守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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◆ 怪物強盗Xiは、無事に帰ってきた

 コンパス本部。

 会津若松での二泊三日の剣術合宿を終えた一行は、ようやく帰還を果たしていた。

「……ふぅ!」

 大きく伸びをするキラ・ヤマト。

「みんな、お疲れさま!」

 その言葉に、ラクス・クラインが微笑んだ。

「キラもお疲れさまでした。三日間、本当にありがとうございました」

「ううん。みんなが楽しんでくれたなら、何よりだよ」

 キラは、嬉しそうに笑った。

 実際、今回の旅行は、かなり大変なものだった。

 十二人と一匹。

 しかも、その中には。

 星団最強の騎士。

 ジョーカー星団の神。

 魔人。

 ドラゴンの幼生。

 そして、普通の人間とは明らかに食欲の規模が違う少女とファティマまで含まれている。

 ……普通の団体旅行とは、少々勝手が違う。

 それでも。

 全員、無事に帰ってきた。

 宿泊先への迷惑もなく、観光地を傷つけることもなく、帰りの列車にも予定どおり乗ることができた。

 食費も、ひとまず予算の範囲内。

 旅行の手配を担当したキラにとっては、それだけでも十分に喜ばしいことだった。

「……本当に楽しかったですねぇ!」

 桂木弥子が、満面の笑みで言った。

「カツ丼も、お蕎麦も、馬刺しも美味しかったし!」

 Xiが、思わず笑った。

「……弥子ちゃん、食べ物ばっかりだね」

「えへへ!」

 弥子は、嬉しそうに笑う。

「もちろん、温泉も良かったですよ!」

 岸辺露伴も、満足そうだった。

「塔のへつりも良かったな。あの岩壁は、なかなか面白い資料になった」

 編集者の泉京香が、頷いた。

「はい! 露伴センセ、たくさんスケッチされてましたものね!」

 露伴は、にやりと笑った。

「もちろんだ。いい取材ができたよ」

 その横で。

「ククク……」

 脳噛ネウロが、愉快そうに笑った。

「我が輩も、なかなか退屈しない旅行だったぞ」

 弥子が、振り向いた。

「……ネウロは温泉にも入ってないじゃない」

「貴様の食欲を観察するだけでも、十分に興味深かったのでな、家畜」

「誰が家畜よ!!」

 ……旅行を終えても、二人は相変わらずだった。

 さて。

 その少し後ろでは。

「……いやぁ!」

 剣聖ダグラス・カイエンが、満足そうに笑っていた。

「楽しかったナ!!」

 ソープも、にこにこしている。

「うん! また行きたいねぇ!」

 ラキシスが、嬉しそうに微笑んだ。

「はい、ソープ様。素晴らしい旅行でした」

 アウクソーも、穏やかに頷く。

「マスターも、充実した三日間をお過ごしになられたようですね」

「おう!」

 カイエンが、胸を張った。

「Xiの奴も、なかなか筋が良かったゼ!」

 その言葉に、Xiが照れくさそうに笑った。

「……ありがとう、師匠」

 バクスチュアルも、小さく頷く。

「Xiサン。頑張ッタ」

「……うん!」

 Xiは、嬉しそうに笑った。

 ……これで、今回の合宿も無事に終了。

 温泉に入って。

 美味しいものを食べて。

 剣術の稽古をして。

 最後はみんなで笑って帰ってきた。

「…………」

 Xiは、満足そうに息を吐いた。

「……さて」

 そして、笑顔になった。

「これで、ようやくゆっくりできるね!」

 ……その言葉が、どれほど甘い見通しだったのか。

 この時のXiは、まだ知らなかった。

◆ 怪物強盗Xiは、まずアウト・ミラージュを確認したい

「……あっ!」

 Xiが、何かを思い出した。

 そして、キラへ声を掛けた。

「……ねえ、キラ」

「……ん?」

「……ちょっと格納庫に行ってきてもいいかな?」

「……格納庫?」

「うん」

 Xiは、少し笑った。

「……アルバートさんにも、ただいまって言いたいし」

 そこで、言葉を区切った。

「……あと」

 少し考える。

「アウト・ミラージュも、ちゃんと無事か確認したいから」

「…………」

 キラは、少しだけ苦笑した。

「……うん。分かった」

 その横で、ソープが首を傾げた。

「何か心配なの?」

「……えっと」

 Xiは、少し考えた。

 そして。

「……陛下」

「何?」

「……アルバートさん、前にすえぞうを研究したがってたでしょ?」

「うん」

「……だから、その」

