守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
◆ 1.楽しい時間は、あっという間
地球滞在、四日目。
ホテルの窓から、穏やかな朝日が差し込んでいた。
ダイ・グ・フィルモア5世は、窓辺に立って街並みを眺めていた。
ここから見える景色も、今日で見納めになる。
遠くを走る車。
道を歩く人々。
開店の準備をする店。
地球では、ごくありふれた朝の風景だった。
ダイ・グ「……もう、四日目なんだね」
傍らに立つクリスティン・ビィが、小さく頷いた。
クリスティン「……はい」
ダイ・グ「早かったなぁ」
クリスティン「……そうですね」
少しだけ、沈黙。
ダイ・グ「……クリス」
クリスティン「はい?」
ダイ・グ「……楽しかった?」
クリスティン「…………」
彼女は、少しだけ驚いたように目を瞬かせた。
そして。
クリスティン「……はい。とても」
穏やかに微笑んだ。
クリスティン「こんなに楽しい時間を過ごせるとは、思っていませんでした」
ダイ・グ「……よかった」
クリスティン「……陛下は?」
ダイ・グ「……僕もだよ」
そして、彼女を見つめた。
ダイ・グ「クリスと一緒だったからね」
クリスティン「…………!」
ダイ・グ「……ふふ」
クリスティン「……あ、ありがとうございます」
ダイ・グ「……うん」
彼は、もう一度窓の外へ目を向けた。
今日は帰国の日。
明日からは、再びフィルモア帝国の皇帝として、数多くの責務を果たしていかなければならない。
クリスティンも、皇帝代理騎士としての務めに戻る。
それは、変えられない。
けれど。
ダイ・グ「……また来たいね」
クリスティン「…………」
ダイ・グ「今度は、もう少し長く休めたらいいな」
クリスティン「……ふふ」
そして。
クリスティン「……はい」
嬉しそうに頷いた。
◆
一方。
同じホテルの朝食会場では。
弥子「……じゃあ、今日のお昼までに、お土産を買って……」
泉「ええ。帰国の時間から逆算して、少し余裕を持って行動しましょう」
Xi「……うん!」
バクスチュアル「……荷物、確認済ミ」
Xi「ありがとう、バクスチュアル!」
弥子「……あっ!」
Xi「……ん?」
弥子「そういえば!」
Xi「……何?」
弥子「フィルモアのみんなにも、何か面白いものを買って帰ってもらいたいよね!」
Xi「……そうだね!」
弥子「……じゃあ、例の変わり種ラムネのほかにも……」
Xi「…………」
弥子「何か面白そうなもの、忘れてないかな?」
Xi「…………」
Xi「弥子ちゃんは、こっそり地雷をお土産に仕掛けるの禁止!!」
弥子「え~!!」
泉「……桂木さん」
弥子「……はい?」
泉「お土産は、相手の方に喜んでいただくためのものですよ?」
弥子「……もちろんです!」
泉「……驚かせるためのものではありませんよ?」
弥子「…………」
Xi「……弥子ちゃん?」
弥子「……はーい」
Xi「今、一瞬考えたでしょ!!」
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◆ 2.皇帝陛下のお土産選び
朝食後。
一行はチェックアウトを済ませ、荷物を預けてから、近くの商業施設へ向かった。
今日の目的は、フィルモア帝国へのお土産選び。
泉「こちらなら、お菓子から雑貨まで色々と揃いますよ」
ダイ・グ「ありがとうございます」
クリスティン「楽しみですね」
弥子「うん!」
Xi「……ただし、珍味コーナーはほどほどにね?」
弥子「分かってるってば!」
◆
最初に訪れたのは、菓子店だった。
色とりどりの箱。
美しい包装紙。
可愛らしいデザインの焼き菓子。
クリスティン「……まあ。素敵ですね」
弥子「クリス! これなんかどう?」
差し出したのは、小さな花の形をした焼き菓子の詰め合わせだった。
クリスティン「……可愛らしい!」
弥子「味も色々あるんだよ!」
クリスティン「……では、町へのお土産に……」
ダイ・グ「チャンダナにも、何か選ぼうかな」
Xi「……ああ! 二人にもね!」
バクスチュアル「……町、喜ブ」
クリスティン「……ふふ。そうでしょうか」
バクスチュアル「……ウン」
少し考えてから、バクスチュアルは別の箱を指さした。
バクスチュアル「……チャンダナ、コレモ好キソウ」
ダイ・グ「……ありがとう。じゃあ、こちらもいただこうかな」
