村長達からグレートイーグル討伐を任され、レモネードと共に現地に向かう。
グレートイーグルとは一言で言えば巨大な大鷲で、獲物を捕まえて空中から落として狩りをする。
連邦近くにいるモンスターは、一般人でも倒せなくはないほど弱い。
最も強いモンスターは、木の槍を持ったデカいピーマン…それもかなり気になるが、とりあえずそれは置いといて、そんな場所にグレートイーグルが来たら一帯が荒らされてしまう。
ここらへんに出るのは稀で、一体出るだけでかなりの騒ぎになるそうだ。
するとヒラヒラと上から何かが振ってくる、それは茶色と白の模様が入った大きな羽だった。
先導していたレモネードが足を止め、剣に手を伸ばす。
「来ましたよ」
上を向くと太陽に被さるように、羽を広げた3mはあろうかというほどの大鷲がこちらを見下ろす。
黄色い瞳孔は鋭く私達を睨みつける、獲物だと認識したようだ。
羽を狭めて滑空の姿勢をとる。
私の脳裏に、ある思考がよぎる。
ジャンプで届くな
転移してから身体は羽毛のように軽く、足の筋肉はバネのように少し力を入れるだけで飛び上がりそうだ。
「ものは試しか…」
軽く屈んで、地面を蹴り上げる。
全身で空気をかき分けながら、グレートイーグルの目の前まで辿り着いた。
グレートイーグルは瞳孔を開き、喉元に狙いを定めてクチバシを突き立てようとする。
その前に顔を掴み、抵抗される前に思いっきり地面に向かって投げた。
叩きつけられた衝撃で地面が抉れ、グレートイーグルの首はあらぬ方向に曲がり、ビクンと跳ねたかと思えば動かなくなった。
私は10m以上の所から自由落下したが、スタッと着地して痛みや怪我はなかった。
剣を握ったまま硬直していたレモネードが、ため息をついて肩を下げる。
「………はぁ、間違いありませんね。
貴女は転移者様です、疑いようがありません」
グレートイーグルと私を何度も交互に見たあと、呆れるように言った。
「帰りましょう」
レモネードはグレートイーグルを背負って、片腕を振って帰るよう合図した。
ズルズルと引きずり、土に跡を作りながら帰路についた。
村が見えてくると、門の前に中年の村長が立っている。
こちらに気付くと、腹を抑えて笑い始めた。
近付くと足早に走ってくる。
「一応聞こうかレモネード、どうだった?」
その声色に試すような意思を感じない、確定した事実を確認するような、確信を持った声色だった。
レモネードは、その問いに即答する。
「転移者様ですね、滑空よりも早くジャンプして、空中で頭を掴んで叩きつけました。
一撃です」
それを聞いて満足そうに笑い、私の肩に手を回す。
「よし!歓迎するぜ嬢ちゃん!村の英雄様よ、超VIP対応だッ!」
門をくぐると人だかりができていた。
最初はグレートイーグルに集中していた視線が、私一点に対して注がれる。
「はぁ!別嬪さんだねぇ」「お姫様みたい…」「綺麗すぎる」「まるで彫刻のようだ」「他国の貴族様か?」「知ってるやついるか?」「いや、知らねぇよ」
困惑や驚きは人から人へ伝播し、またたく間に辺りは人の声で満ちる。
村長は民衆の前に立ち、手を叩き注目を集める。
人の声が次第に減っていき、村長に視線が集まる。
「村長、まさかここで?明日の予定では?」
レモネードが村長に近づき、困惑しながら耳打ちする。
「予定変更だ、こんな絶好のタイミングはない!」
それを豪快に笑い飛ばし発言を続ける村長に、レモネードは頭を抱えたが、止める様子がないところ見るに、悪手だとは思っていないのだろう。
「皆のものよく聞け!この嬢ちゃんは一人でグレートイーグルを倒した村の英雄様だッ!」
一斉にざわめきが起きる、再度私に視線が注がれる。
口々に「あの子が!?」「怪我してない?」「あんな子になにをさせて…」「いや待て、一人で倒した?」などなど様々な声が重なり合う。
それを制止することもなく、そのまま大声で続ける。
「そしてッ!この嬢ちゃんは…転移者だッ!!!
