守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
◆ 1.怪物強盗と女子高生と、頼れる編集者
いつものカフェテラス。
穏やかな午前の陽光が差し込むテーブルには、何冊もの観光ガイドと雑誌、地図、そして大量の飲食店情報が広げられていた。
泉京香は、それらの資料をひととおり眺めてから、にっこりと微笑んだ。
泉「では、まず今回の目的を確認しましょう」
Xi「うん!」
弥子「はい!」
泉「フィルモア帝国からいらっしゃる、ダイ・グ陛下とクリスティン・ビィさんを、地球でおもてなしするんですよね?」
Xi「そうそう!」
弥子「クリスちゃんとは、この間お友達になったんです!」
泉「まあ! それは素敵ですね!」
弥子「えへへ!」
Xi「それで、せっかくだから、二人に地球で楽しく過ごしてもらいたいんだ」
泉「なるほど。お仕事ではなく、休暇ということですね」
Xi「うん。だから、あんまり堅苦しくしたくないんだよね」
泉「分かりました。では……」
泉は、テーブルに広げられた資料へ視線を落とした。
泉「……桂木さん?」
弥子「はい!」
泉「この『激辛料理完全制覇ツアー』というのは?」
弥子「オススメのお店です!」
Xi「弥子ちゃん!! それ、まだ候補に入ってたの?!」
弥子「だって、地球でしか食べられないものもあるし!」
泉「……なるほど」
ページをめくる。
泉「では、こちらの『珍味・変わり種飲料巡り』は?」
弥子「それもオススメです!」
Xi「だから地雷原探索ツアーは駄目だってば!!」
弥子「え~……」
泉「……Xi君。何か事情がありそうですね?」
Xi「あるんだよ! ものすごく!」
弥子「でも、変わり種ラムネは面白いよ?」
Xi「面白いのと、お客様に勧めていいのは別問題でしょ!」
泉「……そうですね。珍しいものを楽しむのは悪くありませんが、お二人の好みを確認してからにしましょう」
Xi「泉さん!! それ!!」
弥子「……はーい」
泉「それに、お二人は遠い国から、わざわざ休暇を取っていらっしゃるんでしょう?」
Xi「うん!」
泉「それでしたら、予定を詰め込みすぎないことも大切ですよ」
弥子「……予定を?」
泉「はい。あちこち案内することだけが、おもてなしではありません」
Xi「……なるほど」
泉「のんびりお茶を飲んだり、景色を眺めたり。普通の街を歩くだけでも、楽しいかもしれませんよ」
弥子「……あっ!」
Xi「……何?」
弥子「じゃあ、クリスちゃんと一緒に、お洋服を見に行きたい!」
泉「いいですね!」
弥子「あと、可愛い雑貨のお店!」
泉「ええ!」
弥子「それからケーキ!」
Xi「……うん」
弥子「ジェラート!」
Xi「……うん?」
弥子「クレープ!」
Xi「食べ物が増えてきた!!」
泉「……桂木さん」
弥子「はい!」
泉「食事は、ちゃんと別の時間に設けましょうね」
Xi「泉さん、頼もしすぎる!!」
弥子「えへへ……」
◆
泉は、一枚の紙を取り出した。
そこには、今回の観光案が整理されていた。
最初は、いつものカフェテラスで歓迎のお茶会。
その後、無理のない範囲で街を散策する。
買い物や食事を楽しみ、途中には休憩時間を十分に設ける。
そして翌日以降は、本人たちの希望を聞きながら行き先を決める。
Xi「……すごい! もう形になってる!」
泉「まだ仮の予定ですよ。大切なのは、お二人の希望ですから」
弥子「……それじゃあ、クリスちゃんと一緒に買い物できる時間は?」
泉「もちろん、作れますよ」
弥子「やったぁ!」
泉「ですが、少し考えていただきたいこともあります」
Xi「……何?」
泉「ダイ・グ陛下とクリスティンさんが、お二人だけで過ごせる時間です」
Xi「…………」
弥子「…………」
泉「皆さんで賑やかに過ごすのも楽しいでしょうけれど、ずっと一緒では気疲れしてしまうかもしれませんから」
Xi「……あっ」
弥子「……なるほどぉ!」
泉「お二人が望まれるなら、私たちは少し離れた場所で待っていればいいんです」
Xi「……そっか」
弥子「じゃあ、その間にケーキを……」
Xi「弥子ちゃん!!」
泉「ふふ。それはいいと思いますよ」
Xi「……え?」
泉「お二人のプライバシーを守りながら、私たちも楽しく過ごせるわけですから」
弥子「やったぁ!」
Xi「……泉さんに言われると、ものすごく合理的に聞こえる……」
泉「もちろん、警護や連絡手段の確保は別の話ですけれどね」
Xi「……うん!」
泉「今回は、私もお手伝いします。何かあれば遠慮なく言ってください」
Xi「ありがとう、泉さん!」
弥子「よろしくお願いします!」
泉「こちらこそ!」
そう言って、三人は顔を見合わせて笑った。
皇帝とハイランダーの休日。
それを準備するのが、怪物強盗と女子高生と雑誌編集者。
考えてみれば、実に奇妙な組み合わせだった。
◆
その時だった。
Xiの端末に、一通のメッセージが届いた。
Xi「……あれ?」
弥子「どうしたの?」
Xi「……ダイ・グ陛下からだ!」
泉「まあ!」
Xi「どれどれ……」
画面に表示されたのは、丁寧な文面だった。
『Xi君、皆さん。
地球への訪問について、こちらでも日程の調整ができました。
数日間の休暇を取る予定です。
クリスにも、私の護衛として同行してもらうことになりました。
皆さんと再びお会いできるのを楽しみにしています。
ダイ・グ』
Xi「…………」
弥子「……?」
Xi「……休暇、取れたって!」
弥子「やったぁ!!」
泉「それはよかったですね!」
