守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
◆ 1.皇帝にもいろいろいる
「……というわけで、今回はフィルモア帝国だナ!」
カイエンの言葉に、怪物強盗Xiは小さくため息をついた。
つい先日、ハスハ連合でA-TOLLを見学したばかりである。
星団三大モーターヘッド。
クバルカンの破烈の人形、ハスハのA-TOLL、そしてフィルモアのサイレン。
その最後の一角を見学するため、一行はフィルモア帝国を訪れることになっていた。
Xi「……師匠。なんだか僕、順調に騎士の英才教育を受けてる気がするんだけど」
カイエン「ハハッ! いいことじゃねぇかヨ!」
Xi「僕はまだ騎士になるって決めてないからね?」
カイエン「分かってるって!」
Xi「本当に?」
カイエン「おう! だから今のうちに色々見せてやってるんだろ?」
Xi「……どうしてそうなるのかなぁ」
今回の同行者は、Xi、バクスチュアル、カイエン、アウクソー。
そして桂木弥子、キラ・ヤマト、岸辺露伴の七名である。
前回のA-TOLL見学では、事前申請もせずに勝手についてきた露伴だったが、今回は違った。
露伴「ふん。今回はちゃんと取材申請を提出してあるぞ」
Xi「へぇ! 先生も成長するんだね!」
露伴「おいおいおいおい! 君は僕を何だと思っているんだ!」
キラ「フィルモア側の広報担当にも確認しました。撮影やスケッチは許可された範囲だけ、掲載には別途確認が必要です」
露伴「分かっているさ。僕はルールを守れない人間じゃあない」
Xi「会津で泉さんに怒られたのが、よっぽど効いたんだね」
露伴「余計なお世話だ!!」
一方、弥子は少し不思議そうな顔をしていた。
弥子「ところで、Xiくん。今回は皇帝さんにも会うんだよね?」
Xi「そうだよ。だから、失礼のないようにね」
弥子「えー? でも、ソープさんみたいなもんでしょ?」
Xi「…………」
キラ「……あの人は特別だと思う……」
Xi「そうだよ!! 陛下を基準に考えちゃ駄目だって!!」
弥子「でも、ソープさんって普通に一緒にご飯食べてくれるし……」
キラ「自分で料理を作ったり、機械をいじったりもするしね」
Xi「面白いMHを見つけたら、皇帝だってことも忘れて分解しようとするし!」
カイエン「ハハッ! アマ公は昔からあんな調子だからナ!」
Xi「師匠! 笑ってないで、フィルモアの礼儀作法も教えてよ!」
カイエン「おう! まあ、ダイ・グはそんなに堅苦しい奴じゃねぇから安心しろヨ!」
Xi「……師匠が言うと、かえって心配なんだけど」
バクスチュアル「Xiサン。緊張、シテル?」
Xi「……ちょっとね。相手は本物の皇帝だし」
カイエン「アマ公だって本物だろうがヨ!」
Xi「そうなんだけど!!」
ソープこと天照帝も、もちろん正真正銘の皇帝である。
ただし、あの人物を基準にしてしまうと、世の中の君主というものを著しく誤解する危険があった。
露伴「まったく、何をそんなに心配しているんだ?」
Xi「先生?」
露伴「僕はロイヤルファミリーの前でも失礼なく食事のできる人間だぞ」
Xi「……先生。それ、今回こそ実際に試されることになるけど?」
露伴「望むところじゃあないか!」
キラ「……露伴先生、食事中にスケッチを始めたりしないでくださいね」
露伴「…………」
Xi「そこは即答してよ!!」
◆
やがて、フィルモア帝国の宮殿が見えてきた。
壮麗な建築。
整然と配置された衛兵。
歴史を感じさせる調度品。
そして、訪問者を迎える厳粛な空気。
弥子「わぁ……すごい……!」
キラ「歴史のある国なんだね……」
Xi「……うん。やっぱりA.K.D.とは雰囲気が違うなぁ」
カイエン「おう。フィルモアは古い帝国だからナ!」
宮殿の案内係が、一行へ丁寧に一礼した。
案内係「皆様、お待ちしておりました。陛下がお目にかかります」
Xi「……いよいよか」
バクスチュアル「Xiサン。大丈夫」
Xi「……ありがとう」
そうして、一行は謁見の間へと案内された。
◆ 2.兄弟子はフィルモア皇帝
「ようこそ、フィルモア帝国へ」
穏やかな声が響いた。
そこにいたのは、若きフィルモア皇帝、エラニユース・ダイ・グ・フィルモア五世。
堂々とした身なりでありながら、その表情には柔らかな微笑みが浮かんでいた。
ダイ・グ「お久しぶりです、カイエン師匠」
カイエン「おう! 元気にしてたかヨ、ダイ・グ!」
Xi「…………」
いきなり皇帝と気安く挨拶するカイエン。
それだけでも驚きだったが、Xiにはもう一つ気になることがあった。
Xi「……ちょっと待って、師匠」
カイエン「なんだ?」
Xi「今、陛下から『師匠』って呼ばれてなかった?」
カイエン「おう!」
Xi「……どういうこと?」
ダイ・グ「ふふ。私も以前、カイエン師匠から剣の指導を受けたことがあるのです」
