守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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会津合宿編 その7

◆ 星団最強のドラゴンは、花火に火をつけたい

 

 福島県会津若松市、芦ノ牧温泉。

 

 剣術合宿、二日目の夜。

 

 午前中は、大川の河原で本格的な剣術稽古。

 

 昼食には、辛味大根のおろし蕎麦。

 

 午後は、塔のへつりを観光し、全員で記念撮影。

 

 そして夕食では、旅館の料理長が率いる料理大艦隊が、桂木弥子、ラキシス、すえぞうの猛攻を見事に凌ぎ切った。

 

 ……何とも盛りだくさんの一日だった。

 

 だが。

 

 今夜のお楽しみは、まだ終わっていなかった。

 

「……わぁ!」

 

 弥子が、嬉しそうに声を上げた。

 

「花火です! 花火!!」

 

 旅館の屋外。

 

 建物から少し離れた、舗装された広場。

 

 あらかじめキラ・ヤマトが旅館に相談し、許可を得ていた場所である。

 

 スタッフからも、安全上の注意事項を説明されていた。

 

 強い風もなく、周囲に燃えやすいものがないことを確認。

 

 水を張ったバケツも、消火用の水も準備してある。

 

 もちろん、花火は手持ち花火だけ。

 

 打ち上げ花火や、大きな音の出る花火は使用しない。

 

「……よし」

 

 キラは、準備を確認して頷いた。

 

「みんな、花火は振り回さないようにね。それから、終わった花火はこのバケツに入れてください」

 

「はーい!!」

 

 弥子が、元気よく返事をした。

 

 ラクス・クラインも、微笑んだ。

 

「ふふ。準備も万全ですわね、キラ」

 

「うん。せっかくだから、安全に楽しみたいしね」

 

 怪物強盗Xiも、嬉しそうに花火を眺めていた。

 

「……へぇ。いろんな種類があるんだね」

 

 色とりどりの手持ち花火。

 

 勢いよく火花を散らすもの。

 

 静かに光るもの。

 

 そして、最後のお楽しみに用意された線香花火。

 

「……いいねぇ!」

 

 ソープが、にこにこしていた。

 

「地球の花火って、こういう小さいのもあるんだね」

 

 ラキシスが、優雅に微笑む。

 

「ふふ。楽しみですね、ソープ様」

 

「うん!」

 

 カイエンも、花火を一本手に取っていた。

 

「ハハッ! こういうのも悪くねぇナ!」

 

 その横で。

 

「…………」

 

 岸辺露伴が、花火の袋を眺めていた。

 

「……ほう。燃焼によって色の違う火花を出すのか」

 

 泉京香が、少し笑った。

 

「露伴センセ。今日は取材じゃなくて、普通に楽しみましょうよ!」

 

「分かっているよ」

 

 露伴は、頷いた。

 

「……だが、どういう仕組みなのかは気になるじゃあないか」

 

「……もう!」

 

 泉は、苦笑した。

 

 ネウロが、愉快そうに笑う。

 

「ククク……人間は、火を小さく加工してまで娯楽にするのだな」

 

 弥子が、振り向いた。

 

「……ネウロもやる?」

 

「我が輩は見物させてもらおう」

 

「……そっか!」

 

 そう言って、弥子は花火を一本手に取った。

 

 そして。

 

「……あれ?」

 

 何かに気づいた。

 

「……火は、どこからつけるんですか?」

 

 キラが、ロウソクを取り出した。

 

「まず、これに火をつけようと思ってるんだ」

 

「……なるほど!」

 

 ところが。

 

「……!」

 

 その言葉に、猛烈に反応した者がいた。

 

 すえぞうである。

 

「……ヒ?」

 

 ラキシスの隣で、大人しく座っていたすえぞうが、ぴょこんと顔を上げた。

 

「……ヒ、ツケル?」

 

 Xiが、振り向いた。

 

「……ん?」

 

 すえぞうは、六本指の小さな前肢を持ち上げた。

 

「……ヒ、ツケル!!」

 

「…………」

 

 Xiは、固まった。

 

「……ちょっと待って」

 

 すえぞうは、得意げに胸を張った。

 

「うっす!!」

 

 Xiは、ゆっくりとカイエンを見た。

 

「……師匠」

 

「……何だヨ?」

 

「……今、すえぞうが何をしようとしてるか、分かる?」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「ハハッ! 火をつけたいんだろ?」

 

「……うん」

 

「……いいじゃねぇか」

 

「師匠?!」

 

 Xiが、思わず叫んだ。

 

「すえぞうの火炎ブレスで、ロウソクに火をつけるつもり?!」

 

 カイエンは、不思議そうだった。

 

「……何だヨ。前にも火を吐いてるだろ?」

 

「吐いてるよ!! シックス製のブランケットと枕を処分した時に!!」

 

 Xiは、頭を抱えた。

 

「でも、あの時は焼却処分だったんだよ?! 今回はロウソク一本なんだから!!」

 

 ソープが、興味深そうに口を開いた。

 

「……ああ、なるほど」

 

 Xiが、振り向く。

 

「……陛下?」

 

 ソープは、にこにこしている。

 

「つまり、どれだけ小さい炎を出せるかってことだね」

 

「…………」

 

 Xiは、少し考えた。

 

「……いや、そうなんだけど」

 

 ソープは、嬉しそうだった。

 

「面白そうだねぇ!」

 

「陛下!! 火力調整の実験を始めないで!!」

 

 そこへ、アウクソーが静かに進み出た。

 

「……マスター」

 

「……おう」

 

「すえぞうに任せるのでしたら、まず安全を確認してからにいたしましょう」

 

 カイエンは、頷いた。

 

「おう。そうだナ」

 

 バクスチュアルも、すえぞうへ声を掛けた。

 

「すえぞう。小サイ、火。少シダケ」

 

「うっす!」

 

 ラキシスが、優しく微笑む。

 

「ふふ。できそうですか、すえぞう?」

 

「うっす!!」

 

 キラは、少し考えた。

 

 そして、旅館のスタッフに事情を説明した。

 

 もちろん、いきなり巨大な火柱を吹き上げるつもりはない。

 

 すえぞうが極めて小さな炎を出せることを、人のいない安全な方向で確認してから、という条件である。

 

 スタッフは、少しばかり驚いていた。

 

 ……当然である。

 

 普通、旅館の花火イベントで、ドラゴンが着火係を志願することなどない。

 

 だが、今回は特別な一行。

 

 十分な距離と安全管理を確保したうえで、ひとまず様子を見ることになった。

 

「……よし」

 

 キラが、頷いた。

 

「すえぞう、少しだけだよ?」

 

「うっす!」

 

 Xiは、まだ少し不安そうだった。

 

「……大丈夫かなぁ」

 

 カイエンが、笑った。

 

「ハハッ! すえぞうだって、加減ぐらいできるだろ!」

 

 アウクソーが、静かにカイエンを見た。

 

「……マスター」

 

「……何だヨ?」

 

「力加減は、とても大切なことですね」

 

「……おう!」

 

「昨日の河原でも、そのお話をいたしましたね」

 

「…………」

 

 カイエンは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……またその話かヨ!!」

 

 Xiが、思わず笑ってしまった。

 

「……師匠、すっかり定番になっちゃったね」

 

「だから、MBTは撃ってねぇだろうがヨ!!」

 

 すえぞうは、そんなやり取りなど気にも留めず。

 

 大人たちの指示に従い、安全な方向へ顔を向けた。

 

 そして。

 

 ちろっ。

 

 ほんの小さな炎を吐いた。

 

「…………」

 

 Xiが、目を丸くした。

 

「……あっ」

 

 キラも、頷いた。

 

「……うん。本当に小さいね」

 

 アウクソーが、穏やかに微笑んだ。

 

「……これなら、火力の調整はできていますね」

 

 ラキシスも、嬉しそうだった。

 

「ふふ。上手ですね、すえぞう」

 

「うっす!!」

 

 カイエンは、満足そうに笑った。

 

「ハハッ! やるじゃねぇか!」

 

 Xiは、少し安心した。

 

「……うん。これなら……」

 

 そして。

 

 いよいよ、ロウソクへの点火である。

 

◆ ここぞという時の、ロッケンロー!!