 Xiは、苦笑した。

「僕がいない間に、アウト・ミラージュまで研究されてたらどうしようかなって」

 ソープは、きょとんとした。

「……へぇ?」

 そして、笑った。

「大丈夫じゃないかなぁ?」

「……うん」

 Xiは、頷いた。

「……そう思いたいんだけどね」

 カイエンが、大笑いした。

「ハハハッ! 何だヨ! 心配性だナ!」

「師匠は自分のシュペルターを心配してよ!!」

「あれはもうソープに頼んだだろうがヨ!!」

 ……そういう問題ではない。

 ともあれ。

 Xiとソープ、キラ、そしてラキシスたちとすえぞうは、格納庫へ向かうことになった。

 カイエンも、何となく同行する。

 露伴は、興味深そうに頷いた。

「……ほう。アウト・ミラージュか。僕も少し見ていこう」

 泉が、慌てて声を掛ける。

「露伴センセ! 勝手に触ったりしないでくださいね?!」

「おいおいおいおい! 僕を何だと思ってるんだ?!」

「……取材となると、周りが見えなくなる漫画家さんです!!」

「…………」

 露伴は、少し黙った。

 そして。

「……否定しづらいな」

 Xiが、吹き出した。

「……あははは!」

◆ アルバート・ハインラインは、約束を守っていた

 コンパス格納庫。

 大きな扉が開いた。

「……ただいまー!」

 Xiが、声を掛ける。

 すると。

「おお!」

 奥の作業台から、白衣姿の男が顔を上げた。

 アルバート・ハインラインである。

「Xiさん! お帰りなさい!」

「……ただいま、アルバートさん!」

 アルバートは、嬉しそうだった。

「皆さん、旅行はいかがでしたか?」

「うん! すごく楽しかったよ!」

「それは何よりです!」

 そして。

 アルバートは、Xiの後ろにいるすえぞうに気づいた。

「……おお!」

 目を輝かせる。

「すえぞうさんも、お元気そうですね!」

「うっす!!」

「いやぁ! 良かった、良かった!」

 ……以前なら、この時点で「六本指の詳細を調べさせてください!」とでも言い出しかねなかった。

 しかし。

 今回は違った。

 アルバートは、すえぞうに近づきすぎず、嬉しそうに手を振っている。

「……へぇ」

 Xiは、少し驚いた。

 そして、微笑んだ。

「……アルバートさん」

「……はい?」

「……すえぞうのこと、気にかけてくれてたんだね」

「もちろんです!」

 アルバートは、頷いた。

「以前は、少々研究に熱中しすぎましたからね!」

 そして、少し照れくさそうに笑った。

「今回は、皆さんが無事に帰ってきてくだされば、それで十分です!」

「…………」

 Xiは、嬉しそうに微笑んだ。

「……ありがとう!」

 そして。

 格納庫の奥へと視線を向ける。

 そこには。

 白銀のモーターヘッド。

 アウト・ミラージュが、静かに佇んでいた。

「…………」

 Xiは、しばらく眺めた。

 外観に異常はない。

 見覚えのない追加装備もない。

 謎の実験装置も、取り付けられていない。

 もちろん。

 背中に怪しげな巨大ブースターが増設されている、なんてこともなかった。

「…………」

 Xiは、深く息を吐いた。

「……良かったぁ……!」

 アルバートが、首を傾げる。

「……何がです?」

「……いや」

 Xiは、苦笑した。

「……何も変わってないなぁって」

 アルバートは、頷いた。

「もちろんです!」

 そして。

「許可なく触ったり、改造したりはしていませんよ!」

「…………」

 Xiは、少し驚いた。

「……本当?」

「はい!」

 アルバートは、にっこり笑った。

「研究は大切ですが、それ以上に、持ち主の意思を尊重しなければなりませんから!」

「…………」

 Xiは、しばらく黙っていた。

 そして。

「……うん!」

 嬉しそうに頷いた。

「ありがとう、アルバートさん!!」

 アルバートも、微笑んだ。

「いえいえ!」

 その様子を見ていたバクスチュアルが、小さく頷く。

「良カッタ。約束、守ッタ」

 アルバートは、少し照れくさそうだった。

「いやぁ、それほどでも!」

 ソープも、楽しそうに微笑んだ。

「うん。アルバート、偉いねぇ!」

 Xiは、少し笑った。

「……これなら、安心して預けられるね」

 アルバートは、嬉しそうに頷いた。

「ありがとうございます!」

 ……アウト・ミラージュ、異常なし。

 勝手な改造も、研究目的の分解もなし。

 怪物強盗Xi、最初の心配事を無事に解消!!

