

 

 店主は、頷いた。

 

「また来る、ということだったのかもしれませんけどね」

 

「…………」

 

 Xiは、しばらく動かなかった。

 

 そして。

 

「また?!」

 

 思わず、大きな声が出た。

 

 キラが、振り向いた。

 

「……Xi?」

 

 Xiは、慌てて口を押さえた。

 

「……あっ、ごめん」

 

「……どうしたの?」

 

「……いや、その……」

 

 Xiは、棚を見た。

 

 黒騎士の小さな模型。

 

 確かに、そこにある。

 

 偶然なのだろうか。

 

 それとも。

 

「…………」

 

 ソープが、静かに口を開いた。

 

「……Xi」

 

「……陛下?」

 

「エストのこと、思い出した?」

 

「…………」

 

 Xiは、顔を上げた。

 

「……うん」

 

 ソープは、模型を見つめた。

 

「……そっかぁ」

 

「……陛下は、どう思う?」

 

 ソープは、少し考えた。

 

「……うーん」

 

 そして、微笑んだ。

 

「本人に聞いてみないと、分からないね」

 

「…………」

 

 Xiは、少し驚いた。

 

 ソープなら、もっと突拍子もない推測をすると思っていたのだ。

 

 だが。

 

 その答えは、驚くほど穏やかなものだった。

 

「……そうだね」

 

 Xiは、頷いた。

 

「……本人に聞かないと、分からないよね」

 

 カイエンも、横から口を挟んだ。

 

「ま、珍しい縁もあるもんだナ」

 

「……うん」

 

 Xiは、少し笑った。

 

「……そうだね」

 

 だが。

 

 心の中には、まだ小さな疑問が残っていた。

 

 なぜ、こんな会津の蕎麦屋に。

 

 バッシュの模型があるのか。

 

 そして。

 

 なぜ、その女性は。

 

『また』

 

 という言葉を残したのか。

 

 ……答えは、まだ分からなかった。

 

◆ 黒騎士と、お蕎麦屋さん

 

 露伴は、興味深そうに模型を見つめていた。

 

「……なるほど」

 

 泉が、首を傾げる。

 

「先生?」

 

「これだけ周囲の人形と違うのに、不思議と馴染んでいるじゃあないか」

 

 Xiも、改めて棚を見た。

 

「……ああ」

 

 確かに。

 

 赤い甲冑の武者。

 

 黒い兜の侍。

 

 その中に、漆黒のバッシュ。

 

 ……妙に、違和感がない。

 

 店主が、嬉しそうに笑った。

 

「そうでしょう?」

 

 そして。

 

「この人形、なかなか格好いいものでね」

 

 Xiは、頷いた。

 

「……はい」

 

「うちの武者人形と一緒に飾ってみたら、意外とよく合ったんですよ」

 

 露伴が、感心したように頷いた。

 

「……なるほど。面白い感性だな」

 

 店主は、少し照れくさそうに笑った。

 

「ありがとうございます」

 

 カイエンが、にやりと笑った。

 

「ハハッ! 確かに、黒い騎士だもんな!」

 

 ソープも、頷いた。

 

「うん。いいねぇ!」

 

 Xiは、二人を見た。

 

「…………」

 

 そして。

 

「……陛下、師匠」

 

「……ん?」

 

「……なんで二人とも、そんなに普通に馴染んでるの?」

 

 ソープは、不思議そうに首を傾げた。

 

「……え?」

 

 カイエンも、笑った。

 

「……いい飾りじゃねぇかヨ!」

 

「……いや、そうなんだけど……」

 

 Xiは、少し笑った。

 

「……まあ、いいか」

 

 そして、再び黒騎士の模型を見た。

 

 エスト。

 

 あの、不思議なファティマ。

 

 いつかまた、会うことがあるのだろうか。

 

 ……あるいは。

 

 既に、どこかで見守られているのだろうか。

 

 Xiは、静かに首を振った。

 

 勝手に決めつけるのは、良くない。

 

 それは、今日の稽古でも学んだことだった。

 

 見えているものが、すべてとは限らない。

 

