守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
怪盗XiはA-TOLLを見上げる
◆ 1.今度はハスハのモーターヘッド
「……で、師匠。今度は何を見せてくれるの?」
怪物強盗Xiは、少々警戒した顔で尋ねた。
目の前にいるのは、星団最強の騎士にして剣聖、ダグラス・カイエン。
つい先日、会津で二泊三日の剣術合宿を終えたばかりだというのに、今度はモーターヘッドの見学会へ誘われていた。
カイエン「ハハッ! 今回はハスハの主力MH、A-TOLLだナ!」
Xi「A-TOLL?」
カイエン「おう! フィルモアのサイレン、クバルカンの破烈の人形と並んで、星団三大MHに数えられる名機だヨ!」
Xi「へぇ……破烈の人形は前に見せてもらったけど、今度はハスハなんだ」
カイエン「A-TOLLはオレにも馴染みのある機体だからナ。ちょいと口を利いて、見学させてもらえることになったんだヨ」
Xi「そういうところは、さすが師匠だね」
カイエン「ハハッ! もっと褒めてもいいんだぜ?」
Xi「……調子に乗るからやめとく」
カイエン「うるせぇヨ!」
その隣では、ファティマ・バクスチュアルが静かに話を聞いている。
バクスチュアル「ハスハ、主力MH。A-TOLL。興味深イ」
Xi「君も?」
バクスチュアル「ウン。騎体設計、運用思想、違ウ」
Xi「そうだね。A.K.D.の機体ばかり見ていても、分からないことはあるだろうし」
そして、もう一人。
弥子「私も楽しみ! モーターヘッドって、あんなに大きいのに騎士さんと同じように動くんですよね?」
桂木弥子も同行することになっていた。
彼女は騎士でもなければ、ファティマでもない。
ごく普通の人間として、Xiの友人としての参加である。
もっとも、その食欲が普通かどうかについては、議論の余地がある。
Xi「ところで師匠。陛下や司令は……?」
カイエン「ああ、今日はちょっと留守番だナ」
Xi「……珍しいね。陛下なんて、よそのMH見たさに真っ先に飛んできそうなのに」
カイエン「ハハッ! アマ公を連れてきたら、見学だけじゃ済まなくなるかもしれねぇだろ?」
Xi「…………」
カイエン「なんだヨ?」
Xi「……師匠がそんな常識的な判断をするなんて、ちょっと意外だよ」
カイエン「おい! オレを何だと思ってるんだヨ!」
Xi「星団最強の剣聖で、日常生活では油断ばかりしてる人?」
カイエン「うるせぇヨ!!」
アウクソー「マスター。そろそろ出発のお時間です」
カイエン「おう!」
Xi「……あれ? そういえば今日は露伴先生がいないんだね」
弥子「そういえばそうだね」
カイエン「ハハッ! いいじゃねぇか。たまには静かに見学しようぜ!」
その時点では、カイエンもXiも、まだ知らなかった。
岸辺露伴という漫画家が、そんな都合の良い展開を見逃すはずがないことを。
◆ 2.予定外の取材関係者
ハスハ連合共和国。
その軍事施設の一角に設けられた、モーターヘッド整備棟。
今回の見学は、カイエンの紹介による特別なものである。
ただし、正式な許可を得た範囲に限られ、整備中の機密設備や非公開の兵装には立ち入らない。
カイエン「よし。まず受付を済ませるぞ」
係員「カイエン様。お待ちしておりました」
カイエン「おう! 今日はよろしく頼むヨ!」
係員「はい。事前に伺っている見学者は、Xi様、バクスチュアル様、桂木弥子様。そしてアウクソー様ですね」
Xi「うん。それで全員だよ」
「おいおいおいおい! 僕を忘れてもらっちゃ困るな!」
背後から、聞き覚えのある声がした。
Xi「…………」
弥子「あっ!」
カイエン「…………」
そこに立っていたのは、スケッチブックを抱えた岸辺露伴であった。
露伴「まったく。星団三大MHの見学だというのに、漫画家の僕を誘わないとはね」
Xi「なんでいるのさ?!」
露伴「取材に決まっているだろう!」
Xi「誰が招待したの?!」
露伴「誰も招待していないよ。君たちの予定を聞いたから、自分で来たんだ」
