守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
◆ 1.人工謎養殖計画、まさかの成果ゼロ
いつものカフェテラス。
『人工謎養殖計画』が、ひとまず終了してから数日。
レディオス・ソープとアルバート・ハインラインは、研究結果をまとめていた。
その内容は、実に興味深いものだった。
高度な消失機構。
複雑な暗号生成システム。
完全密室の再現。
そして、人間の感情表現を模倣した対話型人形。
いずれも、技術的には成功。
しかし。
アルバート「……最終報告です!」
ソープ「……うん」
アルバート「魔人が摂食可能な謎の生成数、ゼロ!!」
Xi「…………」
弥子「…………」
ネウロ「……ククク」
ソープ「……やっぱり、ゼロかぁ」
アルバート「残念です!」
Xi「……いや、まあ」
少しだけ、考えて。
Xi「最初から作れないものを作ろうとしてたんだから、仕方ないんじゃない?」
ソープ「……うん」
アルバート「……そのようですね」
ネウロ「……フン」
魔人は、つまらなそうに鼻を鳴らした。
ネウロ「謎を解いてほしいという貴様らの欲求と、謎を解かれまいとする知性の抵抗は、そもそも正反対のものだ」
アルバート「……はい」
ネウロ「そんなことも理解せず、何日も研究していたとはな」
ソープ「…………」
アルバート「…………」
ネウロ「……ククク」
Xi「……ネウロ」
ネウロ「何だ?」
Xi「……君、絶対楽しんでたよね」
ネウロ「当然だ」
弥子「即答?!」
ネウロ「二匹の天才が、我が輩のためにせっせと玩具を作る姿は、なかなかの見世物だったぞ」
ソープ「……玩具……」
アルバート「……見世物……」
Xi「せめて研究成果として評価してあげて!!」
wwwwww
◆
泉「でも、研究自体に成果はあったんですよね?」
アルバート「もちろんです!」
ソープ「うん! 謎の構造や、人間の心理についても、いろいろ勉強になったよ!」
泉「それなら、決して無駄ではありませんね」
アルバート「ありがとうございます!」
Xi「……それに、事故もなかったしね!」
バクスチュアル「……危険物、使用ナシ。事故、ゼロ」
Xi「……うん!」
弥子「それが一番だよね!」
ソープ「……ふふ」
アルバート「……そうですね!」
和やかな空気。
温かい飲み物。
そして、弥子の前には山盛りのパンケーキ。
Xi「……ああ、平和だなぁ」
弥子「……そうだね!」
Xi「……この平和が、ずっと続けばいいのに」
ネウロ「……フン」
Xi「…………」
Xi「……ネウロ?」
ネウロ「何だ?」
Xi「……何か言いたそうだね」
ネウロ「……いや」
ゆっくりと、口元を歪めた。
ネウロ「人間どもが生きている限り、平和など長続きせんというだけのことだ。」
Xi「不吉なこと言わないで!!」
その時だった。
「あの……すみません……」
全員が、声のした方へ振り向いた。
◆ 2.女子高生探偵への依頼
そこには、一人の若い女性が立っていた。
年齢は二十代前半ほど。
少し困ったような表情を浮かべている。
女性「あの……」
弥子「……はい?」
女性「もしかして、有名な女子高生探偵の……桂木弥子さん、ですか?」
弥子「……えっ?」
Xi「……あっ」
ネウロ「…………」
女性「私、佐野美咲と申します」
美咲「近くのパン屋で働いているんですけど……」
弥子「……パン屋さん?」
美咲「はい。ちょっと、不思議なことがあって……」
弥子「……?」
美咲「毎朝、お店のレジのお金が増えているんです。」
Xi「…………」
弥子「…………」
アルバート「…………!」
ソープ「…………!」
ネウロ「…………」
美咲「……あの、相談に乗っていただけませんか?」
◆
Xi「……えーっと」
美咲「……?」
Xi「……お金が減るんじゃなくて?」
美咲「……はい」
Xi「……増えるの?」
美咲「……そうなんです」
弥子「……へぇ」
アルバート「……興味深いですね!」
ソープ「……うん!」
美咲「……?」
ソープ「どれくらい増えるの?」
美咲「日によって違うんですけど……480円だったり、960円だったり……」
アルバート「……なるほど!」
美咲「でも、閉店後は誰も入っていないはずなんです」
Xi「……えっ?」
美咲「防犯カメラもありますし、鍵も掛かっています」
弥子「……それなのに?」
美咲「……はい」
