守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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怪盗Xiは皇帝騎を見上げる

◆ 1.フィルモア帝国、再び

 

「こんどは、またフィルモアに行くんですね! 楽しみです!」

 

桂木弥子は、朝から上機嫌だった。

 

怪物強盗Xiは、そんな彼女を見て、少し呆れたように笑った。

 

Xi「弥子ちゃんの場合、料理が楽しみなんでしょ?」

 

弥子「当然じゃない!」

 

Xi「遠慮がなくなった!」

 

弥子「でも、ロボットも楽しみですよ!」

 

キラ「それはわかる。」

 

Xi「……キラまで」

 

キラ「だって、今回はVサイレンだよ? しかも、ネプチューンとプロミネンスの二騎を見せてもらえるんだから」

 

Xi「……キラ。今、すっごく嬉しそうな顔してるよ」

 

キラ「……そうかな?」

 

弥子「してます! 私が美味しいお店を見つけたときと同じ顔です!」

 

キラ「……それは、分かりやすいね」

 

Xi「自覚があるんだ……」

 

そんな三人の会話を聞きながら、ダグラス・カイエンは楽しそうに笑っていた。

 

カイエン「ハハッ! いいじゃねぇかヨ! 楽しみがあるってのは、いいことだナ!」

 

Xi「……師匠」

 

カイエン「なんだヨ?」

 

Xi「今回は、ちゃんとカイエンって名乗っていいんだよね?」

 

カイエン「おう!」

 

Xi「……ヒッター子爵じゃなくて?」

 

カイエン「当たり前だヨ!」

 

Xi「……よかったぁ」

 

キラ「前回は大変だったもんね」

 

Xi「……僕、あれ以来、師匠を呼ぶ前に一瞬考える癖がついちゃったよ」

 

カイエン「ハハッ! 修行になっただろ?」

 

Xi「あんな修行、二度とごめんだよ!!」

 

前回のカステポー訪問。

 

未来の法王ともいえる騎士ミューズ・レイを訪ねた一行は、カイエンの正体を最後まで隠し通すことに成功した。

 

もっとも、当のカイエン本人は、終始楽しそうにしていただけだったが。

 

Xi「……それにしても、またフィルモアかぁ」

 

キラ「前回、ダイ・グ陛下が『今度は皇帝騎を見せたい』っておっしゃっていたからね」

 

Xi「……あの時の約束、本当に実現したんだね」

 

キラ「うん。正式に見学許可が下りたそうだよ」

 

弥子「キラさん、また手配してくれたんですか?」

 

キラ「陛下のご厚意だよ。僕は日程の調整をお手伝いしただけ」

 

Xi「……『だけ』って言ってるけど、キラの『だけ』は、あまり信用できないんだよね」

 

キラ「……え?」

 

Xi「前回だって、弥子ちゃんの追加料理を十人前も準備してたじゃない」

 

弥子「あれは本当にありがとうございました!!」

 

キラ「……今回も、一応、厨房には連絡してあるよ」

 

Xi「…………」

 

弥子「さすがキラさん!!」

 

Xi「もう完全に宮廷料理の常連客扱いじゃない!!」

 

バクスチュアル「……弥子サン。嬉シソウ」

 

弥子「もちろん!」

 

Xi「……バクスチュアルまで、すっかり慣れちゃったね」

 

バクスチュアル「……ウン。フィルモア、美味シイ」

 

Xi「……否定できないところが困る」

 

◆

 

今回の参加者は五人。

 

怪物強盗Xi。

 

その大切な同行者、ファティマ・バクスチュアル。

 

コンパス准将キラ・ヤマト。

 

女子高生探偵助手、桂木弥子。

 

そして、剣聖ダグラス・カイエン。

 

アウクソーは今回も留守番だった。

 

もっとも、前回のように正体を隠す必要があるわけではない。

 

今回は、皇帝騎を見学する許可を得て、フィルモア帝国を再訪するのだ。

 

そして、もう一人。

 

カイエン「おう! そういや今回は、ダイ・グのところのクリスにも会えるぜ!」

 

Xi「……クリス?」

 

カイエン「クリスティン・ビィ。フィルモア帝国のハイランダーだナ!」

 

キラ「皇帝代理騎士、ですね」

 

Xi「……皇帝代理騎士?」

 

キラ「皇帝の代理として、戦場で大きな権限を持つ特別な騎士のことだよ」

 

Xi「……へぇ。そんな役職があるんだ」

 

カイエン「おう! しかも、クリスはネプチューンの騎士だヨ!」

 

キラ「……そうなんです。だから、ぜひ直接お話を聞いてみたくて」

 

Xi「……キラ。やっぱり目が輝いてる」

 

キラ「……あはは」

 

カイエン「ハハッ! それとな、Xi」

 

Xi「……何?」

 

カイエン「クリスも、オレがちょいと剣を見てやったことがあるんだヨ」

 

Xi「…………」

 

Xi「……え?」

 

カイエン「おう。そういう縁もあってナ!」

 

Xi「…………」

 

Xi「……師匠」

 

カイエン「なんだヨ?」

 

Xi「……その人、もしかして僕の先輩?」

 

カイエン「ハハッ! まあ、姉弟子みたいなもんかナ!」

 

Xi「…………」

 

Xi「またぁぁぁ?!」

 

弥子「……また?」

 

Xi「前回は皇帝陛下が兄弟子だったんだよ?! 今度は皇帝代理騎士が姉弟子?!」

 

キラ「……すごい顔ぶれだね」

 

Xi「他人事みたいに言わないでよ!!」

 

カイエン「ハハハッ! いい環境だろ?」

 

Xi「僕、ただ剣術を習いたかっただけなんだけど!!」

 

バクスチュアル「……Xiサン。先輩、増エタ」

 

Xi「……うん。増えたね」

 

カイエン「ハハッ! そのうち慣れるヨ!」

 

Xi「師匠! まだいるの?!」

 

カイエン「……さあナ!」

 

Xi「その含みのある返事が怖い!!」

 

こうして、賑やかな一行は再びフィルモア帝国へ向かった。

 

◆ 2.皇帝代理騎士、クリスティン・ビィ

 

フィルモア帝国。

 

その壮麗な宮殿は、以前訪れた時と変わらぬ威厳をたたえていた。

 

幾重にも重なる回廊。

 

磨き上げられた床。

 

壁に掲げられた、歴代の皇帝や騎士たちにまつわる装飾。

 

Xi「……やっぱり、すごいところだね」

 

キラ「うん。歴史の重みを感じるよ」

 

弥子「……あっ! 前に通った廊下!」

 

Xi「……よく覚えてるね」

 

弥子「だって、あっちに食堂が……」

 

Xi「そっちで覚えてるの?!」

 

カイエン「ハハハッ!」

 

やがて、宮殿の奥にある謁見の間へと案内された。

 

そこには、見覚えのある若い皇帝が立っていた。

 

ダイ・グ・フィルモア5世。

 

フィルモア帝国を統べる皇帝。

 

そして、カイエンから剣を学んだことのある、Xiの兄弟子でもある。

 

ダイ・グ「皆さん、ようこそ。再びお会いできて嬉しいです」

 

キラ「陛下。本日はお招きいただき、ありがとうございます」

 

Xi「こんにちは! また来ちゃいました!」

 

ダイ・グ「ふふ。もちろん歓迎するよ、Xi君」

 

弥子「こんにちは! 今日はよろしくお願いします!」

 

ダイ・グ「弥子さんも、お元気そうで何よりです」

 

弥子「はい!」

 

ダイ・グ「……厨房も、皆さんの到着を楽しみにしていましたよ」

 

Xi「…………」

 

弥子「本当ですか?!」

 

ダイ・グ「ええ。前回、あんなに喜んで食べていただけたものですから」

 

弥子「嬉しいです!!」

 

Xi「……とうとう皇帝陛下から厨房の話を振られるようになった……」

 

