守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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怪盗Xiは剣聖の知らない顔を見る

「……ねえ、師匠」

 

「なんだヨ?」

 

「僕たち、ついこの間もハスハに行ったよね?」

 

「おう!」

 

「そのあと、フィルモアでサイレンを見てきたよね?」

 

「おう!」

 

「……で、またハスハ?」

 

「ハハッ! いいじゃねぇかヨ!」

 

怪物強盗Xiは、深々とため息をついた。

 

星団三大モーターヘッドを見学するという、普通なら一生に一度あるかどうかの貴重な経験。

 

破烈の人形。

 

A-TOLL。

 

サイレン。

 

そのすべてを見たというのに、カイエンの好奇心は一向に収まる様子がなかった。

 

Xi「……今度は何を見せてくれるのさ」

 

カイエン「お前、エンプレスは覚えてるか?」

 

Xi「……エンプレス?」

 

一瞬、考える。

 

そして、すぐに思い出した。

 

Xi「……ああ! あの白と赤の、ものすごく綺麗なMH!」

 

カイエン「おう! 炎の女皇帝だナ!」

 

Xi「覚えてるよ。前にA.K.D.の格納庫で見せてもらったじゃない」

 

カイエン「ハハッ! そうだったナ!」

 

Xi「ソープ様まで初めて見るって言ってたから、僕も驚いたよ」

 

キラ「僕も、あの時のことはよく覚えてるよ」

 

今回も同行するキラ・ヤマトが、懐かしそうに頷いた。

 

キラ「強い機体なのは分かっていたけど、それ以上に、あんなに美しいMHがあるんだって……」

 

露伴「うむ。あの造形は、今でも鮮明に覚えている」

 

岸辺露伴も腕を組んだ。

 

露伴「白い装甲、炎を思わせる赤い曲面。立っているだけで見る者を圧倒する、あの存在感……!」

 

Xi「先生、あの時もスケッチしたがってたよね」

 

露伴「描いたとも。ただし許可された外形だけだがね」

 

Xi「そうそう。ソープ様が許可してくれたんだっけ」

 

露伴「今回も必要な申請は済ませてある。前回とは管理者が違うからな」

 

Xi「……そこはちゃんと覚えてるんだ」

 

露伴「当たり前だろう!」

 

一方。

 

弥子「……ねえ、Xiくん」

 

Xi「ん?」

 

弥子「ハスハって、前にネギうどんを食べたところだよね?」

 

Xi「…………」

 

カイエン「ハハハッ! そうだヨ!」

 

弥子「やった! また食べられるかな?!」

 

Xi「……弥子ちゃん、もう食事の心配?」

 

弥子「だって、あれ美味しかったんだもん!」

 

Xi「……十人前追加してたよね」

 

弥子「うん! もうちょっと食べられたかも!」

 

Xi「まだ入ったの?!」

 

バクスチュアル「弥子サン。食欲、強イ」

 

Xi「……うん。あれは騎士の力でも測れないから」

 

カイエン「ハハッ! フィルモアでもダイ・グが驚いてたナ!」

 

弥子「宮廷料理も美味しかったなぁ……」

 

Xi「……今回は宮廷料理の予約なんてないからね?」

 

弥子「えーっ!」

 

Xi「えーっ、じゃない!!」

 

アウクソーは、そのやり取りを静かに見守っていた。

 

アウクソー「マスター。今回は、どなたがお迎えくださるのですか?」

 

カイエン「おう。ヤーボだヨ」

 

Xi「……ヤーボ?」

 

カイエン「ヤーボ・ビート。ハスハの騎士だナ」

 

Xi「へぇ。師匠の知り合い?」

 

カイエン「まあナ!」

 

Xi「……どういう知り合い?」

 

カイエン「行けば分かるヨ!」

 

Xi「…………」

 

Xi「……師匠がそういう言い方をする時って、何か隠してることがあるんだよね」

 

カイエン「気にしすぎだヨ!」

 

Xi「……そうかなぁ」

 

その予感が、恐ろしく正確だったと知るのは、もう少し後のことだった。

 

◆ 2.ヤーボ・ビートという騎士

 

ハスハ連合共和国。

 

多くの国家と地域が集まり、長い歴史の中で独自の文化と騎士団を育んできた地。

 

前回の訪問で一行を迎えたのは、A-TOLLを擁する騎士団だった。

 

今回は、案内係が一人増えている。

 

「カイエン!」

 

格納施設の前で、鮮やかな声が響いた。

 

振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。

 

騎士服をまとい、堂々とした佇まいでこちらへ歩いてくる。

 

その姿には、華やかさと、実戦を経験してきた騎士特有の迫力が同居していた。

 

ヤーボ「久しぶりね!」

 

カイエン「おう、ヤーボ! 元気だったかヨ!」

 

ヤーボ「あなたこそ。相変わらず、あっちこっち飛び回ってるみたいじゃない」

 

カイエン「ハハッ! まあナ!」

 

二人は、ごく自然に笑い合った。

 

Xi「……へぇ」

 

弥子「……仲良しなんですね」

 

キラ「カイエンさんの知り合い、どこの国にもいるんだね」

 

露伴「剣聖ともなれば、当然だろうな」

 

カイエン「紹介するヨ。こいつがヤーボ・ビート。ハスハでも指折りの騎士だナ!」

 

ヤーボ「あなたがXiくんね?」

 

Xi「うん。怪盗Xi。今は師匠から剣術を教わってるんだ」

 

ヤーボ「ふふ。カイエンから聞いてるわよ」

 

Xi「……どんな話?」

 

ヤーボ「そうねえ。なかなか筋がいいって褒めてたわ」

 

Xi「……えっ?」

 

カイエン「おい、ヤーボ!」

 

Xi「師匠が?」

 

ヤーボ「ええ。足運びを覚えるのが早いとか、目の付けどころが悪くないとか」

 

Xi「…………」

 

カイエン「余計なこと言うんじゃねぇヨ!」

 

Xi「……へぇ」

 

カイエン「なんだヨ!」

 

Xi「いやぁ。師匠、僕のいないところだと褒めてくれるんだね」

 

カイエン「稽古の時だって褒めてるだろうがヨ!!」

 

Xi「……たまにね」

 

カイエン「お前ナァ!」

 

ヤーボ「あははは! いいお弟子さんじゃない!」

 

どうやら、ヤーボはカイエンの扱いに慣れているらしい。

 

それだけで、Xiは少し親近感を覚えた。

 

◆

 

ヤーボ「それじゃあ、まずはこちらを見てもらいましょうか」

 

案内された格納区画には、一騎のA-TOLLが立っていた。

 

