守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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岸辺露伴は取材費を編集部に請求したい

◆ 怪物強盗Xiは、まだ合宿を終えられない

 

 コンパス本部。

 

 会津若松での二泊三日の剣術合宿を終え、数日が経過していた。

 

 剣聖ダグラス・カイエンによる研修報告書。

 

 怪物強盗Xiの研修日報。

 

 初日のMBT未遂事件に関する安全管理報告。

 

 そして、シュペルターの背骨シャフト破損事件。

 

 それらは、すでに一通り処理されていた。

 

 シュペルターの修理も、無事に完了。

 

 アウト・ミラージュも、アルバート・ハインラインが約束を守ってくれたおかげで無傷である。

 

 ……これで、ようやく。

 

「……ふぅ!」

 

 Xiは、コンパスの廊下で大きく伸びをした。

 

「……やっと、のんびりできるねぇ」

 

 その隣で、カイエンも満足そうに頷いた。

 

「おう! ようやく全部終わったナ!」

 

「……うん!」

 

 二人は、顔を見合わせて笑った。

 

 そこへ。

 

「……あっ、Xi!」

 

 キラ・ヤマトが、書類の束を抱えて現れた。

 

「ちょうど良かった!」

 

「……ん?」

 

 Xiが、振り向いた。

 

「どうしたの、キラ?」

 

「これから、今回の会津合宿の最終精算をするんだ」

 

「…………」

 

 Xiの笑顔が、止まった。

 

「……え?」

 

「参加者や所属先ごとの負担額を、確認してもらいたくて」

 

「…………」

 

 カイエンも、ぴたりと止まった。

 

「……おい」

 

 キラは、にっこり微笑んだ。

 

「二人とも、少し時間あるかな?」

 

「…………」

 

 Xiは、ゆっくりと顔を上げた。

 

 そして。

 

「まだ終わってなかったの?!」

 

 カイエンも、頭を抱えた。

 

「報告書も修理も、全部終わったじゃねぇかヨ!!」

 

 キラは、苦笑した。

 

「うん。でも、旅行のお金の精算は別だからね」

 

「…………」

 

 Xiは、少し考えた。

 

「……ああ」

 

 そして、深く頷いた。

 

「……そうだね」

 

 カイエンも、しぶしぶ頷いた。

 

「……まあナ」

 

 キラは、二人を見た。

 

「それじゃあ、会議室で待ってるね」

 

「……うん」

 

 キラが、歩き去る。

 

 残された二人。

 

「…………」

 

 Xiは、カイエンを見た。

 

「……師匠」

 

「……何だヨ」

 

「……旅行って」

 

「……おう?」

 

「いつになったら終わるんだろうね……」

 

 カイエンは、しばらく考えた。

 

 そして。

 

「……さあナ」

 

 二人は、揃ってため息をついた。

 

 ……剣聖と怪物強盗。

 

 数々の難敵を乗り越えてきた二人だったが。

 

 経理部門との戦いは、まだ始まったばかりである。

 

◆ キラ・ヤマトは、領収書を一枚も見逃したくない

 

 コンパス本部、会議室。

 

 大きな机の上には、書類の束が並んでいた。

 

 宿泊費。

 

 交通費。

 

 食事代。

 

 観光に伴う費用。

 

 そして、追加注文の領収書。

 

「……よし」

 

 キラは、書類を整えた。

 

「それじゃあ、今回の会津合宿について、最後の精算を始めます」

 

 机を囲むのは、会津旅行に参加した面々。

 

 ログナー司令も、最終確認のために同席していた。

 

 その前には、お茶。

 

 そして。

 

 ラクスから贈られた、会津名物のあわまんじゅう。

 

「…………」

 

 Xiは、その様子を見た。

 

 ログナーは、落ち着いた表情でお茶を飲んでいる。

 

 ……どうやら、あわまんじゅうは相当気に入ったらしい。

 

「……司令」

 

「何だ?」

 

「……そのおまんじゅう、美味しかった?」

 

「……ああ」

 

 ログナーは、頷いた。

 

「実に良い菓子だった。ラクス殿には感謝している」

 

 ラクスが、嬉しそうに微笑んだ。

 

「お口に合って、何よりですわ」

 

 ソープも、にこにこしている。

 

「良かったねぇ、ログナー!」

 

「はい。陛下」

 

 Xiは、少し安心した。

 

「……良かった」

 

 その隣で、カイエンが小声で呟いた。

 

「……なあ、Xi」

 

「……何?」

 

「……あれ食ってりゃ、ログナーもちっとは機嫌が良くなるんじゃねぇか?」

 

「……え?」

 

 Xiは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……どうだろう」

 

「……おう?」

 

「……師匠の報告書、結局ちゃんと書き直させられたよね?」

 

「…………」

 

 カイエンは、黙った。

 

 Xiは、微笑んだ。

 

「おまんじゅうは美味しくても、審査は別みたいだね」

 

「……ちぇっ」

 

 その時。

 

「……カイエン」

 

 ログナーが、顔を上げた。

 

「……おう?」

 

「何か言ったか?」

 

「……いや、別に!」

 

 Xiは、思わず吹き出した。

 

「……あははは!」

 

 さて。

 

 キラが、手元の資料を示した。

 

「今回の費用は、大きく三つに分けて整理してあります」

 

 Xiが、顔を上げる。

 

「……三つ?」

 

「うん」

 

 キラは、頷いた。

 

「まず、剣術研修として事前に承認されていた費用。次に、参加者それぞれの旅行費用。そして、個人的な追加注文などの費用だよ」

 

「……なるほど」

 

 ログナーも、頷いた。

 

「研修に必要な費用については、A.K.D.側で合意した範囲を負担する」

 

「……うん」

 

「だが、個人の観光や追加の飲食費まで、すべて研修費に含めるわけにはいかん」

 

 Xiは、頷いた。

 

「……そうだね」

 

 キラは、続けた。

 

「それから、シュペルターの修理費用は今回の旅行とは別会計だからね」

 

「…………」

 

 カイエンが、顔を上げた。

 

「……おう」

 

 Xiは、思わず笑った。

 

「……師匠、良かったね」

 

「……何がだヨ?」

 

「もし修理費まで合宿の経費に入ってたら、とんでもない金額になってたよ!!」

 

「そりゃそうだろうがヨ!!」

 

 ログナーは、静かに頷いた。

 

「……そこは混同するな」

 

 そして。

 

「本日の精算対象は、あくまでも会津合宿の費用だ」

 