 

 安全な台に固定された、小さなロウソク。

 

 その周囲から、一行は十分に距離を取っていた。

 

 すえぞうは、静かにロウソクを見つめている。

 

「…………」

 

 いつもなら、すぐに元気よく叫ぶところだが。

 

 今夜は、少し違っていた。

 

 じっと、待っている。

 

 カイエンが、にやりと笑った。

 

「……おっ」

 

 Xiが、振り向く。

 

「……師匠?」

 

「……覚えてるみてぇだナ」

 

「……え?」

 

 カイエンは、すえぞうへ声を掛けた。

 

「……おい、すえぞう」

 

「うっす!」

 

「……いいか?」

 

「……うっす!」

 

「ここぞって時だゼ」

 

「……!!」

 

 すえぞうの目が、輝いた。

 

 Xiが、慌てた。

 

「……師匠!」

 

「何だヨ?」

 

「余計なプレッシャーをかけないで!!」

 

 カイエンは、笑った。

 

「ハハッ! 大丈夫だって!」

 

 すえぞうが、小さく頷いた。

 

「……ココゾ!」

 

 そして。

 

 前肢をぐっと踏ん張る。

 

 六本の指が、地面をしっかり捉えた。

 

 露伴が、目を輝かせた。

 

「……おっ!」

 

 スケッチブックを構える。

 

「六本指の踏ん張り方も、なかなか興味深いじゃあないか!」

 

 Xiが、振り向いた。

 

「……先生、今は静かに!」

 

「分かっている!」

 

 すえぞうは、ロウソクをじっと見つめた。

 

 そして。

 

「…………」

 

 小さく息を吸った。

 

 次の瞬間。

 

「ロッケンロー!!」

 

 叫んだ後で、大きく口を開き。

 

 ぽっ。

 

 ほんの小さな炎が、ロウソクの芯に触れた。

 

 ちろちろ。

 

 小さな火が、ともる。

 

「…………」

 

 一同が、静かに見つめた。

 

 そして。

 

「……あっ!」

 

 Xiが、声を上げた。

 

「……ついた!」

 

 キラも、嬉しそうに頷いた。

 

「うん! ちゃんとついたね!」

 

 弥子が、拍手した。

 

「すごーい!! すえぞう、上手!!」

 

 ラキシスも、嬉しそうだった。

 

「ふふ。素晴らしいです、すえぞう」

 

 すえぞうは、得意げに胸を張った。

 

「うっす!!」

 

 そして。

 

 カイエンが、満足そうに頷いた。

 

「ヨシ!! 決まったナ!!」

 

「ヨシじゃない!!」

 

 Xiが、思わず叫んだ。

 

「なんでロウソク一本に、そんな大げさな決め台詞が必要なの?!」

 

 カイエンは、不思議そうだった。

 

「……何だヨ」

 

「……何だヨ、じゃないよ!」

 

「こういうのは雰囲気が大事なんだヨ!」

 

「雰囲気?!」

 

 露伴が、猛烈な勢いでスケッチを始めた。

 

「おいおいおいおい! これは面白いじゃあないか!」

 

 泉が、目を丸くする。

 

「露伴センセ?」

 

 露伴は、興奮していた。

 

「星団最強の存在、LEDドラゴンの幼生が、ロウソク一本に火をつけるために全力で格好をつけているんだぞ?!」

 

「……えっ?」

 

「この能力と用途の落差が面白いんじゃあないか!!」

 

 ネウロが、愉快そうに笑った。

 

「ククク……実に贅沢なライターだな」

 

 Xiが、深く頷いた。

 

「それ!! 僕が言いたかったの、それ!!」

 

 ソープも、感心していた。

 

「でも、すごいねぇ」

 

 Xiが、振り向く。

 

「……陛下?」

 

「うん。あれだけの火炎ブレスを、こんなに小さくできるんだ」

 

「……そうだね」

 

「やっぱり、ちゃんと力を調節できるって大切だよね」

 

「…………」

 

 Xiは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……ああ」

 

 微笑んだ。

 

「……そうだね」

 

 強い力がある。

 

 だからといって、いつでも全力で使えばいいわけではない。

 

 必要な時に。

 

 必要なだけ。

 

 自分で考えて、使う。

 

 ……それは、どこかで聞いた話だった。

 

「…………」

 

 Xiは、カイエンを見た。

 

 カイエンは、得意そうにすえぞうの頭を撫でていた。

 

「ハハッ! よくやったナ!」

 

「うっす!!」

 

 Xiは、少し笑った。

 

「……師匠」

 

「……何だヨ?」

 

「……なんか、今日の稽古と同じだね」

 

「……お?」

 

「……力をどう使うか、って」

 

 カイエンは、少し考えた。

 

 そして、にやりと笑った。

 

「……おう!」

 

「……うん」

 

「よく分かってるじゃねぇかヨ!」

 

 Xiは、嬉しそうに笑った。

 

 ……もっとも。

 

 その大切な教訓を伝えるために。

 

 星団最強のドラゴンをライター代わりに使う必要があったのかどうか。

 

 そこは、少しばかり疑問が残るところだった。

 

◆ 夜空に咲く、小さな花

 

 ロウソクに火がともったところで、いよいよ花火の始まりである。

 

「……わぁ!!」

 

 弥子が、嬉しそうに声を上げた。

 

 ぱちぱちぱちっ!

