男たちの侮蔑と嘲弄まじりの視線。
それを受けながら、スバルもまた彼らを値踏みしていた。
年の頃は二十代半ば。
薄汚れた服装のくせに、妙に自信ありげな立ち振る舞い。
――ああ、これ“売りつける側”の目だ。
「やべぇ、強制イベント発生だ」
吐く息が白い。
十二月の放課後、校舎裏は人の気配がほとんどない。
教室では、みんな過去問だの志望校対策だの、最後の追い込みに入っている頃だ。
その中で、自分だけがここにいる。
――進学校の深海魚。沈んだまま浮上できないまま、受験直前まで来た落ちこぼれ。
そんな自覚を、まるで見透かしたみたいに。
「兄ちゃん、三年だよな?」
「……は?」
「顔に出てるよ。余裕ねぇ感じ。焦ってるやつ特有の顔だ」
ぞわり、と背中に嫌な感覚が走る。
当てられている。
しかも、雑にじゃない。観察して、確信を持って。
「いい教材、あるんだよ」
男はそう言って、ボロ布に包まれた冊子とタブレットを取り出した。
「“確認シリーズ”。それと、“東進の映像授業”。今からでも間に合うやつ」
差し出されるそれを見て、スバルは一歩引く。
「いや、いら――」
「持ってねぇだろ?」
被せるように言葉を遮られる。
「この時期に持ってないやつは落ちる。これ常識な?」
「……」
「逆に言えば、今からでもやればまだ間に合う」
断言だった。
根拠なんてないはずなのに、妙に説得力だけはある。
――いや、違う。
説得力があるんじゃない。
“そう思わせる話し方”をしてるだけだ。
「いくらだよ」
気付けば、口が動いていた。
その瞬間、男たちの口元がわずかに歪む。
「全部で三万」
「は?」
「安いだろ? ここから巻き返せるなら」
逃げ道を塞ぐ言い方。
払わない=間に合わない、という図式を押しつけてくる。
「いや、俺一文無しなんだけど」
「じゃあ今払える分でいい」
「いやだから――」
「“本気”なら、なんとかするよな?」
ぐ、と言葉に詰まる。
理屈じゃない。
ただ“不安”を突かれている。
もう時間がない現実。
周りとの差。
このまま終わる未来。
それを、目の前に突きつけられている。
――クソ、これ普通に効くやつだ。
「なぁ」
スバルは息を吐き、視線を上げる。
「それ、本当に効果あんのか?」
「買ったやつはみんな伸びてる」
「“買ったやつだけ”な」
ぴたり、と空気が止まる。
「買わなかったやつのデータは?」
「……」
「比較なしで“効果ある”って言ってるなら、それただの印象論じゃね?」
男の目が細くなる。
今度は、さっきとは違う意味で。
「あとさ」
スバルはさらに一歩踏み込む。
「本当に価値あるなら、こんなとこで売ってないだろ」
沈黙。
今度は、明確に刺さった。
「……チッ」
舌打ちが落ちる。
だが、引かない。
完全には崩れていない。
空気が、重く張り詰める。
そのとき――
「――そこまでよ、悪党」
澄んだ声が、冬の空気を切り裂いた。