Xi「それを勝手についてきたって言うんだよ!!」
カイエン「……露伴」
露伴「なんだい?」
カイエン「今回、泊まりじゃねぇよナ?」
露伴「日帰りだと聞いているが?」
カイエン「……なら、まあいいか」
Xi「師匠! 会津で二晩寝かせてもらえなかったこと、もう忘れたの?!」
カイエン「忘れてねぇヨ!!」
受付係員は、そんな一行を見て、少し困った顔をした。
係員「申し訳ありませんが、取材関係者の方は別途申請が必要になります」
露伴「僕はただ、機体を見てスケッチしたいだけなんだがね」
係員「スケッチも記録行為ですので、確認が必要です」
露伴「…………」
Xi「ほら、先生。そういうことだよ」
弥子「露伴先生、泉さんには相談したんですか?」
露伴「……泉くんには、帰ってから説明するつもりだった」
Xi「また事後承認を狙ってる!!」
前回の会津旅行で、取材費を編集部へ全額請求しようとしたことが、まるで教訓になっていない。
結局、カイエンが担当部署へ確認を取ることになった。
しばらくして、条件付きで追加見学が認められた。
外装の見学は可能。
スケッチは許可された範囲のみ。
機密部分の撮影は禁止。
そして、作品への掲載には別途承認が必要。
露伴「……分かったよ。今回はその条件で構わない」
Xi「珍しく素直だね」
露伴「本物を見られるなら、それだけで十分に価値がある。僕は漫画家だからね」
カイエン「ハハッ! なら、ちゃんと約束は守れヨ!」
露伴「もちろんだ」
Xi「……師匠にだけは言われたくないと思ってるんじゃない?」
カイエン「うるせぇヨ!」
こうして、予定外の一名を加えた一行は、整備棟へ足を踏み入れた。
◆ 3.星団三大MH、A-TOLL
巨大な格納扉が開かれた。
その向こうに立っていたものを見た瞬間、Xiは思わず足を止めた。
深い緑色。
厚く、複雑に重なり合う装甲。
肩から大きく張り出した、独特の曲面。
まるで巨大な外套をまとった騎士が、静かに佇んでいるようだった。
それが、ハスハ連合の主力モーターヘッド。
A-TOLL BS。
Xi「…………大きい」
弥子「うわぁ……!」
露伴「……ほう」
カイエン「ハハッ! どうだ? なかなかの迫力だろ?」
Xi「うん……。なんだろう。K.O.G.とも、LEDミラージュとも全然違うね」
カイエン「そりゃそうだ。あいつらとは、そもそもの設計思想が違うからナ」
Xiはゆっくりと視線を上げた。
分厚い肩装甲から伸びる独特の装備。
胴体を覆う外装の曲線。
重装甲でありながら、ただ鈍重なだけには見えない。
むしろ、必要なものを必要な位置に配置した結果、この形になったようにも見える。
弥子「なんだか、鎧を着た大きな騎士さんみたいですね」
カイエン「実際、そういうものだからナ!」
露伴「しかし面白い形だな……。特に肩の装備。普通の盾とは明らかに違う」
整備主任「こちらはA-TOLL BSの特徴である、ラウンドバインダーシステムです」
案内役を務める整備主任が説明を始めた。
整備主任「肩部から展開する補助機構で、主腕とは別に動かすことができます。副腕としての役割を持つ、本機の特徴的な装備です」
弥子「副腕……?」
Xi「つまり、普通の腕とは別に、肩からもう一組の腕みたいなものが出てるってこと?」
整備主任「概ね、その理解で結構です」
露伴「なるほど……!」
カイエン「おう。こいつがまた面白いんだヨ!」
整備主任「現在、実機は整備用の安全状態にあります。出力を制限し、ラウンドバインダーの展開動作のみをご覧いただけます」
Xi「動くところまで見られるの?」
カイエン「ハハッ! せっかくだからナ!」
整備主任が管制卓へ合図を送った。
安全確認の表示灯が点灯する。
そして。
重厚な肩装甲の内側から、ゆっくりと機構が動き始めた。
折り畳まれていた部分が開き、支持機構が伸びる。
肩の両側に備わる装備が、まるで別の生き物のように姿勢を変えていった。
弥子「わっ!!」