Xi「…………」
ダイ・グ「そして、天位を授けていただきました」
Xi「…………」
Xi「ええええ?! じゃあ、僕の兄弟子ってこと?!」
カイエン「ハハッ! そういうことになるナ!」
Xi「師匠!! なんでそんな大事なことを先に言わないのさ!!」
カイエン「お前が聞かなかったからだヨ!」
Xi「聞かなきゃ言わないことなの?!」
ダイ・グは、思わず小さく笑った。
ダイ・グ「カイエン師匠は昔から、こういう方ですよ」
Xi「……陛下も苦労したんだね」
カイエン「おい! なんでお前ら、いきなり意気投合してるんだヨ!」
ダイ・グ「ふふ。改めまして、Xi殿。お会いできて光栄です」
Xi「えっと……僕こそ。今日は招待してくれてありがとう、ダイ・グ陛下」
ダイ・グ「こちらこそ。カイエン師匠から、新しい弟子ができたと伺っていました」
Xi「……師匠、そんな話までしてたの?」
カイエン「おう! 会津での稽古の話もしたぜ!」
Xi「……なんだか恥ずかしいなぁ」
ダイ・グ「カイエン師匠に剣を一度受けさせることも、簡単ではないでしょう」
Xi「いやいや! 僕が一度受けさせたのは陛下……じゃなかった、天照帝のほうで、師匠には全然かなわなかったよ!」
ダイ・グ「それでも、素晴らしい前進だと思います」
Xi「……ありがとう」
そう言われると、少し嬉しかった。
自分より遥かに高い場所にいる騎士から、修行の成果を認められる。
それは、Xiにとって初めての経験ではなかったが、やはり特別なものだった。
ダイ・グ「ただし、カイエン師匠の教えは、時々とんでもないところまで飛躍しますから。お気をつけください」
Xi「……ああ、それはもう十分に経験してるよ」
カイエン「おいおい! 弟子が二人揃って師匠に文句かヨ!」
Xi「師匠、会津の河原でMBTを撃とうとしたでしょ?」
ダイ・グ「……MBTを?」
カイエン「未遂だヨ! 撃ってねぇって!」
Xi「アウクソーが止めてくれたからね!」
アウクソー「はい。発動前に制止いたしました」
ダイ・グ「…………」
ダイ・グ「……お変わりないようで、何よりです」
Xi「その言い方、全然褒めてないよね?!」
◆
その後、一行は改めて自己紹介を済ませた。
コンパス准将のキラ・ヤマト。
探偵助手の桂木弥子。
漫画家の岸辺露伴。
そしてファティマのバクスチュアルとアウクソー。
ダイ・グはそれぞれの話を丁寧に聞いた。
ダイ・グ「キラ准将。コンパスのモビルスーツについては、私も興味があります」
キラ「ありがとうございます。僕も、フィルモアのモーターヘッドについて学べることを楽しみにしていました」
ダイ・グ「技術体系は異なりますが、機械を用いて戦うという点では、共通するものもあるのでしょうね」
キラ「はい。今日はぜひ、勉強させてください」
Xi「……キラ。目が輝いてる」
キラ「えっ? そうかな?」
Xi「うん。サイレンを見る前から、もう楽しそう」
キラ「……だって、星団三大MHの一つだよ?」
Xi「……分かるけどさ」
カイエン「ハハッ! いいじゃねぇか!」
そして。
ダイ・グ「桂木さんも、ようこそ」
弥子「こんにちは! 今日はよろしくお願いします!」
ダイ・グ「こちらこそ。見学の後には、ぜひ宮廷料理を楽しんでいただきたいと思っています」
弥子「……!」
ダイ・グ「フィルモアは料理でも知られていますから」
弥子「本当ですか?! ありがとうございます!!」
Xi「……あ、目の輝きが変わった」
ダイ・グ「ふふ。お料理がお好きなのですね」
弥子「はいっ!! 大好きです!!」
カイエン「ダイ・グ。先に言っとくがナ」
ダイ・グ「はい?」
カイエン「この子の食欲だけは、オレにも測れねぇんだヨ」
ダイ・グ「……カイエン師匠にも、測れないものがあるのですね」
Xi「剣術とは全然違う分野だからね!!」
ダイ・グは微笑みながら、侍従へ目配せした。
どうやら、今日の宮廷厨房には少々特別な準備が必要になりそうだった。
◆ 3.北の魔人、サイレン
宮殿での挨拶を終えた一行は、フィルモア帝国騎士団の整備施設へと移動した。
もちろん、見学は正式に許可された範囲のみ。
非公開の兵装や内部機構への立ち入りは認められず、現役の軍事施設として厳重な管理が行われていた。
案内を担当する帝国騎士が、整然と一礼する。
案内騎士「本日は、我がフィルモア帝国の主力MH、サイレンをご案内いたします」
Xi「よろしくお願いします」
キラ「よろしくお願いします!」
露伴「……楽しみだな」
重厚な格納扉が開いた。
その向こうに、巨大な騎体が立っていた。
深い緑色の装甲。
巨大な両肩。
鋭く尖った兜を思わせる頭部。
幾重にも重なった腰装甲。
そして、騎士の紋章を掲げる大きなベイル。
モーターヘッド・サイレン。
星団三大MHの一つ。
