守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇   作:ギアっちょ

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人工謎養殖計画編
レディオス・ソープは謎を養殖する


◆ 1.魔人の食生活

 

いつものカフェテラス。

 

フィルモア帝国のダイ・グ・フィルモア5世とクリスティン・ビィが帰国してから、数日が経っていた。

 

四日間の地球滞在は無事終了。

 

皇帝とハイランダーは、たくさんの楽しい思い出を持ち帰った。

 

そして、今回のお目付け役を務めた怪盗Xiも、ようやくいつもの日常へ戻っていた。

 

……はずだった。

 

Xi「……ああ、平和だなぁ」

 

弥子「そうだねぇ!」

 

Xi「危険な食べ物も出てこないし」

 

弥子「うん!」

 

Xi「変な発明品も出てこないし」

 

弥子「うん!」

 

Xi「誰も大騒ぎしてないし」

 

弥子「……うん!」

 

Xi「……こういう日が、もっと増えればいいんだけどね」

 

弥子「……そうだね!」

 

二人は、穏やかな昼下がりを楽しんでいた。

 

テーブルには、珈琲と紅茶。

 

それから。

 

弥子の前には、すでに空になったケーキ皿が六枚。

 

Xi「…………」

 

弥子「……ん?」

 

Xi「……弥子ちゃん」

 

弥子「何?」

 

Xi「……それ、全部食べたの?」

 

弥子「うん!」

 

Xi「……まだお昼ご飯から一時間くらいしか経ってないよね?」

 

弥子「……デザートは別腹だよ?」

 

Xi「……そっか」

 

もう深く考えないことにした。

 

◆

 

その隣には、一人の青年が座っていた。

 

脳噛ネウロ。

 

人間の生み出す『謎』を喰うため、魔界から地上へやってきた魔人である。

 

彼は退屈そうに頬杖をつき、弥子の食事風景を眺めていた。

 

ネウロ「……相変わらずだな、ヤコ」

 

弥子「……何よ」

 

ネウロ「貴様の胃袋だけは、我が輩にも底が見えん」

 

弥子「……失礼ね!」

 

Xi「……でも、それは僕もちょっと思う」

 

弥子「Xiまで?!」

 

ネウロ「ククク……」

 

弥子「……もう!」

 

そんな、いつものやり取り。

 

そこへ。

 

ソープ「……ねえ、ネウロ君」

 

ネウロ「……何だ?」

 

レディオス・ソープが、不思議そうに首を傾げた。

 

ソープ「君って、謎を食べるんだよね?」

 

ネウロ「……そうだが?」

 

ソープ「……どんな味がするの?」

 

ネウロ「…………」

 

Xi「…………」

 

弥子「……あっ」

 

ソープ「甘いの? 辛いの? それとも、まったく別の味?」

 

ネウロ「…………」

 

ソープ「……?」

 

しばらく考えてから。

 

ネウロ「……貴様ら人間の味覚では、説明できん」

 

ソープ「……へぇ!」

 

ネウロ「謎とは、人間の欲望や悪意、執念が生み出すものだ」

 

ソープ「……うん」

 

ネウロ「その質や深さによって、味も異なる」

 

ソープ「……なるほど!」

 

瞳が、きらりと光った。

 

Xi「…………」

 

Xi(……あれ?)

 

ソープ「……じゃあさ」

 

Xi(……嫌な予感)

 

ソープ「謎って、人工的に作れないのかな?」

 

Xi「…………!」

 

ネウロ「…………」

 

弥子「……え?」

 

そして。

 

ソープ「作れたら、君の食事には困らなくなるよね!」

 

Xi「ソープ様?!」

 

平和な昼下がりが、音を立てて崩れ始めた。

 

◆ 2.天才技術者、意気投合する

 

ソープ「だって、面白いじゃない!」

 

Xi「……何が?!」

 

ソープ「ほら、食べ物を人工的に作ったり、培養したりする技術はあるでしょ?」

 

Xi「……まあ、あるけど」

 