Xi「しかも、クリスティンさんも一緒!」
弥子「クリスちゃんにも会える!!」
泉「……なるほど。皇帝代理騎士が警護として同行するなら、帝国としても安心でしょうね」
Xi「……うん。そうだね」
弥子「……でもさ、Xi」
Xi「……何?」
弥子「ダイ・グさん、クリスちゃんと一緒に遊びに来たかったんじゃないかな?」
Xi「…………」
泉「…………」
Xi「……弥子ちゃん」
弥子「……ん?」
Xi「……それは、たぶん言わないほうがいいやつだよ」
弥子「……あっ!」
泉「ふふふっ」
Xi「……でも」
弥子「……?」
Xi「そうだったら、なおさら二人に楽しんでもらわないとね!」
弥子「……うん!」
泉「では、計画を進めましょうか」
三人は、改めて資料を囲んだ。
皇帝の休日を守るための作戦会議が、こうして始まった。
◆ 2.フィルモア皇帝は休暇を取る
同じ頃。
フィルモア帝国、皇帝宮。
ダイ・グ・フィルモア5世は、執務室で側近からの報告を受けていた。
側近「陛下。ご指定の期間について、政務の調整が完了いたしました」
ダイ・グ「ありがとう」
側近「緊急案件については、所定の連絡経路で対応いたします」
ダイ・グ「うん。よろしくお願いします」
側近「それから、地球滞在中の警護についてですが……」
ダイ・グ「クリスに同行してもらうよ」
側近「……ハイランダー、クリスティン・ビィ様でございますか」
ダイ・グ「うん。彼女がいてくれれば心強いからね」
側近「承知いたしました。それでしたら、警護上の懸念も大きく軽減されます」
ダイ・グ「ありがとう」
側近「ただし、陛下。外国への私的なご訪問でございますので、滞在先との連絡体制だけは維持していただきますよう……」
ダイ・グ「もちろんだよ」
側近「……かしこまりました」
ダイ・グ「皆にも伝えておいてください。短い間ですが、よろしくお願いします、と」
側近「承知いたしました。どうぞ、よいご休暇を」
丁寧に一礼すると、側近は退出した。
その後ろ姿を見送ってから、ダイ・グは小さく息をついた。
ダイ・グ「……ふぅ」
皇帝という立場には、日々多くの責任が伴う。
国の政務。
騎士団。
外交。
そして、帝国の未来。
どれも、軽々しく放り出してよいものではない。
だからこそ、休暇を取ることにも準備が必要だった。
その時。
「陛下」
静かな声が聞こえた。
振り返ると、クリスティン・ビィが立っていた。
ダイ・グ「やあ、クリス」
クリスティン「……お呼びでしょうか」
ダイ・グ「うん。地球への訪問の日程が決まったよ」
クリスティン「……!」
ダイ・グ「君にも同行してもらえるかな?」
クリスティン「もちろんです。陛下の警護は、私の務めですから」
ダイ・グ「……ありがとう」
クリスティン「いえ。ですが……」
ダイ・グ「……?」
クリスティン「……本当に、私でよろしいのでしょうか」
ダイ・グ「もちろんだよ」
クリスティン「私は、皇帝代理騎士とはいえ……」
ダイ・グ「クリス」
クリスティン「……はい?」
ダイ・グ「君が一緒だと、僕が嬉しいんだ」
クリスティン「…………!」
ダイ・グ「それに、弥子さんやXi君にも、また会えるんだよ」
クリスティン「…………」
その名前を聞いて、彼女の表情が少し和らいだ。
クリスティン「……弥子さん」
ダイ・グ「ふふ。楽しみ?」
クリスティン「……はい」
小さく、頷いた。
クリスティン「……あの方には、またお会いしたいと思っていました」
ダイ・グ「よかった」
クリスティン「……あの、陛下」
ダイ・グ「何?」
クリスティン「……私は、現地でも護衛の任務を果たします。決して陛下にご迷惑は……」
ダイ・グ「……ふふ」
クリスティン「……?」
ダイ・グ「クリス。今回は休暇でもあるんだから、少しは楽しんでほしいな」
クリスティン「…………」
ダイ・グ「何かあれば頼りにしているよ。でも、何もなければ、一緒に地球の街を歩こう」
クリスティン「……陛下」
ダイ・グ「弥子さんたちが、色々案内してくれるそうだから」
クリスティン「…………」
そして、少しだけ微笑んだ。
クリスティン「……はい。楽しみにしております」
ダイ・グ「……うん」
二人は、静かに笑い合った。
形式上は、皇帝とハイランダーの外遊。
けれど実際には、二人で過ごす、ささやかな休日。
周囲を欺こうというわけではない。
必要な手続きも、警護体制も整えてある。
だから、安心して休んでいい。
ダイ・グは、そう考えていた。
……もっとも、同行するのがクリスティンであるという点については。
少々、個人的な希望も含まれていたのかもしれない。
◆ 3.外注後輩、契約を確認する
A.K.D.、フロートテンプル。
その一室で、Xiはログナー司令と向かい合っていた。
ログナー「……Xi」
Xi「何?」
ログナー「フィルモア皇帝の地球滞在について、連絡は受けている」
Xi「うん。今回は僕たちで案内する予定だよ」
ログナー「……そうか」
Xi「もちろん、警護はクリスティンさんが担当するし、僕は現地での案内と、万一の時の補佐が中心になると思うけど」
ログナー「それでいい」
Xi「……いいの?」
ログナー「皇帝代理騎士が随行する以上、必要以上に護衛要員を増やしても意味がない」
Xi「……確かに」
ログナー「それに、お前の任務は、今回の滞在を円滑にすることだ」
Xi「……うん」
ログナー「不必要な騒動を起こさず、陛下方が安心して過ごせるようにしてもらいたい」
Xi「……了解!」
ログナー「報酬については、以前取り決めた条件を適用する」