露伴「おいおいおいおい!!」
Xi「……すごい!」
露伴は許可された位置から、猛烈な勢いで鉛筆を動かし始めた。
露伴「美しいじゃあないか! ただ装甲を動かしているんじゃあない。構造そのものが動きの中に現れている!」
Xi「先生、テンション上がりすぎ……」
バクスチュアル「展開、収納、伸縮。独立シタ機構」
アウクソー「はい。主腕の動作とは別に、追加の選択肢を持たせられる構造ですね」
弥子「でも、どうしてわざわざこんな複雑な仕組みにしたんですか?」
その質問に、カイエンが笑った。
カイエン「いい質問だナ!」
◆ 4.剣聖の授業
カイエン「Xi。お前、会津で何を習った?」
Xi「……足場と重心、それから誘いかな。相手を自分の思った方向へ動かすこと」
カイエン「おう。じゃあ、相手が剣を振ってきたら、どうする?」
Xi「避けるか、受けるか……。場合によっては、相手の動きに合わせて反撃する」
カイエン「そうだナ。じゃあ、盾で受けるとしたら?」
Xi「……盾の位置を合わせる?」
カイエン「そう。だが、盾を構えるために体ごと動かさなきゃならねぇとしたら、そのぶん他の動きが制限されるだろ?」
Xi「……なるほど」
カイエンはA-TOLLの肩を指さした。
カイエン「こいつのラウンドバインダーなら、騎体の姿勢を大きく変えずに、防御に使う部分を動かせるわけだ」
整備主任「もっとも、実戦では操作負荷や機構上の制限があります。どんな攻撃でも防げる万能装備ではありません」
カイエン「おう! そこが大事なんだヨ!」
Xi「……便利だけど、使いこなすのは簡単じゃないってことか」
カイエン「そういうことだナ。盾が増えたから強くなる、ってほど単純じゃねぇんだ」
カイエンは自分の右手を軽く上げた。
カイエン「剣を振る時だってそうだ。腕だけで振ってるわけじゃねぇ。足、腰、肩、重心、全部つながってる」
Xi「うん」
カイエン「防御も同じだヨ。盾をどこに置くか、そのために何を動かすか。で、何を動かさずに残しておくか」
Xi「……何を、動かさずに残すか」
カイエン「相手の攻撃を防ぐことだけ考えてたら、次の一手が遅れる。防いだ後、どうするかまで考えなきゃナ」
Xiは、再びA-TOLLを見上げた。
肩のバインダーは展開した姿勢のまま、静止している。
その巨体を目の前にして、Xiは会津での稽古を思い出していた。
カイエンの木剣を受けようとして、足が止まったこと。
攻撃を避けたつもりが、次の動きまで読まれていたこと。
ソープにようやく一度だけ、剣を受けさせたこと。
Xi「……師匠」
カイエン「なんだ?」
Xi「剣術って、結局、全部つながってるんだね」
カイエン「ハハッ! そうだヨ」
Xi「僕、MHのことを勉強しに来たつもりだったんだけど……」
カイエン「剣術の勉強にもなっただろ?」
Xi「……うん」
カイエン「なら、連れてきた甲斐があったナ!」
その横で、弥子がもう一度A-TOLLを見上げた。
弥子「でも、こんなに大きくて複雑な機械を、騎士さん一人で動かすんですよね?」
バクスチュアル「一人、デハ、ナイ」
弥子「え?」
バクスチュアル「騎士ト、ファティマ。共ニ、動カス」
アウクソー「そうですね。騎士の判断と動作を、ファティマが支えます。そして整備を担う方々も欠かせません」
整備主任「ありがとうございます。我々にとっても、A-TOLLは大切な機体です」
弥子「そっか……! 乗る人だけじゃなくて、いろんな人が関わってるんですね」
カイエン「おう。どんな名機だって、放っときゃ動かねぇからナ」
Xi「……師匠が言うと、妙に説得力があるね」
カイエン「なんだヨ?」
Xi「シュペルターの背骨、曲げたばかりだし」
カイエン「…………」
アウクソー「マスター」
カイエン「……分かってるヨ!!」
Xi「三分身してMBT三連撃だったっけ?」
カイエン「もう修理しただろうがヨ!!」
露伴「ちょっと待て。その三連撃というのを、もう一度詳しく聞かせてくれないか?」
