今後登場する魔法に関係するので記載していましたが、ややこしくて描写の幅が狭まる上に、数値化しなくても文章で説明できるので撤廃しました。
次回は、今日の20時頃に出します。
玉座に座るシキリア王は、ばつが悪そうに項垂れる。
「そうか…ゼーレのことを知ったのか……」
「はい、帝国の新聞に書かれていました」
シキリア王は軽く目を瞑って、私に視線を合わせる。
「まずは、黙っていてすまない。
これは伝えるわけにはいかないと、私が判断したことだ」
王は、事の経緯を話し始める。
アリーナとミュラーから「近くの村に巣食う魔族を討伐した、転移者がいる」と報告されると共に、「堰代さんはギメルの存在を知ったら、単独でも倒しに行く」と聞かされたようだ。
「恩人に、そんなことさせるわけにはいかない」と、周りの人間に伝え、新聞会社にもゼーレのことは取り扱わないよう命令した。
だが他国新聞の取り寄せ禁止までは、行わなかったようだ…当然だ、そんなことをやったら国民から非難されるだろう。
連邦にいた頃から、神様達は戦争している魔族のことを、あまり話してくれなかった。
初めてミュラーと会ったときに聞いても、はぐらかされた。
点と点が線で繋がった、全員、私のことを心配して黙っていたんだ。
心にソゲが刺さったような感覚になったが、それでも考えは変わらない。
「行くんだな」
王の問いかけに、ゆっくりと頷いた。
魔族の被害を見る前なら、まだ歯止めが効いたかもしれない。
だが魔族を間近で見た今…病をばら撒く魔族が、国を蹂躙しているなどと知ったら─深呼吸をした、額に血管が浮かんでいたようだ。
脳裏をよぎるは、死ぬ直前の記憶。
あらゆる未来を奪い去り、尊厳や肉体を蝕む絶望の塊。
それが広がり続けている…生物の意思によって。
見て見ぬ振りしようにも、頭に浮かんでくる、食事をしていても、寝ていても「この時間も、誰か殺されているのか?」と。
居場所がわからないなら、まだ割り切れたかもしれないが、所在地まで把握できてしまっている。
「デメテラとしては、恩人が危険な目に遭ってほしくない。
だけど、それを決めるのはワシらではない。
いくつか渡したい物がある、少し待っていてくれ」
王は側近に合図をすると、側近はカートを持ってきた、その上には服と剣がある。
「デメテラで手に入る、最高級の装備だ。
鋼鉄ウールの服に、名工が打った剣…持っていってくれ」
「よいのですか?」
「あぁ、恩人を手ぶらで行かせたくはない。
それに元から渡すつもりだった」
側近に着替え部屋へと案内してもらった。
着けた服は寸法もピッタリで、伸縮性があるのに、繊維の一本一本が硬く靭やかだった。
剣を手に取ると、不思議なほど馴染む…まるで数年は使っているかのようだ。
「両方、私に合わせて作ってくれたんだろうな」
王の間に戻ると、王から刻印の入った封筒を渡された。
「これも持っていってくれ、おぬしの身分を証明するものだ」
なんでここまで…と思うのは失礼か。
封筒を受け取り、礼をして王の間を出た。
ゼーレに近い、南東門へと向かう。
「ゼーレに行かれるのですね」
門の前に、アリーナが立っていた。
「私は同行できませんが、せめて見送らせてください」
アリーナはデメテラを守る者、万が一のことがあれば、守るべきデメテラ自体が危なくなる。
ビエストロの件もある、突撃できるのは、私がデメテラの所属ではないからだ。
きっとアリーナも、色んな思いがあったはず。
それを飲み込んで、デメテラを守ることを決めた…尊ぶべき選択だ。
アリーナは、山岳地帯を指さす。
「ゼーレへは、このまま真っ直ぐです。
貴女なら直線で走って行けば、すぐに着くでしょう」
「え?」
気の抜けた声が出た、走って行く?
たしかに速く着くだろうが、視線を変えず全力で走ったら、通った道はグチャグチャになる。
「地形なら、私達の植物魔法で直せます。
人の往来がなくなった影響で、魔物の数が非常に多い。
加えて山岳と森に囲まれているため、普通に行けば1週間以上はかかります。
そんなに待っていられないでしょう?」
腕を組んで、考える。
1週間…その間に何人が死ぬのだろう?下手したら、その間に国が滅ぼされるかも…?