美咲「夜、ちゃんと数えたはずのお金が、朝になると増えているんです」
アルバート「…………」
ソープ「…………」
二人の天才は、顔を見合わせた。
そして。
アルバート「……ソープさん」
ソープ「……うん」
アルバート「実に面白い現象ですね!」
ソープ「……そうだね!」
Xi「……あのさ」
二人「「……?」」
Xi「今度は本物の事件だから、実験扱いしないでね?!」
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◆
その時。
ネウロが、ゆっくりと顔を上げた。
ネウロ「…………」
Xi「……?」
弥子「……ネウロ?」
ネウロ「…………」
その目が、わずかに細くなる。
そして。
ネウロ「……ほう。」
Xi「…………」
弥子「…………」
ソープ「…………」
アルバート「…………」
いつもと違う。
先ほどまで、研究成果を酷評していた魔人の表情が。
明らかに、変わっていた。
◆
美咲「あの……?」
ネウロ「失礼いたしました」
突然、丁寧な口調になる。
ネウロ「僕は桂木先生の助手を務めております、脳噛ネウロと申します」
美咲「……あっ、よろしくお願いします!」
ネウロ「お話は、ぜひ先生に」
弥子「…………」
ネウロ「さあ、先生」
弥子「……う、うん!」
Xi(……出た。助手モード)
ネウロ「どうやら、興味深いご相談のようですよ」
弥子「……そうですね!」
美咲「……ありがとうございます!」
弥子「じゃあ、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?」
美咲「……はい!」
ネウロ「…………」
その口元には。
ごくわずかな、笑みが浮かんでいた。
◆ 3.閉店後に増える現金
美咲が勤めているのは、小さなパン屋だった。
店の名前は『麦の灯』。
店主は山野志津。
五十代後半の女性で、長年この町で店を続けているという。
美咲「うちは、夜八時に閉店するんです」
弥子「……はい」
美咲「その前に、私がレジのお金を数えて、精算するんですけど……」
Xi「……うん」
美咲「朝になると、前の日の精算額よりも、現金が増えているんです」
アルバート「……具体的には?」
美咲「これです」
美咲は、スマートフォンに保存していた記録を見せた。
日付
増えた金額
月曜日
480円
火曜日
960円
水曜日
480円
木曜日
1,440円
金曜日
960円
Xi「……あれ?」
弥子「……?」
Xi「……全部480円の倍数だね」
美咲「……そうなんです」
ソープ「……なるほど」
アルバート「一定の規則性がありますね!」
美咲「でも、何のお金なのか分からなくて……」
◆
弥子「……店長さんには相談したんですか?」
美咲「……はい」
Xi「……それで?」
美咲「……それが」
少しだけ、言いにくそうに。
美咲「『そのお金のことは、もう調べなくていい』って……」
弥子「……え?」
美咲「でも、レジのお金って、ちゃんと管理しなきゃいけないじゃないですか」
泉「……それは、そうですね」
美咲「だから、何度か確認したんです」
弥子「……うん」
美咲「……そうしたら」
美咲「『知らないほうがいいこともあるの』って……」
Xi「…………」
弥子「…………」
ネウロ「…………」
美咲「なんだか、店長も困っているみたいで……」
美咲「でも、お金のことを放っておくわけにもいかないし……」
俯いた。
美咲「……どうしたらいいのか、分からなくなっちゃって」
◆
その時。
ネウロ「……先生」
弥子「……?」
ネウロ「いかがでしょう。お店まで伺ってみては?」
弥子「……うん!」
Xi「……そうだね」
ソープ「僕たちも見に行っていいかな?」
アルバート「ぜひ、参考に……」
Xi「…………」
ソープ「……?」
Xi「……ソープ様」
ソープ「……何?」
Xi「これは研究じゃなくて、人からの相談だからね?」
ソープ「……あっ」
アルバート「……失礼しました!」
美咲「いえ、構いませんよ」
ネウロ「…………」
Xi「……?」
ネウロ「……ククク」
誰にも聞こえないほど、小さく笑う。
Xi(……あっ)
Xi(……ネウロ、何か見つけたんだ)
◆ 4.『麦の灯』に隠された秘密
一行は、美咲の案内で『麦の灯』を訪れた。
店内には、焼きたてのパンの香りが漂っていた。
小さなショーケース。
木製のカウンター。
壁には、昔の店の写真が飾られている。