深い緑色の装甲。

 

鋭い頭部。

 

独特の肩部構造。

 

そして、長い年月をかけて洗練された戦闘騎としての威容。

 

Xi「……A-TOLL!」

 

キラ「前回の機体とは、また雰囲気が違うね」

 

ヤーボ「これは私の乗騎、A-TOLL SWANS No.2よ」

 

Xi「……ヤーボさんの?」

 

ヤーボ「そう。こいつとは、長い付き合いなの」

 

カイエン「ハハッ! ヤーボもこいつをよく乗りこなしてるんだヨ!」

 

ヤーボ「当たり前でしょ。私だってハスハの騎士なんだから」

 

キラ「同じA-TOLLでも、配属先や騎士によって調整が違うんですね」

 

ヤーボ「ええ。だけど、どれもハスハの騎士を支えてきた大切な機体よ」

 

Xi「……前回は、A-TOLLの構造や、騎士団での使い方を教えてもらったんだ」

 

ヤーボ「それなら今回は、もう少し違う話をしましょうか」

 

Xi「違う話?」

 

ヤーボ「この国が、どうしてあれほど多くの騎士を必要としているのか。そして、私たちが何を守っているのか」

 

Xi「…………」

 

ヤーボ「機械の話だけじゃ、分からないこともあるからね」

 

カイエン「おう! そういうことだナ!」

 

露伴「……ほう。なかなか興味深い切り口じゃあないか」

 

ヤーボ「露伴先生。資料の閲覧とスケッチについては、事前にお伝えした条件でお願いしますね」

 

露伴「分かっているさ」

 

Xi「……先生、今回は先に釘を刺されちゃったね」

 

露伴「君は黙っていたまえ!」

 

ヤーボは笑いながら、一行をさらに奥へと案内した。

 

◆ 3.ハスハの剣と、アトールの旗

 

施設の一角には、ハスハの歴史を紹介する展示室が設けられていた。

 

古い旗。

 

過去の騎士団の装備。

 

そして、幾つもの時代を記録した資料。

 

壁面には、アトール聖導王朝に関する説明もあった。

 

Xi「……アトール聖導王朝」

 

弥子「王朝ってことは、昔からずっと王様がいるの?」

 

ヤーボ「ええ。ただし、皆さんが普通に考える王朝とは、少し違うの」

 

キラ「……というと?」

 

ヤーボ「アトール聖導王朝には、一般の国家のような領土や政治的実権がないのよ」

 

弥子「……えっ?!」

 

Xi「じゃあ、国を治めてるわけじゃないんだ?」

 

ヤーボ「ええ。ハスハ連合には政治を担う仕組みがある。でも、アトールの巫女は、もっと別の意味で人々を支えているの」

 

露伴「……精神的な支柱というわけか」

 

ヤーボ「そうね」

 

展示には、長い歴史の中で受け継がれてきた聖導王朝の記録が並んでいた。

 

ヤーボ「ミノグシアの人々にとって、アトールは特別な存在なの。国や地域が違っても、アトールの巫女を大切に思う人々がいる」

 

Xi「…………」

 

ヤーボ「国を守るって、領土や建物を守るだけじゃないでしょう?」

 

Xi「……うん」

 

ヤーボ「そこに暮らす人たちの生活や、信じているもの、受け継いできたもの。そういうものも守らなきゃいけないのよ」

 

キラ「……だから、A-TOLLを持つ騎士団にも大切な役割があるんですね」

 

ヤーボ「そのとおり」

 

カイエン「ハハッ! いい説明じゃねぇか、ヤーボ!」

 

ヤーボ「あなたも少しは説明したら?」

 

カイエン「オレは剣術担当だからナ!」

 

Xi「都合が悪くなると専門分野を限定するんだね?!」

 

弥子「じゃあ、アトールの皇帝って、親から子へと代々受け継ぐんですか?」

 

ヤーボ「いいえ。そこも少し違うわ」

 

Xi「……へぇ?」

 

ヤーボ「アトールの巫女は、単純に親子だからという理由で決まるわけではないの。長い歴史の中で、先代から託されるものがある」

 

Xi「……血筋だけじゃ、決まらないんだ」

 

ヤーボ「そういうことね」

 

Xiは、展示を見つめた。

 

誰かから受け継ぐもの。

 

けれど、それは必ずしも血や遺伝子だけではない。

 

その考え方が、なぜか少し気になった。

 

◆

 

展示室を抜け、再び格納施設へ向かう。

 

そして、大きな扉の前でヤーボが立ち止まった。

 

ヤーボ「……さて」

 

Xi「ん?」

 

ヤーボ「ここからは、前にも見たことのある騎体よ」

 

Xi「……まさか」

 

ヤーボ「ふふ。開けてもらいましょう」

 

整備員が操作盤に手を触れる。

 

重厚な格納扉が、ゆっくりと開いた。

 

そこには。

 

白。

 

赤。

 

銀。

 

炎を思わせる装甲。

 

鋭く、高く伸びた頭部。

 

細く、優美な腰。

 

長く、美しい脚。

 

ジ・エンプレス。

 

かつてA.K.D.の格納庫で見た、炎の女皇帝だった。

 

Xi「…………」

 

キラ「……ああ」

 

弥子「……わぁ……!」

 

露伴「……久しぶりじゃあないか」

 

同じ騎体。

 

同じ姿。

 

けれど、今回は少し違って見えた。

 

Xi「……綺麗だね」

 

カイエン「おう!」

 

Xi「前に見た時もそう思ったけど……やっぱり綺麗だ」

 

キラ「……うん」

 

ヤーボ「ふふ。星団でも指折りの美しいMHだからね」

 

露伴「まったくだ。二度見たからといって、この造形に飽きることはない」

 

Xi「……先生、また描きたくなった?」

 

露伴「当然だろう!」

 

Xi「……許可の範囲だけだよ?」

 

露伴「分かっている!」

 

ヤーボは、エンプレスを静かに見上げた。

 

ヤーボ「この騎体は、アトール聖導王朝の旗騎なの」

 

Xi「……旗騎」

 

ヤーボ「アトールの巫女に仕える騎士、ネードル・シバレースが乗る特別な機体よ」

 

キラ「……ということは、普通の騎士団の所有物とは違うんですね」

 

ヤーボ「ええ。使用にはアトール皇帝の許可が必要になるわ」

 

Xi「……なるほど」

 

ヤーボ「戦場では、強い騎体が必要になる。でもね、エンプレスには、それだけじゃない役目があるの」

 

Xi「……それだけじゃない?」

 

ヤーボ「この騎体を見て、勇気をもらう人もいるのよ」

 