 ……もっとも。

 この後、さらに大きな心配事が待っているのだが。

◆ すえぞうは、赤べこを贈りたい

「……あっ!」

 ラクスが、何かを思い出した。

「そうでしたわ」

 そして、荷物の中から小さな包みを取り出した。

「アルバートさん。こちらを」

「……私に?」

「はい」

 ラクスは、微笑んだ。

「会津のお土産です。すえぞうさんが選んでくださったんですよ」

「…………」

 アルバートが、目を丸くした。

「……すえぞうさんが?!」

「うっす!!」

 すえぞうは、嬉しそうに胸を張った。

 ラクスが、包みを開ける。

 中から現れたのは。

 会津名物、赤べこの置物。

「……おお!」

 アルバートが、目を輝かせた。

「赤べこですか!」

 そして、そっと手に取る。

 こくこく。

 赤べこの頭が、ゆっくりと揺れた。

「……へぇ!」

 アルバートは、嬉しそうだった。

「これは可愛らしいですね!」

 すえぞうも、首を振る。

「うっす! うっす!」

 こくこく。

 こくこく。

 赤べことすえぞう。

 二つの頭が、仲良く揺れていた。

「…………」

 Xiは、吹き出した。

「……あははは!!」

 アルバートも、嬉しそうに笑った。

「いやぁ! 本当にありがとうございます!」

 そして、すえぞうへ向き直る。

「大切に飾らせていただきますね!」

「ろっけんろー!!」

 すえぞうが、元気よく鳴いた。

 カイエンが、満足そうに頷いた。

「ハハッ! 今のは決まったナ!」

 Xiが、苦笑した。

「……師匠、本当にすえぞうを気に入ってるね」

「当たり前だろ! 筋がいいからナ!」

「何の筋なの?!」

 さて。

 アルバートは、赤べこを作業台の上に置いた。

 そして。

「……うーむ」

 しばらく眺めている。

「……なるほど」

 Xiが、首を傾げた。

「……アルバートさん?」

 アルバートは、真剣な顔で赤べこを見つめていた。

「この首の揺れ方……」

「…………」

 Xiが、ぴたりと止まった。

「……え?」

 アルバートは、続けた。

「重心の置き方と、支点の位置……」

「…………」

「単純な構造ながら、実に合理的な……」

 Xiは、ゆっくりと顔を上げた。

「……アルバートさん?」

「……はい?」

「……それ、改造しないよね?」

「…………」

 アルバートは、少し考えた。

 そして。

「もちろんです! いただいたものですから!!」

「…………」

 Xiは、深く息を吐いた。

「……良かったぁ……!」

 ソープが、にこにこしている。

「ふふ。アルバートなら、仕組みを理解したら自分で作るんじゃないかな?」

「……ああ!」

 アルバートが、嬉しそうに頷いた。

「そうですね! 別に作ってみるのも面白いかもしれません!」

 Xiは、少し笑った。

「……うん。それならいいと思うよ」

 そして。

 アウト・ミラージュを、もう一度見上げた。

 白銀の機体は、静かに佇んでいる。

 すえぞうは、赤べこの首振りに夢中だった。

 アルバートは、その様子を嬉しそうに眺めている。

「…………」

 Xiは、微笑んだ。

 ……ちゃんと変わっている。

 自分だけではない。

 周りのみんなも、少しずつ学んでいる。

 そのことが、何だか嬉しかった。

◆ ログナー司令は、甘いものが好き

 その後。

 一行は、ログナー司令のもとへ帰還報告に向かった。

 執務室。

 机の向こうには、騎士服姿の男が座っていた。

 A.K.D.ミラージュ騎士団司令。

 ログナーである。

「……帰還したか」

 ログナーが、静かに顔を上げた。

「はい!」

 キラが、頷いた。

「全員、無事に戻りました。大きな事故やトラブルもありませんでした」

「……そうか」

 ログナーは、頷いた。

「それは何よりだ」

 そして、ソープへ視線を向けた。

「陛下。三日間、お疲れさまでございました」

 ソープは、嬉しそうに笑った。

「うん! すっごく楽しかったよ!」

「……何よりでございます」

 ログナーは、丁寧に一礼した。

 そして。

 Xiへ視線を移す。

「……Xi」

「……はい?」

「剣術の稽古は、どうだった?」

 Xiは、嬉しそうに笑った。

「うん! すごく勉強になったよ!」

「……ほう」

「師匠も陛下も、いろいろ教えてくれたんだ!」

 そして。

「足場とか、重心とか、相手の隙の作り方とか……」

「……なるほど」

 ログナーは、静かに頷いた。

「それは、有意義だったようだな」

「……うん!」

 Xiは、満面の笑みだった。

 その横で。

 カイエンも、得意げに胸を張った。

「ハハッ! なかなか筋がいいゼ、こいつ!」

「……そうか」

 ログナーは、頷いた。

「お前がそう評価するなら、相応の成果はあったのだろう」

「おう!」

 カイエンは、嬉しそうだった。

 その時。

「……あっ!」

 ラクスが、小さな包みを差し出した。

「ログナーさん。こちらをどうぞ」

「……私に?」

「はい」

 ラクスは、微笑んだ。

「会津のお土産ですわ」

 ログナーは、包みを受け取った。

「……これは、ありがとうございます」

 中身を確認する。

「……ほう」

 小さく呟いた。

「あわまんじゅうですか」

 ラクスが、頷いた。

「はい。災難に遭わないように、という願いも込められた、会津のお菓子だそうですわ」

「……なるほど」

 ログナーは、興味深そうに眺めた。

「ありがたいことです」

 そして。

 少し嬉しそうに微笑んだ。

「実は、こういった和菓子には目がなくてね」

 Xiが、顔を上げた。

「……そうなんだ?」

「……ああ」

 ログナーは、頷いた。

「塩大福なども、なかなか良い」

「……へぇ!」

 Xiは、少し驚いた。

「……司令、甘いもの好きなんだね」

 ログナーは、少し笑った。

「意外か?」

「……ちょっと」

 その言葉に、カイエンが大笑いした。

「ハハハッ! 確かに意外だナ!」

 ログナーは、ちらりとカイエンを見た。

「……何か言ったか?」

「……いや、別に?」

 カイエンは、肩をすくめた。

 ログナーは、包みから一つ取り出した。

 そして、一口。

「…………」

 静かに味わう。

「……ほう」

 もう一口。

 そして。

「これは美味いな」

 ラクスが、嬉しそうに微笑んだ。

「お気に召していただけて、何よりですわ」

「ええ。甘さも上品で、茶によく合いそうです」

 ソープが、嬉しそうに笑った。

「良かったねぇ、ログナー!」

「はい。お心遣い、感謝いたします。陛下」

 Xiも、ほっと息を吐いた。

「……良かったぁ」

 これで。

 ログナー司令への帰還報告も完了。

 お土産も渡した。

 しかも、喜んでもらえた。

「…………」

 Xiは、満足そうに頷いた。

「……よし!」

 そして。

「これで本当に合宿終了だね!!」

「…………」

 ログナーが、静かに顔を上げた。

「……Xi」

「……はい?」

 ログナーは、少し考えた。

 そして。

「何を言っている?」

「…………」

 Xiが、固まった。

「……え?」

 ログナーは、机の引き出しを開けた。

 そして。

 書類を二枚、取り出した。

「……さて」

 静かに言った。

「最後の仕事が残っているぞ」

「…………」

 Xiは、嫌な予感がした。

 ……非常に、嫌な予感がした。




怪物強盗Xiは研修日報を提出したくない

 

「……これを提出してもらおう」

 

 ログナーが、机の上に二枚の書類を並べた。

 

 Xiが、恐る恐る覗き込む。

 

「……何、これ?」

 

「研修日報だ」

 

「…………」

 

 Xiは、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「……え?」

 

 ログナーは、平然と続けた。

 

「今回の合宿では、騎士としての技術を学ぶために、費用と人員を割いている」

 

「……うん」

 

「こちらで負担した研修費用については、当然、成果を確認する必要がある」

 

「……うん」

 

「つまり」

 

 ログナーは、書類を一枚、Xiへ差し出した。

 

「お前は、研修日報を提出しろ」

 

「…………」

 

 Xiは、書類を見た。

 

 そして。

 

「えぇぇ~?!」

 

 思わず声を上げた。

 

「……司令!」

 

「何だ?」

 

「……もう合宿、終わったよ?!」

 

「旅行は終わったな」

 

「……うん!」

 

「だが、研修は報告を終えるまでが研修だ」

 

「…………」

 

 Xiは、深く息を吐いた。

 

「……そんなぁ……!」

 

 すると。

 

 隣でカイエンが、大笑いした。

 

「ハハハハッ!!」

 

 Xiが、振り向く。

 

「……師匠?」

 

 カイエンは、実に楽しそうだった。

 