「ありがとうございます、では…最短距離で行かせていただきます」
「気にしないでください、どうぞご無事で」
手で十字を切るアリーナを見届け、門を出た。
頭の中に、ニーズホッグの声が響く。
「………行くか?」
「はい、ご厚意を無下にして申し訳ありません」
「いや、かまわない。
どうせ長年隠し続けるなど、無理だとは思っていた。
むしろ、長く持った方だ」
私が転移してきて2ヶ月…たしかに、長く持った方だろう。
連邦にいたときから「ゼーレを魔族が襲っている」ぐらいは聞いていたが、病をばら撒いていることは知らなかった。
田舎で情報伝達が乏しかったとしても、奇跡的な確率だ。
「命令だ、ゼーレを救え」
ニーズホッグは私に命令する。
制止を聞かないと理解して、私が後腐れなく行動できるように…なら、それに全力で応える。
「了解」
地面を蹴り、駆け出した。
地面を蹴るたびに、何かが割れ崩れる音が聞こえる。
クレーターだらけになっているのだろうが、視線は正面から逸らさない。
木々が身体に当たって吹き飛ぶ、岩は砕け散る。
無我夢中で走り続け、山岳を駆け上がった。
見下ろすと、そこには無数の建物があった。
緑に囲まれ、高低差のある場所に、様々な建物が並ぶ光景は、なんとも幻想的だった。
例えるならアルプスと言ったところ、少し見惚れてしまった。
そのまま滑り降りると、騎士が集まっていた。
先頭にいるワッペンを付けた女性が、話しかけてきた。
「貴女は…いったい」
破壊しながら走って来たのだ、轟音を聞きつけて集まったんだろう。
懐から刻印付きの封筒を出し、騎士に見せる。
「デメテラから来た転移者です、ギメルは何処にいますか?」
ざわっと、騎士達が一斉に声を上げる。
その女性が封筒を取り、中の手紙を確認した。
「本物です…シキリア王の署名っ」
静寂の後、歓声が上がる。
ある者は拝み、ある者は目頭を押さえる。
まだ
重い空から、一筋の光が差したような感覚なのかもしれない。
女性は騎士達を制止し、私の目を見る。
「私は騎士団長のレブレライムと申します。
本来は王を通さなくてはならないのですが、王は寝たきりのため、私が案内します」
レブレライムの後ろを歩く、目的地に着くまで、何人もの遺体を見た。
子供の遺体もあった、その遺体は痩せこけて、しばらくマトモな物を食べていないとわかる。
ここにいるだけでゲロが出そうだったが、レブレライムを見てそんな気持ちはなくなった。
彼女の手から血が出ている、強く拳を握っているせいだ。
どんな思いが頭を巡っているのか、想像に難くない。
「ここにギメルがいます」
その場所は城であった。
ギメルはゼーレを侵略してから、ずっと
どんな意図があって、そんなことを…?
「これを持っていってください」
レブレライムは、ポーションの入ったポシェットを外して、私に着けた。
「私がいても邪魔になります、ここで待つことしかできません。
これだけは…させてください」
レブレライムの手が震えている、その手をとって、彼女に伝える。
「ありがとうございます、ここで待機していてください」
下手な慰めは余計惨めになるだけ、私がかける言葉は感謝のみ。
「ギメルは沸点が低い、許可なく城に入った時点で殺しに来るかもしれません。
お気をつけください」
レブレライムの忠告を聞いたあと、城に入った、その瞬間に背筋が冷えた。
王の間に入ると、玉座に白い肌の女が座っていた。
「はぁ、どこのどい…ん?あら?」
赤い瞳が私を見下ろす、見ているだけで周囲を威圧する、人外の美貌。
ミュラーの彫刻のような容姿とは、明らかに毛色が違う。
「貴女がギメル?」
「そうよ」
頷くと、ギメルは振り袖で口を隠して笑った。
キレやすいと聞いたけど、思いのほか機嫌がいい。
「随分と機嫌がいいわね」
「そりゃそうよ、退屈してたところに…こんな玩具が来たんですもの。
剥製にして飾ってやろうかしら?」
身の毛もよだつ台詞だが、一つ確信した。
私の容姿は、魔族の慢心を誘える可能性がある。
エルクラークも不用心に姿を晒した、そしてギメルも戦闘態勢に移らず、会話を行っている。
嬉しくはないが、好都合だ。
「なんで人を殺すの?」
「ん?」
ギメルは、首をかしげる。
「一つの国を襲って、何ヶ月も苦しめて…なんでこんなことをするの?
人間は…貴女になにかしてしまったの?」
エルクラークは村を支配して、自身の安全を維持していた。
だがギメルは、明らかに人を苦しめることが主目的であり、国にまで手を伸ばした。
人間を恨んでいるのかもしれない、復讐のような強い感情があったのでは…?