弥子「……わぁ!」
Xi「……いい匂いだね」
弥子「……美味しそう!」
Xi「……弥子ちゃん?」
弥子「……何?」
Xi「今日は事件の調査だからね?!」
弥子「……分かってるよ!」
ネウロ「…………」
ネウロ「先生。あまり食欲を表に出されますと、依頼人の方が驚かれますよ」
弥子「……あ、うん」
Xi(……一番事情を知ってるくせに)
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◆
店の奥から、一人の女性が現れた。
志津「……いらっしゃいませ」
美咲「あっ、店長!」
志津「……美咲ちゃん?」
美咲「こちら、桂木弥子さんです。レジのお金のことで、相談に乗っていただこうと思って……」
志津「…………!」
明らかに、表情が変わった。
志津「……美咲ちゃん」
美咲「……はい」
志津「……あのことは、調べなくていいって言ったでしょう?」
美咲「……でも!」
志津「…………」
美咲「お店のお金に何かあったら、大変じゃないですか!」
志津「…………」
弥子「……あの」
志津「……?」
弥子「私たち、無理に何かを調べようとは思っていません」
志津「…………」
弥子「でも、美咲さんも心配しているみたいなので……」
少しだけ、微笑んだ。
弥子「……お話だけでも、聞かせてもらえませんか?」
志津「…………」
しばらく考えて。
志津「……分かりました」
小さく、頷いた。
志津「……ただし」
弥子「……はい?」
志津「お客さんのことを、勝手に調べたりしないでください。」
Xi「…………」
ネウロ「…………」
弥子「……分かりました」
◆
その言葉に。
ネウロが、わずかに目を細めた。
ネウロ「…………」
Xi(……まただ)
Xi(……なんか、すごく楽しそう……)
◆
調査は、店長が了承した範囲で行われた。
レジの精算記録。
店内の配置。
閉店作業の手順。
そして、防犯カメラの記録。
アルバート「……なるほど」
ソープ「……ふむ」
美咲「私が精算するのは、だいたい夜七時四十五分です」
Xi「……うん」
美咲「それから片付けをして、八時に店を閉めます」
弥子「……その後は?」
美咲「店長が最後に戸締まりをして、帰ります」
Xi「……なるほど」
アルバート「閉店後に外部から侵入した形跡は?」
美咲「ありません」
バクスチュアル「……記録上、夜間ノ侵入ナシ」
ソープ「……ふむ」
アルバート「つまり、外部から現金を追加することは難しい……」
Xi「……あれ?」
弥子「……何?」
Xi「……でも、精算するのは七時四十五分なんだよね?」
美咲「……はい」
Xi「……閉店は八時?」
美咲「……そうです」
Xi「……じゃあ、その十五分間は?」
美咲「…………」
Xi「…………」
ネウロ「…………」
志津「…………」
ふと、沈黙が落ちた。
◆
その時。
弥子が、壁のメニューを見つけた。
弥子「……あっ!」
Xi「……?」
弥子「これ、美味しそう!」
Xi「……弥子ちゃん?!」
弥子「『小さな丸パン二個セット』……480円!」
Xi「…………」
ソープ「…………」
アルバート「…………」
美咲「……あっ」
Xi「……全部、その値段の倍数だね」
美咲「……そういえば……」
志津「…………」
ネウロ「…………」
魔人は、静かに微笑んだ。
◆ 5.魔人は謎を食う
ネウロ「……先生」
弥子「……?」
ネウロ「どうやら、今回の謎は解けたようですね」
美咲「……えっ?!」
ソープ「……もう?!」
アルバート「……本当ですか?!」
Xi「…………」
ネウロ「先生のご推理を、僕が代弁させていただきましょう」
弥子「……う、うん!」
ネウロは、恭しく一礼した。
そして。
ネウロ「まず、今回の現象は、閉店後に現金が増えていたわけではありません」
美咲「……えっ?」
ネウロ「正確には、精算が終わってから、店のレジが施錠されるまでの間に、現金が追加されていたのです」
アルバート「…………!」
ソープ「…………!」
美咲「……あっ!」
ネウロ「七時四十五分に精算し、八時に閉店する。その間には、十五分もの時間があります」
Xi「……うん」
ネウロ「そして、その時間帯にレジを扱える人物がいました」
美咲「…………」
ゆっくりと、顔を上げた。
ネウロ「……山野志津さん」
志津「…………!」
ネウロ「現金を追加していたのは、あなたですね?」
◆
店内が、静まり返った。