「……はい!」

 

 Xiは、少し姿勢を正した。

 

 キラも、頷いた。

 

「では、順番に確認します」

 

 こうして。

 

 会津合宿、最後の精算会議が始まった。

 

◆ 料理長の大艦隊は、追加料金を請求しなかった

 

「……まず、宿泊費から」

 

 キラが、旅館の請求明細を示した。

 

「二泊三日。部屋割りは、事前に確認したとおり」

 

 Xiが、頷いた。

 

「……うん」

 

「食事については、宿泊プランに含まれていた分と、それ以外の追加分を分けてあります」

 

「……なるほど」

 

 すると。

 

 弥子が、元気よく手を挙げた。

 

「はい!」

 

 キラが、顔を上げる。

 

「……弥子ちゃん?」

 

「朝食ビュッフェって、あれだけ食べても追加料金かからないんですか?!」

 

「……うん」

 

 キラは、少し笑った。

 

「今回の宿泊プランでは、朝食は料金に含まれていたからね」

 

「……わぁ!」

 

 弥子は、目を輝かせた。

 

「やっぱりビュッフェって素晴らしいですね!!」

 

「…………」

 

 Xiが、ゆっくりと振り向いた。

 

「……弥子ちゃん」

 

「はい?」

 

「……旅館の料理長さん、すごく頑張ってたんだよ?」

 

「はい!」

 

 弥子は、満面の笑みだった。

 

「本当に美味しかったです! また食べに行きたいです!」

 

 ラキシスも、嬉しそうに微笑んだ。

 

「ええ。どのお料理も素晴らしいお味でしたね」

 

 すえぞうが、元気よく鳴いた。

 

「ウマイ!!」

 

 アウクソーは、穏やかに微笑んだ。

 

「調理場の皆様も、最後まで丁寧に対応してくださいましたね」

 

 バクスチュアルも、小さく頷いた。

 

「感謝、必要」

 

 キラも、嬉しそうに笑った。

 

「うん。もちろん、お礼はきちんと伝えてあるよ」

 

 Xiは、少し安心した。

 

「……良かった」

 

 その時。

 

 ネウロが、愉快そうに笑った。

 

「ククク……しかし、貴様らの食欲は実に恐ろしいな」

 

 弥子が、振り向く。

 

「……何よ!」

 

「料理長が苦心して用意した料理を、次から次へと平らげていたではないか」

 

「全部美味しくいただいたわよ!!」

 

 Xiは、頷いた。

 

「……うん。それは本当だね」

 

 キラも、微笑んだ。

 

「食べ残しもほとんどなかったしね」

 

 そして、明細へ目を戻した。

 

「旅館側にも確認したけど、提供に問題はなかったそうだよ」

 

「……それなら良かった!」

 

 弥子が、嬉しそうに頷いた。

 

 ログナーも、静かに頷いた。

 

「……宿泊施設への迷惑がなかったのなら、何よりだ」

 

 そして。

 

「……キラ・ヤマト」

 

「……はい?」

 

「今回のような大人数の宿泊を、よく滞りなく手配したな」

 

「…………」

 

 キラは、少し驚いた。

 

 そして。

 

「……ありがとうございます」

 

 嬉しそうに微笑んだ。

 

 ラクスも、優しく頷いた。

 

「キラ、本当にお疲れさまでした」

 

「……うん!」

 

 Xiも、嬉しそうだった。

 

「キラのおかげで、みんな安心して旅行できたよ!」

 

 カイエンが、大笑いした。

 

「ハハッ! 確かにナ!」

 

 そして。

 

「おかげでオレも、最後の夜はぐっすり眠れたゼ!」

 

「…………」

 

 露伴が、顔を上げた。

 

「……おい」

 

 カイエンが、振り向く。

 

「……何だヨ?」

 

「……それは、僕に対する当てつけかい?」

 

「当てつけじゃねぇ! 事実だヨ!!」

 

 Xiが、吹き出した。

 

「……あははは!」

 

 キラは、苦笑した。

 

「……あの夜の部屋の調整も、旅館の方に協力していただきましたからね」

 

 ログナーは、静かに頷いた。

 

「……なるほど」

 

 そして、露伴を見た。

 

「……岸辺露伴」

 

「……何だ?」

 

「次回からは、講師の睡眠時間にも配慮してもらいたい」

 

 露伴は、少し考えた。

 

 そして。

 

「……分かったよ。部屋を分ければいいんだろう?」

 

 カイエンが、即答した。

 

「最初からそうしてくれヨ!!」

 

 ……どうやら、次回の合宿では。

 

 部屋割りについて、より慎重な検討が必要になりそうだった。

 

◆ 桂木弥子は、食費の領収書を見せられたくない

 

「……さて」

 

 キラは、次の書類を取り出した。

 

「続いて、食事代だね」

 

 弥子が、嬉しそうに顔を上げた。

 

「はい!」

 

 Xiが、少し笑った。

 

「……弥子ちゃん、食事の話になると本当に元気だね」

 

「えへへ!」

 

 キラは、確認を続けた。

 

「初日の煮込みソースカツ丼。なかじまさんで、三十人前」

 

「……おお」

 

 カイエンが、頷いた。

 

「旨かったナ!」

 

 弥子も、満面の笑みだった。

 

「はい!!」

 

 キラは、続けた。

 

「二日目の、おろし蕎麦」

 

「……ああ!」

 

 Xiが、微笑んだ。

 

「あのお蕎麦も美味しかったね」

 

「はい!」

 

 弥子は、嬉しそうだった。

 

「辛味大根のおろし汁でいただくのが、とっても良かったです!」

 

「……うん」

 

 キラは、頷いた。

 

「それから、三日目の馬刺し定食」

 

「……はい!!」

 

 弥子の目が、さらに輝いた。

 

「あれも最高でした!!」

 

 Xiは、少し笑った。

 

「……弥子ちゃん、全部覚えてるね」

 

「もちろんです!」

 

 ところが。

 

 キラは、少しだけ真面目な顔になった。

 

「……それでね、弥子ちゃん」

 

「……はい?」

 

「追加注文の分も、ちゃんと計上してあるからね」

 

「…………」

 

 弥子が、止まった。

 

「……え?」

 

 キラは、微笑んだ。

 

「初日のカツ丼も、お蕎麦も、馬刺し定食のおかわりもね」

 

「…………」

 

 弥子は、少し考えた。

 

 そして。

 

「……あっ」

 

 何かに気づいた。

 

「……そうでした!」

 