カイエン「ハハッ! いいことじゃねぇか!」

 

ダイ・グ「それから、カイエン殿。お久しぶりです」

 

カイエン「おう、ダイ・グ! 元気そうじゃねぇかヨ!」

 

ダイ・グ「はい。おかげさまで」

 

Xi(……皇帝相手にも、相変わらずだなぁ)

 

しかし、今回は前回と一つ違うことがあった。

 

ダイ・グの少し後ろに、一人の女性騎士が控えていたのだ。

 

凛とした立ち姿。

 

端正な顔立ち。

 

礼儀正しく、背筋を伸ばした姿は、いかにも名門の騎士という印象だった。

 

けれど、その表情には、どこか緊張したものがあった。

 

ダイ・グ「今日は、もう一人ご紹介したい人がいます」

 

女性騎士が、一歩前へ進み出る。

 

ダイ・グ「こちらが、皇帝代理騎士のクリスティン・ビィです」

 

クリスティン「クリスティン・ビィと申します。本日は遠路お越しいただき、ありがとうございます」

 

Xi「……!」

 

キラ「よろしくお願いします」

 

弥子「よろしくお願いします!」

 

クリスティン「どうぞ、よろしくお願いいたします」

 

その所作は、実に丁寧だった。

 

礼儀。

 

規律。

 

騎士としての誇り。

 

そのすべてが、立ち居振る舞いから伝わってくる。

 

Xi(……この人が、ハイランダー……)

 

その時。

 

カイエン「おう、クリス!」

 

クリスティン「……!」

 

クリスティン「カイエン様!」

 

カイエン「ハハッ! 久しぶりだナ!」

 

クリスティン「はい。お久しぶりでございます」

 

カイエン「元気にしてたかヨ?」

 

クリスティン「はい。おかげさまで」

 

Xi「…………」

 

カイエン「そういや、こいつがXiだヨ!」

 

クリスティン「……Xiさん?」

 

カイエン「おう! 最近、オレが剣を教えてるんだナ!」

 

Xi「……よろしく、クリスティンさん!」

 

クリスティン「……そうなのですか」

 

彼女は少し驚いた様子でXiを見た。

 

クリスティン「カイエン様に師事されているのですね」

 

Xi「……うん。まだまだだけどね」

 

クリスティン「……ふふ」

 

ほんの少し、微笑んだ。

 

クリスティン「私も、以前ご指導をいただいたことがあります」

 

Xi「……じゃあ、やっぱり」

 

クリスティン「……?」

 

Xi「クリスティンさんは、僕の姉弟子ってことになるのかな?」

 

クリスティン「…………」

 

ダイ・グ「……ふふ」

 

カイエン「ハハッ! そういうことだナ!」

 

クリスティン「……姉弟子、ですか?」

 

Xi「……駄目かな?」

 

クリスティン「……いえ」

 

彼女は、少し照れたように笑った。

 

クリスティン「同じ方に教えを受けた者同士ですから、そう呼んでいただいても構いません」

 

Xi「……本当?」

 

クリスティン「はい。ただ、私もまだまだ修行中ですから」

 

Xi「……よかった!」

 

カイエン「ハハッ! 姉弟子ができてよかったナ、Xi!」

 

Xi「……師匠」

 

カイエン「なんだヨ?」

 

Xi「……こういう大事なこと、できれば出発前じゃなくて、もっと早く教えてよ」

 

カイエン「ハハッ! 聞かれなかったからナ!」

 

Xi「またそれぇぇぇ!!」

 

ダイ・グ「……カイエン殿は、相変わらずですね」

 

クリスティン「……ふふっ」

 

弥子「あっ!」

 

Xi「……何?」

 

弥子「クリスティンさん、笑った!」

 

クリスティン「……え?」

 

弥子「さっきより、ずっと楽しそう!」

 

クリスティン「…………」

 

彼女は、少し驚いたように弥子を見つめた。

 

そして。

 

クリスティン「……そう、でしょうか?」

 

弥子「はい!」

 

クリスティン「……ありがとうございます」

 

ダイ・グは、そんなやり取りを静かに見守っていた。

 

その表情には、どこか嬉しそうなものが浮かんでいた。

 

◆

 

やがて、キラが口を開いた。

 

キラ「クリスティンさん。今日はネプチューンの見学もさせていただけると伺いました」

 

クリスティン「はい。陛下のお許しをいただいております」

 

キラ「ありがとうございます。以前から、ぜひ実機を拝見したいと思っていたんです」

 

クリスティン「……光栄です」

 

ダイ・グ「それでは、そろそろ格納庫へ向かいましょうか」

 

弥子「はい!」

 

Xi「……いよいよ皇帝騎かぁ」

 

カイエン「ハハッ! 楽しみにしとけヨ!」

 

ダイ・グ「クリス。案内をお願いできるかな?」

 

クリスティン「はい、陛下」

 

ダイ・グ「ありがとう。君が一緒なら心強いよ」

 

クリスティン「…………」

 

クリスティン「……恐れ入ります」

 

Xi「…………」

 

弥子「…………」

 

Xi「……弥子ちゃん?」

 

弥子「……ん?」

 

Xi「……何か言いたそうな顔してるよ」

 

弥子「……ううん!」

 

Xi「……本当?」

 

弥子「……陛下って、クリスティンさんに優しいんだなぁって」

 

Xi「……まあ、そうだね」

 

弥子「……ふふっ」

 

Xi「……?」

 

まだ、その笑顔の意味を、Xiはよく分かっていなかった。

 

◆ 3.二つの皇帝騎

 

格納庫へ向かう回廊には、帝国騎士団の紋章が掲げられていた。

 

何重もの警備。

 

厳重な確認。

 

同行者の身元照合。

 

いかに皇帝の招待客とはいえ、皇帝騎の保管区域へ入るのは容易ではない。

 

Xi「……前回のサイレン見学より、ずっと警備が厳しいね」

 

キラ「当然だと思うよ。皇帝騎は、帝国を象徴する特別なMHだから」

 

Xi「……そっか」

 

ダイ・グ「ご不便をおかけして申し訳ありません」

 

Xi「いやいや! それは仕方ないよ!」

 

クリスティン「皆様には、見学が許可された範囲でお願いしております。騎体の詳細についても、一部ご説明できないことがありますが……」

 

キラ「もちろんです。機密に関わることはお聞きしません」

 

クリスティン「……ありがとうございます」

 

カイエン「ハハッ! まあ、実物を見りゃ分かることも多いからナ!」

 

Xi「……師匠、それは技術者の前で言わないほうがいいんじゃない?」

 

カイエン「なんでだヨ!」

 

キラ「……実際、外装を見るだけでも、かなり勉強になると思います」

 

Xi「ほら! もう研究者の目になってる!!」

 

一同が笑った。

 

そして。

 

巨大な扉が開いた。

 

重い機械音が、格納庫に響く。

 

その向こうには。

 

広大な整備空間。

 

幾重にも組まれた足場。

 

規則正しく配置された整備設備。

 

そして、二騎の巨人が静かに立っていた。

 

Xi「…………」

 

弥子「…………」

 

キラ「…………!」

 

バクスチュアル「…………」

 

そこには。

 

Vサイレン・ネプチューン。

 

そして。

 

Vサイレン・プロミネンス。

 

フィルモア帝国が誇る、二騎の皇帝騎が並んでいた。

 

Xi「……すごい」

 

思わず、息を呑んだ。

 

ネプチューン。

 

孔雀色を思わせる、深く美しい色彩。

 

引き締まった細身の姿。

 

細やかに整えられた装甲の線。

 

それは、鋭い剣を持った美しい騎士のようだった。

 

一方のプロミネンス。

 

暖かな金色とマリーゴールドを思わせる色彩。

 

力強く角張った頭部。

 

肩に表現された炎の意匠。

 