志津「…………」
美咲「……店長?」
志津「…………」
ネウロ「あなたは閉店前、誰もいなくなったタイミングで、自分の財布から現金を取り出していた」
志津「…………」
ネウロ「そして、精算を終えたレジに、そっと追加した」
ソープ「……なるほど」
アルバート「……それなら、夜間の侵入は必要ありません」
ネウロ「しかし、その金額は毎日違った」
Xi「……480円の倍数……」
ネウロ「ええ」
壁のメニューを指さした。
ネウロ「その日の丸パンセットの数に応じて、代金を入れていたのです。」
美咲「…………!」
◆
志津「…………」
弥子「……店長さん?」
志津「…………」
しばらくして。
志津「……はい」
小さな声だった。
志津「……私が入れました」
美咲「……えっ?!」
志津「……ごめんなさい、美咲ちゃん」
美咲「……でも、どうして……」
志津「…………」
俯いた。
志津「……どうしても、知られたくなかったの」
◆
ネウロ「……ふむ」
その声は、すでにいつもの魔人のものへ戻りかけていた。
ネウロ「店の商品を、誰かに渡していたのでしょう」
志津「…………!」
ネウロ「無償で渡したことを隠すため、あなた自身が代金を支払った」
Xi「…………」
弥子「…………」
ネウロ「しかし、店の精算を終えてから入れれば、現金の帳尻が合わなくなる」
志津「…………」
ネウロ「それでも、あなたは事情を説明しなかった」
美咲「…………」
ネウロ「なぜなら」
少しだけ、笑った。
ネウロ「誰に渡していたかを知られることこそ、あなたが最も恐れていたことだからです。」
志津「…………!」
その瞬間。
店主の表情が、崩れた。
志津「…………」
志津「……お願いです」
震える声。
志津「……もう、それ以上は……」
弥子「…………」
志津「……あの人のことは……」
とうとう、言葉が途切れた。
◆
ネウロ「…………」
その瞳に、歓喜の色が浮かんだ。
(……なるほど)
(自らの身を守るためではない)
(他者の秘密を守るために、知恵を絞ったか)
(……ククク)
誰かを守りたいという意思。
知られてはならないという強い思い。
それゆえに、嘘を重ねることさえ選んだ。
その抵抗こそが、謎を生み出していた。
ネウロ「…………」
口元に、満足そうな笑み。
そして。
ネウロ「……いただきます。」
◆
謎が、解けた。
長い間、守られていた秘密の一部が暴かれた。
魔人は、その抵抗のエネルギーを喰らう。
複雑な機械仕掛けなど、何もない。
高度な暗号もない。
完全密室もない。
あるのは、ただ。
どうしても、知られたくなかったという、人間の意思。
ネウロ「…………」
静かに目を閉じた。
そして。
ネウロ「……ククク」
満足そうに、微笑んだ。
◆ 6.謎を解かれた、その後に
志津「…………」
店主は、椅子に座ったまま俯いていた。
美咲「……店長」
志津「……ごめんなさい」
美咲「…………」
志津「……ちゃんと説明しなくちゃいけなかったのに」
その声は、震えていた。
志津「……でも、どうしても言えなかった」
美咲「…………」
志津「……誰かに知られたら、あの人はもう、この店に来られなくなるかもしれない」
Xi「…………」
ソープ「…………」
アルバート「…………」
ネウロ「…………」
◆
その時。
弥子が、ゆっくりと志津の前にしゃがんだ。
弥子「……あの」
志津「……?」
弥子「……店長さん」
志津「……はい」
弥子「……私、ちょっと聞いてもいいですか?」
志津「…………」
弥子「……その人の名前じゃなくて」
志津「……?」
弥子「どうして、そこまでして守りたかったんですか?」
志津「…………」
少しだけ、顔を上げた。
志津「……笑われたくなかったんです」
弥子「……?」
志津「……あの人が」
◆
しばらくして。
志津は、ぽつりぽつりと話し始めた。
この店には、時々、夕方になるとパンを買いに来る人がいる。
生活に余裕がなく、いつも安いものを少しだけ買って帰る。
ある時、志津は、その人が家族のためにパンを買おうとして、値札を何度も見比べていることに気づいた。
志津「……それで、声をかけたんです」
弥子「……はい」
志津「『今日は作りすぎちゃったから、持って帰って』って」
Xi「…………」
志津「でも、受け取ってくれなくて」
弥子「…………」
志津「……施しは受けられないって」
美咲「…………」
志津「……だから」
少しだけ、苦笑した。
