Re:ゼロから始める浪人生活   作:猫色鼠

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第一章2  『確認シリーズ』

 男たちの侮蔑と嘲弄まじりの視線。

 それを受けながら、スバルもまた彼らを値踏みしていた。

 

 年の頃は二十代半ば。

 薄汚れた服装のくせに、妙に自信ありげな立ち振る舞い。

 

 ――ああ、これ“売りつける側”の目だ。

 

「やべぇ、強制イベント発生だ」

 

 吐く息が白い。

 十二月の放課後、校舎裏は人の気配がほとんどない。

 

 教室では、みんな過去問だの志望校対策だの、最後の追い込みに入っている頃だ。

 

 その中で、自分だけがここにいる。

 

 ――進学校の深海魚。沈んだまま浮上できないまま、受験直前まで来た落ちこぼれ。

 

 そんな自覚を、まるで見透かしたみたいに。

 

「兄ちゃん、三年だよな?」

 

「……は?」

 

「顔に出てるよ。余裕ねぇ感じ。焦ってるやつ特有の顔だ」

 

 ぞわり、と背中に嫌な感覚が走る。

 

 当てられている。

 しかも、雑にじゃない。観察して、確信を持って。

 

「いい教材、あるんだよ」

 

 男はそう言って、ボロ布に包まれた冊子とタブレットを取り出した。

 

「“確認シリーズ”。それと、“東進の映像授業”。今からでも間に合うやつ」

 

 差し出されるそれを見て、スバルは一歩引く。

 

「いや、いら――」

 

「持ってねぇだろ?」

 

 被せるように言葉を遮られる。

 

「この時期に持ってないやつは落ちる。これ常識な?」

 

「……」

 

「逆に言えば、今からでもやればまだ間に合う」

 

 断言だった。

 

 根拠なんてないはずなのに、妙に説得力だけはある。

 

 ――いや、違う。

 

 説得力があるんじゃない。

 “そう思わせる話し方”をしてるだけだ。

 

「いくらだよ」

 

 気付けば、口が動いていた。

 

 その瞬間、男たちの口元がわずかに歪む。

 

「全部で三万」

 

「は?」

 

「安いだろ? ここから巻き返せるなら」

 

 逃げ道を塞ぐ言い方。

 

 払わない=間に合わない、という図式を押しつけてくる。

 

「いや、俺一文無しなんだけど」

 

「じゃあ今払える分でいい」

 

「いやだから――」

 

「“本気”なら、なんとかするよな?」

 

 ぐ、と言葉に詰まる。

 

 理屈じゃない。

 ただ“不安”を突かれている。

 

 もう時間がない現実。

 周りとの差。

 このまま終わる未来。

 

 それを、目の前に突きつけられている。

 

 ――クソ、これ普通に効くやつだ。

 

「なぁ」

 

 スバルは息を吐き、視線を上げる。

 

「それ、本当に効果あんのか?」

 

「買ったやつはみんな伸びてる」

 

「“買ったやつだけ”な」

 

 ぴたり、と空気が止まる。

 

「買わなかったやつのデータは?」

 

「……」

 

「比較なしで“効果ある”って言ってるなら、それただの印象論じゃね?」

 

 男の目が細くなる。

 

 今度は、さっきとは違う意味で。

 

「あとさ」

 

 スバルはさらに一歩踏み込む。

 

「本当に価値あるなら、こんなとこで売ってないだろ」

 

 沈黙。

 

 今度は、明確に刺さった。

 

「……チッ」

 

 舌打ちが落ちる。

 

 だが、引かない。

 完全には崩れていない。

 

 空気が、重く張り詰める。

 

 そのとき――

 

「――そこまでよ、悪党」

 

 澄んだ声が、冬の空気を切り裂いた。

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