Xi「…………」

 

ヤーボ「アトールの歴史を思い出す人もいる。自分たちが守ってきたものを、改めて確かめる人もいる」

 

キラ「……象徴なんですね」

 

ヤーボ「ええ」

 

カイエン「おう。エンプレスは、そういうMHなんだヨ」

 

Xiは、もう一度エンプレスを見上げた。

 

前に見た時は、美しさに圧倒された。

 

今も、その美しさは変わらない。

 

けれど、その姿を誇りに思う人々がいる。

 

長い歴史の中で、大切に守ってきた人々がいる。

 

そう知ったことで、以前とは少し違って見えた。

 

バクスチュアル「……Xiサン」

 

Xi「ん?」

 

バクスチュアル「前ニ、言ッタ」

 

Xi「……何を?」

 

バクスチュアル「『見ル、コト、始マリ』」

 

Xi「…………」

 

思い出した。

 

初めてエンプレスを見た時。

 

自分には遠すぎる存在だ、と感じた。

 

その時、バクスチュアルは言ったのだ。

 

見ることも、始まりなのだと。

 

Xi「……そうだったね」

 

バクスチュアル「今、二度目」

 

Xi「……うん」

 

バクスチュアル「前ヨリ、知ッタ」

 

Xi「……そうだね」

 

Xiは微笑んだ。

 

Xi「前は姿を見ただけだった。でも、今日は少しだけ、この騎体が何を背負っているのか分かった気がする」

 

カイエン「ハハッ! それでいいんだヨ!」

 

Xi「……師匠」

 

カイエン「ん?」

 

Xi「ありがとう。もう一度、連れてきてくれて」

 

カイエン「おう!」

 

珍しく、素直なお礼だった。

 

カイエンも、嬉しそうに笑った。

 

◆

 

そして。

 

ヤーボ「……さて」

 

Xi「ん?」

 

ヤーボ「せっかく来てくれたんだもの。もう一つ、見せたいものがあるの」

 

Xi「……まだ何かあるの?」

 

カイエン「ハハッ! あるんだヨ!」

 

Xi「…………」

 

Xi「……師匠。また何か隠してない?」

 

カイエン「お前は疑り深いナ!」

 

Xi「……これまでの経験上、警戒する理由は十分あると思うけど」

 

ヤーボ「ふふ。大丈夫。今度はMHじゃないわ」

 

弥子「……美味しいお店ですか?!」

 

Xi「弥子ちゃん!!」

 

ヤーボ「あはは! 食べ物も用意してるけどね」

 

弥子「やったぁ!!」

 

Xi「……もう駄目だ。この子、話が早すぎる」

 

ヤーボ「それじゃあ、皆さん。よかったら、私の家にも寄っていって」

 

Xi「……ヤーボさんの家?」

 

ヤーボ「ええ。紹介したい子たちがいるのよ」

 

カイエン「ハハッ! 楽しみだナ!」

 

Xi「…………」

 

何かが、引っかかった。

 

しかし。

 

それが何なのか、まだXiには分からなかった。

 

◆ 4.師匠?! 子どもいたの?!

 

ヤーボの家は、騎士団の施設からそれほど遠くない、落ち着いた住宅区画にあった。

 

大きな庭。

 

手入れされた植木。

 

広い窓から差し込む、柔らかな日差し。

 

軍事施設の緊張感とはまったく違う、穏やかな場所だった。

 

弥子「わぁ! 素敵なお家ですね!」

 

ヤーボ「ありがとう。どうぞ、遠慮しないでね」

 

キラ「お邪魔します」

 

露伴「……なかなか趣味のいい家じゃあないか」

 

Xi「……へぇ。ヤーボさんって、こういう家に住んでるんだ」

 

ヤーボ「ふふ。騎士だって、家に帰れば普通の生活をするのよ?」

 

Xi「……まあ、そうだよね」

 

カイエン「おう! おーい!」

 

Xi「……師匠?」

 

カイエンは、家の奥へ向かって声をかけた。

 

カイエン「帰ったぞー!」

 

Xi「…………」

 

Xi「……え?」

 

ヤーボ「あら。あなた、ずいぶん久しぶりなのに、普通に帰宅したみたいな顔をして」

 

カイエン「ハハッ! いいじゃねぇかヨ!」

 

Xi「……師匠?」

 

その時。

 

ぱたぱたぱた。

 

小さな足音が聞こえた。

 

「……おかあさん!」

 

「おかあさん、かえってきた!」

 

廊下の向こうから、小さな子どもが二人、姿を現した。

 

男の子と、女の子。

 

まだ幼く、あどけない顔をしている。

 

ヤーボ「マグダル、デプレ。ただいま」

 

マグダル「おかえりなさい!」

 

デプレ「おかえりー!」

 

二人は母親へ駆け寄り、それから、その隣に立つ大きな男を見つけた。

 

デプレ「……!」

 

マグダル「……あ!」

 

カイエン「おう!」

 

デプレ「とうさん!!」

 

マグダル「おとうさん!」

 

カイエン「ハハッ! 元気だったかヨ!」

 

二人が一斉に駆け出す。

 

その瞬間。

 

カイエンは、すっと膝を折った。

 

小さな身体を受け止め、両腕で抱き寄せる。

 

まるで、それが世界で一番自然なことのように。

 

カイエン「おうおう! 二人とも元気そうだナ!」

 

デプレ「とうさん! きた!」

 

マグダル「いつまでいるの?」

 

カイエン「ハハッ! 今日はゆっくりしていくヨ!」

 

デプレ「やったぁ!」

 

マグダル「ほんと?」

 

カイエン「おう!」

 

普段の豪快な声。

 

けれど、どこか柔らかかった。

 

Xi「…………」

 

キラ「…………」

 

弥子「…………」

 

露伴「…………」

 

アウクソーは、小さく微笑んだ。

 

バクスチュアルは、子どもたちを見ていた。

 

そして。

 

Xi「…………」

 

Xi「……師匠?」

 

カイエン「なんだヨ?」

 

Xi「…………」

 

Xi「師匠?! 子どもいたの?!」

 

カイエン「おう! 双子だナ!」

 

Xi「ええええええええええ?!」

 

弥子「えええ?! カイエンさんのお子さん?!」

 

キラ「……そうだったんですか?!」

 

露伴「おいおいおいおい! これは初耳じゃあないか!」

 

カイエン「なんだヨ! そんなに驚くことか?」

 

Xi「驚くよ!!」

 

ヤーボ「あははは! カイエン、あなた、本当に何も話してなかったの?」

 

カイエン「おう!」

 

Xi「おう、じゃないでしょ!!」

 

