「おまちどうさま!カンキツドリの唐揚げだよ、お客さん綺麗だから一個サービスやけんねぇ」
テーブルに置かれた料理に視線が釘付けになる、油と肉の香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。
よだれがでそうになるのを止めながら、喉をゴクリと鳴らす。
「ホントに食べていいの?」
「いいですよ、私の奢りです。
これを食べたら村長家に行きましょう」
彼女は胸を叩き、キリッとした笑顔を私に向けた。
それを見た瞬間、フォークを肉に刺した。
口に含むとバリバリと衣が砕ける、硬くはなくむしろ心地よい。
衣に包まれていた肉があらわになり、口の中が肉汁で包まれる。
咀嚼して苦もなく飲み込んだ。
「はうぅ」
天井を見上げ、ため息をつく。
何年かぶりの肉…というか固形物は、想定を遥かに上回る完成度で私を歓迎してくれた。
自分に味覚があったことを久しぶりに実感した。
そのまま一個また一個と、口に隙間ができたら放り込む。
私の食いっぷりを、彼女は少し口を開けて眺めていた。
「あの…まだまだあるので、ゆっくり大丈夫ですよ」
「ごめんなさい、温度がある食べ物久しぶりで」
「どんな生活送ってたんですか…?」
訝しげに見つめる彼女をよそに、コップを手に取り水を一気飲みする。
冷たいサラサラした水が喉を通り、食道が冷える。
「こんな水、飲んだのいつぶりだろ」
ため息混じりにポツリとつぶやいた。
「ただの水ですよ?」
「サラサラした飲み物久しぶりで」
「監禁でもされてたんですか…?」
彼女は眉をひそめたが、すぐに表情を柔らかくして微笑む。
「自己紹介がまだでしたね、私はレモネード!レイクサイド連邦の騎士団長です」
「美味しそうな名前」
「食べないでください」
レモネードは両腕で自分の身体を抱きしめて、私から離れるように身をよじった。
思ってるより愉快な人かもしれない、それよりも気になる単語が出てきた。
「レイクサイド連邦?」
レモネードは両腕を膝に置いて、真剣な表情をとる。
「この話をするのは店を出てからにしましょう、貴女は目立ちすぎている」
周囲を軽く見渡すと、客も店員もチラチラと私を見ている。
目があった男性がギョッとして俯いた。
食べるのに夢中で気付かなかった、私はレモネードと一緒に外へ出る。
唐揚げは10Gらしい、金が入ったら返そう。
店の外に出て、人通りが少ない場所に着いた。
「転移者であることはバレてもいいんですけど、騒ぎになるので上に指示を仰ぎます」
あまりにも真っ当な意見、ウーベルタース様曰く「世界全体で貴女を除いて六人しかいない」と言っていた。
そんなものが急に料理屋に現れたら、周囲が混乱するのが目に見えている。
「ここはレイクサイド連邦です。
連邦と言われていますが、単なる村の集まりで複数人の村長が管理しています。
ハッキリ言ってかなりの田舎で、稼ぎづらいから他国から商人が来ることも稀…そのかわりモンスターが非常に弱くて平和です」
「RPGで最初に来る街みたい」と言ったら怒られるだろうか?そう思ってしまうほどに条件を整えている。
だが安心した、いくらなんでもいきなり「ドラゴンと戦え」とか言われたらどうしようかと思っていたところだ。
「では、村長達に会いに行きましょう。
幸い今日は村長会議で近くに集まっているのでちょうどいい」
レモネードは先導するように手招きして歩き出す。
歩きながら、村長会議にいきなり入り込んで迷惑じゃないか?という心配を伝えると、振り向かず片手間に答えてくれた。
「村に帰ってくるとき門番に「転移者が来たから村長に伝えて」と言っておいたので、もう伝わってますよ」
「なんて仕事ができる女…!」
驚く私を一瞥して、手でグッドサインを作って返事してきた。
雑談しながら歩いていると、明らかに周りの家よりも大きいレンガの家があった。
家の前には剣を携え、鎧を着た男性が佇んでいる。
男性はレモネードに気付くと姿勢を正して頭を下げる。
「お疲れさまです、騎士団長」
レモネードは軽く手をあげて、頭を上げるようハンドサインをして話し始める。
「お疲れさまです、転移者の方を連れてきましたので通していただけますか?」
「おお、この方が…っ!?すっすいません、こちらへどうぞ」
私の顔を見た男性は、目を見開いて身体をピクッと震わせた。
すぐに視線を逸らして道を開けてくれた。
「ありがとうございます」
顔を見て感謝を伝えると、顔を赤くして「いえ…」と上擦った声で返事された。
視線を感じて振り向くと、レモネードが目を細めてジトっとした目で見つめていた。
「ホントに凄いですね、私ですら見惚れそうなのですから…男性なら余計に凄いんでしょうね」