心の何処かで、理由があってほしいと考えてしまう。
そんな思いと裏腹に、ギメルの反応は─
「なにか…?どういう意味?」
困り眉になっていた。
なんということだ…質問の意図すら、理解されていない。
人間を苦しめる=恨みがある…という発想すら、持っていなかった。
「質問を変えるわ、なんで城に住んでるの?」
ギメルは手をポンと叩いて、微笑んだ。
「ここにいると、人間達がバカみたいに突っ込んでくるからよ。
なぜか知らないけど、彼らからしたら
………剣を抜いた。
笑みを崩さないまま、ギメルもレイピアを抜いた。
ギメルは踏み込みの姿勢をとる。
病の魔法を本格的に使われる前に仕留めたい、まずこれを避け─思考は中断された。
赤い瞳が目と鼻の先にある。
瞬きなどしていない、玉座まで10m以上はあった。
思考より先に身体が動いた、首を横に倒し、レイピアは首の薄皮を掠める。
一瞬遅れて、音の壁を破壊する轟音が響き渡り、城の硝子が割れる。
肉体強化の魔法?いや、そんなはずは…まさか、これが素だとでも言うのか?
…だが、反応はできた。
同じ速度は出せないが、直線での突きであれば防御程度ならできる。
にも関わらず、ギメルは微笑みを崩さない。
「初見で対応とは…思ったよりやるわね」
不協和音が聴こえる、黒板を引っ掻くような、人が不快に感じる音のみで構成された交響曲。
《猛毒の旋律》
視界が歪む、筋肉から力が抜ける。
全身に力を入れて、倒れまいと耐える。
これが疾病の魔法か、嫌な感覚だ、病室を思い出す。
「苦しいでしょう?這いつくばってヒールを舐めるなら、苦しませずに殺してあげる」
「それは私の台詞よ、二度と人を襲わないのなら殺さない」
ギメルは少し乱れた髪をかきあげながら、ため息をついた。
「疾病魔法は、人をいたぶるためにあるのよ。
人類を這いつくばらせ泥を舐めさせる、それがこの魔法の存在意義。
私を否定するつもり?」
言うだけ言って満足したのか、ギメルは再度レイピアを構える。
その剣先は心臓へと向いている。
「何回まで、避けれるかしら?」
冷や汗が背中を伝う、全神経をギメルに注ぐ。
数mm程度のわずかな動き・目線・息遣い…それらから、次の行動を予測する。
刀身でレイピアを滑らせ受け流したが、レイピアは頬を抉った。
─防ぎきれない、わかっていても身体が重く、追いつかない。
レイピアが放たれるたびに、肉体をこそげ取られる。
反撃の隙はない、防御姿勢を取っている間に、新たな攻撃がやってくる。
ジリ貧だと理解しても、攻撃に転じれない。
左胸・右肩・右腕の関節・喉・左足…狙う場所に一貫性はなく、縦横無尽に放たれ、私の血はカーペットの模様となる。
来た、また来る。
次の攻撃をいなさんと、剣を振るが、手が悴み一瞬だけ遅れた。
この戦闘における一瞬は、全てを意味する。
腹部に冷えたレイピアの感覚が伝わり、血によってジンワリと熱を持ち始めた。
ギメルを蹴って、無理やりレイピアを抜いたが、傷口から血が止まらない。
「勝負ありって、ところかしら?」
ほくそ笑むギメルをよそに、ポーションを傷に叩きつける。
傷にポーションが沁みて、少しだけ傷が塞がった。
「バカを言わないで、ここからが本番でしょう?」
五感はギメルの動きを捉え続けた、その圧倒的な速度を。
死地により開花した五感は、肉体を更に上の段階へと押し上げる。
剣を握り、踏み込みの姿勢を取った。
体技魔法は、肉体強化の魔法、できないわけがない。
全身で音の壁を叩き壊した、剣先はギメルの首を─
「落とせるとでも、思ったのかしら?」
右の二の腕に痛みが走る、剣は避けられ、レイピアが二の腕に刺さっていた。
ギメルは高笑いを上げながら、私を嘲笑する。
「私は300年は生きた魔族、ただの付け焼き刃なんが゛ッ゛」
二の腕を突き刺されたまま、強引に顔面を殴る。
腕の筋肉が裂ける感覚がしたが、そんなものどうでもいい。
「ヴアぁ゛!!!゛」
肺から声を上げ、全身の筋肉が燃え滾る。
リミッターが外れる音がした、その全てのエネルギーを拳に乗せた。
拳はギメルの顔にめり込み、ギメルを天井へと打ち上げた。