フィルモア帝国を象徴する、歴戦の名機だった。
Xi「…………」
弥子「うわぁ……!」
キラ「……すごい」
露伴「……ほう」
カイエン「ハハッ! どうだヨ!」
Xi「……格好いいね」
思わず、素直な感想が出た。
Xi「A-TOLLとは、また全然違う」
カイエン「おう!」
Xi「A-TOLLは肩の仕組みが独特だったけど、こっちは……なんだろう。もっと正統派の騎士って感じがする」
キラ「うん。頭部も肩の装甲も、甲冑を思わせるデザインだね」
弥子「本当に、大きな鎧を着た騎士さんみたい!」
露伴「面白いじゃあないか。これだけ巨大な装甲を持ちながら、全体の形が破綻していない」
露伴は、許可された見学場所からスケッチブックを開いた。
露伴「頭部から腰、脚へとつながる輪郭が美しい。まるで甲冑そのものに意志が宿っているようだ」
Xi「……先生、もう描いてるんだ」
露伴「当然だろう。許可は取ってある!」
Xi「……今回は本当に準備がいいね」
露伴「何度も言わせるな!」
ダイ・グ「ふふ。サイレンは、我が帝国にとって特別な騎体なのです」
Xi「ダイ・グ陛下」
ダイ・グ「フィルモアの騎士たちは、長い年月、この騎体とともに戦ってきました」
カイエン「おう。サイレンは星団三大MHの一つ、『北の魔人』とも呼ばれる名機だナ」
Xi「……北の魔人」
ダイ・グ「強大な騎体であると同時に、帝国騎士団の歴史そのものでもあります」
その声には、穏やかでありながら、確かな誇りが込められていた。
Xiはもう一度、サイレンを見上げた。
K.O.G.とも違う。
LEDミラージュとも違う。
破烈の人形とも、A-TOLLとも違う。
それぞれの国には、それぞれの騎士がいて、それぞれの騎体を生み出した歴史がある。
そのことが、少しずつ分かり始めていた。
◆ 4.サイレンは一騎だけではない
案内騎士「サイレンには、いくつもの仕様が存在します」
Xi「そうなんだ。A-TOLLにも色々あったよね」
案内騎士「はい。フィルモアでは、所属する騎士団や任務に応じて、装備や仕様を変更しています」
壁面に設けられた大型ディスプレイへ、複数のサイレンの姿が映し出された。
案内騎士「基本となるA型のほか、B型、C型、D型などがあります。基本設計を共有しながら、各騎士団の識別色や運用条件に対応させているのです」
弥子「へぇ! 同じサイレンでも、色々あるんですね!」
キラ「……なるほど」
Xi「キラ?」
キラ「こういう設計思想、すごく興味深いよ」
キラは真剣な表情で説明を聞いていた。
キラ「基本構造を共通化すれば、整備や補給にも利点がありますよね。部隊ごとに全部違う機体を用意するより、機体の特性も把握しやすい」
案内騎士「おっしゃるとおりです。ただし、所属部隊の要求に合わせた調整も重要になります」
キラ「そうですよね。共通化だけを追求しても、任務に合わなければ意味がないですから」
Xi「……キラ、なんだか楽しそうだね」
キラ「うん! こういう話、大好きなんだ」
Xi「知ってたけどさ」
カイエン「ハハッ! メカ好きにはたまらねぇだろうナ!」
その時、案内騎士が別の格納区画を指し示した。
案内騎士「こちらには、特別仕様のF型サイレンがございます」
見学用の通路から見えたのは、鮮やかな赤い装甲をまとったサイレンだった。
Xi「……赤い!」
弥子「さっきの緑色とは、ずいぶん印象が違いますね!」
露伴「これはまた……華やかな騎体だな」
案内騎士「F型は、ノイエシルチスの隊長クラスが使用する特別仕様騎です」
キラ「隊長機なんですね」
案内騎士「はい。基本構造は通常のサイレンと共通していますが、各部の調整や仕上げに、さらに手が掛けられています」
Xi「……外見だけじゃなくて、中身にも違いがあるんだ」
案内騎士「ただし、専用機だからといって、まったく別の機体になるわけではありません。あくまで、優秀な基本設計を活かした発展型です」
キラ「……なるほど。それは合理的ですね」
さらに、ディスプレイには本国仕様のアイスグリーンのF型も表示された。
案内騎士「こちらは、本国仕様の一例です。ベイルやランス、実剣など、運用時の装備にも違いがあります」
キラ「……あの背面装甲、三重構造なんですね」
案内騎士「はい。サイレンらしい特徴の一つです」
キラ「外側だけを見るとかなり大きく感じますけど、動作を邪魔しないための工夫が必要ですよね」
案内騎士「当然、可動範囲との兼ね合いは重要です」
キラ「……面白いなぁ」
Xi「……キラ?」
キラ「何?」
Xi「今、ちょっと陛下に似てた」
キラ「ええっ?!」
Xi「いや、もちろんソープ様のことだけど。機械の話になると止まらなくなるところが」
キラ「……そんなに?」
Xi「大丈夫。分解して調べようって言い出さないだけ、ずっと安心だから」
カイエン「ハハハッ!」