ソープ「だったら、謎だって作れるかもしれないよ!」

 

ネウロ「…………」

 

弥子「……謎を作る?」

 

ソープ「うん!」

 

弥子「……あっ!」

 

Xi「……?」

 

弥子「謎の養殖?!」

 

ソープ「そうそう! それだよ!」

 

Xi「それじゃない!!」

 

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◆

 

その時だった。

 

アルバート「実に興味深いお話ですね!!」

 

Xi「うわぁっ?!」

 

振り向くと、そこにはアルバート・ハインラインが立っていた。

 

いつものように、鞄を抱えている。

 

Xi「……アルバートさん?!」

 

アルバート「こんにちは、皆さん!」

 

ソープ「あっ、アルバート君!」

 

アルバート「今のお話、少し聞こえてしまいまして!」

 

Xi「……どこから?」

 

アルバート「謎を人工的に生成する、というあたりからです!」

 

Xi「…………」

 

Xi(……よりによって、そこから?!)

 

アルバート「実に素晴らしい着想ですね!」

 

ソープ「でしょ?!」

 

アルバート「謎の生成過程を分析し、その構造を再現することができれば……!」

 

ソープ「うんうん!」

 

アルバート「安定した謎の供給が可能になるかもしれません!!」

 

ソープ「そうだよね!」

 

Xi「…………」

 

弥子「…………」

 

ネウロ「…………」

 

そして。

 

アルバート「こんなこともあろうかと!!」

 

Xi「出たぁぁぁ!!」

 

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◆

 

アルバートは、鞄から一冊の資料を取り出した。

 

表紙には、大きな文字。

 

『複合型推理課題自動生成システム・基礎研究』

 

Xi「…………」

 

弥子「…………」

 

ソープ「……おお!」

 

アルバート「以前から、人間の論理的思考能力を測定するため、さまざまな課題を自動生成する研究をしておりまして!」

 

Xi「……へぇ」

 

アルバート「暗号解読、論理パズル、隠された物体の探索、複雑な条件下での推論などに対応しております!」

 

ソープ「すごいじゃない!」

 

アルバート「ありがとうございます!」

 

Xi「……いや、待って」

 

アルバート「はい?」

 

Xi「それって、普通のパズル生成装置だよね?」

 

アルバート「……現状では、そうですね」

 

Xi「……だったら、それで十分じゃない?」

 

ソープ「でも、それを発展させれば!」

 

アルバート「人工的な謎の生成装置へと!」

 

二人「「発展させられます!!」」

 

Xi「息ぴったりなのやめて!!」

 

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◆

 

ソープ「アルバート君、まずは謎を構成する要素を分解してみよう!」

 

アルバート「はい!」

 

ソープ「例えば、密室」

 

アルバート「侵入経路の不明な閉鎖空間ですね!」

 

ソープ「消失事件」

 

アルバート「対象物の移動経路を隠蔽する機構が必要です!」

 

ソープ「暗号」

 

アルバート「情報の符号化と復号規則の秘匿ですね!」

 

ソープ「……うん!」

 

アルバート「……素晴らしい!」

 

ソープ「……面白くなってきたね!」

 

Xi「…………」

 

弥子「…………」

 

二人の天才技術者は、すでに相談を始めていた。

 

まるで、新型MHの設計でも始めたかのような熱中ぶりだった。

 

Xi「……ねえ、弥子ちゃん」

 

弥子「……何?」

 

Xi「……なんか、僕たち置いていかれてない?」

 

弥子「……うん」

 

ネウロ「…………」

 

その時。

 

ネウロが、ゆっくりと口を開いた。

 

ネウロ「……貴様ら」

 

ソープ「……ん?」

 

ネウロ「我が輩を、何だと思っている?」

 

Xi「……謎解きが好きな魔人」

 

ネウロ「…………」

 

Xi「……間違ってないでしょ?」

 

ネウロ「……お仕置きだな、ヤコ」

 

弥子「この流れであたし?!」

 

Xi「言ったの僕だよ?!」

 