城が揺れ、天井が破壊されてもなお、ギメルは止まらなかった。
その次の天井、その更に次の天井を破壊し、そのたびに城が地響きのように揺れる。
屋上に投げ出されたギメルを追う、剣を持ち、崩れ落ちる瓦礫を蹴って近付いた。
「ッ!?」
ギメルはレイピアを構えようとしたが、それよりも前に剣を振り下ろし─左腕を切断した。
「い、あぁァ゛ッ!!!」
笑みは消え失せ、苦悶に顔を歪ませ絶叫している。
「なんで…なんでそんなに痛がれるのに、人に同じことができるの!?」
頭に血が上る、だがもう会話をするつもりはない。
まだだ、まだ死んでいない。
首を両断せんと、剣を振り上げる。
剣が首に入った、その瞬間…私は剣を手放した。
全身から力が抜け、膝から崩れ落ちた。
口から…目と鼻からも、血がドボドボと溢れ漏れる。
胃が燃えるように熱い。
「ようやく…ようやく廻ってきたか゛!?猛毒がッ」
ギメルの叫び声が聞こえるが、水の中にいるようで、上手く耳に入ってこない。
ギメルが近付いてきたが、目が見えなくて白いモヤにしか見えない。
心臓に何かが刺さった、おそらくレイピアだろう。
なけなしの力で、手を伸ばした。
「なにかしら?命乞い?もう遅」
「まっでだわ、ちがづくのを」
「は?」
ギメルの肩をガッシリと掴み、駆け出した。
「なんでっ心臓を貫かれて、なんで動けるッ!?」
さぁ?なんでだろう。
この状態でギメルに致命傷を与えるのは、もう不可能だ。
なので、ゼーレの
地面がなくなり、足が空回りする、なんとか城から飛び降りれたようだ。
地上まで、おそらく50mほどだろう。
私は自由落下で、ダメージを受けない…しかしそれは、万全の状態だから。
この満身創痍の状態で、50mの落下は死ぬかもしれないな、だがそれは
これはダメ押しだ。
残った力の全てを片腕に込め、ギメルを地面に叩きつける。
「がァ゛!!?」
地面が揺れる、視界が縦横無尽に動き回る。
全身に走る衝撃により、私は意識を手放した。
────────
痛い…痛いっ…イタいっ゛
身体中の骨が軋む、歩く振動だけで激痛が走る。
視界がボヤける、重心の位置がわからない…どうやって私は歩いていた?
「ゆるざない…あの女ァ゛」
私をボロクソにした女は、血を流しながら気絶している。
疾病魔法を構築できないッ、脳へのダメージがデカすぎる。
直接トドメを刺してくれる、その顔を傷つけることは避けていたが、今はどうでもいい。
「グチャグチャにしてやる…原形なんて残さない、肉のクズにしてやるッ゛」
レイピアを持ち、足をズルズルと引きずり、女の元へ向かう。
こいつを殺したら、次はこの国だ…いや、人類全てだ。
もう遊びはない、人間や魔物…それだけじゃない、渡り鳥やネズミにまで疾病をばら撒いてやる。
感染力を極限まで上げた、遅効性の病を与え続ければ、人類など手も足も出ない。
「遊びはここまでよ、
カタン…背後から足音が聞こえた。
どこのどいつだ、私の邪魔をするのは?決めた、コイツも殺そう。
まだ顔すら見ていないが、既にコイツのことは嫌いだ。
振り向き、顔を見たが、視界がボヤけすぎて視認できない。
騎士の制服を着て、剣を抜いているのはわかる。
ようやく顔に焦点が合った、長い金髪に整った顔…なんだお前か。
あれだけプライドをへし折ってあげたのに、なにを無駄な抵抗してるのかしら?
大人しく家族の死体にバカみたいに祈って、野垂れ死んどけば幸せだったのに。
「なんの用かしらァ?
「お前を殺しに」
・ゼーレ国家 50km²
山岳にある国で、森と山岳によって魔物が入って来づらい。
本来は馬車用の出入り道があるのだが、堰代はガン無視してきた。
・レブレライム
APP17/身長181/体重72/AGE30
武器:騎士の剣
防具:鋼鉄ウールの騎士制服
性別:女性
金髪ロングの美女であり、ゼーレの騎士団長。
ギメルに挑んだが、嫌がらせにより生かされている。
自分を責めているが、彼女を責める国民はいない。
《猛毒の旋律》
その生物が不快に感じる音と共に、猛毒をかける。
耐性などがある場合、効くまで時間はかかるが、猛毒は常に"その生物に効く性質"へと変化し続けるため、いつかは効く。