魔族からのラブレターには絶縁状を   作:アダルトデイズ

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前話の最後を加筆しています。


疫災のドレスは己の血で紅く染まる
初対面の転移者はスイス人のお姉さん(192cm)


「魔族討伐、大義であった。

 お前がいなければ被害は甚大なものになっていただろう」

 

ニーズホッグ(かみさま)の労い、聞くものが聞けば感涙するほどの出来事なのだろうが、今の私にそれを享受する余白はない。

 

「…なにが聞きたい?」

 

私の心情を察して、事務的な態度に変える。

その態度は、労いよりも遥かに沁みる。

あの魔族、エルクラークについて尋ねるが、ニーズホッグは項垂れるように吐息を漏らす。

 

「知らん、他の神も「見たことも聞いたこともない」だそうだ」

 

「神様でも知らないのですか!?」

 

「私達の情報網は大したことない。

 干渉が難しいせいで、詳細な情報は転移者を通して知るのが基本だ」

 

自らの能力を憂いているのか、深く溜め息をついた。

私のことを見つけて転移させてたのだから、下界のことなど全てお見通しかと思ったが、地球と異世界では干渉のしやすさが違うらしい…わりと不便なんだな。

神々は担当の転移者に確認を取っているようだが、ニーズホッグは「おそらく誰も知らないだろう」と付け加える。

 

「エルクラークの魔法を解析し終わった。

 こいつの魔法は"自分を視認した者が、自分未満の容姿"である場合に発動する。

 発動すれば"人格はそのままで、エルクラークが最も大切な存在となる"だそうだ」

 

聞いてるだけで虫酸が走る、いっそ操り人形にすればいいものを…なぜそうも尊厳を踏みにじらなくては気がすまないのか。

だが村の実態が明るみにならなかった謎も晴れた。

村の外よりやってくる人間から隠れ潜み、村人の人格は変わらないから違和感は持たれない。

村人はエルクラークを隠すことに協力的、見られても洗脳すれば口を割ることはない。

なんともまぁセコい生き方だ、矜持など微塵も感じない。

………いや、それでは辻褄が合わない。

そんなに隠蔽してるやつが、なんで私に姿を見せた?

 

「自惚れもあるんだろうが、あいつの反応を見るに性欲だろ」

 

あまりにも突拍子もない返答に困惑した。

「魔族は魔力から生まれる、子供は作らない」これは他ならぬ、ニーズホッグから聞いたことである。

だが、ふざけているわけではなさそうだ。

ニーズホッグは、私の疑問を肯定したあと語り始める。

 

「魔族の三大欲求は、暇つぶしのため存在している。

 大昔の魔族は"魔法を使う上位モンスター"というだけの存在だった。

 魔族の寿命は非常に長い、次第に生きることに飽き、ある時期から生まれる魔族が変質し始めた。

 食事・睡眠が必要ないのに、モンスターを食い殺し、洞窟の中で寝始めた。

 挙句の果てには生殖器がないにも関わらず、稀に性的欲求を持つ個体まで生まれた」

 

「そのせいで、人間に興味を持つやつが現れた。

 お前への色目は露骨だったからな、その手の趣味があったんだろう。

 おそらく村人にも凌辱されたやつがいる」

 

説明されても信じきることができなかったが、ふとエルクラークの言葉が脳裏をよぎった。

『すぐに脳みその皺まで、ぜ〜んぶ私で埋めておバカさんにしてあげる♡』

『あぁ、楽しみ♡何してあげようかしら、いっっっぱい遊んであげるからね?』

扇情的で挑発的な台詞、隅々まで品定めするような粘ついた視線。

あれは情欲だ、本能がそれ以外の回答を認めない。

脳が追いつかない、村人達の尊厳は暇つぶしで消費されたのか?

