APP18(外見指数最高値)は特典じゃなくて自前です 作:アダルトデイズ
あくまで番外編であり、おまけに近いものです。
「聖なるかな 聖なるかな 聖なるかな 全能の神なる主」
その声は音ではない、ここには物質など存在しない。
「聖なるかな 聖なるかな 聖なるかな いつくしみ深く 力ある」
いつ生まれたか覚えていない、我々に意思など不要。
「聖なるかな 聖なるかな 聖なるかな 完全 力 愛 清らかなお方です」
その翼には数えるのも億劫になるほどの目がある。
そもそも数という概念が機能するか定かではない。
燃え盛る車輪だけが、この空間に唯一許された物質である。
「昔いまし 今いまし のち来たりたまう永遠の神」
未来も過去もない、この賛美こそが俺が存在する意味、幸福であり全て─
「ここは…」
音がなった、反響する…これは肉声だ。
想定外の出来事だが、賛美は寸分足りとも変わりない。
その程度のことで止めていいものではない。
しかし、全てを見通す眼は、声の主を嫌でも認識する。
それは人間の女だった、金色の髪が腰まで伸びている、手があり足がある…不完全な泥の子孫。
肌・髪・声・体温・心臓…人間を構成する全てを理解したと同時に、ある思考がよぎる。
生まれて初めて見た。
我々は、この空間からでも
だがそれはフィルター越しの姿、生の情報や自分に向けられた眼差しや思考など、未知の経験である。
あろうことか俺は、賛美を一瞬止めてしまった。
瞬きにも満たない時間だが、それは永遠にも匹敵する時間でもある。
賛美を奏でる天使の一体、メタトロンは俺と人間を空間から連れ出した。
「少し頭を冷やしなさい。
この者の処遇が決まるまで、この者の世話をしなさい。
それまで賛美をしてはなりません」
それに堕天だとされなかっただけでも温情だ、あれは数億年前だったか?昨日だったか?ルシファーがあろうことか「貴方のようになりたい」と口にし、堕天した。
気の迷いだったのかなんだったのか、今でもわからない。
アイツが地上に叩き落とされた衝撃は、天界をも震わせたものだ。
「私のせいで…ごめんなさい」
人間は俯いて、裾をギュッと掴んだ…今にも泣き出しそうだ。
「かまわない、俺が賛美を止めただけだ」
擁護されると思っていなかったのか、顔を上げ目を丸くした。
それにしても、俺達の姿を見ても叫びもしなかったのに、こんなことで泣くとは…どんな精神なんだ?
だが気になったのはそれだけではない、なぜ人間があそこにいた?あそこは中位天使ですら入ること殆どない。
「私は死んだあと天使と名乗る人から「功績を称えて天使となる許可がある」と言われ、連れられて来ました。
そのあと大きな扉の中で待つように言われて…開けたらあそこに……」
なるほど、この人間は天使候補か…メタトロン以来か?よほどのことをしたんだろうが、とても人間
そして大きな扉は、中位天使の書記室のことだろう。
案内ミスだな…俺達がいる場所は「入らないのが当たり前」になりすぎて伝え忘れたのだろう、今頃は顔面蒼白なんだろうな。
そこはメタトロンに任せるとして、俺はこの人間の面倒を見なくてはならない。
この人間の名前はウーベルタースと言うらしく、別の時間軸の北欧からやってきたそうだ。
「天使になれるなんて余程のことだ、何をしたんだ?」
「ニーズホッグという竜が世界樹を齧って、皆が困ってたので止めました」
「………どうやって?」
「ニーズホッグは、世界樹の頂点にいる鷲と喧嘩していました。
2体の言葉を伝令しているリスが、罵詈雑言を伝えていたので「嘘なのでは?」と思いまして!