Xiは、思わず頭を抱えた。

 

Xi「なんで今まで教えてくれなかったのさ!!」

 

カイエン「聞かれなかったからナ!」

 

Xi「聞かれなきゃ言わないことなの?!」

 

カイエン「知ってたら飲みに出たりナンパしたりするのを止めただろ?」

 

Xi「当然だよ!!」

 

カイエン「ほらナ! だから言わなかったんだヨ!」

 

Xi「それ、堂々と言うことじゃない!!」

 

ヤーボ「…………」

 

カイエン「…………」

 

ヤーボ「……カイエン?」

 

カイエン「……お、おう?」

 

ヤーボ「……飲みに出たり、何をしたりするって?」

 

カイエン「……いや、これはだナ」

 

Xi「ヤーボさん! 師匠、この前も美女をナンパしてたんだよ!」

 

カイエン「おいXi!!」

 

ヤーボ「……へぇ?」

 

Xi「しかも、その美女に高級ディナーをご馳走したんだ!」

 

ヤーボ「まあ!」

 

カイエン「お前、何を言い出すんだヨ!」

 

Xi「でもね、安心して」

 

ヤーボ「……え?」

 

Xi「その美女、実は僕だったから!!」

 

ヤーボ「…………」

 

キラ「…………」

 

弥子「…………」

 

露伴「…………」

 

ヤーボ「…………」

 

ヤーボ「……ぷっ!」

 

ヤーボ「あははははははは!!」

 

カイエン「笑うんじゃねぇヨ!!」

 

ヤーボ「あはは! カイエン! あなた、Xiくんにナンパしてたの?!」

 

Xi「僕が変身してたんだよ。師匠、最後まで気づかなくてさ!」

 

ヤーボ「もう駄目! おかしい!!」

 

カイエン「お前が化けてるからだろうがヨ!!」

 

Xi「師匠がナンパしなければ、何も起きなかったんだけど?」

 

カイエン「ぐっ……!」

 

ヤーボ「ふふふ……Xiくん、今度その時の話を詳しく聞かせてね」

 

Xi「もちろん!」

 

カイエン「おい!! 師匠を売るんじゃねぇヨ!!」

 

Xi「師匠、僕は怪盗だからね?」

 

カイエン「今それを持ち出すんじゃねぇ!!」

 

一同、大笑い。

 

ただし。

 

デプレ「……なんぱ?」

 

マグダル「おとうさん、なにしたの?」

 

カイエン「…………」

 

Xi「…………」

 

ヤーボ「…………」

 

カイエン「……Xi」

 

Xi「……何?」

 

カイエン「子どもの前だヨ!!」

 

Xi「そこだけ父親らしいこと言わないでよ!!」

 

◆

 

ひとしきり騒いだ後、ようやく一行は落ち着いた。

 

ヤーボ「改めて紹介するわね。娘のマグダルと、息子のデプレよ」

 

マグダル「……こんにちは」

 

デプレ「こんにちは!」

 

Xi「……こんにちは。僕はXiだよ」

 

弥子「桂木弥子です! よろしくね!」

 

キラ「キラ・ヤマトです」

 

露伴「岸辺露伴だ。漫画家をしている」

 

デプレ「まんが?」

 

露伴「そうだ。絵と物語を描く仕事だよ」

 

デプレ「え、すごい!」

 

露伴「ふふん。なかなか分かっているじゃあないか」

 

Xi「……先生、子どもにも褒められたいんだね」

 

露伴「君は黙っていろ!」

 

バクスチュアル「……コンニチハ」

 

マグダル「……きれいなおねえさん」

 

バクスチュアル「…………」

 

Xi「……ふふ。褒められたね」

 

バクスチュアル「……嬉シイ」

 

マグダルは、少し照れたように笑った。

 

その隣で、デプレがカイエンの袖を引っ張っていた。

 

デプレ「とうさん! あそぼ!」

 

カイエン「おう! 何して遊ぶんだヨ?」

 

デプレ「けん!」

 

カイエン「ハハッ! 剣か!」

 

Xi「……え?」

 

カイエン「よし! 持ってこいヨ!」

 

Xi「ちょっと待って、師匠?!」

 

デプレが持ってきたのは、柔らかい素材で作られた、小さなおもちゃの剣だった。

 

Xi「……ああ。おもちゃか」

 

カイエン「当たり前だろうがヨ!」

 

Xi「……師匠のことだから、本物の剣を持たせるのかと思って」

 

カイエン「そんなわけねぇだろ!」

 

アウクソー「マスター。以前の言動を考えると、Xiさんが心配なさるのも無理はありません」

 

カイエン「アウクソーまで何言ってんだヨ!!」

 

そしてカイエンは、おもちゃの剣を持ったデプレの前にしゃがみ込んだ。

 

カイエン「さあ、来いヨ!」

 

デプレ「えいっ!」

 

カイエン「おっと!」

 

デプレ「えいっ! えいっ!」

 

カイエン「ハハッ! いいぞ!」

 

もちろん、剣聖が子どものおもちゃの剣を受け止められないはずもない。

 

けれど。

 

カイエンは、一度もデプレの手から剣を弾き飛ばさなかった。

 

小さな子どもが転ばないように。

 

怖がらないように。

 

ほんの少しだけ、受け止め方を変えている。

 

Xi「…………」

 

その動きには、妙な優しさがあった。

 

自分の稽古では、あれほど容赦がないのに。

 

Xi「……なんだよ」

 

小さく呟いた。

 

Xi「……そんな顔もできるんだね、師匠」

 

カイエン「ん? 何か言ったかヨ?」

 

Xi「……なんでもない」

 

カイエン「ハハッ! そうか!」

 

◆ 5.アウクソーは知っていた

 

午後。

 

ヤーボは、一行を庭に面した居間へ案内した。

 

テーブルには、お茶と焼き菓子、それに小さな果物の盛り合わせが用意されていた。

 

弥子「わぁ! ありがとうございます!」

 

ヤーボ「ふふ。どうぞ召し上がって」

 

弥子「いただきます!」

 

Xi「……弥子ちゃん。マグダルちゃんとデプレくんの分もあるんだからね?」

 

弥子「分かってるよ!」

 

ヤーボ「大丈夫。大人の皆さんの分は、厨房に追加をお願いしてあるから」

 

Xi「……え?」

 

キラ「実は、事前に少しだけお伝えしておいたんだ」

 

Xi「キラ?! フィルモアに続いて?!」

 

キラ「うん。今回は特に、小さい子たちもいるからね」

 

ヤーボ「あらかじめ多めに用意できて助かったわ」

 