 だからこそ。

 

 ちゃんと自分で確かめなければならない。

 

「……うん」

 

 Xiは、小さく頷いた。

 

 そして、店主へ向き直った。

 

「……大切に飾ってくださって、ありがとうございます」

 

 店主は、嬉しそうに微笑んだ。

 

「いえいえ。こちらこそ、良いものをいただきましたから」

 

 Xiも、微笑んだ。

 

 その隣で。

 

 露伴が、スケッチブックを開いた。

 

「……しかし、これはなかなか面白い」

 

 泉が、嬉しそうに尋ねた。

 

「先生、描かれるんですか?」

 

「ああ」

 

 露伴は、頷いた。

 

「店主さん。こちらの飾り棚を少しスケッチしてもよろしいでしょうか?」

 

「ええ、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 露伴は、猛烈な勢いでペンを走らせ始めた。

 

 その様子を見て、カイエンが少し安心した。

 

「……おっ」

 

 Xiが、振り向く。

 

「……師匠?」

 

「……いや」

 

 カイエンは、小さく笑った。

 

「……ようやく、オレ以外の取材に夢中になったかナ」

 

「…………」

 

 Xiは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……師匠」

 

「……何だヨ」

 

「……今のうちに休んだ方がいいかも」

 

「……だよナ」

 

 二人は、顔を見合わせて笑った。

 

 ……だが。

 

 その直後。

 

「……ところで、カイエン」

 

「…………」

 

 露伴が、振り向いた。

 

「この黒騎士の実機についても、詳しく聞きたいんだが」

 

「…………」

 

 カイエンは、ゆっくりと目を閉じた。

 

 そして。

 

「結局、オレに戻ってくるのかヨ!!」

 

 露伴が、目を丸くした。

 

「おいおいおいおい! 詳しい人間が目の前にいるんだ。聞かない理由がないだろう?!」

 

 ネウロが、愉快そうに笑った。

 

「ククク……逃げ道を塞がれたな、剣聖」

 

「テメェは黙ってろヨ!!」

 

 Xiは、思わず声を出して笑ってしまった。

 

 ……星団最強の騎士。

 

 剣を握れば、誰も敵わないほどの実力者。

 

 しかし。

 

 漫画家の好奇心だけは、どうにもならないらしい。

 

◆ 午後は、観光へ!

 

 昼食を終えた一行は、店主に礼を言って店を後にした。

 

「ごちそうさまでした!」

 

 弥子が、元気よく頭を下げる。

 

 ラキシスも、優雅に一礼した。

 

「とても美味しかったです。ありがとうございました」

 

 店主は、嬉しそうに微笑んだ。

 

「こちらこそ。またいらしてくださいね」

 

 その言葉に。

 

 Xiが、ほんの一瞬だけ反応した。

 

「……また……」

 

 そして、少し笑った。

 

「……はい。また来ます」

 

 店主も、微笑んだ。

 

 外に出ると、爽やかな風が吹いていた。

 

 山々の緑。

 

 澄んだ空気。

 

 会津の、穏やかな昼下がり。

 

「……はぁ!」

 

 弥子が、満足そうに伸びをした。

 

「美味しかったですねぇ!」

 

 キラも、頷いた。

 

「……うん。すごく美味しかった」

 

 ラクスが、微笑んだ。

 

「ええ。素敵なお店でしたわ」

 

 ラキシスも、嬉しそうだった。

 

「またぜひ訪れたいですね」

 

 すえぞうが、元気よく鳴いた。

 

「ソバ!!」

 

 Xiは、笑った。

 

「……すえぞう、カツ丼の次はお蕎麦が気に入ったんだね」

 

「ウマイ!!」

 

 カイエンも、笑った。

 

「ハハッ! 良かったじゃねぇか!」

 

 その時。

 

 キラが、旅程表を開いた。

 

「……さて」

 

 Xiが、振り向く。

 

「……何、キラ?」

 

「午後の予定なんだけど」

 

「……うん」

 

 キラは、微笑んだ。

 

「今日は、ちょっと観光しようと思ってるんだ」

 