ネプチューンとは対照的な、堂々たる姿。

 

まるで、二騎が互いを引き立てるように並んでいる。

 

弥子「……わぁぁぁ!!」

 

Xi「……綺麗だね」

 

キラ「……本当に、すごい……!」

 

カイエン「ハハッ! どうだヨ!」

 

Xi「……師匠」

 

カイエン「おう?」

 

Xi「……今まで見せてもらったサイレンとも、全然印象が違うよ」

 

カイエン「そりゃそうだヨ!」

 

ダイ・グ「これが、フィルモアの皇帝騎です」

 

クリスティン「ネプチューンと、プロミネンス。ともに帝国の歴史を受け継いできた騎体です」

 

キラ「……なるほど……!」

 

弥子「なんだか、二騎で一組みたいですね!」

 

ダイ・グ「……ええ。そういう印象を持たれるのも、自然かもしれません」

 

クリスティン「……はい」

 

Xiは、二人の顔を見た。

 

皇帝は、穏やかに微笑んでいる。

 

クリスティンは、少しだけ頬を緩めていた。

 

Xi(……二騎で一組、かぁ)

 

◆

 

キラ「……プロミネンスとネプチューンには、共通する基本構造があるんですよね?」

 

クリスティン「はい。共通する部分は多くあります」

 

ダイ・グ「しかし、それぞれの装甲や外観には、明確な違いがあります」

 

キラ「……駆逐型として、機動性を重視した仕様なんですね」

 

クリスティン「そうです」

 

キラ「……装甲の構成を見ても、通常のサイレンとは考え方が違うように見えます」

 

Xi「……えっと、どういうこと?」

 

キラ「簡単に言えば、あらゆる攻撃に耐えるために重くするより、素早く動いて戦うことを重視した機体なんだ」

 

Xi「……なるほど。重装甲の巨人じゃなくて、身軽な剣士ってこと?」

 

キラ「うん。イメージとしては、そんな感じかな」

 

カイエン「おう! いい例えだナ!」

 

キラ「もちろん、実際の設計はずっと複雑だけどね」

 

Xi「……そこから先はキラの専門分野だね」

 

キラ「……あはは」

 

弥子「でも、すごいですね! こんなに大きいのに、身軽に動けるなんて!」

 

クリスティン「……ええ。ですが、その分、扱う騎士にも高い技量が求められます」

 

Xi「……姉弟子にも?」

 

クリスティン「……!」

 

彼女は、一瞬驚いたような顔をした。

 

そして。

 

クリスティン「……はい。もちろんです」

 

Xi「……そっか」

 

少し笑った。

 

Xi「……じゃあ、僕ももっと修行しないとね!」

 

カイエン「ハハッ! そういうこったナ!」

 

Xi「……でも師匠、こんなに強そうな機体があったら、騎士って逆に楽なんじゃないの?」

 

カイエン「……おいおい」

 

キラ「……Xi。それは、たぶん違うよ」

 

Xi「……え?」

 

カイエン「強い騎体に乗ったからって、騎士本人が強くなるわけじゃねぇヨ」

 

Xi「…………」

 

カイエン「むしろ、強い騎体ほど、使いこなせなきゃ話にならねぇ」

 

クリスティン「……そのとおりです」

 

Xiは、ネプチューンを見上げた。

 

美しい。

 

けれど。

 

あの巨人を戦場で動かすということは、どれほど大変なのだろう。

 

Xi「……そっか」

 

キラ「僕も、機体に何度も助けられてきたからね」

 

Xi「……キラも?」

 

キラ「うん。どんなに優れた機体でも、乗っている人間の判断が間違っていたら、守りたいものを守れない」

 

Xi「…………」

 

ダイ・グ「……そのとおりですね」

 

皇帝が、静かに口を開いた。

 

ダイ・グ「皇帝騎とは、単に強いMHというだけではありません」

 

Xi「……陛下?」

 

ダイ・グ「国の歴史と、その国を守る人々の願いを背負う騎体でもあるんです」

 

Xi「…………」

 

ふと、これまでに見たMHが思い浮かんだ。

 

ハスハのA-TOLL。

 

ジ・エンプレス。

 

クバルカンの破烈の人形。

 

そして、フィルモアのサイレン。

 

Xi「……なんだか、少し分かる気がする」

 

ダイ・グ「……そうですか?」

 

Xi「うん。国によって、色々なものを大切にしてるんだね」

 

ダイ・グ「……ええ」

 

嬉しそうに頷いた。

 

ダイ・グ「それを感じ取っていただけたのなら、今日お招きした甲斐がありました」

 

カイエン「ハハッ! いい勉強してるじゃねぇか、Xi!」

 

Xi「……うん」

 

見上げる二騎の皇帝騎は、静かに佇んでいた。

 

しかし、その沈黙の向こうに、多くの人々の想いがあるように思えた。

 

◆ 4.皇帝騎を支える者たち

 

「……ところで」

 

Xiは、ふと思い出したように尋ねた。

 

Xi「クリスティンさん。ネプチューンを動かす時って、やっぱりファティマと一緒なんだよね?」

 

クリスティン「ええ。もちろんです」

 

Xi「……パートナーのファティマも、今日はここにいるの?」

 

クリスティン「はい。紹介いたしましょう」

 

彼女が視線を向けると、一人のファティマが静かに歩み寄ってきた。

 

クリスティン「私のパートナー、町です」

 

町「……町と申します。本日は、ようこそお越しくださいました」

 

Xi「よろしく、町!」

 

バクスチュアル「……町」

 

町「……!」

 

町「バクスチュアル姉さん。お久しぶりです」

 

Xi「……あっ!」

 

弥子「……知り合い?」

 

Xi「知り合いどころじゃないよ! 二人ともバランシェ博士のファティマだから、姉妹なんだ!」

 

弥子「ええっ?! そうなの?!」

 

バクスチュアル「……ウン。町、妹」

 

町「はい」

 

弥子「……わぁ! こんなところで姉妹の再会なんだ!」

 

Xi「……考えてみれば、そうだね」

 

バクスチュアル「……町。元気?」

 

町「はい。姉さんも、お元気そうですね」

 

バクスチュアル「……ウン。Xiサン、優シイ」

 

Xi「……!」

 

町は、Xiへ丁寧に頭を下げた。

 

町「姉がお世話になっております」

 

Xi「い、いや! 僕のほうこそ、いつも助けてもらってるから!」

 

弥子「……なんだか、親戚の挨拶みたいだね」

 

Xi「……弥子ちゃん!」

 

町「……ふふ」

 

クリスティン「……バクスチュアルのことは、町から聞いたことがあります」

 

Xi「……そうなんだ?」

 

クリスティン「ええ。でも、こうして直接お会いするのは初めてですね」

 

Xi「……うん!」

 

カイエン「ハハッ! 騎士だけじゃなく、ファティマのほうも縁があるわけだナ!」

 

Xi「……師匠」

 

カイエン「なんだヨ?」

 

Xi「……こういうの、最初から知ってた?」

 

カイエン「……まあナ!」

 

Xi「やっぱり!!」

 

一同が笑った。

 

◆

 

ダイ・グ「私のパートナーも、ご紹介しましょう」

 

皇帝の傍らに、一人のファティマが進み出た。

 

ダイ・グ「チャンダナです」

 

チャンダナ「皆様。ようこそお越しくださいました」

 

キラ「よろしくお願いします」

 

弥子「こんにちは!」

 

Xi「……チャンダナ……」

 

バクスチュアル「……チャンダナ」

 

チャンダナ「バクスチュアル。久しぶりですね」

 

バクスチュアル「……ウン」

 

Xi「……もしかして、チャンダナも?」

 

バクスチュアル「……ウン。姉」

 

Xi「……そっか!」

 

弥子「じゃあ、こっちでも三姉妹の再会?!」

 

バクスチュアル「……ウン」

 