弥子「キラさん、ありがとうございます!!」

 

Xi「……もう弥子の食欲対策は、旅行の標準装備なんだね」

 

カイエン「ハハッ! いいことじゃねぇかヨ!」

 

弥子は、出された焼き菓子を一口食べた。

 

弥子「……おいしい!」

 

ヤーボ「よかった」

 

弥子「甘さが優しくて、後から木の実の香りがするんですね!」

 

ヤーボ「ええ。昔からこの地方で親しまれているお菓子なの」

 

弥子「へぇ! もっと食べてみたいです!」

 

Xi「……弥子ちゃん。マグダルちゃんの分は残してね」

 

弥子「だから分かってるってば!」

 

マグダル「……おねえちゃん、いっぱいたべるの?」

 

弥子「うん! いっぱい食べるよ!」

 

デプレ「ぼくも!」

 

弥子「じゃあ、一緒に食べようか!」

 

デプレ「うん!」

 

Xi「…………」

 

Xi「……弥子と子どもって、なんだか相性いいね」

 

キラ「そうだね。面倒見もいいし」

 

露伴「食欲の話になると、年齢差がなくなるんだな」

 

Xi「……先生。それ、褒めてる?」

 

露伴「もちろんだとも」

 

弥子「……なんか微妙に褒められてない気がする!」

 

◆

 

その頃。

 

Xiは、ふとアウクソーに尋ねた。

 

Xi「……アウクソー」

 

アウクソー「はい、Xiさん」

 

Xi「アウクソーは、師匠に子どもがいるって知ってたの?」

 

アウクソー「はい。存じておりました」

 

Xi「…………」

 

Xi「……知ってたんだ」

 

アウクソー「マグダル様もデプレ様も、マスターの大切なお子様ですので」

 

Xi「……それ、僕には教えてくれなかったの?」

 

アウクソー「ご本人からお話しになることだと思いましたので」

 

Xi「……なるほど」

 

アウクソー「申し訳ありません」

 

Xi「いや、謝ることじゃないよ」

 

Xiは苦笑した。

 

Xi「……でも、師匠とアウクソーって、やっぱり長い付き合いなんだね」

 

アウクソー「はい」

 

Xi「……僕の知らない師匠のこと、いっぱい知ってるんだろうなぁ」

 

アウクソーは、穏やかに微笑んだ。

 

アウクソー「マスターは、ああ見えて、とてもお優しい方です」

 

Xi「…………」

 

Xi「……うん」

 

少し考える。

 

Xi「……剣術の稽古では、全然優しくないけどね」

 

アウクソー「……それは、Xiさんを信頼していらっしゃるからだと思います」

 

Xi「……信頼?」

 

アウクソー「はい。マスターは、Xiさんなら乗り越えられると考えていらっしゃるのでしょう」

 

Xi「…………」

 

Xi「……そっか」

 

何となく、嬉しかった。

 

そして、ほんの少しだけ。

 

いつもより師匠を尊敬できた気がした。

 

◆

 

その時だった。

 

マグダル「……Xiおにいちゃん」

 

Xi「ん?」

 

マグダル「おかあさんが、Xiおにいちゃんは、へんしんできるって」

 

Xi「……ああ。そうだよ」

 

デプレ「ほんと?!」

 

Xi「うん」

 

デプレ「みたい!」

 

Xi「……え?」

 

デプレ「へんしん!」

 

マグダル「……ちょっとだけ」

 

Xi「…………」

 

Xiは、ヤーボを見た。

 

ヤーボは笑っていた。

 

ヤーボ「ふふ。無理ならいいのよ?」

 

Xi「……いや、いいよ」

 

少しだけ考えてから、Xiは二人の前にしゃがみ込んだ。

 

Xi「じゃあ……こんなのはどうかな?」

 

その頭に。

 

ぴょこん。

 

小さなウサギの耳が生えた。

 

デプレ「……!」

 

マグダル「……!」

 

Xi「……ぴょん」

 

デプレ「あはははは!!」

 

マグダル「うさぎさん!」

 

Xi「……どう?」

 

デプレ「もういっかい!」

 

Xi「……じゃあ、今度は」

 

耳が、くるりと変わる。

 

今度はネコの耳。

 

Xi「……にゃあ」

 

マグダル「かわいい!」

 

デプレ「すごーい!」

 

弥子「……Xiくん、子どもの相手が上手いね!」

 

キラ「うん。すごく楽しそう」

 

露伴「……なるほど。変身能力を、こういう使い方もできるわけか」

 

カイエン「ハハッ! なかなかやるじゃねぇかヨ!」

 

Xi「……師匠もやってみる?」

 

カイエン「オレにはできねぇヨ!」

 

Xi「じゃあ、おとなしく見ててよ」

 

カイエン「なんだとヨ!」

 

笑い声が、居間に広がった。

 

バクスチュアルは、その様子を静かに見ていた。

 

Xiが、他人を騙すためでも、盗みを働くためでもなく。

 

ただ、二人の子どもを喜ばせるために、変身している。

 

そのことが、どこか嬉しかった。

 

バクスチュアル「……Xiサン」

 

Xi「ん?」

 

バクスチュアル「……優シイ」

 

Xi「……え?」

 

バクスチュアル「子ドモ、喜ンデル」

 

Xi「……まあね」

 

Xiは、少し照れたように笑った。

 

Xi「……僕だって、こういうことは嫌いじゃないよ」

 

◆ 6.剣聖が父親になるまで

 

やがて、遊び疲れた双子は、昼寝の時間になった。

 

ヤーボが二人を寝室へ連れていき、居間には静けさが戻ってきた。

 

弥子は焼き菓子のおかわりを楽しみ、キラはハスハの歴史資料を読んでいる。

 

露伴は、許可されたスケッチを整理していた。

 

その間。

 

Xiは、庭先のベンチに腰掛けていた。

 

柔らかな風が、木々を揺らしている。

 

「……なんだヨ。こんなところにいたのか」

 

振り返ると、カイエンが立っていた。

 

Xi「……師匠」

 

カイエン「おう」

 

カイエンは、Xiの隣に腰を下ろした。

 

しばらく、二人とも黙っていた。

 

やがて。

 

Xi「……ねえ、師匠」

 

カイエン「ん?」

 

Xi「……子どもが生まれた時、嬉しかった?」

 

カイエン「…………」

 

カイエン「……おう」

 

珍しく、即答だった。

 

Xi「……そっか」

 

カイエン「嬉しかったヨ」

 

Xi「…………」

 

カイエン「……正直、オレに子どもができるなんて思ってなかったからナ」

 

Xi「……え?」

 