Xi「先生! 今はA-TOLLの取材でしょ!!」
整備主任「……当施設での大技の実演は、ご遠慮ください」
カイエン「やらねぇヨ!!」
アウクソー「マスター。お願いいたします」
カイエン「お前まで疑うなヨ!!」
星団最強の剣聖。
その実力は誰も疑っていない。
ただし、安全管理については、別の話であった。
◆ 5.主力機の強さ
ひととおりの見学を終え、一行は整備棟の見学者用スペースで説明を受けていた。
壁には、A-TOLLの各種仕様を紹介する資料が並んでいる。
Xi「……いろんな種類があるんだね」
整備主任「はい。A-TOLLはハスハの各騎士団に合わせ、様々な仕様が運用されています」
弥子「同じ名前でも、使うところによって違うんですね!」
整備主任「任務が異なれば、必要な装備も異なりますから」
露伴「つまり、一騎の完成品をひたすら作り続けるのではなく、基本設計を生かして発展させるわけか」
整備主任「そのとおりです」
Xi「……K.O.G.みたいな、たった一人のための機体とは違うんだ」
カイエン「おう。あれはあれで、とんでもねぇMHだけどナ」
Xi「それは分かるよ。前に見せてもらったし」
カイエン「だけどヨ、強い騎士が一人いて、強いMHが一騎あれば、それで国が守れるってわけじゃねぇ」
Xi「…………」
カイエン「広い国には、守らなきゃならねぇ場所が山ほどある。そこにいる人間もナ」
その声は、先ほどまでの豪快な調子とは少し違っていた。
カイエン「だから、騎士団ってものがある。主力MHってものが必要になるんだヨ」
Xi「……なるほどね」
カイエン「A-TOLLは、ただ強いだけのMHじゃねぇ。ハスハの騎士たちが、それぞれの持ち場で戦うための機体なんだナ」
Xiは黙って資料を見つめた。
これまで見てきたMHには、それぞれ違う意味があった。
皇帝のための騎体。
特別な騎士のための騎体。
そして、国家と騎士団を支える騎体。
Xi「……勉強になるね」
カイエン「ハハッ! そうだろ?」
Xi「でも、師匠」
カイエン「ん?」
Xi「勉強することと、僕がどこかの騎士団に入ることは別だからね?」
カイエン「分かってるヨ!」
Xi「……本当に?」
カイエン「お前が自分で決めることだろ?」
Xi「…………」
カイエン「オレはただ、知っといて損のないことを教えてるだけだナ」
Xiは少しだけ笑った。
Xi「……ありがとう、師匠」
カイエン「おう!」
バクスチュアル「Xiサン。楽シソウ」
Xi「……まあね」
そんな二人を、露伴は横目で観察していた。
露伴「……なるほど。師匠と弟子か」
Xi「先生、今度は何を描いてるの?」
露伴「人間の成長というものは面白いと思ってね」
Xi「……変な漫画にしないでよ?」
露伴「そこは本人の許可を取るさ」
Xi「会津で泉さんに怒られた成果が出てる……!」
露伴「余計なお世話だ!」
◆ 6.ハスハ名物、ネギうどん
見学が終わる頃には、昼食の時間になっていた。
カイエン「よし! せっかくハスハまで来たんだ。名物のネギうどんでも食って帰るかね!」
弥子「ネギうどん!!」
Xi「……弥子、急に元気になったね」
弥子「だって、ハスハの名物なんでしょ?! 食べてみたいじゃない!」
カイエン「ハハッ! いい食いっぷりを見せてくれヨ!」
Xi「……師匠。その発言、後悔すると思うよ」
カイエン「ん?」
Xi「いや、なんでもない」
一行が訪れたのは、街中にある小さな食堂だった。
店内には出汁のいい香りが漂い、厨房からは湯気が立ちのぼっている。
店員「いらっしゃいませ!」
カイエン「六人だ。ネギうどん、頼めるかナ?」
店員「はい! どうぞ!」
弥子「私もお願いします!」
Xi「僕も」
バクスチュアル「私モ」
露伴「では、僕もいただこう」
しばらくして、湯気を立てた器が並べられた。
澄んだ出汁に、たっぷりのネギ。
香りのよい青い部分と、柔らかく甘い白い部分。
つるりとした麺が、その下に隠れている。
弥子「いただきまーす!!」
ずずずっ!
