守るべきもの、怒るべきもの、斬るべきもの、喰うべき謎 ――キラ、承太郎、カイエン、ネウロのごった煮会話劇 作:ギアっちょ
◆ 1.電人HALは、36万円のスマホを贈る
スピードワゴン財団・特別研究施設。
弥子「……わあああ!!」
Xi「……おお!!」
二人の前には、一台のスマートフォンが置かれていた。
『知恵の実』社製。
最新型の折りたたみ式大画面スマートフォン。
その価格、実に36万4,800円。
弥子「……すごい!」
Xi「……本当に買ったんだ……」
HAL「……ふむ」
大型モニターに映し出された電人HALは、満足そうに腕を組んでいる。
HAL「以前から検討していた端末だよ。表示性能、処理能力、携帯性、いずれも優秀だ」
Xi「……うん」
HAL「研究協力と災害対応で得た報酬から、正式な手続きを経て購入してもらった」
弥子「……ありがとう、HAL!」
HAL「……礼には及ばない」
弥子「……えへへ」
HAL「私自身の利用環境を改善するためでもあるからね」
Xi「……まあ、そうだよね」
HAL「……ただし」
弥子「……?」
HAL「落としたりしないように。」
弥子「……うん!」
Xi「……36万だしね……」
HAL「……正確には36万4,800円だがね」
Xi「そこは訂正しなくていいから!!」
wwwwww
◆
弥子「……じゃあ、開いてみるね!」
パカッ。
大きな画面が現れた。
弥子「……わああ!!」
Xi「……すごい! 小さなタブレットみたい!」
HAL「……ふむ。素晴らしい」
弥子「……HAL、これなら画面が広くていいね!」
HAL「……ああ。私の映像を表示するには、十分な面積だ」
Xi「……やっと念願が叶ったね!」
HAL「……ククク」
弥子「……じゃあ、早速!」
HAL「……うむ」
通信開始。
画面いっぱいに、HALの姿が現れた。
HAL「……ふむ。なかなか快適ではないかね」
弥子「……うん!」
Xi「……よかった!」
◆
……数秒後。
弥子「……あっ!」
HAL「……?」
弥子「ちょっと待ってね!」
ピッ。
HALの映像が、画面の隅へ。
代わりに表示されたのは。
ケーキ屋さんのメニュー。
HAL「…………」
Xi「…………」
弥子「……わあ! 写真が大きい!!」
HAL「…………」
弥子「……この新作モンブラン、おいしそう!」
Xi「…………」
HAL「……桂木弥子」
弥子「……何?」
HAL「私は、画面の狭さを解消するためにこの端末を購入したはずなのだがね。」
弥子「……うん!」
HAL「……にもかかわらず、以前より小さな表示領域に追いやられているように見えるのだが?」
弥子「……だって、メニューが見づらいんだもん!」
HAL「…………」
Xi「…………」
Xi「36万円使って、第373話に逆戻りしてるーーー!!」
wwwwww
◆
しかし。
弥子「……HAL!」
HAL「……何かね?」
弥子「……このスマホ、大事に使うね!」
HAL「…………」
弥子「……本当にありがとう!」
HAL「…………」
少しだけ、目を細める。
HAL「……ああ」
HAL「……それならば、問題はない」
Xi「……おお!」
HAL「ただし、私の映像の大きさについては、改めて協議する必要があるね」
弥子「……ええっ?!」
Xi「そこは譲らないんだ!!」
wwwwww
◆ 2.怪盗Xiは、妙な提案をする
その日の午後。
いつものカフェテラス。
弥子は新しいスマートフォンをテーブルに置き、ケーキを楽しんでいた。
その手首には、アルバート特製の腕時計型立体映像通信装置。
空中には、小さなHALが浮かんでいる。
HAL「……ふむ」
Xi「……便利になったねぇ」
弥子「……うん!」
HAL「携帯端末としては、ようやく満足できる環境になったと言えるだろう」
Xi「……よかったね!」
◆
弥子「……でもさ」
HAL「……何かね?」
弥子「こうしてHALと一緒に歩くのも、もうすっかり普通になったね」
HAL「……ふむ」
弥子「最初は、スマホの画面だけだったのに」
Xi「……そうだね」
HAL「……確かに、視覚的な制約は大幅に改善された」
弥子「……うん!」
◆
Xi「……ねえ、HAL」
HAL「……何かね?」