キラ「……すごいね。人のつながりだけじゃなくて、ファティマ同士のつながりもあるんだ」

 

Xi「……うん。本当に」

 

ふと、Xiは思った。

 

騎士には、騎士の歴史がある。

 

国には、国の歴史がある。

 

けれど、ファティマにも、それぞれの関係がある。

 

誰かのパートナーというだけではない。

 

生まれた場所。

 

育った時間。

 

親しい者。

 

久しぶりに会えた姉妹。

 

Xi「……バクスチュアル」

 

バクスチュアル「何?」

 

Xi「……町やチャンダナと、あとで少し話しておいでよ」

 

バクスチュアル「……Xiサン?」

 

Xi「僕はキラたちと見学してるから。せっかく会えたんだし」

 

バクスチュアル「…………」

 

そして、小さく微笑んだ。

 

バクスチュアル「……アリガトウ」

 

Xi「……うん!」

 

クリスティンは、そのやり取りを黙って見ていた。

 

クリスティン「……Xiさん」

 

Xi「ん?」

 

クリスティン「……バクスチュアルを、大切にされているのですね」

 

Xi「……うん」

 

少し照れながら、答えた。

 

Xi「僕にとって、すごく大事な人だから」

 

クリスティン「…………」

 

Xi「……え?」

 

クリスティン「……いえ。素敵なことだと思います」

 

そう言って、柔らかく微笑んだ。

 

Xi(……なんだか、思ってたよりずっと話しやすい人だな)

 

◆

 

やがて、ダイ・グが整備担当者へ合図を送った。

 

ダイ・グ「せっかくですから、簡単な作動展示もご覧いただきましょうか」

 

キラ「……!」

 

Xi「……えっ?! 動かしてもらえるの?!」

 

ダイ・グ「ええ。安全に配慮した、ごく短い動作だけですが」

 

キラ「ありがとうございます!」

 

弥子「やったぁ!!」

 

クリスティン「町。準備をお願いします」

 

町「はい、マスター」

 

ダイ・グ「チャンダナも、よろしく」

 

チャンダナ「承知いたしました、陛下」

 

整備員たちが、慣れた手つきで準備を進めていく。

 

見学者たちは、安全区域へと移動した。

 

格納庫の照明が切り替わる。

 

整備責任者の確認。

 

安全装置の解除。

 

そして。

 

二騎の皇帝騎に、静かに力が宿った。

 

キラ「……!」

 

Xi「……!」

 

低い駆動音。

 

わずかな姿勢の変化。

 

機械の巨人が、ゆっくりと頭部を動かした。

 

弥子「……動いた!!」

 

Xi「……すごい!」

 

ネプチューンが、滑らかに腕を動かす。

 

細身の装甲の間で、精密な機構が連動する。

 

その動きは、大きさを忘れさせるほど自然だった。

 

一方。

 

プロミネンスも、ゆっくりと姿勢を変える。

 

力強い装甲の輪郭。

 

堂々とした立ち姿。

 

その巨体が動いた瞬間、格納庫の空気そのものが変わったように思えた。

 

キラ「……すごい……!」

 

Xi「……キラ?」

 

キラ「大きな動作じゃないのに、機体の安定性が分かる……。あれだけの質量を、こんなに滑らかに制御できるんだ……」

 

Xi「……専門家の感想だね」

 

キラ「……あっ、ごめん」

 

Xi「いや、いいよ!」

 

Xiは笑った。

 

Xi「キラが楽しそうだと、僕も嬉しいから!」

 

キラ「……ありがとう」

 

弥子「でも、私も分かります!」

 

Xi「……弥子ちゃん?」

 

弥子「こんなに大きいのに、動きが綺麗なんですよね!」

 

Xi「……うん!」

 

弥子「まるで、二人で踊ってるみたい!」

 

キラ「……!」

 

Xi「……!」

 

そして。

 

ダイ・グ「……ふふ」

 

皇帝が、小さく笑った。

 

クリスティン「……陛下?」

 

ダイ・グ「いえ。素敵な表現だと思って」

 

クリスティン「…………」

 

ダイ・グ「二騎の皇帝騎が、踊っているように見えるんだね」

 

弥子「はい!」

 

Xi「……言われてみれば、確かに」

 

ダイ・グ「……ありがとう、弥子さん」

 

弥子「……え?」

 

ダイ・グ「私たちには、なかなか思いつかない見方です」

 

クリスティン「……そうですね」

 

二人は、もう一度、皇帝騎を見上げた。

 

ネプチューン。

 

プロミネンス。

 

その二騎は、静かな動作を終え、再び並んで立っていた。

 

まるで、互いの存在を確かめるように。

 

◆

 

作動展示が終わり、町とチャンダナが戻ってきた。

 

キラ「素晴らしいものを見せていただき、ありがとうございました」

 

クリスティン「こちらこそ、ありがとうございます」

 

Xi「……姉弟子!」

 

クリスティン「……はい?」

 

Xi「……ネプチューン、すっごく綺麗だった!」

 

クリスティン「……!」

 

Xi「もちろん、プロミネンスも格好よかったけど!」

 

ダイ・グ「……ふふ。ありがとう」

 

Xi「でも、ネプチューンは、なんだか特別だったなぁ」

 

クリスティン「……そうですか?」

 

Xi「……うん。強そうなのに、綺麗で」

 

少し考えてから、言葉を続けた。

 

Xi「……姉弟子に似てるのかもしれないね」

 

クリスティン「…………!」

 

弥子「……あっ! それ、分かる!」

 

クリスティン「……え?」

 

弥子「クリスティンさんも、すごく強そうなのに、綺麗ですもん!」

 

クリスティン「…………」

 

彼女の頬が、ほんの少し赤くなった。

 

クリスティン「……あ、ありがとうございます」

 

カイエン「ハハッ! いいこと言うじゃねぇか、Xi!」

 

Xi「……師匠」

 

カイエン「なんだヨ?」

 

Xi「……姉弟子が恥ずかしがってるから、あんまり騒がないでよ」

 

カイエン「お前が言い出したんだろうがヨ!!」

 

弥子「……あはは!」

 

格納庫に、小さな笑い声が広がった。

 

◆ 5.強い騎士にも、怖いものはある

見学が終わると、一行は格納庫に隣接する控室で休憩を取ることになった。

 

ダイ・グ「少しお疲れでしょう。お茶を用意させます」

 

弥子「ありがとうございます!」

 

Xi「……弥子ちゃん、さっきから元気だね」

 

弥子「だって、すごかったもん!」

 

キラ「……うん。本当に」

 

Xi「……二人とも、満足そう」

 

その隣で、クリスティンは静かにお茶を飲んでいた。

 

Xi「……ねえ、姉弟子」

 

クリスティン「……はい?」

 

Xi「……さっきのネプチューンのこと、もう少し聞いてもいい?」

 

クリスティン「もちろんです」

 

Xi「……あの機体に乗る時って、怖くないの?」

 

クリスティン「…………」

 

少し、意外な質問だったのだろう。

 

彼女は、しばらくXiを見つめていた。

 

クリスティン「……怖い、ですか」

 

Xi「……うん」

 

クリスティン「…………」

 

しばらく考えた。

 

そして。

 

クリスティン「……怖いことも、あります」

 

Xi「……!」

 

クリスティン「私は、まだ未熟な騎士ですから」

 

Xi「…………」

 

クリスティン「自分の判断が間違っていないか。誰かを守ることができるのか。その責任を、本当に果たせるのか……」

 

静かに、言葉を続ける。

 

クリスティン「……考えることは、たくさんあります」

 

Xi「……そっか」

 

クリスティン「ですが、だからこそ、もっと強くならなければならないと思っています」

 

Xi「…………」

 

ふと、カイエンが口を開いた。

 

カイエン「……クリス」

 

クリスティン「……はい、カイエン様」

 