弥子「……おいしい!!」
その声には、心からの喜びがあった。
弥子「ネギが甘い! でも香りもしっかりしてる! お出汁がすっきりしてるから、麺と一緒に食べるとすごく合いますね!」
店員「ありがとうございます!」
弥子「ネギの切り方も違うんですね。白いところは柔らかくて、青いところは香りが強くて……!」
Xi「……さすが弥子。食べ物になると分析が細かいね」
弥子「だって、美味しいものはどうして美味しいのか知りたいじゃない!」
カイエン「ハハッ! いいこと言うじゃねぇか!」
バクスチュアル「……美味シイ」
Xi「気に入った?」
バクスチュアル「ウン。ネギ、甘イ」
Xi「うん。僕も好きだな、これ」
バクスチュアル「……同ジ」
Xi「そうだね」
二人は、もう一度うどんをすすった。
特別な力も、特別な役目も関係ない。
ただ、自分で選んだ料理を、一緒に食べる。
それだけの時間だった。
一方、カイエンは露伴と向かい合っていた。
露伴「……なるほど。これがハスハ名物か」
カイエン「おう。どうだ?」
露伴「悪くない。土地の料理には、その土地の歴史が表れるからね」
カイエン「ハハッ! 今度は食文化の取材かヨ?」
露伴「当然だろう。来た以上は、見られるものを見ておくべきじゃあないか」
その時。
弥子「すみませーん!」
店員「はい!」
弥子「ネギうどん、おかわりできますか?」
カイエン「おう! 気に入ったか!」
弥子「はい! とっても!」
店員「もちろんです!」
弥子「じゃあ、追加で十人前くらいお願いしたいんですけど……大丈夫ですか?」
店員「……十人前?」
カイエン「…………」
Xi「…………」
露伴「…………」
バクスチュアル「…………」
弥子「あ、ほかのお客さんの分が足りなくなっちゃうなら、少なくても大丈夫です!」
店員「少々お待ちください。厨房に確認してまいります」
そう言って、店員は厨房へ向かった。
数分後。
店員「お待たせしました! 十人前、順番にお作りできます!」
弥子「本当ですか?! ありがとうございます!!」
カイエン「……Xi」
Xi「何?」
カイエン「会津でも、こんなだったか?」
Xi「師匠、忘れちゃった? カツ丼三十人前予約して、弥子は九人前食べたでしょ?」
カイエン「……そうだったナ」
バクスチュアル「蕎麦、五人前」
Xi「そうそう。しかも、あれでも軽かったらしいからね」
カイエン「…………」
弥子「だって、せっかくハスハまで来たんですから!」
Xi「会津でも同じこと言ってた!!」
露伴「おいおいおいおい! これは面白いじゃあないか!」
Xi「先生?」
露伴「異国の料理を十人前追加注文する少女! しかも、一杯ごとに味を楽しみながら食べている!」
Xi「……先生。A-TOLLの取材は?」
露伴「もちろん終わっているよ」
Xi「……何を描き始めたの?」
露伴「この店の厨房と、弥子くんの食事風景だ」
Xi「取材対象がMHから胃袋に変わってるよ!!」
弥子「露伴先生、描くならちゃんと美味しそうに描いてくださいね!」
露伴「当然だ。僕の漫画に妥協はない!」
Xi「……二人とも、もう好きにしてよ」
◆ 7.見上げた先にあるもの
昼食を終えた一行は、帰路につくことになった。
結局、弥子は注文したうどんを一杯も残さず、美味しそうに平らげた。
もちろん、追加分の代金もきちんと支払っている。
カイエン「いやぁ、見事な食いっぷりだったナ!」
弥子「ごちそうさまでした! 美味しかったです!」
Xi「……僕、今日一番驚いたの、A-TOLLより弥子の食欲かもしれない」
弥子「えー?!」
露伴「僕としては、なかなか良い取材になったよ」
Xi「先生、A-TOLLのスケッチは掲載許可を取ってからだよ?」
露伴「分かっているさ。泉くんにも企画を提出する」
Xi「……ほんと、会津の経験が生きてるね」
露伴「何度も言うが、余計なお世話だ!」