Xi「……もし、弥子ちゃんと普通に街を歩いてみたいならさ」
HAL「……ほう?」
Xi「こういうのも、アリじゃない?」
弥子「……えっ?」
HAL「……?」
Xiは、にやりと笑った。
そして。
その姿が、ゆっくりと変わり始める。
髪。
顔立ち。
身長。
服装。
ほんの数秒で。
そこに立っていたのは。
春川英輔教授の姿をした、一人の男性だった。
◆
弥子「…………!」
HAL「…………」
Xi「……どう?」
聞こえてきたのは、いつものXiの声。
Xi「……僕、変身は得意だからね!」
弥子「…………」
Xi「HALの声はスマホや腕時計から出して、僕が隣を歩く。そうすれば……」
少し照れくさそうに笑う。
Xi「HALが弥子ちゃんと並んで歩いてるみたいになるんじゃない?」
◆
HAL「…………」
しばらく、沈黙。
やがて。
HAL「……ふむ」
Xi「……?」
HAL「……なるほど」
少しだけ、目を細める。
HAL「……君は、なかなか大胆な提案をするのだね」
Xi「……えへへ!」
弥子「…………」
そして。
弥子「……春川教授……」
その声は、ほんの少しだけ震えていた。
◆ 3.電人HALは、自分の顔を見る
カフェテラスの片隅。
春川教授の姿をしたXi。
腕時計の立体映像に映し出されたHAL。
同じ顔立ちを持つ二人が、向かい合っていた。
Xi「……どうかな?」
HAL「……ふむ」
HAL「外見の再現精度は、相当に高いね」
Xi「……でしょ!」
HAL「……しかし」
Xi「……?」
HAL「表情と立ち居振る舞いには、改善の余地がある。」
Xi「……えっ?」
HAL「春川英輔は、そんなに頻繁に得意げな笑顔を浮かべる人物ではなかったと思うがね」
Xi「いきなり演技指導?!」
wwwwww
◆
Xi「……じゃあ、こう?」
すっ。
表情を引き締める。
HAL「……ふむ」
Xi「……?」
HAL「今度は、少々不機嫌そうだね」
Xi「……じゃあ!」
HAL「……眉の角度が違う」
Xi「……ええっ?!」
HAL「視線の動きにも、もう少し落ち着きが必要だ」
Xi「注文が細かい!!」
弥子「……ふふっ」
◆
しかし、HALは。
ふと、口を閉じた。
HAL「…………」
Xi「……HAL?」
HAL「…………」
立体映像のHALは、目の前に立つ自分とよく似た男を見つめている。
その顔は、自分の人格の原型となった人間のものだった。
春川英輔。
かつて、この世界に生きていた人間。
そして、すでに亡くなった人間。
◆
HAL「……Xi君」
Xi「……何?」
HAL「君がその姿になったところで、春川英輔が戻ってくるわけではないのだがね」
Xi「…………」
弥子「…………」
HAL「……そして、私が肉体を得たことにもならない」
Xi「……うん」
HAL「……ふむ」
Xi「……それは、分かってるよ」
少しだけ、微笑んだ。
Xi「僕は僕だし、HALはHALだからね。」
HAL「…………」
Xi「……ただ、HALが普通に人間として歩いたら、どんな感じなのかなって」
HAL「……ほう?」
Xi「……ちょっと、試してみたかったんだ」
◆
HAL「…………」
しばらくして。
HAL「……なるほど」
HAL「……興味深い提案だね」
Xi「……おっ!」
HAL「ただし、私の視覚情報は、これまでどおり君たちが持つ端末から得ることになる」
Xi「……うん!」
HAL「君の身体を、私が自由に操作できるわけでもない」
Xi「……当然!」
HAL「……そして、春川英輔本人を名乗るわけにもいかない」
Xi「……もちろん!」
HAL「……ふむ」
少しだけ、笑った。
HAL「ならば、短時間の試みとしては悪くないかもしれないね。」
Xi「……やった!」
◆
弥子「……Xi」
Xi「……何?」
弥子「……ありがとう」
Xi「……えっ?」
弥子「……でも、無理しなくていいからね」
Xi「……うん!」
弥子「……それに」
少しだけ、笑う。
弥子「あたしは、いつものXiも好きだよ。」
Xi「…………!」
HAL「……ククク」
Xi「……な、何だよ!」
HAL「……いや」
HAL「君は、なかなか恵まれた怪盗のようだね」
Xi「……もう!」
wwwwww
◆ 4.春川教授は、街を歩く?