 

 手に持った花火から、明るい火花が飛び散る。

 

「綺麗!!」

 

 ラクスも、微笑んだ。

 

「まあ……美しいですわね」

 

 ラキシスは、ソープと並んで花火を眺めていた。

 

「ふふ。ソープ様、こちらも綺麗ですよ」

 

「うん!」

 

 ソープは、嬉しそうに頷いた。

 

「ラキシス、そっちの色もいいねぇ!」

 

 キラは、ラクスの花火に火をつけていた。

 

「はい、ラクス」

 

「ありがとうございます、キラ」

 

 色とりどりの火花が、二人の顔を優しく照らす。

 

 その隣では。

 

「……おっ!」

 

 カイエンが、花火を見つめていた。

 

「こいつは、なかなか派手だナ!」

 

 赤や緑の火花が、勢いよく散る。

 

 Xiが、笑った。

 

「……師匠、気に入った?」

 

「おう!」

 

 カイエンは、楽しそうだった。

 

「ハハッ! こいつはいいゼ!」

 

 その横で。

 

 アウクソーが、小さく微笑んだ。

 

「……マスター」

 

「……ん?」

 

「花火は、振り回さないでくださいね」

 

「……振り回してねぇだろ?」

 

「はい。念のためです」

 

「……おう」

 

 Xiは、思わず吹き出した。

 

「……師匠、すっかり信用されなくなってるね」

 

「オレは何もしてねぇヨ!!」

 

 弥子が、大笑いした。

 

「カイエンさん、今日も怒られてる!!」

 

 その横では。

 

 バクスチュアルが、静かに花火を眺めていた。

 

「……キレイ」

 

 ラキシスが、微笑む。

 

「ええ。綺麗ですね、バクスチュアル姉様」

 

 アウクソーも、頷いた。

 

「こうして皆様で楽しむ花火も、良いものですね」

 

 バクスチュアルは、静かに頷いた。

 

「ウン。皆デ、見ル。嬉シイ」

 

 Xiは、その言葉を聞いて、少し微笑んだ。

 

「……うん」

 

 そして。

 

「……僕も、そう思うよ」

 

 バクスチュアルは、Xiを見た。

 

 ゆっくりと、小さく微笑む。

 

「Xiサン。楽シイ?」

 

「……うん!」

 

 Xiは、嬉しそうに頷いた。

 

「……すごく楽しいよ!」

 

 バクスチュアルも、頷いた。

 

「……ヨカッタ」

 

 その間にも、次々と花火が燃えていく。

 

 夜の闇に、色とりどりの光。

 

 小さな歓声。

 

 笑い声。

 

 旅館の広場には、穏やかで楽しい時間が流れていた。

 

 ……そこへ。

 

「……ロッケンロー!!」

 

 すえぞうが、突然叫んだ。

 

「…………」

 

 Xiが、振り向いた。

 

「……すえぞう?」

 

 カイエンも、振り向いた。

 

「……おい」

 

 すえぞうは、得意げに胸を張った。

 

「うっす!!」

 

 カイエンが、腕を組んだ。

 

「……すえぞう」

 

「うっす!」

 

「さっきので十分決まっただろ。連発すんじゃねぇヨ!」

 

「?!」

 

 すえぞうが、目を丸くした。

 

 Xiが、頭を抱えた。

 

「師匠が教えたんでしょ!!」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「だから、使いどころが大事なんだヨ!」

 

「そんなに厳しく指導しなくていいよ!!」

 

 ラキシスが、くすっと笑った。

 

「ふふ。すえぞうも、いろいろ勉強しているのですね」

 

 バクスチュアルが、静かに頷いた。

 

「使イドコロ、重要」

 

「バクスチュアルまで?!」

 

 Xiが、思わず叫んだ。

 

 カイエンは、満足そうだった。

 

「ハハッ! よく分かってるじゃねぇか!」

 

 アウクソーが、少し困ったように微笑んだ。

 

「……マスター。すえぞうには性別がありませんよ?」

 

「……あ?」

 

 カイエンは、不思議そうだった。

 

「……それがどうした?」

 

「……いえ。『格好いい男の美学』を教えていらっしゃるので」

 

 カイエンは、少し考えた。

 

 そして。

 

「格好よさに性別なんざ関係ねぇだろうがヨ!」

 

「…………」

 

 Xiが、固まった。

 

「……師匠」

 

「……何だヨ?」

 

「……それ、ちょっと格好いいこと言ってる」

 

「……だろ?」

 

「でも、決め台詞の指導は要らないから!!」

 

 花火の明かりの中に、また笑い声が響いた。

 

◆ 最後は、線香花火

 

 やがて。

 

 賑やかな手持ち花火も、残り少なくなってきた。

 

「……じゃあ」

 

 キラが、小さな袋を取り出した。

 

「最後は、これにしようか」

 

「……あっ!」

 

 弥子が、嬉しそうに声を上げた。

 

「線香花火!!」

 

 ラクスも、微笑んだ。

 

「ふふ。素敵ですわね」

 

 ラキシスも、興味深そうだった。

 

「まあ。小さな花火ですね」

 

 ソープが、にこにこしている。

 

「うん。でも、こういうのも綺麗なんだよ」

 

 一行は、少し間隔を空けて線香花火を手に取った。

 

 火をつける。

 

 最初は、小さな光。

 

 やがて。

 

 ぱちっ。

 

 ぱちぱちっ。

 

 細い火花が、静かに広がり始める。

 

「……わぁ」

 

 Xiは、思わず声を漏らした。

 

「……綺麗だね」

 

 弥子も、嬉しそうだった。

 

「はい!」

 

 ラクスは、キラの隣で微笑んでいる。

 

「……こういう静かな花火も、良いものですわね」

 

 キラも、頷いた。

 

「うん」

 

 ラキシスは、ソープの線香花火を見つめていた。

 

「……ソープ様」

 

「……ん?」

 

「小さな光なのに、とても綺麗ですね」

 

「……うん」

 

 ソープは、微笑んだ。

 

「大きくなくても、いいものはいいんだねぇ」

 

 Xiは、その言葉を聞いて、少し笑った。

 

 ……大きな力。

 

 強い技。

 

 誰にも負けない存在。

 

 そんなものばかりが、価値を持つわけではない。

 

 目の前の、小さな火花。

 

 それもまた、とても綺麗だった。

 

「…………」

 

 Xiは、隣にいたカイエンを見た。

 

「……ねえ、師匠」

 

「……ん?」

 

「……ちょっと聞いていい?」

 

「おう。何だヨ?」

 

 Xiは、線香花火を見つめた。

 

「……人に剣を教えるのって、疲れる?」

 

「…………」

 

 カイエンは、少し驚いた。

 

「……あ?」

 

 Xiは、微笑んだ。

 

「……昨日も今日も、ずっと僕の相手をしてくれたでしょ」

 

「……おう」

 

「……師匠が本気で剣を振るのとは、全然違うと思うんだ」

 

「…………」

 

「……だから、疲れるんじゃないかなって」

 

 カイエンは、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「……ハハッ!」

 

 少し笑った。

 

「……まあ、そうだナ」

 

 Xiが、顔を上げた。

 

「……やっぱり?」

 

「おう」

 

 カイエンは、線香花火を見つめた。

 

「……自分で剣を振るだけならナ」

 

「……うん」

 

「自分の間合いで、自分の好きなように動きゃいい」

 

「……うん」

 

「だが、人に教えるとなると、そうはいかねぇ」

 

 Xiは、静かに聞いていた。

 

 カイエンは、続けた。

 

「相手が今、何を見てるのか。何が分かってて、何が分かってねぇのか」

 

「…………」

 

「どこまでできるのか。どこから先は、まだ危ねぇのか」

 

 カイエンは、小さく笑った。

 

「……そういうのを、全部考えなきゃならねぇんだヨ」

 

「…………」

 

 Xiは、少し驚いた。

 

 カイエンは、さらに続けた。

 

「剣で勝つだけなら、オレ一人の話だ」

 

「……うん」

 

「だが、教えるってのは、相手が上手くなるために、自分がどう動くかってことだからナ」

 