志津「『前のお客さんが、次の人の分も払ってくれたのよ』って、嘘をついたんです。」
弥子「…………」
志津「それなら、何とか受け取ってくれました」
◆
Xi「……じゃあ」
志津「……はい」
Xi「……その、前のお客さんっていうのは……」
志津「……いません」
俯いた。
志津「……私なんです」
美咲「…………!」
志津「……でも、あの人には知られたくなかった」
弥子「…………」
志津「知られたら、きっと遠慮してしまうから」
志津「……それに」
言葉が、途切れた。
そして。
志津「誰かに助けてもらっていることを、他の人に知られたくない気持ちが……私には、分かるから。」
◆
店内が、静まり返った。
志津「……昔、私も似たようなことがあったんです」
弥子「…………」
志津「助けてもらって、本当は嬉しかった」
志津「……でも、それを他の人に知られた時、なんだか惨めで……」
志津「……それから、助けてくれた人にも、顔を合わせづらくなってしまったんです」
弥子「…………」
志津「だから、あの人には、そんな思いをさせたくなかった」
◆
志津は、目元を押さえた。
志津「……でも、私がちゃんと記録していなかったせいで……」
美咲「…………」
志津「美咲ちゃんにも、心配をかけてしまった」
弥子「…………」
志津「……ごめんなさい」
◆
しばらくして。
弥子「……あの」
志津「……?」
弥子「……店長さん」
志津「……はい」
弥子「……ひとつだけ、約束してもらってもいいですか?」
志津「……?」
弥子「お店のお金の記録は、ちゃんと付けてくださいね。」
志津「…………」
弥子「美咲さんも、心配してましたから」
志津「……はい」
弥子「……でも」
少しだけ、微笑んだ。
弥子「その人が誰なのかは、私たち、聞きません。」
志津「…………!」
弥子「……だって、店長さんが、そんなに大切に守っていた秘密なんですから」
志津「…………」
美咲「…………」
Xi「…………」
弥子「……それに」
志津「……?」
弥子「その人が、自分から話してくれる日が来るかもしれませんし」
志津「…………」
弥子「……だから、今はそれでいいと思います」
◆
志津「…………」
やがて。
志津「……ありがとうございます」
深々と、頭を下げた。
その声は、涙で震えていた。
◆
少し離れたところ。
ソープ「…………」
アルバート「…………」
二人は、黙ってその様子を見ていた。
Xi「…………」
そして。
Xi「……ねえ、ソープ様」
ソープ「……ん?」
Xi「……どう?」
ソープ「…………」
しばらく考えてから。
ソープ「……難しいね」
Xi「……うん」
ソープ「……お金をあげたいだけなら、簡単なことなのに」
アルバート「……ええ」
ソープ「……でも、相手がそれをどう受け取るかは、また別なんだね」
Xi「……そうだね」
ソープ「…………」
そして。
ソープ「……人間って、本当に難しいなぁ。」
小さく、微笑んだ。
◆ 7.天才二人、本物の謎に敗れる
しばらくして。
店内の空気は、少しだけ和らいでいた。
美咲「……店長」
志津「……何?」
美咲「……これからは、ちゃんと教えてくださいね」
志津「……ええ」
美咲「もちろん、お客さんの名前とか、そういうことじゃなくて」
志津「……うん」
美咲「……お店のお金のことです」
志津「……そうね」
微笑んだ。
志津「ごめんなさい」
美咲「……いいんです」
そして。
美咲「……でも、安心しました」
志津「……?」
美咲「……誰かにお金を盗まれているんじゃなくて、よかったです」
Xi「……あっ」
弥子「……そうだね!」
美咲「……ありがとうございます、桂木さん!」
弥子「……いえ!」
ネウロ「……さすが先生。今回も見事な名推理でございました!」
弥子「…………」
Xi(……相変わらず、外面だけはいいなぁ)
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◆
やがて、一行は店を後にした。
帰り道。
ソープ「……ねえ、ネウロ君」
ネウロ「……何だ?」
ソープ「……さっきの謎、どうだった?」
ネウロ「……フン」
アルバート「……お味は?」
ネウロ「…………」
少しだけ、考える。
そして。
ネウロ「……悪くなかった」
ソープ「……おお!」
アルバート「……そうなのですか?!」
ネウロ「仕掛けそのものは、単純だった」
Xi「……うん」