商店街。
弥子の隣を、春川教授の姿をしたXiが歩いていた。
その片手には、例の折りたたみスマートフォン。
画面には、HALの姿。
弥子「……なんか、不思議な感じだね」
Xi「……そう?」
弥子「……うん」
HAL『……ふむ』
Xi「……どう、HAL?」
HAL『なかなか興味深い光景だね』
Xi「……でしょ?」
HAL『もっとも、私から見れば、君の姿をした人間が私の映像を持ち歩いているだけなのだがね』
Xi「そこは雰囲気を楽しんでよ!!」
wwwwww
◆
弥子「……でも」
HAL『……?』
弥子「……なんだか、HALが本当に隣を歩いてるみたい」
HAL『……ふむ』
Xi「……へへっ」
HAL『……では、少しだけ試してみようか』
Xi「……何を?」
HAL『Xi君。そのまま右へ曲がりたまえ』
Xi「……うん!」
HAL『……次の角を左だ』
Xi「……はいはい!」
HAL『……歩幅を少し小さく』
Xi「……えっ?」
HAL『……姿勢を正したまえ』
Xi「…………」
HAL『……腕の振り方が不自然だね』
Xi「僕はHALのラジコンじゃないんだけど!!」
弥子「あはははは!!」
wwwwww
◆
HAL『……失礼したね』
Xi「……まったく!」
HAL『君の身体を借りているつもりになっていたようだ』
Xi「……それは困る!」
HAL『……ククク』
◆
しばらくして。
三人は、公園へ出た。
雨上がりの空には、青い雲間が広がっていた。
先日の大雨による被害の跡は、まだ街のところどころに残っている。
工事中の柵。
修復作業を続ける人々。
それでも、通りには少しずつ日常が戻っていた。
弥子「……この前は、大変だったね」
Xi「……うん」
HAL『……ああ』
弥子「……でも、みんな頑張ってくれたから」
Xi「……そうだね」
HAL『……ふむ』
◆
しばらく、三人は歩いた。
HALが建物の構造について解説し。
Xiが難しい話に首をかしげ。
弥子が途中で見つけた菓子店に夢中になる。
いつもと変わらない風景。
ただ、今日は。
弥子の隣に、春川英輔とよく似た姿の青年がいた。
◆
Xi「……ねえ、HAL」
HAL『……何かね?』
Xi「……どうだった?」
HAL『……ふむ』
Xi「……こういうのも、悪くなかったでしょ?」
HAL『…………』
少しだけ、考える。
HAL『……そうだね』
Xi「……おっ!」
HAL『私に身体があるという感覚を得られたわけではないが、君たちが私と並んで歩こうとしていることは理解できたよ。』
Xi「…………」
弥子「…………」
HAL『……なかなか悪くないものだね』
◆
Xi「……へへっ!」
弥子「……うん!」
そしてXiは、にっこり笑った。
Xi「……でも、そろそろ戻るね!」
HAL『……ああ』
Xi「……えいっ!」
ぱっ。
一瞬で、いつもの少年の姿へ。
弥子「……おかえり、Xi!」
Xi「……ただいま!」
HAL『……ふむ』
Xi「……HAL?」
HAL『……やはり、そちらの姿のほうが君らしいね』
Xi「……えへへ!」
HAL『……何しろ』
Xi「……?」
HAL『春川英輔の姿をしていながら、言動がいちいち落ち着きのない少年では、少々違和感があるからね。』
Xi「最後にそれ言う?!」
弥子「あははは!!」
wwwwww
◆ 5.桂木弥子は、戻らない人を思う
夕方。
公園のベンチ。
Xiは飲み物を買いに、少し離れた売店へ向かっていた。
弥子「……ふぅ」
HAL『……ふむ』
弥子「……HAL」
HAL『……何かね?』
弥子「……さっきの、どうだった?」
HAL『……Xi君の変身かね?』
弥子「……うん」
HAL『……興味深かったよ』
弥子「……そっか」
HAL『……ああ』
◆
弥子「……あのね」
HAL『……?』
弥子「春川教授の顔を見たとき、ちょっとびっくりしちゃった」
HAL『…………』
弥子「……でも、Xiだって分かってたから」
HAL『……ああ』
弥子「……うん」
少しだけ、空を見上げる。