Xi「……バクスチュアルは、二人のお姉さんだもんね」
バクスチュアル「……ウン」
クリスティン「……ありがとうございます」
バクスチュアル「……ドウイタシマシテ」
◆
続いて、雑貨店。
クリスティンは、可愛らしい小物を眺めていた。
弥子「……あっ! クリス!」
クリスティン「はい?」
弥子「これ見て!」
星の形をしたアクセサリー。
クリスティン「……あら」
弥子「昨日、一緒に選んだチャームと似てる!」
クリスティン「……本当ですね」
弥子「……えへへ!」
クリスティン「……ふふ」
彼女は、鞄につけた小さな星のチャームに手を触れた。
弥子と一緒に選んだものだった。
弥子「……大事にしてくれてるんだね」
クリスティン「……もちろんです」
弥子「……!」
クリスティン「……お友達と一緒に選んだ、大切なものですから」
弥子「…………」
そして。
弥子「……えへへ!」
嬉しそうに笑った。
◆
少し離れたところでは、ダイ・グが別の棚を眺めていた。
Xi「……ダイ・グさん?」
ダイ・グ「……ああ、Xi君」
Xi「何かいいもの見つかった?」
ダイ・グ「……うん。宮廷の皆にも、何か持って帰ろうと思ってね」
Xi「……なるほど」
ダイ・グ「今回の休暇は、皆が政務を調整してくれたおかげだから」
Xi「……うん」
ダイ・グ「だから、せめて感謝の気持ちを伝えたいんだ」
Xi「…………」
少しだけ、微笑んだ。
Xi「……ダイ・グさんらしいね」
ダイ・グ「……そうかな?」
Xi「……うん!」
ダイ・グ「……ありがとう」
彼が選んだのは、落ち着いた包装の菓子折りや、地球らしい意匠の小物だった。
豪華な宝飾品ではない。
それでも、選ぶ一つ一つに、受け取る相手への気遣いが感じられた。
Xi(……やっぱり、この人はいい皇帝なんだろうな)
そんなことを思った。
◆
その時。
弥子「……Xiー!」
Xi「……何?」
弥子「……ちょっと、こっち来て!」
Xi「……?」
弥子が指さしたのは、変わり種食品のコーナーだった。
Xi「…………」
Xi「……弥子ちゃん」
弥子「……?」
Xi「なんでそこにいるの?!」
弥子「だって面白いものがいっぱいあるんだもん!」
Xi「……何を見つけたの?」
弥子「……カレー味のキャンディ!」
Xi「…………」
弥子「それから、たこ焼き風味のお菓子!」
Xi「……それは普通にありそうだけど」
弥子「わさび味のチョコレート!」
Xi「…………」
弥子「……どう?」
Xi「……弥子ちゃん」
弥子「……何?」
Xi「変わり種ラムネだけで十分だよ!!」
弥子「え~……」
泉「……桂木さん。お土産を受け取る皆さんのことも考えましょうね」
弥子「……はーい」
Xi「……本当に泉さんがいてくれてよかった……」
wwwwww
◆ 3.地球の地雷原、ついに輸出される
お土産選びも、そろそろ終わり。
一行は、休憩スペースに集まっていた。
ダイ・グ「……皆さん、今日はありがとう」
Xi「……うん!」
クリスティン「素敵なお土産が、たくさん選べました」
弥子「……あっ!」
Xi「……?」
弥子「そうだ! 忘れるところだった!」
Xi「…………」
Xi「……まさか」
弥子「ダイ・グさん! クリス!」
ダイ・グ「……?」
弥子「これ、私からのお土産です!!」
差し出されたのは、色とりどりの瓶が詰められた箱だった。
ダイ・グ「……まあ!」
クリスティン「……綺麗な瓶ですね」
弥子「地球のラムネっていう飲み物です!」
ダイ・グ「……ああ。炭酸飲料だね」
弥子「そうです!」
Xi「…………」
弥子「しかも、今回は特別に!」
Xi「…………」
弥子「変わり種ラムネの詰め合わせ!!」
Xi「……やっぱり!!」
ダイ・グ「……変わり種?」
クリスティン「……どのようなものなのでしょう?」
弥子「えっとね!」
箱を開ける。
弥子「カレー味!」
ダイ・グ「……カレー?」
弥子「たこ焼き風味!」
クリスティン「……たこ焼き……?」
弥子「わさび風味!」
ダイ・グ「…………」
クリスティン「…………」
弥子「あと、普通のラムネも二本!」
Xi「普通のラムネが少なすぎる!!」
弥子「だって、珍しいものを楽しんでほしいじゃない!」
Xi「……いや、気持ちは分かるけど!」
ダイ・グ「……ふふ」
Xi「……?」
ダイ・グ「面白そうだね」
Xi「…………!」