Xi「……ということは?」
ログナー「日当、フェザーゴールド金貨2枚。」
Xi「うん!」
ログナー「バクスチュアルの補佐も認める」
Xi「ありがとう!」
ログナー「必要経費は別途精算だ」
Xi「よし!」
ログナー「そして、シックス製品が届き、危険物処理が発生した場合は、特別手当を支給する」
Xi「…………」
ログナー「……何だ?」
Xi「……司令」
ログナー「なんだ」
Xi「……今回は、その手当をもらわずに済ませたいんだけど」
ログナー「…………」
Xi「ダイ・グ陛下とクリスティンさんには、普通に楽しく過ごしてほしいからさ」
ログナー「……当然だな」
Xi「……うん」
ログナー「危険物処理手当は、危険物が届くことを期待して設けたものではない」
Xi「……そうだよね」
ログナー「何も起きなければ、それが最善だ」
Xi「……うん!」
少し、安心した。
そこへ。
カイエン「ハハッ! いいこと言うじゃねぇかヨ、ログナー!」
Xi「……あっ、師匠!」
いつの間にか、ダグラス・カイエンが姿を現していた。
カイエン「おう! 頑張れヨ、外注後輩!」
Xi「またそれ?!」
カイエン「ハハッ! もう慣れただろ?」
Xi「慣れてないよ!!」
ログナー「……Xiはまだ正式なミラージュナイトではない」
Xi「……そう! そうなんだよ!」
ログナー「……ただし、有力な候補ではある」
Xi「そこを付け足さなくていい!!」
カイエン「ハハハッ!」
ログナー「いずれにせよ、今回は契約による任務だ。正式入団とは別の話として扱う」
Xi「……うん。それならいいけど」
カイエン「おう! 仕事をちゃんとやれば、ログナーの評価も上がるんじゃねぇか?」
Xi「……師匠」
カイエン「なんだヨ?」
Xi「僕、ミラージュ騎士団の入団試験を受けてるわけじゃないんだけど?」
カイエン「ハハッ! 知ってるヨ!」
Xi「絶対楽しんでるでしょ!!」
◆
ログナー「……それから、Xi」
Xi「何?」
ログナー「陛下について、もう一つ伝えておく」
Xi「……陛下?」
ログナー「……アマテラス陛下だ」
Xi「…………」
Xi「……まさか」
ログナー「今回の地球訪問に、興味を示されている」
Xi「やっぱり!!」
カイエン「ハハハッ!」
Xi「師匠! 笑い事じゃないよ!!」
ログナー「ただし、フィルモア皇帝の私的な休暇を妨げることは、本意ではないはずだ」
Xi「……うん」
ログナー「もし現地へ赴かれる場合も、レディオス・ソープとして行動されるだろう」
Xi「……なるほど」
カイエン「ハハッ! アマ公なら、そうするだろうナ!」
Xi「……師匠。今回、皇帝が何人になるの?」
カイエン「……さあナ!」
Xi「怖いこと言わないでよ!!」
ログナー「……Xi」
Xi「……何?」
ログナー「陛下が予定外の行動を取り、お前の業務が増えた場合は、追加条件を協議する」
Xi「……うん。そこはちゃんと請求するからね!」
ログナー「承知している」
Xi「……よし!」
カイエン「ハハッ! すっかり仕事人だナ!」
Xi「……師匠」
カイエン「なんだ?」
Xi「僕は怪盗なんだけど」
カイエン「ハハッ! そうだったナ!」
Xi「忘れないでよ!!」
こうして、怪物強盗Xiの新たな任務が始まった。
ただし、今回の目標は実に明快だった。
誰も怪我をしない。
誰も困らない。
そして、ダイ・グとクリスティンに、普通の休日を楽しんでもらう。
できることなら、シックス製品も届かないでほしい。
Xiは、心からそう願っていた。
◆ 4.地球へようこそ!
数日後。
地球。
Xiたちは、フィルモアからの二人を迎えるため、いつもの集合場所に集まっていた。
弥子「……まだかなぁ!」
Xi「弥子ちゃん、さっきから五回くらい言ってるよ」
弥子「だって、楽しみなんだもん!」
泉「ふふ。仲の良いお友達が遊びに来るんですものね」
弥子「はい!」
キラ「こちらの受け入れ準備もできているよ。あとは到着を待つだけだね」
Xi「……キラ。色々ありがとう」
キラ「ううん。僕も楽しみにしてたから」
バクスチュアル「……Xiサン。緊張?」
Xi「……ちょっとね」
弥子「Xiが?」
Xi「だって、今度は僕たちが迎える側なんだよ? しかも相手はフィルモア帝国の皇帝陛下!」
泉「……Xi君」
Xi「何?」
泉「最初からそんなに緊張していては、お二人も気疲れしてしまいますよ」
Xi「……あ」
泉「今日は、楽しく過ごしていただくための日ですから」
Xi「……そうだね」
泉「もちろん礼儀は必要ですけれど、普段どおりに接して差し上げたほうが、喜ばれるのではありませんか?」
Xi「……うん!」
その時だった。
キラ「あっ。到着したみたいだよ」
弥子「……!」
Xi「……!」
姿を現したのは、見覚えのある二人だった。
ただし、いつもとは少し違う。
ダイ・グは、皇帝としての正装ではなく、落ち着いた色合いの私服に身を包んでいた。
クリスティンも、帝国の騎士としての厳めしい装いではない。
上品で動きやすい服装。
控えめながら、よく似合っている。
それでも二人の立ち居振る舞いには、自然と身についた品の良さが感じられた。
ダイ・グ「皆さん。こんにちは」
弥子「ダイ・グさん! クリス!!」
クリスティン「……弥子さん!」
弥子は、嬉しそうに駆け寄った。
弥子「来てくれたんだね!」
クリスティン「はい! お久しぶりです!」
弥子「わぁ! その服、可愛い!」
クリスティン「……え?」
弥子「すっごく似合ってるよ!」
クリスティン「……あ、ありがとうございます」