会話が可能で、欲求があって、人間に興味があって…なぜこんなことをするのか理解できない。

 

「社会生物と比較すると、制御能力が著しく欠けている。

 「こうした方が効率的」など知ったところで我慢できない。

 エルクラークはかなり辛抱強い、他の魔族なら力を誇示したくて堪らなくなる。

 生きるための欲求ではない、死ぬほどタチの悪い暇潰しだ」

 

村人の尊厳をなぶり尽くしたエルクラークが"辛抱強い"というのなら、他の魔族はどれだけヤバいのか…そういえば国と戦争したり、国に入り込んでるやつもいるとか言ってたな。

詳細な情報はわからないとか言ってたのに、なんでそんなに詳しいのかと思ったら、どうやら世界のシステムは閲覧できるそうだ。

 

「今日はもう休め、話は後日でもできる」

 

神妙な顔つきで質問責めにする私を心配してか、休むよう促された。

そういえば、さっき戦いが終わって休むところだった。

たしかに魔族の話を聞いても、心が静まることはない。

一言感謝を伝えて、手を解くと時間が動き出し、外から泣き声が聞こえた。

耳栓をするように布団を顔に被せる、最低の環境音だが、それでも徐々に意識が薄れる。

 

朝になり起き上がると、肩の痛みが消えている。

触ると抉れるような傷が塞がっていた、我ながらどんな体をしているんだ?

腹が鳴ったが、家の物を食べるのはさすがに忍びない。

外に出ると、昨日のように叫び声は聞こえなかった。

しかし、壁にもたれかかるように寝ている者、頭を抱えている者、歩いている人間すら目が充血して足取りが覚束ない。

彼らの胸中は未だ絶望に沈んだままだ。

 

居心地の悪さを感じていると、外から音が聞こえた。

何かがこちらに移動してくる、それも数人ではない大量にいる。

隠れて音の方向を見ると、馬に乗った騎士と馬車が一台こちらに向かっている。

騎士の数は三十人ほどだろう、その騎士達が守るように馬車を囲む。

敵意は感じない、装備から考えてもデメテラ豊国の騎士達だろう。

目を閉じてホッと胸をなで下ろす、ここで敵が来たら村人が気の毒すぎる。

騎士達が村に入ると、生気を失っていた村人達が興味から少しだけ表情を変える。

不謹慎かもしれないけど、それを見て凄く安心した。

 

「これは…」「ひどい」「転移者様が言っていたことは本当だったのか」

 

騎士達は憔悴した村人達を見て、口々に話している。

馬車の扉が開くと、騎士達が慌てたように叫ぶ。

 

「ミュラー様!?まだ、安全確認ができておりません!」

 

馬車の中にいる者は、制止を無視して飛び出すと─辺りから息をのむ音が聞こえた。

彫りが深く、左右に一ミリの誤差もない均等なパーツ。

金髪のロングヘアは、黄金と評したいほど煌びやに揺れている。

190を越えるほどの長身、腰まで伸びるはずの服は胸が大きすぎてヘソまでしか丈がなく、インナーが見えている。

それでいて威圧感は与えない穏やかな碧い瞳、見つめられれば女性でも心臓が高鳴ってしまいそうだ。

 

体育座りをしている男の子が顔を上げる、泣いていたのか瞼が赤く腫れている。

視線はミュラーに向いているはずだが、その瞳には何も映っていない。

 

「………っ」

 

それを見た女性…ミュラーは苦虫を潰したように顔を歪ませ、奥歯を強く噛む。

憤慨か悲哀か無力感か?どれにしろ尋常ではない感情が、身体を駆け回っているのは想像に難くない。

ミュラーはハッと顔を上げて、辺りをキョロキョロと見渡す。

 

「何処かにいるはず!たしか日本人の女性!」

 

確定で私を探している、ほぼ間違いなく転移者だな、でなきゃ日本人の容姿なんて知ってるわけがない。

地味に衝撃だったんだけど、転移者って日本人だけじゃないんだ…冷静に考えたら日本だけなわけないけどさ。

隠れるのをやめると一斉に視線が集まり、騎士達の息をのむ音が聞こえる。

ミュラーが目を丸くして、駆け寄ってきた。

 

「貴女がセキシロさん?」

 

「はい…そうです、けど……」

 