 Xiが、苦笑した。

 

「……弥子ちゃん」

 

「……はい?」

 

「食べた分の代金は、ちゃんと発生するんだよ?」

 

「……えへへ!」

 

 弥子は、照れくさそうに笑った。

 

 すると。

 

 ネウロが、愉快そうに口を開いた。

 

「ククク……家畜め」

 

「……何よ!」

 

「貴様の食欲を経費として計上するとは、実に興味深いな」

 

「誰が家畜よ!!」

 

 キラは、苦笑しながら続けた。

 

「弥子ちゃんとネウロの分は、事前に相談したとおり探偵事務所側の負担でいいかな?」

 

 ネウロは、頷いた。

 

「構わん」

 

「……ありがとう」

 

 キラは、微笑んだ。

 

「じゃあ、その分は事務所宛てに精算しよう」

 

 弥子も、頷いた。

 

「はい! お願いします!」

 

 Xiは、少し安心した。

 

「……良かったね、弥子ちゃん」

 

「はい!」

 

 ところが。

 

 ネウロが、続けた。

 

「ただし、弥子」

 

「……何よ?」

 

「これを事務所の通常の食費として処理するのは、少々無理があるな」

 

「…………」

 

 弥子が、止まった。

 

「……え?」

 

 ネウロは、愉快そうだった。

 

「ククク……あくまで今回の特別な旅行費用として扱うことにしよう」

 

「……ああ!」

 

 弥子は、ほっと息を吐いた。

 

「びっくりしたぁ!」

 

 Xiが、首を傾げる。

 

「……弥子ちゃん?」

 

「……はい?」

 

「……何にびっくりしたの?」

 

 弥子は、真剣な顔で答えた。

 

「今後の食費に上限をつけられるのかと思いました!!」

 

「そこ?!」

 

 カイエンが、大笑いした。

 

「ハハハッ!! 食うことに関しちゃ本当に必死だナ!!」

 

 弥子は、少し頬を膨らませた。

 

「だって、美味しいものを食べるのは人生の楽しみですよ!」

 

 Xiは、思わず笑った。

 

「……うん。それは分かるよ」

 

 ラキシスも、優雅に微笑んだ。

 

「ええ。本当にそうですね」

 

 ソープが、嬉しそうに頷く。

 

「うん! ラキシスもたくさん楽しんでたもんねぇ!」

 

 Xiは、微笑んだ。

 

「……姫様も、会津のお料理を気に入ってくれたんだね」

 

 ラキシスが、頷いた。

 

「はい。とても素敵な旅行でした」

 

 キラも、微笑んだ。

 

 そして、書類へ目を戻した。

 

「ラキシスたちの分も、A.K.D.側で確認していただいた負担区分にまとめてあるよ」

 

 ログナーは、頷いた。

 

「承知している」

 

 そして。

 

「……キラ・ヤマト。追加の馬レバ刺しは?」

 

「みんなで分けた一皿ですね。注文時に確認した予備費の範囲で処理してあります」

 

「……そうか」

 

 ログナーは、静かに頷いた。

 

「問題ない」

 

 Xiは、少し驚いた。

 

「……司令」

 

「何だ?」

 

「……そこまで確認するんだね」

 

「当然だ」

 

 ログナーは、静かに答えた。

 

「支払う額だけでなく、何に使った費用なのかが重要だからな」

 

「……なるほど」

 

 Xiは、頷いた。

 

 そして。

 

「……弥子ちゃん」

 

「……はい?」

 

「……今回の合宿、食費の記録だけでもかなり立派な報告書が書けそうだね」

 

 弥子は、目を輝かせた。

 

「書きますか?! 会津グルメ研修日報!!」

 

「今から書類を増やさなくていいよ!!」

 

 ……怪物強盗Xi。

 

 自分の研修日報がようやく終わったばかりなのである。

 

 これ以上、提出書類を増やすつもりはなかった。

 

◆ 岸辺露伴は、取材費を編集部に請求したい

 

「……では、次に」

 

 キラが、書類を一枚取り出した。

 

「露伴先生と泉さんの費用について確認します」

 

「……ああ」

 

 岸辺露伴が、顔を上げた。

 

 その横で、泉京香も姿勢を正した。

 

「はい!」

 

 キラは、微笑んだ。

 

「今回、露伴先生は取材目的で参加されていましたよね?」

 

「もちろんだ」

 

 露伴は、得意げに頷いた。

 

「実に有意義な取材だったよ」

 

「……そうですか」

 

 キラも、頷いた。

 

「それでは、こちらが今回のご負担分になります」

 

 そう言って、明細を差し出した。

 

 露伴は、受け取った。

 

 そして。

 

 ちらりと目を通す。

 

「…………」

 

 少し考える。

 

「……ふむ」

 

 そして。

 

「編集部で払ってくれ」

 

「…………」

 

 泉京香が、ぴたりと止まった。

 

「……え?」

 

 露伴は、平然としていた。

 

「取材費だろう?」

 

「…………」

 

 泉は、ゆっくりと露伴を見た。

 

「……露伴センセ?」

 

「何だ?」

 

 そして。

 

「露伴センセ?!」

 

 会議室に、泉の声が響いた。

 

 Xiが、びくっとした。

 

「……わっ!」

 

 キラも、少し驚いた。

 

 だが。

 

 露伴は、まったく動じていなかった。

 

「おいおいおいおい! そんなに驚くことかい?」

 

「驚きますよ!!」

 

 泉は、身を乗り出した。

 

「編集部で払うなんて、事前に決まっていませんよね?!」

 

「……ああ」

 

「『ああ』じゃありません!!」

 

 露伴は、腕を組んだ。

 

「しかし、泉くん」

 

「……はい?」

 

「今回の旅行で、僕がどれほど貴重な取材をしたか、君も見ていただろう?」

 

「……それは、もちろん!」

 

 露伴は、スケッチブックを取り出した。

 

 そして。

 

 机の上に広げた。

 

「……まず、これだ」

 

 そこには。

 

 会津の山々を背景に、木剣を構えるダグラス・カイエンの姿が描かれていた。

 

 足の運び。

 

 剣の構え。

 

 重心の置き方。

 

 そして、表情。

 

 実に細かく描き込まれている。

 

「…………」

 

 Xiが、思わず感心した。

 

「……うわぁ」

 

 カイエンも、覗き込む。

 

「……ほう」

 

 そして。

 

「上手ぇじゃねぇかヨ!」

 

 露伴は、にやりと笑った。

 

「当然だ」

 