ダイ・グ「ふふ。天照帝は、優れたMHマイスターでもいらっしゃるのですね」
Xi「腕前は本当にすごいんだけどね。好奇心のほうがもっとすごくて……」
カイエン「おう! アマ公は面白いと思ったら、すぐに次のことを始めるからナ!」
Xi「……師匠も大概だけどね」
カイエン「なんだヨ!」
Xi「シュペルターを三分身MBT三連撃で壊した人が、他人の好奇心を笑えるの?」
カイエン「だから修理は済んだって言ってるだろうがヨ!!」
アウクソー「マスター。修理が済んだことと、無理な使用をしてよいことは別です」
カイエン「……分かってるヨ」
ダイ・グ「…………」
ダイ・グ「カイエン師匠も、色々と大変なのですね」
Xi「……陛下、たぶん苦労してるのは周りの人だよ」
アウクソー「はい」
カイエン「お前ら全員、誰の味方なんだヨ!!」
◆ 5.皇帝を守る盾
見学は、さらに続いた。
案内騎士「ここからは、サイレンの特殊な発展型についてご説明いたします」
画面に映し出されたのは、通常型以上に重厚な装甲を持つMHだった。
Xi「……うわっ!」
弥子「すごい! さっきよりも、ずっと大きな鎧を着ているみたい!」
キラ「……装甲の構成がかなり違うね」
案内騎士「こちらが、アルカナ・サイレンです」
Xi「アルカナ?」
案内騎士「皇帝直属の警護騎士、アルカナ・ナイトが使用する特別仕様のサイレンです」
ダイ・グ「私を警護する騎士たちの騎体ですね」
Xi「……皇帝の護衛用なんだ」
案内騎士「はい。ハート、スペード、クラブ、ダイヤ。それぞれの名を持つ四騎が存在します」
露伴「ほう! トランプの紋章か。なかなか興味深い意匠じゃあないか」
案内騎士「基本設計はサイレンの系統ですが、重厚な装甲と高度な調整が施されています」
キラ「装甲が増えると、当然、重量や整備負担も増えますよね?」
案内騎士「はい。非常に高度な能力を持つ反面、通常型以上に入念な調整を必要とします」
Xi「……そんなに大変なのに、どうしてそこまで?」
カイエン「ハハッ! 分かるか、Xi?」
Xi「……皇帝を守るため?」
カイエン「おう。それもあるナ」
ダイ・グ「アルカナ・ナイトの任務は、皇帝を警護することです。時には自ら盾となってでも、守らなければならないものがあります」
Xi「…………」
ダイ・グ「そのために、特殊な騎体が必要になるのです」
案内騎士「なお、本日は隣接区画の見学窓から、アルカナ・サイレン一騎の外装のみをご覧いただけます。内部機構や兵装の詳細は非公開となります」
Xi「本物も見られるの?!」
ダイ・グ「せっかくですから。ただし、動作試験などは行いません」
キラ「ありがとうございます!」
◆
隣の格納区画。
強化された見学窓の向こうに、アルカナ・サイレンが立っていた。
圧倒的な重厚感。
通常のサイレンとは明らかに異なる、巨大な装甲の重なり。
Xi「……すごいね」
弥子「さっきのサイレンも大きかったのに、もっと頑丈そう……!」
露伴「なるほど……。これは『動く城壁』とでも表現したくなるな」
カイエン「ハハッ! いい表現じゃねぇか!」
キラ「でも、ただ分厚いだけじゃないんですね。装甲の配置に意味がある」
案内騎士「はい。詳細は申し上げられませんが、攻撃を受け止め、その後の反撃へつなげることも設計上の重要な要素です」
Xi「……受け止めた後の反撃」
カイエン「おう! 会津で教えたことを思い出したか?」
Xi「……うん。相手の攻撃を受けるだけじゃ駄目なんだよね」
カイエン「そうだナ!」
Xi「どう受けて、次にどう動くか……」
カイエン「ハハッ! ちゃんと覚えてるじゃねぇかヨ!」
Xiは、もう一度アルカナ・サイレンを見上げた。
自分より遥かに巨大な機械。
しかし、その機械を動かすのは騎士であり、ファティマである。
そして、整備する人々がいる。
バクスチュアル「Xiサン」
Xi「ん?」
バクスチュアル「騎士ト、ファティマ。共ニ、戦ウ」
Xi「……うん」
バクスチュアル「整備スル人モ、支エル」
Xi「……そうだね」
Xiは、小さく頷いた。
前回、ハスハでA-TOLLを見たときにも感じたことだった。
どんなに優れたMHでも、騎士一人だけの力で戦っているわけではない。
そのことを、また一つ別の角度から理解できた気がした。
◆ 6.二人の弟子
見学を終えた一行は、宮殿へ戻る前に、庭園を見渡せる休憩室へ案内された。
露伴は許可された範囲のスケッチを整理し、キラは機体についての説明資料を読み返していた。
弥子は、そろそろ昼食の時間ではないかと気にしている。
そんな中、Xiはカイエンとダイ・グの隣にいた。
ダイ・グ「いかがでしたか、Xi殿?」
Xi「うん。すごく勉強になったよ」
ダイ・グ「それは何よりです」
Xi「前に見たA-TOLLとは、やっぱり色々違うね」