異世界から渡ってきたッ!!!」
ざわめきが一瞬で止まり、わずかに困惑の声色がそこらから聞こえる。
静まり返った民衆が注視したのは、私の容姿である。
肩まで伸びる漆黒の髪、吸い込まれそうな黒目、シワなど一つもない肌、そこら辺の男性よりも大きい背と肩幅、引き締まったウエストとくびれ。
しかし、男性的な印象は一切与えない、その豊満なバストと整ったヒップ…それでいて下品ではない。
全ての調和が取れた、人間が到達できる美の極致、老若男女問わず
数秒後に起きたのは、音が割れるほどの歓声である。
「間違いない」「天の使いよ!」「初めて見た…」「御利益あるかな?」「魔法使えるの!?」「みたいみたい!」「こら、やめなさい」「神様と話したことがあるのか?」「異世界ってどんなとこなの!?」
疑う声は一片足りともありはしない。
高齢の夫婦は手を合わせ、中年の男女は感嘆の声を漏らす、若い男女は興味深くも少し距離を置く、子供達は興味津々に近付こうとして親御さんに制止される。
「とりあえずこれは報酬だ、3000G入っている。
金貨は一枚100Gだから覚えときな」
手にズッシリとした重さが伝わる、揺らすとジャラジャラと金貨が擦れる音がする。
「宿屋に案内してやれ、斬られていないから状態がすこぶるいい…これは高いぞ」
村長は高笑いしながら、グレートイーグルを引きずって何処かへ消え行く。
それを一瞥したレモネードは、私に向き直り宿屋へと案内してくれた。
周囲の視線を浴びながら宿屋の門をくぐると、15歳ほどの女の子が口をあんぐりと開けていた。
「レモネードさん!?なっなんですかぁ、その美人さんはぁ!!?」
転移者であると説明されると、更に口が広がり顎が外れてしまいそうだ。
耳を赤くしながら、握手を求められた。
手を握ると一回り小さくて、柔らかく冷たい。
女の子は感激して、離したあとも自分の手を見つめていた。
「あっすいません、お泊りですね?100Gです」
数秒ほうけたあと、ハッとして自分の役割を全うする。
金貨を一枚差し出し受け取ると、二階の部屋を案内してくれた。
部屋は木目調で簡素なベッドや物入れがある、風情があって個人的には好みだ。
「お疲れさまでした、また明日」
お辞儀をして宿から去るレモネードを見送ったあと、ベッドに全力ダイブした。
ベッドは私の重さでジンワリと沈んで、身体を包む。
このまま夢の世界へ旅立ちたいところだが、やらなくてはならないことがある。
ベッドに座り、手を合わせて祈りを捧げる。
秒針が止まる、鳥の羽ばたきが空中で止まる。
「何が聞きたい?」
脳内に重厚な声が響き渡る。
「仕事の話オンリーで威圧的な上司は嫌われるぜ?」
「やかましい」
割り込むように別の声が聞こえる、おそらくアスカードだ。
ニーズホッグは心底疎ましそうにあしらい、改めて質問を促す。
「帝国の使者が来るまでの一ヶ月は、どうすごしたらよいのですか?」
一ヶ月の猶予があると言われたものの、右も左もわからない人間にそれを有効活用するなど無理な話。
現地人に異世界から来た人間のすごし方を聞くわけにもいかない、聞くなら神々しかいない。
「好きにしろ」
「へ?」
私の心配などどこ吹く風と言わんばかりに一蹴された。
人間如きの悩みなど神にとっては聞く価値すらないということか…。
「そういうことではない」
祈る手を解こうとすると制止された。
「転移者はどこの国行っても通用する、テラス王都とゼーレ国家を除く国なら、今から行っても問題はない。
いるだけで魔族共への抑止力になる、なんだったら帝国に行ってもかまわない。
どう動いてもそこまで妙なことにはならん」
特別な存在だとは聞いていたが、まさかそれほどとは…連邦で世界のことを知りながら、帝国の使者に付いていくのもありかもしれない。
その考えを遮るように、アスカードが話しかけてくる、
「俺個人の意見としてはオススメはしない」
先ほどのように軽い声色ではなく、引き締まったような声色。
ニーズホッグが止めないところを見るに、茶化した内容ではないのだろう。
「転移させる人物は"神の如き力を悪用せず、人類のために使用して、奢り高ぶらない人物"のみを選定している…一言で言えば親切な奴が多い。
それを利用して、転移者を自国に縛り付け、自国のために力を使わせるよう仕向けている。
邪険にはされないが、人間というより貴重な国力だ」
「レイクサイド連邦はぶっちぎりで緩いが、基本的にどの国でもそういった側面はある。
防衛力に直結する存在を保有したいのはごく自然な思考…だが帝国はそれが強すぎる。
帝国の転移者曰く、本人の意思を無視して、脅迫や圧力として転移者を使われることもあったそうだ。
それも生存戦略…文句はないが、いい気はしない」
それだけ言い終えて、アスカードは席を外した。
意思のある核兵器のようなものを利用しようとするのは、肝が座ってるというかなんというか…どちらにせよ行く気は失せた。
もう息苦しいのはゴメンである。
だが選択肢が狭まったのは好都合、かえって今後の流れを考えやすい。
連邦で過ごしながら、どの国にするのかじっくり考えよう。
「どうせなら剣に慣れておけ」
その意見に異論はない、私は身体能力が高いだけで戦闘技術など皆無。
フィジカルだけで全てが解決できるとは思えない。
一ヶ月では触りぐらいしか習得できないだろうが、それでもやらないよりマシだろう。
「一ヶ月もあれば剣術はマスターできる」
「………と言いますと?」
「技術の習得は脳で行われ、幾度となく訓練を積むことで、その動作に必要な脳神経が繋がる。
それによって複雑な動作をスムーズに行えるようになるわけだが、体技魔法ではその繋ぐ作業にバフがかかり、常人を遥かに上回るスピードで戦闘技術を習得できる」
ニーズホッグから告げられた内容に、私は目を見開いた。
私の想定よりも遥かに強力な魔法だった、良くも悪くも「フィジカルモンスターになれる」ぐらいの認識しかなかった。
失礼な認識をかき消すように、頭をブンブンと振った。
しかし、なぜ身体強化の魔法でそんなことが…?