 泉も、嬉しそうに頷いた。

 

「露伴センセ、すごく良いスケッチですね!」

 

 露伴は、続けた。

 

「さらに、これだ」

 

 次のページ。

 

 塔のへつりの奇岩。

 

 岩壁の侵食された複雑な形状。

 

 吊り橋。

 

 そして、渓谷。

 

「……おお!」

 

 キラも、感心した。

 

「すごいですね」

 

 露伴は、得意げだった。

 

「実際に現地へ行かなければ、こういうものは描けないんだよ」

 

 そして。

 

「……さらに」

 

 ページをめくる。

 

 そこには。

 

 すえぞうの手足のスケッチ。

 

 六本の指が、それぞれ細かく描かれていた。

 

「…………」

 

 Xiが、目を丸くした。

 

「……先生」

 

「……何だ?」

 

「……これ、いつ描いたの?」

 

 露伴は、にやりと笑った。

 

「足湯の時だよ」

 

「……ああ!」

 

 Xiは、頷いた。

 

「……そういえば、すごく興味を持ってたね」

 

「当然だろう!」

 

 露伴は、嬉しそうだった。

 

「六本指のドラゴンの幼生だぞ?! こんな貴重な資料を見逃せるか!」

 

 ラキシスも、微笑んだ。

 

「ふふ。すえぞう、立派に描いていただきましたね」

 

 すえぞうが、得意げに胸を張った。

 

「うっす!!」

 

 露伴は、さらに続けた。

 

「剣聖の直接取材に、地球の景勝地、ドラゴンの観察記録」

 

 そして。

 

「これほど漫画家にとって有意義な旅行が、ほかにあるか?!」

 

「…………」

 

 泉は、少し考えた。

 

 そして。

 

「……それは、分かります」

 

 露伴が、満足そうに頷いた。

 

「だろう?」

 

「はい!」

 

 泉も、頷いた。

 

 そして。

 

「でも、それと編集部が全額負担するかどうかは、別問題です!!」

 

「…………」

 

 露伴が、止まった。

 

「……何?」

 

 泉は、真剣な顔だった。

 

「取材の価値があることと、経費として認められることは、同じではありません!」

 

「……おいおい」

 

「事前に企画として承認されていれば、もちろん話は違います!」

 

「……ああ」

 

「でも今回は、合宿に参加してから、取材資料がたくさん集まったんですよね?!」

 

「……そうだな」

 

「だったら、編集部に相談してからでないと、経費として処理できません!!」

 

「…………」

 

 露伴が、黙った。

 

 Xiも、黙った。

 

 キラも、静かに頷いた。

 

 そして。

 

「……泉さん」

 

「……はい?」

 

 Xiは、少し感心したように言った。

 

「……すごいね」

 

「……え?」

 

「正論で、露伴先生の退路がどんどん蒸されていく……」

 

「蒸されてる?!」

 

 泉が、思わず振り向いた。

 

 カイエンは、大笑いした。

 

「ハハハハッ!! こいつは強ぇナ!!」

 

 ネウロも、愉快そうだった。

 

「ククク……漫画家の論理を、編集者の論理で封じ込めたか」

 

 露伴は、少し不満そうだった。

 

「……何だい、君たちは」

 

 だが。

 

 ログナーが、静かに口を開いた。

 

「……泉京香」

 

「……はい!」

 

「今の説明は、もっともだ」

 

「……ありがとうございます!」

 

 ログナーは、頷いた。

 

「取材成果があることは理解した。だが、出版社の承認なしに費用を請求することはできん」

 

 露伴が、顔を上げた。

 

「……つまり?」

 

 ログナーは、静かに答えた。

 

「編集部が負担するというのなら、正式に確認を取ってくれ」

 

「…………」

 

 露伴は、腕を組んだ。

 

 そして。

 

「……分かったよ」

 

 泉が、ほっと息を吐いた。

 

「……露伴センセ」

 

「何だ?」

 

「……ちゃんと相談しましょうね」

 

「分かってる」

 

 そして。

 

 露伴は、スケッチブックを閉じた。

 

「それなら、編集長に取材成果を見せて説得しようじゃあないか」

 

 泉は、ようやく微笑んだ。

 

「はい! それなら私も協力します!」

 

 ……こうして。

 

 岸辺露伴と泉京香。

 

 漫画家と編集者による、取材費承認への共同作戦が始まった。

 

 ただし。

 

 この時点で、編集部からの支払いは一円たりとも確定していない。

 

◆ 岸辺露伴は、追加取材を諦めたくない

 

 精算会議の休憩時間。

 

 露伴と泉は、編集部へ提出するための企画資料を整理していた。

 

「……さて」

 

 露伴が、スケッチブックを開く。

 

「まず、この剣術の描写だな」

 

 泉が、頷いた。

 

「はい。とても良いと思います!」

 

「それから、塔のへつりの岩壁」

 

「はい!」

 

「そして、ドラゴンの手足の構造」

 

「……あっ」

 

 泉が、少し考えた。

 

「……露伴センセ」

 

「何だ?」

 

「そのドラゴンの絵って、漫画に使っても大丈夫なんでしょうか?」

 

「……何?」

 

 泉は、続けた。

 

「観察してスケッチすることと、作品として発表することは、また別ですよね?」

 

「…………」

 

 露伴は、少し考えた。

 

 そして。

 

「……まあ、そうだな」

 

 泉は、頷いた。

 

「それに、剣聖カイエンさんの姿も、実際の人物がモデルになるわけですから」

 

「……ああ」

 

「取材時に許可をいただいたことと、掲載して良いかどうかも確認しておいた方がいいと思います!」

 

「…………」

 

 露伴は、腕を組んだ。

 

 そして。

 

「……分かったよ」

 

 泉は、嬉しそうだった。

 

「ありがとうございます!」

 

 その時。

 

 Xiが、書類を抱えて通りかかった。

 

「……あれ?」

 

 立ち止まる。

 

「……先生、泉さん?」

 

 露伴が、顔を上げた。

 

「……Xiか」

 

 Xiは、スケッチブックを見た。

 

「……まだお仕事?」

 

「……ああ」

 

 露伴は、少し不満そうだった。

 

「今回の取材成果をまとめているところさ」

 

 泉が、微笑んだ。

 

「編集部へ経費を申請するためにも、企画資料が必要なんです」

 

「……なるほど」

 

 Xiは、頷いた。

 

 すると。

 

 露伴が、何かを思い出したように顔を上げた。

 

「……そうだ、Xi」

 