「…………」

 

「……まあ、普段とは勝手が違うゼ」

 

 Xiは、ゆっくりと頷いた。

 

「……そっか」

 

 カイエンが、にやりと笑った。

 

「……何だヨ。急に」

 

「……いや」

 

 Xiは、微笑んだ。

 

「……ありがとう、って思って」

 

「…………」

 

 カイエンは、少し黙った。

 

 そして。

 

「……ハハッ!」

 

 照れくさそうに笑った。

 

「……礼なんざいらねぇヨ」

 

「……でも」

 

 Xiは、続けた。

 

「……僕、すごく楽しいよ」

 

「…………」

 

「……昨日より、少しできることが増えた気がする」

 

 カイエンは、Xiを見た。

 

 そして。

 

「……おう」

 

 嬉しそうに頷いた。

 

「そいつは良かったナ!」

 

 Xiも、笑った。

 

「……うん!」

 

 その時。

 

 ぽとっ。

 

 Xiの線香花火の火玉が、落ちた。

 

「……あっ!」

 

 Xiは、少し残念そうだった。

 

「……落ちちゃった」

 

 隣を見ると。

 

 カイエンの線香花火は、まだ静かに火花を散らしていた。

 

「…………」

 

 Xiが、目を丸くした。

 

「……師匠」

 

「……ん?」

 

「……上手いね」

 

 カイエンは、得意そうに笑った。

 

「ハハッ! まあナ!」

 

「……これも、力加減?」

 

「おう。余計に動かさねぇのがコツだヨ」

 

 Xiは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……なるほど」

 

 微笑んだ。

 

「……剣術みたいだね」

 

 カイエンも、笑った。

 

「……ハハッ! そうかもナ!」

 

 夜の闇の中。

 

 小さな火花が、最後まで静かに散り続けていた。

 

 ……それは、星団最強の剣聖と、まだまだ修行中の怪物強盗が、同じ光を眺める穏やかな時間だった。

 

◆ 温泉、二日目の夜

 

 花火をすべて楽しみ終えた一行は、使い終わった花火を片づけ、旅館のスタッフに礼を言って館内へ戻った。

 

「……はぁ!」

 

 弥子が、満足そうに伸びをした。

 

「楽しかったですねぇ!!」

 

 ラクスも、微笑んだ。

 

「ええ。素敵な思い出ができましたわ」

 

 ラキシスも、嬉しそうだった。

 

「ふふ。すえぞうも、頑張りましたね」

 

 すえぞうは、得意げに胸を張った。

 

「うっす!!」

 

 カイエンが、笑った。

 

「ハハッ! ロッケンローも決まったしナ!」

 

「…………」

 

 Xiが、振り向いた。

 

「……師匠」

 

「……何だヨ?」

 

「……それ、もう褒めなくていいから」

 

「……何だヨ。いいじゃねぇか!」

 

 アウクソーが、穏やかに微笑んだ。

 

「ふふ。すえぞうも、皆様のお役に立てて嬉しかったのでしょう」

 

 バクスチュアルも、小さく頷く。

 

「ウン。火、小サク。上手」

 

 Xiは、少し笑った。

 

「……うん。それは本当に上手だったね」

 

 すえぞうが、嬉しそうに鳴いた。

 

「うっす!」

 

 そして。

 

 キラが、旅館の時計を見た。

 

「……さて」

 

 Xiが、振り向く。

 

「……何?」

 

「そろそろ、お風呂に入って休もうか」

 

「……ああ」

 

 Xiは、頷いた。

 

「……そうだね」

 

 カイエンも、軽く肩を回した。

 

「……おう。今日は結構動いたからナ」

 

 ソープが、にこにこしている。

 

「うん。温泉でゆっくりしよう!」

 

 こうして、一行は二日目の夜の温泉へと向かった。

 

 ……ただし。

 

 昨夜、温泉でも取材を受け続けた男が一人。

 

 カイエンは、ふと露伴を見た。

 

「…………」

 

 露伴は、スケッチブックを閉じていた。

 

「……ん?」

 

 カイエンが、少し考えた。

 

 そして。

 

「……露伴」

 

「何だ?」

 

「……今夜は、風呂で取材すんなヨ?」

 

「…………」

 

 露伴が、目を丸くした。

 

「おいおいおいおい! まだ何も聞いてないじゃあないか!」

 

「昨日、散々聞いただろうがヨ!!」

 

 Xiは、思わず笑ってしまった。

 

 ……剣聖の警戒心は、どうやら昨日より高まっているらしい。

 

◆ 男湯、剣聖の疲労

 

 大浴場。

 

 広々とした湯船に、ゆったりと身体を沈める。

 

「……はぁぁぁ……」

 

 カイエンが、大きく息を吐いた。

 

「……生き返るナ……」

 

 Xiも、隣で肩まで湯に浸かっていた。

 

「……うん。気持ちいいね」

 

 ソープも、満足そうだった。

 

「やっぱり温泉っていいねぇ!」

 

 キラが、微笑む。

 

「うん。今日はみんな、よく歩いたしね」

 

 Xiは、カイエンを見た。

 

「……師匠」

 

「……ん?」

 

「……疲れた?」

 

 カイエンは、目を閉じたまま答えた。

 

「……おう。ちっとナ」

 

「……そっか」

 

 Xiは、少し申し訳なさそうに微笑んだ。

 

「……僕の稽古に付き合ってもらったからね」

 

 カイエンが、片目を開いた。

 

「……何だヨ」

 

「……いや、やっぱり人に教えるのって、大変なんだなぁと思って」

 

 カイエンは、少し笑った。

 

「……まあナ」

 

 そして、湯船の縁に背を預けた。

 

「自分で剣を振るだけなら、何も考えずに身体が動くこともある」

 

「……うん」

 

「だが、オマエに教えるとなると、そうはいかねぇ」

 

 Xiは、静かに聞いていた。

 

 カイエンは、続けた。

 

「下手に速く動けば、オマエには見えねぇ」

 

「……うん」

 

「強く打てば危ねぇし、遅すぎりゃ稽古にならねぇ」

 

「…………」

 

「オマエが今、何を覚えようとしてるのか。それを見ながら、こっちも動き方を変えるんだ」

 

 Xiは、少し考えた。

 

「……ああ」

 

 カイエンは、苦笑した。

 

「……普段の戦いとは、まるで違うゼ」

 

 その隣で、ソープが微笑んだ。

 

「ふふ。カイエン、ちゃんと先生してたもんね」

 

「……うるせぇヨ、ソープ」

 

「でも、良い教え方だったよ」

 

「…………」

 

 カイエンは、少し照れくさそうだった。

 

「……まあ、オマエにそう言われりゃ悪い気はしねぇナ」

 

 Xiは、嬉しそうに笑った。

 

「……うん。僕も、そう思う」

 

 キラも、頷いた。

 

「僕も見ていて感心しました。Xiの動きが、昨日からずいぶん変わりましたよね」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「……だろ?」

 

「はい」

 

「……アイツ、なかなか筋がいいんだヨ」

 

「…………」

 

 Xiは、少し驚いた。

 

「……師匠」

 

「何だ?」

 

「……本人の前で褒めるの、ちょっと照れるんだけど」

 