少し、照れたように笑う。
クリスティン「弥子さんも、お元気そうで何よりです」
弥子「うん! 今日はいっぱい遊ぼうね!」
クリスティン「……はい!」
Xiは、その様子を見て微笑んだ。
Xi(……よかった。もう普通に友達同士だね)
◆
ダイ・グ「Xi君。今日はよろしくね」
Xi「はい! 陛……」
一瞬、言葉に詰まった。
Xi「……えっと」
ダイ・グ「……?」
Xi「……ダイ・グさん!」
ダイ・グ「……ふふ」
Xi「……今日は、お忍びってことでいいんですよね?」
ダイ・グ「そうだね。公務ではないから、できれば普通に接してもらえると嬉しいな」
Xi「……うん! 分かった!」
泉「では、外ではお名前もなるべく自然にお呼びしましょう」
ダイ・グ「ありがとうございます」
泉「初めまして。泉京香です。今回、観光のお手伝いをさせていただくことになりました」
ダイ・グ「ダイ・グです。よろしくお願いします」
クリスティン「クリスティン・ビィです。よろしくお願いいたします」
泉「こちらこそ。今日はお二人が楽しめるよう、皆で考えてきたんですよ」
クリスティン「……まあ!」
弥子「泉さん、すっごく頼りになるんだよ!」
Xi「うん! 泉さんがいなかったら、どうなってたことか……」
弥子「……Xi?」
Xi「……何?」
弥子「何か言いたいの?」
Xi「弥子ちゃんの観光プラン、食べ物しかなかったから!!」
弥子「美味しいものは大事じゃない!」
泉「ふふ。それは否定しませんよ」
ダイ・グ「……楽しそうだね」
クリスティン「……はい」
二人は、顔を見合わせて笑った。
どうやら地球の休日は、賑やかな始まりになりそうだった。
◆
Xi「……ところで、姉弟子」
クリスティン「はい?」
Xi「……今日は、何かあったら僕たちも手伝うからね。あんまり無理しないでよ」
クリスティン「……ありがとうございます。ですが、私は陛下の警護を……」
Xi「うん。それは分かってるよ」
クリスティン「……?」
Xi「でも、師匠も言ってたでしょ? 一人で全部背負わなくていいって」
クリスティン「…………」
以前、フィルモアの皇帝騎格納庫で聞いた言葉。
それをXiは、ちゃんと覚えていた。
Xi「必要な時には頼りにしてる。でも、何もなければ普通に楽しんでほしいんだ」
クリスティン「…………」
少しだけ、表情が柔らかくなった。
クリスティン「……分かりました」
Xi「……うん!」
クリスティン「ありがとうございます、Xiさん」
Xi「どういたしまして!」
弥子「じゃ、行こう! 最初はカフェテラスだよ!」
クリスティン「はい!」
ダイ・グ「楽しみだね、クリス」
クリスティン「……はい、陛……」
クリスティン「…………!」
周囲を見回した。
クリスティン「……ダイ・グさん」
ダイ・グ「…………」
そして、嬉しそうに笑った。
ダイ・グ「……うん」
Xi「…………」
弥子「…………」
泉「……ふふ」
Xi(……これは、僕まで変に照れるなぁ)
まだ到着したばかりだというのに。
二人の休日は、少しずつ始まっていた。
◆ 5.カフェテラスの安全確認
いつものカフェテラス。
穏やかな風が吹くテーブルには、香りの良い紅茶と、美しく盛り付けられたケーキが並んでいた。
ラクス「皆様、ようこそお越しくださいました」
ダイ・グ「ありがとうございます、ラクス総裁」
ラクス「今日はどうぞ、お気兼ねなくお過ごしくださいませ」
クリスティン「ありがとうございます」
弥子「クリス! ここのケーキ、美味しいんだよ!」
クリスティン「ふふ。楽しみです」
Xi「……あ、ラクス」
ラクス「はい?」
Xi「……念のため聞いておくけど」
ラクス「……?」
Xi「……普通の紅茶だよね?」
ラクス「ええ。あの『ローズヒップティー』ではありませんわ」
キラ「たぶん、逆になかなか手に入らないと思うよ」
Xi「……そうだよね」
少し、安心した。
キラ「特殊な栽培方法のものだったみたいだからね」
Xi「……うん。普通の紅茶なら大丈夫」
ダイ・グ「…………」
クリスティン「…………」
ダイ・グ「……Xi君?」
Xi「……はい?」
ダイ・グ「みなさん、何をそんなに警戒してるんです?」
Xi「…………」
キラ「…………」
バクスチュアル「…………」
Xi「……まぁ、気をつけるに越したことはないので……」
ダイ・グ「……?」
クリスティン「……何か、危険なものがあるのでしょうか?」
Xi「いえ! 今日はありません!」
クリスティン「……今日は?」
Xi「……あっ」
キラ「以前、ちょっと変わった飲み物をいただいたことがあってね」
ダイ・グ「……そうなんだ」
Xi「……はい」
ラクス「ですが、本日はすべて通常のお飲み物ですわ」
Xi「……うん。そうだよね」
ラクス「どうぞ、ご安心くださいませ」
ダイ・グ「……ふふ」
Xi「……?」
ダイ・グ「地球では、お茶会の安全確認も大切なんだね」
Xi「地球全体の習慣じゃないです!!」
キラ「……あはは」
弥子「色々あったんですよ!」
Xi「弥子ちゃん!! その説明だと余計に怖いから!!」
一同が笑った。
◆
クリスティン「……弥子さん」
弥子「ん?」
クリスティン「どちらのケーキがおすすめですか?」
弥子「えっとね! このフルーツのケーキも美味しいし、チョコのもおすすめ!」
クリスティン「……迷ってしまいますね」
弥子「じゃあ、半分ずつ食べようよ!」
クリスティン「……え?」
弥子「そうしたら、両方食べられるでしょ?」
クリスティン「…………」
少し考えて。
