守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
◆ 剣聖、三日目の朝を迎える
福島県会津若松市、芦ノ牧温泉。
剣術合宿、三日目の朝。
山々の向こうから昇った朝日が、大川の渓谷を柔らかく照らしていた。
旅館の窓からは、穏やかな川の流れが見える。
鳥の声。
朝の澄んだ空気。
そして、B室。
「……ふぁぁぁぁ……」
大きな欠伸をしながら、一人の男が目を覚ました。
星団最強の騎士。
剣聖ダグラス・カイエンである。
「…………」
カイエンは、しばらく天井を眺めていた。
そして。
「……おお」
ゆっくりと上体を起こした。
「……寝たナ」
少し考える。
「…………」
さらに、もう一度。
「……よく寝たゼ……!」
その声に、隣の布団からXiが顔を出した。
「……おはよう、師匠」
「おう! おはよう!」
Xiは、少し驚いた。
「……今日は元気だね」
カイエンは、にやりと笑った。
「ハハッ! 当たり前だろ!」
軽く肩を回す。
「……いやぁ、久しぶりにぐっすり眠れたゼ!」
Xiも、嬉しそうに笑った。
「……それは良かった!」
その横で、キラ・ヤマトが目を覚ました。
「……おはようございます」
「おう! キラ!」
カイエンは、嬉しそうに振り向いた。
「昨日は助かったゼ!」
「……いえ」
キラは、微笑んだ。
「よく眠れたなら何よりです」
「おう!」
そして。
「乳酸菌飲料とチョコも、ありがとナ!」
キラは、少し笑った。
「お役に立てたなら嬉しいです。でも、きちんと休める環境の方が大切ですからね」
「……そうだナ!」
カイエンは、大きく頷いた。
「誰にも質問されずに眠れるってのが、こんなにありがてぇとはナ!!」
Xiが、吹き出した。
「……師匠!」
その時。
「ふぁぁ……」
最後に、ソープが目を覚ました。
「……おはよう、みんな」
「……おはようございます、陛下」
Xiが、微笑む。
ソープは、カイエンを見た。
「あれ? カイエン、元気だねぇ!」
「おう!」
カイエンは、嬉しそうに笑った。
「ハハッ! おかげさまでナ!」
ソープも、にこにこしている。
「ふふ。良かったね!」
Xiは、四人の布団を見渡した。
昨夜、急遽一組増えた布団。
それだけで、星団最強の剣聖がようやく安眠を手に入れたのだ。
……もっとも。
この男が静かな夜を必要としていた原因は、もう一つの部屋にある。
「……ところで、師匠」
「……ん?」
「……露伴先生たち、昨日も遅かったのかな?」
「…………」
カイエンが、少し考えた。
そして。
「……知らねぇ」
「……え?」
「知らねぇし、知りたくもねぇヨ!!」
Xiは、思わず大笑いした。
「……あははは!!」
キラも、苦笑した。
ソープは、嬉しそうに言った。
「でも、露伴もネウロも、話が合ってるみたいだねぇ!」
「……だろうナ」
カイエンは、しみじみと頷いた。
「あいつら二人で好きなだけ話してりゃいいんだヨ!!」
こうして、B室には実に平和な朝が訪れた。
……ちなみに。
A室では。
露伴「……なるほど。魔界における精神構造と、人間のそれは根本から……」
ネウロ「ククク……貴様の推測も、少しは面白くなってきたな」
露伴「……おいおいおいおい! まだ話があるのか?!」
ネウロ「貴様こそ、我が輩に聞きたいことがあるのだろう?」
露伴「……当然だ!」
……こちらも、ある意味では非常に平和だった。
ただし、睡眠時間については考慮しないものとする。
◆ 三日目の朝風呂
「……よし!」
カイエンが、立ち上がった。
「せっかくだ。朝風呂に行くか!」
Xiが、顔を上げた。
「……いいね!」
キラも、微笑んだ。
「うん。朝食まで少し時間がありますしね」
ソープが、嬉しそうに頷く。
「行こう、行こう!」
こうして四人は、大浴場へと向かった。
湯気の向こうには、大きな窓。
朝日に照らされた山々と、渓谷。
静かな朝の景色が広がっている。
「……はぁぁぁ……!」
カイエンが、湯船に浸かって大きく息を吐いた。
「……やっぱり、いいナ……」
Xiも、隣で肩まで湯に浸かる。
「……うん。最高だね」
ソープは、朝の景色を眺めていた。
「へぇ。夜とはまた雰囲気が違うねぇ」
キラも、頷いた。
「うん。朝の温泉って気持ちいいね」
しばらく、四人は静かに湯に浸かっていた。
……誰も、質問しない。
誰も、剣技の詳しい解説を求めない。
誰も、ジョーカー星団の歴史を聞こうとしない。
「…………」
カイエンは、目を閉じた。
そして。
「……平和だナ……」
Xiが、思わず笑った。
「……師匠、しみじみ言うね」
「おう」
カイエンは、頷いた。
「……温泉ってのは、こういうもんだろ?」
キラも、微笑んだ。
「そうですね。疲れを取るために来ているんですから」
「……おう!」
カイエンは、満足そうだった。
その時。
Xiが、少し考えた。
「……でも、師匠」
「……ん?」
「……今日で合宿も最後なんだね」
カイエンは、Xiを見た。
「……おう」
「……なんか、あっという間だったなぁ」
カイエンは、少し笑った。
「ハハッ! そりゃ、いろいろあったからナ!」
「……うん」
Xiは、頷いた。
「カツ丼を食べて、温泉に入って、卓球して……」
「……おう」
「剣術の稽古をして、塔のへつりへ行って……」
「……おう」
「……すえぞうがロウソクに火をつけて」
「ハハッ! あれは決まったナ!」
Xiは、苦笑した。
「……そこ、まだ気に入ってるんだ」
カイエンは、にやりと笑った。
「当たり前だろ! ロッケンロー!!」
「師匠!! 大浴場で叫ばないで!!」
キラが、慌てて周囲を見た。