カイエン「強くなるのはいいことだヨ。だがナ」

 

クリスティン「……?」

 

カイエン「一人で全部背負おうとすんなヨ」

 

クリスティン「…………」

 

カイエン「騎士は、自分一人で戦ってるわけじゃねぇだろ?」

 

クリスティン「……!」

 

カイエン「パートナーのファティマだっている。仲間だっている。国を守るってのは、そういうもんだヨ」

 

Xi「…………」

 

カイエン「オレが前に教えたこと、忘れたわけじゃねぇよナ?」

 

クリスティン「…………」

 

そして、ゆっくりと頷いた。

 

クリスティン「……はい」

 

カイエン「ハハッ! ならいいんだヨ!」

 

Xi「……師匠」

 

カイエン「なんだ?」

 

Xi「……今の、僕も覚えておくよ」

 

カイエン「おう! そうしろ!」

 

キラ「……僕も、同じことを考えたことがあります」

 

クリスティン「……キラ准将?」

 

キラ「自分がもっと強ければ、もっと上手にできれば、誰かを守れたんじゃないかって」

 

Xi「…………」

 

キラ「でも、一人で全部背負おうとすると、周りにいる大切な人まで見えなくなることがあるんですよね」

 

クリスティン「…………」

 

キラ「……だから、僕も今は、できるだけ誰かに頼るようにしています」

 

Xi「……キラ」

 

キラ「……まあ、なかなか難しい時もありますけどね」

 

クリスティン「……そう、なのですね」

 

少しだけ、表情が和らいだ。

 

クリスティン「……ありがとうございます」

 

その言葉は、小さかった。

 

けれど、確かな感謝が込められていた。

 

◆

 

その時。

 

弥子「……あの!」

 

クリスティン「……はい?」

 

弥子「私、騎士のことはあんまり詳しくないんですけど……」

 

Xi「……うん?」

 

弥子「怖いのに頑張れるって、すごいことだと思います!」

 

クリスティン「…………」

 

弥子「それに、クリスティンさんには、こんなに立派なロボットと、町さんがいるんですよね!」

 

町「……はい」

 

弥子「だったら、きっと大丈夫ですよ!」

 

クリスティン「…………」

 

弥子「……あっ! もちろん、簡単なことじゃないのは分かってます!」

 

少し慌てて、付け加えた。

 

弥子「でも、私はクリスティンさんと友達になりたいなって思ってるから」

 

クリスティン「……え?」

 

弥子「……もし何かあったら、私にも話してください!」

 

Xi「……弥子ちゃん」

 

弥子「戦うことはできないけど、話を聞くことくらいならできますから!」

 

クリスティン「…………」

 

その言葉を、クリスティンは静かに聞いていた。

 

そして。

 

クリスティン「……ありがとうございます」

 

微笑んだ。

 

その笑顔は、謁見の間で見せたものよりも、少し自然だった。

 

ダイ・グは、何も言わなかった。

 

ただ、静かに二人を見守っていた。

 

◆ 6.宮廷料理と、新しい友達

 

そして。

 

弥子が待ちに待った時間が、ついにやって来た。

 

フィルモア帝国、宮廷食堂。

 

豪華な調度品が並ぶ室内。

 

美しい食器。

 

丁寧に整えられたテーブル。

 

そこへ、宮廷料理長が姿を現した。

 

料理長「陛下。お料理の準備が整いました」

 

ダイ・グ「ありがとう。皆さん、どうぞお召し上がりください」

 

弥子「いただきます!!」

 

Xi「……弥子ちゃん」

 

弥子「……ん?」

 

Xi「……さっきまでの感動的な話から、切り替わるの早いね」

 

弥子「だって、お料理が冷めちゃうじゃない!」

 

Xi「……それはそうだけど」

 

料理長「桂木様。前回は、当宮のお料理を大変お気に召していただいたと伺っております」

 

弥子「はい! すっごく美味しかったです!」

 

料理長「ありがとうございます。料理人冥利に尽きます」

 

Xi「……すっかり顔を覚えられてる……」

 

料理長「本日も、十分な量をご用意しておりますので、どうぞご遠慮なく」

 

弥子「ありがとうございます!!」

 

Xi「料理長まで遠慮をなくさせる方向に?!」

 

カイエン「ハハハハッ!」

 

キラ「……今回は、厨房の皆さんも準備万端みたいだね」

 

Xi「……キラ。やっぱり事前に連絡したんだ」

 

キラ「一応ね」

 

Xi「……うん。もう何も言わないよ」

 

◆

 

前菜。

 

温かいスープ。

 

香草を使った魚料理。

 

じっくりと火を通した肉料理。

 

季節の野菜を取り入れた付け合わせ。

 

一皿ごとに、細やかな工夫が凝らされていた。

 

弥子「……んんっ!!」

 

Xi「……出た」

 

弥子「おいしい!!」

 

料理長「ありがとうございます」

 

弥子「このお肉、すっごく柔らかい! でも、ただ柔らかいだけじゃなくて、噛むとちゃんと旨味が出てくるんです!」

 

料理長「……!」

 

弥子「それに、ソースが濃すぎないから、最後までお肉の味が分かるんですよね!」

 

料理長「……まさに、その点を大切にしております」

 

キラ「……すごいね、弥子ちゃん」

 

Xi「……こういう時の弥子ちゃんは、本当にすごいんだよ」

 

弥子「でも、このソース、パンにつけても美味しいですね!」

 

料理長「ありがとうございます」

 

弥子「……あの、パンをもう少しいただけますか?」

 

料理長「もちろんでございます」

 

Xi「……始まった」

 

カイエン「ハハッ! 元気がいいナ!」

 

ダイ・グ「……ふふ」

 

皇帝は、楽しそうにその様子を見ていた。

 

ダイ・グ「料理長。今日も良いお料理をありがとう」

 

料理長「恐れ入ります、陛下」

 

ダイ・グ「皆さんが喜んでくださって、私も嬉しいです」

 

弥子「本当にありがとうございます!」

 

そして。

 

弥子「……あの!」

 

料理長「はい?」

 

弥子「……こちらのお肉料理、もう一皿いただいてもいいですか?」

 

料理長「もちろんでございます」

 

弥子「……じゃあ、もう二皿!」

 

Xi「……二皿?」

 

弥子「……あっ、あと三皿!」

 

Xi「増えてる!!」

 

料理長「承知いたしました」

 

Xi「料理長も即答?!」

 

キラ「……追加分はちゃんとあるから、大丈夫だよ」

 

Xi「……うん。そうだと思った」

 

ダイ・グ「……皆さん、本当に仲がよろしいですね」

 

Xi「……陛下。僕たち、いつもこんな感じなんです」

 

ダイ・グ「ふふ。とても楽しそうです」

 

Xi「……まあ、退屈はしませんね」

 

クリスティン「……ふふっ」

 

弥子「……あっ!」

 

クリスティン「……?」

 

弥子「クリスティンさん!」

 

クリスティン「はい?」

 

弥子「これ、すっごく美味しいですよ! クリスティンさんも食べました?」

 

クリスティン「ええ。いただいております」

 

弥子「どうですか?」

 

クリスティン「……とても美味しいですね」

 

弥子「ですよね!!」

 

クリスティン「……はい」

 

Xi(……なんだか、二人とも楽しそうだな)

 

◆

 

やがて、料理長がデザートを運んできた。

 

美しく盛り付けられた焼き菓子。

 

季節の果物。

 

小さな器に収められたクリーム。

 

弥子「……わぁぁぁ!!」

 

Xi「……弥子ちゃん、今日一番の歓声じゃない?」

 

弥子「だって、デザートは別腹だもん!」

 

カイエン「ハハッ! そうだナ!」

 

キラ「……もう何皿も食べてるのに」

 

弥子「それはそれ! これはこれ!」

 

Xi「……説得力があるような、ないような」

 