カイエン「ハハッ!」
その時、バクスチュアルがXiの袖を軽く引いた。
バクスチュアル「Xiサン」
Xi「ん?」
バクスチュアル「今日、良イ日」
Xi「……うん。そうだね」
バクスチュアル「A-TOLL、見タ。剣術、学ンダ。ネギうどん、食ベタ」
Xi「……ずいぶん充実した一日だったね」
バクスチュアル「ウン」
Xiは、少しだけ考えた。
以前の自分なら、騎士になるための勉強だと言われただけで、嫌になっていたかもしれない。
誰かの望む姿に近づくこと。
誰かに役割を決められること。
それが、自分自身を失うことにつながるような気がしていた。
だが、今は少し違う。
知ることと、従うことは違う。
学ぶことと、誰かのものになることも違う。
カイエンは、それを理解したうえで教えてくれている。
Xi「……ねぇ、師匠」
カイエン「おう?」
Xi「今日の見学、面白かったよ」
カイエン「ハハッ! そりゃ良かったナ!」
Xi「A-TOLLみたいな機体があるって、知らなかったからさ」
カイエン「おう」
Xi「……また、何か見せてくれる?」
カイエンは、にやりと笑った。
カイエン「もちろんだヨ! まだまだ星団には面白ぇMHが山ほどあるからナ!」
Xi「……ただし、僕が騎士になるかどうかは別だからね?」
カイエン「分かってるって!」
Xi「本当に?」
カイエン「お前は自分で選びたいんだろ?」
Xi「……うん」
カイエン「だったら、選べるだけのものを見ておけばいいんだヨ」
Xiは少しだけ目を丸くした。
それから、笑った。
Xi「……師匠って、たまにすごくいいこと言うよね」
カイエン「たまに、は余計だヨ!!」
バクスチュアル「師匠、エライ」
カイエン「ハハッ! そうだろ!」
Xi「……バクスチュアル、それ、すえぞうの真似?」
バクスチュアル「……少シ」
Xi「ははっ!」
笑い声が、帰路の空気に溶けていった。
そして、しばらく歩いたところで。
カイエン「そういや、Xi」
Xi「何?」
カイエン「これで破烈の人形とA-TOLLは見たわけだナ」
Xi「うん」
カイエン「となると、次はフィルモアのサイレンかナ!」
Xi「……ああ、星団三大MHの残り一つだね」
カイエン「おう! あっちにも知り合いがいるからヨ。今度、話をつけてみるか!」
Xi「……師匠」
カイエン「なんだ?」
Xi「なんだか、着々と外堀を埋められてる気がするんだけど」
カイエン「ハハッ! 気のせいだろ!」
Xi「本当に?」
カイエン「まあ、騎士になった時に知っておいて損はねぇけどナ!」
Xi「やっぱり外堀を埋めてるじゃないか!!」
カイエン「ハハハハッ!!」
バクスチュアル「Xiサン。外堀、深イ」
Xi「君まで?!」
弥子「でも、いろんなMHが見られていいじゃない!」
Xi「……弥子は気楽でいいよね」
弥子「それに、いろんな国へ行けば、いろんな料理も食べられるし!」
Xi「…………」
弥子「フィルモアにも美味しいもの、ありますよね?!」
カイエン「そりゃあるだろうナ!」
弥子「楽しみー!!」
Xi「……ねぇ、師匠」
カイエン「ん?」
Xi「僕の騎士修行と、弥子の食べ歩き旅行が、いつの間にか同じ予定になってない?」
カイエン「ハハッ! いいじゃねぇか。どっちも勉強だヨ!」
弥子「そうそう! 食文化の勉強!」
Xi「食べる気満々なだけでしょ!!」
露伴「ふむ……次はフィルモアか。僕も取材の予定を空けておこう」
Xi「先生はまず取材申請してから!!」
カイエン「ハハハハハッ!!」
こうして、怪物強盗XiのA-TOLL見学会は幕を閉じた。
剣術への理解は深まった。
他国のMHに対する知識も増えた。
そして、将来の選択肢も少しだけ広がった。
ただし本人の知らないところで、次のMH見学会の話が進み始めていることについては……。
まだ、誰も責任を取るつもりはないらしい。