カイエン「騎士ってのは、そもそも子どもができにくいんだヨ」

 

Xi「……そうなの?」

 

カイエン「おう。騎士同士でも難しい。

 まして、オレみてぇな超帝国の血を濃く引いてる騎士はナ」

 

Xi「…………」

 

カイエン「オレの場合、普通の相手じゃ子どもを作るどころか、その卵子を壊しかねねぇほど、遺伝的な相性が厄介なんだヨ」

 

Xi「……そんなに?」

 

カイエン「おう」

 

いつもの陽気さが、少しだけ薄れた。

 

カイエン「だから、ヤーボとの間にあいつらができたって聞いた時は、最初は信じられなかったナ」

 

Xi「…………」

 

カイエン「しかも、双子だぜ?」

 

Xi「……うん」

 

カイエン「ハハッ! 人生ってのは分からねぇもんだヨ!」

 

カイエンは笑った。

 

けれど、その笑い声には、どこか懐かしさが混じっていた。

 

Xi「……師匠は、子どもが欲しかったの?」

 

カイエン「…………」

 

少し、間があった。

 

カイエン「……どうだろうナ」

 

Xi「…………」

 

カイエン「欲しいと思ったことがなかったわけじゃねぇ。でも、オレには縁のねぇ話だと思ってたヨ」

 

Xi「……そっか」

 

カイエン「だから、実際に生まれてきた時は……」

 

少しだけ、言葉を探した。

 

カイエン「……まあ、嬉しかったナ」

 

Xi「…………」

 

カイエン「生きてるんだヨ。あんな小さな身体で、ちゃんとナ」

 

Xiは、黙って聞いていた。

 

カイエン「今じゃ、ああやって走り回ってる」

 

Xi「……うん」

 

カイエン「ハハッ! 大したもんだヨ!」

 

Xiは、小さく笑った。

 

Xi「……師匠」

 

カイエン「なんだ?」

 

Xi「……本当に嬉しかったんだね」

 

カイエン「おう!」

 

今度は、何の迷いもなかった。

 

◆

 

しばらくして。

 

Xi「……ねえ、師匠」

 

カイエン「ん?」

 

Xi「……シックスのこと、覚えてるよね」

 

カイエン「……お前の親父か」

 

Xi「……うん」

 

風が吹いた。

 

庭木の葉が、静かに揺れる。

 

Xi「あいつは、人間とは違う種族なんだ」

 

カイエン「……ああ」

 

Xi「新しい血族。人間から進化した、たった一人の存在」

 

カイエン「…………」

 

Xi「だから、人間の女性との間に子どもを作ることができなかった」

 

カイエン「……そうか」

 

Xi「それで、自分の体細胞からクローンを作ったんだ」

 

カイエン「…………」

 

Xi「……僕は、十一番目の実験体だった」

 

カイエンは何も言わなかった。

 

Xi「ようやく成体まで成長できた、十一番目」

 

少し、笑おうとした。

 

けれど、うまく笑えなかった。

 

Xi「……前の実験で、死んでしまった子たちもいたんだ」

 

カイエン「…………」

 

Xi「あいつは、そのうち三つの小さな頭蓋骨を、首から下げていた」

 

カイエン「……そうか」

 

Xi「……あの人、何を考えてたんだろうね」

 

その声には、怒りだけではない、複雑な感情があった。

 

Xi「自分と同じ存在を作りたかったのかな」

 

カイエン「…………」

 

Xi「それとも、自分の悪意を継がせたかっただけなのかな」

 

カイエン「……さあナ」

 

Xi「…………」

 

カイエン「そこは、オレにも分からねぇヨ」

 

Xiは、小さく頷いた。

 

Xi「……うん」

 

カイエン「ただナ」

 

Xi「……?」

 

カイエン「自分には子どもができねぇと思ってた奴の気持ちなら、少しは想像できるかもしれねぇ」

 

Xi「…………」

 

カイエン「オレだって、そうだったからナ」

 

Xi「……うん」

 

カイエン「でも、それだけだヨ」

 

Xi「……それだけ?」

 

カイエン「おう」

 

カイエンは、Xiを見た。

 

カイエン「子どもが欲しかったって気持ちと、子どもを好き勝手に扱っていいって話は、別だからナ」

 

Xi「…………」

 

カイエン「オレには、シックスの野郎が何を考えてたのか分からねぇ。分かったつもりになる気もねぇヨ」

 

Xi「…………」

 

カイエン「ただ、お前はお前だろ?」

 

Xi「……うん」

 

カイエン「そいつが作ったからって、お前がそいつの望んだ通りに生きなきゃならねぇ理由にはならねぇヨ」

 

Xi「…………」

 

Xiは、しばらく黙っていた。

 

それから、小さく口を開いた。

 

Xi「……僕、あいつと同じ遺伝子を持ってるんだ」

 

カイエン「おう」

 

Xi「体細胞クローンだからね」

 

カイエン「……ああ」

 

Xi「でも、僕はシックスじゃない」

 

カイエン「当たり前だヨ」

 

Xi「……僕は、僕だよ」

 

カイエン「ハハッ! そういうことだナ!」

 

カイエンは笑った。

 

それは、いつもの豪快な笑い声だった。

 

けれど。

 

今のXiには、少し違って聞こえた。

 

◆

 

Xi「……師匠」

 

カイエン「ん?」

 

Xi「……マグダルちゃんとデプレくんは、師匠の子どもなんだよね」

 

カイエン「おう!」

 

Xi「でも、師匠のコピーじゃない」

 

カイエン「当たり前だヨ」

 

Xi「……二人には、二人の人生があるんだよね」

 

カイエン「おう」

 

Xi「……騎士になるかどうかも?」

 

カイエン「……まあ、あいつらが自分で決めることだナ」

 

Xi「……師匠、剣術を教えたくならないの?」

 

カイエン「ハハッ! 教えてやりてぇ気持ちはあるヨ!」

 

Xi「……やっぱり」

 

カイエン「でも、まだ早ぇだろ。今は遊んでりゃいいんだヨ」

 

Xi「…………」

 

Xi「……へぇ」

 

カイエン「なんだヨ?」

 

Xi「……師匠、意外とちゃんと考えてるんだね」

 

カイエン「意外とは余計だヨ!!」

 

Xi「ははっ!」

 

ようやく、自然に笑えた。

 

そして。

 

Xi「……ありがとう、師匠」

 

カイエン「……ん?」

 

Xi「……話してくれて」

 

カイエン「おう!」

 

二人は、しばらく庭を眺めていた。

 

遠くで鳥が鳴いている。

 

戦場でも、訓練場でもない。

 