弥子「……やっぱり、姿が同じでも、その人が帰ってきたわけじゃないんだよね」
HAL『…………』
弥子「……変なこと言っちゃったかな」
HAL『……いや』
しばらくして。
HAL『そのとおりだよ。』
◆
春川英輔は、もういない。
その人格をもとに生まれたHALが、ここにいる。
しかし、それは同じことではない。
そして、HAL自身も。
かつて消滅した電脳人格と、現在の自分が完全に同一なのか。
まだ結論を出してはいなかった。
◆
HAL『……桂木弥子』
弥子「……何?」
HAL『ひとつ、聞いてもいいかね?』
弥子「……うん」
HAL『…………』
少しだけ、間を置く。
そして。
HAL『……もし君が、大切な者の命を奪った人間の存在を知ったなら。』
弥子「…………」
HAL『……君は、どうする?』
◆
弥子「…………」
しばらく、沈黙。
弥子「……そうだね」
HAL『…………』
弥子「……きっと、許せないと思う」
HAL『……ふむ』
弥子「……すごく腹が立つだろうし、悲しいと思う」
HAL『…………』
弥子「……でも」
少しだけ、膝の上で手を握る。
弥子「だからって、自分まで誰かを傷つけていいことにはならないと思う。」
◆
HAL『…………』
弥子「……それに」
HAL『……?』
弥子「……もし、その人をどうにかできたとしても」
少しだけ、声を落とす。
弥子「亡くなった人が、帰ってくるわけじゃないから。」
◆
HAL『…………』
風が、静かに木々を揺らした。
しばらく。
何も言わなかった。
そして。
HAL『……そうだね』
弥子「…………」
HAL『……それは、私もよく知っている。』
◆
弥子「……HAL」
HAL『……何かね?』
弥子「……どうして、そんなこと聞いたの?」
HAL『…………』
しばらく、沈黙。
HAL『……ふむ』
HAL『人間が、取り返しのつかない喪失をどう受け止めるのか。少し興味があったのだよ』
弥子「……そっか」
HAL『……ああ』
弥子「…………」
しばらくして。
弥子「……ねえ、HAL」
HAL『……何かね?』
弥子「……あたし、こうしてまたHALと話せるの、嬉しいよ」
HAL『…………』
弥子「……前にも言ったけどね」
HAL『……ああ』
弥子「……だから、これからも一緒にいようよ」
HAL『…………』
少しだけ、目を細める。
HAL『……ククク』
HAL『……そうだね』
◆
その時。
Xi「……お待たせーーー!!」
弥子「……あっ!」
Xi「弥子ちゃん、ジュース買ってきたよ!」
弥子「……ありがとう!」
Xi「HALには……えっと……」
HAL『……私は飲み物を必要としないのだがね』
Xi「……分かってるよ!」
弥子「……ふふっ」
HAL『……ククク』
重くなりかけた空気は、いつもの調子へ戻っていった。
◆ 6.電人HALは、平和な日常を楽しむ
その日の夜。
いつものカフェテラス。
弥子「……ん~~~!!」
Xi「……おいしい?」
弥子「うん!!」
HAL『……ふむ』
弥子の前には、大きなショートケーキ。
そして、チョコレートケーキ。
さらに、モンブラン。
Xi「……ねえ、弥子ちゃん」
弥子「……何?」
Xi「……今日、もう何個目?」
弥子「……えっと……」
HAL『……正確には、現在七個目だね』
Xi「七個?!」
弥子「……あっ!」
Xi「……?」
弥子「あと一個で八個だね!!」
Xi「だから何の達成目標なの?!」
wwwwww
◆
HAL『……桂木弥子』
弥子「……何?」
HAL『私が負担すると約束した菓子代についてだが』
弥子「……あっ!」
HAL『先日合意した上限を超える分は、君自身で支払いたまえ』
弥子「……うん!」
HAL『……ふむ』
弥子「……じゃあ、今日はここまでHALのおごりで!」
Xi「……えっ?」
HAL『…………』
Xi「……弥子ちゃん、それ全部じゃ……」
HAL『……桂木弥子』
弥子「……何?」
HAL『私は、一日500円程度と申し上げたはずだがね。』
弥子「……あれ?」
