顔の良さは特典じゃなくて自前です   作:アダルトデイズ

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疫災のギメル

デメテラに来て一ヶ月、朝練して食っちゃ寝して、朝練して食っちゃ寝して、生活費と居住場所は全て国から補填されている。

魔族討伐の功績とはいえ、ジワジワ罪悪感が湧き上がってきた。

とはいえ食事を妥協したくない、それだけはしない。

なんらかの形で精算できないか考え、今は─

 

「みどりせんせーたかーい!」「ていこくがみえる!」「つぎ、わたし!」

 

保育士をしている。

仕事を探してると知ったミュラーから「私の保育園で働きませんか?」と提案された。

二つ返事で引き受けたけど、クマさんエプロンを渡されたときはギョッとした。

22の女が着るにはあざとすぎるが、子供に大ウケするのだから仕方ない。

あんまり恥ずかしがっても保育士に失礼なので、胸を張ってクマさんを見せつけてやろう。

かわいいだろ童達よ。

 

子供達は私の頭がお気に召したようで、列をなして肩車を所望している。

他の保育士は、園児が追いかけっこをしている。

どう考えても触ってないのに「さわった!」と男の子が叫び、泣き始めた。

必死の慰めも耳に入らず、ボリュームが上がる。

 

あり余る体力を保育士達にぶつけまくる園児達、それに翻弄される大人達。

「おとなしくしてほしい」と思いつつ、遊んでくれないと昼寝をしない…保育士は、そんなジレンマを常に抱えている。

 

「おいかけっこあきた〜」「ごはんたべる」「ねる!」

 

子供の心は天気みたいなもので、ときには数時間でも集中するし、ときには2秒でやめる。

昼寝とご飯はまだ先、あらゆる褒め言葉で遊びに誘うが、首を横に振られる。

 

伝家の宝刀を使うときがきたか、幼稚園時代に他の園児を虜にしたあの技をッ!

 

砂場の土に水を含ませ、圧縮しながら丸く成形する。

それを布でヤスリがけするように擦る。

発火しそうなほど高速で擦り、残像が発生して止まっているようだ。

幼稚園時代に磨かれた技術を、体技魔法によりさらに上のステージへと引き上げる。

園児だけでなく、保育士までもが固唾をのんで見守る。

完成された泥団子を見て、歓声が上がった。

 

圧倒的な身体能力により圧縮され、削られた泥団子は、真球と言ってもよいほど凹凸がない。

日光に照らされ、もはやブラウンの宝石。

 

「私のいた国では、泥団子で遊具を買えるんだよ」

 

「すげぇ〜!」「こうきゅーとりだ!」「ピカピカしてキレイ」

 

これは嘘ではない。

人気の積み木や遊具を使いたくて、お弁当を早く食べても、早食いの男子には敵わない。

しかし…この泥団子で男子を買収することにより、欲しい遊具を手に入れた。

それを見た女子達が、教えを乞いに来た。

男子達の目が肥え、泥団子のインフレが起こり、泥団子は新たな紙幣となったのだ。

 

「泥団子という遊びを用いて、集中力を培わせ、付加価値や取引の基礎を覚えさせる。

 これがジャパニーズ保育原論なのですね」

 

ミュラーからとんでもねぇ勘違いされてるけど、日本の保育原論を知らないので反論ができない。

 

──────

 

仕事が終わったが、帰路には着かない。

見渡す限りの小麦畑、その中にポツンと、木で作られた店があった。

木造建築という意味ではない、木が建物のような形に変形している。

 

「デメテラに来て一ヶ月…ついにこのときが」

 

中に入ると「森の中か?」と勘違いするほど、木の香りで満ちている。

マイナスイオンに摂取量があるなら、ぶっ倒れている。

呼び鈴を鳴らすと、コツ…コツと足音が近づいてくる。

扉が開くと、焼けたチーズの匂いと共に、エプロンを付けた金髪の女性が現れた。

 

「ご来店ありがとうございます、セキシロさん」

 

「はじめまして、アリーナさん」

 

ここが待ちに待った、かのイタリア人が営むイタリアンレストランである。

席に案内されるやいなや、メニューを広げ、カプレーゼ・ペペロンチーノ・マルゲリータ・アクアパッツァetc、イタリアンそのものといった料理を注文した。

暇つぶしにメニューを見るが、驚くほど料金が安く、レシピ本が無料配布されていた。

太っ腹すぎる…それはそれとして、ありがたく貰う。

 