 弥子が、嬉しそうに声を上げた。

 

「わぁ! どこですか?!」

 

 キラは、旅程表を指さした。

 

「塔のへつり」

 

「……へぇ!」

 

 Xiが、顔を上げた。

 

「……名前は聞いたことがあるかも」

 

 キラは、頷いた。

 

「芦ノ牧温泉からも行きやすい、渓谷の景色が有名な観光地なんだ」

 

 露伴が、興味深そうに顔を上げた。

 

「……ほう?」

 

 泉が、嬉しそうに言った。

 

「先生、自然の地形がすごいところらしいですよ!」

 

「……なるほど」

 

 露伴の目が、輝いた。

 

「それは面白そうじゃあないか!」

 

 カイエンも、頷いた。

 

「ほう。いいじゃねぇかヨ!」

 

 ソープは、嬉しそうだった。

 

「僕も見てみたいなぁ!」

 

 ラキシスが、微笑んだ。

 

「ふふ。楽しみですね、ソープ様」

 

 すえぞうも、元気よく鳴いた。

 

「うっす!!」

 

 Xiは、一行を見渡した。

 

 昨日から、本当に賑やかな旅が続いている。

 

 剣術の稽古。

 

 美味しい食事。

 

 温泉。

 

 そして、仲間たちとの観光。

 

 自分が望んで参加した合宿だった。

 

 それが、こんなにも楽しいものになるとは。

 

「……うん!」

 

 Xiは、嬉しそうに笑った。

 

「……じゃあ、みんなで行こう!」

 

 キラも、微笑んだ。

 

「うん!」

 

 こうして、一行は午後の目的地へと向かった。

 

 ……ただし。

 

 塔のへつりには、吊り橋がある。

 

 その先には、断崖に沿って続く岩場の通路もある。

 

 景観は美しい。

 

 しかし、足元には注意が必要な場所だった。

 

 昨日からカイエンが教えている。

 

 「足場を見ろ」

 

 その言葉が、今度は観光地で重要な意味を持つことになる。

 

 そして。

 

 誰よりも真っ先に、その重要性を痛感する人物が一人。

 

「……露伴センセ」

 

「何だ、泉くん?」

 

「……塔のへつりって、吊り橋を渡るんですよね?」

 

「そうらしいな」

 

「…………」

 

「どうした?」

 

「……高いところ、苦手なんですけど……」

 

「…………」

 

 露伴は、泉を見た。

 

 そして。

 

「おいおいおいおい!!」

 

 ……漫画家と編集者の間にも。

 

 どうやら、新たな試練が待ち受けているらしかった。

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▼宇宙世紀に転生したら今度はコズミック・イラかよ!!しかもSEEDの原作知識なんてあやふやだぞ!?外伝も少ししか知らないし、この世界も碌でも無い事ばっか起きてるし!!とりあえず、弟達を守る為、モビルスーツ手に入れる為にヘリオポリスに直行だ!!ニュータイプは伊達じゃねえ!!▼※作者はガンダム及びSEEDの原作知識はあやふやです。所々おかしな部分があるかもしれま…


総合評価:2928/評価:6.88/連載:33話/更新日時:2026年07月26日(日) 22:00 小説情報

日本からアベンジャーズ入りしました。尊敬する人?五代さんと一条さんです(作者:ken4005)(原作:MARVEL)

▼クウガとアベンジャーズのクロスです。▼マーベルは完全ににわかです。▼原作を Avengers から MARVEL に変えました。▼短編から連載に変えました。▼謝罪0906▼作品を読み直した所、時系列に誤りがありました。▼黒雄が2010年4月から2014年3月までの四年間高校に在籍していたことになっています。そこで、明記はしませんが、未確認生命体関係で高校を…


総合評価:10528/評価:8.21/連載:110話/更新日時:2026年10月13日(火) 17:00 小説情報

転生ハンターがダンまちをモンハン世界だと間違っているまま黒竜を狩る話(作者:シャリ)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

さてはミラボレアスだなオメー


総合評価:23100/評価:8.76/完結:11話/更新日時:2026年08月19日(水) 19:10 小説情報


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