ネウロ「貴様らの言動は、まとめてヤコの管理責任だ」

 

弥子「あたしは保護者じゃない!!」

 

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◆ 3.ネウロの食事を研究する

 

しばらくして。

 

いつものテーブルには、ソープとアルバートが持ち込んだ資料が山積みになっていた。

 

Xi「……あの、二人とも」

 

ソープ「……ん?」

 

Xi「そもそも、ネウロが本当に人工の謎を食べられるかどうか、確認したほうがよくない?」

 

ソープ「……あっ!」

 

アルバート「……確かに!」

 

Xi「……そこから?!」

 

ソープ「じゃあ、ネウロ君!」

 

ネウロ「……何だ?」

 

ソープ「君は、推理小説の謎なんかも食べられるの?」

 

ネウロ「……食えん」

 

ソープ「……えっ?」

 

アルバート「……そうなのですか?」

 

ネウロ「人間が読者を楽しませるために作った仕掛けなど、我が輩の食事にはならん」

 

ソープ「……なるほど」

 

アルバート「……ふむ」

 

ネウロ「謎の形をしていれば、何でも食えるというわけではない」

 

Xi「……ほら!」

 

弥子「……じゃあ、脱出ゲームなんかも?」

 

ネウロ「同じことだ」

 

弥子「……そっか」

 

ソープ「……うーん」

 

アルバート「……研究課題が明確になりましたね」

 

Xi「……え?」

 

アルバート「単なるパズルと、魔人が摂食可能な謎との違いを解明すればよいのです!!」

 

Xi「研究をやめる方向にはならないんだ?!」

 

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◆

 

ソープ「……そういえば、ネウロ君」

 

ネウロ「……?」

 

ソープ「どうして、謎が食べ物になるの?」

 

ネウロ「……どうして、だと?」

 

ソープ「うん。物質じゃないものを食べるって、不思議じゃない?」

 

ネウロ「……フン」

 

ソープ「エネルギーの変換? それとも、精神的な何か?」

 

アルバート「摂食時のエネルギー収支も興味深いですね!」

 

ネウロ「…………」

 

ソープ「……測定できないかな?」

 

ネウロ「……貴様ら」

 

二人「「はい?」」

 

ネウロ「我が輩を実験動物にするつもりか?」

 

ソープ「……えっ?」

 

アルバート「いえ! そのようなつもりは!」

 

ネウロ「……ククク」

 

弥子「……ねえ、ネウロ」

 

ネウロ「……何だ?」

 

弥子「……二人とも、純粋に興味があるだけだと思うよ?」

 

ネウロ「……知っている」

 

弥子「……じゃあ、そんな怖い顔しなくても」

 

ネウロ「だから面白いのだ」

 

弥子「……?」

 

ネウロ「一流の技術者が二人、我が輩の食事を理解できずに頭を悩ませる」

 

ソープ「…………」

 

アルバート「…………」

 

ネウロ「……ククク。なかなか愉快ではないか」

 

Xi「あっ!! この魔人、もう楽しんでる!!」

 

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◆

 

ソープ「……アルバート君」

 

アルバート「……はい」

 

ソープ「……なんか、悔しくない?」

 

アルバート「……ええ」

 

ソープ「……じゃあ、作ってみようよ!」

 

アルバート「もちろんです!!」

 

ネウロ「……ククク」

 

Xi「……ちょっと待って!」

 

ソープ「……?」

 

Xi「ネウロに煽られて研究を始めないで!!」

 

弥子「……でも、ちょっと面白そうじゃない?」

 

Xi「……弥子ちゃんまで?!」

 

弥子「だって、どういう謎ができるのか気になるし!」

 

Xi「…………」

 

ネウロ「……ほう」

 

弥子「……?」

 

ネウロ「ならば、ヤコ」

 

弥子「……何?」

 

ネウロ「貴様が実験台になればよかろう」

 

弥子「なんであたし?!」

 

ネウロ「名探偵なのだろう?」

 

弥子「それ、あんたが勝手に名乗らせたんでしょ!!」

 