「……カイエンさん、ほかのお客様もいらっしゃいますから……」
「……おおっと。悪ぃ悪ぃ」
ソープは、楽しそうに笑っている。
Xiは、深いため息をついた。
……せっかく熟睡して調子を取り戻した剣聖は、早速いつもどおりである。
だが。
それも、少し嬉しかった。
「……ねえ、師匠」
「……何だ?」
「……今日の稽古も、楽しみにしてるよ」
カイエンは、にやりと笑った。
「……おう!」
そして。
「今日は、最後にちっと違うことをやるゼ」
「……違うこと?」
「おう」
カイエンは、頷いた。
「木剣じゃなくてナ」
「…………」
Xiが、顔を上げた。
「……え?」
ソープも、にこにこしている。
「ふふ。昨日、少し相談しておいたんだ」
Xiは、目を丸くした。
「……何を?」
カイエンが、笑った。
「……ま、楽しみにしとけヨ」
「…………」
Xiは、少し考えた。
そして。
「……師匠」
「……何だ?」
「……まさか」
嫌な予感がした。
「……MBT?」
「違ぇヨ!!」
カイエンが、即答した。
キラも、思わず吹き出した。
「……Xi、もう条件反射になってるね」
「……だって!」
Xiは、少し困ったように笑った。
「……師匠が『違うこと』って言うと、ちょっと怖いんだよ」
カイエンは、苦笑した。
「……ったく」
そして、にやりと笑った。
「安心しろ。今日も地形は壊さねぇヨ!」
「今日『も』じゃなくて、毎回壊さないで!!」
朝の大浴場に、明るい笑い声が響いた。
◆ 女湯、最後の朝
一方、女湯。
ラクス、ラキシス、弥子、泉、アウクソー、バクスチュアルの六人も、朝の温泉を楽しんでいた。
「……はぁぁ……」
弥子が、気持ちよさそうに息を吐いた。
「……やっぱり温泉っていいですねぇ!」
泉も、嬉しそうに頷いた。
「本当に! 帰るのが惜しくなっちゃいますね」
ラクスが、微笑んだ。
「ええ。とても素敵な旅館でしたわね」
ラキシスも、頷いた。
「ふふ。皆様と一緒に過ごせて、楽しかったです」
アウクソーが、穏やかに微笑む。
「ラキシス様も、随分とお楽しみになられましたね」
「ええ、アウクソー姉様」
ラキシスは、嬉しそうだった。
「ソープ様と、皆様のおかげです」
バクスチュアルも、小さく頷いた。
「ウン。良イ、旅」
そして。
「Xiサン。稽古、頑張ッタ」
ラキシスは、優しく微笑んだ。
「ええ。本当によく頑張っていますね」
アウクソーも、頷いた。
「マスターも、あれほど熱心に剣を教えられるのは珍しいことです」
泉が、驚いた。
「……えっ? そうなんですか?」
「はい」
アウクソーは、穏やかに答えた。
「マスターは剣の達人ですが、人に教えるために二日間も時間を使われる機会は、そう多くありませんので」
ラクスが、微笑んだ。
「ふふ。Xiさんの努力が、カイエンさんにも伝わっているのでしょうね」
バクスチュアルが、静かに頷いた。
「自分デ、選ンダ。ソレガ、大切」
ラキシスも、微笑んだ。
「ええ。Xiさんがご自分で望まれた稽古ですものね」
しばし、穏やかな沈黙が流れた。
その時。
「……あっ!」
弥子が、何かを思い出したように声を上げた。
「……そういえば!」
泉が、振り向く。
「……どうしたの?」
「朝ご飯!!」
「…………」
泉が、固まった。
「……え?」
弥子は、嬉しそうだった。
「今日が最後の朝食ビュッフェですよね!」
「……う、うん」
「今日は帰る日だから、しっかり食べておかないと!!」
「…………」
泉は、少し考えた。
「……弥子ちゃん」
「はい?」
「……昨日の朝も、随分食べてなかった?」
「はい!」
「……あれより、しっかり?」
弥子は、きょとんとした。
「……え?」
そして。
「だって、昨日は軽めでしたから!」
「…………」
泉は、言葉を失った。
その横で。
ラキシスも、楽しそうに微笑んだ。
「ふふ。私も、最後の朝食を楽しみにしております」
弥子が、嬉しそうに頷いた。
「ですよね!!」
ラクスは、少し笑った。
「まあ。お二人とも、本当にお食事がお好きなのですね」
アウクソーが、穏やかに頷いた。
「……厨房の皆様も、今日まで大変お世話になりましたね」
バクスチュアルも、小さく頷いた。
「感謝、必要」
弥子は、笑顔になった。
「はい! 今日も美味しくいただいて、ちゃんとお礼を言わないとですね!」
……その言葉は、非常に立派だった。
ただし。
これからどれだけ食べるつもりなのかは、誰も聞かなかった。
◆ 料理長、最後の出撃
一方。
旅館の厨房。
「……よし」
料理長が、腕を組んでいた。
目の前には、朝食ビュッフェの料理が並んでいる。
炊きたてのご飯。
味噌汁。
焼き魚。
卵料理。
煮物。
漬物。
パン。
サラダ。
ヨーグルト。
そして、朝食のデザート。
昨夜の大艦隊迎撃戦を乗り切った厨房は、今朝も万全の態勢を整えていた。
「……いいか、みんな」
料理長が、静かに言った。
「本日は、お客様方のチェックアウトの日だ」
「はい!」
「昨日の夕食も、見事に乗り切った」
「はい!」
「今日の朝食も、気持ちよく召し上がっていただこう」
「承知しました!」
スタッフたちは、力強く頷いた。
料理長は、続けた。
「ただし、今朝もほかのお客様が大勢いらっしゃる」
「はい!」
「特定のお客様だけに料理が偏らないよう、全体の補充状況をよく確認すること」
「承知しました!」
「それから、必要以上の作り置きはしない。温かい料理は、温かいうちに出そう」
「はい!」
料理長は、満足そうに頷いた。
そして。
「……よし」
静かに呟いた。
「最後まで、料理人としての仕事をしよう」
スタッフたちは、頷いた。