そんな中。

 

クリスティンが、一つの焼き菓子へ手を伸ばした。

 

弥子「……あっ!」

 

クリスティン「……?」

 

弥子「クリスティンさん、それが好きなんですか?」

 

クリスティン「……ええ」

 

弥子「……私も!」

 

クリスティン「……そうなのですか?」

 

弥子「はい! こういう、ちょっと香ばしく焼いてあるお菓子、大好きなんです!」

 

クリスティン「……私も、好きです」

 

弥子「やった! 好みが一緒ですね!」

 

クリスティン「…………」

 

少し、驚いたようだった。

 

弥子「……?」

 

クリスティン「……いえ」

 

彼女は、小さく笑った。

 

クリスティン「……そうですね」

 

弥子「……えへへ!」

 

ダイ・グ「……クリス」

 

クリスティン「……はい、陛下?」

 

ダイ・グ「そのお菓子、気に入ってくれているんだね」

 

クリスティン「……はい」

 

ダイ・グ「よかった。料理長にも伝えておこう」

 

クリスティン「……あ、ありがとうございます」

 

そのやり取りを、弥子はじっと見ていた。

 

Xi「……弥子ちゃん?」

 

弥子「……ん?」

 

Xi「……また何か考えてる?」

 

弥子「……ううん!」

 

Xi「……怪しいなぁ」

 

弥子「……だってさ」

 

Xi「……何?」

 

弥子「陛下、クリスティンさんの好きなもの、ちゃんと気にしてるんだなぁって」

 

Xi「……ああ」

 

弥子「……いいですねぇ」

 

Xi「…………」

 

Xi「……弥子ちゃん」

 

弥子「……何?」

 

Xi「……あんまり大きな声で言わないでよ?」

 

弥子「……分かってるってば!」

 

ダイ・グ「……?」

 

クリスティン「……?」

 

二人は、少し不思議そうな顔をしていた。

 

Xi(……なんだろう。この二人を見てると、僕まで妙に緊張するなぁ)

 

◆

 

食事も終盤。

 

弥子は、ようやく満足そうにお茶を飲んでいた。

 

Xi「……ふぅ。今回は無事に終わりそうだね」

 

キラ「……うん」

 

弥子「……あっ!」

 

Xi「……何?」

 

弥子「料理長さん!」

 

料理長「はい、桂木様」

 

弥子「……この焼き菓子、あと三ついただけますか?」

 

Xi「まだ食べるの?!」

 

弥子「だって、美味しかったんだもん!」

 

料理長「かしこまりました」

 

カイエン「ハハハハッ!」

 

ダイ・グ「……ふふ」

 

クリスティン「……ふふふっ」

 

弥子「……あっ!」

 

Xi「……今度は何?」

 

弥子「クリスティンさん、また笑った!」

 

クリスティン「……!」

 

弥子「さっきより、ずっと楽しそう!」

 

クリスティン「……そう、でしょうか?」

 

弥子「はい!」

 

クリスティン「…………」

 

そして、少しだけ恥ずかしそうに。

 

クリスティン「……ありがとうございます」

 

と、答えた。

 

◆ 7.過去よりも、今ここにいる人

 

食後。

 

一行は、宮殿内の庭園へ案内された。

 

整えられた花壇。

 

穏やかな風。

 

水路を流れる清らかな水。

 

壮麗な宮殿の中にあって、そこだけは、ゆっくりと時間が流れているようだった。

 

ダイ・グ「皆さん、少しご自由にお過ごしください」

 

キラ「ありがとうございます」

 

カイエン「おう! じゃあ、オレは少しダイ・グと話してくるかナ!」

 

ダイ・グ「はい。ぜひ」

 

Xi「……師匠、何か難しい話でもするの?」

 

カイエン「ハハッ! ちょっとした世間話だヨ!」

 

Xi「……師匠の世間話って、規模が大きいんだよね」

 

カイエン「なんでだヨ!」

 

キラ「……僕も、さっきの機体について少し質問してきてもいいかな?」

 

Xi「……キラ。まだ聞き足りないの?」

 

キラ「……うん。少しだけ」

 

Xi「……あはは」

 

バクスチュアルは、町やチャンダナとの会話を楽しんでいた。

 

Xi「……よかったね、バクスチュアル」

 

バクスチュアル「……ウン」

 

Xi「……じゃあ、僕は弥子ちゃんたちのところへ行ってくるね」

 

バクスチュアル「……Xiサン。イッテラッシャイ」

 

Xi「……うん!」

 

◆

 

庭園の片隅。

 

弥子とクリスティンは、並んでベンチに座っていた。

 

弥子「……クリスティンさん」

 

クリスティン「……はい?」

 

弥子「……今日は、ありがとうございました!」

 

クリスティン「……こちらこそ。皆さんのおかげで、楽しい時間を過ごせました」

 

弥子「……えへへ!」

 

クリスティン「…………」

 

少し、沈黙があった。

 

そして。

 

クリスティン「……桂木さん」

 

弥子「……はい?」

 

クリスティン「……どうして、私と友達になりたいと思われたのですか?」

 

弥子「……え?」

 

クリスティン「…………」

 

弥子は、少し考えた。

 

そして。

 

弥子「……だって、クリスティンさん、いい人じゃないですか」

 

クリスティン「…………」

 

弥子「それに、お菓子の好みも一緒だったし!」

 

クリスティン「……それだけ、ですか?」

 

弥子「……え?」

 

クリスティン「…………」

 

クリスティンは、少しだけ視線を落とした。

 

クリスティン「……私は、決して立派な人間ではありません」

 

弥子「…………」

 

クリスティン「……過去に、取り返しのつかないことをしたこともあります」

 

弥子「…………」

 

クリスティン「……それを知れば、きっと……」

 

言いかけて、言葉を止めた。

 

弥子は、黙って彼女を見つめていた。

 

少しだけ、風が吹いた。

 

そして。

 

弥子「……クリスティンさん」

 

クリスティン「……はい?」

 

弥子「……私、クリスティンさんの過去のこと、詳しくは知りません」

 

クリスティン「…………」

 

弥子「だから、簡単に『気にしなくていいですよ』なんて言えないです」

 

クリスティン「……!」

 

弥子「きっと、クリスティンさんにとって、すごく大事なことなんですよね」

 

クリスティン「…………」

 

弥子「……でも」

 

少しだけ、笑った。

 

弥子「私が今日、友達になりたいと思ったのは、今ここにいるクリスティンさんなんです」

 

クリスティン「…………」

 

弥子「今日、一緒にロボットを見て、たくさんお話しして、美味しいご飯を食べた」

 

クリスティン「…………」

 

弥子「……それで、私、楽しかったんです!」

 

クリスティン「…………」

 

弥子「クリスティンさんは、楽しくなかったですか?」

 

クリスティン「…………!」

 

少し、驚いたように顔を上げた。

 

そして。

 

クリスティン「……いえ」

 

小さく、首を横に振った。

 

クリスティン「……とても、楽しかったです」

 

弥子「……だったら、いいじゃないですか!」

 

クリスティン「…………」

 

弥子「もちろん、話したくないことは無理に聞きません。でも、いつか話したくなったら、その時は聞きますよ」

 

クリスティン「…………」

 

弥子「それまでは、普通に一緒に遊んだり、ご飯を食べたりしましょう!」

 

クリスティン「…………」

 

長い沈黙。

 

そして。

 

クリスティン「……桂木さん」

 

弥子「……はい?」

 

クリスティン「……ありがとうございます」

 

その声は、ほんの少し震えていた。

 

弥子「……えへへ」

 

クリスティン「……私も」

 

少しだけ、笑った。

 

クリスティン「……私も、桂木さんと友達になりたいです」

 

弥子「……!」

 

弥子「本当ですか?!」

 

クリスティン「……はい」

 

弥子「やったぁ!!」

 

思わず、弥子が立ち上がった。

 