クリスティン「……ふふ。そうですね!」
弥子「やった!」
二人は楽しそうにケーキを取り分け始めた。
ダイ・グ「……楽しそうだね、クリス」
クリスティン「……はい」
ダイ・グ「……よかった」
彼は、穏やかに微笑んだ。
その様子を見て、ラクスも嬉しそうに目を細めていた。
ラクス「お二人とも、とても仲がよろしいのですね」
クリスティン「……あっ、はい。弥子さんとは、先日フィルモアで……」
ラクス「ふふ。素敵なお友達ができましたのね」
クリスティン「……はい!」
ダイ・グ「……ふふ」
Xi(……ラクス、さりげなくいいこと言うなぁ)
◆
その時だった。
店員「失礼いたします。追加のお菓子をお持ちしました」
Xi「…………!」
キラ「……?」
Xi「……追加?」
店員「はい。こちらの焼き菓子でございます」
Xi「……差出人は?」
店員「提携している洋菓子店からの納品ですが……」
Xi「……本当に?」
店員「……はい?」
Xi「……包装は普通? 変な注意書きとかない?」
店員「……はい。通常の商品です」
Xi「…………」
キラ「……Xi」
Xi「……何?」
キラ「大丈夫だよ。事前に僕が頼んだものだから」
Xi「…………」
Xi「……あ」
キラ「……うん」
Xi「……ごめん」
店員「……?」
ダイ・グ「…………」
ダイ・グ「……ふふふっ」
Xi「……陛……ダイ・グさん?」
ダイ・グ「君たちは、本当に慎重なんだね」
Xi「……ははは……」
ラクス「ふふ。皆様のご心配は、よく分かりますけれど」
Xi「……うん」
ラクス「今日は、普通のお茶会を楽しみましょうね」
Xi「……そうだね!」
キラ「……うん」
バクスチュアル「……異常、ナシ」
Xi「……よかった」
弥子「じゃあ、その焼き菓子もいただきまーす!」
Xi「弥子ちゃんは最初から警戒してない!!」
弥子「だって、キラさんが用意してくれたんでしょ?」
Xi「…………」
Xi「……まあ、そうだね」
弥子「なら大丈夫!」
キラ「……ありがとう、弥子ちゃん」
Xi「……こういう時の弥子ちゃん、妙に説得力があるなぁ」
◆
和やかな時間が流れた。
紅茶。
ケーキ。
何でもない世間話。
フィルモアの宮廷での出来事。
地球のお菓子の話。
弥子がクリスティンに見せる、お気に入りのお店の写真。
クリスティンは、その一つ一つに興味深そうに耳を傾けていた。
クリスティン「……こんなに可愛らしいお菓子があるのですね」
弥子「うん! 今度一緒に買いに行こう!」
クリスティン「はい!」
ダイ・グ「……僕も食べてみたいな」
弥子「もちろん! ダイ・グさんも一緒に!」
Xi「……弥子ちゃん、本当にお菓子の話になると強いね」
弥子「当然じゃない!」
泉「ふふ。でも、いいことですよ」
Xi「……そう?」
泉「好きなものを紹介できるというのは、それだけ相手に楽しんでもらいたいということですから」
Xi「……そっか」
弥子「……えへへ!」
クリスティン「……ありがとうございます、弥子さん」
弥子「どういたしまして!」
そんな二人を見て、ダイ・グは小さく笑った。
ダイ・グ「……クリス」
クリスティン「……はい?」
ダイ・グ「今日は、楽しそうだね」
クリスティン「…………」
そして。
クリスティン「……はい」
とても自然な笑顔だった。
ダイ・グ「……よかった」
それだけ言って、彼もまた紅茶を口にした。
その時。
Xiは、ふと気づいた。
皇帝陛下の前だというのに。
みんな、普通に笑っている。
格式張った挨拶も、難しい政治の話もない。
クリスティンも、騎士として直立不動で控えているわけではない。
弥子と隣り合って、お菓子を食べている。
それだけのことが、なんだかとても嬉しかった。
◆ 6.本日は、ただのMHマイスターです
そんな穏やかなお茶会も、そろそろ終盤。
Xi「……ふぅ。今日は何も起きなくてよかった」
キラ「……まだ一日が終わったわけじゃないよ?」
Xi「……それ、言わないでよ」
その時。
「やあ! みんな、楽しそうだね!」
聞き覚えのある声。
Xi「…………」
キラ「…………」
ラクス「……あら」
Xiは、恐る恐る振り返った。
そこには。
レディオス・ソープが立っていた。
ソープ「こんにちは!」
Xi「…………」
Xi「……げっ」
ソープ「Xi! 僕の顔を見て『げっ』はないんじゃない?!」
Xi「……だって、ソープ様……」
ソープ「何?」
Xi「……いや、なんでもない!」
キラ「ソープさん、こんにちは」
ソープ「やあ、キラ君!」
ダイ・グ「……おや」
彼は、自然に立ち上がった。
ダイ・グ「お久しぶりです、ソープさん」
ソープ「やあ、ダイ・グ君! 元気だった?」
ダイ・グ「はい。おかげさまで」
クリスティン「…………!」
クリスティンは、一瞬、目を見開いた。
そして、ダイ・グへ小声で話しかけた。
クリスティン「……陛下」
ダイ・グ「……何だい?」
クリスティン「……あの御方、まさかアマ……」
ダイ・グ「いや、MHマイスター、ソープさんだよ。そういうこと」
クリスティン「…………」
一瞬。
そして、ゆっくりと頷いた。
クリスティン「……分かりました……!」
Xi(……さすがダイ・グ陛下! 話が早い!!)
ソープ「ん? どうしたの?」
ダイ・グ「いえ。今日はお会いできて嬉しいです」
ソープ「僕もだよ!」
クリスティン「……ソープさん。本日はよろしくお願いいたします」
ソープ「そんなにかしこまらなくていいよ! 今日はただの整備士だから!」
Xi(『ただの』って部分には、ものすごく異議があるんだけど!!)