「そりゃそうだろうヨ!」

 

 そして、Xiの肩を叩いた。

 

「費用を出してもらったんだ! 報告書まで出して、ようやく合宿終了だナ!」

 

「……うぅ」

 

 Xiは、少し困ったように笑った。

 

「……そうなの?」

 

「おう!」

 

 カイエンは、得意げだった。

 

「社会勉強ってヤツだヨ!」

 

「……師匠、楽しそうだね」

 

「ハハッ! まあナ!」

 

 その時。

 

「……カイエン」

 

 ログナーが、静かに声を掛けた。

 

「……あ?」

 

 カイエンが、振り向く。

 

 ログナーは、残る一枚の書類を差し出した。

 

「お前もだ」

 

「…………」

 

 カイエンの笑顔が、止まった。

 

「……あ?」

 

「お前は今回の研修の指導者だろう」

 

「……おう」

 

「ならば、指導内容と研修成果について報告してもらう」

 

「…………」

 

 ログナーは、書類を差し出したままだった。

 

「講師報告書だ。提出しろ」

 

「…………」

 

 カイエンは、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「オレもかヨ?!」

 

 Xiが、吹き出した。

 

「……あはははは!!」

 

 カイエンは、振り向いた。

 

「……おい、Xi!」

 

 Xiは、嬉しそうに笑った。

 

「……師匠!」

 

「……何だヨ!」

 

「そこまでやって合宿終了なんだよね?!」

 

「オマエ、さっそく仕返しかヨ!!」

 

 ログナーは、二人を見つめた。

 

「……騒がしいな」

 

 そして。

 

「二人とも、提出期限は明日とする」

 

「…………」

 

 Xiが、顔を上げた。

 

「……明日?!」

 

「そうだ」

 

「……今日、帰ってきたばっかりなのに?」

 

 ログナーは、頷いた。

 

「記憶が新しいうちに書く方が、正確な報告になるだろう」

 

「…………」

 

 Xiは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……正論だね」

 

 カイエンも、しぶしぶ頷いた。

 

「……まあナ」

 

 ところが。

 

 Xiは、ふと顔を上げた。

 

「……あ、でも司令」

 

「……何だ?」

 

「……一つ、確認していい?」

 

「言ってみろ」

 

 Xiは、少し真面目な顔になった。

 

「……僕、ミラージュナイトになったわけじゃないよね?」

 

「…………」

 

 ログナーは、Xiを見た。

 

「……無論だ」

 

 そして、静かに答えた。

 

「今回の研修への参加と、騎士団への任官は別の話だ」

 

「……うん」

 

「お前が今回の合宿で何を学び、今後どうしたいのか。それはこちらが勝手に決めることではない」

 

「…………」

 

 Xiは、静かに頷いた。

 

「……ありがとう」

 

 ログナーは、続けた。

 

「ただし、今回は双方合意のうえで支援した研修だ。負担した費用に見合う成果があったか、報告してもらう」

 

「……うん!」

 

 Xiは、少し笑った。

 

「……それなら、分かるよ」

 

「そうか」

 

 ログナーは、頷いた。

 

 そして。

 

「では、書け」

 

「えぇ~?! そこに戻るの?!」

 

 カイエンが、大笑いした。

 

「ハハハッ! 当然だろうがヨ!」

 

 ログナーは、静かにカイエンを見た。

 

「……お前もな」

 

「分かってるヨ!!」

 

 ……こうして。

 

 怪物強盗Xiと剣聖ダグラス・カイエン。

 

 二人の新たな戦いが、始まった。

 

 敵は、研修日報である。

 

◆ 剣聖ダグラス・カイエンは、報告書を甘く見ていた

 

 コンパスの会議室。

 

 Xiとカイエンは、向かい合って机に座っていた。

 

 それぞれの前には、研修報告用紙。

 

 ペン。

 

 そして、お茶。

 

「…………」

 

 Xiが、書類を眺める。

 

「……えっと」

 

 用紙には、記入項目が並んでいた。

 

 研修目的。

 

 実施内容。

 

 習得した事項。

 

 今後の課題。

 

 安全管理に関する所見。

 

 そして、総括。

 

「……うわぁ」

 

 Xiが、少し困ったように笑った。

 

「……結構あるね」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「ハハッ! 別に難しくねぇだろ!」

 

「……そう?」

 

「おう!」

 

 カイエンは、ペンを取った。

 

「要するに、何やったか書きゃいいんだろ?」

 

 さらさら。

 

 カイエンが、書類へ何かを書き込む。

 

「…………」

 

 Xiは、その様子を見た。

 

 そして。

 

「……師匠?」

 

「……ん?」

 

「……もう書いてるの?」

 

「おう!」

 

 カイエンは、得意げだった。

 

「オレはもう終わるゼ!」

 

「……えっ?!」

 

 Xiは、驚いた。

 

「……早くない?!」

 

「ハハッ! こんなもんだヨ!」

 

 そして。

 

 カイエンは、書類をXiに見せた。

 

「ほらヨ!」

 

「…………」

 

 Xiが、覗き込む。

 

 そこには。

 

研修内容:剣術指導。

 

研修成果:Xiは筋が良い。

 

今後の課題:もっと鍛える。

 

総括:有意義だった。以上。

 

「…………」

 

 Xiは、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「……師匠」

 

「……何だ?」

 

「短っ!!」

 

 カイエンが、首を傾げた。

 

「……何がだヨ?」

 

「三日間の合宿が四行で終わってる!!」

 

「……だから?」

 

「……いや、だからって!」

 

 Xiは、少し考えた。

 

「……それ、司令が受け取ってくれるかな?」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「ハハッ! 間違ったことは書いてねぇだろ!」

 

「……うん。まあ、そうだけど」

 

 その時。

 

 会議室の扉が、開いた。

 

「……進んでいるか?」

 

 ログナーだった。

 

「……あっ!」

 

 Xiが、顔を上げた。

 

「司令!」

 

 カイエンは、嬉しそうに書類を差し出した。

 