ネウロ「しかし、秘密を守ろうとする意思は、本物だった」
ソープ「…………」
ネウロ「店主は、自分が疑われることすら承知で、他者の秘密を守ろうとしていた」
アルバート「……なるほど」
ネウロ「……そこには、知性の抵抗があった」
ソープ「…………」
ネウロ「……それだけのことだ」
◆
アルバート「……しかし」
Xi「……?」
アルバート「我々の装置のほうが、仕掛けの構造ははるかに複雑だったはずですが……」
ネウロ「……フン」
アルバート「それなのに、こちらは謎として成立した……」
ソープ「……うん」
ネウロ「……貴様ら」
二人「「……?」」
ネウロ「まだ、仕掛けの複雑さを問題にしているのか?」
ソープ「…………!」
アルバート「…………!」
Xi「またそこに戻るの?!」
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◆
ネウロ「……ククク」
ソープ「……でもさ」
ネウロ「……?」
ソープ「本当に、不思議だね」
アルバート「……ええ」
ソープ「僕たちは何日も研究して、精巧な装置まで作った」
アルバート「そのとおりです」
ソープ「なのに、あの店長さんは、そんなこと何も考えていなかったんだよね」
アルバート「……ええ」
ソープ「ただ、誰かを守りたかった」
アルバート「…………」
ソープ「……それだけだったんだ」
◆
ネウロ「……フン」
そして。
ネウロ「それが、貴様らとの違いだ。」
ソープ「…………」
アルバート「…………」
ネウロ「貴様らは、我が輩に解かせるために謎を作った」
ソープ「……うん」
ネウロ「あの人間は、解かれたくないから謎を作った」
アルバート「…………」
ネウロ「目的が違う。意思が違う」
Xi「…………」
ネウロ「そして、その抵抗の強さが、謎の味を生む」
ソープ「…………」
アルバート「…………」
ネウロ「……ククク」
その口元に、満足そうな笑みが浮かんだ。
ネウロ「天然物とは、そういうものだ。」
◆
長い沈黙。
そして。
アルバート「……なるほど」
ソープ「……うん」
アルバート「……ようやく、理解できた気がします」
ソープ「……僕もだよ」
Xi「……そっか」
弥子「……よかったですね!」
ソープ「……ふふ」
アルバート「……ありがとうございます!」
その時。
ネウロ「……もっとも」
Xi「……?」
ネウロ「理解したところで、貴様らに作れるとは限らんがな。」
ソープ「…………!」
アルバート「…………!」
Xi「最後まで容赦ない!!」
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◆ 8.弥子だけが、できること
夕方。
いつものカフェテラス。
一行は、改めて腰を落ち着けていた。
テーブルには、飲み物と菓子。
そして。
弥子の前には、『麦の灯』で購入した大量のパン。
Xi「…………」
弥子「……ん?」
Xi「……それ、全部食べるの?」
弥子「うん!」
Xi「……さっきも食べてたよね?」
弥子「……あれは調査中だったから!」
Xi「調査中だと別腹になるの?!」
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◆
ソープ「……ねえ、弥子ちゃん」
弥子「……はい?」
ソープ「……ちょっと聞いてもいい?」
弥子「……何ですか?」
ソープ「……どうして、あの店長さんの話を最後まで聞こうと思ったの?」
弥子「……え?」
ソープ「だって、ネウロ君はもう謎を解いてたでしょ?」
弥子「……うん」
ソープ「……事件としては、あれで終わりだったんじゃないの?」
弥子「…………」
少しだけ、考える。
そして。
弥子「……そうですね」
ソープ「……うん」
弥子「……でも」
ソープ「……?」
弥子「あの人は、まだ泣いてたから。」
ソープ「…………」
アルバート「…………」
Xi「…………」
◆
弥子「謎が解けて、何があったのかは分かりました」
ソープ「……うん」
弥子「でも、どうしてそこまで秘密を守りたかったのかは、まだ分からなかったんです」
アルバート「……なるほど」
弥子「……だから、聞いてみたかった」
ソープ「…………」
弥子「……それだけですよ」
◆
ソープ「…………」
アルバート「…………」
しばらくして。
ソープ「……そっか」
小さく、微笑んだ。
ソープ「……ありがとう、弥子ちゃん」