ダイ・グ「国が違えば、騎士団の在り方も異なりますから」
Xi「……でも、共通してるところもあるんだ」
ダイ・グ「ほう?」
Xi「どっちも、ただ強い騎士が乗ればいいってわけじゃない。国を守るために、多くの人が関わってる」
ダイ・グ「…………」
Xi「師匠にも言われたよ。強い騎士が一人いるだけじゃ、国は守れないって」
ダイ・グは、少し嬉しそうに微笑んだ。
ダイ・グ「……カイエン師匠らしいお言葉ですね」
カイエン「ハハッ! そうだろ!」
Xi「……そこで自慢するんだ?」
カイエン「いいじゃねぇかヨ!」
ダイ・グ「私は皇帝という立場ですが、剣を学んだ一人の騎士でもあります。カイエン師匠から教わったことは、今でも大切にしています」
Xi「……そうなんだ」
ダイ・グ「力があるからといって、何でもできるわけではありませんから」
その声には、若い皇帝が背負うものの重さが、わずかに滲んでいた。
Xi「……皇帝って、大変なんだね」
ダイ・グ「ふふ。そうかもしれません」
Xi「僕だったら、そんな重い責任は嫌だなぁ」
ダイ・グ「それも、一つの考え方でしょう」
Xi「……え?」
ダイ・グ「自分に何ができるのか。そして何を選ぶのか。それを考えることは、大切だと思います」
Xi「…………」
カイエン「おう! ダイ・グも、分かってるじゃねぇか!」
ダイ・グ「カイエン師匠の教え子ですから」
Xi「……なるほどね」
二人の教え子。
一人はフィルモア皇帝。
もう一人は怪物強盗。
背負っているものも、歩む道もまったく違う。
けれど、同じ師匠から剣を教わっている。
Xi「……なんか、変な感じだなぁ」
カイエン「何がだヨ?」
Xi「僕の兄弟子が皇帝だなんてさ」
ダイ・グ「私も、弟弟子が怪物強盗というのは初めての経験です」
Xi「……それ、そうだろうね」
カイエン「ハハハハッ!!」
◆
その時。
弥子「……あのぉ」
Xi「ん?」
弥子「そろそろ、お昼ご飯の時間じゃないかなぁ……って」
Xi「…………」
カイエン「…………」
ダイ・グ「……ふふ」
Xi「弥子ちゃん!! 今すごくいい話してたところなんだけど!!」
弥子「だって、お腹が空いちゃって……!」
ダイ・グ「ちょうど良い時間ですね。宮廷厨房にも準備をお願いしてあります」
弥子「宮廷料理!!」
Xi「……待ってましたと言わんばかりだね」
カイエン「ハハッ! いいじゃねぇか! 腹も減ったしナ!」
ダイ・グ「では、皆様。どうぞこちらへ」
いよいよ、本日のもう一つの大イベント。
フィルモア帝国の宮廷料理である。
少なくとも弥子にとっては、こちらもサイレンに負けず劣らず重要な見学対象だった。
……見学だけで済むはずがないのだが。
◆ 7.岸辺露伴は宮廷マナーを守りたい
宮殿の食堂。
磨き上げられた食器。
美しい花を配したテーブル。
落ち着いた色調の装飾。
格式ある宮廷にふさわしい、上品な空間だった。
弥子「……わぁ……!」
キラ「……すごいね」
Xi「……これは、さすがに緊張するなぁ」
露伴「ふん。実に洗練された空間じゃあないか」
Xi「……先生、平気なの?」
露伴「当然だろう」
露伴は、何の迷いもなく所定の席に着いた。
その姿勢は自然で、ナプキンの扱いにも無駄がない。
Xi「……へぇ」
キラ「……ちゃんとしてるね」
露伴「だから言っただろう。僕はロイヤルファミリーの前でも失礼なく食事のできる人間なんだ」
Xi「……その自信は本物なんだね」
カイエン「ハハッ! 普段からそうしてくれりゃいいんだけどナ!」
露伴「君にだけは言われたくないね!」
カイエン「なんだとヨ!」
Xi「二人とも、皇帝の前だからね?!」
ダイ・グ「ふふ。どうぞ、堅苦しくなさらずに」
Xi「……陛下、本当にすみません」
ダイ・グ「いえ。カイエン師匠のお知り合いは、皆様楽しそうで何よりです」
Xi「……なんだか、すごく大人だなぁ」
カイエン「ハハッ! ダイ・グは昔から真面目だったからナ!」
Xi「師匠はもうちょっと見習ってよ」
カイエン「うるせぇヨ!」
◆
やがて、最初の料理が運ばれてきた。
宮廷料理長が、丁寧に説明する。
料理長「本日は、フィルモア宮廷に伝わる調理法をもとに、季節の食材を使った料理をご用意いたしました」
最初の一皿は、澄んだ琥珀色のスープだった。
じっくり煮出した肉の旨味に、香草の香り。
小さな野菜が彩りを添えている。
弥子「……いい匂い……!」
料理長「香草は香りが強くなりすぎないように調整しております。素材の味をお楽しみください」
弥子「いただきます!」
一口。
弥子「…………!」
Xi「……弥子?」
弥子「……おいしい!!」
Xi「……だろうね」
弥子「最初は香草の香りが来るのに、あとからお肉の旨味が広がって……! それに、すごく澄んだ味なのに、薄くないんです!」
料理長「……ありがとうございます」