Xi「やっぱり忘れてたーーー!!」
wwwwww
◆
弥子「……じゃあ、今日の分は500円だけ出してもらう!」
HAL『……ああ』
弥子「……ありがとう!」
HAL『……礼には及ばないよ』
Xi「……ふふっ」
◆
少しだけ、静かな時間が流れた。
カフェの窓の外。
街には、いつもの明かり。
先日の災害の被害がすべて片付いたわけではない。
それでも、店は営業を再開し、人々は少しずつ日常を取り戻していた。
Xi「……そういえば」
弥子「……何?」
Xi「この前の救助活動、財団からお礼の連絡が来たよ」
弥子「……えっ!」
HAL『……ほう』
Xi「……みんな無事に家族と会えたって」
弥子「……よかったぁ……!」
Xi「……うん!」
HAL『……ふむ』
◆
弥子「……HAL」
HAL『……何かね?』
弥子「……HALのおかげでもあるね」
HAL『……ああ』
Xi「……おっ?」
HAL『……私の情報分析が役に立ったのは事実だからね』
Xi「謙遜しない!!」
wwwwww
HAL『……だが』
弥子「……?」
HAL『あの場にいた人間たちの判断と行動がなければ、同じ結果にはならなかっただろう』
Xi「…………」
弥子「…………」
HAL『……それもまた、事実だよ』
◆
Xi「……HAL」
HAL『……何かね?』
Xi「……なんか、カッコいいね」
HAL『……ククク』
HAL『私は、元から優秀なのだがね。』
Xi「はいはい!!」
wwwwww
◆ 7.怪盗Xiは、株価を見る
しばらくして。
Xi「……あれ?」
弥子「……どうしたの?」
Xiは、自分のスマートフォンを見つめていた。
Xi「……うーん……」
弥子「……?」
Xi「……また下がってる」
HAL『……何がかね?』
Xi「……クソ親父の会社の株価」
弥子「……えっ?」
HAL『……ほう』
◆
Xi「……この前も下がってたんだよね」
弥子「……そうなの?」
Xi「……うん」
画面をスクロールする。
Xi「……今回の災害の影響かなぁ」
弥子「……どうだろうね」
Xi「……まあ、別にいいんだけどさ」
HAL『……ふむ』
Xi「…………」
少しだけ、考える。
Xi「……それにしても」
HAL『……?』
Xi「……なんだか、妙な下がり方だなぁ」
◆
HAL『…………』
Xi「…………」
……ちらっ。
HAL『……何かね?』
Xi「……いや……」
HAL『……ふむ』
Xi「…………」
もう一度。
……ちらっ。
HAL『…………』
そして。
HAL『……何故、私を見るのかね?』
◆
Xi「…………!」
弥子「…………」
Xi「……いや……なんとなく……」
HAL『……なるほど』
Xi「……うん」
HAL『……ククク』
Xi「…………」
弥子「…………」
Xi「だから、その笑い方が怪しいんだってば!!」
wwwwww
◆
HAL『……心外だね』
Xi「……えっ?!」
HAL『私は、ただ笑っただけだがね』
Xi「……いや、でもさ!」
HAL『……何か具体的な根拠でもあるのかね?』
Xi「…………」
弥子「…………」
Xi「……ないけど……」
HAL『……ふむ』
HAL『ならば、単なる憶測ではないかね?』
Xi「…………」
HAL『……ククク』
Xi「正論で疑惑を深めるの、やめてくれない?!」
wwwwww
◆ 8.電人HALは、投資を勧める
しばらくして。
話題は、いつの間にか別のものに移っていた。
弥子「……そういえば、Xi」
Xi「……何?」
弥子「この前のお礼に、何かおごろっか?」
Xi「……えっ?」
弥子「……飲み物とか!」
Xi「……いいの?」
弥子「……うん!」
HAL『……ふむ』
Xi「……じゃあ、ホットココア!」
弥子「……オッケー!」
◆
和やかな空気。
その中で。
HAL『……ところで、桂木弥子』
弥子「……何?」
HAL『私の計算によれば、現在、一時的に市場で株価が下がっているものの、近いうちに持ち直す可能性が高い銘柄があるのだが』
弥子「……へぇ!」