実際に鷲の言葉を聞いて、それをニーズホッグに伝えたら八つ当たりをやめてくれたんです!」
「………鷲の言葉はどうやって知った?」
「リスにバレないようにしがみつきました!死ぬかと思いました!」
自慢気に微笑みながらガッツポーズをして、目をキリッとさせた。
イカれてるのかコイツ…?しばらく静まり返っていると、ウーベルタースは妙なことを言い出した。
「貴方は神様ではないのですか?」
なんと恐ろしいことを口にするんだ…それは天使如きが得ていい称号ではない。
全知全能は間違いなど犯さない、俺はさっき誤った。
ウーベルタースはキョトンとして、あまりピンときていない。
「全知全能?神々だって間違いを犯すのは普通のことでは?」
「………神々?」
神は唯一の存在であり、それのみが神、複数いるのならそもそも神の定義としておかしい。
半信半疑でウーベルタースのいた世界を覗いた。
「これが神だと言うのか…?」
ウーベルタースの世話を見ながら、いくつかの世界を覗いた。
万物に神が宿る世界、異常なほど性に奔放な神、転んだのが恥ずかしくて月に牙をぶん投げた神。
そして人間達の間では、メタトロンは小さな神と呼ばれている。
メタトロンに神を名乗る気はないだろうに、敬われるのも大変だ。
そうしていると、ウーベルタースから「名前を呼びたい」と頼まれた。
名前なんてなかったから、ウーベルタースのいた世界の
様々な人間達を見た、困窮し、倒れ、奪われ、犯され、殺される。
『神がいない魔物に支配された世界』もあった。
それを見るたびに、存在しないはずの感情が、奥底から湧き上がってくる。
主を疑うわけではない、人間を幸福にする義務はない、理解していても後ろ髪を引かれる感覚は消えなかった。
数十年の時が経ち、ウーベルタースは力天使となった。
世話係からは外され、俺は賛美に戻る…はずだった。
結論から言うと、俺は…俺達は追放された。
『熾天使に雑念が混じる』それは賛美禁止どころか、裏切りに相当する異常事態。
そしてウーベルタースを連れてきた権天使のファナラビと、主の御前に入れてしまった主天使のラミールも、ついでのように追放された。
これは堕天ではなく追放らしい、ルシファーのように戦争へ発展する可能性を危惧してだろう。
当然の結果だ、おとなしく天界から出るとしよう。
「ゆるじでぇ゛!!!メダドロンざま゛ゆるじでぇ」
「ラミール様…なんと情けない……もう無理ですよ、早く行きましょう」
ファナラビは
「なんでお前もいるんだ?ウーベルタース」
「30年も連れ添った仲じゃないですか!一緒に行きましょう!」
ガッツポーズをしながら、長い金色の髪を揺らす。
せっかく天使になれたのに、だが驚きはなかった。
こいつはこういうやつなのだ。
行き先は決まっている、それはウーベルタースと見ていた『魔物に支配された世界』。
そこにいる人間達は魔物に追いやられ、震えながら朝日が出るまで生き残ることを祈る…その世界に神などいないのに。
既存の神や管理者がいる世界は邪魔者にされる、そういう意味でも都合がいい。
ファナラビは二つ返事で了承し、ラミールは………もう何処でもいいそうだ。
そこに行く前に、ウーベルタースの世界に寄り道をする。
どうやらニーズホッグを誘いたいそうだ、話には聞いていたが、なんだかんだ会うのは初めてだ。
世界樹の枝一つ一つに世界があり、世界樹を囲うように複数の世界が展開している。
なんとも幻想的な風景、思わず口から吐息が漏れ、数分ほど眺めていた。
光すらも飲み込むような漆黒の鱗に包まれ、翼は広げるだけで暴風が吹き荒れる。
その全長は数kmはあるだろう、もはや浮遊する島だ。
あまりの非現実的な光景に、生気が抜けていたラミールも息を飲んだ。
そんな竜相手にも、ウーベルタースは物怖じせず話しかける。
ニーズホッグは世界樹を齧るのをやめ、人間達を脅威から守っていた。