……料理長自慢の大艦隊。
天ぷら艦隊は、昨夜の激戦を終えている。
今朝の主力は、和食艦隊と洋食艦隊。
それぞれが、炊きたて、焼きたて、作りたての料理を擁し、万全の準備を整えていた。
そして。
午前七時。
食事会場の入口に。
見覚えのある一行が現れた。
「……わぁぁ!!」
元気な声。
満面の笑み。
そして、料理を見つめる輝く瞳。
桂木弥子である。
「今日も美味しそう!!」
その後ろでは、ラキシスも優雅に微笑んでいた。
「まあ。今朝も素晴らしいお料理ですね」
すえぞうが、元気よく鳴く。
「ゴハン!!」
「…………」
料理長は、厨房からその様子を見た。
そして。
「……来たな」
静かに呟いた。
スタッフが、頷く。
「……はい」
「……よし」
料理長は、深く息を吸った。
そして。
「朝食、大艦隊出撃!!」
……こうして。
旅館の厨房にとって、最後の防衛戦が始まった。
◆ 「しっかり」の意味
「……さて!」
弥子が、元気よく皿を手に取った。
「いただきまーす!」
まずは、ご飯。
焼き魚。
卵焼き。
煮物。
漬物。
そして、味噌汁。
それぞれを、美味しそうに選んでいく。
「……わぁ!」
Xiは、少し笑った。
「……弥子ちゃん、今日も元気だね」
「はい!」
弥子は、満面の笑みだった。
「今日は帰る日なので、しっかり食べます!」
「……うん」
Xiは、頷いた。
そして。
「……ちなみに、昨日の朝ご飯は?」
「……え?」
「……昨日も結構食べてたよね?」
「はい!」
弥子は、元気に答えた。
「でも、昨日は軽めでしたから!」
「…………」
Xiは、静かにキラを見た。
「……キラ」
「……うん」
「……やっぱり、そうだったみたい」
「…………」
キラは、少し考えた。
「……うん。聞いてたよ」
弥子は、楽しそうに料理を食べている。
「……んー!!」
焼き魚を一口。
続いて、ご飯。
「美味しい!!」
Xiは、少し笑った。
「……本当に美味しそうだね」
「はい!」
そして。
弥子は、あっという間に最初の皿を空にした。
「……ごちそうさまでした!」
キラが、微笑んだ。
「うん。美味しかったね」
「はい!」
弥子は、元気よく頷いた。
そして。
「……さて!」
立ち上がった。
「…………」
Xiが、固まった。
「……弥子ちゃん?」
「はい?」
「……どこ行くの?」
弥子は、にっこり笑った。
「ご飯のおかわりです!」
「…………」
Xiは、少し考えた。
「……そうだよね」
キラも、頷いた。
「……うん。まだ最初の一皿だもんね」
弥子は、嬉しそうだった。
「そうですよ!」
その横で。
ラキシスも、上品に料理を楽しんでいた。
「……まあ」
味噌汁を一口。
「とても優しいお味ですね」
ソープが、嬉しそうに微笑む。
「うん! 美味しいねぇ!」
ラキシスは、微笑んだ。
「はい、ソープ様」
そして。
「……すみません。こちらのお料理も、少しいただいてよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ!」
スタッフが、笑顔で応じる。
ラキシスは、優雅に一礼した。
「ありがとうございます」
……こうして。
弥子とラキシスは、実に楽しそうに朝食をいただいていた。
その横で。
「ハラヘッタ!!」
すえぞうも、元気いっぱいだった。
アウクソーが、微笑む。
「すえぞう、順番ですよ」
「うっす!」
バクスチュアルも、頷いた。
「慌テナイ。食ベル」
「うっす!」
Xiは、少し笑った。
「……すえぞうも、本当に元気だね」
カイエンが、笑った。
「ハハッ! いいことじゃねぇかヨ!」
その時。
弥子が、再び戻ってきた。
皿の上には、ご飯と新しいおかず。
「……さて!」
Xiが、顔を上げた。
「……弥子ちゃん」
「はい?」
「……今度は何を食べるの?」
弥子は、嬉しそうに笑った。
「和食をもう一周してから、洋食に行こうと思います!」
「…………」
Xiは、静かにキラを見た。
「……キラ」
「……うん」
「……まだ和食が終わってなかったね」
「……うん」
キラは、苦笑した。
「……でも、食べ残さないで楽しんでくれるなら、いいことだよ」
「……そうだね」
Xiは、頷いた。
……食べる量は、確かに規格外だった。
しかし、弥子は食べ物を無駄にしない。
それは、見ていて気持ちの良いことでもあった。
◆ 和食艦隊、善戦
厨房では、スタッフが補充状況を確認していた。
「……料理長」
「……ん?」
「ご飯の減りが、少し早いです」
「……そうか」
料理長は、頷いた。
「では、炊き上がった次の分を準備しよう」
「はい!」
「焼き魚は?」
「順調です!」
「味噌汁は?」
「次の鍋が準備できています!」
「……よし」
料理長は、満足そうだった。
すると。
「……料理長」
別のスタッフが、声を掛けた。
「……ん?」
「卵料理も、よく出ています」
「……分かった。次の分を作ろう」
「はい!」
じゅわっ。
厨房に、卵の焼ける香りが広がる。
料理長は、鍋の様子を確認しながら頷いた。
「……いい仕上がりだ」
スタッフも、嬉しそうだった。
「はい!」
料理長は、少し笑った。
「……やはり、朝から美味しそうに召し上がってくださるのは、嬉しいものだな」
「……はい!」
そして。
「……ただし」
料理長は、静かに続けた。
「ほかのお客様の分も、きちんと確保することを忘れるなよ」
「承知しました!」
……和食艦隊。
炊飯部隊、健在。
焼き魚部隊、健在。
卵料理部隊、増援投入。
煮物部隊、補充完了。
全艦、戦線維持!!
だが。
食事会場では、次なる動きが始まっていた。
◆ 洋食艦隊、迎撃開始!