弥子「これ、すごく手間が掛かってますよね?!」
料理長「はい。長時間かけて煮出した出汁を、何度も丁寧に澄ませております」
弥子「やっぱり!!」
ダイ・グ「……よくお分かりですね」
弥子「美味しいものを食べるの、大好きなんです!」
Xi「……弥子って、食べ物のことになると本当に鋭いんだよ」
ダイ・グ「ふふ。素晴らしいことだと思います」
弥子「……あのっ!」
料理長「はい?」
弥子「これ、おかわりできますか?!」
Xi「もう?!」
料理長「……ええ。もちろん、ご用意しております」
弥子「ありがとうございます!!」
Xi「……一皿目からこれかぁ」
バクスチュアル「弥子サン。好調」
Xi「……うん。絶好調だね」
◆
次に運ばれたのは、薄い小麦の生地で肉と野菜を包んだ料理だった。
蒸し上げたものと、香ばしく焼き上げたもの。
二種類の調理法で、同じ食材の違いを楽しめる趣向である。
キラ「……これも美味しいね」
Xi「うん。生地の食感が違うだけで、ずいぶん印象が変わる」
バクスチュアル「……香リ、違ウ。食感モ」
Xi「気に入った?」
バクスチュアル「ウン。両方、好キ」
Xi「……じゃあ、あとでどっちが好きか決めてみる?」
バクスチュアル「……迷ウ」
Xi「ははっ。迷ってもいいんだよ」
ダイ・グは、そんな二人を穏やかに見ていた。
一方、露伴は実に優雅な所作で食事を進めていた。
ナイフとフォークの扱いも自然。
料理人への質問も、食事の邪魔にならない程度に抑えている。
Xi「……先生」
露伴「なんだい?」
Xi「……本当にちゃんとしてるね」
露伴「だから、何度も言わせるな!」
Xi「ちょっと見直したよ」
露伴「僕を何だと思っていたんだ?」
その時。
弥子「わぁ! これも美味しい!!」
露伴「…………」
弥子「蒸したほうは柔らかくて、焼いたほうは香ばしい! 中のお肉の味付けも違うんですね!」
露伴「…………」
Xi「……先生?」
露伴「……あの表情……」
Xi「……ん?」
露伴「……実に興味深いじゃあないか」
Xi「…………」
露伴「皇帝の御前で、あれほど純粋に料理を楽しむ少女……!」
Xi「……先生?」
露伴「この表情、この目の輝き……! これは描き留めておきたい!」
露伴の手が、テーブル脇に置いたスケッチブックへ伸びた。
Xi「先生!!」
露伴「なんだ!」
Xi「食事中!! しかも皇帝の御前!!」
露伴「……!」
キラ「露伴先生、取材は食事が終わってからにしましょう」
露伴「…………」
露伴「……分かったよ」
そっと、スケッチブックから手を離す露伴。
Xi「……危なかった」
露伴「だが、後で弥子くんに描いていいか確認するぞ」
Xi「それならいいけどさ……」
弥子「え? 私ですか?」
露伴「君の食事中の表情は、実に面白い!」
弥子「じゃあ、美味しそうに描いてくださいね!」
露伴「当然だ!」
Xi「……本当に、食べ物が絡むと話が早いね」
カイエン「ハハハッ!!」
ダイ・グ「……ふふ」
皇帝は、終始穏やかな微笑みを浮かべていた。
◆ 8.桂木弥子は料理を褒める時間がもったいない
いよいよ、主菜が運ばれてきた。
香草と香辛料で下味を付けた羊肉を、じっくりと焼き上げた料理。
表面は香ばしく、中は柔らかい。
酸味のあるソースと、香り豊かな米料理が添えられている。
弥子「…………」
Xi「……弥子?」
弥子「…………!」
弥子「おいしそう……!!」
カイエン「ハハッ! 肉料理はいいナ!」
ダイ・グ「どうぞ、温かいうちに」
弥子「いただきます!!」
ぱくっ。
弥子「…………!!」
Xi「……どう?」
弥子「……すっごく美味しい!!」
Xi「……うん」
弥子「お肉が柔らかい! 香辛料の香りがしっかりするのに、肉の旨味を邪魔してない!!」
料理長「ありがとうございます」
弥子「それに、このソース! 酸味があるから、脂っこくならないんですね!」
料理長「はい。最後まで飽きずに召し上がっていただけるようにしております」
弥子「お米も美味しい! これ、肉汁と一緒に食べると最高です!!」
ダイ・グ「……よほどお気に召したようですね」
弥子「はい!!」
そして。
弥子「でも、料理を褒めてる時間がもったいない!!!」
Xi「弥子ちゃん!? いや、弥子さん?! もっとゆっくり味わって!!」
弥子「ちゃんと味わってるよ!!」
Xi「味わってる速度じゃないでしょ?!」
弥子「だって、こんなに美味しい料理、めったに食べられないんだよ?!」
Xi「それはそうだけど!!」
弥子「食べ終わったら、また料理長さんにお礼を言うから!!」
Xi「今は食べることが最優先なんだね?!」
ダイ・グ「……ふふ」
カイエン「なんだヨ?」
ダイ・グ「面白い女性ですね、カイエン師匠」
カイエン「……この子は特別だヨ……」
Xi「……師匠にそう言われるなんて、弥子も大したもんだよ」