クリスティン「……!」

 

弥子「じゃあ、もう友達ですね!」

 

クリスティン「……ふふっ」

 

そして、今度ははっきりと。

 

クリスティン「……はい!」

 

二人は、顔を見合わせて笑った。

 

◆

 

少し離れたところで、その様子を見ていたXiは、小さく微笑んだ。

 

Xi「……よかった」

 

隣に、キラがやって来る。

 

キラ「……仲良くなれたみたいだね」

 

Xi「……うん」

 

キラ「……弥子ちゃんって、すごいね」

 

Xi「……うん。本当に」

 

Xiは、庭園の二人を見つめていた。

 

Xi「……人ってさ」

 

キラ「……うん?」

 

Xi「……自分じゃどうにもできないことを、色々背負ってるんだね」

 

キラ「…………」

 

Xi「生まれた場所とか、過去とか、立場とか」

 

キラ「……そうだね」

 

Xi「……僕も、シックスのクローンとして生まれたことは、変えられない」

 

キラ「…………」

 

Xi「でも、だからって、僕が何をしていいか、何になれるかまで、全部決められたくないんだ」

 

キラ「……うん」

 

Xi「……クリスティンさんも、きっと色々あるんだと思う」

 

キラ「……そうだね」

 

Xi「……でも」

 

少し、笑った。

 

Xi「弥子ちゃんは、そういうのを理由に友達になるのをやめたりしないんだね」

 

キラ「……うん」

 

キラも、穏やかに微笑んだ。

 

キラ「……弥子ちゃんの強さって、そういうところなんだろうね」

 

Xi「……そう思う」

 

しばらく、二人は黙って庭園を眺めていた。

 

そして。

 

弥子「Xiー!!」

 

Xi「……ん?」

 

弥子「クリスティンさんと友達になったよー!!」

 

Xi「……うん! よかったね!」

 

弥子「……それでね!」

 

Xi「……何?」

 

弥子「今度、一緒に美味しいお菓子を食べに行く約束した!!」

 

Xi「…………」

 

Xi「やっぱり食べ物?!」

 

弥子「当然じゃない!!」

 

キラ「……あははは!」

 

クリスティン「……ふふふっ!」

 

庭園に、明るい笑い声が響いた。

 

◆

 

その頃。

 

少し離れた回廊では、ダイ・グとカイエンがその様子を見ていた。

 

ダイ・グ「……楽しそうですね」

 

カイエン「おう!」

 

ダイ・グ「……クリスが、あんなふうに笑っているのを、久しぶりに見た気がします」

 

カイエン「……そうかヨ」

 

ダイ・グ「……はい」

 

皇帝は、静かに微笑んだ。

 

ダイ・グ「……よかった」

 

カイエン「…………」

 

カイエン「……ハハッ」

 

ダイ・グ「……?」

 

カイエン「お前も、もっと肩の力抜いていいんだぜ?」

 

ダイ・グ「…………」

 

カイエン「皇帝だって、笑っちゃいけねぇわけじゃねぇだろ?」

 

ダイ・グ「……ふふ」

 

ダイ・グ「……そうですね」

 

カイエン「おう! そうだヨ!」

 

しばらく、沈黙。

 

そして。

 

ダイ・グ「……カイエン殿」

 

カイエン「なんだ?」

 

ダイ・グ「……今日は、皆さんを招いて本当によかったと思っています」

 

カイエン「……そうか」

 

ダイ・グ「ええ」

 

視線の先。

 

庭園では、弥子とクリスティンが楽しそうに話している。

 

ダイ・グ「……あの子には、ああいう時間も必要なんだと思います」

 

カイエン「……おう」

 

ダイ・グ「皇帝代理騎士ではなく、一人の女の子として過ごせる時間が」

 

カイエン「…………」

 

カイエン「……ハハッ」

 

カイエン「だったら、また呼んでやりゃいいじゃねぇかヨ!」

 

ダイ・グ「……そうですね」

 

穏やかに頷いた。

 

ダイ・グ「……ぜひ、そうしたいと思います」

 

◆ 8.フィルモア帝国からの帰り道

 

夕暮れ。

 

一行は、フィルモア帝国の宮殿を後にしようとしていた。

 

ダイ・グ「皆さん、本日はありがとうございました」

 

キラ「こちらこそ、本当にありがとうございました」

 

Xi「……皇帝騎、すごかったです!」

 

ダイ・グ「ふふ。そう言っていただけて嬉しいです」

 

弥子「お料理も、最高でした!!」

 

ダイ・グ「ありがとうございます。料理長にも伝えておきますね」

 

Xi「……陛下。もう弥子ちゃんの食欲に驚かなくなりましたね」

 

ダイ・グ「……ふふ。慣れました」

 

Xi「皇帝陛下まで慣れちゃった!!」

 

カイエン「ハハハハッ!」

 

バクスチュアル「……町、チャンダナ。またネ」

 

町「はい。姉さんも、お元気で」

 

チャンダナ「また会いましょう、バクスチュアル」

 

バクスチュアル「……ウン」

 

Xi「……よかったね、バクスチュアル」

 

バクスチュアル「……楽シカッタ」

 

Xi「……うん!」

 

◆

 

そして。

 

弥子「クリスティンさん!」

 

クリスティン「……はい?」

 

弥子「今日は、本当にありがとうございました!」

 

クリスティン「……こちらこそ。とても楽しかったです」

 

弥子「……今度は、私が案内しますね!」

 

クリスティン「……え?」

 

弥子「美味しいお店、いっぱい知ってますから!」

 

クリスティン「……ふふ」

 

クリスティン「……ありがとうございます」

 

弥子「……地球にも、ぜひ遊びに来てください!」

 

クリスティン「……地球、ですか?」

 

弥子「はい!」

 

Xi「……弥子ちゃん、もう次の予定を考えてるの?」

 

弥子「当然じゃない! 友達になったんだもん!」

 

Xi「……そっか」

 

クリスティン「…………」

 

その言葉に、彼女は少し驚いたようだった。

 

友達になった。

 

たったそれだけの理由で、次に会う約束をする。

 

難しい説明も、特別な資格も、必要ない。

 

クリスティン「……そうですね」

 

小さく、笑った。

 

クリスティン「……機会がありましたら、ぜひ」

 

弥子「やったぁ!!」

 

Xi「……今度は僕も案内するよ」

 

クリスティン「……Xiさんも?」

 

Xi「うん! 姉弟子なんだから、遠慮しないで!」

 

クリスティン「…………」

 

そして、柔らかく微笑んだ。

 

クリスティン「……ありがとうございます」

 

ダイ・グ「……ふふ」

 

Xi「……陛下?」

 

ダイ・グ「……いえ。楽しそうな約束だなと思って」

 

弥子「もちろん、陛下も一緒にどうですか?」

 

ダイ・グ「……私も?」

 

弥子「はい!」

 

Xi「……弥子ちゃん?!」

 

弥子「だって、ダイ・グさんもXiの兄弟子なんでしょ?」

 

Xi「……まあ、そうだけど」

 

弥子「じゃあ、みんなで遊びに来たらいいじゃない!」

 

Xi「……皇帝陛下を気軽に誘いすぎだよ!!」

 

ダイ・グ「…………」

 

そして。

 

ダイ・グ「……ふふっ」

 

小さく、笑った。

 

ダイ・グ「……ありがとうございます」

 

弥子「……え?」

 

ダイ・グ「……いつか、本当にそういう日が来るといいですね」

 

クリスティン「……陛下」

 

ダイ・グ「……ね、クリス」

 

クリスティン「…………」

 

ほんの少しだけ、頬が赤くなる。

 

クリスティン「……はい」

 

Xi「…………」

 

弥子「…………」

 

Xi「……弥子ちゃん?」

 

弥子「…………」

 

Xi「……弥子ちゃん?」

 