「脳は肉体だろう?」
抱いた疑問が一撃で粉砕される。
考えてみれば当然の結論、逆に筋肉や内臓は対象なのに、脳だけ対象外という方がおかしいのかもしれない。
最後に感謝を伝え、祈り手を解くと、秒針が動き始める。
寝間着に着替えて布団に入る。
優しい羽毛が身体を包み、重さは感じない。
意識を刈り取られるのに、そう時間はかからなかった。
小鳥のさえずりで目が覚める。
布団をどかし、自分の手でカーテンを開ける。
部屋全体が日光に照らされたが、不思議と眩しくはない。
「朝ってこんなに清々しいものなんだ」
久しく忘れていた感覚が掘り起こされ、ある種の爽快感すら感じる。
普段着に着替えてから階段を降りると、レモネードが座っていた。
「おはようございます」
挨拶を交わしたあと、二人で朝食を食べに出かける。
手頃な店に入り、目玉焼きトーストを注文した。
「一ヶ月間、剣の訓練がしたいんだけど、どこか練習場はない?」
レモネードはニヤッと笑い、人差し指を立てる。
「あります!ぜひ騎士団にお越しください!貴女が来てくれたら、みんな大喜びです」
自慢気に話す姿を微笑ましく思いながら、断る理由もないので提案を受け入れ、届いたトーストを食べながら雑談する。
「本当は高品質な剣を差し上げたいのですが、連邦の素材と加工技術では低品質な剣しか作れないんです。
それを使うぐらいなら、貴女は殴った方が強い」
「レモネードさんの剣と鎧、凄く綺麗だけど…それはなんなの?」
「これは自由交易都市というところで自主的に購入したものです。
まとめ売り10000Gでしたが、これでもかなり安い方です」
自分だけがよい装備を持つことを卑下しているのか、やや自虐気味に笑う。
村が騒ぎになるほどのモンスターを撃破した報酬が3000Gなとこを考えると、その価値がよくわかる。
他国では全騎士に高品質な剣と鎧が配布されているらしい、田舎の宿命というべきか、やはり資本力が桁違いである。
だが恥じることなどない、高品質な装備なしでも維持できるほど平和なことは誇りに思うべきだ。
トーストを食べ終わり、会計を済ませて騎士団の訓練所に案内してもらう。
掛け声と木刀がぶつかり合う音が響き渡る。
レモネードが注目を集めて、私のことを紹介する。
紹介を受けて、一歩前に立って姿勢を正す。
「堰代みどりです、異世界から来ました。
今日から一ヶ月の間ですが、お世話になります」
視線が集まる、その視線からは奇異・驚愕・不安…様々なものが混じっている。
だがそれよりも気になることがある、やけに視線に熱が帯びている。
全身に熱い視線が纏わりつく、あるものは喉をゴクリと鳴らした。
「くれぐれも、健全な関係でお願いしますね!!!」
張り上げたレモネードの声に、惚けていた団員達はビクッと震え直立する。
晴れて騎士団の世話になることになり、さっそく木刀を持って練習に励んだ。
それからは色んなことがあった。
団員達と同じ釜の飯を食べて打ち解けた。
日本のことを話したら、興味津々で聞いてきた。
「全国の騎士団はアスカード信仰が基本」と言うので、アスカードと話をしたことを伝えたら度肝を抜かれた。
騎士団に憧れる少女と一緒に訓練をした。
村民が開催する催しで、アイドルソングを歌って踊ったらフロアが湧き上がった。
年下の団員からプロポーズされた。
平穏で変わり映えしすぎる日々は続き、あっという間に一ヶ月の時が過ぎ去った。
連邦での一ヶ月間は、いつか小話として書くかもしれません。
・ソーチョーイチ
HP:5 APP:9 身長:170 体重:76 AGE:46
性別:男
レイクサイド連邦の村長、主人公とレモネードがいる場所の管理者。
酒と女が大好き、親切で面倒見がいい。
・ソンチョーニ
HP:5 APP:7 身長:160 体重:50 AGE:76
性別:男性
栃木弁のような方言で話す、レイクサイド連邦の村長。
・ソンチョーサン
HP:5 APP:13 身長:163 体重:56 AGE:32
性別:女
レイクサイド連邦の村長、敬語だけど意外と姉御肌。
アスカード教の教義
「思慮を巡らせ行動した先にある悪しき未来は失敗に非ず
消極的な悪しき結果は単なる失敗である
思慮のない特攻は勇気に非ず」