静かな午後だった。

 

◆ 7.ヤーボ・ビートは剣聖を知っている

 

「……あら、二人ともこんなところにいたの?」

 

振り返ると、ヤーボが立っていた。

 

Xi「……ヤーボさん」

 

ヤーボ「ふふ。何を話してたの?」

 

カイエン「大したことじゃねぇヨ」

 

Xi「……師匠の父親としての話を、ちょっとね」

 

ヤーボ「……そう」

 

ヤーボは、小さく微笑んだ。

 

ヤーボ「カイエンったら、普段はあんなにいい加減なのにね」

 

カイエン「おい!」

 

ヤーボ「子どものことになると、ちゃんと父親の顔をするのよ」

 

Xi「……うん。今日、初めて知ったよ」

 

カイエン「だから、何度も言わせるなヨ!」

 

ヤーボ「ふふふ」

 

Xiは、少し考えてから尋ねた。

 

Xi「……ヤーボさん」

 

ヤーボ「何?」

 

Xi「……師匠って、昔からこんな人なの?」

 

ヤーボ「……そうねえ」

 

カイエン「おい、何を聞いてんだヨ!」

 

ヤーボ「強くて、いい加減で、女好きで」

 

Xi「……うん」

 

ヤーボ「時々、とんでもなく無責任で」

 

Xi「……うんうん」

 

カイエン「お前ら、ちょっと待てヨ!!」

 

ヤーボ「でもね」

 

少しだけ、声が柔らかくなった。

 

ヤーボ「……大切なもののためには、ちゃんと剣を振るう人よ」

 

Xi「…………」

 

ヤーボ「そこだけは、昔から変わらないわ」

 

カイエン「…………」

 

Xi「……そっか」

 

ヤーボ「もちろん、それで女遊びが許されるわけじゃないけどね」

 

カイエン「おい!!」

 

Xi「そうだよね!!」

 

ヤーボ「ふふふ」

 

カイエン「……お前ら、気が合いすぎだヨ」

 

Xi「師匠の女性関係を監視するっていう、共通の目的ができたからね」

 

カイエン「勝手に目的を作るんじゃねぇ!!」

 

ヤーボ「あら、私は大歓迎よ?」

 

Xi「……じゃあ、今度また師匠がナンパしてたら、報告するね」

 

ヤーボ「ええ。よろしくね」

 

カイエン「おおおい!!」

 

Xi「……なんなら僕が美女に変身して、もう一回引っかけてもいいし」

 

カイエン「もうやるなヨ!!」

 

Xi「えー? どうしようかなぁ?」

 

カイエン「お前ナァ!!」

 

ヤーボ「あはははは!!」

 

庭に、再び笑い声が響いた。

 

◆

 

その時、居間から露伴の声が聞こえてきた。

 

露伴「おいおいおいおい! なんだこれは!」

 

Xi「……ん?」

 

露伴「カイエン! 君はこんな写真まで残しているのか!」

 

カイエン「……何?!」

 

一行が居間へ戻ると、露伴が一冊の写真アルバムを開いていた。

 

もちろん、ヤーボから見せてもらったものである。

 

そこには。

 

幼い双子を抱いているカイエンの写真があった。

 

普段の剣聖とは、まるで違う。

 

二人の子どもを抱きかかえ、少し照れたように笑っている。

 

キラ「……あ」

 

弥子「……かわいい!」

 

Xi「…………」

 

Xi「……師匠?」

 

カイエン「……お、おう?」

 

Xi「……これ、何?」

 

カイエン「……写真だヨ」

 

Xi「それは分かってるよ!!」

 

ヤーボ「ふふ。二人が生まれて、しばらくした頃の写真よ」

 

弥子「カイエンさん、すごく嬉しそう!」

 

キラ「……本当ですね」

 

露伴「……なるほど。これが剣聖ダグラス・カイエンの、もう一つの顔というわけか」

 

Xi「…………」

 

Xiは、写真を見つめた。

 

そこに写っているのは。

 

戦場で誰にも負けない剣聖でもない。

 

女性を口説いては騒動を起こす、困った師匠でもない。

 

二人の子どもを抱いて、少しぎこちなく笑う、一人の父親だった。

 

Xi「……ははっ」

 

カイエン「……なんだヨ?」

 

Xi「……師匠、こんな顔もするんだね」

 

カイエン「うるせぇヨ!」

 

Xi「……いい写真だね」

 

カイエン「…………」

 

珍しく、カイエンは反論しなかった。

 

ヤーボ「ふふ」

 

ヤーボは、そんな彼を見て微笑んでいた。

 

◆ 8.剣聖の知らない顔

 

やがて、帰る時間が近づいた。

 

昼寝から目覚めた双子が、玄関まで一行を見送りに来た。

 

デプレ「Xiおにいちゃん!」

 

Xi「ん?」

 

デプレ「また、うさぎさんやって!」

 

Xi「……ははっ。いいよ!」

 

マグダル「また、あそびにきてね」

 

Xi「……うん。ありがとう」

 

二人は嬉しそうに笑った。

 

バクスチュアル「……マグダルサン。デプレサン」

 

マグダル「……?」

 

バクスチュアル「……マタ、会イタイ」

 

マグダル「うん!」

 

デプレ「またねー!」

 

バクスチュアル「……ウン」

 

ヤーボ「ふふ。みんな、仲良くしてくれてありがとう」

 

弥子「こちらこそ! お菓子もすごく美味しかったです!」

 

キラ「歴史の話も、エンプレスの見学も、とても勉強になりました」

 

露伴「僕も良い資料を得られたよ」

 

ヤーボ「それはよかったわ」

 

露伴「……ただし、一つだけ心残りがある」

 

Xi「……先生?」

 

露伴「この剣聖の子育て風景、実に面白い題材なんだが……」

 

Xi「……先生?」

 

露伴「……できれば、漫画の資料として描きたい」

 

ヤーボ「ふふ。子どもたちのことは、まだ内輪だけの思い出にしておきたいわ」

 

露伴「…………」

 

露伴「……そうか」

 

Xi「……先生」

 

露伴「なんだい?」

 

Xi「……ちゃんと我慢できたね」

 

露伴「当たり前だろう。許可を得られないものは描かない。それだけだ」

 

Xi「……うん」

 

露伴「……だが、カイエン本人の情けないエピソードなら話は別だ」

 

カイエン「おい!!」

 

Xi「……先生、今度僕も資料を提供しようか?」

 

露伴「ほう?」

 

カイエン「お前ら、何を企んでやがるんだヨ!!」

 

ヤーボ「あははは!」

 

◆

 

別れ際。

 