その言葉の裏に潜む感情は感心か呆れか、本人のみぞ知る。
家の中を歩いていると、レモネードは扉の前で止まった。
襟が立ってないか確認して、服のシワを伸ばして姿勢を整える。
「失礼いたします、騎士団長レモネード。
転移者様にお越しいただきました」
レモネードはノックして扉を開け、私を先に入るよう促す。
扉をくぐると高齢の男性、太った中年の男性、若い女性の三人が丸いテーブルの上に座っていた。
「お忙しい中、お時間を取らせていただき申し訳ございません。
堰代みどりと申します、異世界より転移してきました」
視線を感じながら、言葉遣いに気をつけながら会釈した。
数秒経ち高齢の男性が立ち上がり、食い入るように私を見つめてくる。
「はぁ〜話には聞いてたけど、とんでもない別嬪さんだべ、天使様みたいだ」
女性がそれを制止するように肩を叩き、高齢男性は椅子に座った。
「貴女が転移者さんですね。
疑うようで申し訳ないのですが…証明することはできますか?噂では転移者は魔法が使えると聞いたのですが」
女性は高齢男性を軽く咎めたあと、真っ直ぐに私を見つめ、身分を求められた。
当然だ、なんの証拠もなく「神様に頼まれて異世界から来た」なんて長が信じるわけにはいかない。
しかし、それに応えることは難しい。
「申し訳ありません、たしかに魔法は使えるのですが…体技魔法と言いまして身体能力を強化するものなんです。
見た目の変化などがなく、証明が難しいのが現実です」
改めて頭を下げる。
他の転移者なら炎を出したり植物を生成できたりするんだろうが、私にそんなことはできない。
………よくよく考えたら転移者だと言わなかったらバレなかったのでは?後悔に苛まれたが、もう遅すぎる。
そんな私とは裏腹に、中年男性が嬉しそうに机を叩く。
「じゃあ、ちょうどよかった!今朝グレートイーグルが近場に出やがったんだ。
それ倒してくれたら信じてやんよ」
「あんたねぇ…転移者さんにそんな処理させるなんて」
「いいだろ、本当に転移者なら相手にもならないさ。
レモネードをついていかせて、嬢ちゃんの動きが人間のそれか見てもらえば終いじゃねぇか。
それに村民にも「グレートイーグル倒した」と言えば、嬢ちゃんの示しがつくだろう?」
追求に対して、声高らかに言い返す。
女性は目を細め、腕を組み、口に手を当てて思考を巡らせる。
レモネードが手を挙げ、発言する。
「私が転移者かどうか判断してよいのですか?」
手を胸に当てながら、少し自信なさげに告げた。
女性はレモネードの目をしっかりと見つめる。
「レモネードは真面目で仕事をしてきたのをよく知ってるわ。
連邦で一番強いのは貴女よ、連邦で最も強さについての評価に信用できるわ」
レモネードは噛み締めるようにゆっくりと頭を下げる。
「そういうことなんじゃが、引き受けてくれるかえ?」
「私でよければ」
私の返事を聞いた高齢男性は、柔らかい笑みを浮かべて頷き、赤い☓印が付いた地図を手渡す。
どうやら☓印のところにグレートイーグルがいるようだ。
「レモネードが転移者だと判断したら、明日にでも嬢ちゃんのことは公表しよう」
「は!?なんで!!?別に言う必要はないでしょ!?」
「イベントがなくて村民が退屈してんの知ってるだろ?
こんな王姫みたいな転移者が来たなんて知ったら大盛り上がりだろ!」
「あんた、ホントに…」
頭を抱えて苦虫を潰したような顔で呆れかえる女性を尻目に、豪快に笑い飛ばしていた。
「まぁ、あまり長居はできそうにないがの」
神妙な顔つきで高齢男性が語り始めると、言い合っていた二人の顔も引き締まった。
「どういうことですか?」
「弱小連邦に転移者が来たなんてファベル帝国のやつらが知ったら、確実に嬢ちゃんを迎えにくるだろう。
俺達の力では逆らえないと知って、かなり高圧的にな」
レモネードが手を挙げて進言する。
「であれば、公表しない方がよいでは?」
「それはあまり効果がないと思うわ、帝国のやつらは各国にスパイを潜り込ませてるのよ…当然そんなこと言わないけどね。
前にも連邦近くに偶然出現した貴重な鉱石を、一目散にやってきて「研究対象とする」とか言って採っていったわ。
その話は秘匿にしておいたのに、ものの数日でね」
レモネードは息を飲み、村長達の話を聞いている。
自分の部下にもいるのでは?とでも想像したのだろう。
「とはいえ、転移者なんてすぐには信じない。
何度も確認したあと、使者として誰か送り込んで来る。
それまでには一ヶ月ぐらいはかかるはず、幸い帝国から数日はかかるから確認作業も手間取る」
「使者が来れば到底守りきれん、悪いけんどもそうなる前に他国に行ったほうがええ」