クリスティン「……はい。地球には色々な飲み物があるのですね」
弥子「でしょ?!」
Xi「……あの、二人とも」
ダイ・グ「……?」
Xi「一応、言っておくけど」
ダイ・グ「……うん」
Xi「味が好みに合わなかったら、無理して飲まなくていいからね?!」
ダイ・グ「……ふふ。分かったよ」
クリスティン「ありがとうございます、Xiさん」
Xi「……うん!」
泉「普通のラムネからお試しになると、違いも分かりやすいと思いますよ」
弥子「……なるほど!」
Xi「……泉さん、最後までありがとう……」
◆
ダイ・グ「……でも、弥子さん」
弥子「はい?」
ダイ・グ「本当にありがとう。宮廷の皆とも楽しませてもらうよ」
弥子「……!」
クリスティン「私も、とても嬉しいです」
弥子「……えへへ!」
そして。
弥子「じゃあ、今度感想を聞かせてね!」
ダイ・グ「……うん」
クリスティン「もちろんです!」
Xi「…………」
Xi(……宮廷料理長さん、ごめんなさい)
まだ会ったことのないフィルモアの料理長へ、心の中で謝罪した。
……もっとも。
今回は、あくまで市販の変わり種ラムネである。
危険な飲み物ではない。
ただ、味が少々……いや、相当に独創的なだけだった。
Xi(……まあ、シックス製品じゃないだけ、ずっといいよね)
そう考えることにした。
地球の地雷原、その一部が、ついにフィルモア帝国へ輸出されることになった。
もちろん、味覚的な意味である。
◆ 4.また会う日まで
帰国の時間が近づいてきた。
一行は、地球での見送り場所へ集まっていた。
キラとラクスも、最後の挨拶に駆けつけていた。
キラ「……ダイ・グさん、クリスティンさん。四日間、楽しかった?」
ダイ・グ「うん。本当に」
クリスティン「皆さんには、とてもお世話になりました」
ラクス「ふふ。こちらこそ、お会いできて嬉しかったですわ」
ダイ・グ「また、ぜひお会いしたいですね」
ラクス「ええ。いつでも歓迎いたします」
キラ「……今度は、もう少しゆっくりMHの話もしたいですね」
Xi「キラ!! 最後までそれ?!」
キラ「……あはは」
ダイ・グ「ふふ。もちろんだよ」
◆
泉「お二人とも、どうぞお気をつけてお帰りくださいね」
クリスティン「泉さんにも、大変お世話になりました」
泉「いえいえ。楽しく過ごしていただけたなら、それが一番です」
ダイ・グ「おかげで、色々なところを見て回れました」
泉「ふふ。次にいらした時も、ぜひご相談ください」
Xi「……泉さん。本当にありがとう!」
泉「どういたしまして」
そして。
バクスチュアル「……町、チャンダナニ、ヨロシク」
クリスティン「はい。必ず伝えます」
ダイ・グ「二人にも、バクスチュアルからのお土産だと伝えるよ」
バクスチュアル「……ウン」
小さく、頷いた。
◆
弥子「……クリス!」
クリスティン「……弥子さん!」
二人は、向かい合った。
弥子「……四日間、楽しかったね」
クリスティン「……はい」
弥子「一緒にお洋服を見たり、もんじゃ焼きを作ったり!」
クリスティン「……ふふ。とても楽しかったです」
弥子「……また、一緒に遊ぼうね!」
クリスティン「…………」
少しだけ、目を伏せた。
弥子「……クリス?」
クリスティン「……はい」
そして。
クリスティン「……必ず」
小さく、微笑んだ。
クリスティン「……また、お会いしましょう」
弥子「……うん!」
二人は、鞄につけた星のチャームを見せ合った。
同じ店で、二人で選んだもの。
地球とフィルモア。
遠く離れていても、友達であることに変わりはない。
弥子「……えへへ!」
クリスティン「……ふふ!」
そして、二人はそっと抱き合った。
◆
Xi「……ダイ・グさん」
ダイ・グ「……Xi君」
Xi「……四日間、どうだった?」
ダイ・グ「……ふふ」
少し考えてから。
ダイ・グ「……忘れられない四日間になったよ」
Xi「…………」
ダイ・グ「こんなふうに、普通の街を歩いて、友達と食事をして……」
Xi「……うん」
ダイ・グ「……クリスと一緒に、ゆっくり過ごすことができた」
Xi「…………」
ダイ・グ「……本当にありがとう」
Xi「…………」
少しだけ、照れくさそうに笑った。
Xi「……どういたしまして!」
ダイ・グ「……ふふ」
Xi「……でもさ」
ダイ・グ「……?」
Xi「今回が最後ってわけじゃないんだからね!」