◆
泉「……ソープさんは、こちらの皆さんのお知り合いなんですか?」
Xi「……うん。古い知り合いで……」
ソープ「レディオス・ソープです。MHの整備をやってます!」
泉「まあ! そうなんですね」
キラ「ソープさんは、本当にすごいマイスターなんですよ」
ソープ「ハハッ! ありがとう!」
泉「そうでしたか。今日は皆さんでお茶をしていたところなんです」
ソープ「いいね! 僕も一緒にいい?」
Xi「…………」
泉「……?」
Xiは、そっとソープを見た。
Xi「……ソープ様」
ソープ「ん?」
Xi「……今日は、ダイ・グさんとクリスティンさんの休日なんだ」
ソープ「うん」
Xi「……だから、あんまり予定を増やしたりしないでほしいな」
ソープ「……ああ!」
少し考えてから。
ソープ「……なるほど。そういうことか!」
Xi「……分かってくれた?」
ソープ「うん! じゃあ、僕はお茶を一杯いただいたら、別のところを見てくるよ!」
Xi「…………」
Xi「……え?」
ソープ「だって、二人の休暇を邪魔しちゃ悪いでしょ?」
Xi「…………」
Xi「……ソープ様」
ソープ「何?」
Xi「……ありがとう!!」
ソープ「……そんなに驚くこと?」
Xi「……いや、ちょっと……」
キラ「……ふふっ」
ラクス「まあ、ソープさん。お茶をお持ちしますわ」
ソープ「ありがとう!」
ダイ・グ「……ソープさん」
ソープ「ん?」
ダイ・グ「お気遣い、ありがとうございます」
ソープ「いやいや! 僕も自由に遊びたい時はあるからね!」
ダイ・グ「……ふふ」
ダイ・グ「そうですね」
二人は、顔を見合わせて笑った。
一人は、フィルモア帝国の皇帝。
もう一人は、A.K.D.の天照帝。
しかし、今日のこの場所では。
普通の青年ダイ・グと、MHマイスターのレディオス・ソープ。
それでいい。
誰も、その約束を破ろうとはしなかった。
◆
もっとも。
キラ「……あ、ソープさん」
ソープ「何?」
キラ「この間見せてもらったLEDミラージュについて、少し聞きたいことが……」
ソープ「おっ! いいね!」
Xi「…………」
ソープ「どこが気になったの?」
キラ「LEDミラージュの、あの半透明の外装の構成なんですけど……」
ソープ「なるほど! あれはね……」
Xi「…………」
泉「……Xi君?」
Xi「……何?」
泉「……お二人とも、楽しそうですね」
Xi「……うん」
泉「……それなら、少しお話ししていただいてもよろしいのでは?」
Xi「……そうだね」
キラとソープは、楽しそうにMHの技術談義を始めていた。
その内容の大半は、Xiにもよく分からなかった。
しかし。
Xi(……今日は、これでいいのかもしれないね)
ソープにとっても、ただの整備士として好きな話ができる。
キラにとっても、憧れの技術者と話せる。
ダイ・グとクリスティンにとっては、気兼ねなくお茶を飲める。
誰かの楽しみが、別の誰かの邪魔にならない。
そんな一日であればいい。
Xiは、少しだけ肩の力を抜いた。
……その直後。
ソープ「じゃあ、今度時間がある時に、実際の騎体を見ながら話そうよ!」
キラ「……本当ですか?!」
Xi「それは別の日にしてね!!」
ソープ「分かってるってば!」
キラ「……あはは!」
やっぱり、完全に気を抜くわけにはいかないらしい。
◆ 7.皇帝とハイランダー、普通の街を歩く
お茶会が終わった。
ソープは、キラともう少し技術談義を続けるという。
ラクスも、しばらく二人に付き合うことになった。
ソープ「じゃあ、ダイ・グ君、クリスちゃん! 楽しんできてね!」
ダイ・グ「ありがとうございます」
クリスティン「失礼いたします、ソープさん」
ソープ「またね!」
Xi「……ふぅ」
弥子「……Xi?」
Xi「……何?」
弥子「なんだか、疲れてない?」
Xi「……ううん。今日は全然大丈夫だよ」
泉「……Xi君」
Xi「……はい?」
泉「まだ観光は始まったばかりですよ」
Xi「…………」
Xi「……そうだった」
弥子「あははは!」
◆
その後、一行は街へと繰り出した。
特別に豪華な観光施設ではない。
ごく普通の街並み。
店先に並ぶ雑貨。
季節の花。
行き交う人々。
どこからか聞こえてくる、楽しそうな話し声。
ダイ・グ「……いいね」
Xi「……?」
ダイ・グ「こういう街を、ゆっくり歩くのも」
泉「気に入っていただけましたか?」
ダイ・グ「はい。とても」
クリスティン「……人々が、思い思いに過ごしているのですね」
泉「ええ。休日ですから」
ダイ・グ「……休日、か」
彼は、その言葉をゆっくりと繰り返した。
弥子「クリス! こっちのお店、見てみよう!」
クリスティン「……はい!」
弥子が指さしたのは、小さな雑貨店だった。
店先には、可愛らしい小物やアクセサリーが並んでいる。
弥子「見て! これ、可愛い!」
クリスティン「……まあ!」
弥子「こういうの、好き?」
クリスティン「……はい。素敵ですね」
弥子「じゃあ、一緒に見よう!」
クリスティン「……ふふ。はい!」
二人は、楽しそうに店へ入っていった。
泉「……私も、少しお付き合いしてきますね」
Xi「うん! よろしく!」
◆
ダイ・グは、その様子を穏やかに眺めていた。
Xi「……ダイ・グさん」
ダイ・グ「何かな?」
Xi「……クリスティンさん、楽しそうだね」
ダイ・グ「……うん」
Xi「フィルモアで初めて会った時は、もっと緊張してた気がするんだけど」
ダイ・グ「……そうだね」
少し考えてから。
ダイ・グ「クリスは、いつも一生懸命だから」
Xi「……うん」
ダイ・グ「だからこそ、ああして普通に笑っているところを見ると、僕も嬉しいんだ」
Xi「…………」
Xi「……そっか」
ダイ・グ「……ふふ」
Xi「……?」
ダイ・グ「Xi君たちには、感謝しているよ」
Xi「……え?」
ダイ・グ「クリスに、素敵な友達ができたからね」
Xi「…………」
Xi「……それなら、僕たちも嬉しいよ!」
ダイ・グ「……ありがとう」
二人は、微笑み合った。
その時だった。
弥子「ダイ・グさん! Xi!」
Xi「……ん?」