Xi「……ほら、もう面倒なことになってる……」

 

◆ 4.泉京香、研究計画を監査する

 

午後。

 

新たに、一人の女性がカフェテラスへやってきた。

 

泉京香。

 

漫画家・岸辺露伴の担当編集者である。

 

泉「こんにちは、皆さん」

 

弥子「あっ、泉さん!」

 

Xi「こんにちは!」

 

泉「……あら?」

 

彼女は、テーブルに広がった資料を見て首を傾げた。

 

泉「……何をなさっているんですか?」

 

ソープ「人工的に謎を作る研究だよ!」

 

泉「……人工的に、謎を?」

 

アルバート「はい!」

 

泉「……まあ!」

 

興味深そうに資料を覗き込む。

 

泉「暗号、密室、消失事件……」

 

アルバート「そうです!」

 

泉「……これ、漫画のネタ作りにも役立ちそうですね!」

 

Xi「…………」

 

弥子「…………」

 

ソープ「……あっ! そういう使い方もあるんだ!」

 

泉「ええ。ミステリー作品の構想を考える時に、便利かもしれません」

 

アルバート「なるほど! 創作支援への応用ですね!」

 

泉「……ただし」

 

Xi「……?」

 

泉「実際の事件を起こすわけではありませんよね?」

 

アルバート「……もちろん、現段階では!」

 

泉「……現段階では?」

 

Xi「そこ!! 僕も気になった!!」

 

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◆

 

泉は、資料を一枚ずつ確認し始めた。

 

泉「……まず、確認させてください」

 

ソープ「……うん?」

 

泉「この『密室事件』というのは、どこで行うんですか?」

 

アルバート「実験用に借りた部屋を想定しております」

 

泉「……一般のお客様がいる場所ではありませんね?」

 

アルバート「はい!」

 

泉「……それから、消失事件というのは?」

 

ソープ「物を隠したり、別の場所へ移動させたりする仕掛けだよ」

 

泉「持ち主の許可なく、物を持ち出すことは?」

 

ソープ「……しないよ?」

 

泉「……よかったです」

 

Xi「……泉さん」

 

泉「はい?」

 

Xi「……もっと言って!」

 

泉「ふふ。もちろんです」

 

◆

 

泉「それから、もう一つ」

 

アルバート「……はい?」

 

泉「人が怪我をしたり、怖い思いをしたりする仕掛けは使わないでくださいね」

 

ソープ「……うん」

 

泉「消防や警察に、本当の事件だと誤解されるようなことも避けましょう」

 

アルバート「……承知しました」

 

泉「そして、参加者には事前に、安全な推理ゲームであることを説明してください」

 

ソープ「……なるほど」

 

泉「それなら、研究として協力してくださる方もいらっしゃるかもしれません」

 

Xi「…………」

 

Xi「……泉さん」

 

泉「……はい?」

 

Xi「……すごいね」

 

泉「……何がですか?」

 

Xi「二人の天才に、ちゃんと安全な実験計画を立てさせてる!!」

 

泉「……ふふ」

 

にっこり。

 

泉「研究をするなら、当然のことですよ」

 

Xi「…………」

 

Xi(……正論で退路を蒸す、セイロニスト泉さん……!)

 

◆

 

ただし。

 

泉「……それと、予算についても確認しておきましょう」

 

アルバート「……予算?」

 

泉「ええ」

 

ソープ「……?」

 

泉「場所の使用料、実験機材の費用、協力者への謝礼などが必要ですよね?」

 

アルバート「……はい」

 

泉「それは、どなたが負担されるのでしょうか?」

 

ソープ「……あっ」

 

アルバート「…………」

 

Xi「…………」

 

弥子「…………」

 

そして。

 

ソープ「……アルバート君?」

 

アルバート「……ソープさん?」

 

Xi「そこで押し付け合わないで!!」

 

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◆

 

しばらくして。

 

研究費用は、ソープとアルバートがそれぞれ負担することで話がまとまった。

 