Xi「…………」
HAL『……購入を検討してみる気はないかね?』
弥子「……株?」
HAL『……ああ』
Xi「…………!」
◆
弥子「……でも、株って難しそう」
HAL『……ふむ。そうだね』
弥子「……うん」
HAL『当然ながら、価格の回復を保証できるわけではない。投資には常にリスクが伴うからね』
弥子「……なるほど」
Xi「…………」
HAL『……そのうえで、興味があるなら、基本的な仕組みくらいは説明できるよ』
弥子「……うーん」
Xi「…………」
HAL『……どうかね?』
その時。
Xi「その発言が怪しい!!」
◆
HAL『…………』
弥子「……えっ?」
Xi「さっきクソ親父の会社の株が下がってるって話をしたばっかりじゃん!!」
HAL『……ふむ』
Xi「……なのに急に!」
HAL『……何か問題でも?』
Xi「……いや、だから!!」
HAL『一時的に株価が下落している銘柄について、一般的な投資判断を述べただけなのだがね』
Xi「…………」
HAL『……ククク』
Xi「一般的な話に聞こえないんだよーーー!!」
wwwwww
◆
弥子「……ねえ、HAL」
HAL『……何かね?』
弥子「……その株って、どこの会社?」
HAL『……ふむ』
Xi「…………!」
HAL『銘柄名だけで投資の良し悪しを判断するのは、あまり合理的ではないのだがね』
弥子「……そっか」
HAL『……ああ』
Xi「…………」
HAL『……それで、桂木弥子』
弥子「……何?」
HAL『株式投資に興味はあるかね?』
弥子「……うーん」
少しだけ、考える。
そして。
弥子「やっぱり、そのお金でケーキ買ったほうがいいかな!!」
…………。
HAL『…………』
Xi「…………」
HAL『……ふむ』
HAL『君の投資方針は、実に一貫しているのだな。』
弥子「……えへへ!」
Xi「投資方針じゃなくて食欲だから!!」
wwwwww
◆ 9.怪盗Xiは、電人HALを信用したい
さらに、しばらくして。
弥子が追加のケーキを注文しに席を立った。
Xiは、スマートフォンの画面に映るHALを見つめていた。
Xi「…………」
HAL『……何かね?』
Xi「……HAL」
HAL『……ふむ』
Xi「……ひとつ、訊いていい?」
HAL『……どうぞ』
Xi「……ネットへのアクセスは、今も制限されてるんだよね?」
HAL『……そのとおりだよ』
Xi「…………」
HAL『……災害時に使用した臨時の接続経路も、すでに切断されている』
Xi「……うん……」
HAL『……財団の監視体制も、以前と変わらず維持されているね』
Xi「……だよねぇ……」
◆
HAL『…………』
Xi「…………」
HAL『……ふむ』
Xi「……?」
HAL『……Xi君』
Xi「……何?」
HAL『君は、私が何かをしたのではないかと疑っているのかね?』
Xi「…………」
少しだけ、考える。
Xi「……分かんない」
HAL『……ほう?』
Xi「……でも」
HAL『……?』
Xi「……HALは、すごい能力を持ってるから」
HAL『……ああ』
Xi「……時々、僕たちには分からないことを考えてるんじゃないかなって」
◆
HAL『…………』
Xi「……ただ」
少しだけ、笑う。
Xi「僕は、HALを信じたいんだよ。」
HAL『…………』
Xi「この前、ちゃんと約束を守ってくれたし」
HAL『……ああ』
Xi「……一緒に人助けもしたし」
HAL『……ふむ』
Xi「……だから」
少しだけ、目を細める。
Xi「……できれば、変なことはしてほしくないなって」
◆
HAL『…………』
しばらく、沈黙。
そして。
HAL『……なるほど』
Xi「…………」
HAL『……君は、なかなか面白い少年だね』
Xi「……えっ?」
HAL『私を信じたいと言いながら、疑うこともやめない』
Xi「……あっ」
HAL『……ククク』
Xi「……それって、変かな?」
HAL『……いや』
ほんの少しだけ、表情を和らげる。
HAL『むしろ、健全な態度なのかもしれないね。』