「ハハッ! 事実なんだからいいだろ!」

 

 Xiも、思わず笑ってしまった。

 

 ……その時。

 

「……なるほど」

 

 背後から、声がした。

 

「…………」

 

 カイエンが、ぴたりと止まった。

 

 声の主は。

 

 岸辺露伴だった。

 

「……つまり、君ほどの達人でも、教える側になると勝手が違うわけだな」

 

「…………」

 

 カイエンは、ゆっくりと振り向いた。

 

「……露伴」

 

「何だ?」

 

「……いつから聞いてた?」

 

「今の話は、なかなか興味深かったぞ」

 

「だから、いつから聞いてたんだヨ!!」

 

 露伴は、平然としていた。

 

「君が人に剣を教えることについて話し始めたあたりからだ」

 

「ほとんど最初からじゃねぇか!!」

 

 Xiが、思わず吹き出した。

 

 露伴は、真剣な顔だった。

 

「いや、これは重要な話だぞ」

 

「……あ?」

 

「強すぎる者が、相手の成長を考えて自分の技を調整する。そこに、君の普段とは違う一面があるんじゃあないか」

 

「…………」

 

 カイエンは、少し考えた。

 

「……まあ、そうかもしれねぇナ」

 

 露伴が、目を輝かせた。

 

「それなら、今日の最後の一合についても……」

 

「露伴!!」

 

「……何だ?」

 

「風呂で取材するなって言っただろうがヨ!!」

 

 露伴が、少し不満そうに眉を寄せた。

 

「……今のは会話の流れだろう?」

 

 キラが、苦笑した。

 

「……露伴さん。ほかのお客様もいらっしゃいますし、続きはまた別の機会にしませんか?」

 

「…………」

 

 露伴は、周囲を見た。

 

 そして、少し考えた。

 

「……確かに、ここで長々と話すのは良くないな」

 

 頷いた。

 

「分かった。今はやめておこう」

 

「……おお」

 

 カイエンが、少し驚いた。

 

「……分かってくれたか」

 

「当然だろう」

 

 露伴は、胸を張った。

 

「取材にも、時と場所というものがある」

 

「…………」

 

 Xiは、少し安心した。

 

「……良かった」

 

 ところが。

 

 露伴は、続けた。

 

「では、部屋に戻ってから続きを聞こうじゃあないか!」

 

「…………」

 

 カイエンが、固まった。

 

 Xiも、固まった。

 

 ソープは、にこにこしている。

 

 キラは、少し困ったように微笑んだ。

 

 そして。

 

「……露伴」

 

 カイエンが、静かに口を開いた。

 

「何だ?」

 

「……オマエ」

 

「……ん?」

 

「今夜も、寝かせる気ねぇだろ!!」

 

「おいおいおいおい! 質問はまだ山ほどあるんだぞ?!」

 

 カイエンは、天井を仰いだ。

 

「…………」

 

 そして。

 

「……こりゃ、駄目だナ……」

 

 小さく呟いた。

 

 ……星団最強の剣聖。

 

 今夜もまた、漫画家の好奇心に追い詰められつつあった。

 

◆ 女湯、穏やかな夜

 

 一方。

 

 女湯では、ラクス、ラキシス、弥子、泉、アウクソーが、のんびりと湯に浸かっていた。

 

 バクスチュアルは、先にすえぞうを部屋へ連れ帰り、交代で入浴する予定である。

 

「……はぁぁ……」

 

 弥子が、満足そうに息を吐いた。

 

「……気持ちいいですねぇ!」

 

 泉も、嬉しそうに頷いた。

 

「本当に! 今日もよく歩きましたからね」

 

 ラクスが、微笑んだ。

 

「塔のへつりも、とても綺麗でしたわね」

 

「はい!」

 

 泉は、少し照れくさそうだった。

 

「……私、吊り橋は渡れませんでしたけど」

 

 ラキシスが、優しく微笑んだ。

 

「ふふ。それでも、十分に楽しめましたでしょう?」

 

「……はい!」

 

 泉は、頷いた。

 

「皆さんと一緒でしたし、景色も綺麗でした!」

 

 アウクソーも、穏やかに頷いた。

 

「無理をなさらなかったのは、良いご判断だったと思います」

 

「……ありがとうございます」

 

 泉は、少し嬉しそうだった。

 

 その時。

 

 弥子が、何かを思い出したように声を上げた。

 

「……そういえば!」

 

 ラクスが、振り向く。

 

「どうなさいました?」

 

「明日の朝ご飯も、ビュッフェですよね?!」

 

「…………」

 

 泉が、少し固まった。

 

「……弥子ちゃん?」

 

「はい?」

 

「……さっき、夕食をいっぱい食べましたよね?」

 

「はい!」

 

「……もう、明日の朝ご飯の話?」

 

 弥子は、不思議そうだった。

 

「……え?」

 

 そして。

 

「だって、朝ご飯は朝ご飯ですから!!」

 

「…………」

 

 泉は、少し考えた。

 

 そして。

 

「……そ、そうですね……」

 

 ラキシスが、楽しそうに微笑んだ。

 

「ふふ。明日の朝食も楽しみですね」

 

 弥子が、嬉しそうに頷く。

 

「はい!!」

 

 ラクスは、少し笑った。

 

「まあ。お二人とも、本当にお食事がお好きなのですね」

 

「はい!」

 

 弥子は、満面の笑みだった。

 

「美味しいものを食べるのって、幸せですから!」

 

 ラキシスも、頷いた。

 

「ええ。本当に」

 

 アウクソーは、穏やかに微笑んでいた。

 

 ……一方。

 

 この会話を料理長が聞いていたら。

 

 恐らく、明日の朝食について真剣に作戦会議を始めていたことだろう。

 

 料理大艦隊、最後の防衛戦まで、あと一晩。

 

◆ A室、再び取材開始

 

 温泉を楽しみ終えた一行は、それぞれの部屋へと戻っていった。

 

 そして。

 

 A室。

 

 カイエン、露伴、ネウロの三人部屋。

 

「……ふぅ」

 

 カイエンは、浴衣姿で部屋へ戻ってきた。

 

「……さて」

 

 布団を見つめる。

 

「……今夜こそ、早く寝るかナ」

 

 昨日は、ほとんど寝られなかった。

 

 露伴の質問が、なかなか終わらなかったのである。

 

 しかも、ネウロが面白がって話題を広げる。

 

 カイエンが答える。

 

 露伴が興奮する。

 

 さらに質問が増える。

 

 ……その繰り返しだった。

 

 今日は午前中に本格的な剣術稽古。

 

 午後は観光。

 

 夜には花火まで楽しんだ。

 

 さすがに、疲れが溜まっている。

 

「……よし」

 

 カイエンは、布団へ向かおうとした。

 

 その時。

 

「……ところで、カイエン」

 

「…………」

 

 露伴が、手帳を開いた。

 

「今日の稽古について、いくつか聞きたいことがあるんだが」

 

「…………」

 

 カイエンは、ゆっくりと振り向いた。

 

「……露伴」

 

「何だ?」

 

「……明日じゃ駄目か?」

 

「……明日?」

 

「おう。今日は、もう寝てぇんだヨ」

 