弥子「……え?」
ソープ「……なんか、いろいろ勉強になったよ」
弥子「……そうですか?」
ソープ「……うん!」
◆
その時。
ネウロ「……フン」
Xi「……?」
ネウロ「貴様らも、ずいぶんと物好きだな」
ソープ「……?」
ネウロ「我が輩は、謎を解いた時点で満足した」
弥子「……うん」
ネウロ「その先の人間の事情など、我が輩の知ったことではない」
Xi「……そうだね」
ネウロ「……だが」
弥子「……?」
ネウロ「ヤコは、そういうことが好きなのだろう。」
弥子「…………」
Xi「…………」
◆
ソープ「……ねえ、ネウロ君」
ネウロ「……何だ?」
ソープ「……君には、弥子ちゃんみたいなことはできないの?」
ネウロ「…………」
Xi「……あっ」
ネウロ「……フン」
ソープ「……?」
ネウロ「我が輩に、必要のない能力だ」
ソープ「……そうかな?」
ネウロ「…………」
ソープ「……でも、弥子ちゃんがいてくれて、よかったでしょ?」
ネウロ「…………」
弥子「……?」
Xi「……?」
短い沈黙。
そして。
ネウロ「……ククク」
ネウロ「謎を解いた後の面倒事を押し付けられるという意味では、便利な奴だな。」
弥子「便利って何よ!!」
Xi「……ふふ」
ネウロ「……何がおかしい?」
Xi「……いや」
Xi「それって、結局、弥子ちゃんが必要だってことだよね?」
ネウロ「…………」
弥子「…………」
ネウロ「……お仕置きだな、ヤコ」
弥子「なんであたしぃぃぃ?!」
Xi「言ったのは僕だよーーー!!」
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◆ 9.二人の天才が得たもの
その日の夜。
研究施設。
アルバートは、最後の報告書を作成していた。
ソープ「……アルバート君」
アルバート「……はい?」
ソープ「……今回の研究、どうだった?」
アルバート「……非常に有意義でした」
ソープ「……うん」
アルバート「我々は、高度な装置を作ることができました」
ソープ「……そうだね」
アルバート「しかし、謎そのものを生み出すことはできませんでした」
ソープ「……うん」
アルバート「……それでも」
ソープ「……?」
アルバート「なぜ作れなかったのかを、少しは理解できたように思います。」
ソープ「……ふふ」
アルバート「……?」
ソープ「……僕もだよ」
◆
二人は、これまでの実験記録を眺めた。
消失事件。
暗号事件。
密室事件。
人工心理再現。
いずれも、技術としては立派な成果だった。
しかし。
それらには、どうしても足りないものがあった。
ソープ「……人間って、面白いね」
アルバート「……ええ」
ソープ「僕たちが頑張っても作れなかったものを、あの店長さんは自然に作っていた」
アルバート「……はい」
ソープ「……でも、店長さんは謎を作りたかったわけじゃないんだよね」
アルバート「……そうですね」
ソープ「……ただ、誰かを守りたかった」
アルバート「…………」
ソープ「……そのために、秘密を隠した」
アルバート「……はい」
ソープ「……それが、ネウロ君には美味しかったんだ」
◆
アルバート「……ソープさん」
ソープ「……ん?」
アルバート「……ひとつ、気づいたことがあります」
ソープ「……何?」
アルバート「我々は、人間の心を再現しようとしていました」
ソープ「……うん」
アルバート「しかし、あの店長さんの心を理解するために、装置は必要ありませんでした」
ソープ「…………」
アルバート「桂木さんは、ただ話を聞いていた」
ソープ「……うん」
アルバート「……それだけで、私たちには見えなかったものが見えてきた」
ソープ「…………」
そして。
ソープ「……そうだね」
小さく微笑んだ。
ソープ「人間の心って、作る前に、もっと知ろうとしなきゃいけないのかもしれないね。」
アルバート「……ええ」
◆
その時。
アルバート「……では!」
ソープ「……?」
アルバート「次の研究は、人間の感情の観察と分析を……!」
ソープ「……おお!」
アルバート「長期的な記録を取ることで……!」
ソープ「……いいね!」
その時。
背後から。
Xi「だから、勝手に人を観察対象にしないで!!」
二人「「……?!」」
Xi「……たまたま忘れ物を取りに来たら、また研究計画を立ててる!!」
ソープ「……あっ! Xi君!」
アルバート「ちょうどよかった!」