手を組んで顔を伏せながら告げる村長に、レモネードは悲しそうに横目で見てきたが、すぐに真剣な顔つきに戻り発言する。
「ということは、一番近い国…デメテラ豊国ですか?」
レモネードの発言に女性は頷く。
「そうね、あそこなら悪い噂も聞かないし転移者の自由は保障される」
私は首を傾げた、聞いてる感じ悪い場所ではなさそうだが、如何せん来たばかりで立地を知らない。
それを察したのかレモネードは説明し始める。
「最も多くの食糧を生産する国、デメテラ豊国…人類の食糧庫です」
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「エリナ!もう朝だよ」
布団を揺らされ、愛おしい声が聞こえる。
身体を起こし、大きくあくびをして目を擦る。
「おはよう、エリナ」
満面の笑みで視界を彩るのは、最愛の娘エルクラーク。
本当はダルくて指一本動かすことも億劫な早朝でも、彼女のためなら朝飯前だ。
「エルクラーク、私はお母さんなんだから名前で呼ばないで」
「あっ、そっか忘れてた…ごめんごめん、お母さん」
急いでキッチンへ行き、朝食を作る。
スクランブルエッグ・ベーコン・バゲット、シンプルながらに朝食の定番である。
しかし使う食材はどれも一級品、ここはデメテラ豊国の近くにある村、田舎ではあるものの豊かな食材は山のようにある。
他国で同じ物を作ると、こんな簡素な物でも平気で50Gを超えるらしい。
そんな朝食を嬉しそうに齧り付いて食べる愛娘の姿に、思わず身体がポカポカと暖かくなる。
「ゆっくりでいいのよ、おかわりならあるから」
「ホント!?お母さん大好き」
「うふふ」
幸せな日々、なに一つ不満はない…だが、この日々を得るには苦労した。
横目でエルクラークを見る、青い肌に究極の美と呼称したいほど美しい顔。
少し目線を上げると、そこには二本の立派な角が生えている。
娘は魔族だった。
産んだときは村中が騒ぎとなり、中には忌み子として殺そうとした者までいた。
私と夫は必死で頭を下げて、村人達を説得した。
たとえ魔族だとしても、私達の宝物で、なによりも代え難い尊い存在であることに変わりはない。
「なにかあれば豊国に突き出す」という条件付きで、村人達は渋々了承した。
それも20年も前の話である。
今ではすっかり村に馴染んで、村人達は娘を信用している。
忌み子としていた者はすっかり絆されて、事あるごとに畑で取れた農作物を渡してくる。
亡くなった夫も天国で微笑ましく見守ってくれているだろう。
朝食を食べ終わり外に出ると、色んな村人が駆け寄ってくる。
「エルクラークちゃん、今日はエリナの家に泊まったのね。
他の人と仲がいいのは嬉しいけど…たまにはママの家に泊まってくれないとさみしいわ」
彼女は隣の若母さん、3年前にエルクラークを産んでからというものベッタリだ。
私もエルクラークを産んだときこんな感じだったかな?
「エルねぇちゃん…なんで最近家に帰ってこないの?」
彼は向かいの家の男の子、もう16歳なのに双子の姉であるエルクラークにベッタリ。
シスコンってやつかしら…?どちらにせよ、見てるぶんには微笑ましい姉弟だ。
「ママ…今日は一緒に寝てよ……」
彼は三軒先の男の子、8年前に娘が産んだ。
小さな身体でエルクラークの足にしがみついている。
まだまだ甘えたがりの年齢、娘にもこんな時期があったことを思い出して懐かしい気分になる。
そうしていると、娘が私たちに向き直り口を開いた。
「みんな?私を豊国に隠しておいてくれる?」
なにを当たり前のことを言うのだろう、村人は誰も娘を疑っていないというのに。
「当然だよ!」
「魔族だからって実の姉を突き出すもんか!」
「ママのことは僕が守るの!」
皆思いは一緒だ、こんなに心強いことはない。
一生こんな時間が続いていけばいいのに…そう強く思った。
「うふふ」
目を覚ましなさい゛夫と娘はそいつに殺されたのよッ!゛私の最愛で世界で一番かわいい娘は一人だけでしょう゛!?汚らわしい魔族が、命より大切な思い出に入ってるな!゛入ってくるな…入ってくるな入ってくるなァ゛!!!?゛はやぐぎづけぇ゛!!!゛
・人間領土全体 180930km²
巨大な渓谷に囲まれて、外にはモンスターしかいない
・レイクサイド連邦 40km²
人間領土の真ん中にある
連邦とは名ばかりで村の集まり。3人の村長で運営
周辺には非常に弱いモンスターしかいない
転移者0
・レモネード
HP20 APP14 身長170 体重65 AGE26
性別:女
全国の騎士団長で最弱。黒髪黒目のロングヘア
好奇心旺盛で田舎者、甘い物が大好き