 露伴は、少し考えた。

 

「……なるほど」

 

 そして。

 

「君が疲れているのは分かった」

 

「……おお」

 

 カイエンが、少し安心した。

 

 しかし。

 

「ならば、質問を絞ろう」

 

「…………」

 

 露伴は、手帳を見た。

 

「まず、今朝の稽古でXiに見せた隙についてだが……」

 

「…………」

 

 カイエンは、天井を仰いだ。

 

「……オイ」

 

 露伴が、顔を上げる。

 

「何だ?」

 

「質問を絞るんじゃなくて、今日は終わりにしてくれヨ!!」

 

 露伴は、少し驚いた。

 

「……そうなのか?」

 

「そうだヨ!!」

 

 ネウロが、横から愉快そうに笑った。

 

「ククク……どうやら、剣聖にも限界というものがあるらしいな」

 

 カイエンが、じろりと睨んだ。

 

「……テメェ」

 

 ネウロは、肩をすくめた。

 

「しかし、興味深いではないか」

 

「……何がだヨ」

 

「人に剣を教えるという行為が、貴様ほどの存在にも疲労をもたらすということだ」

 

「…………」

 

「実に人間らしい」

 

 露伴が、顔を上げた。

 

「……なるほど」

 

 カイエンが、嫌な予感を覚えた。

 

「……おい」

 

 露伴は、目を輝かせた。

 

「そうか! 強者の疲労というのも、面白い題材になるな!」

 

「…………」

 

 ネウロが、愉快そうに笑う。

 

「ククク……剣聖を題材に、一本描けそうではないか」

 

「……確かに!」

 

 露伴は、頷いた。

 

「カイエン。君が人に剣を教える時、どの程度自分の動きを抑えているのか、具体的に……」

 

「…………」

 

 カイエンは、静かに立ち上がった。

 

 そして。

 

 自分の枕を手に取った。

 

 露伴が、首を傾げた。

 

「……カイエン?」

 

「…………」

 

 カイエンは、もう一度ネウロを見た。

 

 ネウロは、楽しそうに笑っている。

 

 そして。

 

「……ああ。分かった」

 

 カイエンは、静かに頷いた。

 

「……何がだ?」

 

 露伴が、尋ねた。

 

 カイエンは、枕を抱えたまま答えた。

 

「今夜は、オレが場所を変えることにするヨ」

 

「……え?」

 

「……露伴。悪ぃナ」

 

 カイエンは、少し笑った。

 

「オマエの取材が面白ぇのは分かる。だが、今日はもう寝てぇんだ」

 

「…………」

 

 露伴は、少し驚いた。

 

 そして。

 

「……そうか」

 

 頷いた。

 

「そこまで疲れているのなら、仕方ないな」

 

「……おう」

 

「では、続きはまた日を改めよう」

 

「……助かるゼ」

 

 カイエンは、ようやく安心した。

 

 ……が。

 

 ネウロが、口を開いた。

 

「ククク……星団最強の剣聖が、取材を避けて退却か」

 

「…………」

 

 カイエンは、振り向いた。

 

 そして。

 

「退却じゃねぇ! 戦略的撤退だヨ!!」

 

 ネウロは、楽しそうに笑った。

 

「ほう。言い方を変えただけではないか?」

 

「うるせぇ!!」

 

 カイエンは、枕を抱えて部屋を出ていった。

 

 その後ろ姿を見送りながら。

 

 露伴が、ぽつりと呟いた。

 

「……しかし、惜しいな」

 

 ネウロが、振り向く。

 

「……何がだ?」

 

「剣聖本人から、もう少し話を聞きたかったんだが……」

 

 ネウロは、にやりと笑った。

 

「ククク……ならば、我が輩が別の視点から話してやろうか」

 

「……ほう?」

 

 露伴の目が、輝いた。

 

「それは面白そうじゃあないか!」

 

 そして。

 

 A室では、取材する者と、話題を無限に増やす者による夜の会話が始まった。

 

 ……聞き手と話し手の双方が、まったく疲れを知らない組み合わせ。

 

 ある意味では、最適な部屋割りだったのかもしれない。

 

◆ 剣聖、B室へ避難する

 

 一方。

 

 B室。

 

 こちらには、Xi、キラ、ソープの三人がいた。

 

 花火を楽しみ、温泉にも入り、あとは眠るだけ。

 

 そんな穏やかな時間だった。

 

「……はぁ」

 

 Xiは、布団の上で軽く伸びをした。

 

「……今日は本当に、いろいろあったね」

 

 キラが、微笑んだ。

 

「うん。楽しい一日だったね」

 

 ソープも、嬉しそうだった。

 

「ふふ。明日も楽しみだねぇ!」

 

 Xiは、頷いた。

 

「……うん」

 

 その時。

 

 こんこん。

 

 襖が、軽く叩かれた。

 

「……ん?」

 

 キラが、顔を上げた。

 

「……はい?」

 

 すると。

 

「……キラ」

 

 聞き覚えのある声がした。

 

「……悪ぃけど、ちっと相談があるんだヨ……」

 

「…………」

 

 Xiが、顔を上げた。

 

「……え?」

 

 キラが、襖を開ける。

 

 そこには。

 

 浴衣姿で、枕を抱えたカイエンが立っていた。

 

「…………」

 

 Xiが、固まった。

 

 そして。

 

「師匠?!」

 

 ソープも、目を丸くした。

 

「あれ? カイエン、どうしたの?」

 

 カイエンは、少し疲れた顔で答えた。

 

「……頼む」

 

 そして。

 

「今日は熟睡させてくれヨ……」

 

「…………」

 

 しばしの沈黙。

 

 Xiが、ゆっくりと口を開いた。

 

「……師匠」

 

「……何だヨ」

 

「……ついに逃げてきたの?」

 

「逃げたんじゃねぇ! 戦略的撤退だって言ってんだろ!!」

 

「…………」

 

 Xiは、少し考えた。

 

「……誰に?」

 

 カイエンが、即答した。

 

「露伴とネウロに決まってんだろうがヨ!!」

 

「…………」

 

 Xiは、思わず吹き出した。

 

「……やっぱり!」

 

 カイエンは、深々とため息をついた。

 

「……ったく。昨日も散々質問攻めだったんだ」

 

「……うん」

 

「今日は朝からオマエに剣を教えて、午後は歩き回って、夜は花火だろ?」

 

「……うん」

 

「そりゃ、オレだって疲れるってもんだヨ……」

 

 Xiは、少し申し訳なさそうに微笑んだ。

 

「……うん。そうだよね」

 

 キラが、心配そうに尋ねた。

 

「……大丈夫ですか、カイエンさん?」

 

「……おう。身体は平気だ」

 

 カイエンは、頷いた。

 

「……ただナ」

 

「……はい?」

 

「……今日は、静かに寝てぇんだヨ」

 

 キラは、少し考えた。

 

「……なるほど」

 

 すると、カイエンが続けた。

 

「……悪ぃけど、キラ」

 

「……はい?」

 

「……部屋、替えてもらえねぇか?」

 

「…………」

 

 キラが、ぴたりと止まった。

 

「……え?」

 

 カイエンは、枕を抱えたまま続けた。

 