ダイ・グ「…………」
Xi「また休暇が取れたら、遊びに来てよ!」
ダイ・グ「…………」
Xi「僕たちも、またフィルモアに遊びに行くし!」
ダイ・グ「……うん」
彼は、嬉しそうに頷いた。
ダイ・グ「……そうだね」
Xi「……うん!」
ダイ・グ「また、皆さんに会いに来るよ」
Xi「……約束だよ!」
ダイ・グ「……約束するよ」
二人は、笑い合った。
◆
ダイ・グ「……それじゃあ、皆さん」
クリスティン「……本当に、ありがとうございました」
弥子「またねー!!」
キラ「気をつけて!」
ラクス「どうぞ、お元気で」
泉「よい旅を!」
Xi「……またね! 兄弟子! 姉弟子!」
クリスティン「……ふふ!」
ダイ・グ「……うん!」
二人は、笑顔で手を振った。
そして。
フィルモア帝国へと帰っていった。
◆
姿が見えなくなってから。
弥子「…………」
Xi「……弥子ちゃん?」
弥子「……行っちゃったね」
Xi「……うん」
弥子「……楽しかったなぁ」
Xi「……そうだね」
少しだけ、沈黙。
弥子「……でも」
Xi「……?」
弥子「また会えるもんね!」
Xi「…………」
そして。
Xi「……うん!」
嬉しそうに笑った。
Xi「……そうだね!」
バクスチュアル「……任務、完了」
Xi「……うん!」
泉「……お疲れさまでした、皆さん」
キラ「無事に終わってよかったね」
ラクス「ふふ。お二人とも、とても幸せそうでしたわ」
弥子「……うん!」
Xi「……よし!」
軽く伸びをした。
Xi「これで、四日間のお目付け役任務、無事終了!!」
弥子「お疲れさま!」
Xi「……ありがとう!」
……もっとも。
請求書の作成という、もう一つの仕事が残っていたのだが。
◆ 5.皇帝陛下、ご帰還
フィルモア帝国。
皇帝宮。
ダイ・グとクリスティンの帰還を、宮廷の人々が出迎えていた。
側近「陛下。お帰りなさいませ」
ダイ・グ「ただいま。留守中、ありがとう」
側近「いえ。政務については、予定どおり対応しております」
ダイ・グ「……ありがとう。助かったよ」
側近「……ご休暇はいかがでしたか?」
ダイ・グ「…………」
少しだけ、微笑んだ。
ダイ・グ「……とても楽しかったよ」
側近「…………」
そして。
側近「……それは何よりでございます」
静かに頭を下げた。
◆
クリスティン「皆様にも、ご心配をおかけしました」
側近「いえ、クリスティン様。陛下の警護、お疲れさまでございました」
クリスティン「……ありがとうございます」
側近「……何事もなく、お帰りいただけて安心いたしました」
クリスティン「……はい」
その時。
側近は、彼女の鞄についた小さな星のチャームに気づいた。
側近「……おや」
クリスティン「……?」
側近「……素敵な飾りですね」
クリスティン「…………!」
少しだけ、頬が赤くなる。
クリスティン「……あ、ありがとうございます」
側近「……地球でお求めになったのですか?」
クリスティン「……はい」
側近「……そうでしたか」
穏やかに微笑んだ。
側近「……よい思い出になったようですね」
クリスティン「…………」
そして。
クリスティン「……はい」
小さく、微笑んだ。
側近「……何よりでございます」
◆
宮廷の人々は、今回の訪問の事情を知らないわけではなかった。
皇帝が、わざわざクリスティンを警護として同行させたこと。
そして、彼女自身にも、普通の休日を楽しんでほしいと願っていたこと。
それを察している者は、少なくなかった。
ただ、誰も余計なことは言わなかった。
皇帝陛下の私的な時間について、詮索する必要はない。
まして、クリスティンの過去や立場を持ち出して、せっかくの思い出を曇らせる必要もない。
側近「……陛下」
ダイ・グ「……何かな?」
側近「……また、こうした機会を設けられるとよろしいですね」
ダイ・グ「…………」
少しだけ、驚いた顔をした。
そして。
ダイ・グ「……ふふ」
嬉しそうに微笑んだ。
ダイ・グ「……ありがとう」
側近「……いえ」
クリスティン「…………」
彼女も、少しだけ微笑んだ。
二人を温かく見守る人々は、フィルモアにもちゃんといる。
それが、何より心強かった。
◆ 6.フィルモア宮廷料理長、地球の食文化を知る
翌日。
皇帝宮の一室。
宮廷料理長が、今回の地球訪問について話を聞いていた。
料理長「……陛下。地球では、色々なお料理を召し上がったそうですね」