「作れそうなやつがあったら、連邦の人らにも出してやろう」

 

レシピ本を読んでいると、前菜とパスタが運ばれてきた。

上品に食べたかったが、途中から夢中になっていた。

サービスで、乾麺入りのチーズコロッケ(フリッタティーナ)というやつが来たけど、美味すぎて追加で注文した。

 

「本当によく食べますね…見ていて気分がいいわ」

 

ドルチェまで食べきって、アリーナと雑談した。

転移後の他愛もない話から、苦労した話までを、笑い話として語り合った。

 

「私はカトリックだから、教会がないことが困りました。

 ミサも什一献金もできないので」

 

あまり宗教のことは知らないけど、それらはクリスチャンにとっては重要なことなのだろう。

 

「でも元を辿れば、教会が豪華絢爛である必要はない。

 誰に対しても開かれた信仰の場、このレストランだって神の倉だと思っています。

 ここへ使うお金も、きっと献金になるでしょう」

 

俯きながら語られる内容は、無宗教の私にはピンと来なかった。

それでも私は肯定した、きっと彼女が言うのなら良いことのはずだ。

すっかり日も暮れたので、お会計をして店を出た。

アリーナは、姿が見えなくなるまで手を振ってくれた。

 

「いい一日だった」

 

確信を持ってそう言える。

鼻歌を歌いながら歩いていると、新聞屋に変わった材質の新聞があった。

 

「それ?帝国から取り寄せた新聞だよ」

 

国が違えば材料も違うのか、少し高かったが興味本位で買ってみた。

広げた一面に載っていた内容は

 

 病魔の化身、疫災のギメル ゼーレを襲い始めて三ヶ月が経過した。

 一年前に帝国の馬車を襲い、その存在が公のものとなった。

 ギメルは病を操り、かかった者は目眩・嘔吐・痙攣・錯乱などの症状を発症する(生き残った者の証言)。

 死亡した人間を解剖したが、死因は多岐に渡っていた。

 生き延びた者も、後遺症により寝たきりの生活を余儀なくされている。

 国交は断絶、偵察すら送ることができないため、ゼーレの被害者数は未知数。

 

「───え?」

 

─────────────

 

『疾病を与える魔法』

生まれてから、自分の魔法が嫌だった。

雑魚共や群れには無類の強さを発揮するが、最上位の魔物達には決定打がなさすぎた。

正面から挑んでも圧倒的な体躯や、災害のような力に翻弄されて殺されるのが関の山。

 

勝てるやつを狩り、化物からは姿を隠す、そんな生活を続けていた。

そんなある日のこと

 

「今日は挨拶に来たんだ!俺は渓谷の中(人間の住処)に行ってくる」

 

こいつはビエストロ(ゴミ)、いつから生きているかすらわからない男の魔族。

サキュバスを侍らせ、酒を浴びるように呑み、あらゆる魔物を様々な方法で調理している。

会いたくもないが、私の容姿が気に入ったようで、住処にやってくる。

許可なく肩に触れて、ドレスにシワをつけてくる、「もっと太った方が健康的で好み」などと、ネズミのクソ未満の講釈を垂れてくる。

支配関係でしか女に触れたことがない、クソ野郎の老害。

 

ビエストロが、私を見る目は熱を帯びていた。

品定めをするように舌舐めずりをする、気色悪い…脳みそが腐って死ねばいいのに。

 

「あっそ」

 

こいつと戦っても殺されるだけなので、睨みつけながらも会話は止めない。

しかし気分は悪くない、どうせ人間の女と、食材が目当てなんだろうが…こいつがいなくなるなら、どうでもいい。

 

「素っ気ないなぁ…まぁいい、そのうち会えるだろう」

 

「………どういう意味よ?」

 

「お前はいずれ人間に興味を持つ、確信を持って言える。

 じゃあな、ギメル」

 

あいも変わらず意味不明な言葉を残して、渓谷内に向かった。

また狩って、隠れて…アイツがいないだけ快適だった。

 

支配者がいなくなった一帯の魔物達は、徐々に活気を取り戻し、各々が暴れて争い始めた。

鬱陶しかったから皆殺しにしたけど、本当に耳障りな叫び声。

私の力に逆らえず這いつくばる姿は気分がいいが、一斉に奏でられる不協和音は耳にこびりつく。

辺りに腐敗臭が立ち込めて、また魔物達が寄ってくる。

居心地が悪くなったので、引っ越しをすることにした。

どうせなら違う場所がいい、適当に歩き続けると、巨大渓谷の近くまで来ていた。

 