「いや、駄目ならオレがこっちに来るだけでもいいんだけどヨ……」

 

「…………」

 

 キラは、少し考えた。

 

 A室。

 

 岸辺露伴。

 

 脳噛ネウロ。

 

 ……そして。

 

 露伴先生が、自分を見た時に何を聞くか。

 

 その光景が、容易に想像できてしまった。

 

 露伴『ところでキラ。君が乗っていたモビルスーツについて詳しく聞きたいんだが……』

 

 露伴『ストライクフリーダムの操縦感覚は?』

 

 露伴『あの戦争で、君は何を考えていた?』

 

 ネウロ『ククク……では、次は戦場での心理状態について語ってもらおうか』

 

「…………」

 

 キラは、静かに首を横に振った。

 

「……あの」

 

 カイエンが、顔を上げた。

 

「……ん?」

 

「……僕がA室に移るのは、ちょっと……」

 

「…………」

 

 Xiが、キラを見た。

 

「……キラ?」

 

 キラは、少し困ったように微笑んだ。

 

「……露伴さん、僕にもいろいろ質問したがりそうだから」

 

「…………」

 

 Xiは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……ああ!!」

 

 大きく頷いた。

 

「そうか!! キラが代わりに取材されちゃう!!」

 

 カイエンも、少し考えた。

 

 そして。

 

「……ああ」

 

 ゆっくりと頷いた。

 

「……そりゃ、悪ぃこと言ったナ」

 

 キラは、苦笑した。

 

「いえ……」

 

 すると。

 

 ソープが、にこにこしながら手を挙げた。

 

「じゃあ、僕がA室に行こうか?」

 

「…………」

 

 Xiが、ぴたりと止まった。

 

「……陛下?」

 

「うん!」

 

 ソープは、嬉しそうだった。

 

「露伴もネウロも、面白い話をいっぱい知ってそうだし!」

 

「…………」

 

 Xiは、少し考えた。

 

 そして。

 

「駄目!!」

 

 ソープが、目を丸くした。

 

「えー?」

 

「陛下がA室に行ったら、絶対に話が終わらなくなる!!」

 

 カイエンが、笑った。

 

「ハハッ! 確かにナ!」

 

 Xiは、続けた。

 

「科学の話から星団の歴史、魔界の話まで始まったら、朝まで終わらないよ!!」

 

 キラが、苦笑した。

 

「……確かに」

 

 ソープは、少し残念そうだった。

 

「……そっかぁ」

 

 Xiは、深く息を吐いた。

 

「……それに」

 

 少し考えた。

 

「……陛下が朝まで寝なかったなんてことになったら、ログナー司令になんて説明すればいいの……」

 

「…………」

 

 カイエンが、にやりと笑った。

 

「ハハッ! そいつは面倒だナ!」

 

 Xiは、頷いた。

 

「でしょ?!」

 

 そして。

 

 キラが、何かを思いついたように声を上げた。

 

「……そうだ」

 

 Xiが、振り向いた。

 

「……何?」

 

「この部屋、少し広いよね」

 

「……うん」

 

「……旅館の方に確認して、四人で使わせてもらえないかな?」

 

「…………」

 

 Xiが、目を丸くした。

 

「……あっ!」

 

 そして、笑顔になった。

 

「……それだ!!」

 

 カイエンも、顔を上げた。

 

「……お?」

 

 キラは、微笑んだ。

 

「部屋を替えるんじゃなくて、カイエンさんがこちらで一緒に休めればいいですよね」

 

 ソープも、嬉しそうだった。

 

「うん! それがいいねぇ!」

 

 Xiも、頷いた。

 

「……うん!」

 

 カイエンは、少し驚いた。

 

 そして。

 

「……おお」

 

 嬉しそうに笑った。

 

「……そいつはありがてぇ!」

 

 こうして。

 

 キラは、旅館のフロントへ相談することになった。

 

◆ 四人目の布団

 

 しばらくして。

 

「……大丈夫だって!」

 

 キラが、嬉しそうに戻ってきた。

 

 Xiが、顔を上げる。

 

「……本当?」

 

「うん!」

 

 キラは、頷いた。

 

「この部屋なら、四人目の布団を敷いても問題ないそうだよ」

 

「……良かった!」

 

 Xiは、嬉しそうに笑った。

 

 ソープも、にこにこしていた。

 

「うん! みんなで寝られるね!」

 

 カイエンは、ほっと息を吐いた。

 

「……おお。助かったゼ……」

 

 旅館のスタッフが、追加の布団を用意してくれた。

 

 部屋の中には、四組の布団。

 

 Xi。

 

 キラ。

 

 ソープ。

 

 そして、カイエン。

 

 B室は、少し賑やかになった。

 

 ……もっとも。

 

 賑やかといっても、A室とはまるで事情が違う。

 

「……ふぅ」

 

 カイエンは、布団を眺めた。

 

「……ありがてぇ……」

 

 Xiが、笑った。

 

「……師匠、そんなに嬉しい?」

 

「おう!」

 

 カイエンは、即答した。

 

「今夜は、ちゃんと寝られそうだからナ!!」

 

 ソープが、嬉しそうに笑った。

 

「ふふ。良かったね、カイエン!」

 

「……おう」

 

 カイエンは、しみじみと頷いた。

 

「……まさか、温泉旅行で寝床の心配をすることになるとはナ……」

 

 Xiは、思わず吹き出した。

 

「……本当にね」

 

 その時。

 

 カイエンが、ふと思い出したようにキラを見た。

 

「……そういや、キラ」

 

「……はい?」

 

「……オマエ、何か持ってなかったか?」

 

「……え?」

 

「……何つったかな。寝る時にいいっていう……」

 

「…………」

 

 キラは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……ああ!」

 

 手を叩いた。

 

「乳酸菌飲料と、GABAチョコですね!」

 

「それだ!!」

 

 カイエンが、嬉しそうに顔を上げた。

 

 Xiが、目を丸くした。

 

「……師匠、それ覚えてたんだ?」

 

「おう!」

 

 カイエンは、頷いた。

 

「昨日から気になってたんだヨ!」

 

 キラは、自分の荷物を開いた。

 

「まだありますよ」

 

「……おお!」

 

 キラは、冷やしておいた乳酸菌飲料を一本取り出した。

 

「どうぞ」

 

「……ありがてぇ!」

 

 さらに、小袋に入ったGABAチョコも差し出す。

 

「こちらも、どうぞ」

 

 カイエンは、それらを受け取った。

 

「……おお」

 

 そして。

 

 しみじみと、眺めた。

 

「…………」

 

 Xiが、少し笑った。

 

「……師匠?」

 

 カイエンは、ゆっくりと口を開いた。

 

「……まさかナ」

 

「……ん?」

 

「……オレが、こんなもんをありがたがる日が来るとは思わなかったゼ……」

 

「…………」

 

 Xiは、思わず吹き出した。

 

「……師匠!」

 

 キラが、少し困ったように微笑んだ。

 

「これで必ず眠れるわけではありませんけど、よかったら」

 

 カイエンは、頷いた。

 

「……おう。ありがたくいただくゼ」

 

 そして。

 

 乳酸菌飲料を、一口飲んだ。

 

「…………」

 

 少し考える。

 

「……ほう」

 