ダイ・グ「うん。どれも美味しかったよ」
料理長「それは何よりでございます」
ダイ・グ「……特に、もんじゃ焼きという料理が面白かったな」
料理長「……もんじゃ焼き?」
クリスティン「はい。鉄板で具材を炒めて、皆さんで一緒に仕上げるんです」
料理長「……ほう!」
ダイ・グ「ちょっと失敗したりもしたけれど、それも楽しかったよ」
料理長「……なるほど」
興味深そうに頷いた。
料理長「完成した料理を提供するだけでなく、調理する過程も楽しむのですね」
ダイ・グ「……そういうことだね」
料理長「……実に興味深い食文化でございます」
クリスティン「……ふふ」
◆
料理長「ほかには、どのようなものを?」
ダイ・グ「……そうだね。とても珍しい珈琲をいただいたよ」
料理長「……珍しい珈琲、でございますか?」
ダイ・グ「うん」
クリスティン「ブラック・アイボリーという名前でした」
料理長「……ほう!」
ダイ・グ「象が食べた珈琲の実を、排泄物から回収して加工するんだそうだ」
料理長「…………」
クリスティン「……もちろん、きちんと洗浄や焙煎を行ったものです」
料理長「…………」
ダイ・グ「……?」
料理長「……陛下」
ダイ・グ「何かな?」
料理長「……象、でございますか?」
ダイ・グ「……うん」
料理長「……あの、大きな動物の?」
ダイ・グ「そうだよ」
料理長「…………」
ダイ・グ「……ふふ」
クリスティン「……とても美味しかったですよ」
料理長「……さようでございますか」
少し考えてから。
料理長「……では、製法について、もう少し詳しくお聞かせいただけますでしょうか」
ダイ・グ「もちろんだよ」
◆
説明を終えた後。
料理長「……なるほど。大変勉強になりました」
ダイ・グ「……うん」
料理長「……しかし、地球には興味深い食品があるものですね」
クリスティン「……それから、動物園ではジャコウネコという動物も見ました」
料理長「……ジャコウネコ?」
ダイ・グ「うん。その動物も、珍しい珈琲に関係しているそうだよ」
料理長「…………」
ダイ・グ「……?」
料理長「……陛下」
ダイ・グ「……何かな?」
料理長「……地球の動物園とは、珈琲豆の製造施設なのでございましょうか?」
ダイ・グ「いや、それは違うよ?!」
クリスティン「……ふふふっ!」
料理長「……あっ、失礼いたしました!」
ダイ・グ「……ふふふ!」
クリスティン「……あははっ!」
和やかな笑い声が響いた。
◆
料理長「……ところで陛下」
ダイ・グ「……うん?」
料理長「地球から、珍しい飲み物もお持ち帰りになったと伺いましたが」
ダイ・グ「……ああ!」
クリスティン「弥子さんからいただいたお土産です」
料理長「……それはぜひ、拝見したく存じます」
ダイ・グ「……いいよ」
取り出されたのは、あの箱だった。
変わり種ラムネ詰め合わせ。
料理長「……まあ! 美しい瓶ですね」
ダイ・グ「……ふふ。色々な味が入っているんだ」
料理長「……さようでございますか」
一本を手に取る。
料理長「…………」
料理長「……カレー味」
ダイ・グ「……うん」
次の瓶。
料理長「……たこ焼き風味」
クリスティン「……はい」
さらに。
料理長「……わさび風味」
ダイ・グ「……ふふ」
料理長「…………」
しばらく、沈黙。
料理長「……陛下」
ダイ・グ「……?」
料理長「これは、飲料でございますよね?」
ダイ・グ「……そうだよ」
料理長「…………」
料理長「……なぜ、料理を飲み物に……?」
ダイ・グ「……それは僕にも分からないな」
クリスティン「……ふふふっ!」
◆
料理長「……では、まず通常のラムネを確認させていただきましょう」
ダイ・グ「……うん」
料理長「…………」
箱の中を確認する。
料理長「……陛下」
ダイ・グ「……?」
料理長「通常のラムネが、二本しかございません。」
ダイ・グ「……ふふっ」
クリスティン「……あははっ!」
料理長「……?」
ダイ・グ「弥子さんらしいね」
クリスティン「……本当に」
料理長「……さようでございますか?」
二人は、顔を見合わせて笑った。
◆
やがて、料理長の手によって通常のラムネが開けられた。
軽快な音。
透明なグラスに注がれる、炭酸飲料。
料理長「……なるほど。爽やかな香りですね」
ダイ・グ「……うん」
クリスティン「……美味しそうです」