弥子「……あ」

 

Xi「……何?」

 

弥子「……なんでもない!」

 

Xi「……本当?」

 

弥子「……うん!」

 

Xi「……声が大きくならなくてよかった」

 

弥子「……Xi!」

 

Xi「……何?」

 

弥子「……あとで話そうね!」

 

Xi「やっぱり何かあるんだ?!」

 

一同が笑った。

 

◆

 

最後に、クリスティンがカイエンへ頭を下げた。

 

クリスティン「カイエン様。本日は、ありがとうございました」

 

カイエン「おう!」

 

クリスティン「……Xiさんのことも、これからよろしくお願いいたします」

 

Xi「……姉弟子?!」

 

カイエン「ハハッ! 任せとけヨ!」

 

Xi「……師匠、なんだか保護者みたいになってる」

 

カイエン「なんだヨ!」

 

クリスティン「……ふふ」

 

Xi「……でも」

 

少しだけ、真面目な顔になった。

 

Xi「……僕、もっと強くなりたいな」

 

クリスティン「……!」

 

Xi「姉弟子みたいに、誰かを守れるくらいに」

 

クリスティン「…………」

 

Xi「……もちろん、騎士になるかどうかは、まだ分からないけどね」

 

カイエン「ハハッ! それでいいんだヨ!」

 

Xi「……うん!」

 

クリスティン「……Xiさん」

 

Xi「……何?」

 

クリスティン「……いつか、剣を交える機会があれば、楽しみにしております」

 

Xi「……!」

 

Xi「……本当?!」

 

クリスティン「はい。もちろん、稽古としてですけれど」

 

Xi「……うん!」

 

カイエン「ハハッ! その時は、オレも見てやるヨ!」

 

Xi「……師匠、手加減してね?」

 

カイエン「オレが手合わせするわけじゃねぇだろ!!」

 

Xi「……あはは!」

 

また、笑い声が広がった。

 

◆

 

帰り道。

 

夕暮れの光が、フィルモアの街並みを照らしていた。

 

弥子「……楽しかったねぇ!」

 

Xi「……うん」

 

キラ「皇帝騎を二騎も見られるなんて、本当に貴重な経験だったよ」

 

弥子「料理も美味しかったし!」

 

Xi「……そこは外せないんだね」

 

弥子「もちろん!」

 

バクスチュアル「……Xiサン」

 

Xi「ん?」

 

バクスチュアル「……姉弟子、増エタ」

 

Xi「……うん」

 

少しだけ、笑った。

 

Xi「……増えたね」

 

カイエン「ハハッ! いいことじゃねぇかヨ!」

 

Xi「……師匠」

 

カイエン「なんだ?」

 

Xi「……僕、最近ちょっと思うんだ」

 

カイエン「……おう?」

 

Xi「師匠に剣を習い始めてから、知らなかった世界をいっぱい見るようになったなって」

 

カイエン「…………」

 

Xi「ハスハの騎士も、フィルモアの皇帝も、クバルカンのミューズさんも」

 

カイエン「……おう」

 

Xi「……それに、クリスティンさんも」

 

少し、笑った。

 

Xi「……みんな、すごい人たちなんだけどさ」

 

カイエン「……ん?」

 

Xi「……それだけじゃないんだね」

 

カイエン「…………」

 

Xi「皇帝でも、騎士でも、ちゃんと普通の人なんだなって」

 

キラ「……うん」

 

Xi「誰かと笑ったり、悩んだり、友達になったり」

 

カイエン「……ハハッ」

 

Xi「……師匠?」

 

カイエン「いいことに気づいたじゃねぇかヨ!」

 

Xi「……うん」

 

カイエン「強い奴も、偉い奴も、みんな同じだヨ」

 

Xi「…………」

 

カイエン「……もちろん、背負ってるものは違うけどナ」

 

Xi「……そうだね」

 

カイエン「でも、だからって、笑っちゃいけねぇわけじゃねぇ」

 

Xi「……うん」

 

カイエン「だったら、せっかく知り合ったんだ。仲良くすりゃいいじゃねぇかヨ!」

 

Xi「…………」

 

そして、嬉しそうに笑った。

 

Xi「……うん!」

 

◆

 

しばらく歩いたところで。

 

弥子「……ねえ、Xi」

 

Xi「……何?」

 

弥子「……今度、クリスティンさんが地球に来たらさ」

 

Xi「……うん?」

 

弥子「……どこのお店に連れて行こうかな?」

 

Xi「……もう考えてるの?」

 

弥子「当然じゃない!」

 

Xi「……あはは」

 

弥子「……甘いものが好きみたいだったし、ケーキのお店とかいいかな?」

 

Xi「……うん。いいと思うよ」

 

弥子「……ダイ・グさんも来るなら、二人で食べられるお店がいいかなぁ」

 

Xi「…………」

 

Xi「……弥子ちゃん?」

 

弥子「……ん?」

 

Xi「……二人で?」

 

弥子「……うん!」

 

Xi「……どうして?」

 

弥子「……だって、あの二人……」

 

Xi「…………」

 

弥子「……ふふっ」

 

Xi「……何?」

 

弥子「……なんでもない!」

 

Xi「……弥子ちゃん!」

 

弥子「……でも、楽しみだね!」

 

Xi「……うん」

 

少しだけ、笑った。

 

Xi「……そうだね」

 

その時は、まだ知らなかった。

 

いつか、フィルモア帝国の皇帝と皇帝代理騎士が。

 

遠い地球の街で。

 

国のことも、立場のことも、ほんの少しだけ忘れて。

 

ただの若い男女として、静かな一日を過ごすことになるかもしれないことを。

 

そして。

 

その隣には、おそらく。

 

美味しいものを食べながら、全力で二人を応援する桂木弥子と。

 

そんな彼女に、慌ててツッコミを入れる怪物強盗Xiがいるのだろう。

 

◆

 

その頃。

 

フィルモア帝国、皇帝宮。

 

夕暮れの庭園を、ダイ・グとクリスティンが歩いていた。

 

ダイ・グ「……今日は、楽しかったね」

 

クリスティン「……はい、陛下」

 

ダイ・グ「……クリス」

 

クリスティン「……はい?」

 

ダイ・グ「……弥子さんと、友達になれたんだね」

 

クリスティン「…………」

 

そして。

 

クリスティン「……はい」

 

小さく、笑った。

 

クリスティン「……とても、不思議な方でした」

 

ダイ・グ「……そう?」

 

クリスティン「……はい。私がハイランダーであることも、過去のことも、特別に気にする様子がなくて」

 

ダイ・グ「…………」

 

クリスティン「……ただ、一緒にお菓子を食べようと誘ってくださったんです」

 

ダイ・グ「……ふふ」

 

クリスティン「……おかしな話ですよね」

 

ダイ・グ「……そんなことないよ」

 

クリスティン「……陛下?」

 

ダイ・グ「……クリスには、そういう友達がいてもいいと思う」

 

クリスティン「…………」

 

ダイ・グ「君が騎士であることを忘れる必要はない。でも、君が騎士であることしか知らない人ばかりでなくてもいい」

 

クリスティン「…………」

 

ダイ・グ「……僕は、そう思うよ」

 

クリスティン「…………」

 

しばらく、沈黙。

 

そして。

 

クリスティン「……ありがとうございます、陛下」

 

ダイ・グ「……うん」

 

二人は、並んで歩き続けた。

 

その向こうには、帝国の歴史があった。

 

皇帝としての責任。

 

皇帝代理騎士としての使命。

 

決して軽くはない、二人の運命。

 

けれど。

 

今日だけは。

 

ほんの少し。

 

その重荷が軽くなったように思えた。

 

そして、宮殿の格納庫には。

 

ネプチューンとプロミネンス。

 

二騎の皇帝騎が、静かに佇んでいた。

 

明日もまた、国のために立つ騎士たちを待ちながら。

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