カイエンは、もう一度双子の前にしゃがみ込んだ。

 

カイエン「マグダル、デプレ。いい子にしてるんだぞ」

 

マグダル「うん!」

 

デプレ「とうさん、またくる?」

 

カイエン「おう!」

 

デプレ「ほんと?」

 

カイエン「ハハッ! 約束だヨ!」

 

二人の頭を、優しく撫でた。

 

Xiは、その姿を静かに見ていた。

 

ヤーボ「……Xiくん」

 

Xi「……ん?」

 

ヤーボ「今日は、ありがとう」

 

Xi「……え?」

 

ヤーボ「カイエンと、あんなふうに話してくれて」

 

Xi「……僕は別に、何もしてないよ」

 

ヤーボ「ふふ。そうかしら」

 

Xi「…………」

 

ヤーボ「この人、普段はあまり自分のことを話さないでしょう?」

 

Xi「……うん。聞かなきゃ言わないし」

 

カイエン「おい!」

 

ヤーボ「でも、あなたには色々話せたみたいね」

 

Xi「…………」

 

ヤーボ「これからも、よろしくね。カイエンのこと」

 

Xi「……うん」

 

Xiは、少し笑った。

 

Xi「……師匠としては、ちゃんと尊敬してるからね」

 

ヤーボ「……師匠としては?」

 

Xi「……うん。女癖は別だけど」

 

カイエン「だから、それはもういいだろうがヨ!!」

 

ヤーボ「あはははは!!」

 

◆

 

帰路。

 

Xiは、しばらく黙って歩いていた。

 

隣には、バクスチュアルがいる。

 

バクスチュアル「……Xiサン」

 

Xi「ん?」

 

バクスチュアル「……今日、楽シカッタ?」

 

Xi「……うん」

 

少し考えた。

 

Xi「……すごく楽しかったよ」

 

バクスチュアル「……ウン」

 

Xi「……ねえ、バクスチュアル」

 

バクスチュアル「何?」

 

Xi「僕、師匠のこと、まだまだ知らないんだね」

 

バクスチュアル「……ウン」

 

Xi「剣聖で、星団最強の騎士で、女性が大好きで……」

 

バクスチュアル「……ナンパ、好キ」

 

Xi「……そうそう」

 

二人は笑った。

 

Xi「でも、それだけじゃないんだ」

 

バクスチュアル「……ウン」

 

Xi「マグダルちゃんとデプレくんのお父さんでもあるんだね」

 

バクスチュアル「……ウン」

 

Xi「……なんか、いいなぁ」

 

小さく、呟いた。

 

Xi「……ああいうの」

 

バクスチュアルは、何も言わなかった。

 

ただ、そっと手を差し出した。

 

Xiは、その手を取った。

 

Xi「……ありがとう」

 

バクスチュアル「……ウン」

 

二人は、並んで歩いた。

 

◆

 

一方、その少し後ろでは。

 

カイエン「……おいXi!」

 

Xi「ん?」

 

カイエン「一つだけ言っとくぞ!」

 

Xi「……何?」

 

カイエン「ヤーボに余計なこと言うんじゃねぇヨ!!」

 

Xi「……もう言ったけど?」

 

カイエン「そういうことじゃねぇ!! 今後の話だヨ!!」

 

Xi「……じゃあ、師匠もナンパを控えたら?」

 

カイエン「オレの勝手だろうがヨ!」

 

Xi「……ふうん」

 

カイエン「……なんだヨ?」

 

Xi「……じゃあ、今度はもっと綺麗な美女に変身して、師匠を誘惑してみようかな」

 

カイエン「…………」

 

Xi「今度は、ヤーボさんへの報告書付きで」

 

カイエン「お前、弟子のくせに師匠を脅迫する気かヨ?!」

 

Xi「……僕は怪盗だからね?」

 

カイエン「だから今それを持ち出すんじゃねぇって!!」

 

キラ「……Xi、ほどほどにね」

 

弥子「でも、カイエンさんも少しは反省したほうがいいと思います!」

 

露伴「うむ。実にいい漫画の題材になりそうだ」

 

カイエン「お前ら全員、何なんだヨ!!」

 

アウクソー「マスター。私からも、節度ある行動をお願いいたします」

 

カイエン「アウクソーまで?!」

 

バクスチュアル「……Xiサン。勝利」

 

Xi「……ははっ! まだ何もしてないよ!」

 

一同、爆笑。

 

こうして、二度目のハスハ訪問は、無事に幕を閉じた。

 

A-TOLL。

 

ジ・エンプレス。

 

アトール聖導王朝。

 

そして、ヤーボ・ビートと、マグダル、デプレ。

 

Xiが今日知ったのは、MHの性能だけではなかった。

 

国が受け継ぐ歴史。

 

騎士が守る誇り。

 

親が子どもへ向ける愛情。

 

そして、子ども自身が選んでいく人生。

 

それらは、どれも簡単に数字で測れるものではない。

 

剣聖ダグラス・カイエン。

 

星団最強の騎士。

 

女好きで、豪快で、日常では少しばかり隙の多い男。

 

けれど。

 

その男には、二人の幼い子どもがいた。

 

そして、彼らを見つめる時だけの、優しい顔があった。

 

Xiは、その顔を忘れないだろう。

 

自分とはまったく違う生まれ方をした二人の子ども。

 

でも。

 

親とは別の人生を生きるという意味では、きっと同じなのだから。

 

◆

 

その日の夜。

 

ヤーボの家。

 

マグダル「……おかあさん」

 

ヤーボ「なあに?」

 

マグダル「Xiおにいちゃん、またくる?」

 

ヤーボ「ええ。きっと来てくれるわ」

 

デプレ「とうさんも?」

 

ヤーボ「……ええ」

 

少しだけ、微笑んだ。

 

ヤーボ「……お父さんも、また来るわよ」

 

デプレ「やったぁ!」

 

マグダル「……うん」

 

双子は、嬉しそうに笑った。

 

ヤーボは、そんな二人を見つめた。

 

そして。

 

テーブルの上に置かれた写真へ、そっと目を向けた。

 

そこには、幼い双子を抱くカイエンの姿があった。

 

ヤーボ「……まったく」

 

小さく、呟く。

 

ヤーボ「……本当に、しょうがない人なんだから」

 

その声には、呆れと、少しばかりの愛情が込められていた。

 

剣聖の知らない顔。

 

それは、Xiが知らなかった顔であり。

 

カイエン自身も、かつては持つことになると思っていなかった顔だった。

 

父親という、もう一つの顔。

 

そして、その顔を知った弟子は、また少しだけ、自分の人生について考えることになるのだった。

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