「おう! オレはもうできたゼ!」

 

「……ほう」

 

 ログナーは、書類を受け取った。

 

 そして。

 

 目を通す。

 

「…………」

 

 少し考える。

 

「…………」

 

 もう一度、読む。

 

「…………」

 

 Xiは、黙って見守っていた。

 

 カイエンは、得意げだった。

 

 やがて。

 

 ログナーが、書類を机に置いた。

 

「……カイエン」

 

「……おう?」

 

「書き直しだ」

 

「何だヨ?!」

 

 Xiが、吹き出した。

 

「……あはははは!!」

 

 カイエンは、納得できない様子だった。

 

「おい! 何が悪ぃんだヨ!」

 

 ログナーは、静かに答えた。

 

「具体性が足りん」

 

「……あ?」

 

「何を教え、どう評価し、何が課題として残ったのか。これでは分からん」

 

「……いや、だから!」

 

 カイエンは、書類を指さした。

 

「筋が良いって書いてあるだろうがヨ!!」

 

「筋が良いという結論に至った理由を書け」

 

「…………」

 

 カイエンが、止まった。

 

 Xiが、少し考えた。

 

 そして。

 

「……師匠」

 

「……何だ?」

 

「……例えば、僕が昨日、師匠を半歩動かせたこととか」

 

「……おう」

 

「……今日、陛下に剣を受けてもらえたこととか?」

 

 ログナーが、頷いた。

 

「そういうことだ」

 

「…………」

 

 カイエンは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……ああ」

 

 ようやく納得したようだった。

 

「……なるほどナ」

 

 ログナーは、頷いた。

 

「分かったなら、書き直せ」

 

「……おう」

 

 カイエンは、ペンを取り直した。

 

 Xiも、自分の書類へ目を戻す。

 

「……よし」

 

 小さく呟いた。

 

「……僕も書こう」

 

 ……こうして。

 

 剣聖と怪物強盗による、研修報告書作成作業が始まった。

 

 ちなみに。

 

 この時点では、まだ二人とも大きな問題を一つ忘れていた。

 

◆ 剣聖は、未遂でも報告書を書かされる

 

 しばらくして。

 

 会議室には、ペンを走らせる音だけが響いていた。

 

 Xiは、思い出しながら書いていた。

 

 初日。

 

 河原での稽古。

 

 足場と重心。

 

 二日目。

 

 相手の動きと、隙を作ること。

 

 三日目。

 

 スパッドのスタンモードを用いた模擬戦。

 

 そして。

 

「…………」

 

 Xiは、ふとペンを止めた。

 

「……あっ」

 

 カイエンが、顔を上げる。

 

「……どうした?」

 

「……いや」

 

 Xiは、少し考えた。

 

「……この、安全管理に関する所見ってところ」

 

「……おう?」

 

「……初日のこと、書いた方がいいよね?」

 

「……初日?」

 

 カイエンは、首を傾げた。

 

 そして。

 

「…………」

 

 ぴたりと止まった。

 

「……おい、Xi」

 

「……うん?」

 

「……まさか」

 

 Xiは、静かに頷いた。

 

「MBT未遂のこと」

 

「まだ言うのかヨ!!」

 

 その時。

 

「……何だと?」

 

 背後から、低い声がした。

 

「…………」

 

 二人が、振り向く。

 

 そこには。

 

 ログナーが立っていた。

 

「……カイエン」

 

「……お、おう」

 

「……MBT未遂とは何だ?」

 

「…………」

 

 Xiは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……えっとね」

 

 静かに説明し始めた。

 

「初日の剣術稽古で、師匠が木剣を構えて……」

 

「……うむ」

 

「……『ロックン……』って言いかけたところで」

 

「……ほう」

 

「……アウクソーが止めたんだ」

 

「…………」

 

 ログナーは、カイエンを見た。

 

 カイエンは、少し気まずそうだった。

 

「……いや、まあ」

 

 そして。

 

「撃ってねぇヨ!!」

 

 ログナーは、静かに頷いた。

 

「……それは分かった」

 

「……おう」

 

「では、確認しよう」

 

 ログナーは、書類を取り出した。

 

「発動前に止められたのだな?」

 

 Xiが、頷いた。

 

「うん。構えた段階で止まったよ」

 

「実際にMBTは放たれていない」

 

「うん」

 

「人的被害は?」

 

「なし」

 

「地形や周辺施設への被害は?」

 

「なし」

 

「……そうか」

 

 ログナーは、頷いた。

 

 そして、カイエンを見た。

 

「……アウクソーが止めた理由は?」

 

 カイエンは、少し考えた。

 

「……いや」

 

 頭を掻く。

 

「……河原で使う技じゃねぇからナ」

 

「…………」

 

 ログナーは、深く息を吐いた。

 

「……理解しているではないか」

 

「……おう」

 

「ならば、最初から使おうとするな」

 

「……悪ぃ」

 

 カイエンは、珍しく素直に頭を下げた。

 

 ログナーは、頷いた。

 

「幸い、事故には至らなかった」

 

「……おう」

 

「だが、今回のような事例は、記録して再発防止に役立てる必要がある」

 

「…………」

 

 Xiが、嫌な予感を覚えた。

 

 ログナーは、机から別の用紙を取り出した。

 

「……というわけで」

 

 そして。

 

「安全管理上のインシデント報告書を提出してもらおう」

 

「…………」

 

 カイエンが、固まった。

 

「……あ?」

 

「未遂とはいえ、安全上の問題が発生した。記録は必要だ」

 

「…………」

 

 Xiが、少し笑った。

 

「……師匠」

 

「……何だヨ」

 

「……報告書、増えたね」

 

「オマエが言い出したんだろうがヨ!!」

 

 ところが。

 

 ログナーは、もう一枚用紙を取り出した。

 

「……Xi」

 

「……はい?」

 

「お前は現場にいたのだな?」

 

「……うん」

 

「それなら、目撃者として状況を記録してもらう」

 

「…………」

 

 Xiが、固まった。

 

「……え?」

 