キラ「でも、ちゃんと料理を味わってるんだよね」
Xi「うん。そこがすごいところなんだけどさ」
◆
しばらくして。
弥子「……あのぉ」
Xi「……来た」
料理長「はい?」
弥子「この羊肉のお料理、おかわりできますか?」
料理長「もちろんです」
弥子「本当ですか?! ありがとうございます!!」
料理長「何人前ほどご用意しましょうか?」
弥子「……えっと」
Xi「……弥子?」
弥子「とりあえず十人前お願いします!!」
Xi「とりあえず?!」
カイエン「…………」
キラ「…………」
露伴「…………」
ダイ・グ「…………」
バクスチュアル「……十人前」
弥子「あっ、ほかの皆さんの分は大丈夫ですか? 無理なら少なくても……」
料理長は一礼した。
料理長「ご安心ください。キラ准将から事前にお話を伺い、追加分も用意しております」
Xi「…………」
Xi「……キラ?」
キラ「うん。会津の経験があるからね」
Xi「……準備してたんだ?!」
キラ「さすがに、皇帝の御前で料理が足りなくなったら困るから」
ダイ・グ「ふふ。宮廷厨房も、お客様に満足していただけるよう努めております」
弥子「ありがとうございます!!」
カイエン「……キラ。お前、仕事ができるナ」
キラ「ありがとうございます。今回は旅行の手配じゃなくて、食事量の事前連絡だけですけどね」
Xi「いや、十分すごいよ……」
カイエン「会津でも助かったしナ!」
料理長「それでは、出来たものから順次お持ちいたします」
弥子「はい!! 楽しみにしてます!!」
宮廷料理長は落ち着いた様子で厨房へ戻っていった。
さすがは帝国の宮廷料理人。
突然の大量注文にも、準備と段取りで対応する。
もちろん、料理の質を落とすつもりはない。
やがて運ばれてきた追加の皿を、弥子は一皿ずつ大切に味わい始めた。
食べる速度は相変わらず凄まじい。
しかし、肉の焼き加減やソースの違いを尋ね、付け合わせの組み合わせまで楽しんでいる。
ダイ・グ「……なるほど」
Xi「陛下?」
ダイ・グ「料理を食べることそのものが、本当にお好きなのですね」
Xi「……うん。弥子はそういう子なんだ」
ダイ・グ「ふふ。料理人たちも喜んでいるでしょう」
カイエン「ハハッ! 食いっぷりは星団一かもしれねぇナ!」
Xi「……師匠。弥子とラキシス様とすえぞうが揃ったら、どうなると思う?」
カイエン「…………」
カイエン「……考えたくねぇナ」
Xi「僕もだよ」
◆
十人前の追加料理も、無事にすべて平らげられた。
そして、デザートが運ばれてきた。
蜂蜜とナッツを使った、幾層にも重なる焼き菓子。
香りの良い茶とともに提供される。
弥子「……わぁ!!」
Xi「……弥子、まだ入るの?」
弥子「甘いものは別腹だよ!!」
Xi「……知ってた」
露伴「おいおいおいおい! あれだけ食べて、まだ食べるのかい?!」
弥子「もちろんです!!」
カイエン「ハハハッ!」
ダイ・グ「……本当に、素晴らしい食欲ですね」
弥子「ありがとうございます!!」
Xi「……そこ、褒められてるんだよね?」
キラ「……たぶんね」
バクスチュアル「弥子サン。幸セソウ」
Xi「……うん。それは間違いない」
弥子は幸せそうに焼き菓子を頬張った。
その様子を見て、宮廷料理長も満足そうに微笑んでいた。
格式ある宮廷料理。
長い歴史に培われた技術。
そして、それを心から美味しいと喜んでくれる客人。
料理人にとっても、悪い時間ではなかった。
◆ 9.怪盗Xiは、何を見上げたのか
宮廷料理を終えた一行は、帰路につくことになった。
弥子「ごちそうさまでした!! 本当に美味しかったです!!」
料理長「こちらこそ、ありがとうございました。またぜひお越しください」
弥子「はい!! ぜひ!!」
Xi「……弥子、次の訪問まで決めちゃったよ」
カイエン「ハハッ! いいじゃねぇかヨ!」
キラ「僕もサイレンを見学できて、すごく勉強になりました。ありがとうございました」
ダイ・グ「こちらこそ。機会があれば、コンパスのモビルスーツについてもお話を伺いたいですね」
キラ「はい。お話しできる範囲でしたら、ぜひ」
露伴「僕も良い取材ができたよ。掲載前には必ず確認を取らせてもらう」
ダイ・グ「ありがとうございます。楽しみにしています」
Xi「……先生、今回は本当にちゃんとしてたね」
露伴「当然だろう!」
Xi「……でも、弥子の食事風景も描くんでしょ?」
露伴「もちろんだ!」
Xi「結局、MHと胃袋の両方が取材対象なんだね!!」
露伴「人間の営みすべてが、漫画の題材になるんだよ!」
Xi「……まあ、先生らしいけどさ」
◆
宮殿を出る前。
ダイ・グは、Xiへ声をかけた。
ダイ・グ「Xi殿」
Xi「ん?」
ダイ・グ「今日は、楽しんでいただけましたか?」
Xi「……うん。ありがとう」