三人は、少しずつ味わった。
料理長「……これは、美味しいですね」
ダイ・グ「……そうだね」
クリスティン「……はい」
料理長「……それでは、次はこちらを……」
選んだのは。
たこ焼き風味。
ダイ・グ「…………」
クリスティン「…………」
料理長「…………」
少量をグラスに注ぐ。
料理長「……独特の香りがございますね」
ダイ・グ「……そうだね」
一口。
料理長「…………」
ダイ・グ「…………」
クリスティン「…………」
料理長「…………」
ダイ・グ「……どう?」
料理長「…………」
しばらく考えてから。
料理長「……確かに、たこ焼きを連想させる風味がございます」
ダイ・グ「……うん」
料理長「……しかし」
クリスティン「……?」
料理長「なぜ、炭酸を加えたのでしょうか。」
ダイ・グ「…………」
クリスティン「…………」
そして。
ダイ・グ「……ふふふっ!」
クリスティン「……あはははっ!」
料理長「……陛下?!」
思わず、二人は笑ってしまった。
料理長「……?」
ダイ・グ「……ごめん。料理長」
料理長「……いえ」
ダイ・グ「……地球ではね、こういう変わった味を楽しむ文化もあるんだそうだよ」
料理長「……なるほど」
クリスティン「……弥子さんが、とても楽しそうに選んでくださったんです」
料理長「……そうでしたか」
ダイ・グ「……うん」
料理長は、改めて瓶を眺めた。
料理長「……確かに、食文化とは興味深いものでございますね」
ダイ・グ「……ふふ」
料理長「味覚を楽しむだけではなく、驚きや話題性も含めて楽しむ……」
クリスティン「……はい」
料理長「……勉強になります」
そして、静かに微笑んだ。
料理長「素敵なお友達からのお土産でございますね」
ダイ・グ「…………」
クリスティン「…………」
そして。
ダイ・グ「……うん」
クリスティン「……はい」
二人は、嬉しそうに頷いた。
地球の食文化は、フィルモア宮廷料理長に新たな知見をもたらした。
……ただし。
カレー味とわさび風味のラムネは、まだ箱の中に残っている。
料理長の研究は、しばらく続きそうだった。
◆ 7.それぞれの思い出
その日の午後。
クリスティンは、町へのお土産を渡していた。
町「……クリスティン様。これは?」
クリスティン「地球で買ってきたお菓子よ」
町「……まあ!」
クリスティン「バクスチュアルにも、選ぶのを手伝ってもらったの」
町「……バクスチュアルが?」
クリスティン「ええ。町が喜びそうだって」
町「……ふふ」
嬉しそうに微笑んだ。
町「ありがとうございます。大切にいただきます」
クリスティン「……うん」
そして。
町「……クリスティン様」
クリスティン「……?」
町「……楽しいご旅行でしたか?」
クリスティン「…………」
少しだけ、驚いた顔をした。
そして。
クリスティン「……ええ」
柔らかく微笑んだ。
クリスティン「……とても、楽しかったわ」
町「…………」
嬉しそうに頷いた。
町「……それは、何よりです」
◆
ダイ・グも、チャンダナへお土産を渡していた。
チャンダナ「……ありがとうございます、陛下」
ダイ・グ「……ふふ。気に入ってもらえたら嬉しいな」
チャンダナ「……はい」
少しだけ、間を置いた。
チャンダナ「……陛下」
ダイ・グ「……?」
チャンダナ「……ご休暇中は、ゆっくりお休みになれましたか?」
ダイ・グ「……うん」
微笑んだ。
ダイ・グ「……とても、いい休暇だったよ」
チャンダナ「…………」
そして、静かに頭を下げた。
チャンダナ「……何よりでございます」
◆
夕方。
皇帝宮の庭園。
ダイ・グは、静かな道を歩いていた。
昼間の喧騒から離れた、穏やかな時間。
そこへ。
クリスティン「……陛下」
ダイ・グ「……クリス」
彼は、嬉しそうに微笑んだ。
ダイ・グ「……町には、お土産を渡せた?」
クリスティン「はい。とても喜んでくれました」
ダイ・グ「……よかった」
クリスティン「チャンダナはいかがでしたか?」
ダイ・グ「……うん。彼女も喜んでくれたよ」
クリスティン「……ふふ」
二人は、ゆっくり庭園を歩いた。
◆
ダイ・グ「……また、いつもの生活に戻ったね」
クリスティン「……はい」
ダイ・グ「……少し寂しいな」
クリスティン「…………」
彼女は、小さく頷いた。
クリスティン「……私もです」
ダイ・グ「…………」
そして。