Xi「……何が?!」
アルバート「ぜひ、研究協力者として……!」
Xi「お断りします!!」
wwwwww
◆
ソープ「……でも、Xi君」
Xi「……何?」
ソープ「……今回の研究、楽しかったよ!」
Xi「…………」
ソープ「……いろいろ、ありがとう!」
アルバート「私からも、お礼を申し上げます!」
Xi「…………」
しばらくして。
Xi「……まあ」
少しだけ、笑った。
Xi「……大きな事故もなかったしね」
ソープ「……うん!」
Xi「……二人とも、何か学べたみたいだし」
アルバート「はい!」
Xi「……それなら、よかったよ」
◆
その時。
アルバート「……では、次回の研究では……!」
Xi「次回?!」
ソープ「……ふふ」
Xi「もう少し休もうよぉぉぉ!!」
wwwwww
◆ 10.魔人は、今日も腹を空かせている
夜。
いつものカフェテラス。
弥子とXiは、ようやく帰り支度を始めていた。
Xi「……はぁ」
弥子「……お疲れさま!」
Xi「……うん!」
弥子「……今回も、なんだかんだで楽しかったね」
Xi「……そうだね」
Xi「……でも、疲れたよ」
弥子「……あはは」
◆
その傍らで。
ネウロは、静かに夜の街を眺めていた。
Xi「……ネウロ」
ネウロ「……何だ?」
Xi「……今日は、いい食事ができた?」
ネウロ「……フン」
Xi「……?」
ネウロ「……まあ、悪くなかった」
弥子「……へぇ!」
Xi「……よかったね」
ネウロ「……もっとも」
Xi「……?」
ネウロ「我が輩の食欲を完全に満たすには、まだまだ足りん。」
Xi「……そっか」
弥子「……大変だねぇ」
ネウロ「……フン」
◆
ネウロ「……だが」
Xi「……?」
ネウロ「今回、ひとつ分かったことがある」
弥子「……何?」
ネウロ「……人間どもは、実に効率よく謎を生み出す」
Xi「……うん」
ネウロ「己の欲望を守るため」
弥子「…………」
ネウロ「他者を欺くため」
Xi「…………」
ネウロ「あるいは、誰かを守るため」
弥子「…………」
ネウロ「そのために、持てる知性を尽くす」
ゆっくりと、口元を歪めた。
ネウロ「……ククク」
ネウロ「実に、素晴らしい食料生産能力だ。」
Xi「…………」
弥子「…………」
Xi「人間を食料生産装置みたいに言わないで!!」
wwwwww
◆
そして。
Xi「……でもさ」
ネウロ「……何だ?」
Xi「……今日の店長さんみたいに、人を守るための秘密もあるんだね」
ネウロ「……当然だ」
Xi「……うん」
ネウロ「我が輩にとって重要なのは、知性の抵抗だ」
弥子「…………」
ネウロ「善意か悪意かなど、謎の味を決める要素のひとつにすぎん」
Xi「……なるほど」
ネウロ「……もっとも」
Xi「……?」
ネウロ「秘密を守る執念が強ければ強いほど、謎もまた深みを増す。」
弥子「…………」
Xi「…………」
ネウロ「……ククク」
魔人は、夜の街へ視線を向けた。
そこには、無数の人間たちが暮らしている。
秘密を守る人。
秘密を暴こうとする人。
誰にも知られたくない想いを抱える人。
そして、その秘密を誰かに打ち明けようとする人。
ネウロ「…………」
静かに、笑った。
ネウロ「……人間どもは、実に面白い」
◆
弥子「……ねえ、ネウロ」
ネウロ「……何だ?」
弥子「……また、いい謎が見つかるといいね」
ネウロ「……フン」
Xi「……今度は、もうちょっと平和なやつがいいなぁ」
ネウロ「……ククク」
Xi「……?」
ネウロ「それは、謎を生み出す人間次第だな。」
Xi「…………」
Xi「だから不吉なこと言わないでってば!!」
弥子「あはははは!」
◆
こうして。
『人工謎養殖計画』は、ひとまず幕を閉じた。
二人の天才は、人工的な謎を作ることには失敗した。
しかし、その失敗を通じて、人間の心について少しだけ理解を深めた。
魔人は、本物の謎を食らい、久しぶりに食欲を満たした。
女子高生探偵は、秘密を失って傷ついた一人の人間に、そっと寄り添った。
そして。
怪盗Xiは。
Xi「……ああ、ようやく終わった……」
Xi「……これで、少しは平和に……」
その時。
携帯端末が鳴った。
ソープからのメッセージだった。
『Xi君! また面白い研究を思いついたんだけど!』
Xi「…………」
弥子「……Xi?」
Xi「…………」
Xi「やっぱり平和が長続きしないぃぃぃ!!」
弥子「あはははは!」
ネウロ「……ククククク!」