「……ふぅ!」
弥子が、満足そうに息を吐いた。
「和食、美味しかったぁ!」
Xiが、少し安心した。
「……良かったね」
「はい!」
そして。
「……さて!」
弥子は、立ち上がった。
「…………」
Xiが、目を閉じた。
「……洋食だね」
「はい!!」
弥子は、満面の笑みだった。
「パンも、ソーセージも、オムレツも美味しそうですから!」
キラが、苦笑した。
「……そうだね」
ラキシスも、微笑んだ。
「ふふ。私もご一緒しましょうかしら」
「はい!」
二人は、仲良く洋食コーナーへ向かった。
その様子を見ていたソープが、嬉しそうに笑った。
「ラキシス、楽しそうだねぇ!」
Xiは、頷いた。
「……うん」
そして、少し考えた。
「……でも、陛下」
「何?」
「……姫様、本当にたくさん食べるね」
「うん!」
ソープは、嬉しそうだった。
「美味しいものがいっぱいあるからねぇ!」
「…………」
Xiは、少し笑った。
「……そうだね」
一方、厨房。
「……料理長!」
「……ん?」
「洋食のコーナーも、料理がよく出ています!」
「……よし」
料理長は、頷いた。
「パンは少量ずつ補充しよう。焼きたてを楽しんでいただきたいからな」
「はい!」
「ソーセージは?」
「次の分が準備できています!」
「オムレツは?」
「ご注文に合わせて焼いております!」
「……よし」
料理長は、腕を組んだ。
「……ここまで順調だな」
スタッフが、頷いた。
「はい!」
その時。
「……料理長」
「……ん?」
「……例のお客様、和食のあとに洋食を召し上がっているそうです」
「…………」
料理長は、少し考えた。
「……ほう」
そして。
「……そうか」
静かに頷いた。
「……よほど、美味しく召し上がってくださっているんだな」
「……はい!」
料理長は、微笑んだ。
「……それなら、最後まで美味しいものをお出ししよう」
スタッフも、嬉しそうに頷いた。
「承知しました!」
……洋食艦隊。
パン部隊、増援投入。
ソーセージ部隊、迎撃成功。
オムレツ部隊、注文に応じて逐次出撃。
こちらも、防衛線を維持!!
そして。
朝食の終了時間が近づいた頃。
「……ごちそうさまでしたぁ!!」
弥子が、満面の笑みで両手を合わせた。
ラキシスも、優雅に一礼する。
「とても美味しかったです。ありがとうございました」
すえぞうも、元気よく鳴いた。
「ウマイ!!」
スタッフが、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます!」
Xiは、ほっと息を吐いた。
「……良かった」
キラも、頷いた。
「……うん。みんな、満足したみたいだね」
そして。
厨房では。
「……料理長」
「……ん?」
「……朝食、無事に終了しました」
「…………」
料理長は、しばらく黙っていた。
そして。
「……そうか」
深く息を吐いた。
「……全てのお客様に、問題なくお料理を提供できたな?」
「はい!」
「……食べ残しは?」
「ほとんどありません!」
「……品質は?」
「最後まで維持できました!」
「…………」
料理長は、満足そうに微笑んだ。
「……よし」
そして。
「全艦隊、無事帰還!!」
「はい!!」
厨房のスタッフたちが、嬉しそうに笑った。
……こうして。
料理長自慢の大艦隊は、三日間の激戦を見事に乗り切った!!
弥子。
ラキシス。
すえぞう。
三名の旺盛な食欲を前にしても、最後まで美味しい料理を提供し続けたのである。
しかも、ほかのお客様へのサービスも滞らせることなく。
食材を無駄にすることもなく。
料理長は、静かに頷いた。
「……いい仕事だったな」
スタッフも、微笑んだ。
「……はい!」
そして。
料理長が、ふと窓の外を見た。
「……ところで」
「……はい?」
「……あのお客様方は、今日お帰りになるんだったな?」
「はい」
「……そうか」
料理長は、少し寂しそうに笑った。
「……また、来てくださるといいな」
スタッフも、頷いた。
「ええ!」
……ただし。
もし本当に再訪することになったら。
その時は、今回の記録を参考に、さらに補充計画を練り直すことになるだろう。
料理長の戦いは、次の来訪まで一時休戦となったのである。
◆ 三日目、最後の稽古へ
朝食を終えた一行は、荷物をまとめ、旅館のスタッフへ礼を伝えた。
「三日間、お世話になりました!」
キラが、丁寧に頭を下げる。
スタッフも、笑顔で応じた。
「こちらこそ、ありがとうございました!」
弥子も、元気よく頭を下げた。
「お料理、全部美味しかったです!!」
その言葉を聞いて、近くにいた料理長が嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。またぜひ、お越しください」
「はい!!」
ラキシスも、優雅に一礼する。
「とても素晴らしいお食事でした。また伺いたいです」
「ありがとうございます」
すえぞうも、元気よく鳴いた。
「ウマイ!!」
料理長は、思わず笑ってしまった。
「ははは! ありがとうございます!」
……こうして、料理長の大艦隊を苦しめた三名は、満面の笑みで旅館を後にすることになった。
料理長も、心から喜んでいた。
……もちろん、再訪の際には、十分な準備を整えるつもりである。
さて。
荷物の大部分を預けた一行は、午前中最後の稽古のため、再び大川の河原へ向かった。
初日から使用している、安全を確認済みの場所である。
「……さて!」
カイエンが、軽く肩を回した。
「いよいよ、最後の稽古だナ!」
Xiが、笑顔で頷いた。
「……うん!」
その横で、ソープが細長いケースを運んできた。
「じゃあ、準備しようか」
「……ん?」
Xiは、首を傾げた。
「……陛下、それ何?」
ソープは、にこにこしている。
「ふふ。今日の稽古道具だよ」
「……稽古道具?」