ダイ・グ「……でも」
クリスティン「……?」
ダイ・グ「今度は、楽しみにできることが増えたね」
クリスティン「……楽しみにできること?」
ダイ・グ「……うん」
少しだけ、微笑んだ。
ダイ・グ「また、Xi君たちに会いに行けるかもしれない」
クリスティン「……!」
ダイ・グ「弥子さんも、また遊ぼうって言ってくれただろう?」
クリスティン「……はい」
ダイ・グ「……それに」
クリスティン「……?」
ダイ・グ「クリスと、また一緒に出かけたいからね。」
クリスティン「…………!」
少しだけ、頬が赤くなった。
ダイ・グ「……ふふ」
クリスティン「……陛下」
ダイ・グ「……何?」
クリスティン「……ありがとうございます」
ダイ・グ「……?」
クリスティン「……今回、私を連れて行ってくださって」
ダイ・グ「…………」
クリスティン「……本当に、幸せでした」
ダイ・グ「…………」
彼は、静かに微笑んだ。
ダイ・グ「……僕のほうこそ」
クリスティン「……?」
ダイ・グ「……ありがとう、クリス」
少しだけ、沈黙。
そして。
クリスティン「……はい」
嬉しそうに微笑んだ。
◆
クリスティンは、鞄についた星のチャームに手を触れた。
弥子と一緒に選んだもの。
小さな、地球のアクセサリー。
ダイ・グ「……その飾り」
クリスティン「……はい?」
ダイ・グ「……気に入っているんだね」
クリスティン「…………」
そして。
クリスティン「……はい」
静かに微笑んだ。
クリスティン「……弥子さんとの、友情の証ですから」
ダイ・グ「…………」
ダイ・グ「……そうだね」
彼も、嬉しそうに頷いた。
皇帝代理騎士。
ハイランダー。
その立場が、変わることはない。
けれど。
クリスティン・ビィという、一人の女性にとって。
地球での四日間は、確かに大切なものを残していた。
友達。
思い出。
そして。
また、誰かと楽しい時間を過ごしたいと思えること。
それは、何物にも代えがたい宝物だった。
◆ 8.怪物強盗、任務完了
一方。
地球。
Xiは、ログナー司令への最終報告を終えていた。
ログナー「……Xi」
Xi「……何?」
ログナー「四日間、ご苦労だった」
Xi「……うん!」
ログナー「フィルモア皇帝陛下方も、ご無事に帰国された」
Xi「……よかった!」
ログナー「……今回の報告についてだが」
Xi「……うん?」
ログナー「重大な事故、ゼロ」
Xi「……うん!」
ログナー「警護上の問題、ゼロ」
Xi「……うん!」
ログナー「危険物による実害、ゼロ」
Xi「……よし!」
ログナー「……ただし、ヘキサクス製品の持ち込み未遂、一件」
Xi「…………」
ログナー「……アルバート・ハインラインについては、別途注意しておく」
Xi「そこはぜひお願い!!」
ログナー「……承知した」
◆
ログナー「……報酬については、契約どおり支払う」
Xi「……ということは?」
ログナー「日当フェザーゴールド金貨2枚、四日分で計8枚。」
Xi「やった!」
ログナー「必要経費は別途精算だ」
Xi「……うん!」
ログナー「バクスチュアルの補佐についても、契約どおり認める」
Xi「ありがとう!」
ログナー「危険物処理手当は、今回は発生していない」
Xi「……うん」
ログナー「……不満か?」
Xi「…………」
少しだけ、考えた。
そして。
Xi「……ううん」
微笑んだ。
Xi「今回は、それが一番嬉しいよ!」
ログナー「…………」
Xi「だって、四日間、みんな無事だったんだから!」
ログナー「……うむ」
Xi「……二人とも、すっごく楽しそうだったしね!」
ログナー「……それは何よりだ」
少しだけ、口元が緩んだ。
◆
その時。
「ハハッ! ご苦労だったナ、Xi!」
Xi「……あっ!」
カイエン「おう! 外注後輩!」
Xi「師匠!! またそれ?!」
カイエン「ハハハッ! どうだったヨ? ダイ・グとクリスは!」
Xi「……うん!」
嬉しそうに笑った。
Xi「……すごく楽しそうだったよ!」
カイエン「……そうか」
Xi「姉弟子も、弥子ちゃんと一緒に買い物したり、お菓子を食べたり!」
カイエン「……ハハッ!」
Xi「兄弟子とも、動物園でデートしたんだ!」
カイエン「……ほう!」
Xi「……あっ」
カイエン「……?」
Xi「……師匠」
カイエン「なんだヨ?」
Xi「……二人が手をつないでたこと、内緒だよ?」