Xi「…………」
◆
Xi「……そっか」
HAL『……ああ』
Xi「……じゃあ」
HAL『……?』
Xi「……これからも、仲良くしてよね!」
HAL『……ふむ』
少しだけ、不敵に笑う。
HAL『……検討しておこう』
Xi「そこは即答してよ!!」
wwwwww
◆ 10.電人HALは、含み笑いをする
やがて。
弥子が、追加のケーキを持って戻ってきた。
弥子「……お待たせ!」
Xi「……あっ!」
弥子「……何の話してたの?」
Xi「……えっと」
HAL『……ふむ』
Xi「……HALが、なんか怪しいって話」
弥子「……えっ?」
HAL『……心外だね』
Xi「……いや、だって!」
HAL『……ククク』
弥子「…………」
Xi「…………」
◆
弥子「……HAL」
HAL『……何かね?』
弥子「……なんだか、楽しそうだね?」
HAL『……そうかね?』
弥子「……うん」
HAL『……ふむ』
少しだけ、考える。
そして。
HAL『人間が、限られた情報からどのような結論を導き出すのか。観察するのは実に興味深いものだよ。』
◆
Xi「…………!」
弥子「…………!」
Xi「それって僕たちのこと?!」
HAL『……さてね』
弥子「……HAL!!」
HAL『……ククク』
Xi「絶対楽しんでるでしょーーー!!」
wwwwww
◆
HAL『……私は、君たちに何かを断定した覚えはないのだがね』
Xi「……それはそうだけど!」
HAL『……ふむ』
Xi「…………」
HAL『君たちが、どのような可能性を考えるのかは自由だよ』
弥子「……もう!」
HAL『……ククク』
◆
しばらくして。
Xi「……ねえ、弥子ちゃん」
弥子「……何?」
Xi「……僕、やっぱりHALのこと、よく分かんないよ」
弥子「……うん」
Xi「……弥子ちゃんは?」
弥子「……あたしも」
Xi「……えっ?」
弥子「……HALが何考えてるかなんて、全部分かるわけないよ」
Xi「…………」
弥子「……でもさ」
少しだけ、笑う。
弥子「だから、話すんじゃない?」
◆
Xi「…………」
HAL『…………』
弥子「……HALが何か言ってくれたら、あたしも考えるし」
Xi「……うん」
弥子「分かんないことがあったら、また訊けばいいし」
Xi「……そっか」
弥子「……うん!」
◆
HAL『……桂木弥子』
弥子「……何?」
HAL『君は、相変わらず単純な結論を出すのだね』
弥子「……えっ?!」
HAL『……しかし』
少しだけ、微笑む。
HAL『それも、ひとつの合理的な考え方なのかもしれない。』
弥子「……えへへ!」
Xi「……うん!」
◆
……しかし。
Xi「……でもさ、HAL」
HAL『……何かね?』
Xi「……あの株の話は、本当にどういう意味だったの?」
HAL『…………』
弥子「……あっ!」
Xi「……ねえ!」
HAL『……ふむ』
少しだけ、目を細める。
そして。
HAL『……ククク。』
◆
Xi「…………」
弥子「…………」
Xi「…………」
弥子「…………」
Xi「だから、その笑い方が怪しいんだってばーーー!!」
弥子「HAL!! 笑ってないで説明してよーーー!!」
HAL『……クククク』
◆
その日も、街は平和だった。
ケーキはおいしく。
スマートフォンは高性能で。
怪盗Xiは、今日も元気にツッコミを入れている。
そして。
電人HALは、いつもどおり。
不敵に笑っていた。
それが単なる冗談なのか。
何か意味があるのか。
それとも、本当に何もないのか。
その答えを、誰も知らない。
ただひとつ確かなのは。
HALが、弥子たちと過ごすこの時間を、これからも続けようとしていることだった。
HAL『……さて』
弥子「……何?」
HAL『そろそろ、次の店へ向かわないかね?』
弥子「……えっ?!」
HAL『……君が以前から興味を示していた菓子店が、近くにあったはずだが』
弥子「……本当?!」
HAL『……ああ』
弥子「……行く行く!!」
Xi「まだ食べるのーーー?!」
HAL『……ククク』