Xiは、少し考えてから続けた。
Xi「破烈の人形も、A-TOLLも、サイレンも、それぞれ全然違ってた」
ダイ・グ「ええ」
Xi「でも、ただ強いMHを作ればいいってわけじゃないんだね」
ダイ・グ「…………」
Xi「それぞれの国に、それぞれの事情があって、守りたいものがある。そのために、ああいう機体が必要になる」
ダイ・グ「……そのとおりです」
Xi「……僕、少しは分かってきた気がするよ」
カイエン「ハハッ! いい勉強になっただろ?」
Xi「うん。ありがとう、師匠」
カイエン「おう!」
ダイ・グ「カイエン師匠」
カイエン「なんだヨ?」
ダイ・グ「良いお弟子さんですね」
カイエン「ハハッ! だろ?」
Xi「……師匠、そこで得意げになるんだ?」
カイエン「いいじゃねぇかヨ!」
ダイ・グは笑った。
ダイ・グ「Xi殿。また、ぜひフィルモアへお越しください」
Xi「……いいの?」
ダイ・グ「もちろんです。今回はサイレンを中心にご覧いただきましたが、まだお見せしていない騎体もありますから」
Xi「……え?」
カイエン「ハハッ! いいじゃねぇか! また勉強になるナ!」
ダイ・グ「次の機会には、皇帝騎についてもご紹介できればと思っています」
Xi「…………」
Xi「……皇帝騎?」
カイエン「おう! Vサイレンだナ!」
Xi「…………」
Xi「ちょっと待って! 皇帝騎まで見せてもらえるの?!」
ダイ・グ「ふふ。正式な許可と準備が整えば、ですが」
Xi「……師匠」
カイエン「なんだヨ?」
Xi「……僕、いよいよ逃げ道がなくなってきた気がする」
カイエン「ハハッ! なんでだヨ!」
Xi「破烈の人形、A-TOLL、サイレン……今度は皇帝騎?!」
カイエン「いいことじゃねぇか!」
Xi「だから、まだ騎士になるって決めてないんだよ!!」
ダイ・グ「ふふ。もちろん、見学と進路は別の話ですよ」
Xi「……ありがとう、ダイ・グ陛下。やっぱり兄弟子は話が分かるね」
カイエン「おい! 師匠はどうなんだヨ!」
Xi「……師匠は、ちょっと僕の外堀を埋めすぎ」
カイエン「ハハハハッ!!」
バクスチュアル「Xiサン。外堀、深クナッタ」
Xi「……君まで言わないでよ」
◆
その時。
弥子「あのっ! ダイ・グ陛下!」
ダイ・グ「はい?」
弥子「次も宮廷料理をご馳走していただけるんですか?!」
Xi「弥子ちゃん!!」
ダイ・グ「……ふふ。もちろん、ぜひお越しください」
弥子「やったぁ!!」
Xi「……もう次の食事の予定が決まっちゃったよ」
カイエン「ハハッ! いいじゃねぇか!」
弥子「次は、今日食べられなかった料理も食べてみたいです!」
ダイ・グ「料理長にも伝えておきましょう」
Xi「……陛下まで協力的だ……」
キラ「……次も事前に食事量を伝えておこうか」
Xi「……キラ、よろしく」
露伴「ふむ。次回は皇帝騎か。これは取材のしがいがあるな」
Xi「先生は先に取材申請!!」
露伴「分かっている!!」
カイエン「ハハハハッ!!」
こうして、フィルモア帝国でのサイレン見学会は、無事に終了した。
星団三大MH。
破烈の人形。
A-TOLL。
そして、サイレン。
そのすべてを見学したXiは、以前よりも少しだけ騎士の世界を理解できたように思っていた。
だが、それは騎士になる決意を固めたという意味ではない。
ただ、知らなかったことを知った。
見たことのないものを見た。
そして、自分で考えるための材料が増えた。
それだけでも、十分に価値のある一日だった。
バクスチュアル「Xiサン」
Xi「ん?」
バクスチュアル「今日モ、良イ日」
Xi「……うん」
バクスチュアル「次モ、一緒ニ?」
Xi「……もちろん」
バクスチュアル「ウン」
二人は、自然に隣を歩いた。
カイエン「よし! 次はVサイレンだナ!」
Xi「だから、勝手に決めないでってば!!」
カイエン「ハハハハッ!!」
弥子「次の宮廷料理も楽しみー!!」
キラ「僕も皇帝騎の構造が気になるなぁ」
露伴「次の取材企画も考えておくか……」
Xi「…………」
Xi「……ねぇ、バクスチュアル」
バクスチュアル「何?」
Xi「僕の周りって、どうしてこう……みんな行動力がありすぎるんだろう?」
バクスチュアル「……Xiサンモ、行動力、アル」
Xi「え?」
バクスチュアル「怪盗。変身。潜入。逃走」
Xi「…………」
バクスチュアル「……似タ者同士?」
Xi「僕まで一緒にしないでよ!!」
カイエン「ハハハハハッ!!」
フィルモア帝国の空に、笑い声が響いた。
怪物強盗Xiの騎士修行。
本人の意思とは別に、外堀の工事はますます順調らしい。
もっとも。
次回の宮廷料理を楽しみにしている弥子にとっては、そんなことはどうでもよかった。
星団三大MHをすべて見学して、もっとも確実に増えたものは、桂木弥子の美味しい店リストだったのかもしれない。