「発動に至らなかった経緯を、正確に残しておきたい」

 

「…………」

 

 Xiは、ゆっくりとカイエンを見た。

 

 カイエンも、Xiを見た。

 

 そして。

 

「僕も増えた?!」

 

 カイエンが、大笑いした。

 

「ハハハハッ!! 仲良く書くしかねぇナ!!」

 

Xi「師匠のせいでしょ!!」

 

 ……こうして。

 

 研修日報だけだったはずの書類仕事は。

 

 安全管理報告という新たな戦線へ拡大した。

 

 なお、ログナーは報告内容を厳密に区別するよう指示した。

 

 カイエンが技の構えに入ったこと。

 

 アウクソーが発動前に止めたこと。

 

 実際にMBTは放たれず、被害も発生していないこと。

 

 そして、今後は周辺環境と安全管理を考慮し、危険な剣技を安易に使わないこと。

 

 その一つ一つが、記録された。

 

 Xiは、ペンを動かしながら小さく頷いた。

 

「……うん」

 

 そして。

 

「……こうして書くと、何があったのか整理できるね」

 

 ログナーが、頷いた。

 

「それが報告書の役割の一つだ」

 

「……なるほど」

 

 Xiは、微笑んだ。

 

「……ただ怒られるために書くわけじゃないんだね」

 

「当然だ」

 

 ログナーは、静かに答えた。

 

「失敗や問題点を正しく記録しておけば、次に同じことを繰り返さずに済む」

 

「……うん」

 

 Xiは、頷いた。

 

 そして。

 

 隣のカイエンを見た。

 

「……師匠」

 

「……何だヨ」

 

「……聞いてた?」

 

「聞いてるヨ!!」

 

 ……剣聖ダグラス・カイエン。

 

 今回の研修では、教える立場だった。

 

 しかし。

 

 書類仕事を通じて、今度は教わる側になっていた。

 

◆ Xiは、三日間を振り返る

 

 その日の夕方。

 

 会議室には、まだ二人の姿があった。

 

 Xiとカイエン。

 

 二人とも、ようやく報告書を書き終えようとしていた。

 

「……ふぅ」

 

 Xiが、ペンを置く。

 

「……よし」

 

 そして。

 

「……できた!」

 

 カイエンが、顔を上げた。

 

「……おっ?」

 

「……うん。研修日報、書けたよ!」

 

「……ほう」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「どれ、見せてみろヨ」

 

「……うん!」

 

 Xiは、報告書を差し出した。

 

 そこには、三日間で学んだことが、丁寧にまとめられていた。

 

 初日には、足場を確認し、重心の置き方を意識すること。

 

 二日目には、相手の動きをよく見て、意図的に隙を作ること。

 

 そして三日目には、スパッドを使った模擬戦で、相手の動きに応じて自分の判断を変えること。

 

「…………」

 

 カイエンは、静かに読んでいた。

 

 Xiは、少し照れくさそうだった。

 

「……どうかな?」

 

「…………」

 

 カイエンは、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「……おう」

 

 小さく頷いた。

 

「……いいんじゃねぇか?」

 

「……本当?」

 

「おう」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「ちゃんと、覚えてるじゃねぇかヨ」

 

 Xiは、嬉しそうに微笑んだ。

 

「……うん!」

 

 そして。

 

「……でもね」

 

「……ん?」

 

 Xiは、最後の項目を指さした。

 

「……ここ、ちょっと悩んだんだ」

 

「……総括?」

 

「……うん」

 

 カイエンは、そこを読んだ。

 

 そして。

 

「…………」

 

 少しだけ、表情が変わった。

 

 そこには、こう書かれていた。

 

『今回の合宿で学んだことは、剣の振り方だけではありません。

 

 相手をよく見て、自分の行動を考えること。

 

 強い力を持っていても、それを使うべきかどうかは、自分で判断すること。

 

 そして、何かを学ぶときも、誰かに言われたからではなく、自分がどうなりたいのかを考えること。

 

 僕はまだ、これから何を目指すのか決めていません。

 

 でも、今回の合宿に参加したことは、僕自身が選びました。

 

 その結果、剣術の難しさも、学ぶ楽しさも知ることができました。

 

 まだまだ師匠や陛下には及びませんが、これからも自分で考え、自分で選んでいきたいと思います。

 

 三日間、本当にありがとうございました。』

 

「…………」

 

 カイエンは、静かに報告書を置いた。

 

「……Xi」

 

「……うん?」

 

 カイエンは、少し笑った。

 

「……オマエ、よく書けてるじゃねぇか」

 

「……本当?」

 

「おう」

 

 そして。

 

「ちゃんと自分の頭で考えてやがるナ」

 

「…………」

 

 Xiは、嬉しそうに笑った。

 

「……ありがとう、師匠」

 

 カイエンは、頷いた。

 

「……おう」

 

 少しの沈黙。

 

 そして。

 

「……なあ、Xi」

 

「……何?」

 

「……これからどうするか、まだ決めてねぇんだろ?」

 

「……うん」

 

 Xiは、頷いた。

 

「まだ、考えてる」

 

「……そうか」

 

 カイエンは、笑った。

 

「……ま、それでいいんじゃねぇか?」

 

「……え?」

 

「オマエの人生だろ?」

 

「…………」

 

「……誰かに言われたから、決める必要なんざねぇんだヨ」

 

 Xiは、静かに頷いた。

 

「……うん」

 

 そして。

 

「……でも、また稽古はつけてほしいな」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「ハハッ! そいつはいつでも歓迎だゼ!」

 

「……ありがとう!」

 

 Xiは、嬉しそうに笑った。

 

 ……今回の合宿では。

 

 剣術だけでなく、大切なことをいくつも教わった。

 

 力があるから、使うのではない。

 

 誰かに言われたから、動くのでもない。

 

 自分で考え、選び、決める。

 

 それは、剣術だけの話ではなかった。

 

 そして。

 

 今度は、自分で選んだ三日間を、自分の言葉で書き残す。

 