「……何?」

 

「カイエンは、今どこにいる?」

 

「…………」

 

 Xiは、ぴたりと止まった。

 

「……え?」

 

 露伴は、続けた。

 

「この剣技のスケッチなんだが、もう少し詳しい説明が欲しくてね」

 

「…………」

 

 Xiは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……先生」

 

「何だ?」

 

「……師匠、今回の合宿で何回質問されたと思う?」

 

「……さあ?」

 

「……二晩、ほとんど休めなかったんだよ?」

 

「……ああ」

 

「……それで、また?」

 

 露伴は、少し考えた。

 

 そして。

 

「……しかし、取材は大切だろう?」

 

「…………」

 

 Xiは、深く息を吐いた。

 

「……先生」

 

「……何だ?」

 

「……掲載の許可をお願いするにしても、追加の取材をお願いするにしても」

 

 そして。

 

「師匠が断ったら、ちゃんとそこで終わりにしてね?」

 

「…………」

 

 露伴は、Xiを見た。

 

 そして。

 

「……分かってるよ」

 

 少し笑った。

 

「無理に読ませてもらうつもりはないさ」

 

 Xiは、ほっと息を吐いた。

 

「……うん。ありがとう」

 

 その時。

 

 背後から声がした。

 

「……おい、Xi」

 

 振り向くと。

 

 カイエンが立っていた。

 

「……師匠!」

 

「……おう」

 

 カイエンは、露伴を見た。

 

「……何の話だヨ?」

 

 露伴が、顔を上げた。

 

「……ああ。ちょうど良かった」

 

「……あ?」

 

「今回の稽古風景を漫画の資料に使いたいんだが、確認してもらえるかな?」

 

 カイエンは、少し考えた。

 

「……ああ」

 

 そして、頷いた。

 

「別に構わねぇゼ」

 

「……本当か?!」

 

「おう。ただし」

 

 カイエンは、露伴を指さした。

 

「夜中の追加取材は、もう勘弁してくれヨ!!」

 

「おいおいおいおい! それはもう終わった話だろう!」

 

「だから、次もやるなって言ってんだヨ!!」

 

 Xiは、吹き出した。

 

「……あははは!」

 

 そして。

 

 カイエンは、少し笑った。

 

「ま、オレの稽古が漫画の役に立つんなら、それは悪い話じゃねぇナ」

 

 露伴も、嬉しそうだった。

 

「……ああ。良い作品にできそうだ」

 

 泉が、深く頭を下げた。

 

「カイエンさん、ありがとうございます!」

 

 カイエンは、笑った。

 

「おう!」

 

 そして。

 

「……あとは、そっちの編集部が払ってくれるかどうかだナ!」

 

「…………」

 

 露伴の笑顔が、止まった。

 

 Xiが、大笑いした。

 

「あははは!! そこは師匠も気になるんだ!!」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「ハハッ! そりゃそうだろ!」

 

 そして。

 

「オレだって、報告書を散々書かされたんだからナ!!」

 

 ……どうやら。

 

 剣聖ダグラス・カイエン。

 

 自分だけが書類仕事で苦労するのは、少々納得できないらしい。

 

◆ 泉京香は、編集長を説得したい

 

 その日の午後。

 

 コンパスの会議室。

 

 泉京香は、編集部との連絡を終えたところだった。

 

「……ふぅ」

 

 小さく息を吐く。

 

 その横では、露伴が腕を組んでいた。

 

「……どうだった?」

 

 泉は、少し微笑んだ。

 

「編集長、企画自体には興味を持ってくださいました」

 

「……ほう」

 

 露伴の目が、輝いた。

 

「そうだろう!」

 

 泉は、続けた。

 

「剣術の資料と、会津の風景については、漫画制作のための取材資料として有用だと評価していただけました」

 

「……当然だ!」

 

 露伴は、満足そうだった。

 

 その時。

 

 Xiとキラが、会議室へ入ってきた。

 

「……あっ」

 

 Xiが、顔を上げた。

 

「……泉さん!」

 

 キラも、微笑んだ。

 

「何か進展はありましたか?」

 

 泉は、嬉しそうに頷いた。

 

「はい!」

 

 そして。

 

「編集部から、今回の取材費について一部承認をいただけました!」

 

「……おお!」

 

 Xiが、嬉しそうに笑った。

 

「……良かったね!」

 

 キラも、頷いた。

 

「ありがとうございます。それなら精算を進められそうですね」

 

 露伴が、満足そうに頷いた。

 

「……ふん。最初からそうなると思っていたよ」

 

 ところが。

 

「……ただし!」

 

 泉が、少し強い声で言った。

 

「…………」

 

 露伴が、止まった。

 

「……何だ?」

 

 泉は、書類を取り出した。

 

「全額ではありません!!」

 

「…………」

 

 露伴が、黙った。

 

 泉は、続けた。

 

「編集部として認められたのは、今回の取材企画に直接関係する、規定の範囲内の費用だけです!」

 

「……ああ」

 

「それ以外の観光費用や、個人的な飲食の追加分は対象外です!」

 

「……なるほど」

 

 キラも、頷いた。

 

「それなら、こちらの明細とも区分を合わせられますね」

 

「はい!」

 

 泉が、笑顔になった。

 

 露伴は、少し考えた。

 

 そして。

 

「……つまり」

 

「……はい?」

 

「僕が個人的に楽しんだ分は、自分で払えというわけか」

 

 泉が、力強く頷いた。

 

「そういうことです!!」

 

「…………」

 

 露伴は、腕を組んだ。

 

 そして。

 

「……まあ、仕方ないな」

 

 Xiが、少し驚いた。

 

「……先生?」

 

 露伴は、顔を上げた。

 

「……何だ?」

 

「……意外とあっさり納得したね」

 

 露伴は、少し不満そうだった。

 

「おいおいおいおい! 僕だって、何が経費になるかくらい分かっているよ!」

 

 泉が、即座に口を挟んだ。

 

「だったら最初から全額請求しないでください!!」

 

「…………」

 

 露伴が、止まった。

 

 Xiが、口を押さえた。

 

「……ぷっ」

 

 カイエンが、横から大笑いした。

 

「ハハハハッ!! そりゃそうだ!!」

 

 露伴が、振り向いた。

 

「……君は、少し静かにしてくれないか?」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「オレは書類全部出したからナ!!」

 

「…………」

 

 露伴は、少し考えた。

 

 そして。

 

「……分かったよ。僕の個人負担分は、僕が払う」

 