「うん!」
そう言って、ケースを開けた。
中には。
細身の剣が、三振り納められていた。
「…………」
Xiが、目を丸くした。
「……え?」
そして。
「スパッド?!」
ソープは、嬉しそうに頷いた。
「うん!」
カイエンが、にやりと笑った。
「ハハッ! 今日は木剣から、ちっと進んでもらうゼ!」
「…………」
Xiは、驚いた様子で剣を見つめた。
「……本物?」
「おう」
カイエンは、頷いた。
「ただし、今日はスタンモードだ」
「……スタン?」
「麻痺させるためのモードだヨ。通常の斬撃用じゃねぇ」
「…………」
Xiは、少し考えた。
「……でも、それって」
「おう?」
「……当たったら、やっぱり危ないよね?」
ソープが、頷いた。
「うん。だから、今回は模擬戦用の制限をかけてあるんだ」
そう言って、一振りを手に取った。
「スタンモードのまま、出力を最小限にしてある。それに、接触する前に有効打を判定して自動停止する補助機能も入れてあるんだよ」
Xiは、少し安心した。
「……なるほど」
アウクソーが、静かに説明を続けた。
「本来のスタンモードも、決して無害ではありません。
今回は安全のため、相手の身体へ直接作用させない設定でございます」
バクスチュアルも、頷いた。
「出力、制限。異常アレバ、即停止」
Xiは、二人を見た。
「……ありがとう」
アウクソーが、微笑んだ。
「はい。安全管理はお任せください」
カイエンは、木剣を置いた。
そして。
「……さて、Xi」
「……うん?」
「昨日までの木剣と、何が違うと思う?」
Xiは、少し考えた。
「……当たった時の危険性?」
「おう。それもある」
「……間合いも、少し変わるのかな?」
「そうだナ」
カイエンは、頷いた。
「それから、もう一つ」
「……何?」
「相手の剣を、いい加減に受けるわけにはいかねぇってことだヨ」
「…………」
Xiは、静かに頷いた。
昨日までの木剣では、軽く打たれても怪我をしない程度に加減してもらっていた。
しかし、スパッドは違う。
いくら安全対策を施していても、本来は危険な武器である。
そのことを忘れてはいけない。
「……分かった」
Xiは、剣を受け取った。
そして、静かに構えた。
「……よろしくお願いします!」
カイエンが、にやりと笑った。
「おう! じゃあ、始めるゼ!」
◆ 木剣から、スパッドへ
河原の中央。
Xiとカイエンが、向かい合っていた。
周囲から十分に距離を取り、安全な訓練範囲を確保してある。
アウクソーとバクスチュアルは、監視位置についていた。
ソープも、少し離れた場所から見守っている。
そして。
Xiは、スパッドを構えた。
「…………」
昨日までの木剣とは違う。
握った感触。
重心。
剣身の感覚。
どれも、少しずつ違っていた。
「……どうだ?」
カイエンが、尋ねた。
「……うん」
Xiは、ゆっくりと答えた。
「……やっぱり、木剣とは違うね」
「おう」
「……でも、持ちにくいわけじゃない」
「そうか」
カイエンが、笑った。
「じゃあ、ちっと動いてみろ」
「……うん!」
Xiは、軽く踏み込んだ。
剣を振る。
そして、構えを戻す。
もう一度、踏み込む。
足元を確認し、剣を動かす。
「…………」
カイエンは、その様子を見ていた。
やがて。
「……よし!」
満足そうに頷く。
「悪くねぇナ」
Xiが、顔を上げた。
「……本当?」
「おう。昨日までのことは、ちゃんと覚えてるみてぇだ」
「……うん!」
カイエンは、にやりと笑った。
「じゃあ、今度はオレが相手だ」
「……はい!」
二人が、向かい合う。
カイエンは、静かにスパッドを構えた。
その姿勢は、昨日までと変わらない。
無駄のない立ち方。
安定した重心。
そして、相手の動きを見逃さない目。
「……さて」
カイエンが、小さく笑った。
「来いヨ」
「……うん!」
Xiが、踏み込んだ。
ざっ。
スパッドが、空気を切る。
カイエンは、それを軽く受け流した。
そして。
すっ。
わずかに身体を動かす。
「……!」
Xiは、即座に反応した。
昨日までなら、そこで無理に追いかけていたかもしれない。
しかし、今日は違った。
足を止める。
重心を戻す。
そして、改めて間合いを測った。
「…………」
カイエンが、にやりと笑った。
「……ほう?」
Xiは、静かに構え直した。
「……まだ、行かないよ」
カイエンが、嬉しそうに笑った。
「ハハッ! そうかヨ!」
次の瞬間。
カイエンが、踏み込んだ。
「……!」
速い。
だが、Xiは慌てなかった。
カイエンの剣先ではなく、身体全体を見る。
足。
腰。
肩。
そして、剣。
右から来る。
そう判断した。
Xiは、身体をずらして受けようとした。
ところが。
すっ。
カイエンの剣筋が、わずかに変わった。
「……あっ!」
Xiの判断が、一瞬遅れる。
そして。
ピッ。
模擬戦用の有効打判定が鳴った。
Xiの肩へ届く寸前で、カイエンのスパッドが自動停止する。
「……一本だナ」
「……くっ!」
Xiは、悔しそうに顔をしかめた。
「……また読まれた!」
カイエンは、笑った。
「ハハッ! そう簡単にはいかねぇヨ!」
「……うん」
Xiは、少し考えた。
「……でも、師匠」
「何だ?」
「……最初の動きは、右から来るように見えた」
「おう」
「……でも、途中で変えたんだよね?」
カイエンは、にやりと笑った。
「……そうだ」
「……ああ」
Xiは、頷いた。
「……なるほど」
カイエンは、続けた。
「オマエがどう反応するかを見て、こっちも変えたんだヨ」
「……うん」
「相手の動きが見えたからって、それで全部決まるわけじゃねぇ」
Xiは、静かに頷いた。
「……そうだね」
「おう」
カイエンは、笑った。
「だから、最後まで気を抜くな」
Xiは、スパッドを握り直した。
「……分かった!」