 ……なるほど。

 

 ログナー司令が研修日報を求めた理由も、少しだけ分かった気がした。

 

◆ 剣聖ダグラス・カイエンは、意外と観察していた

 

「……さて」

 

 カイエンも、ペンを置いた。

 

「……オレもできたゼ」

 

 Xiが、顔を上げた。

 

「……おっ!」

 

 そして、少し笑った。

 

「……今度は四行じゃないよね?」

 

「当たり前だろうがヨ!!」

 

 カイエンは、書類を見せた。

 

 そこには、先ほどよりずっと詳しい内容が書かれていた。

 

 Xiの初日の様子。

 

 踏み込みの癖。

 

 相手の剣先ばかりを追っていたこと。

 

 二日目には、視線を広げ、足場や重心まで意識するようになったこと。

 

 そして、相手を半歩動かすことに成功したこと。

 

 三日目には、スパッドの扱いに慎重さを見せたこと。

 

 ソープとの模擬戦で、相手に一度、剣を受けさせたこと。

 

 今後の課題は、攻撃の起こりを見極めること。

 

 相手の剣筋やタイミングを予測すること。

 

 そして、隙を見つけても安易に飛び込まず、最後まで相手の動きを見て判断すること。

 

「…………」

 

 Xiは、驚いた。

 

「……師匠」

 

「……何だ?」

 

「……こんなに、僕のこと見てくれてたんだ」

 

 カイエンは、少し笑った。

 

「……そりゃそうだろ」

 

「……え?」

 

 そして。

 

「教えるってのは、そういうことだヨ」

 

「…………」

 

 Xiは、静かに頷いた。

 

「……うん」

 

 カイエンは、続けた。

 

「相手が何を見て、何を考えて、どこで間違えたか」

 

「……うん」

 

「それが分からねぇと、何を教えりゃいいかも分からねぇ」

 

 Xiは、微笑んだ。

 

「……そうだね」

 

 そして。

 

「……だから、師匠も疲れたんだね」

 

「……あ?」

 

「……一日目も、二日目も」

 

 Xiは、少し笑った。

 

「……ただ自分で剣を振るのとは、違うもんね」

 

「…………」

 

 カイエンは、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「……まあナ」

 

 小さく笑った。

 

「……そういうことだヨ」

 

 Xiは、嬉しそうに頷いた。

 

「……ありがとう、師匠!」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「……おう!」

 

 その時。

 

 再び、会議室の扉が開いた。

 

「……終わったか?」

 

 ログナーだった。

 

「……おう!」

 

 カイエンが、嬉しそうに書類を差し出した。

 

「今度はちゃんと書いたゼ!」

 

「……ほう」

 

 ログナーは、受け取った。

 

 そして。

 

 静かに目を通す。

 

「…………」

 

 一枚めくる。

 

「…………」

 

 さらに読む。

 

「…………」

 

 Xiは、少し緊張していた。

 

 カイエンも、珍しく黙っている。

 

 やがて。

 

 ログナーは、顔を上げた。

 

「……なるほど」

 

 そして。

 

「よく観察していたようだな、カイエン」

 

「……おっ?」

 

 カイエンが、目を丸くした。

 

 ログナーは、頷いた。

 

「指導内容も、成果も、今後の課題も具体的だ」

 

「……おう」

 

「これなら、十分な報告書と言えるだろう」

 

「…………」

 

 カイエンは、少し驚いた様子だった。

 

 そして。

 

「……ハハッ!」

 

 嬉しそうに笑った。

 

「そうかヨ!」

 

 Xiも、嬉しそうだった。

 

「……良かったね、師匠!」

 

「おう!」

 

 ログナーは、次にXiの報告書を手に取った。

 

 そして。

 

 ゆっくりと読み進めた。

 

「…………」

 

 しばらくして。

 

 最後の総括に目を通す。

 

「…………」

 

 ログナーは、静かに書類を置いた。

 

「……Xi」

 

「……はい?」

 

「……よく学んだようだな」

 

「…………」

 

 Xiは、少し驚いた。

 

「……うん」

 

 ログナーは、頷いた。

 

「剣術の成果だけでなく、今回の研修で何を得たのか、自分の言葉で書けている」

 

「……ありがとう」

 

 ログナーは、少し微笑んだ。

 

「今回の費用も、無駄ではなかったようだ」

 

「…………」

 

 Xiは、嬉しそうに笑った。

 

「……うん!」

 

 そして。

 

「司令、本当にありがとう!!」

 

 ログナーは、静かに頷いた。

 

「……礼なら、今回の指導者たちにも言ってやれ」

 

「……うん!」

 

 Xiは、カイエンを見た。

 

「……師匠!」

 

 そして、ソープのいる方角へ目を向けた。

 

「……陛下も!」

 

 カイエンは、照れくさそうに頭を掻いた。

 

「……ったく」

 

 そして。

 

「もう何度も礼は聞いたっての!」

 

 Xiは、嬉しそうに笑った。

 

「……何度でも言いたいんだよ!」

 

 カイエンも、つられて笑った。

 

「ハハッ! そうかヨ!」

 

 ……こうして。

 

 Xiとカイエンの研修報告書は、無事に受理された。

 

 安全管理に関する報告も、アウクソーの確認を添えて整理された。

 

 初日のMBT未遂については、実際の発動も被害もなかったことが確認され、今後の安全管理上の注意事項として記録された。

 

 そして。

 

 Xiは、大きく伸びをした。

 

「……ふぅぅ!」

 

 満面の笑み。

 

「やったぁ!! 終わったぁ!!」

 

 カイエンも、嬉しそうだった。

 

「ハハッ! これで本当に合宿終了だナ!!」

 

「……うん!」

 

 二人は、顔を見合わせて笑った。

 

 ……だが。

 

 その時。

 

 ログナーが、静かに口を開いた。

 

「……ところで、カイエン」

 

「……あ?」

 

「一つ、確認したいことがある」

 

「……何だヨ?」

 

 ログナーは、机の上に別の書類を置いた。

 