でっっっか…女性を見上げたのは初めてかもしれない。

目の前に立ってわかる、肩幅も太腿も臀部も身長も、わたし(182cm)より一回り大きい。

ミュラーは屈んで膝を地面に付け、私を見上げる。

 

「ミュラー・セレスティーナと申します。

 ウーベルタース様から伺いました、貴女がこの村を救ってくれたと…なんとお礼を言えばいいか」

 

手を合わせ、私の目を真っ直ぐに見つめる。

碧い瞳が日に照らされ、宝石のように美しい。

なにやら慌ただしい騎士達を見ると、ミュラーの様子を見て慌てふためいている。

だが止める気配はない…というより止める権利がない?

馬車に乗せられ安全確認が済むまで外に出れない、三十人の騎士が守るように配置させられ、敬称を付けられている。

デメテラ豊国において、ミュラーの地位は非常に高いんだろう。

だから膝を付くのを見て焦り、かと言ってそれを止めることもできない。

屈んでミュラーに顔を合わせる。

 

「顔を上げてください。

 私は大丈夫ですから、用があってここに来たのでは?」

 

ミュラーは強く目を瞑ったあと、立ち上がり土を払う。

 

「おっしゃる通りです…昨晩、ウーベルタース様より「近辺の村に魔族がおり、それを転移者が討伐した」と伺いました。

 すぐに事実確認をしたかったのですが、内容が内容のため今になってしまいました」

 

そういえばニーズホッグ様が、転移者達にエルクラークのことを聞いているとか言ってたな。

エルクラークの死体がある場所を伝えると、騎士達が私達を守るように立つ。

ミュラーだけでなく私も守護対象らしい、転移者自体が特別な扱いなのかな?

歩くとエルクラークが倒れ伏している。

そこだけ足跡がなく、村人達が近付いていないことがわかる。

当然だ、証明のためとはいえ、村に持ってこない方がよかったな。

足が塵になっている、魔力の塊だからか死ぬと魔力に還るようだ。

騎士が剣でエルクラークをつつき、動かないことを確認して直接触る。

 

「死んでいます」

 

わかっていたのに、少しだけ焦った。

脳みそぶっ潰して生きてたらどうしようかと思ったよ。

ミュラーが近付き、顔を凝視する…と言っても半分は抉れている。

 

「やはり見たことがない、エルクラークでしたっけ?聞いたこともない魔族です。

 何度も巡回で騎士が来ていた筈ですが、怪しい噂は一度も聞いていません」

 

口振りから察するに、それなりのペースで騎士が来てそうだな。

それでも尻尾を見せないとは…村人達には口が裂けても言えないが、ここで討てたのは幸運だったのかもしれない。

 

「見ただけで人を支配する魔法と聞きました…あの、セキシロさんはなぜご無事なのですか?」

 

ミュラーは胸に手を当て眉を下げる、詰問というより単純に私を心配している。

私はキョトンと首を傾げる、なぜ魔法の詳細を聞いていない?

私は"自分未満の容姿を持つ者を支配する"と、ニーズホッグ様から聞かされたのに。

困り眉のミュラーを眺めると、すぐに直感した。

 

彼女ならエルクラークの支配にかからない

 

ウーベルタース様…気を遣いましたね。

「私が来ていれば助けれたかもしれない」と自責の念に囚われないように。

 

「支配魔法は脳を操る魔法でした。

 私の体技魔法によって強化された脳には、効かなかったようです」

 

「なんと…」

 

驚いているが疑ってはいない、信じてくれたようだ。

いいんだ知らなくて、無意味に自責の念を感じる必要はない、全てエルクラークが悪い。

エルクラークを持って退却するようだが、騎士から「是非、来ていただけませんか?」と言われた。

デメテラに行くつもりだったので渡りに船、しかも馬車に乗っていいそうだ。

肩掛け鞄を確認する、水・地図・ポーション・タオル、忘れ物はない。

ポーションあったの忘れてた…まぁ、治ったからいいや。

 