そして。
「……もう一回、お願いします!」
カイエンが、嬉しそうに笑った。
「おう! いいゼ!!」
◆ 剣聖の剣は、まだ遠い
二度目。
三度目。
そして、四度目。
Xiは、何度もカイエンへ挑んだ。
だが。
結果は、すべてカイエンの勝利だった。
相手の間合いを見誤る。
わずかな重心移動に反応できない。
隙だと思って踏み込めば、逆に誘い込まれる。
そして。
何より。
カイエンの動きは、圧倒的に速かった。
「……はぁ……」
Xiは、息を整えた。
「……やっぱり、すごいね」
カイエンが、にやりと笑った。
「……おう?」
「……師匠の動き、全然無駄がない」
「ハハッ! そりゃそうだろ!」
Xiは、少し笑った。
「……うん」
そして、続けた。
「……でも、昨日よりは、何をされてるのか分かるようになった気がする」
カイエンは、嬉しそうだった。
「……そうかヨ」
「……うん」
Xiは、頷いた。
「……まだ、止められないけどね」
「……それでいいんだ」
「……え?」
カイエンは、少し真面目な顔になった。
「見えねぇものは、どうにもできねぇ」
「…………」
「だが、見えてきたなら、そこから考えられる」
Xiは、静かに聞いていた。
カイエンは、続けた。
「最初から全部できる必要なんざねぇんだヨ」
「……うん」
「まずは、何が起きたのか分かるようになれ」
そして、にやりと笑った。
「そっから先は、また稽古だナ!」
Xiは、嬉しそうに笑った。
「……うん!」
その様子を見ていたキラが、感心したように呟いた。
「……すごいですね」
ラクスが、振り向く。
「……キラ?」
「カイエンさん、Xiの成長に合わせて、攻撃の仕方を変えてるんです」
ラクスは、微笑んだ。
「まあ」
キラは、頷いた。
「最初から本気で動けば、Xiには何も見えない。だから、少しずつ速さや難しさを変えてるんですね」
露伴が、興味深そうに頷いた。
「……なるほど」
そして。
「おいおいおいおい! 強さを抑えることそのものが、高度な技術というわけか!!」
ネウロが、愉快そうに笑った。
「ククク……力を誇示するより、相手に合わせる方が難しい場合もあるということだな」
弥子も、嬉しそうに頷いた。
「カイエンさん、本当に良い先生ですね!」
アウクソーが、穏やかに微笑んだ。
「はい。マスターは、剣については本当に素晴らしい方ですから」
そして。
少しだけ、言葉を付け加えた。
「……剣については」
「…………」
カイエンが、振り向いた。
「……おい、アウクソー」
「はい、マスター」
「今の『剣については』って何だヨ?!」
アウクソーは、にっこり微笑んだ。
「ふふ。深い意味はございません」
「…………」
Xiが、思わず吹き出した。
「……あははは!!」
……星団最強の剣聖。
剣を握っている時は、本当に頼もしい。
ただし。
それ以外の場面での評価については、多少の議論の余地があるらしい。
◆ ソープ様との模擬戦
「……じゃあ」
ソープが、ゆっくりと立ち上がった。
「今度は、僕が相手をしようか」
Xiが、顔を上げた。
「……陛下?」
「うん!」
ソープは、にこにこしていた。
「せっかくだから、最後に一回やってみようよ」
「…………」
Xiは、少し緊張した。
カイエンも、にやりと笑っている。
「ハハッ! いいじゃねぇか!」
そして、Xiの肩を軽く叩いた。
「……行ってこいヨ」
「……うん!」
Xiは、頷いた。
そして。
ソープと向かい合った。
「……よろしくお願いします!」
「うん。よろしくね!」
ソープは、自然な姿勢でスパッドを構えた。
その姿勢は、昨日と同じだった。
無理がない。
力みもない。
どこか、隙だらけに見える。
「…………」
Xiは、静かに息を整えた。
……昨日の自分なら。
きっと、その隙へ飛び込んでいた。
だが、今は違う。
隙が見えるからといって、本当に攻撃が届くとは限らない。
相手が、そこへ誘っているかもしれない。
だから。
まずは、観察する。
「…………」
ソープが、微笑んだ。
「……どうしたの?」
「……考えてます」
「ふふ。いいねぇ!」
Xiは、ゆっくりと構えを変えた。
右側を、少しだけ開く。
わざと。
隙を作った。
「…………」
ソープは、静かにXiを見ている。
そして。
「……おっ」
小さく笑った。
「……なるほど」
Xiは、動かない。
ソープも、まだ動かない。
しばしの沈黙。
見学していた弥子が、小さく呟いた。
「……あれ?」
キラが、振り向く。
「……弥子ちゃん?」
「……二人とも、全然動きませんね」
キラは、微笑んだ。
「うん。でも、ちゃんと駆け引きしてるんだよ」
「……そうなんですか?」
カイエンが、嬉しそうに笑った。
「……おう!」
そして。
「Xiの奴、自分から誘ってやがるナ!」
露伴が、目を輝かせた。
「……ほう!」
その時。
ソープが、動いた。
すっ。
ほんのわずかな踏み込み。
Xiが見せた隙へ、剣先が向かう。
「……!」
Xiは、反応した。
だが。
すぐには打ち込まない。
ソープが動いた瞬間、その剣筋を見た。
そして。
ほんの一拍。
間を置いた。
次の瞬間。
ざっ!
Xiが、踏み込んだ。
昨日までのように、ただ速く打ち込むのではない。
相手の動きに合わせて、打ち込む場所を変える。
ソープの剣先が向いた、その反対側へ。
「……!」
ソープの目が、わずかに動いた。
そして。
かんっ!!
スパッド同士が、ぶつかった。
「…………」
Xiが、目を見開いた。
ソープは、確かに剣を動かした。
Xiの打ち込みを、受け止めるために。
しかし。
次の瞬間。
すっ。
ソープの身体が、わずかに回った。
「……あっ!」
Xiの剣が、受け流される。
同時に、ソープのスパッドが手元へ入り込んだ。
Xiは、思わず握り直そうとした。
だが、間に合わない。
かんっ!