邪竜としての畏怖はすっかりなくなり、人間達から守り神として崇められている。
ニーズホッグからすると暇つぶしのようだけど、ウーベルタースはニコニコと口角を上げて、ご機嫌な様子。
「人間達を守ってるのね…じゃあ、一緒に来たらマズイよね」
「そうでもない、人間界の脅威なんてたかが知れている。
「そんなに仲良くなったの…?」
ウーベルタースはため息混じりに、感嘆の声を漏らす。
ラタトスクが嘘を付いていたと知ったときは、キレすぎて世界樹が揺れたと聞いたが…喉元過ぎるとなんとやら。
言付けを終えて、俺達は魔物に支配された世界に向かった。
手始めに人間が暮らす、巨大渓谷内にいた魔物を全て討伐、各地に点在している人間達の怪我や病を治した。
俺達を直視すると気を失うから、全体が見えないようにはしたが、それでも人々は俺達を崇め、涙を流し、跪く。
天使だったからからか、神とされるのは些かむず痒い…だがこれは好都合。
この世界の人間は、衛生・倫理が著しく欠けている。
水浴び場で排泄して、少し珍しい特徴がある人間は殺してバラす。
なので『神の教え』として、基本的な倫理や衛生を『聖書』としてまとめ上げ、各地に配り歩いた。
ひとしきり配り終え、ウーベルタースが豊富な作物が実る土地を作った。
俺達は異物、長居しすぎると世界に亀裂が入る。
天界を作成し、世界を眺められるようにした。
詳細を見ることは難しいが、大まかな流れは把握できる。
俺達のエネルギーで、強い魔物は生まれにくくなったが、人間よりも強いことに変わりない。
それでもジワジワと繁殖して、生息領土を増やし、繁栄していった。
ゆっくりではあるものの、大きな問題は発生せず、順調かに思えた…そんなある日、渓谷外から魔族が侵入してきた。
魔族というのは人間に興味を持つどころか、3大欲求すら持たない存在。
そんな魔族は長い生涯に飽きて、暇つぶしとして3大欲求が生まれた。
あろうことか人間に興味を持ち、侵入してきたのだ。
和解できないかと思ったが、協調性は皆無なまま、ただ奪い貶し殺すだけだった。
1体目は人類の底力で討伐できたが、2体目3体目と続いた。
俺達が入った影響で、世界に負荷をかけすぎた、俺達が入れるまで1000年以上はクールダウンが必要だろう。
とはいえ人間に力を与えることもできない、そんなことをすれば魂が壊れるだけだ。
どうするか考え、ある妙案が浮かんだ。
「死んだ地球人に、力を与えて転移させよう」
元の世界では、
そして
なんと気の毒なやつだ、メタトロン。
だが第三位格である聖霊の存在により、地球の人間を転移させることが可能となった。
聖霊は、全ての人間に内在化している。
ノンクリスチャンであり、本人にその気がなくとも、聖書的な生き方をしていれば、聖霊との関係は良好なものとなる。
よきサマリア人となり、隣人を愛し、泥酔せず、悔い改めれば
意識的にしろ無意識にしろ、
そこにインストールするように、俺達の力を入れることができた。
とはいえ、そんなことができる者は限られていた。
力を与えれるとしても、聖人は兵器となることを拒む。
人選は慎重でなくてはならず、強制であってはならない。
それから数百年、地球人を転移させ続け、なんとか人類は絶滅せずにいられている。
転移者が少なくなっている、もうそろそろ転移させたいところだが、中々見つからない。
するとファナラビが「病に伏した素晴らしい人がいる!」と堰代みどりという女性を推薦した。
全員で行く末を見守った、死への恐怖を味わいながら、その脳裏に何を浮かべるか?
『こんなの誰にも経験してほしくない』
「ようやく見つけた、相応しい魂」
アスカード/熾天使
ラミール/主天使
ウーベルタース/力天使
ファナラビ/権天使
一神教から追放されたため、上位下位の序列はなく、敬称なども使わない。