カイエン「…………」
そして。
カイエン「ハハハハッ!!」
Xi「師匠!! 声が大きい!!」
ログナー「…………」
Xi「……司令?」
ログナー「……いや」
少し、考えて。
ログナー「……いい休暇になったようだな」
Xi「…………」
Xi「……うん!」
カイエン「ハハッ! よかったじゃねぇか!」
Xi「……そうだね!」
◆
ログナー「……Xi」
Xi「……何?」
ログナー「……今後も、同様の依頼をすることがあるかもしれん」
Xi「…………」
Xi「……司令」
ログナー「……何だ?」
Xi「……僕、まだミラージュ騎士団に入団するとは言ってないからね?」
ログナー「……承知している」
Xi「……ならいいけど」
カイエン「ハハッ! まだまだ外注後輩だナ!」
Xi「だから師匠まで!!」
ログナー「……ただし、今回の働きは評価している」
Xi「…………」
Xi「……ありがとう」
ログナー「……うむ」
少しだけ、沈黙。
そして。
Xi「……でもさ」
ログナー「……?」
Xi「……次に二人が休暇を取る時も、僕たちで案内してあげたいな」
ログナー「…………」
Xi「……もちろん、ちゃんと契約してからだけど!」
カイエン「ハハッ!」
ログナー「……分かった」
Xi「……うん!」
嬉しそうに笑った。
◆
その夜。
いつものカフェテラス。
弥子「……Xi!」
Xi「……何?」
弥子「クリスから連絡が来たよ!」
Xi「……えっ!」
弥子「……ほら!」
画面には、短いメッセージが表示されていた。
『弥子さん。
無事にフィルモアへ帰りました。
地球での四日間、本当にありがとうございました。
一緒に選んだチャーム、大切にしています。
また、ぜひお会いしましょう。
クリスティン』
Xi「…………」
弥子「……えへへ!」
Xi「……よかったね!」
弥子「……うん!」
泉「ふふ。素敵なお友達ですね」
弥子「……はい!」
バクスチュアル「……町モ、喜ンダト思ウ」
Xi「……うん!」
そして。
弥子「……あっ! それから!」
Xi「……?」
弥子「ダイ・グさんからも伝言!」
Xi「……何て?」
弥子「『ラムネ、宮廷の皆で楽しませてもらいました』だって!」
Xi「…………」
Xi「……飲んだんだ?!」
弥子「うん!」
Xi「……たこ焼き風味も?!」
弥子「……たぶん!」
Xi「…………」
弥子「……?」
Xi「……宮廷料理長さん、大丈夫だったかな……」
弥子「……あははは!」
泉「……ふふふっ」
Xi「……まあ、喜んでもらえたならいいけどね」
弥子「……うん!」
しばらく、笑い声が続いた。
◆
やがて。
Xi「……弥子ちゃん」
弥子「……何?」
Xi「……また、クリスティンさんに会いに行こうね」
弥子「…………」
そして。
弥子「……もちろん!」
嬉しそうに笑った。
弥子「今度は、フィルモアで一緒に遊ぼう!」
Xi「……うん!」
弥子「……それから、ダイ・グさんとも!」
Xi「……そうだね!」
弥子「……あと、フィルモアの美味しいものも……」
Xi「弥子ちゃん!! 最後はやっぱり食べ物?!」
弥子「だって、まだ食べたことないものがいっぱいあるんだもん!」
Xi「……もう!」
泉「……ふふふっ」
バクスチュアル「……弥子サン、変ワラナイ」
Xi「……本当にね」
それでも。
Xiは、嬉しそうに笑っていた。
◆
フィルモア帝国。
遠い星の、遠い国。
そこで暮らす皇帝とハイランダー。
二人には、それぞれの責任がある。
望むように過ごせない日々もあるだろう。
立場や過去が、簡単に消えてなくなるわけではない。
それでも。
誰かと笑い合った記憶は、確かに残る。
友達と選んだ、小さな星のチャーム。
皆で囲んだ、もんじゃ焼きの鉄板。
珍しい動物たちを眺めた、穏やかな午後。
二人で差した、一本の日傘。
そして。
ほんの少しだけ、手をつないで歩いた並木道。
四日間の休日は終わった。
けれど。
次の休日を楽しみにすることは、今日からだってできる。
ダイ・グ・フィルモア5世は、再び皇帝としての日々へ戻った。
その傍らには、皇帝代理騎士クリスティン・ビィがいる。
立場は、何も変わらない。
けれど、二人の間には。
以前よりも少しだけ、柔らかな笑顔が増えていた。
そして、いつか。
また二人で、どこかへ出かけられる日が来ることを。
二人は、静かに楽しみにしていた。