 泉が、嬉しそうに頷いた。

 

「ありがとうございます!」

 

 キラも、ほっと息を吐いた。

 

「それでは、編集部の承認範囲に合わせて請求書を分けますね」

 

「……ああ」

 

 露伴は、頷いた。

 

 そして。

 

「……しかし」

 

 少し考える。

 

「……これほどの取材成果があったんだから、次は最初から編集部の企画として申請すればいいわけだな?」

 

 泉が、目を輝かせた。

 

「はい!! それなら私も、企画書をきちんと準備できます!!」

 

 Xiが、微笑んだ。

 

「……なるほど」

 

 そして。

 

「……次回は先に許可を取るんだね」

 

 露伴は、にやりと笑った。

 

「そういうことだ」

 

 その時。

 

 カイエンが、ぴたりと止まった。

 

「…………」

 

 Xiが、振り向く。

 

「……師匠?」

 

 カイエンは、ゆっくりと露伴を見た。

 

「……おい、露伴」

 

「……何だ?」

 

「その『次回』って、まさか次の剣術合宿じゃねぇだろうナ?!」

 

「…………」

 

 露伴は、少し考えた。

 

 そして。

 

「……それも面白そうじゃあないか」

 

「おいおいおいおい!!」

 

 カイエンが、思わず露伴の口癖を叫んでしまった。

 

 Xiが、お腹を抱えて大笑いした。

 

「師匠!! 露伴先生の口癖がうつってる!!」

 

 泉も、吹き出した。

 

「……あははは!!」

 

 カイエンは、頭を抱えた。

 

「勘弁してくれヨ!!」

 

 ……こうして。

 

 岸辺露伴の取材費問題は、無事に決着した。

 

 編集部が承認した分は、編集部へ。

 

 個人的な旅行費用は、露伴自身が負担する。

 

 泉の業務上必要な費用も、編集部の承認に従って処理する。

 

 取材の価値は認められた。だが、経費は無条件ではない。

 

 ……編集者・泉京香。

 

 最後まで、正論で編集部の予算を守り抜いたのである。

 

◆ キラ・ヤマトは、最後の精算を終わらせたい

 

 それから、さらに数日後。

 

 コンパス本部。

 

 再び、会議室に一行が集まっていた。

 

 机の上には、最後の精算表。

 

 そして、各所から確認済みの書類。

 

「……さて」

 

 キラが、ゆっくりと顔を上げた。

 

「お待たせしました」

 

 Xiが、少し緊張した様子で尋ねた。

 

「……キラ?」

 

「うん」

 

 キラは、微笑んだ。

 

「今回の会津合宿、旅行費用の精算がすべて完了しました!」

 

「…………」

 

 しばしの沈黙。

 

 そして。

 

「やったぁぁぁ!!」

 

 Xiが、両手を上げた。

 

 カイエンも、大笑いした。

 

「ハハハハッ!! ようやくだナ!!」

 

 ソープも、嬉しそうに笑った。

 

「良かったねぇ!」

 

 ラクスが、微笑んだ。

 

「キラ、本当にお疲れさまでした」

 

 ラキシスも、上品に一礼した。

 

「ありがとうございました、キラ様」

 

 アウクソーも、頷いた。

 

「最後まで丁寧にお手配いただき、感謝いたします」

 

 バクスチュアルも、小さく頷く。

 

「キラサン。オ疲レ様」

 

 すえぞうが、元気よく鳴いた。

 

「ロッケンロー!!」

 

 カイエンが、満足そうに頷いた。

 

「おう! 今のはここぞって時だナ!!」

 

 Xiが、吹き出した。

 

「……あははは!」

 

 弥子も、嬉しそうだった。

 

「キラくん、ありがとうございました!」

 

 ネウロが、愉快そうに笑った。

 

「ククク……あれだけの家畜の食費を、よく整理したものだな」

 

「誰が家畜よ!!」

 

 露伴も、頷いた。

 

「……ああ。ご苦労だったね」

 

 泉が、深く頭を下げた。

 

「本当にありがとうございました!」

 

 キラは、少し照れくさそうに笑った。

 

「ううん。みんなの協力があったからだよ」

 

 そして。

 

「……これで」

 

 書類を揃える。

 

「旅行中に発生した費用は、すべて負担先を確認して精算できました」

 

 ログナーが、静かに頷いた。

 

「……なるほど」

 

 そして、書類に目を通した。

 

「事前に承認した研修費用」

 

「はい」

 

「各参加者の個人負担分」

 

「はい」

 

「探偵事務所の負担分」

 

「はい」

 

「出版社の承認した取材費」

 

「はい」

 

「……いずれも確認済みだな?」

 

 キラが、頷いた。

 

「はい。必要な支払いも、すべて完了しています」

 

 ログナーは、静かに書類を置いた。

 

「……よし」

 

 そして。

 

「今回の会津合宿に関する経費精算を、正式に完了とする」

 

「…………」

 

 Xiが、顔を上げた。

 

「……司令」

 

「……何だ?」

 

「……本当に?」

 

「……ああ」

 

「……もう、報告書はない?」

 

「ない」

 

「……追加の請求書も?」

 

「今回の旅行に関しては、ない」

 

 Xiは、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「終わったぁぁぁ!!」

 

 カイエンも、大きく伸びをした。

 

「ようやく終わったゼ!!」

 

 ソープも、嬉しそうに頷いた。

 

「ふふ。良かったね!」

 

 ログナーは、少しだけ微笑んだ。

 

「……ああ」

 

 そして。

 

「今回の研修は、これをもって正式に終了とする」

 

 ……こうして。

 

 二泊三日の剣術合宿は。

 

 帰還後の研修報告。

 

 安全管理の確認。

 

 シュペルターの修理。

 

 そして、旅行費用の精算をすべて終えた。

 

 ようやく、本当の意味で完結したのである。

 

◆ 怪物強盗Xiは、自分で選んだ三日間を振り返る

 

 精算会議を終えた後。

 

 Xiは、会議室の窓から外を眺めていた。

 

「…………」

 

 長かった。

 

 実に長かった。

 

 会津での合宿は、たった三日間。

 

 だが。

 

 その後の報告書と精算が、こんなにも大変だったとは思わなかった。

 

「……ふぅ」

 

 小さく息を吐く。

 

 すると。

 

「……おい、Xi」

 

 隣から、声がした。

 

 カイエンだった。

 

「……師匠」

 

「……どうしたヨ?」

 

「……いや」

 

 Xiは、微笑んだ。

 