弥子「クリスに似合いそうなアクセサリー、見つけたよ!」
クリスティン「……あ、あの、弥子さん!」
弥子「見て見て!」
そこには、控えめな飾りのついた髪留めがあった。
弥子「どう? 可愛くない?」
Xi「……うん! いいね!」
クリスティン「……私には少々、可愛らしすぎるのでは……」
弥子「そんなことないよ!」
泉「私も、お似合いになると思いますよ」
クリスティン「……そうでしょうか」
弥子「うん!」
ダイ・グ「……僕も、似合うと思うよ」
クリスティン「…………!」
一瞬。
クリスティンの頬が、赤くなった。
クリスティン「……あ、ありがとうございます」
弥子「……!」
Xi「……!」
泉「……ふふ」
ダイ・グ「……クリス?」
クリスティン「……い、いえ!」
Xi(……なるほど)
Xiは、心の中で小さく頷いた。
Xi(……弥子ちゃんが色々言いたくなる気持ち、ちょっと分かってきた)
◆
買い物を終えた後、一行は近くの公園へ向かった。
広い芝生。
並木道。
小さな池。
水辺には、のんびりと羽を休める鳥たちの姿があった。
泉「この辺りは、ゆっくり散歩するのに良い場所なんですよ」
ダイ・グ「……綺麗ですね」
クリスティン「……はい」
Xi「……それじゃあ」
ダイ・グ「……?」
Xi「二人とも、少し自由に歩いてきてもいいよ」
クリスティン「……え?」
Xi「僕たちは、あっちの休憩所にいるから」
泉「連絡手段もありますし、必要な時はすぐに合流できますよ」
クリスティン「……ですが、警護が……」
Xi「姉弟子」
クリスティン「……はい?」
Xi「僕たち、何かあった時はちゃんと呼んでもらえるところにいるから」
クリスティン「…………」
Xi「だから、今はちょっとだけ、普通に散歩してきたら?」
ダイ・グ「…………」
そして。
ダイ・グ「……ありがとう、Xi君」
Xi「……うん!」
ダイ・グ「行こうか、クリス」
クリスティン「…………」
少しだけ迷ってから。
クリスティン「……はい」
二人は、並木道へと歩き出した。
Xiたちは、その後ろ姿を静かに見送った。
◆
しばらく歩いたところで。
ダイ・グ「……クリス」
クリスティン「……はい」
ダイ・グ「……今日は楽しい?」
クリスティン「…………」
そして。
クリスティン「……とても」
小さく、微笑んだ。
クリスティン「弥子さんも、Xiさんも、泉さんも、本当に親切で……」
ダイ・グ「……うん」
クリスティン「……それに、地球は素敵なところですね」
ダイ・グ「……そうだね」
少し、沈黙。
ダイ・グ「……僕も、楽しいよ」
クリスティン「……!」
ダイ・グ「クリスと、こうして街を歩けるから」
クリスティン「…………」
ほんの少し、頬が赤くなる。
クリスティン「……陛下」
ダイ・グ「……ふふ」
クリスティン「……あっ」
慌てて、周囲を見回した。
クリスティン「……ダイ・グさん」
ダイ・グ「……うん」
そして、二人は笑った。
ダイ・グ「……ここなら、国の人や他人の目を気にしなくていいね、クリス」
クリスティン「…………」
しばらく、言葉が出なかった。
やがて。
クリスティン「……はい」
小さく、頷いた。
クリスティン「……ダイ・グさん」
その声は、いつもよりほんの少し、柔らかかった。
二人は、ゆっくりと並木道を歩いていった。
誰も、特別なことはしない。
何かを約束するわけでもない。
ただ、同じ景色を見て。
同じ風を感じて。
一緒に歩く。
それだけで、十分だった。
◆
少し離れた休憩所。
弥子「…………」
Xi「……弥子ちゃん?」
弥子「…………」
Xi「……どうしたの?」
弥子「……あの二人」
Xi「……うん?」
弥子「……すっごく、いい感じじゃない?」
Xi「…………」
Xi「……弥子ちゃん」
弥子「……何?」
Xi「……声が大きくなる前に言っておくけど」
弥子「……うん?」
Xi「今日は、二人の邪魔しちゃ駄目だからね!!」
弥子「分かってるよ!」
Xi「……本当に?」
弥子「うん!」
泉「ふふ。お二人とも、楽しそうですね」
Xi「……うん」
弥子「……あの二人、これからも一緒に遊べたらいいなぁ」
Xi「……そうだね」
泉「そのためにも、今回の休日を良い思い出にしていただきましょう」
Xi「……うん!」
弥子「……じゃあさ!」
Xi「……何?」
弥子「私たちも、あそこでジェラート買ってこようよ!」
Xi「…………」
Xi「弥子ちゃん!! ここでも食べ物?!」
弥子「だって、休憩所のすぐ隣に売ってるんだもん!」
泉「……ふふ。せっかくですし、いただきましょうか」
Xi「……泉さんまで?!」
バクスチュアル「……Xiサン。ジェラート、食ベル?」
Xi「…………」
Xi「……うん。僕も食べようかな」
弥子「やったぁ!!」
こうして。
皇帝とハイランダーは、静かな公園を散歩。
怪物強盗と女子高生と雑誌編集者は、休憩所でジェラート。
バクスチュアルも、その隣で穏やかな時間を過ごした。
誰も、何かに追われていない。
誰も、何かを背負わされていない。
ほんのひととき。
それぞれが、普通の休日を楽しんでいた。
◆ 8.今日の危険物処理件数、ゼロ
夕方。
一行は、その日の観光を終え、宿泊先へ向かっていた。
弥子「……楽しかったねぇ!」
クリスティン「はい。本当に!」
ダイ・グ「皆さん、今日はありがとう」
泉「こちらこそ。楽しんでいただけたなら何よりです」
Xi「……うん!」
クリスティン「明日も、楽しみにしています」
弥子「私も!」
Xi「……明日は、もう少し街を案内する予定だよ」
泉「もちろん、ご希望に合わせて変更できますからね」
ダイ・グ「……ありがとう」
彼は、嬉しそうに微笑んだ。
ダイ・グ「こんなに普通の休日を過ごせるとは、思っていなかったよ」
Xi「…………」
ダイ・グ「特別なことをしなくても、楽しいものなんだね」
クリスティン「……はい」
Xi「……そうだね」
少しだけ、笑った。
Xi「……僕たちも、今日は楽しかったよ」
弥子「もちろん!」
クリスティン「……ありがとうございます」
そして、弥子が嬉しそうに声を上げた。