もちろん、Xiたちの食事代や、普段のカフェの営業費用とは完全に別会計。

 

泉「……はい。これで大丈夫そうですね」

 

Xi「……ありがとう、泉さん!」

 

泉「どういたしまして」

 

弥子「……ねえ、泉さん」

 

泉「はい?」

 

弥子「……実験が成功したら、私たちも何かもらえるのかな?」

 

Xi「……弥子ちゃん?」

 

弥子「だって、協力するなら!」

 

泉「……ふふ。そこは、きちんと相談して決めましょうね」

 

弥子「……はーい!」

 

ネウロ「……フン」

 

Xi「……?」

 

ネウロ「我が輩の食事を用意するというのに、ずいぶんと面倒な手続きが必要なのだな」

 

泉「……ネウロさん」

 

ネウロ「……何だ?」

 

泉「人間社会では、皆さんが安心して楽しめるよう、必要な手続きをするものなんですよ」

 

ネウロ「…………」

 

Xi「…………」

 

ネウロ「……ククク」

 

ネウロ「相変わらず、人間とは面倒な生物だ」

 

泉「……ふふ。そうかもしれませんね」

 

セイロニスト泉さん、魔人の皮肉さえ穏やかに受け流す!!

 

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◆ 5.第一号試作品、完成!

 

数日後。

 

アルバートが借りた、小さな実験室。

 

テーブルの上には、一台の装置が置かれていた。

 

複数の小型モーター。

 

制御用のコンピュータ。

 

そして、何やら複雑な機構が取り付けられた箱。

 

Xi「…………」

 

弥子「……うわぁ」

 

ソープ「……どう?!」

 

アルバート「人工謎生成システム、試作一号機です!!」

 

Xi「……もう作ったの?!」

 

ソープ「うん!」

 

アルバート「今回は、ごく単純な仕掛けの実証実験です!」

 

Xi「……へぇ」

 

泉「……安全確認は済んでいますか?」

 

アルバート「もちろんです!」

 

泉「では、お願いします」

 

◆

 

アルバートは、テーブルの上に小さな金属製の箱を置いた。

 

その中には、銀色のスプーンが一本。

 

アルバート「皆さん、ご覧ください!」

 

弥子「……スプーン?」

 

アルバート「はい!」

 

ソープ「この箱を閉じるとね……」

 

蓋を閉じる。

 

アルバート「……三、二、一!」

 

カチリ。

 

箱から、小さな音がした。

 

ソープ「……さあ!」

 

蓋を開ける。

 

弥子「…………!」

 

Xi「…………!」

 

中は、空っぽだった。

 

弥子「……あれ?!」

 

Xi「……スプーンがない?!」

 

アルバート「完全消失です!!」

 

ソープ「どう? すごいでしょ?!」

 

弥子「……すごーい!」

 

Xi「……へぇ! どうなってるの?!」

 

二人の天才は、得意げに胸を張った。

 

そして。

 

アルバート「……ネウロさん!」

 

ネウロ「…………」

 

アルバート「いかがでしょう?!」

 

ネウロ「…………」

 

少しだけ、沈黙。

 

そして。

 

ネウロ「……フン」

 

Xi「……?」

 

ネウロ「……箱の底だ」

 

アルバート「…………!」

 

ソープ「…………!」

 

ネウロ「仕切り板が移動し、スプーンを下部の空間へ落とした。それだけのことだろう」

 

Xi「…………!」

 

弥子「…………!」

 

ネウロ「そこの電動機構で仕切り板を動かしているな」

 

アルバート「…………」

 

ソープ「…………」

 

ネウロ「……つまらん」

 

Xi「一瞬?!」

 

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◆

 

アルバート「……お、お見事です!」

 

ソープ「……やっぱり、ネウロ君はすごいね!」

 

ネウロ「……当然だ」

 

アルバート「ですが!」

 

Xi「……?」

 

アルバート「今回は、あくまで試作一号機!」

 

ソープ「そうそう!」

 

アルバート「本番では、もっと複雑な仕掛けを用意します!」

 