「……本当に、いろいろあったなぁって」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「ハハッ! そうだナ!」

 

 Xiは、頷いた。

 

「最初は、師匠に剣術を教わるだけのつもりだったんだ」

 

「……おう」

 

「でも、温泉に入って、美味しいものを食べて、みんなで観光して……」

 

「……おう」

 

「花火をして、また稽古して……」

 

 Xiは、少し笑った。

 

「……なんか、剣術以外にも、いっぱい勉強になったよ」

 

 カイエンは、少し嬉しそうだった。

 

「……そうかヨ」

 

 Xiは、頷いた。

 

「……うん」

 

 そして。

 

「……最後には、報告書まで書くことになったしね」

 

 カイエンが、大笑いした。

 

「ハハハッ!! そいつはオレも同じだヨ!!」

 

 Xiも、笑った。

 

「……うん!」

 

 しばらく、二人は笑っていた。

 

 やがて。

 

 Xiが、静かに口を開いた。

 

「……ねえ、師匠」

 

「……何だ?」

 

「……僕ね」

 

 少し考える。

 

「……今回の合宿に参加して、本当に良かったと思ってる」

 

「……おう」

 

「……自分で行くって決めたから」

 

 カイエンは、黙って聞いていた。

 

「……楽しかったことも、大変だったことも、全部、自分の経験なんだよね」

 

「……そうだナ」

 

「……それで」

 

 Xiは、少し照れくさそうに笑った。

 

「……次も、また行きたいなって思う」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「ハハッ! そいつは嬉しいこと言ってくれるじゃねぇかヨ!」

 

 Xiも、嬉しそうだった。

 

「……うん!」

 

 そして。

 

「……もちろん、まだまだ強くなりたいし」

 

「……おう」

 

「……師匠や陛下に教わりたいことも、いっぱいある」

 

 カイエンは、頷いた。

 

「……そうか」

 

 そして。

 

「じゃあ、次はちっと先へ進んでみるかナ」

 

 Xiが、顔を上げた。

 

「……先?」

 

「おう」

 

 カイエンは、にやりと笑った。

 

「相手の攻撃が、どこへ、いつ来るか」

 

「……うん」

 

「それを読み切るための稽古だヨ」

 

「…………」

 

 Xiは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……タイミングと、剣筋の予測?」

 

 カイエンが、嬉しそうに頷いた。

 

「そういうことだ!」

 

 Xiの目が、輝いた。

 

「……面白そう!」

 

 そして。

 

「……大技に頼らず、相手の動きをよく見るんだね」

 

「……おう!」

 

 カイエンは、頷いた。

 

 ところが。

 

 Xiは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……師匠」

 

「……何だ?」

 

「……それって」

 

 にやりと笑う。

 

「シュペルターの背骨シャフトを曲げた師匠にも必要な稽古なんじゃない?」

 

「…………」

 

 カイエンが、止まった。

 

「……おい、Xi」

 

 Xiは、大笑いした。

 

「あはははは!!」

 

 カイエンは、少し不満そうだった。

 

「いつまでその話を引っ張るんだヨ!!」

 

 Xiは、嬉しそうに笑った。

 

「……だって、忘れられないよ!」

 

「……ったく!」

 

 そして。

 

 二人は、また大笑いした。

 

 ……今回の合宿で、Xiが得たもの。

 

 それは、剣術の技術だけではない。

 

 自分で選ぶこと。

 

 自分の行動に責任を持つこと。

 

 他人の好意を受け取ること。

 

 そして、仲間たちと楽しい時間を過ごすこと。

 

 どれも、剣を握るだけでは学べないものだった。

 

「…………」

 

 Xiは、静かに微笑んだ。

 

 ……次は、どんな旅になるだろう。

 

 まだ、分からない。

 

 だが。

 

 その時が来たら、また自分で考えよう。

 

 そして、自分で選ぼう。

 

 ……きっと、その先にも。

 

 新しい発見が待っているはずだから。

 

◆ 最後の最後で、天照帝は次の合宿を計画したい

 

 さて。

 

 精算会議を終えた一行は、コンパスの談話室に集まっていた。

 

 ラクスが淹れたお茶。

 

 そして、残っていた会津のお菓子。

 

 全員、ようやくひと息ついている。

 

「……ふぅ!」

 

 Xiは、お茶を一口飲んだ。

 

「……やっと、終わったね」

 

 キラも、嬉しそうに頷いた。

 

「うん!」

 

 カイエンは、満足そうだった。

 

「ハハッ! 長ぇ合宿だったナ!」

 

 弥子が、嬉しそうに笑った。

 

「でも、すっごく楽しかったです!」

 

 ラキシスも、微笑んだ。

 

「ええ。また皆様とご一緒したいですね」

 

 露伴が、頷いた。

 

「……僕も、なかなか良い資料が集まったよ」

 

 泉は、微笑んだ。

 

「次回は、ちゃんと編集部に企画を通してからにしましょうね、露伴センセ!」

 

「……分かってるよ」

 

 ネウロが、愉快そうに笑った。

 

「ククク……次も面白いものが見られそうだな」

 

 すえぞうが、元気よく鳴いた。

 

「うっす!!」

 

 アウクソーも、穏やかに頷いた。

 

「マスターも、良いご経験をなさいましたね」

 

 カイエンが、嬉しそうに笑った。

 

「おう!」

 

 バクスチュアルも、微笑んだ。

 

「Xiサン。良イ合宿、ダッタ」

 

 Xiは、頷いた。

 

「……うん!」

 

 そして。

 

 ソープが、にこにこしながら口を開いた。

 

「……そういえば!」

 

 Xiが、振り向く。

 

「……陛下?」

 

 ソープは、嬉しそうだった。

 

「次の合宿は、どこへ行こうか?」

 

「…………」

 

 Xiが、止まった。

 

 キラも、止まった。

 

 カイエンも、止まった。

 

 ログナーが、ゆっくりと顔を上げた。

 

「…………」

 

 そして。

 

「……陛下」

 

「何、ログナー?」

 

「今回の合宿は、先ほどようやく精算が完了したところでございます」

 

「うん!」

 

 ソープは、満面の笑みだった。

 

「だから、次の予定を考えようかなって!」

 

「…………」

 

 ログナーは、静かにお茶を置いた。

 

「……陛下」

 

「何?」

 

「次回の合宿につきましては、事前に計画書と予算案をご提出ください」

 

「…………」

 

 ソープが、少し考えた。

 

「……へぇ」

 

 そして。

 