 Xiが、尋ねた。

 

「……どう?」

 

 カイエンは、頷いた。

 

「……悪くねぇナ」

 

 キラが、微笑んだ。

 

「それなら良かったです」

 

 カイエンは、残りも飲み終えた。

 

 そして。

 

「……さて」

 

 布団に腰を下ろす。

 

「……今夜は、ゆっくり寝るかナ」

 

 その時。

 

 ソープが、何かを思いついたように顔を上げた。

 

「……ねえ、カイエン」

 

「……ん?」

 

「せっかくだから、僕も何か安眠に役立つものを……」

 

「陛下!!」

 

 Xiが、即座に止めた。

 

 ソープが、目を丸くする。

 

「……え?」

 

 Xiは、深く頷いた。

 

「要らないから!!」

 

「……えー?」

 

「今日の師匠に必要なのは、静かな部屋と普通の布団だけだから!!」

 

 カイエンも、頷いた。

 

「……おう」

 

 そして、しみじみと呟いた。

 

「普通に寝られりゃ、それでいいんだヨ……」

 

「…………」

 

 Xiは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……師匠」

 

「……何だ?」

 

「……今日のその言葉、すごく説得力あるね」

 

 カイエンは、深く頷いた。

 

「……だろ?」

 

 キラは、思わず笑ってしまった。

 

 ソープも、楽しそうだった。

 

「ふふ。じゃあ、今夜は普通に寝ようね!」

 

「……おう」

 

 Xiは、ほっとした。

 

 ……これで、ひと安心。

 

 の、はずだった。

 

◆ 剣聖、ようやく安眠する

 

 やがて。

 

 部屋の明かりが落とされた。

 

 四人それぞれの布団。

 

 静かな夜。

 

 遠くからは、川の流れる音が微かに聞こえる。

 

「…………」

 

 カイエンは、布団に横になった。

 

 そして、天井を見上げた。

 

「……静かだナ……」

 

 Xiが、少し笑った。

 

「……うん」

 

 キラも、頷いた。

 

「……そうですね」

 

 カイエンは、目を閉じた。

 

「……誰も質問してこねぇ……」

 

「…………」

 

 Xiは、思わず吹き出しそうになった。

 

 カイエンは、続けた。

 

「……誰も、オレの過去を聞かねぇ……」

 

「……うん」

 

「……誰も、剣技の理屈を説明しろって言わねぇ……」

 

「…………」

 

 Xiは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……師匠」

 

「……ん?」

 

「……本当に、お疲れさま」

 

 カイエンは、少し笑った。

 

「……おう」

 

 しばらく、静かな時間が流れた。

 

 やがて。

 

「……Xi」

 

「……何?」

 

 カイエンが、小さく声を掛けた。

 

「……今日の稽古、どうだった?」

 

「…………」

 

 Xiは、少し驚いた。

 

 そして、微笑んだ。

 

「……すごく楽しかったよ」

 

「……そうか」

 

「……うん」

 

 Xiは、続けた。

 

「……まだまだ全然、師匠には敵わないけど」

 

「……おう」

 

「……でも、昨日より少しだけ、分かることが増えた気がする」

 

「…………」

 

「……だから」

 

 Xiは、微笑んだ。

 

「……明日も、よろしくね」

 

 カイエンは、少し黙っていた。

 

 そして。

 

「……ハハッ」

 

 小さく笑った。

 

「……おう」

 

 続けた。

 

「明日も、ちっとは鍛えてやるヨ」

 

「……うん!」

 

 Xiは、嬉しそうに頷いた。

 

 その隣で、ソープも微笑んでいた。

 

「ふふ。明日も楽しみだねぇ」

 

 キラも、頷いた。

 

「うん。でも、今日はもう休みましょう」

 

「……そうだね」

 

 Xiは、目を閉じた。

 

 そして。

 

「……おやすみ、師匠」

 

「……おう」

 

 カイエンは、静かに答えた。

 

「……おやすみ」

 

 しばらくして。

 

「……すぅ……」

 

 カイエンの寝息が聞こえ始めた。

 

 Xiは、そっと目を開けた。

 

「…………」

 

 隣を見る。

 

 カイエンは、すっかり眠っていた。

 

「……あ」

 

 Xiが、小さく呟いた。

 

「……寝たね」

 

 キラが、微笑んだ。

 

「……うん」

 

 ソープも、嬉しそうだった。

 

「ふふ。良かったねぇ」

 

 Xiは、静かに頷いた。

 

「……うん」

 

 星団最強の騎士。

 

 剣聖ダグラス・カイエン。

 

 午前中は、Xiを相手に本格的な剣術稽古。

 

 午後は、塔のへつりを観光。

 

 夜には、すえぞうへ謎の美学を伝授し、花火まで楽しんだ。

 

 そして。

 

 今は、静かな部屋で眠っている。

 

「…………」

 

 Xiは、少し微笑んだ。

 

 今日一日。

 

 カイエンは、ずっと自分のために時間を使ってくれた。

 

 教えるという、普段とは違うことをして。

 

 自分の動きを見て。

 

 少しずつ成長できるように、導いてくれた。

 

 ……だから。

 

 今夜ぐらいは。

 

 ゆっくり休んでほしい。

 

「……ありがとう、師匠」

 

 Xiは、小さく呟いた。

 

 もちろん、返事はなかった。

 

 カイエンは、もう眠っている。

 

 それでいい。

 

 Xiは、静かに目を閉じた。

 

 ……こうして。

 

 剣術合宿、二日目の夜。

 

 星団最強の剣聖は、ようやく安眠を手に入れたのだった。

 

◆ 一方、その頃のA室

 

「……なるほど」

 

 岸辺露伴が、手帳を見つめていた。

 

「……つまり、君たち魔人にとって、人間の精神活動とは……」

 

 ネウロが、愉快そうに笑う。

 

「ククク……それは少し違うな」

 

「……ほう?」

 

「貴様の理解では、まだ足りぬ」

 

「……面白いじゃあないか!」

 

 露伴は、目を輝かせた。

 

「では、もう少し詳しく聞かせてもらおう!」

 

 ネウロは、にやりと笑った。

 

「よかろう。だが、我が輩からも一つ質問がある」

 

「……何だ?」

 

「貴様は、なぜそこまで他人の人生に興味を持つ?」

 

「…………」

 

 露伴は、少し考えた。

 

 そして。

 

「……決まっているだろう」

 

 笑った。

 

「面白い漫画を描くためだよ!」

 

 ネウロが、愉快そうに笑う。

 

「ククク……実に人間らしい欲望だな」

 

 露伴は、胸を張った。

 

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 

 ……こうして。

 

 A室では、漫画家と魔人による、奇妙な対談が続いていた。

 

 お互いが質問し。

 

 お互いが答え。

 

 さらに新しい話題が生まれる。

 

 しかし。

 

 今夜は、誰も困っていなかった。

 

 ……何しろ。

 

 眠りたい人間は、既に別の部屋へ逃げているのだから。

 

 そしてB室では。

 

「……すぅ……」

 

 剣聖ダグラス・カイエンが、気持ちよさそうに眠っていた。

 

 その寝顔は、どんな強敵を打ち倒した時よりも。

 

 どこか、満足そうだった。

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