Xiのスパッドが、弾かれた。
そして。
ピッ。
ソープの剣先が、Xiの胸元へ届く寸前で停止した。
「……一本だね」
「…………」
Xiは、しばらく動かなかった。
そして。
「……はぁぁ……!」
大きく息を吐いた。
「……また負けたぁ……!」
ソープは、楽しそうに笑った。
「ふふ。お疲れさま!」
Xiは、少し悔しそうに笑った。
「……ありがとうございます」
その時。
「……おい、Xi!」
カイエンが、声を掛けた。
「……師匠?」
カイエンは、にやりと笑っていた。
「……今の、見たか?」
「……え?」
「ソープに、ちゃんと受けさせたじゃねぇか!」
「…………」
Xiが、目を丸くした。
「……あっ」
カイエンは、嬉しそうだった。
「ハハッ! いいじゃねぇかヨ!」
ソープも、微笑んだ。
「うん。あれは受けないといけなかったね」
「…………」
Xiは、ソープを見た。
「……本当に?」
「うん!」
ソープは、頷いた。
「Xiが僕の動きに合わせて、打ち込む場所とタイミングを変えたからね」
「……ああ」
「だから、僕も受け方を変えたんだ」
Xiは、少し考えた。
そして。
「……そっか」
顔を上げた。
「……僕が、陛下を動かしたんだ」
ソープは、微笑んだ。
「そうだね!」
カイエンも、頷いた。
「おう!」
そして。
「昨日の半歩から、ちっと進んだナ!」
「…………」
Xiは、しばらく黙っていた。
そして。
嬉しそうに笑った。
「……うん!!」
もちろん。
ソープは、まだまだ余裕があった。
Xiの打ち込みを受けた後も、わずかな動きで簡単に剣を弾いている。
本当の実力差は、途方もなく大きい。
だが。
Xiは、初めて自分の判断で、ソープに剣を受けさせた。
ほんの一瞬だけ。
自分の攻撃に、相手が応じなければならない状況を作った。
それは、確かな成長だった。
「…………」
Xiは、スパッドを見つめた。
そして。
「……やっぱり、すごいね」
カイエンが、笑った。
「……ん?」
「……師匠も、陛下も」
Xiは、顔を上げた。
「……僕から見たら、山の頂上がまだまだ遠いよ」
カイエンは、少し驚いた。
そして、嬉しそうに笑った。
「……ハハッ!」
Xiが、首を傾げる。
「……師匠?」
カイエンは、頷いた。
「それが見えてるだけでも、筋があるってもんだヨ!」
「…………」
Xiは、少し考えた。
「……そうかな?」
「おう!」
カイエンは、にやりと笑った。
「どれだけ遠いのかも分からねぇうちは、どうやって登りゃいいかも分からねぇだろ?」
「……ああ」
「だが、オマエはもう、ちっとずつ見えてきてる」
Xiは、ゆっくりと頷いた。
「……うん」
ソープも、微笑んだ。
「そうだよ。Xiは、ちゃんと成長してるよ」
「……ありがとうございます」
Xiは、少し照れくさそうに笑った。
……昨日まで。
自分は、剣を振ることばかり考えていた。
だが、今は。
どう動くか。
いつ動くか。
何を見て、どう判断するか。
その一つ一つが、剣術なのだと分かり始めていた。
まだまだ、先は長い。
それでも。
「……うん!」
Xiは、嬉しそうに笑った。
「……これからも、頑張りたいな!」
カイエンが、満足そうに頷いた。
「おう! その意気だヨ!」
◆ 剣聖と、天照帝
「……さて!」
カイエンが、軽く肩を回した。
「じゃあ、最後に一つだけ見せてやるか」
Xiが、顔を上げた。
「……え?」
ソープが、嬉しそうに笑った。
「ふふ。いいねぇ!」
Xiは、二人を見た。
「……何を?」
カイエンは、にやりと笑った。
「……ちっとしたお手本だヨ」
「…………」
Xiは、少し考えた。
そして。
「……師匠」
「……何だ?」
「……危ないことじゃないよね?」
「違ぇって!!」
アウクソーが、静かに口を開いた。
「マスター。念のため確認いたしますが、通常の模擬戦の範囲内でお願いいたします」
「……おう!」
バクスチュアルも、頷いた。
「地形、壊サナイ」
「分かってるヨ!!」
カイエンは、少し不満そうだった。
「……ったく、どいつもこいつも……」
Xiが、思わず笑った。
「……あははは!」
そして。
カイエンとソープが、向かい合った。
二人の手には、出力を制限したスパッド。
互いに、安全な間合いを取っている。
カイエンは、静かに構えた。
ソープも、自然な姿勢で剣を持つ。
「…………」
Xiは、息を呑んだ。
今まで、二人の剣技は何度も見ている。
だが。
こうして、二人が向かい合うと。
空気が、少し変わったように感じられた。
「……さて」
カイエンが、にやりと笑った。
「……行くゼ、ソープ」
「うん!」
次の瞬間。
ざっ!
カイエンが、踏み込んだ。
速い。
だが、ソープは動じない。
かんっ!
スパッド同士が、ぶつかる。
そして。
すっ。
ソープが、身体をずらした。
カイエンも、それに合わせて剣筋を変える。
かんっ!
再び、剣が交差した。
「…………」
Xiは、目を見開いていた。
……速い。
だが、それだけではない。
カイエンの剣が動く前に、ソープは既に反応している。
ソープが間合いを変える前に、カイエンもその動きを読んでいる。
どちらも、無駄がない。
どちらも、相手をよく見ている。
しかも。
どちらも、力任せではなかった。
「…………」
Xiは、息を呑んだ。
かんっ!