「じゃあ、キラ。一緒に考えてくれる?」

 

「……えっ?!」

 

 キラが、目を丸くした。

 

 Xiも、慌てて声を上げた。

 

「陛下!! キラをまた経費担当にするつもり?!」

 

 ソープは、不思議そうだった。

 

「……だって、今回すごく上手だったから」

 

「……それはそうだけど!」

 

 Xiは、少し考えた。

 

 そして。

 

「せめて、キラにも休ませてあげようよ!!」

 

 カイエンが、大笑いした。

 

「ハハハッ! そりゃそうだナ!」

 

 ログナーも、静かに頷いた。

 

「……Xiの言うとおりです、陛下」

 

「……そう?」

 

「はい。次回の計画については、改めてご相談ください」

 

 ソープは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……うん! 分かった!」

 

 Xiは、ほっと息を吐いた。

 

「……良かった」

 

 ところが。

 

 その時。

 

 露伴が、顔を上げた。

 

「……次の合宿か」

 

「…………」

 

 カイエンが、ぴたりと止まった。

 

「……おい」

 

 露伴は、腕を組んだ。

 

「今度は編集部の取材企画として、事前に申請しておこうかな」

 

「…………」

 

 カイエンが、ゆっくりと露伴を見た。

 

 そして。

 

「次は承太郎を呼ぶって話じゃなかったのかヨ!!」

 

 露伴は、少し不満そうだった。

 

「おいおいおいおい! 僕が参加したっていいだろう!」

 

「オレと同じ部屋じゃなきゃナ!!」

 

 泉が、慌てて口を挟んだ。

 

「露伴センセ! 次回は、ちゃんと企画書を書いてからですよ!」

 

「分かってるって!」

 

 キラも、苦笑した。

 

「……部屋割りも、次はちゃんと考えないとね」

 

 Xiが、深く頷いた。

 

「それは絶対に!!」

 

 ネウロが、愉快そうに笑った。

 

「ククク……ならば、我が輩と漫画家で同室にするか」

 

 露伴の目が、輝いた。

 

「……ほう。それも面白そうじゃあないか」

 

 カイエンは、即答した。

 

「好きにしてくれヨ!!」

 

 一同が、大笑いした。

 

 そして。

 

「……ロッケンロー!!」

 

 すえぞうが、元気よく叫んだ。

 

 カイエンが、満足そうに頷いた。

 

「おう! 今のは決まったナ!!」

 

 Xiは、笑った。

 

「……あははは!」

 

 そして、仲間たちを見渡した。

 

 ソープ。

 

 カイエン。

 

 キラ。

 

 ラクス。

 

 ラキシス。

 

 アウクソー。

 

 バクスチュアル。

 

 弥子。

 

 ネウロ。

 

 露伴。

 

 泉。

 

 そして、すえぞう。

 

 誰もが、楽しそうだった。

 

「…………」

 

 Xiは、静かに微笑んだ。

 

 ……また、みんなで旅に出たい。

 

 そう思えたことが、何より嬉しかった。

 

 そして。

 

 次の旅にも、きっと楽しいことが待っている。

 

 ……もちろん。

 

 経費精算も、待っているのだろうけれど。

 

◆ 最後の書類

 

 その日の夕方。

 

 ログナー司令の執務室。

 

 机の上には、今回の会津合宿に関する書類が、きれいに整理されていた。

 

 研修計画書。

 

 研修日報。

 

 講師報告書。

 

 安全管理報告。

 

 旅行費用の精算書。

 

 各所からの支払い確認。

 

 すべて、確認済み。

 

「…………」

 

 ログナーは、最後の一枚に目を通した。

 

 そして。

 

 静かに印を押した。

 

「……よし」

 

 書類を閉じる。

 

 そこには、こう記されていた。

 

『会津剣術研修・全件完了』

 

「…………」

 

 ログナーは、少しだけ微笑んだ。

 

 そして、手元の湯飲みを取った。

 

 机の横には、ラクスから贈られたあわまんじゅう。

 

 最後の一つが、残っていた。

 

「……ふむ」

 

 ログナーは、それを手に取った。

 

 そして、一口。

 

「……美味いな」

 

 静かに味わう。

 

 ……三日間の合宿。

 

 騎士たちの剣術研修。

 

 そして、さまざまな出来事。

 

 いろいろあったが、結果としては良い研修になったのだろう。

 

 Xiは、確かに成長した。

 

 カイエンも、指導者としての責任を果たした。

 

 ソープは、技術者としてシュペルターを修理した。

 

 参加者たちも、それぞれに良い経験をしたようだった。

 

 そして。

 

 旅費の精算も、無事に完了した。

 

「…………」

 

 ログナーは、お茶を一口飲んだ。

 

「……悪くない結果だったな」

 

 静かに呟く。

 

 その時。

 

 こんこん。

 

 扉を叩く音。

 

「……入れ」

 

 扉が開いた。

 

 ソープだった。

 

「ログナー!」

 

「陛下。いかがなさいましたか?」

 

 ソープは、にこにこしていた。

 

「ちょっと相談があるんだけど!」

 

「……はい」

 

 ログナーは、顔を上げた。

 

 ソープは、嬉しそうだった。

 

「次の剣術合宿の候補地、いくつか考えてみたんだ!」

 

「…………」

 

 ログナーが、止まった。

 

「……陛下」

 

「何?」

 

「……先ほど、今回の合宿の精算が完了したばかりでございます」

 

「うん!」

 

「……であれば」

 

 ログナーは、静かに続けた。

 

「次回の計画は、また後日、改めてご相談いただければと存じます」

 

 ソープは、少し考えた。

 

 そして。

 

「……そっか!」

 

 嬉しそうに頷いた。

 

「じゃあ、また今度にするね!」

 

「……ありがとうございます」

 

 ソープは、にこにこと手を振った。

 

「それじゃあ!」

 

 扉が閉まった。

 

「…………」

 

 ログナーは、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

 机の上の、空になったあわまんじゅうの包みを見た。

 

「…………」

 

 静かに呟いた。

 

「……次回は、もう少し多めに買ってきてもらうか」

 

 ……A.K.D.ミラージュ騎士団司令、ログナー。

 

 剣聖と天照帝のお目付け役。

 

 今回の合宿でも、最後まで職務を全うした。

 

 そして。

 

 甘いものは、仕事の疲れを癒してくれる。

 

 ……ただし。

 

 天照帝の突拍子もない思いつきだけは、甘いものでも防ぎきれないのであった。

 

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