ネウロ「…………」

 

ソープ「今回みたいに、簡単には解けないと思うよ!」

 

ネウロ「……ほう?」

 

ソープ「どう? 楽しみになってきた?」

 

ネウロ「…………」

 

しばらく、沈黙。

 

そして。

 

ネウロ「……ククク」

 

Xi「……?」

 

ネウロ「貴様らは、我が輩が謎を解く速さだけを問題にしているのか?」

 

ソープ「……え?」

 

ネウロ「謎の難易度を上げれば、それだけで旨くなると?」

 

アルバート「……違うのですか?」

 

ネウロ「…………」

 

口元に、笑みが浮かんだ。

 

ネウロ「……クククク」

 

Xi「…………」

 

Xi(……あっ)

 

ネウロ「ならば、試してみるがいい」

 

ソープ「……!」

 

アルバート「……!」

 

ネウロ「貴様らの知恵と技術のすべてを注ぎ込んでな」

 

ソープ「……よし!」

 

アルバート「……望むところです!!」

 

Xi「…………」

 

ネウロ「ククク……」

 

Xi「絶対、わざと煽ってるでしょ?!」

 

ネウロ「……さてな」

 

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◆ 6.謎の養殖場、開設準備

 

その日の夕方。

 

実験室の一角では、ソープとアルバートが次の研究計画を立てていた。

 

壁には、三枚の大きな紙が貼られている。

 

『第一実験・消失事件』

 

『第二実験・暗号事件』

 

『第三実験・密室事件』

 

ソープ「まずは、消失事件からだね!」

 

アルバート「はい!」

 

ソープ「ただ隠すだけじゃなくて、あり得ない場所から消えるようにしたいな」

 

アルバート「それなら、複数の機構を組み合わせましょう!」

 

ソープ「……うん!」

 

アルバート「暗号については、複数の解読手順を組み込みます!」

 

ソープ「いいね!」

 

アルバート「そして最後は、完全密室!」

 

ソープ「……よし!」

 

二人は、嬉しそうに顔を見合わせた。

 

アルバート「これなら、さすがのネウロさんも簡単には解けないでしょう!!」

 

ソープ「うん! 楽しみだね!」

 

◆

 

部屋の隅。

 

Xi「…………」

 

弥子「…………」

 

泉「…………」

 

バクスチュアル「…………」

 

Xi「……ねえ、バクスチュアル」

 

バクスチュアル「……Xiサン?」

 

Xi「……これ、どう思う?」

 

バクスチュアル「……技術的ニハ、興味深イ」

 

Xi「……うん」

 

バクスチュアル「……デモ」

 

Xi「……?」

 

バクスチュアル「……ネウロサン、喜ンデナイ」

 

Xi「…………」

 

Xi「……だよね」

 

弥子「……なんか、ずっと笑ってるけど?」

 

Xi「……あれはね」

 

弥子「……?」

 

Xi「二人が失敗するのを楽しみにしてる顔だよ!!」

 

弥子「……あっ!」

 

泉「……ふふ。確かに、そんな感じがしますね」

 

Xi「……もう!」

 

◆

 

その時。

 

ソープ「……あっ、Xi君!」

 

Xi「……何?」

 

ソープ「明日から、実際の事件を始めるよ!」

 

Xi「…………!」

 

Xi「……事件?!」

 

アルバート「もちろん、事前に確認した安全な模擬事件です!」

 

Xi「……ああ、びっくりした!」

 

泉「実験場所と参加者も確認済みです」

 

Xi「……よかったぁ」

 

ソープ「……じゃあ、明日はよろしくね!」

 

Xi「……え?」

 

ソープ「Xi君にも、協力してほしいんだ!」

 

Xi「…………」

 

アルバート「事件の進行管理をお願いできればと!」

 

Xi「…………」

 

ソープ「何かあったら、ちゃんと止めてくれるでしょ?」

 

Xi「…………」

 

少しだけ、考えた。

 

Xi「……まあ」

 