弥子「クリス! 明日は一緒にお洋服も見ようね!」
クリスティン「はい!」
弥子「それから、ケーキ屋さんも!」
クリスティン「ふふ。楽しみにしています」
Xi「……弥子ちゃん」
弥子「……何?」
Xi「明日も食べ物が中心になってない?!」
弥子「そんなことないよ! ちゃんとお洋服も見に行くもん!」
泉「……ふふ。予定は私が調整しますから、ご安心ください」
Xi「……泉さん。本当にありがとう」
一同が笑った。
◆
その夜。
Xiは、端末を開いていた。
今日の業務報告をまとめるためである。
報告先は、ログナー司令。
今回の任務には、正式な契約がある。
日当はフェザーゴールド金貨2枚。
バクスチュアルの補佐。
必要経費は別途精算。
そして、シックス製品による危険物処理が発生した場合には、特別手当。
Xi「……よし」
画面に、今日の内容を入力していく。
『フィルモア皇帝ダイ・グ・フィルモア5世および皇帝代理騎士クリスティン・ビィの地球滞在支援。
一日目の行程、予定どおり終了。
警護上の重大な問題なし。
現地観光、食事、移動ともに異常なし。
危険物処理件数、ゼロ。』
Xi「…………」
少しだけ、画面を見つめた。
そして。
Xi「……ふふっ」
嬉しそうに笑った。
バクスチュアル「……Xiサン?」
Xi「……ん?」
バクスチュアル「……楽シソウ」
Xi「……うん」
バクスチュアル「……今日、平和ダッタ」
Xi「……そうだね」
バクスチュアル「……良カッタ」
Xi「……本当に」
しばらく、沈黙。
Xi「……ねえ、バクスチュアル」
バクスチュアル「何?」
Xi「……僕、今まで色々な仕事をしてきたけどさ」
バクスチュアル「……ウン」
Xi「……今日は、ちょっと変わった仕事だったね」
バクスチュアル「……ウン」
Xi「誰かから何かを盗んだわけでもないし、戦ったわけでもない」
バクスチュアル「……ウン」
Xi「……ただ、友達と遊んでただけみたい」
バクスチュアル「…………」
そして。
バクスチュアル「……ソレデ、良イ」
Xi「……え?」
バクスチュアル「……Xiサン。ミンナ、笑ッテタ」
Xi「…………」
バクスチュアル「……ソレガ、今日ノ仕事」
Xi「…………」
しばらくして。
Xi「……そっか」
小さく、笑った。
Xi「……そうだね」
バクスチュアル「……ウン」
Xi「……じゃあ、今日の任務は成功かな?」
バクスチュアル「……成功」
Xi「……うん!」
その時。
端末が小さく音を立てた。
ログナーからの返信だった。
『報告を確認した。
異常がないのは何よりだ。
明日も引き続き頼む。
ログナー』
Xi「…………」
Xi「……ふふっ」
バクスチュアル「……?」
Xi「……ログナー司令、こういう時はちゃんと喜んでくれるんだね」
バクスチュアル「……ウン」
Xi「……よし!」
端末を閉じた。
Xi「明日も頑張ろう!」
バクスチュアル「……ウン!」
◆
その頃。
地球の宿泊先。
ダイ・グは、窓の向こうに広がる街の明かりを眺めていた。
クリスティン「……陛下」
ダイ・グ「……クリス」
クリスティン「……本日は、お疲れさまでございました」
ダイ・グ「ふふ。ありがとう。でも、全然疲れていないよ」
クリスティン「……そうですか?」
ダイ・グ「うん」
少し笑った。
ダイ・グ「……楽しかったね」
クリスティン「…………」
そして。
クリスティン「……はい」
ダイ・グ「……弥子さんと、また会えてよかった?」
クリスティン「……はい。とても」
ダイ・グ「……ふふ」
クリスティン「……ですが」
ダイ・グ「……?」
クリスティン「……私、今日一日、ほとんど何もしておりません」
ダイ・グ「……そう?」
クリスティン「……警護として同行したにもかかわらず、ただ皆さんとお茶を飲んで、街を歩いて……」
ダイ・グ「……うん」
クリスティン「……それでよかったのでしょうか」
ダイ・グ「…………」
しばらく考えてから、穏やかに言った。
ダイ・グ「……クリス」
クリスティン「……はい?」
ダイ・グ「何も起きなかったんだから、それでいいんだよ」
クリスティン「…………」
ダイ・グ「君がいてくれたから、安心して出かけられたんだ」
クリスティン「……!」
ダイ・グ「それに……」
クリスティン「……?」
ダイ・グ「僕は、君と一緒に歩けて嬉しかったよ」
クリスティン「…………!」
ダイ・グ「……ありがとう、クリス」
クリスティン「…………」
少しだけ、頬が赤くなった。
そして。
クリスティン「……こちらこそ」
小さく、微笑んだ。
クリスティン「……ありがとうございます、陛下」
ダイ・グ「……ふふ」
今は、誰もいない。
だから、いつもの呼び方に戻っていても構わない。
皇帝と、ハイランダー。
その立場は変わらない。
けれど、今夜の二人には。
明日も一緒に過ごせる休日があった。
◆
一方、その少し離れた場所では。
弥子「……あっ! Xi!」
Xi「……何?」
弥子「二人に、帰りに渡すお土産、どうしよう?」
Xi「……お土産?」
弥子「うん! フィルモアに持って帰ってもらうやつ!」
Xi「……ああ」
弥子「例の、変わり種ラムネの詰め合わせ!」
Xi「…………」
Xi「……弥子ちゃん」
弥子「……何?」
Xi「……それ、ちゃんと帰国してから飲んでもらうんだよね?」
弥子「もちろん!」
Xi「……よし」
弥子「普通のラムネも入れておくよ!」
Xi「……うん」
弥子「……一番少ないけど!」
Xi「そこは普通のラムネを一番多くしてよ!!」
弥子「あははは!」
Xi「……もう!」
こうして。
地球での一日目は、何事もなく終わった。
誰も怪我をしなかった。
誰も危険な食品を口にしなかった。
シックス製品も届かなかった。
ただ、紅茶を飲み。
ケーキを食べ。
街を歩き。
友達と笑い合った。
そして、フィルモア皇帝と皇帝代理騎士は、久しぶりに穏やかな休日を過ごすことができた。
怪物強盗Xi。
本日の任務。
皇帝の休日を守ること。
危険物処理件数、ゼロ。
騒動、ゼロ。
そして。
笑顔、たくさん。
それが、今日の成果だった。