再び、スパッドが交差する。
そして。
すっ。
二人が、同時に間合いを取った。
「…………」
静寂。
カイエンが、にやりと笑った。
「……ハハッ!」
ソープも、微笑んだ。
「ふふ。やっぱりカイエンは上手いねぇ」
「オマエもナ!」
そして、二人は剣を下ろした。
ごく短い手合わせ。
ほんの数合。
それだけだった。
だが。
Xiは、しばらく言葉を失っていた。
「…………」
やがて。
「……すごい」
小さく呟いた。
カイエンが、振り向く。
「……おう?」
Xiは、顔を上げた。
「……二人とも、全然無駄がない」
「……おう」
「……僕が必死に考えてやってることを、全部、自然にやってる」
カイエンは、少し笑った。
「……まあナ」
ソープも、頷いた。
「うん。でも、Xiだって練習すれば、少しずつ分かるようになるよ」
「……うん」
Xiは、嬉しそうに笑った。
「……そうだね」
カイエンは、スパッドをケースへ戻した。
「……さて!」
そして。
「これで、今回の合宿は終わりだナ!」
「…………」
Xiが、顔を上げた。
「……終わり?」
「おう」
カイエンは、頷いた。
「三日間、よく頑張ったゼ」
「…………」
Xiは、しばらく黙っていた。
そして。
「……うん」
ゆっくりと微笑んだ。
「……ありがとう、師匠」
カイエンは、にやりと笑った。
「……おう」
Xiは、ソープも見た。
「……陛下も、ありがとうございます」
ソープは、嬉しそうに微笑んだ。
「うん! こちらこそ、楽しかったよ!」
そして。
Xiは、二人へ深く頭を下げた。
「……三日間、本当にありがとうございました!」
カイエンは、少し驚いた。
そして。
「……ハハッ!」
嬉しそうに笑った。
「いいってことヨ!」
ソープも、頷いた。
「また一緒に稽古しようね!」
Xiは、顔を上げた。
「……はい!」
その時。
「……ロッケンロー!!」
突然、すえぞうが叫んだ。
「…………」
Xiが、振り向いた。
カイエンも、振り向いた。
すえぞうは、得意げに胸を張っている。
「……うっす!」
しばしの沈黙。
そして。
カイエンが、満足そうに頷いた。
「ヨシ!!」
Xiが、目を丸くした。
「……え?」
カイエンは、笑った。
「今のは、いいところだったナ!」
「…………」
Xiは、少し考えた。
そして。
「……あははは!」
思わず、大笑いした。
「……うん!」
嬉しそうに頷く。
「今のは、ちょっと良かったかも!!」
すえぞうは、得意満面だった。
「うっす!!」
ラキシスも、くすっと笑った。
「ふふ。すえぞう、ちゃんと使いどころを覚えたのですね」
アウクソーも、微笑んだ。
「ええ。マスターのご指導の成果ですね」
バクスチュアルが、小さく頷いた。
「ココゾ。正解」
カイエンは、嬉しそうだった。
「ハハッ! よく分かってるじゃねぇか!」
そして。
Xiは、仲間たちを見渡した。
キラ。
ラクス。
弥子。
露伴。
泉。
ネウロ。
ラキシス。
アウクソー。
バクスチュアル。
すえぞう。
そして。
カイエンとソープ。
誰もが、嬉しそうに微笑んでいた。
……自分で選んだ、今回の合宿。
最初は、どんなことになるのか分からなかった。
確かに、剣術の稽古は大変だった。
何度も負けた。
何度も失敗した。
だが。
そのたびに、新しいことを教わった。
そして、少しずつ成長できた。
何より。
楽しかった。
「…………」
Xiは、静かに微笑んだ。
自分がこれから何になるのか。
何を選ぶのか。
その答えは、まだ決まっていない。
アウト・ミラージュをどうするのか。
騎士として戦うことを選ぶのか。
あるいは、別の道を歩むのか。
それは、これから自分で考えればいい。
ただ。
今は、一つだけ確かなことがある。
強くなりたい。
誰かに命じられたからではない。
与えられた力を使わなければならないからでもない。
自分が、そう望んだから。
自分で選んだから。
だから、学ぶ。
だから、前へ進む。
……そして。
いつか、また。
あの二人と、剣を交えてみたい。
「……うん!」
Xiは、顔を上げた。
そして。
「……師匠!」
「……何だヨ?」
「……また、稽古をつけてね!」
カイエンは、嬉しそうに笑った。
「おう! いつでも相手してやるゼ!!」
ソープも、頷いた。
「僕もね!」
「……はい!」
Xiは、満面の笑みだった。
……こうして。
怪物強盗Xiの、三日間の剣術合宿は、無事に終了した。
しかし。
会津旅行は、まだ少しだけ続いている。
◆ そして、最後の会津名物へ!
「……さて!」
キラが、時計を確認した。
「そろそろ会津若松の市内へ戻ろうか」
Xiが、振り向く。
「……うん!」
ラクスも、微笑んだ。
「帰りの列車まで、少し時間がありますものね」
「うん」
キラは、頷いた。
「その前に、みんなでお昼を食べようと思ってるんだ」
「……おっ!」
弥子が、猛烈に反応した。
「お昼ご飯ですか?!」
「……うん」
キラは、少し笑った。
「会津若松駅前の食堂で、地元の名物をいただこうと思ってるんだ」
「……名物?!」
弥子の目が、輝いた。
Xiが、少し笑った。
「……弥子ちゃん、また元気になったね」
「はい!!」
キラは、旅程表を見た。
そして。
「馬刺し定食」
「…………」
弥子が、ぴたりと止まった。
そして。
「……馬刺し!!」
目を輝かせた。
「いいですねぇ!!」
ラキシスも、興味深そうに微笑んだ。
「まあ。馬のお刺身ですか?」
ソープが、嬉しそうだった。
「へぇ! 面白いねぇ!」
カイエンも、笑った。
「ハハッ! そいつは旨そうだナ!」
すえぞうが、元気よく鳴いた。
「ウマ!!」
「…………」
Xiが、振り向いた。
「……すえぞう?」
「ウマ!!」
カイエンが、大笑いした。
「ハハッ! 覚えが早ぇナ!」
Xiは、苦笑した。
「……まだ食べてないのに!」
弥子は、既に楽しそうだった。
「会津の馬刺しって、辛子味噌で食べるんですよね!」
キラが、頷いた。
「うん。そうみたいだね」
「楽しみです!!」
そして。
「……あっ!」
弥子が、何かを思い出したように言った。
「でも、今日の朝ご飯も美味しかったですねぇ!」
「……うん」
Xiは、頷いた。
「……いっぱい食べてたね」
「はい!」
弥子は、満面の笑みだった。
そして。
「でも、お昼はお昼ですから!!」
「…………」
Xiが、固まった。
キラも、固まった。
カイエンが、大笑いした。
「ハハハッ! そりゃそうだろうナ!」
「師匠!! また弥子ちゃんを援護してる!!」
ソープは、にこにこしていた。
ラキシスも、嬉しそうだった。
すえぞうが、元気よく鳴く。
「ハラヘッタ!!」
「君も?! さっきまで朝ご飯食べてたでしょ?!」
……こうして。
剣術合宿を終えた一行は、最後の会津名物を求めて出発した。