ソープ「……?」

 

Xi「……そういうことなら、手伝うけど」

 

ソープ「やった!」

 

アルバート「ありがとうございます!」

 

Xi「……ただし!」

 

二人「「……?」」

 

Xi「絶対に、本物の事件を起こさないでね?!」

 

ソープ「……うん!」

 

アルバート「もちろんです!」

 

Xi「……あと、人の気持ちを無理やり操作するような装置も禁止!」

 

ソープ「……え?」

 

アルバート「……?」

 

Xi「……何?」

 

ソープ「……そんなこと、まだ考えてないけど?」

 

Xi「まだ、って言った?!」

 

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◆

 

その後。

 

泉が作成した安全確認表に、二人の天才技術者が署名することになった。

 

Xi「……うん」

 

弥子「……これで安心かな?」

 

Xi「……たぶんね」

 

泉「ふふ。約束は守っていただきますからね」

 

ソープ「……もちろん!」

 

アルバート「承知しました!」

 

ネウロ「…………」

 

Xi「……ネウロ?」

 

ネウロ「……何だ?」

 

Xi「……本当に付き合ってくれるの?」

 

ネウロ「……ククク」

 

Xi「…………」

 

ネウロ「……構わん」

 

Xi「……えっ?」

 

ネウロ「貴様らがどのようなものを用意するのか、見物してやろう」

 

Xi「……へぇ」

 

ネウロ「……もっとも」

 

Xi「……?」

 

ネウロ「我が輩の腹を満たせるかどうかは、別の話だがな。」

 

Xi「…………」

 

ネウロ「……クククク」

 

その笑みを見たXiは、思わずため息をついた。

 

Xi(……ああ、これ)

 

Xi(……絶対、ろくなことにならないやつだ)

 

◆ 7.天才たちの挑戦状

 

翌日の実験開始を控えた夜。

 

ソープとアルバートは、最後の準備を進めていた。

 

アルバート「……ソープさん」

 

ソープ「……ん?」

 

アルバート「……私は、非常に楽しみです」

 

ソープ「……僕もだよ!」

 

アルバート「相手は、人間には理解できない存在」

 

ソープ「……うん」

 

アルバート「しかも、我々が作る謎の価値を判断できる、唯一無二の研究対象です」

 

ソープ「……そうだね」

 

アルバート「……必ず、満足していただきましょう!」

 

ソープ「……うん!」

 

二人は、最後の設計図を確認した。

 

そこには、複数の仕掛けを組み込んだ消失事件の概要が描かれていた。

 

ソープ「……今度は、あの箱みたいに簡単にはいかないよ」

 

アルバート「ええ!」

 

ソープ「……ネウロ君、驚くかな?」

 

アルバート「きっと、驚いてくださいます!!」

 

二人は、満足そうに微笑んだ。

 

◆

 

一方。

 

カフェテラス。

 

ネウロは、いつもの席で静かに過ごしていた。

 

弥子「……ねえ、ネウロ」

 

ネウロ「……何だ?」

 

弥子「……明日、楽しみ?」

 

ネウロ「…………」

 

そして。

 

ネウロ「……ククク」

 

弥子「……?」

 

ネウロ「実に楽しみだ」

 

弥子「……へぇ!」

 

ネウロ「……あの二人が、どのような顔をするのか」

 

弥子「…………」

 

弥子「そっち?!」

 

ネウロ「クククク……」

 

Xi「……やっぱり!!」

 

弥子「……ネウロ!」

 

ネウロ「……何だ?」

 

弥子「人が一生懸命作ってるんだから、少しは褒めてあげなよ!」

 

ネウロ「……フン」

 

弥子「……?」

 

ネウロ「食えぬものを、食えると偽るつもりはないわ。」

 

Xi「…………」

 

弥子「…………」

 

ネウロ「……それに」

 

弥子「……?」

 

ネウロ「二匹の天才が、我が輩を満足させようと必死に知恵を絞る」

 

Xi「……うん」

 

ネウロ「それ自体は、なかなかに面白い見世物だ」

 