「……シュペルターの件だ」

 

「…………」

 

 カイエンの笑顔が、止まった。

 

「……あ?」

 

 Xiも、顔を上げた。

 

「……あっ」

 

 ログナーは、続けた。

 

「ソープ様から、機体の点検と修理に関する話を伺っている」

 

「……おう」

 

「背骨シャフトが曲がったそうだな」

 

「……おう」

 

「……原因は?」

 

「…………」

 

 カイエンは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……三分身して、MBT三連撃を……」

 

「…………」

 

 ログナーが、目を閉じた。

 

「……カイエン」

 

「……何だ?」

 

「その件については、改めて詳しく聞かせてもらおう」

 

「…………」

 

 カイエンは、ゆっくりとXiを見た。

 

 Xiも、カイエンを見た。

 

 そして。

 

「……師匠」

 

「……何だヨ」

 

「……もしかして」

 

「……おう?」

 

「まだ終わってない?」

 

「…………」

 

 ログナーが、静かに答えた。

 

「無論だ。研修報告は終わったが、機体の修理は別件だからな」

 

「…………」

 

 カイエンは、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「まだ終わらねぇのかヨ!!」

 

 Xiが、大笑いした。

 

「あはははは!!」

 

 ところが。

 

 ログナーは、今度はXiを見た。

 

「……Xi」

 

「……はい?」

 

「今回の旅行費用についても、まだ最終精算が残っているぞ」

 

「…………」

 

 Xiの笑顔が、止まった。

 

「……え?」

 

「キラ・ヤマトが領収書を整理している。各所への請求と負担額の確認は、これからだ」

 

「…………」

 

 Xiは、ゆっくりとカイエンを見た。

 

 カイエンも、Xiを見た。

 

 そして。

 

「まだ旅行、終わってないの?!」

 

 ログナーは、静かに頷いた。

 

「当然だ」

 

 カイエンが、大笑いした。

 

「ハハハッ!! どうやら、オレたちだけじゃねぇみてぇだナ!!」

 

 Xiは、頭を抱えた。

 

「地元に帰ってきただけじゃ、旅行って終わらないんだねぇぇ!!」

 

 ……怪物強盗Xi。

 

 剣術合宿を終えて、さらに一つ。

 

 社会人としての現実を学んだのだった。

 

◆ おまんじゅうと、次の仕事

 

 夕方。

 

 ログナーの執務室。

 

 机の上には、Xiとカイエンの研修報告書が置かれていた。

 

 その横には、ラクスから贈られたあわまんじゅう。

 

「…………」

 

 ログナーは、お茶を一口飲んだ。

 

 そして。

 

 まんじゅうを一つ取る。

 

「……うむ」

 

 静かに味わう。

 

「……やはり、美味いな」

 

 ほんの少し、表情が和らいだ。

 

 そこへ。

 

 こんこん。

 

 扉を叩く音。

 

「……入れ」

 

 扉が開いた。

 

 現れたのは、ソープだった。

 

「ログナー!」

 

「陛下。いかがなさいましたか?」

 

 ソープは、にこにこしていた。

 

「シュペルターの件だけどね」

 

「……はい」

 

「まず、現物を確認してから修理方法を決めようと思うんだ」

 

「……承知いたしました」

 

 ログナーは、静かに頷いた。

 

「関連部位にも損傷がないか、確認しておく必要がありそうですね」

 

「うん! そうだねぇ」

 

 ソープは、嬉しそうだった。

 

「カイエン、ずいぶん無茶な使い方をしたみたいだから!」

 

「…………」

 

 ログナーは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……陛下」

 

「何?」

 

「……次回の合宿では、どうかそのような危険な技を使用なさらないよう、カイエンにご注意いただけますか?」

 

 ソープは、にこにこと頷いた。

 

「うん! もちろん!」

 

「……ありがとうございます」

 

 ログナーは、少し安心した。

 

 ところが。

 

 ソープは、続けた。

 

「でもねぇ」

 

「……はい?」

 

「三分身してMBT三連撃って、技術的にはちょっと興味深いよね」

 

「…………」

 

 ログナーが、止まった。

 

 ソープは、楽しそうだった。

 

「どのくらい負荷がかかったのか、ちゃんと調べてみたいなぁ!」

 

「…………」

 

 ログナーは、静かにお茶を置いた。

 

「……陛下」

 

「何?」

 

「研究のために、同じことを再現なさるおつもりではございませんね?」

 

「……え?」

 

 ソープは、きょとんとした。

 

 そして。

 

「ああ! 大丈夫、大丈夫!」

 

「……そうですか」

 

「実機をもう一度壊すわけにはいかないからねぇ!」

 

「……はい」

 

「まずは、計算とシミュレーションで調べてみるよ!」

 

「…………」

 

 ログナーは、深く頷いた。

 

「……それならば、結構でございます」

 

 そして。

 

 机の上のあわまんじゅうを、もう一つ取った。

 

 ソープが、嬉しそうに笑った。

 

「あっ! 気に入ったんだねぇ!」

 

「はい。実に良いお菓子でございます」

 

「ふふ。良かったね!」

 

「……ありがとうございます、陛下」

 

 ログナーは、まんじゅうを一口食べた。

 

 そして。

 

 心の中で、静かに思った。

 

 ……災難に遭わないように。

 

 なるほど。

 

 実に、ありがたい願いの込められた菓子である。

 

 ただし、その効能が最も必要なのは、もしかすると自分なのではないだろうか。

 

 そんなことを考えながら。

 

 ログナーは、次の書類へと手を伸ばした。

 

 剣聖ダグラス・カイエンの、シュペルター修理関連書類。

 

 そして。

 

 もう一つ。

 

 会津合宿に関する、旅行費用の精算予定表。

 

「…………」

 

 ログナーは、静かに呟いた。

 

「……まだ、仕事は残っているな」

 

 そして。

 

 あわまんじゅうを、もう一口。

 

 ……どうやら。

 

 会津合宿は、もうしばらく終わりそうになかった。

 

 

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