「ありがとうございました」

 

振り向くとエリナが頭を下げていた、他の村人達もゆっくりとだが立ち上がる。

 

「ありがとう…」「本当にありがとう」「貴女のおかげで妻を思い出せました」「夫の仇を討ってくれてありがとう」「貴女が来てくれなかったら…私はずっと慰み者だった」「ようやく人間に戻れた」「やっと墓が立てれます」「こんなとこだけど、いつでも来てください」「神様を信じててよかった」

 

全員が私を敬い、祈る者までいた。

なんて返せばいいかわからなかったので、手だけ振って馬車に乗り込んだ。

馬の足音、車輪の音、甲冑が擦れる音…それらに混じって村人の声が聞こえ、村から出るまでそれは続いた。

まさか道に迷って来たなんて誰も思うまい、私には不相応な敬いだ。

 

「そうでもありませんよ」

 

卑下していたのを察してか、ミュラーは優しく微笑む。

 

「魔族を一体倒せば、十分に英雄です。

 私も倒したことありません」

 

魔族の脅威は聞かされていたが、一体倒すだけで英雄とは…どれだけ悪名を轟かせているんだ?

ミュラー曰く「魔族は単独で国家転覆が可能で、身体能力も人間を遥かに凌駕する存在、神から力を得た転移者でも勝機が薄い」だそうだ。

それが確かなら、エルクラークはかなり弱い個体だったのではないか?

素手で倒せた上に、ノーガードで一撃くらっても致命傷にならない。

それを話すと「貴女の戦績に違いはありません」とフォローした上で、エルクラークが弱かったことは否定しなかった。

 

「視認するだけで発動するなら、歩き回るだけで国は大混乱です。

 魔法なしでも、並の騎士では相手にはならないでしょう」

 

ミュラーの言葉は半分は労い、半分は本音だろう。

デメテラに支配を伸ばしたら、被害は今の比較にならなかったはず。

自惚れたくはないが、エルクラークを討伐した意味は受け止めるべきだと思った。

あまり卑下しても、村人達に失礼だしね。

 

デメテラに着くまで雑談していた。

ミュラーはスイスから来たらしく、元は保育士だったそうだ。

デメテラではウーベルタースの力…植物魔法を使える転移者は"神の依代"として崇められているらしく、ミュラーも植物魔法(ウーベルタース)を選んだようだ。

神の依代が頭を垂れてたのか…どうりで騎士も慌てるわけだ。

そして、村人達のメンタルケアを行うことを約束してくれた。

心の修復は何年もかかるだろうけど、きっとなんとかなる。

ついでに国と戦争している魔族について聞くが、知らないらしい。

なぜか神様達も詳細を教えてくれない、言うと不都合でもあるのだろうか?

話していると馬車のドアが、コンコンと叩かれる。

 

「着きました」

 

扉が開かれたと同時に、焼けたパンの匂いがした。

建物はレンガで出来ており、パフォーマンスのためか外の薪窯でパンを焼いている店がある。

パンの匂いだけではない、これは焼けた肉と炭の匂いだ。

匂いだけで、表面がカリカリなことが容易に想像できる。

歩行者の中には、焼き鳥やタコスのような物を食べている人がいる。

ミュラーは誇らしげに左手を胸に当て、右手を伸ばす。

 

「ようこそ、デメテラ豊国へ」




・デメテラ豊国 1300km²
連邦の東北にある。
国民の全てがウーベルタース教、農作物の宝庫で他の国に大量の食料を輸送している。
周辺には比較的弱いモンスターしかいない。
植物魔法が使える転移者は"神の依代"として崇められる。
転移者2人

・ミュラー セレスティーナ
HP:60 MP:100 被ダメージ:-3 APP:18 身長:192 体重:83 AGE:24
性別:女
武器:弓兵の弓
防具:鋼鉄ウールの服
特典:植物魔法
元保育士、スイスの転移者で子供が大好き。
国を防衛する傍ら、子供と遊んでいる。
神から翻訳能力を貰ってるから日本語で話せる。
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