偶然だった、気まぐれだった、中に入ってみた。

 

宛もなく歩いていると、一台の馬車が野原を進んでいた。

 

「ま…魔族……」

 

馬車を先導する男は、私を見るなり顔が真っ青になった。

疾病をかけると、心臓を抑え、足をバタバタと動かし始める。

馬車は転倒し、中にいた人間達が地面に倒れた。

 

「……ゴブリンより弱いわね」

 

苦しんでいる人間の中に、身なりのいい女がいた。

貴族かなにかか?その女の顔を覗き込んだ。

 

酸欠で顔が青白くなり、潤み充血した瞳が、私を見上げている。

必死に逃げようと藻掻くが、足がガタガタ震えて動かない。

 

「─ㇶャ」

 

一歩だけ近付くと、ビクッと身体を跳ねさせて、口から小さな悲鳴が漏れ出る、その表情には絶望しかない。

 

「………なっ、なに…♡?」

 

その表情を見て、息をのんだ。

 

心臓がポンプとなり、全身に血液が送られる。

脳みそが沸騰しそうになり、クラッと立ちくらみが起きた。

その表情や仕草が視界に焼き付き、下半身が熱く火照る。

 

ある者は高く、ある者は低く、一つとして同じ声はない。

魔物とは違い、その阿鼻叫喚は上品さえ感じる。

 

滾った思いのまま、その女に抱きついて、太ももを絡みつけた。

 

「…柔らかい」

 

胸に耳を当てると、ドクドクと早く脈動している。

女は押し返そうとしてる…のかな?これが生命の危機を感じた本気の抵抗なら、あまりにも儚すぎて興奮する。

次第に心臓の音が小さくなり、完全に止まった。

 

口から出た吐息が、いつもより熱い。

 

私はこれのために、疾病の魔法を得た。

 

直感だった、今の今までコンプレックスですらあった、この力には意味があったんだ。

それからも出会った人間で、色々と楽しんだ。

あまりにも弱すぎて、猛毒を使ったら一瞬で死ぬのは難点だったけど、疾病だけでも充分楽しめた。

 

出張ってくる騎士団とやらは弱すぎたし、魔物達も雑魚すぎて自由行動ができた。

渓谷内では、単なるドラゴンやキマイラが最強だというのだから驚きだ。

そのドラゴン達ですら極一部の地域しか出現せず、単体行動のコイツらが脅威になることはない。

 

そうして充実した旅を続けてると、ゼーレ国家と呼ばれる小さな国に着いた。

丁度よかったので、ここでしばらく遊ぶことにした。

国家というプライドが、私一人に溶かされる様はなんとも甘美で、子供の泣き声が心地良い。

その気になれば、国全体に猛毒を撒けるが、そんな無粋な真似はしない。

次第に外部からも人が来なくなり、食料や日用品が尽きつつある。

一つの解毒薬を買うために、家族が金を出し合うほどだ。

まぁ…そんなので、治らないんだけど。

 

絶望した彼らは、私を『疫災』と呼び始めた。




・アリーナ モレッティ
APP:14 身長:178 体重:70 AGE:26
性別:女
特典:植物魔法
武器:騎士の剣
防具:鋼鉄ウールの服
イタリアの転移者。
国を防衛する傍ら、イタリアンレストランも経営している。
料理のレシピは公開してて、価格は低価格。
国から土地の所有権を貰っているが、農家や貧困層に超低価格で貸しているので、手取りはほぼない。
神から翻訳能力を貰ってるから日本語で話せる。
カトリックのため、神々と会話するさい"祈り"ではなく"念じ"ている。

・疫災のギメル
APP:18 身長:186 体重:68 AGE:306
性別:女
魔法:疾病魔法
武器:渓谷外のレイピア
防具:渓谷外のドレス
短髪アルビノで、純白のドレスを着た女。
ゼーレ国家と戦争しているという形になっているが、国家全域に猛毒を散布できるので遊んでいるだけ。
ファナラビの転移者が使う魔法と酷似しているが、関係はない。
収斂進化のように、たまたま同じ形態になっただけ。
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