Xi「やっぱり失敗を期待してる!!」

 

ネウロ「ククク……」

 

◆

 

やがて。

 

ネウロは、窓の外へ目を向けた。

 

夜の街。

 

そこには、多くの人間たちが暮らしている。

 

誰もが、それぞれの願望を抱えている。

 

喜び。

 

嫉妬。

 

執着。

 

後悔。

 

そして、時には。

 

他人に知られたくない、秘密。

 

ネウロ「…………」

 

小さく、笑った。

 

ネウロ「……ククク」

 

弥子「……?」

 

ネウロ「人間どもは、実に不思議な生物だ」

 

Xi「……何が?」

 

ネウロ「……自らの欲望に振り回され、時として、己の破滅を招くような謎を生み出す」

 

弥子「…………」

 

ネウロ「……それを、あの二人は人工的に再現しようというのだ」

 

Xi「…………」

 

ネウロ「……ククク」

 

Xi「……?」

 

ネウロ「どこまでできるか、見せてもらおうではないか。」

 

◆

 

同じ頃。

 

実験室。

 

アルバート「……よし!」

 

ソープ「……準備完了だね!」

 

アルバート「はい!」

 

壁には、明日の予定が掲示されていた。

 

第一実験・消失事件。

 

そして、その下には。

 

『人工謎養殖計画・第1段階』

 

という、実に奇妙な文字が記されていた。

 

ソープ「……ねえ、アルバート君」

 

アルバート「……はい?」

 

ソープ「もし、これでネウロ君が喜んでくれたら……」

 

アルバート「……はい!」

 

ソープ「……僕たち、謎をいくらでも作れるようになるかもしれないね!」

 

アルバート「……ええ!」

 

ソープ「……ふふ」

 

アルバート「……楽しみですね!」

 

二人の天才は、笑い合った。

 

……まだ、知らない。

 

謎の構造を作ることと、謎そのものを生み出すことが、必ずしも同じではないということを。

 

そして。

 

彼らがこれから挑戦するのは、単なる技術的な難問ではない。

 

魔人が求める、人間の欲望そのもの。

 

それは、どれほど精巧な設計図にも、簡単には描き込めないものだった。

 

◆

 

その夜。

 

帰宅したXiは、携帯端末を眺めながら呟いた。

 

Xi「……人工謎養殖計画、かぁ」

 

バクスチュアル「……Xiサン」

 

Xi「……何?」

 

バクスチュアル「……明日モ、手伝ウ?」

 

Xi「……うん。何かあったら止めなきゃいけないし」

 

バクスチュアル「……了解」

 

Xi「……でもさ」

 

バクスチュアル「……?」

 

Xi「……ちょっとだけ、楽しみでもあるんだよね」

 

バクスチュアル「……?」

 

Xi「……あの二人の天才が、ネウロを相手にどこまでやれるのか」

 

バクスチュアル「…………」

 

Xi「……まあ、どうなるか分からないけど」

 

バクスチュアル「……Xiサン」

 

Xi「……何?」

 

バクスチュアル「……ネウロサン、勝ツト思ウ」

 

Xi「…………」

 

Xi「……うん」

 

少しだけ、苦笑した。

 

Xi「僕も、そんな気がする。」

 

◆

 

こうして。

 

レディオス・ソープとアルバート・ハインラインによる、前代未聞の研究が始まった。

 

目的は、謎を人工的に生成し、魔人の食事として提供すること。

 

名付けて。

 

『人工謎養殖計画』。

 

しかし。

 

この研究で、最初に満足するのは魔人の食欲なのか。

 

それとも、二人の天才をからかう魔人の嗜虐心なのか。

 

今は、まだ分からない。

 

……少なくとも。

 

実験の安全確認担当になってしまった怪盗Xiには、すでにひとつだけ確信があった。

 

Xi「……はぁ」

 

Xi「また、僕の平和な日常が遠ざかっていく……!!」

 

バクスチュアル「……ガンバッテ、Xiサン」

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